小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い 作:形のない者
後日談
アルファは夢を見ていた。
小宮果穂と春を楽しむ。夏を楽しむ。秋を楽しむ。冬を楽しむ。あっという間に四季が過ぎて一年が経つ。とうとう次の春が来て、小宮果穂は
桜吹雪の中、アルファは拍手する。
「果穂! 進級おめでとう! これで小学六年生だな! でも、そろそろお淑やかになれよ。なんたって俺は来年、中学生になった果穂に告白したいんだからな!」
「はいっ! ありがとうございますっ! あたし、大人な女性になるため、おしとやかになって見せますっ! だから、あともう少しだけ待っててくださいね! 絶対ですよ!」
アルファは、小宮果穂と春を楽しむ。夏を、秋を、冬を────そして次の春が来た。
「果穂! 進級おめでとう! これで小学六年生……だな? でもそろそろお淑やかになってくれよ。なぜって俺は来年……来年? 果穂が中学生になったら────告白……」
「……アルファさん? どうしたんですか?」
桜吹雪の景色は一転、銀河級の宇宙の広がりを見せる。
「────あれ? 俺、この世界にいたら……たぶん一生、
………………
…………
……
アルファはガバッと飛び起きる。ぜぇはぁと息せき切って大量の汗を流していた。
「ハァ、ハァ……さ、サ■エさん時空とか……こんな世界なら、俺は死んだほうがマシだ!!」
「えっ!? アルファさん! 死なないでくださいっ!!」
ソファの上で叫んだアルファ。
その横で寝ていた小宮果穂が必死に止めに入る。
「嫌だ離せ! 今ベランダから飛び降りればたぶん間に合う!! 果穂と恋して幸福そうに見えるけど、実は悪夢なこの世界から目覚めるんだ! そして俺だけでも大人になって『就職』して四人分の働きをしなきゃならないんだっ!!」
「お、落ち着いてください!? アルファさーんっ!!」
§
夕方。
アルファはソファベッドから、恐ろしい勢いで飛び起きる。
「はぁっ……はぁっ……ッ! ゆ、夢の中の夢、だと……!? とんだ悪夢を見た……まさかこれは、実質小三、いや小一、なんなら五歳児の精神年齢を相手に手を出した報いか……心の中では無意識に罪悪感でも覚えているのか……そうなのか……?」
「────……んぅ? アルファさん……?」
アルファの隣で寝ていた小宮果穂は、目をこすりながらシーツをめくって、むくりと起き上がる。
「どうしたんですか?」
「いや、非現実的な夢を見た……夢ってのは大抵そうなんだけどさ。俺、あまり夢を見ないから……ちょっと驚いた」
「…………」
小宮果穂はアルファのそばに寄り添うと、その肩に頭をあずけて微笑む。
「だいじょうぶです。あたしも、『ヒゲンジツテキ』な男の人に、恋をしましたから……!」
「それは俺の生き方に対する皮肉か? 自分がサバイバーズギルトなんてこたぁ、とっくの昔から診断されてんだよ。つか、お前も言うようになったもんだな」
アルファは、悪夢で味わった嫌な気分を払拭するべく、後ろに倒れて横になる。そのとき小宮果穂の体も抱いて連れ戻し、ふたりして添い寝した。
「えへへ……」
「……まったく。今は添い寝で満足しているようだが……いったい、いつになったら抱けるようになるのかねぇ……」
「……?」
「それこそ、お前が中学生になったり、高校生になったり、かな? 俺としては、会うたび一発やりたいんだが」
「…………」
「なに言ってるか分からねぇよな。でもそれは記憶がブッ飛んだお前が悪いんだぜ。いや、百パー俺が悪いんだけどさ……」
アルファはあくびする。
対する小宮果穂は伏し目がちで頬を赤くしていた。その赤みが西日に隠れてしまい、アルファは気付かない。
「……あのっ、アルファさん……お耳を、貸してくださいっ……」
「ん?」
小宮果穂は、恋の色をした吐息をついて、こしょこしょ話を始めた。
「────実は、ちょっとだけ……覚えてるんです」
「────……え……?」
アルファは驚いたように、赤面する乙女を見つめる。
(いや、そうだ……さすがに、おかしいとは思ってたんだ。あの時、なんの恥ずかしげもなく下着が真っ赤なことを報告してきたし、なんで血で汚れてるのかも聞いてこなかったし────)
まさか小宮果穂は、あの日、激しく求めあったことを思い出すと恥ずかしいため、『自分が純粋無垢だと思われていることを利用して、忘れたフリを通していた』のか。となると小宮果穂は、ちょっとどころか、『全部』覚えて────
「……果穂、お前……」(これはもしかすると、魔性の女に育つかもしれない……主に、俺のせいで……)
「えへへっ。だから次はぁ……もっとも~~~~っと……優しくお願いしますね? アルファさんっ!」
大人っぽいお願いをしたかと思いきや、子供っぽい笑顔で名前を呼んでくる。
思わずアルファは両目を覆うと、もう降参、と言いたげに白旗を振った。
「やっぱり小宮果穂は、バグってる────」
「えへへ! それはきっと、お互い様です!」
おしまい