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蜜柑の胸に触れた。指先が乳首に触れただけなのに、それに彼女の身体はびくりと弾む。普段であればそんな様子でさえ愛おしく感じるはずなのに、今はその反応さえも憎らしいような気がした。
(ここも、触られたのかな)
そう思うと、心臓が重く跳ねて苦しくなる。声を漏らしたくなる衝動に駆られるけれど、それでも弱さは見せないように堪えて、そのまま指先で蜜柑の乳首をつまむようにする。
つまんでからは、こりこり、としているそれを捻るようにする。ぐい、ぐい、と少し横にねじるだけで「うっ」とか「ふっ」と声を堪えようする蜜柑の姿に、私は更に心臓の鼓動が重くなるような感触を覚えた。
「本当に、すぐ感じるんだね」
「や、やっ、感じてなんか──」
「──うそつき」
苛立たしさが混ざって、爪を立てた。
痛いことはあまりしたくない。そんな気持ちがいつだってあったはずなのに、今はその気持ちも少ししかない。
今は、何もわからない。
自分の気持ちがどうなのか。私は今何がしたいのか。
めちゃくちゃにしたい? どろどろにしたい? 痛めつけたい?
何もわからない。何もわからないから、全部やりきりたいような、そんな気持ち。
「ひぎゅ」と声をあげる蜜柑に「これでも感じるの?」と厭味ったらしく低い声で反応する。それに「ちが、違うってば」と言い訳をしようとする彼女に、今度は両手で乳首をつまむようにする。
ぐり、ぐり。
爪を立てて、捻る。
皮膚に沈み込む爪の痕のような感触。それが深くなるたびに嬌声としか思えない声が蜜柑から漏れていく。
「こうやって乳首は抓ってくれたのかな。かなこさん、だっけ。その人はどんなことをしてくれたの?」
蜜柑にそう聞きはするけれど、喘ぐだけで反応は返ってこない。
別に、それでいい。それを聞いたところで、私は結局嫌な気持ちを覚えることしかできない。聞かされても、更に憤りが積もってしまうだけだ。
──ちゃんと、爪を切るようにしていたのに。
今日のために、蜜柑と身体を重ねるために、ちゃんと爪を切ったのに。
深爪しちゃって、それが痛くて、それでも蜜柑と一緒に過ごせるならいいかって。
そうして短くなった爪で、ずっと蜜柑の乳首を転がし続ける。
「本当に、──最低」
「──ふぁ」
身勝手な気持ちであることは理解しているけれど、それでも無碍にされたことを自覚するたびに嫌悪感が露になっていく。強くなった嫌悪感を衝動で表すように、私は彼女の抓っていた彼女の乳頭へと近づいていく。
「──はむっ」
「ぁ──」
そして、乳首をそのまま加えた。
ふとやってきた温もりに、蜜柑はくすぐったそうに声をあげる。きっと、このまま舌で撫でられることに期待をしているんだろう、そんな快楽に身を委ねているような様子に私は──。
──そのまま、乳首を噛んだ。
「はぎゅっ──」
それでも、痛みと感じているとは思えない甘い声が耳に触れる。「お、おねぇちゃん」と私の存在へと呼びかける声。手は自由にしているのに反抗のひとつもやってこない。
結局は、そういうことだ。
お仕置きとして痛みを与えているはずなのに、蜜柑にとってはそれでさえご褒美になってしまう。
──それが、ひどく鬱陶しい。
歯で噛んで舌先にある乳首を転がしていく。味はしなくて、それでも伝わる蜜柑の身体の弾みに身を任せる。「んっ」やら「いひぅ」やら、そんな甘い声だけが耳に届く。
「やっぱり気持ちいいんだ」
「……」
蜜柑は、それを認めたくないのだろうか、私の言葉には沈黙しか返せない。
けれど、ずっと身体を重ねてきたからこそわかってしまう。
こんなことをしても、なにひとつとして蜜柑のお仕置きにはつながらない。
これ以上にひどいことをしてやりたい気持ちもある。けれど、その具体的なやり方を私は思いつけないし、気持ちだけで本当にやるかは別の話。
けれど、これだけじゃ蜜柑にはご褒美としかならない。私がすごく嫌な気持ちになっているというのに、彼女はそんなことも露知らずに気持ちよく喘ぐだけ。
それじゃあ、意味がないと思う。
蜜柑にも、私と同じ気持ちになってもらわないといけない。
そうじゃなきゃ、意味がないのだ。
蜜柑の乳房から口を離す。舌から唾液が垂れて蜜柑の乳首と繋がっている。「あぁ」と心細そうな声を返す彼女に、それでも私と同じ気持ちにさせたくて、私はそれを、静かに拭った。
「え……」
「なに」
「い、いや……」
そのままいじってほしかったのだろう。めちゃくちゃにしてほしかったのかもしれない。そのまま蜜柑が気持ちよくなる展開を、彼女は予想していたのだろう。
でも、私はそうしない。ただ、蜜柑の旨に垂れてしまった唾液を、静かにシーツで拭いていく。それが乳房に触れるたびに、名残惜しくとも漏れる嬌声が聞こえるけれど、私はそれ以上の刺激を与えなかった。
「ふう」
わざとらしく一息ついてみる。演技っぽいな、と自分自身でも思ったけれど、それでも蜜柑は寂しそうな目で私を見てくれていた。
「いじってほしかったんだ?」
「……」
潤んだ瞳で見つめてくる蜜柑を可愛いと思った。それでいて憎らしいとも思った。私の気持ちも知らないで、ただご褒美を求めている彼女を卑しいとも思った。
だから、私は何もしない。何をしてもご褒美になるのなら、何もしないのが一番のお仕置きになると思った。
それはいつかのラブホテルの流れと重なる部分はあるかもしれない。けれど、あれはもうそういうプレイであったと私はわかっている。ぎりぎりまでの焦らしプレイ。最後には満足以上の快楽を与えたことも、よく覚えている。
けれど、それじゃあだめなんだ。結局はご褒美に繋がってしまうのだから、焦らすことにも意味はない。
だから、何もしない。
もう、何もしない──。
「──あっ」
ひょいっ、と私は脱ぎ散らかした蜜柑の服を、そのまま彼女に投げていく。
すべてが終わったことを示すように、私はそのまま踵を扉の方へと向けていく。
「え、え? おねぇ──」
「──ぜんぶ、終わり」
「へ?」
状況がわかっていないように、衣服で下腹部だけを隠しながらきょとんと私の方を見ている。その視線を私は気にしないように、ゆっくりと扉の方へと近づいていく。
「もう、ぜんぶ終わり」
「……や、やだ──」
「だめ、もうぜんぶ終わりにする」
もう蜜柑の顔は見えない。足は止めないまま、ただゆっくりと歩くことを意識して前に進む。それに蜜柑の声は震えていた。
「ほら、前の私みたいに手錠とかもしていないし、大丈夫だよ。もう帰れるよ。だから、もう全部おしまいね」
ぜんぶぜんぶ、もうおしまい。
これまでのことも、これからのことも。
蜜柑とは、もうしない。
「蜜柑には、私の気持ちなんてわからないもんね」
冷たく彼女に言い放つ。
「私が何しても、蜜柑にとってはそれがご褒美になっちゃう。痛くしても意味ないもんね、ずっと気持ちよくなってたし」
でも、まあ、いいんじゃないかな。
「蜜柑にはかなこさんっていう人がいるんだし、もうその人でいいんじゃない? ……私は、蜜柑の姉でしかないし」
ぎりっ、と自分で言っていて胸が苦しくなる。胸が軋むような感覚。
それを味わうたびに、どたどた、と慌てて駆け寄ってくる足音が聞こえる。まってっ、と切羽詰まったような声。その声はすぐ背中に届いていた。
「ご、ごめんなさいっ! ちがう、違うの! ──」
「違わないよ」
「だから違うの! お願い、私の話を聞いて──」
──勢いよく身体に腕が絡まってくる。押さえつけるように絡んでくる、蜜柑の腕。
それはそのまま私を縛るようにする。抱きしめてきて、背中からはその温もりが伝わってくる。裸のままだろうか、その温もりがじかに響く。
「──知らない」
──それを、私は振りほどいた。
あっ、という彼女の声。どこまでも愛おしくなる蜜柑の声。寂しそうなその振舞い。それに胸が苦しくなるけれど、引き返してしまえばご褒美になる。
振りほどいた手で扉を開ける。……一応、裸の蜜柑の姿を外に晒さないよう、廊下にいるかもしれない他人を気にして。
外には誰もいない。それに心の中で安堵をしながら、素早く廊下へと移動して──。
「──じゃあね」
「待っ──」
聞こえてくる蜜柑の声を、扉を閉めて忘れることにした。
次回から蜜柑視点になります。どうなるんだろうね……?