◇
姉からのじれったい視線を感じたのは、夕方くらいのことだった。
夕食を作り始めている私に対して、何度か柚子は声をかけていた。その内容については取り留めのないものであって、それを詳細に思い出すことはちょっとできないけれど、その会話の中で印象に残っているのは、彼女が熱を孕んだ視線を私に浴びせている、ということだった。
いつもであれば、互いが互いに意識をしないように、最低限のことしか済ませていない。会話だって同じようなもので、事務的な連絡以外を繰り広げることなんてあまりない。そんな状況の中にあったというのに、その日に関しては会話を広げようと、何度も私に声をかけてくる柚子の姿があった。
焦燥感が心に混じった。
いろいろと思い当たることがある。というか、思い当たることしかない。一昨日、彼女の体に悪戯した時のことは気づかれていない自信があるけれど、昨日に関しては少しやり過ぎてしまった、そんな感がぬぐえない。
後処理をしたつもりで満足していたけれど、彼女が勉強かた休憩するときに座るソファーには、私なのか姉のものなのかわからない、体液のシミがこびりついている。粘性があったせいなのか、それは薄く水玉を作っていて、朝方に気づいてばれないように拭いはしたけれど、それでも拭いきることができなかった。
それがなくとも、あの激しさだ。私も大きく声を出してしまったような気がしないでもないし、柚子が目覚めていなくとも不思議ではない。だから、それを確かめるために私に声をかけている、と考えると辻褄が合ってしまう。合ってしまうのだ。
……もしバレていたらどうしよう。そんな不安が私の中に募っていく。
嫌だ、バレたくない。バレて、それで今よりも距離があいてしまったら、私はどうすればいいのだろう。彼女としゃべる機会さえ失ってしまえば、私はどうすればいいのかわからない。
確かに小学生の時は苦手だった。きっと嫌いでさえいた。そのような感情を持っていながら姉と関わっていても、彼女は嫌な顔一つせず、優しさで私を包んでくれた。
いやだ、いやだいやだいやだ。お姉ちゃんと気まずい関係なんて、これ以上は想像したくない。気づかれているとしても、すべて無視して受け入れてほしい。それが私のわがままだということはわかっているし、自覚しているからこそ罪悪感とも呼べない感情が心に募って仕方がなくなる。
──もし、気づいていたらどうしよう。
どうやったら、その気づきに対して私は気づくことができるだろうか。私は焦燥感を抱きながら、勉強をしている柚子のために美味しい夕ご飯を作ろうとした。
◇
いろいろな想像で気分が下がってしまう自分を自覚する。自分で作った夕食なのに、それをすべて平らげることができないでいる。私がそんなざまでいるからか、柚子が心配して声をかけてくる。声をかけてきたから、無理してでもそれをのみこんだ。少しばかり胃が痛かった。
それから彼女は、元の作業に戻るように勉強を始めた。昨日、一昨日も見た景色。いつもは自室で勉強をしているのに、両親が旅行に出かけているタイミングで、彼女はリビングで勉強をしている。
……もし、気づいているのならば、ここで勉強をするだろうか。警戒しないものだろうか。そんなことを考えてしまうけれど、姉からのアクションがない限り、それが確信へと至ることはない。
姉のアクションが欲しい。気づいているなら、もう気づいているといってほしい。それでどうすればいいかなんてわかりはしないけれど、目の前にしている感情を少しでも晴らすことができたのならば、それでいい。
──そうだ、と思いついた。
私はいつものようにコーヒーを淹れた。……今日に関しては睡眠剤を入れることはなく、姉がどのようなアクションをとるのか、確かめたくて。
もし、私が淹れたコーヒーに躊躇ったのならば、きっと私の行為に気づいているのだろう。もし素直に飲んだのなら気づいていない。
──もし、躊躇したうえでコーヒーを飲み、寝るふりをしたのなら?
私はそんな一縷の可能性があることにかけて、ただのコーヒーを彼女に渡した。
◆
「うれしい」と私は言葉を吐く。
最初にコーヒーを飲むことに対して躊躇った様子を見せたときは、もう終わりだと思った。それでも彼女は呑んだふりをして、そのうえでベッドの上で横になったのだ。
つまりは、私の行為を、好意を理解してくれたということだ。
『寝た、のかな?』
『寝たよね、寝たっていうことでいいんだよね』
『……よしっ、じゃあお姉ちゃんは寝た、ということで!』
再三確認はした。起きるチャンスだって作った。そのうえで、お姉ちゃんはベッドの上で寝たふりをして、そうして私の指にすべてを委ねてくれている。
彼女は気づいていたのだ。気づいているうえでコーヒーを飲み込み、私の行為を受容したのだ。私がしている行為を、昨日まで続けていた情事を、彼女は呑み込んでくれたのだ。
そうであるのならば、私たちの気持ちは同じだ。
「私、本当にうれしい」
何度も何度も繰り返すように、溢れてしまいそうになる涙を隠しながら、いまだにベッドの上で寝ているふりをしていた彼女に呟く。
柚子はびっくりしたような瞳で私のことを見ている。私の裸体を見られることに少しだけ恥ずかしさはあったけれど、そんなことはもうどうでもよかった。
「じゃあ、……始めるよ」
えっ、と困惑する柚子の声を無視して、私は彼女の下腹部に、そうして彼女の秘部へと近づいていった。
◆
「えっ、あ、ちょっとまっ──」
「──待たないっ」
今の私たちに言葉はもう必要ない。結ばれたことが分かっている今、余計な情報で頭を混乱させたくない。
私は先ほどと同じように彼女のクリトリスへと唇を近づけて、それを甘噛みをする。念入りに吸っていた時間のおかげで、彼女の肉豆は少し大きくなっている。だからはみやすい。味はしないのに、それで満腹になってしまいそうな、そんな充足感がある。
「あっ──」
「吸われると気持ちいんだよね。わかってるから」
甘噛みだけでは物足りなさそうなお姉ちゃんの声に、その期待に応えるように、私はぢゅるる、と口の中に彼女のものを吸い込んでいく。
「あぁっ!」
「んふふ」
寝ていない姉の、きちんとした反応。寝てるときには聞こえない嬌声。はっきりとした喘ぎ声が私の自室に響いていく。
大丈夫、今日も両親はいない。そして、リビングではなく私の部屋だから、存分に姉の体を味わうことができる。
私は思い出したように、使っていない両手を彼女の愛撫すべき場所へと持っていき、そうして膣口を広げていく。今は彼女の秘部を視界に入れる余裕はない。お姉ちゃんの肉豆を愛したくてたまらない。
だから、指先の感覚だけで彼女の膣に指を滑り込ませる。それと同時に「ぁあっ!」とお姉ちゃんの心地よさそうな声が耳に届く。
もう姉が感じるらしいポイントは把握している。私も自分自身でいじるときに好きな場所。尿道側の方へと指の腹を向けて、ひだとは違う感触がある場所を、引っかけるように──。
にゅり、にゅりっ。同時に、クリトリスを口の中で、れろ、れろ、と。
「やっ、いやぁ! やめてっ、やめ──」
「──ぷはぁっ。そうだよね、やめてほしいくらい気持ちいいよね」
わかる。私はお姉ちゃんの気持ちよくなる場所を知っている。だから、やめて、という声を出しても、それはひとつのムーブに過ぎないことを理解している。
ぢゅる、ぢゅるるるる、れろ、れろ、ぢゅるるるる。
にゅり、にゅり、ぐり、ぐりぃ。
「そ、それだめっ」
「やーだ、お姉ちゃんには気持ちよくなってほしいもん」
だから、それを続ける。執拗に、彼女の秘部を愛撫する。彼女がこれで快楽を覚えてくれるのならば、そこに私の快楽はもういらない。彼女の嬌声だけで耳を満たしていたい。だから、ずっと私はそれを続け──。
「──やっぱやーめた」
「あっ、あぁっ……。──えっ」
続けようと思った。彼女のために、お姉ちゃんのために気持ち良くするのを続けるのも悪くないと思った。
でも、それじゃあいつまでも一方通行だ。こういったことは、お互いにやってこそようやく完成するものなのだ。
私は彼女のアソコから顔をあげた。顔をあげて、お姉ちゃんの瞳を覗いた。
とろん、と蕩けている、今にも泣きだしそうな瞳。私の愛撫でここまで涙をためている彼女の、私はすごくいとおしいと思った。
「──だいすき」
私は彼女の目を覗きながら言った。確かに視線を合わせながら、きちんと私の言葉を伝えた。言葉を伝えた後、いまだに名残惜しそうな顔をしている彼女を尚更可愛く思った。
だから、私はお姉ちゃんの唇に、キスをした。
「──んふっ」
「──」
彼女の唇を、実の姉の柚子の唇を、お姉ちゃんの唇を、私の唇でふさいだ。声が届かなくなって、口の中で息が漏れていく。
もっと最初からするべき行為。きっとクンニをするよりも早くにするべきだったのだろうけれど、今となっては順序なんてどうでもいい。
くすぐったかった。彼女の口元は少しだけコーヒーの味がした。お姉ちゃんが中身を飲んだのか確認していなかったけれど、それでも少しだけその味を感じた。私の行為を受け止めてくれるためにこの味があるのだと思うと、なおさら彼女のすべてが愛おしくなる。
「──んん」
「──」
お姉ちゃんの声は耳には届かない。確かな息遣いは私の口の中にある。くすぐったくなるような心地。それだけしか感じられないのに、それだけで心がいっぱいになる。
「──。……もっと」
「──、……え──」
呼吸ができなくなるまで口をふさいで、呼吸をしてから彼女に唇をあてがった。今度は唇を合わせるだけじゃなく、舌を絡ませるように意識をしながら。
彼女の口の中に舌で触れた。舌で彼女の舌を感じた。留まり続けるそれに、驚いているそれに私は、抱き合うように舌を絡ませて、彼女の唾液を味わっていく。
「──!」
「──んふ?!」
上あごを舐めた。彼女の味がした。上あごを舐めたとき、留まり続ける彼女の舌が大きく動いた。私の動きに返すように、彼女の舌が一瞬だけ私の口の中に入ってきた。そのくすぐったさに驚いて彼女の中で息をしてしまう。
呼吸を交換している。唾液を交換している。彼女と口の中でひとつになっている。次第に抑えきれなくなって、息が苦しくなっても彼女の口の中を愛し続ける。愛し続けて、それを執拗に繰り返す。
口だけがつながっていても寂しく感じた。私はいまだ裸になりきれていない彼女の姿を抱きしめて、互いの温もりを共有するようにした。
あたたかい、あたたかい、きもちいい、ここちがいい。ずっとこうしていたい。ずっとキスだけで世界が完成されていればいい。
もっと彼女の息が欲しい。お姉ちゃんの舌が欲しい。お姉ちゃんも私のことを愛してほしい。舌で私を感じ取ってほしい。
れろ、れろ、と彼女の中で舌を溺れさせる。それにこたえるように、柚子も私の中で舌を弾ませる。
そろそろ息を止めることにも限界がきて、私は一度彼女から口を離した。たらーっ、と私と彼女がつながっていたことを示す唾液の糸が一筋垂れた。
「お姉ちゃんも、脱いで」
私がお願いする言葉に、お姉ちゃんは、こくり、と頷いた。