キスショットの言葉に対して、疑問に思いながらも俺は学校での授業を受けていた。
少し前までの、吸血鬼に命を狙われ、殺されかけた夜とは比べものにならない程に平穏な生活であり、平和な時間である。
何より、あのキスショットという少女と一緒にいる事がなくなったというのも大きいだろう。
キスショットから、何時食われるか分からないプレッシャーはかなりの精神疲労になっていたのだ。
そして、この普通の日常を送れるのは、精神の安定には欠かせなかった。
「けれど、それでも俺の命が狙われているのを聞くと、どうしても不安になってしまうんだよな」
そう呟くように言った瞬間だった。
「何が、不安なんですかぁ?」
「えっ?」
聞こえて来た声と共に俺が見つめると、そこに立っていたのは、俺と同級生だろうか。
これまであまり見た事のない女子生徒であり、ベージュ色のセーターで萌え袖を作っている両サイドにお団子の女子生徒がいた。
「あれ、えっと君は」
「ふふっ、渡我被身子ですよぉ♡同じクラスの人の名前ぐらい覚えてくださいねぇ♡」
そう言って、にっこりと微笑む彼女を見て、ああそう言えばそんな名前だったなと思い出す。
いやだってほら、今まで話したこともないし、それにあんまり印象がないって言うかさ。だからつい忘れちゃってたんだよ。
うん!! そんな風に頭の中で言い訳していると、突然背後から抱きつかれるような感触が伝わってきた。
「それよりもぉ、さっきの話は一体なんですかぁ?」
そうしながら、渡我は俺に密着してくる。彼女の胸が背中に当たる感触があった。柔らかいそれが潰れて形を変えているのが伝わってくるようだ。それに何だか甘い香りもする気がする。香水か何かだろうか?それともシャンプーの香りなのだろうか。どちらにせよ良い匂いだとは思う。ただ、何というか、妙に落ち着かない気分になると言うか・・・。
「いや、いきなり抱き締めるんだ」
「ふふっ、良いじゃないですかぁ、それに」
すると渡我は俺の臭いを嗅ぎ始めた。
「良い臭いですからぁ」
「そう言われても」
「何よりも、この血の匂いが本当にぃ」
その一言に、俺は背筋が凍った。
「なんでっ血を」
「ふふっ、だってチューチューしたくて、仕方ないからぁ」
笑みを浮かべた渡我の口が見えた。
その顔は、鋭く尖った犬歯に黄色い瞳と縦長の瞳孔。
その特徴はまるで吸血鬼であり、俺を抱き締めてきた渡我の正体が自然と察した。
「まさか、吸血鬼なのか」
「ふふっ、正確にはちょっと吸血鬼の入った女子高生ですよぉ」