「紅様」
「…あやめか」
あの戦いが終わった後。
紅の元に一人の女性が来た。
その女性は、槇島あやめ。
彼女に従う従者であり、今回の作戦で紅の協力者である。
「どうしますか、このままあの男を放っておいても」
「そうだな、彼に関しては、暗殺はしない方向で進めようと考えている」
「それは、本気でしょうか」
その一言に対して、あやめは驚きを隠せなかった。
「なぜですか、吸血鬼の王を放っておけば」
「確かに危険だ。けれど、今回の一件で分かった事が一つある」
「それは?」
あやめは、ゆっくりと紅を見つめる。
「彼は、既にキスショットの枷となり始めている」
「枷?」
その言葉に疑問に思った。
「あのキスショットが、殺し合いをして、彼女の大切な人を殺そうとした。そこまでをした相手を目の前にして、彼の言葉で止めた」
「っ」
その言葉の意味を理解したあやめは目を見開く。
「つまり、それは」
「彼が生きている限り、キスショットは実質、封印されている状態になる。そして、キスショットがいる状態ならば、彼に手を出す吸血鬼はほとんどいないし、殺される」
「っ」
その事実に、あやめは驚きを隠せなかった。
「それが、本当でしたら、吸血鬼の王の力とキスショットの災厄が同時に防げる」
「あぁ、だが、これはかなり危険な関係だ」
紅は、そのまま続ける。
「キスショット自身がそれに気づいてしまえば、それを自ら壊す可能性がある。そして、彼が殺されれば、その時点でキスショットは、世界を破壊する存在となる。それを考えれば」
「彼を殺さない事が最優先事項になる訳ですね」
紅は、それに頷く。
キスショットが脅威である事を考え、最初は彼女を殺す事を考えていた。
幸い、吸血鬼の王の力があれば、紅の力を高めて、倒す可能性があった。
しかし、それを叶う事は出来なかった。
だが、それ故に見えた可能性でもあった。
「それを考えれば、任務の難易度は大きく上がりますよ」
「…分かっているわ」
そう、呟く。
「奴が、既にここに向かっている事が」
「えぇ」
同時に頷く。
「奴が、ここに来れば、彼の血を奪われば、この世界は終わってしまいます」
あやめの言葉と共にその吸血鬼の名を呟く。
「雅、奴に決して彼の血を奪われてはならない。それを考えれば」
「えぇ、最強の吸血鬼に対抗するには、皮肉にも同じ最強の吸血鬼しかいない」
そうして、紅は、そのまま月を見つめる。
「無辜の民の為にも、そして何よりも私の命を救ってくれた彼の為にも。私は、この命を懸けて戦う。だからあやめも」
「本当に、紅様は」
そう呟きながら、見つめた先。
そこにいた紅の頬が赤くなっていた事にあやめは見逃さなかった。