ニートをやめたり、無理して体調を崩したり、そんなこんなで遅れてしまいました。
低頻度ではあるものの、それでも更新していこうと思います。
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胸がとても苦しかった。
独りで取り残されている、この静かな状況。自室を染め上げている暖房の乾いた空気が鬱陶しい。空洞の中のような静かな音。きぃ、とエアコンの羽が上下に動く度聞こえてくる。
鬱陶しいと思うのならば止めてしまえばいい。そんなこと、よくわかっているはずなのに何もできない。
ただただ鬱陶しいだけの空間。私はその中でベッドの温もりに包まれることしかできなかった。
何もする気力が起きなかった。
家には私以外には誰もいない。お父さんやお母さんはもちろんのこと、私にとって大事な人である蜜柑もどこかに行ってしまった。その行く先もはぐらかされてしまって、そして会う人についても教えてもらえず、何もかもをはぐらかされて──。
『──今日は大事な日だからねぇ』
そして、頭の中に流れ続ける、蜜柑との一つ一つの会話。
それは別に取り留めのない会話でしかなかったはずなのに、それでも今となっては不穏さを感じ取って仕方がない。
何か引っかかることがあるような、……ないような。
単純に私がネガティブなだけなんじゃないか、とも思えるし、やっぱりそうじゃないような。
なるべく考え込まないようにと違うことを考えようとはしてみるけれど、それも今は難しい。夜になったら何があるんだろう、また仲直りできるかな、とか考えては、また蜜柑との関わりについてを考えてふさぎ込んでしまう。
『何も私にしてくれなかったのに、こういう時だけしつこいのうざいから!!』
「……はぁ」
喧嘩っぽいやりとりを思い出しては、どうしても胸が窮屈になる感触を覚え続けていた。
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落ち込んでいる気持ちはずっと続いていて、それを解消することは難しかった。
何度か蜜柑に連絡をしてみたけれど、既読がつくだけで特にリアクションはない。
なんとなく不安に思って、蜜柑が行く場所とかを考えてみたりしたけれど、私にはわからない。
「……私、蜜柑のこと、あんまり知らないんだ」
よくよく考えれば、そんなこと、すぐにわかるはずだった。
いつも身体の関係ばかりだ。プライベートの底みたいな行為を繰り返してはいるけれど、表面上のプライベートと言えることは全然知らない。
蜜柑は何が好きで、何が嫌いか。好きな音楽は、好きな食べ物は、好きな趣味とか。
そういうの、私は全然知らなかったのだ。
「……うぅ」
そう考えると、こうして突き放されるのも当然だな、と思う。
最初は蜜柑からやってきたこととは言え、私も便乗するみたいに身体のことしか求めていない。
そんな都合のいい関係ばっかり演じてきて、それで今更大事な人だとか、そういうことを言うのって、確かにおかしいのかもしれない。
私は、蜜柑が好きだ。……好きだと思う。
最初はもちろん家族として好きで、後からはもっと大事な人として好きで。
でも、それが恋愛としてのものなのかは、ちょっとよくわからない。だって、人を好きになったこととかないし。
ただ、こうして取り残されてみると、ずっと蜜柑のことしか考えてばかり。
考えるたびに、心臓が早くなって、窮屈になる。胸を押さえてしまいたくなるほどに痛くて、その痛みを抑えるために抱きしめたくて。
だから、きっと。
「……うん」
──きっと、私は蜜柑が好きだ。
家族じゃなくて、大事な人。
それも、恋愛として、恋人になりたい気持ちで。
「うん、そうだよ……」
そうだ、私は蜜柑が好きなんだ。
誰よりも、本当に誰よりも蜜柑のことが大好き。
絶対、これだけは譲れないくらい。
「……よしっ!」
こうして横になっていても仕方がない。
今からじゃ遅いかもしれないけれど、それでも家の中にいるだけなんて時間がもったいない。
だから、探しに行こう。
どこに行くかもわからないけれど、それでもいろんな想像をして、蜜柑が行く場所を考える。
私は、それからようやく身支度を整えることにした。
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下着になんとなくこだわって、それを隠すように厚着をした。ただ、それでも外に出てみれば顔には冷たい風が触れて、どうしたって寒さしか得られなかったけれど、気持ちはどこまでも暖かい気がする。
ちゃんと家の鍵を閉めて、それからとりあえず駅の方面へ。
蜜柑がどこに行くのかなんて想像をすることも難しいけれど、それでも前に蜜柑と行った場所とかを歩いていれば、なんとなく思いつくこともできるかもしれない。
そんな、ぼんやりとした想像。
「……」
……まあ、蜜柑と一緒に出掛けた場所なんて、本当に少ないんだけれども。
とりあえず一度、蜜柑の連絡先を開いてみて、それから『どこにいるの』と送信してみる。チャットには、先程私が『大丈夫?』『さっきはごめんね』『本当にごめんなさい』と必死に紡いだ文面が残っていて、一緒にいないだけでこんなに苦しくなるんだな、とそんな実感をする。
既読は、今回もすぐについた。
けれど、やはり返信は特にないままで、それにより一層不安が湧きたつ感覚。
「……くぅ」
声を出してしまいたいほどに胸が軋んでしまって、見ているのなら返信してよ、と怒りたくなる。それでも身勝手すぎる気持ちであることは理解しているから、落ち着いて『今からさがすからね』と文面を打ち込んで、私は携帯をしまい込んだ。
そんな時だった。
「えっ?」
しまい込もうとした携帯が、確かに私の手の中で震えた。
「み、蜜柑!?」
玄関先、外なのにそれでも声が出てしまって、不安が救われる気持ちで慌てて携帯をのぞき込んでみる。
『くるの?』
そんな端的な疑問。
『うん』と送信してから『さっきのこと、謝りたいんだ』と素直な気持ちを打ち込んでみる。
それから、伝えたいこともあるの、と打ち込もうとした瞬間に返事はやってくる。
……写真で。
「……どこ、ここ」
暗い部屋っぽい場所だと思う。
既視感はある、ような気がする。
わからない、わからないから、また不安になる。
暗い部屋で、壁紙がピンクと、黒が混ざっている感じ。
写真は、そんな壁と、薄暗い照明を映していて、そこに蜜柑のものだろう、ピースサインの手が映っている。
映っている。
映っている。
映って──。
「──ぁ」
そして、思い出す。
『ここがラブホなんだねー』
そんな、蜜柑の一言を、私は唐突に思い出した。
蜜柑「ラブホだったら好き放題録音もできるし、喘ぎ声も出るし、楽でいいなぁ……。……おっ? またお姉ちゃんから──、ほう? ふーん? ……よし」
という具合で、ラブホの写真を送っている蜜柑ちゃんです。
ちなみにカラオケで録音することも考えましたが、周囲の目が気になるということでラブホです。一人ラブホです。