※この作品はR-18です。

吸血鬼の王   作:ボルメテウスさん

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前回、宣伝用に公開された話に関しては、消去させて貰いました。
今回の話から、本格的な連載を行っていきます。
皆様、よろしくお願いします。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=320763&uid=45956


吸血鬼にとっての極上の餌

吸血鬼の王。

 

その伝承は、あまりにも少ない。

 

世に存在する吸血鬼に、力を与える存在として語られている。

 

だが、それが何時、どこで、どのように生まれるのか。

 

それは、誰にも分からない。

 

だが、吸血鬼は、その存在を確かに察知する事が出来る。

 

「それが俺なのか」

 

つい、先日、俺はその吸血鬼の王と告げられた。

 

その時の出来事は、今でも鮮明に覚えている。

 

「そう言えば、こんな月の夜だったな」

 

それを教えられた時。

 

見上げた時に、見えたのは、丸い月。血のように赤い、大きな満月。

 

そして……

 

―――あぁ、やっぱり。

 

そんな声を聞いた気がした。

 

気が付いたら、目の前には男が立っていた。

 

白いスーツを着た男だ。

 

年齢は、四十代後半ぐらいだろうか? 髪は長くて白に近い灰色をしていた。

 

男は微笑んでいた。

 

「えっと、どうかしましたか」

 

明らかに、俺に向けての言葉だろうか。

 

俺は、恐る恐る、聞く。すると男は、少し驚いたような顔をして言った。

 

「いや、君が、吸血鬼の王に選ばれた者かい?」

 

「王って、なんですか?」

 

「ふふっ、まぁ知らなくても問題ない事だ」

 

支配者。

 

なんだそれ。意味不明すぎるだろう。

 

それに、いきなり現れたと思ったら、変なことを言い出すし。

 

俺は、怪しく思いながら聞いた。

 

「あんた誰だよ」

 

「何、これまではただのしがない吸血鬼だ」

 

「吸血鬼」

 

いきなり現実離れした事を言った男。

 

だが、そんな疑問は直ぐに消えた。

 

なぜなら、その言葉と共に、この場の雰囲気が変わったからだ。

 

冷たい風が吹き荒れるような感覚。まるで冬の夜のような空気に変わる。

 

それと同時に、俺の視界も変わっていた。

 

目の前にいたはずの男の姿は無くなっていた。

 

代わりに見えるのは黒い影。

 

それは、まるで人の形をしてるようで……。

 

人の形をした黒い何か。

 

その正体が分かった瞬間、ゾッとした。

 

「ひっ!」

 

思わず悲鳴を上げる。

 

逃げようと身体を動かそうとするが動かない。

 

金縛りにあったように、指一本すら動かせなかった。

 

「何、心配する事はない。痛みは一瞬だ。死んだ事すら気づかない程に一瞬にな」

 

黒い影をしたそれは、口から見えた鋭い牙。

 

それと共に、理解が追いついた。

 

目の前にいる男は、吸血鬼だと。

 

「っ」

 

その瞬間、本能なのか。

 

俺は、その場を走り出した。

 

恐怖による拘束を無理矢理振り払うように。

 

「ほぅ、これは面白いな、まさか狩りとはな」

 

後ろから聞こえる笑い声。

 

俺は必死になって走る。

 

ただひたすら走り続ける。

 

何処に向かっているのかなんて考えていなかった。

 

「はははぁ、ほら、死んじゃうぞぉ!!」

 

聞こえたのは、吸血鬼の男の楽しそうな声。

 

何が楽しいのか、笑いながら追いかけてくる。

 

逃げなければ、殺される。

 

そう分かっていても、身体が思うように動かなかった。

 

息が苦しい、心臓が痛い、足が縺れる。

 

それでも、必死に走った。

 

しかし、それも限界だった。

 

何かに躓き、転んでしまう。

 

そのまま、地面を転がるようにして倒れた。

 

全身が擦り傷だらけになる。

 

痛みで涙が零れた。

 

それでも、すぐに立ち上がる。

 

まだ走れると、自分に言い聞かせながら走り出す。

 

「どこだろうなぁ」

 

そう、男は、まるでわざと俺を逃しているかのように言う。

 

俺は息を切らしている。

 

その時だった。

 

「おい」

 

「っ」

 

こちらに話しかける声。

 

その方向に、俺は目を向ける。

 

「っ!?」

 

キョロキョロと周囲を見渡し、そして、声の主を探そうとした。

 

「おい…そこの、うぬ。うぬじゃ」

 

その結果、猟奇殺人の現場を目撃してしまった。

 

まだ生きていたので、殺人という表現は正しくないのだが、死んでいるはずの状況で「彼女」は俺に声を掛けてきた。

 

ボロボロだが、金髪で整った顔立ちの絶世の美女。氷のような冷たい眼。

 

だが、それらより、切断された四肢とボロボロのドレスが印象的だった。

 

右腕は肘の辺りから。

 

左腕は肩の付け根から。

 

右脚は膝の辺りから。

 

左脚は太ももの付け根から。

 

右脚の切断面だけ、鋭利だったが、他は千切ったように傷口に統一性が無かった。四肢が完全に失われた状態でこっちを睨んでいた。

 

「うぬは、追われているのか」

 

偉そうに、古風な口調で、どう見ても致命傷としか思えない重傷で彼女はそう言い放った。

 

「追われているけど、そっちも、あの男に」

 

「カカッ、面白い事を言うな」

 

俺の言葉を、まるで冗談のように笑う。

 

二本の鋭い牙、もしくは犬歯を剥きだしにして。

 

それを見て、理解する。

 

目の前にいるのも、また吸血鬼だと。

 

「お前も、俺を殺すのか」

 

「くくっ、殺すか。どうじゃろうな。それにしても、まさかうぬは吸血鬼の王か」

 

「・・・その吸血鬼の王って、一体何なんだ」

 

俺は、思わず問いかける。

 

それに対して、彼女は。

 

「餌じゃよ」

 

俺に対して、そう言う。

 

「餌」

 

「餌じゃ、極上のな。その血を飲めば、たちまち虜となり、何よりも力が吸血鬼の常識を越える程の力を持つ」

 

そう、彼女は言う。

 

「だから、さっきの男は」

 

「そうじゃ、だからさっさと喰わせろ」

 

俺は、その言葉に首を横に振る。

 

死にたくない。でもそれ以上に怖いものがある。それは……。

 

「……いや、いやだ!」

 

俺はそう言って逃げ出した。

 

そんな俺をあざ笑うかのように、彼女の声が後ろから聞こえてくる。

 

「カカッ、無駄じゃ、そのままうぬが逃げても、死ぬだけじゃ」

 

「っ」

 

それは、間違いではない。

 

だけど。

 

「諦めて、死にたくない」

 

「何?」

 

俺は、呟く。

 

「死ぬのが怖い。けど、何もしないで死ぬのはもっと嫌だっ」

 

誰かの餌になる為に、生きてきた訳じゃない。

 

だから、俺は何もせずにこのまま死にたくない。

 

「なぁ、吸血鬼」

 

「なんじゃ?」

 

「お前、言ったよな、俺は吸血鬼にとっては極上の餌だって」

 

「そうじゃな、間違いはない」

 

「そして、お前は、このままだ死んでしまう」

 

「あぁ、そうじゃな」

 

彼女は、俺の言葉を聞く。

 

「・・・お前だったら、今、来ている吸血鬼を殺せるか」

 

「くくっ、まさかうぬの血を飲ませる代わりに、うぬを助けろと」

 

「あぁ、そうだ」

 

「助けたとしても、うぬを儂が食い殺すかもしれないのにか?」

 

笑みを浮かべながら、問いかける。

 

だが。

 

「言っただろ、何もしないで死ぬのは嫌だって。だったら、あいつを殺してから死んでやるよ」

 

それと共に彼女に近づく。

 

俺の言葉を聞いて、彼女はさらに笑みを浮かべた。

 

「自分の命を賭けてでも、倒すと」

 

「あぁ、そうだ」

 

俺は、そのまま彼女に近づく。

 

「くくっ気に入った、まさか生きる為に死にに行くのが、王だとはな」

 

「・・・馬鹿だと笑うか」

 

「あぁ、だが、気に入った」

 

そのまま、俺の首元に彼女の歯が突き刺さる。

 

「っ!」

 

感じたのは、自分の身体から何かが抜けていく喪失感。

 

同時に全身に力が入らなくなる。

 

首から血が流れ落ちていく感覚。

 

意識も薄れていきそうになる中、俺は何とか耐えていた。

 

そんな時だった。

 

彼女が、牙を抜き取り離れた。

 

それと同時に、身体が楽になる。

 

そこで、ようやく気づく。

 

俺の傷口は塞がりかけていたのだ。

 

そして、目の前にいる彼女は、完全に人の姿に戻っていた。

 

だが、その容姿は、先程までの大人を思わせる女性ではなく、少女。

 

先程までの特徴は、確かに残っていた。

 

「貴様っ、俺の得物をぉ!!」

 

それに合わせて、さっきの男の吸血鬼が追いついてきた。

 

奴は、そのまま俺に襲い掛かろうとした。

 

だが、次の瞬間。

 

「お前の得物じゃと」

 

少女は、その発言が気に入らなかったのか。

 

その手にはいつの間にか刀を持っていた。

 

そして、吸血鬼の男を、斬り裂いた。

 

「我が名はキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼の物を狙う物は殺す」

 

それと共に、俺の前には、先程までの吸血鬼の男が、一瞬で肉片に成り果てた光景が広がっていた。

 

これが、俺が初めて見た吸血鬼の死。

 

「さて、約束を果たしたが」

 

そう、俺の目を見る。

 

少女は、キスショットは、俺を見る。

 

「・・・今、殺したら、あの血はもう永遠に飲めないのか」

 

「えっ」

 

そうキスショットは呟くと、ゆっくりと近づいてくる。

 

「えっと」

 

「くくっ、そうじゃなぁ、完全回復するにはうぬの存在が必要不可欠。しばらくじゃが、共に行動するのも良いじゃろう」

 

その言葉と共に、キスショットは、なんと俺の影の中に入っていった。

 

「えっえっ」

 

何が起きたのか分からない。

 

困惑するばかりだが。

 

俺は、その日の夜。

 

生き残る事は出来た。

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