※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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pSR【パルデア編/駆け出し合理熱戦】黛冬優子・樋口円香・鈴木羽那

 

 夏休みのパルデア地方。

 283プロや初星学園を含む大勢のアイドルは、とある大型企画に参加して、この地に訪れていた。

 

 これよりアイドルはポケモントレーナーとなって、たくさんのポケモンを捕まえて育て戦い、特殊ジムを制覇して、特殊リーグの優勝を目指す。

 スポンサーや協力機関は、ポケモン協会パルデア支部とオレンジアカデミー。

 

 これにワクワクする小宮果穂と芹沢あさひだが、同時に現実的な悩みを持っていた。

 燦々と陽射しが照りつけるパルデア学園の広場にて、パラソルの下、丸テーブルに着いて話し合う。

 

「捕まえたポケモンは、そのあと、どうなるんでしょう……?」

「ボックスに預けるって、つまり牧場に預けるってことだよね。食費はこっち持ちだって。牧場っていいところなのかな? 野生で生きるより快適だろうけど、せっかく捕まえたのに離れ離れになるのは寂しいよね」

「はい……でも、多頭飼いは難しいですし、そもそもポケモン協会は手持ちを六匹までって決めていますし……」

「だから気軽にポケモンを捕まえるのは良くない。捕まえたならちゃんと最後まで面倒見ないと。食費もバカにならないって書いてある。野生に逃がす人もいるみたいだけど、生態系の崩壊とか、逃がされたくなくてぐずって困ったりとか、色々あるみたい」

「ん~……じゃあ、やっぱり、選んで捕まえないとですね……」

「でも今回の企画は、たくさんのポケモンを捕まえることだよ?」

「うぅ……」

「どうしようか」

 

 そこへ天道唯我、もといアルファが助太刀に現れる。

 

「ならこうしましょう。たくさんポケモンを捕まえてしっかり育てて、ポケモン協会レスキュー本部に譲ってください」

「アルファさん……!」

「ハナワカ! ……それをすると、わたしたちが捕まえたポケモンはどうなるの?」

「レスキュー隊員のレスキューポケモンとして即戦力の採用となります。現状、レスキューポケモンは数が不足しているため、人助けの戦力を増やすためにも、よく鍛えられたポケモンは多く欲しいところです。レスキュー部隊に配属されたポケモンも、きちんとレスキュー隊員が手持ちとして面倒を見るため、ポケモンが寂しがる心配もありません。これならどうです?」

「わぁ……それなら良さそうですー!」

「でもレスキューってことは、レスキュー用に育てなきゃいけないんじゃないの?」

「あさひ先輩、良いところに気づきました。説明しますね」

 

 アルファは一拍置く。

 

「レスキュー用と一口に言っても役割は様々で、人命救助用や人間護衛用などが存在します。そして現状不足している役割は戦闘用や護衛用でしてね。今回はポケモンバトルがメインの企画ですから、戦闘用の需要とマッチする。ただし、ただバトルが強いだけでは採用が難しい。要項としては『そのポケモンの生態を可能な限り引き出した個体』であれば即戦力と成りえますね」

「生タイ……」

「具体的には、どう育てればいいの?」

「たとえば、以前『放クラのハクタイジムチャレンジ』で、私が放クラの皆さんに教えたようなポケモンバトルの戦術が、まさにその育成方法に当たります。当該ポケモンの生態を合理的に活用した戦術、故に『生態戦術』……また、その生態戦術にタイプエネルギーの合理的な活用も織り込んでいるため、まとめて『合理戦術』と、私は呼んでいます」

「ムダのない戦術ってことですよね……っ!」

「わたしたちにできるかな?」

「私の育て方を真似すれば、割と簡単にできますよ。そう難しいことではありません。観察・理解・特訓の段階を踏んでいけば、誰でも模倣できる上級戦術です」

 

 アルファの一人称が『私』で口調が丁寧ということは、今はお仕事モードなのだろう。

 

「────というわけで、この話は知り合い全員に伝えてあります。あとは安全のため、お互いの位置情報を共有しましょう。アドバイスが欲しかったり、バトルがしたかったり、助けが欲しかったり……そういう時は近くの人を呼べばいい。また、欲しいポケモンがいればお互いに情報を提供しあえる。──そんなわけで、私はさっそく冒険に繰り出しますね!」

「えっ。アルファさん、一人で行くんですか……?」

「一緒に行かないの? 三人で行こうよ!」

「あっちこっち駆けずり回るので、それに付いてこられるなら同行しても構いませんが……少なくとも俺は、誰かの歩幅に合わせる気はありませんので悪しからず。なんたってスピード勝負ですからね! たくさん捕まえてたくさん育ててたくさん本部に送らないといけない。じゃ、そういうことで!」

 

 アルファは駆け出す。

 仕事と言いつつ満面の笑顔だったあたり、単に冒険を全力で楽しみたい気持ちもあるようだった。

 

          §

 

 本企画には、とある制限が存在する。

 それは『同じユニットメンバーとの長期行動は避ける』『新しい可能性を発掘するため、関わりの薄い人と行動しよう』というもの。

 

 黛冬優子は悩んでいた。

 

(あさひは小宮果穂と冒険するみたいだし、愛依は桑山千雪を見かけて走っていった。さて、ふゆは誰と組むべきか────)

「あの。よろしいですか? 冬優子さん」

「冬優子ちゃーん!」

「────っ!」

 

 樋口円香と鈴木羽那が現れた!

 

「同じプロダクションで組むなとは言われていませんので。もしよければ私と」

「行かない?」

 

 黛冬優子は瞬発思考。

 

(────樋口円香と鈴木羽那。前者はバトル的に良さそう。後者は雰囲気的にむしろ良い。これなら……)

 

「あ、うん……! ──じゃあ……よろしくね♥ でも、実はふゆ……」

『??』

「あさひちゃんと愛依ちゃんと『競争』してるんだ~。ふゆ、負けたくないから……かなり急いじゃうと思うんだけど……それでもいいなら……」

「私は構いませんよ。つまり『ガチ』ってことですよね」

「競争してるんだー! ガチかー。急ぐのかー。……がんばって付いていけるかなー? でも冬優子ちゃんと円香ちゃん、ポケモンバトルとか強そうだから、一緒に冒険したら、わたしもルカちゃんやはるきちゃんに勝てるかも?」

「そんな……甘くはないと思うけど……」

「物は試しで」

「あはっ、ありがとー! 足でまといにならないようにがんばるねっ」

 

 ……

 

 昼間。快晴の岩山。南3番エリア・西部。

 三人は坂道を登り、企画用に設けられた臨時ポケモンセンターに到着。飲み物を購入して小休憩を取る。

 

「ふー。疲れたー! 坂道多いよーっ! 冬優子ちゃんと円香ちゃんは平気ー?」

「うん♪ 心配してくれてありがと~♪」

「まぁこのくらいは」

 

 そこで黛冬優子は、樋口円香をちらりと見やる。

 

「……? どうしました?」

「あ、えっと……ポケセンも近くにあるし、そろそろ腕試しとか、どうかな~? って……」

「……そうですね。野生ポケモン、見るだけで登ってきましたから」

 

 道中、鈴木羽那は『あーっ! プリンだー! かわいいーっ!』『あ、見てみて冬優子ちゃんコリンク!』『円香ちゃーん! ガーディ~!』などと、はしゃいでおり、黛冬優子も樋口円香も可愛いポケモンに癒されるばかりで、ろくにバトルを挑まなかった。

 

「でもその前に……ちょっと試したいことあるんだ。ほら、天道さんが渡してくれた……」

「……ああ。例の『合理戦術』とやらですか。ご丁寧にアプリも紹介されて」

「あ、それ、わたしとはるきちゃんも貰ったよー!」

 

 黛冬優子と樋口円香はスマホを取り出してアプリを見やる。

 『ポケモン簡単知力診断』

 『合理戦術・タイプ別マニュアル』

 『タイプエネルギー論文・概要』

 ────などがあり、これについて黛冬優子は考察する。

 

(天道唯我。ポケモンバトルは一流の腕前と有名。正直そんな強者の戦術を盗めるのは大きい……ただ、ふゆの色を失いたくない。ファンの人は、ふゆのバトルの仕方を見たいだろうから。かといって今回は短期間の企画。おそらく、あさひと愛依はバカ正直にマニュアルに従って着実に力をつけていく。ふゆもマニュアルをさらっと読んだけど、素人目にも恐ろしい分かりやすさと内容の合理性に、正直度肝を抜かされた……だから、半々と行きましょう。マニュアルは参考にするけど、ふゆの色は絶対死守。けど、初めての育成とバトルで、そんなうまいこといくか分からない。だって初めてのチャレンジだからバランス感覚がないんだもの。それでもやるしかない。ふゆがふゆのまま、あいつらより強くなって、ポケモンアイドルリーグで優勝するために……!)

 

 黛冬優子は♀のニャスパーを繰り出す。「スー?」

 樋口円香はズルッグを繰り出した。「グーッ!」

 

「わーっ! かわいいー! この子たち、オレンジアカデミーで配られたポケモンだよね? なんてポケモンなのー?」

「ニャスパーって言うんだよ、羽那ちゃん♥」

「ズルッグ。悪格闘。視線は合わせないで。頭突きするよ」

「えーっ! 頭突きしないでー!」

 

(えーっと、まずは知力診断のやり方に従って、ポケモンの賢さを確認してから、育成法の構築を始める……)

 

 黛冬優子は知力診断アプリを起動。

 アプリから指示された通りに、トレーナーはポケモンに指示を出す。それに対するポケモンの反応を観測して、アプリ側が自動的に知力を算出する。

 

 具体的には────

 反応力テスト:合図を出して行動させて反応時間を計測(平均3回)。

 記憶力テスト:三つの異なる合図を教えて五分後に再現させる。

 学習力テスト:未習得の簡単な行動を教えて成功までの試行回数を記録。

 応用力テスト:既知の技を異なる状況(距離・障害物)で使わせて成功率を測定。

 協調力テスト:ほかのポケモンやトレーナーと同時行動させて同期成功率を記録。

 ────などを実施する。

 

「ニャスパーちゃん! 右に回転! 次は左に回転! 最後はジャンプしてクルッと回転! ──わぁ上手~♪」

「五分。ズルッグ。さっき教えたこと、やってみて。…………グッジョブ。健闘は伝わった」

「ニャスパーちゃん、今からふゆが簡単なダンスをするね? 成功できるまでやってみよう!」

「ズルッグ。そこの砂にけたぐり。十メートル先の岩まで砂を蹴飛ばして」

「ニャスパーちゃん。最後にイーブイちゃんと同じ動きをしてみようか~?」

 

 かくして、試行錯誤してみた結果は────

 

【ニャスパー】

 反応力:B 反応は平均的だが、超能力で即応可能。

 記憶力:A 精神力が強く、技や合図を高精度で保持できる。技数8~6。

 学習力:B 新戦術を習得可能だが、精神負荷が高いと効率低下。

 応用力:A 超能力を応用し、環境や状況に合わせた戦術展開が可能。

 協調力:C 協調性は低め。単独行動を好む傾向有り。

 アドバイス:単独戦術や攪乱役に適する。

 

【ズルッグ】

 反応力:C 反応はやや鈍重。防御姿勢を優先する傾向。

 記憶力:B 基本技や合図を保持可能。技数6~4。

 学習力:B 訓練で着実に伸びるが速度は普通。

 応用力:C 応用力は低め。定型戦術中心。

 協調力:B 群れ行動や仲間との連携は可能。

 アドバイス:防御安定型。持久戦や壁役に適する。奇襲や応用には不向き。

 

(……このステータスを踏まえたうえで、ポケモンの生態・性格・個性をよく観察しつつ、トレーナーの発想力で新技を開発。既存技(パブリックスキル)を組み合わせて複合技を作るもよし、生態から新技を編み出すもよし……)

 

 鈴木羽那はイーブイを繰り出す。「ブイッ!」 それから知力診断をしてみたが、項目やランクの意味が多くて、全部は頭に入りきらない。とりあえずイーブイが構ってほしそうなので、しばらくいっしょに遊ぶ。

 黛冬優子と樋口円香も、昼食を食べつつ自分のポケモンを膝の上に乗せてふれあい、頭の中で戦術を練っていた。

 

(スマホのポケモン図鑑アプリによると────)

(今のズルッグの技構成は────)

 

 ねこだまし。チャームボイス。ねんりき。ひかりのかべ。リフレクター。

 にらみつける。けたぐり。すなかけ。かみつく。どくどく。まもる。

 

(天道唯我が得意とする、既存技の複合技や生態的な複合技……代表的なのは、チャンピオンリーグで優勝したマサラタウンのサトシのピカチュウかしら。生態的なタイプエネルギーである電気を大量に放出しつつ『電光石火』を繰り出し、疑似的な『ボルテッカー』を再現しているアレ……つまるところ天道唯我は、あさひみたいなセンスの塊であるサトシの戦術を、こうして理論的に落とし込んでいるのよね……)

(マニュアルの知恵を借りれば……噛み付きながら胴体にけたぐり。牙か足にどくどくを付与できるなら──名づけて『毒牙蹴撃』──問題は、一度に二つ以上の技を繰り出せる柔軟性を持ち合わせているかどうか。ズルッグの応用力は低めだから無理。まもるからのかみつくで流れを理解させるのが合ってるか……記憶力は高いから流れは記憶しやすいし、五つ以上の技も覚えられそう。学習力も高いから、長い目で見れば進化後の応用力ランクの上昇も含めて『毒牙蹴撃』の習得は期待できる)

(イーブイかわいいーーっ! お耳ふさふさーっ!)

(特性はすりぬけ。光の壁を張って身を守り、その壁をニャスパーがすりぬけて猫だまし。もし壁もすりぬけることができるなら、木立や岩石、遮蔽物が多い場所が有利ね。地形戦の活用は合理戦術の基本だもの……)

(ズボンみたいな皮の柔軟性は首まで。ゴム的な弾力。頭蓋骨は硬め。ただし頭が重いため常に千鳥足。……目があったら本能的に頭突きをかますみたいだから、『にらみつける』を指示したら自動的に頭突きを繰り出す? 相手と視線を合わせればいいんだから『こわいかお』でもいいかも。ただ視線が合うと困る相手には……『すなかけ』でもして目を潰せればいいけど、希望的観測が多すぎる。これを実用的にするには……けたぐりは常に砂を蹴るよう指示して、『すなげり』でも覚えさせるか……これくらいなら応用力が平均的でも覚えられるでしょ。さっきも軽くなら出来てたし。覚えられなかったら知らん)

 

 黛冬優子と樋口円香は、同時に立ち上がる。

 ふと目が合った。ならば、いざポケモンバトル!

 

 ふたりはバトルコートに移動。

 鈴木羽那は首をかしげているが、バトルコートを目にして、イーブイの耳と合わせてピコンと閃く。

 

「わーっ! バトルするんだー! どっちもがんばれー!」

「ブイー!」

 

「ふふっ♪ ニャスパー、準備はい~い? ──それなら!」

「スパ!」

「ズルッグ。私が『炯眼(けいがん)』って言ったら『にらみつける』を発動して」

「グ? ググーッ!」

 

「審判は……いないんだ。じゃあわたしが言うねー! ──バトルぅ~? スタートーっ!」

「ブーイ!」

 

「ニャスパー! リフレクターを張りながらねこだまし!」

「スパー!」 無表情のニャスパーは大口を開けてエスパータイプエネルギーを解放する。

「……」

「……グッ!」 睨みを強めるズルッグは一歩足を前に踏み込んで威嚇する。が、マイペースなニャスパーには、威勢だけの威嚇は効かなかった模様。

 

 樋口円香は(さっき図鑑をかざしたら特性は『すりぬけ』と出ていた。つまり特性二つ持ち……優秀個体)と見なす。

 

 黄金の光を放つ正方形の特殊防壁。その結界を前方に展開したニャスパーは走り出す。

 待ち構えるズルッグは、ニャスパーと視線が合った。すると樋口円香の指示を待たず、頭を振り回して突撃開始。

 

「……まもる」(二枚防壁のすりぬけは数瞬の時間が掛かるはず。ほかに出の早い技は────)

「ズルッ!?」

 

 ズルッグは急停止。敵とぶつかる瀬戸際で皮を引っ張り上げて、ノーマルタイプエネルギーによる青い防壁を展開。リフレクターと激突する。

 

「すりぬけて!」

「炯眼」

 

 ニャスパーはリフレクターとまもるをすりぬけている間に、身の毛がよだつような炯眼で睨まれて身がすくむ。が、勇気を出してズルッグの顔面にビンタ。

 

(っ────! ねこだましが先手を取れなかった……!?) 黛冬優子は驚愕する。

(すご。アプリに書いてある通り……) 樋口円香は複雑な心情。感心と嫉妬の混合である。

 

 というのもアルファが執筆したタイプエネルギー論文には、次のようなことが記されていた。

 

 ────既存技すなわちパブリックスキルの出の速さ(平均値)を一覧化しました。

 

 技:にらみつける

 指示時間:800ms(通常指示)

 認識時間(習熟度80%想定):200ms

 準備時間:300ms(視線行動)

 合計発動時間:1300ms

 

 技:ねこだまし

 指示時間:800ms(通常指示)

 認識時間(習熟度90%想定):150ms

 準備時間:300ms(間合いからの接近+打撃)

 合計発動時間:1250ms

 

 

 

 ほかにも様々な既存技の出の速さが記されている。

 たとえば、どくどくの合計発動時間は1200ms。ひかりのかべの合計発動時間は1650msである、などなど。たくさんの野生ポケモン平均値が調べ尽くされていた。

 

 

 

 そしてワンポイントアドバイスのコラムには────

 

 ────技(・)名(・)を(・)縮(・)め(・)る(・)と(・)指(・)示(・)時(・)間(・)を(・)短(・)縮(・)で(・)き(・)る(・)。

 ────言われてみれば当然だけど、目からウロコのおすすめスピード戦法です!

 ────ただしポケモンの反応力に注意。ランクに合う短縮法にしないと混乱のもとです。

 

 

 

 戦いの中、同時に技を発動したわけではないため、結果は数値通りには行かない。そのため樋口円香は、あらかじめ最短技であったにらみつけるの技名を縮めておいた。それが功を奏したのだろうか。攻防の中でほんの一瞬、ねこだましの速度を上回ることができたらしい。

 

 しかし、ねこだましは初手で使わなければ成功しないとされる技。

 それでも黛冬優子には勝算があった。

 

(ニャスパーは知力が高いから、最初から『リフレクターとねこだましを複合した新技』が行けるかも、と思ったけど……やっぱり練習不足……! でもぶっつけ本番にしてはよくできてた! 練習すればリフレクターやひかりのかべを張りながらねこだましが成功するようになる! 技名も縮めれば最短最速の暗号化指示技として、十分な活躍ができるはずよ!)

 

 ビンタされたズルッグは、地を抉るように踏み込んで耐える。

 

「どくどく」「ズルッ!」

「ひかりのかべ!」「スパァー!」

 

 どくどくは約1.8秒。ひかりのかべは約1.65秒。

 数瞬の差で、ニャスパーは猛毒を防ぐ。樋口円香は得心した。

 

(なるほど。まだ努力値も上げてない個体同士だから、技の出足の平均値が通用する世界……)

(ここまではマニュアルから導けた予想通りの展開……これなら多少はマニュアルを信頼しても良さそうね。あとはトレーナーとしての観察眼がモノを言う世界だわ……きちんとポケモンのことをよく観察して、生態や性格を見極めながら、そのポケモンに合った育成方法を練らないと。そうなったらマニュアルはむしろ邪魔になる。──でもそのあたりを考えるのは、バトルが終わってから!)

 

「けたぐりですなかけ。次は『すなげり』と呼ぶ」

「すりぬけてねんりき!」

 

 ズルッグは砂を巻き上げながらリフレクターを蹴り飛ばす。ニャスパーを狙ったのだが、リフレクターの後ろにすりぬけられて逃がしてしまった。すなかけもリフレクターに跳ね返ってズルッグの目に入る。更に念力の衝撃波を浴びて地を転がった。

 

「ズルッ!?」「まもる。──……まもるの防壁に頭突き。衝撃で目の砂を落として」

「チャームボイス!」「スパァ!」

 

 ズルッグは青い防壁を展開。その裏側に頭突きすることで痛がり、涙目、目の中に入った砂を涙とともに洗い落とす。また、精神を攻める歌声は青い防壁によって打ち消された。その時、ズルッグは敵の視線と目が合う。いざ突撃開始。

 

「ズルーッ!」

(……また勝手に突撃……) 樋口円香は、このズルッグの習性を利用する手立てを考える必要がありそうだ。課題である。

 

「……っ」 黛冬優子は歯噛みする。 (ねんりきを指示したいけど、サイコパワーを使いすぎると暴走するかもしれない……後ろ姿だけでも苦しそうだから、今は無茶をするべきバトルではない……ああもう、惜しい! 攻撃技が足りない! あとでわざマシンを買って、エスパータイプ以外の攻撃技を増やす必要がありそうね……) 「────ニャスパー、躱して!」

 

 ズルッグの頭突き。ニャスパーは充分引きつけてから横っ飛びして躱そうとする。

 

「────リフレクターに噛み付く」「! ズルーッ!」

(っ!?)

 

 黛冬優子は動揺した。

 本能的に突撃してしまうズルッグだが、どうやら樋口円香の指示は優先して聞くようにしているらしい。性格が真面目なのだろうか。

 悪タイプの技はエスパータイプに効果抜群。リフレクターが噛み砕かれる。

 

「ひかりのかべにかみつくからのけたぐり」「ズルッ?! グ……グーッ!」

「ニャスパー! そこの岩陰にすりぬけて隠れて! 仕切り直し!」「スパァ!」

 

 難しい命令に驚きつつも、ズルッグは光の壁に噛み付いて破壊。けたぐりは出し忘れた。まだ覚えきれない様子。

 ニャスパーは岩陰に隠れて仕切り直し。

 

「────岩場にどくどくからのけたぐり」「ズ……グーッ!」

「すりぬけてねこだまし!」「スパーッ!」

「ズルーッ!?」

 

 ズルッグの口から吐き出された猛毒が岩に掛かる。

 不意に猛毒岩の中から現れたニャスパーの両平手打ち。すりぬけによって毒を浴びることはない。

 顔面を叩かれたズルッグは意識が明滅する。

 

「続けてねんりき!」

「けたぐり続行」

 

 サイコパワーを溜めてから放つ技と、足を蹴り上げる技。どちらが早いか。

 念力を放つ前に蹴り飛ばされたニャスパーは、背後の猛毒岩に背中を強打。毒状態と化す。

 

「ニャスパー……!」(くっ。やられた……焦んないで岩陰に隠れ直せば良かったのに……!)「岩陰にすりぬけて!」

「岩陰にどくどく散布。ばらまけ」「ズルーッ!」

 

 絵筆を振り回して絵の具を撒き散らすように、紫色の猛毒粘液が岩陰周囲に散乱する。

 

(でもそんなことしたら、近接技しか持たないズルッグは毒地帯に踏み込めない! 遠距離技を持ってるニャスパーの独壇場よ! それに既に毒状態。更に猛毒を浴びても関係ない。ここは一気に決着を────)「強くチャームボイス!」「ス……スパー!」

「まもりながら後退」「グーッ!」

(っ! 持久戦に持ち込む気……!)

 

 ズルッグの青い防壁が魅惑の美声を防ぐ。

 

「もう一度まもる」

「チャームボイス!」

 

 連続した防御技は不発に終わりやすい。

 展開した二枚目の青い防壁は不完全で、ズルッグは魅惑の美声による精神攻撃を浴びて頭痛がする。

 

「グー! グーッ!!?」

 

 ズルッグはあまりの激痛に地面へと頭突き。足元の地面が砕かれる。

 しかし頭蓋骨は硬いため、自分で自分にダメージを負うことはない。

 

「ス……スパ……ァ……」「ニャスパー!? っ……!」

 

 やがてニャスパーが片膝を突いた。猛毒が回ってきたらしい。瀕死に近づいている。

 

「────よくがんばったね! 戻って、ニャスパー!」

 

 黛冬優子はニャスパーをボールに戻した。

 目を閉じていても表情から、負けた悔しさがにじみ出ている。

 

 一方の鈴木羽那は、下唇に人差し指を当てながら考え中。

 

「────えーっと……戻したってことは……勝負有り! 勝者、円香ちゃんーっ! ぱちぱちぱちー!」

「ブイブイー!」

 

 黛冬優子は笑顔で微笑む。

 

「……負けちゃった。円香ちゃんは強いね!」

「どうも。……早くポケセンへ」

「うん! ありがと♪」

 

 黛冬優子は振り返るとポケセンに走る。

 それを目にしたズルッグは、皮を首元まで持ち上げて胸を張った。勝利のポーズである。

 

「……ズールッ!」

「……よくやったね。こっちきな。アメあげる」

「ズッ!」

 

 樋口円香は無表情で飴を渡す。健闘したズルッグの頭を撫でる。

 

「じゃ、ジョーイさんに見てもらおうか」

「ズ!」

 

 ズルッグをボールに戻してポケセンに向かう。

 かくして三人の旅路は、まだまだ続く。

 

 

 

 続くったら────続かないかも。

 

          §

 

 

 





 あとがき

 ──ポケモンの知力診断について──

【反応力】(REA) 刺激や指示に対する即応性。俊敏さ・反射神経・戦闘中のレスポンス速度。
  S:短縮指示・非言語指示中心。奇襲・高速連撃役。
  A:短期指示併用が吉。先制技・中距離攻撃役。
  B:通常指示中心。反応遅延を考慮した安全距離確保が吉。
C~D:指示は明確かつ単純化する必要有り。防御・支援固定。

【記憶力】(MEM) 技や合図の保持力。短期・長期記憶や複数指示の同時保持。※俗に賢さとも。
  S:同時運用数10以上可。複雑な連携・複合技担当。
  A:技数8~6。状況別に技を切替可能。
  B:技数6~4。限定的な複合技。
C~D:技数4~3。単純戦術のみ可能。

【学習力】(LRN) 新しい行動や戦術を習得する速度。訓練効率や試行錯誤の早さ。※俗に戦術とも。
  S:新戦術を即日投入可。現場適応型。
  A:数日で新戦術を習得。作戦前の突発訓練でも習得可。
  B:習得に時間が掛かる。既存戦術を中心に強化すると吉。
C~D:新戦術の投入不可。既知行動徹底が吉。

【応用力】(APL) 状況変化や環境に応じた柔軟な対応力。複合技やフェイントの適性。
  S:状況変化に即応。撹乱・フェイント・複合技多用。 ※わざマシンで覚えられる技の自力習得率・大。
  A:中程度の応用可。環境適応型。 ※わざマシン自力習得率・中。
  B:応用力低。固定パターン戦術。 ※わざマシン自力習得率・小。
C~D:応用不可。定型行動のみ。

【協調力】(COO) トレーナーや仲間との連携力。群れ行動・分隊行動・共同戦術の適性。
  S:分隊長役。複数体同時制御可。
  A:高度連携可。支援・援護役。
  B:基本的連携可。単純な連携行動のみ可。
C~D:単独行動専用。連携不可。

   ◆

・まとめ
 反応力:高いなら反撃型・奇襲型。低いなら猪突猛進型・全力攻撃型。
 記憶力:高いなら多彩技型。低いなら定形技型。
 学習力:高いなら即席戦術型。低いなら定形戦術型。 ※学習力と記憶力が合わせて高いなら多彩戦術型。
 応用力:高いなら新規行動型。低いなら定形行動型。
 協調力:高いなら合体技型・複数バトル向き。低いなら単純壁役型・シングルバトル向き。

 S:そのポケモン種の生態(図鑑・漫画・アニメ等の描写)から見て、極めて高い能力を持つと推定できる場合。
 A:優秀で戦術的に強みになるが、万能ではない場合。
 B:平均的。訓練次第で十分実用可能。
 C:低め。限定的な状況でしか活かせない。
 D:著しく低い。戦術上は制約が大きい。

┗ランクの判断材料
 公式図鑑やアニメ描写:そのポケモンの行動特性や習性etc。
 生物学的モデル:現実の動物行動学・認知科学に基づく類推。(※ただし筆者はそこまで学問に詳しくない。全く以て無知浅学。故に、常からなんとなくのフィーリングで決めている)
 戦術的適性:実際のバトルでどう役立つか。奇襲・支援・連携etc。
 進化段階:未進化は学習力や記憶力が低めだが、進化後はそれらのランクが一段階ずつ上がる傾向。
 タイプ特性:たとえば、念系は記憶力・学習力・応用力が高い傾向にあり、虫系は反応力こそ高いが記憶力は低い傾向にある。etc なお鳥系は反応力や協調力こそ高いが、記憶力・学習力・応用力が低い傾向(カラス系などは別)。※また、これら傾向にタマゴグループも加味しようか検討中。でも設定が面倒なので加味しないかも。

   ◆

 ※作中の研究例※

【平均的なピカチュウ】
 反応力:A 俊敏で電撃を即応可能。小型で素早い反射神経。
 記憶力:B 技や合図を安定保持。複数技も習得可能だが上限は平均的。
 学習力:B 訓練で新技を習得可能。数日~数週間で定着。
 応用力:B 電撃の強弱調整や環境利用は可能だが高度な応用は苦手。
 協調力:B 群れ行動やトレーナーとの連携は良好。複雑な連携はやや不得手。

【サトシのピカチュウ】(極めて良く育てられているピカチュウ)
 反応力:S 数多のバトル経験により即応性は極限。伝説級相手にも先制可能。
 記憶力:A 長期にわたり多様な技・戦術を保持。戦歴の蓄積が豊富。
 学習力:S 新戦術を即日で習得。現場適応力が極めて高い。
 応用力:S 電撃+鉄尾など独自の複合技を即興で編み出す。環境利用も自在。
 協調力:S サトシとの信頼関係により、非言語合図や直感的連携が可能。群れ戦術でも指揮役を担える。
 ※極めて高い知力と戦術適性を有する特異個体。通常のピカチュウの枠を超えた、完全習熟かつ即興応用かつ高度連携を兼ね備えた、戦術核とも言うべき完成形ポケモン。育成の極致、その見本とも言うべき、大変なまでに偉大な存在。

          §

・各チーム
 ※パルデア地方を冒険する新チームを(使いどころが無さそうなので設定のみ)掲載。

(ハイペース組)
 ソロ〔天道唯我〕
 爆走〔小宮果穂・芹沢あさひ〕
 激走〔葛城リーリヤ・八宮めぐる〕 ※オタクとオタクに優しいギャルの出会い。
 優等生〔杜野凛世・花海佑芽〕
 ダンベラー〔有栖川夏葉・花海咲季・緋田美琴〕
 ランナー〔西城樹里・月村手毬〕
 アローン〔斑鳩ルカ〕〔賀陽燐羽〕
 ロッカー〔黛冬優子・樋口円香・鈴木羽那〕 ※パルデア地方に進出したロケット団と事を構える役回り。
 園田軍団〔園田智代子・藤田ことね・七草にちか〕 ※ザ・普通。その集まりのはずが、どのチームよりも個性的に……? 赤黄緑の戦隊色。

(ミドルペース組)
 ギャル〔紫雲清夏・大崎甘奈〕
 十王衆〔十王星南・三峰結華・郁田はるき〕
 姉御衆〔雨夜燕・和泉愛依・桑山千雪〕
 登山家〔櫻木真乃・幽谷霧子〕
 恋鐘軍団〔月岡恋鐘・姫崎莉波・子供系の一般トレーナー達〕 ※別名:月姫姉妹チーム。姉恋鐘と妹莉波と謎の子供達。※月岡恋鐘は姫崎莉波の妹成分(魅力)を引き出す役回り。姫崎莉波もまた花嫁修業的な意味で月岡恋鐘の恋する乙女的魅力を引き出す役回り。
 貴公子〔白瀬咲耶・有村麻央〕

(スローペース組)
 写真家〔浅倉透・市川雛菜〕
 摩美々軍団〔田中摩美々・風野灯織・大崎甜花・福丸小糸・倉本千奈/氷渡香名江〕 ※後々、西城樹里・月村手毬・有村麻央が摩美々軍団の仲間入りを果たす予定。※白瀬咲耶は、田中摩美々のイタズラに翻弄される一同を楽しそうに微笑んで見守っている。
 のんびり組〔篠澤広・秦谷美鈴〕 ※本編最強格。

◆

・合理戦術の性格的な得意傾向
  シンプル系:櫻木真乃・大崎甜花・浅倉透・七草にちか・鈴木羽那/倉本千奈/藍井撫子/天道唯我/
 テクニカル系:八宮めぐる・田中摩美々・西城樹里・桑山千雪・芹沢あさひ・樋口円香・郁田はるき/篠澤広/白草月花/
  パワフル系:月岡恋鐘・小宮果穂・有栖川夏葉・和泉愛依・斑鳩ルカ/花海佑芽・月村手毬/
  スピード系:三峰結華・杜野凛世・緋田美琴/花海咲季・藤田ことね・雨夜燕・賀陽燐羽/
  バランス系:風野灯織・幽谷霧子・園田智代子・大崎甘奈・黛冬優子・福丸小糸/姫崎莉波・十王星南/白草四音/
  シールド系:白瀬咲耶・市川雛菜/有村麻央・秦谷美鈴/氷渡香名江/

          §


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