次回の章のエロのために必要なんです、お許しください。
◇
──ぐい、ぐい。
お姉ちゃんの胸元。胸元というか、おっぱい。
その先端である乳頭、左側の乳首をつねるように引っ張ってしまう。
湯船に身体を沈めていて、思うように手は届かない。それもこれも、お姉ちゃんがお母さんに誤魔化すようにしたせいだ。
憤りに似た苛立ちを指先に込めながら、ぐいぐいと引っ張ったり、指先でつまんで指同士をくっつけて圧をかけてみる。
「──ひぎゅっ」
小声ではあるけれど、お姉ちゃんは確かにそう声を漏らした。結構痛いくらいのものであるはずなのに、それでもこの指先に快感を覚えているような、いつも私に攻められているときのような、そんな声の出し方をした。
お母さんがいるから声は小さく抑えたみたいだったけれど、それがより一層癪に障る。
どうせいつかは両親にも話さなければいけないことなのに、なんでこうも隠そうとするのか。
「……大丈夫?」
脱衣室から風呂場への扉を隔てて、お母さんのくぐもった声が聞こえてくる。
「だ、大丈夫、だいじょうぶだ、から」
お姉ちゃんもかろうじて喘ぎ声を出さないまま、言葉を返していく。ただ、それでも平然を装うことはできていないみたいで、途切れ途切れにしか声を吐き出すことしかできていない。
──ぐい、ぐい。ぎゅう、ぎゅう。
「──っっ」
お姉ちゃんは自身の手で口を押さえる。どうせなら声を出す元凶になる私の手を振り払えばいいのに。
あ、そっか。あれだもんね、そんな風に大袈裟な動作をとったら、お母さんに何かされていることはわかるもんね。曇りガラスと言えど、そんな動きをとったらバレちゃうもんね。
一瞬だけ、私の指先による痛みを感じていたいのかな、なんて甘いことを考えたりもしたけれど、実際にそんなことはないだろう。今はえっちな気分というよりも、イライラの方が強いから、冷静ではないけれど、それでも落ち着いてお姉ちゃんの気持ちがわかるような気がする。
「──っ、と、とにかく、そんなに、……長風呂はしな、い、から!」
お姉ちゃんが話している間にも、苛立ちを指先に込め続ける。
どうせならクリトリスをデコピンしてやりたい気持ちもあるけれど、それは別に後でいい。今はただ、イライラしている自分の気持ちを落ち着かせるために──。
──ぐいぐい、ぎゅう、ぎゅう。
「……そう? まあ長風呂しないんだったら──」
「──っ、ん……」
「別にいいけど、早く上がってね?」
「──うん、うんっ、わかった。わかっ、……てるっ、からっ!」
お母さんとの会話の最中であっても関係ない。執拗にお姉ちゃんの乳首をいじめ続ける。
もっと、もっと舐ってあげたい。これは別に私の性的な欲求を満たすことが目的ではない。それであれば、別にここでやる必要なんてないし。
今は本当にイライラしている気持ちを発散することだけを目的に──。
「──えいっ」
──つまんでいた指を離して、先の硬くなってしまったお姉ちゃんの乳首へデコピンをする。
大丈夫、一応小声。お姉ちゃんに悪戯だと思われるくらいの範疇。
そして幸い。そんな私の声をかき消すように、ドアの向こうから更にドアを閉じる音が聞こえてくる。会話を終えたのだから、お母さんも脱衣場からいなくなったのだろう。
「──ひゅぎゅっ」
そうしてお姉ちゃんの苦悶は喘ぎ声に形を変える。痛みを快楽とするなんて心の底から軽蔑する。私、別にお姉ちゃんがドMになるように開発したつもりなんてないんだけど。
「お姉ちゃんのほうが変態じゃん」
蔑むことを目的とした低い声でお姉ちゃんに声をかける。
とりあえず、一旦のイライラについてはそれで解消したつもりだった。
◇
「なんで」
お姉ちゃんはお母さんがいなくなって、あらかた身体を洗い終えた頃合いでそう声を吐き出していく。
「なんでお母さんがいるのにあんなことしたの……」
「……」
私はそれに言葉を返さない。
というか、返せない。その言葉でまた憤りを思い出してしまったし、何よりその言葉は私の気持ちを一切理解できていないことの証拠でしかなかったから。
「逆に聞くけどさ」
私はいつもよりも声を低くしながら、お姉ちゃんの顔を睨みつける。
「なんでお母さんにバレちゃいけないわけ?」
「……えっ?」
私の言葉にお姉ちゃんは目を丸くして私のことを見つめてくる。
「だ、だって、そんなこと言えるわけ──」
「いや、まあわかる。わかるけどさ。でも、いつかは言わなきゃいけないんだし、いつかはバレることじゃん。ほぼ家にいるときにはえっちなことをしているわけだし、お母さんじゃなくたってお父さんとかも察するときが来ると思うけど」
「……それは」
「意味わかんないって。確かに、確かにね? 女の子同士で、それも血の繋がっている姉妹同士でこんなことするって、普通に考えてみればやばい人だけど、でも私たちはそれでも関係を続けているわけじゃん。それはこれまでもそうだし、これからもそう。いつかはきちんとお母さんとお父さんにもこのことは伝えなきゃいけないわけだし、それを隠そうとするのは意味わかんないよ」
「……でも」
「まあ、タイミングが大事だって言うのはあると思う。でも、おかしくない? それだったらさっきお母さんが入ってきたタイミングで、姉妹でお風呂入ってます、くらいは言えたんじゃない? べつに恋人関係とかは言わなくても、それでも姉妹で仲良くお風呂入ってる、ってことくらいは言えたわけじゃん。それをさ、全部がまずいみたいな顔して誤魔化してさ。そのせいで私はお母さんとの会話に入れなかったし、これからのことがより気まずくなるじゃん」
「ご、ごめんなさい……」
そうして捲し立てた私の言葉に、お姉ちゃんはようやく過ちに気づいたのか、こちらに真剣に目を合わせて、それで頭を下げた。
……まあ、お姉ちゃんが鈍感なことは私がよく知っている。知っているからこそ、今日のお母さんへのムーブが変になってしまったこともきちんと理解している。
「……ま、とりあえず──」
とりあえずいいよ。
そう言葉を吐き出そうとした。言葉を吐き出して、仲直りというか、私の機嫌が治ったことを態度で示そうとした。
……けれど。
「──蜜柑ちゃんとは、今だけの関係だから」
「────」
「きっと、蜜柑ちゃんには私以外のいい人が見つかると思うから──」
「──────」
────────は?
「なにそれ、意味わかんないんだけど」
「え、……いや、そのまんまの意味、だけど」
「はい? そのまんまの意味って? ちゃんと説明してくれないと困るんだけど」
「……せ、説明も何も」
──私たちの関係は今だけのものだし。
──将来的には、私も蜜柑ちゃんも、男の人と結婚をして、子どもを産まなきゃいけないわけだし。
──あっ、でも、あれだよ? 蜜柑ちゃんが女の人と付き合いたいって言うなら、それでもいいと思うっ! ほら、多様性の時代だし、それって別に悪いことじゃないからさ!
──だから、今だけ、……そう、今だけの遊び。
──恋人ごっこ。……いや、私は蜜柑ちゃんを恋人みたいに大好きだし、ごっこだなんて思ってないけどね? ほんと、ほんとうだよ?
──だから、今だけは──。
「もう、いい」
「えっ」
そう続けるお姉ちゃんの声に、ほとほと嫌気が差した。
「もう、お姉ちゃんとは、──そういうことしない」
ざばぁ、と音を立てる。私が風呂桶から抜け出したことで、高くなっていた水が一気に低くなっていく。
「えっ、あ、なんで──」
「──ッ」
いつかの関係性。
お姉ちゃんと仲が悪かった時期。……いや、私が勝手に悪くしていた時期みたいに態度をあからさまにして、そのまま座っているお姉ちゃんを見下すようにする。
「それじゃあ、ばいばい」
半ば怒りをぶつけるように、乱暴に扉を開いて、そのまま曇りガラスのそれを閉じていく。
あっ、と寂しそうな声がドアの奥から聞こえてくる。けれど、それも結局恋人ごっこらしいので仕方がない。
さっさと身体を拭いて、すぐにその場を抜け出すことにする。
はいはい、そうですか。結局はそういうオチなんですか。
私は好きだった。本当に好きだった。好きで、好きで仕方がなかったけれど、それでも結局お姉ちゃんはその程度なんだ。あ、そう。そうですか。はいはい、わかってました、わかってましたけどね。
……ほら、結局お風呂場から出てこないし、追いかけても来ない。わかってた、わかってましたし。ぜんぜん、ぜんぜん気にしてないですし。
蜜柑、と私の名前を呼ぶ声が聞こえる。聞こえるけれど、結局それだけ。それ以上に言葉は吐き出さないし、行動も起こしてこない。
そんな程度なんですよ、結局、柚子にとっての私っていう存在は。
それを改めて認識して嫌気が差す。
はー、そうですかそうですか。よかったですね。私の指で気持ちよくなって、私のことを気持ちよくさせて、さぞ楽しかったでしょう。はいはい、もういいです、いいですから。
私はそんな独り言を心の中で呟いていく。誰に対する弁明なのかわからないけれど、行方を知らない感情に行き先を求めるように、何度も心の中で呟いて、それから自室の方へと戻っていく。
──絶対に許さない。
────絶対に、私だけが欲しいんだって、好きでしょうがなくて、もう離さないって思わせてやる。
──────平然と私との関係性を明かせるくらいに、私のことを認めさせてやる。
そんな憤り。憤りからの願望。願望というか野望。
────────絶対に堕としてやる。
──────────身も心も、本当にすべてを、私に。
そんな、いつかの、お姉ちゃんに手を出したときの気持ちを再び思い出しながら、私は早速今後の展開を決めることにした。
これにてレズエステ編は終了となります。
次回の章は「ネトラレごっこ」編となります。
いいですか、ごっこです。本当にごっこです。
お姉ちゃんを脳破壊させて依存させるためだけに自演しまくる蜜柑ちゃんをお楽しみに!