【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
まえがき
※自分用メモ※
執筆時期25/11/06 執筆時間10tb(深夜0時~昼前10時)
pSR【
極月学園が催す、大型イベント企画!
『アイドルがプロデューサーになって、ほかのアイドルをプロデュース~!?』
今回は例の騒動──初星学園でプロデューサーをやっていた──で世間を賑わせた天道唯我がゲスト出演!
天道唯我のプロデュース能力は、お茶の間の皆さんもご存知の通り、目を見張るものがあります!
いったいどんなアイドルをスカウトしてプロデュースするのか!
どれだけ輝かしいライブを披露してくれるのか!
カミングスーン!
§
「というわけで、またこの青髪赤眼の鬼畜メガネ黒スーツに扮して、今からスカウトに行くわけですが……」
アルファは、本企画への参加を表明したプロダクション名リストを一瞥する。
あ────
か────
961プロダクション
極月学園
さ────
100プロダクション
た────
283プロダクション
な────
は────
初星学園‐アイドル科
ま────
や────
ら────
わ────
他────
「……俺のファンは、おそらくなんでもいいと言うとは思うだろうが……ま、俺としては見知った顔の方がいいし。いつものメンツで行くか~。ファンからしたら目新しいメンツだし、お互い合わせて一挙両得ってな!」
§
青髪のプロデューサーは、283事務所に訪れる。
ピンポンというチャイムが鳴ったあと、浅倉透が出てきた。
「はーい」
「おやこれは珍しいお出迎えで」
「……あー。えーっと……青髪さん」
「もしやお忘れで? 283プロデューサーさんから客が来ると聞いていませんか? 168プロデューサーのアルファです」
「ふふ、覚えてる覚えてる。中入って、どうぞ~」
「お邪魔します」
ソファのある部屋に通される。
そこには大崎甜花と市川雛菜、樋口円香と福丸小糸がソファでくつろいでいた。
「こんにちは。お邪魔します」
「……? わっ。天道さん……!」
「あは~。なんでその姿なの~?」
「何用で?」
「ぴぇっ……こ、こん……にち、は……です……」
283プロデューサーがオフィスにいない。
どこにいるのか問いかけると、浅倉透が答えようとして、のちに挨拶した順番で続く。
「おや、プロデューサーさんは?」
「あー……えーっと……ふふ。なんだっけ?」
「えと、たしか……遠回り!」
「────そう! 遠回り~!」
「……あと小一時間は帰ってこないと思います」
「……っ……ぴゃっ……」(お、大崎さん……と、雛菜ちゃんも……“外”回りを、言い間違えて……っ?!)
「なるほど。少し早く来すぎましたか。では単刀直入に言います。大崎甜花さん、市川雛菜さん。おふたりをプロデュースさせてください」
あまりにも直球。クライマックスなストレート。各々は呆ける。
「……?」
「ふぇ……?」
「へ~?」
「は?」
「ぴ、ぴぇあっ……!」
§
「────というわけで、カクカクシカジカなんですよ。大崎さん。市川さん。受けてくださいます?」
「……………………」
「あ~……そういえばプロデューサーが~、そんなイベントがあるって、言ってたよーなー?」
「おふたりとも、すっかり忘れてましたか……」
「…………な、なんで、甜花……なの……?」
「それ雛菜も気になる~! なんで雛菜と大崎さんなの~? 小糸ちゃんや円香先輩でもいいのに~! でも透先輩はダメ~!」
「ぴぇっ……!」
「(私達を)売るなし」
「お~……」 浅倉透はあまり分かっていなさそうだが興味津々。
「なぜか? それは────既にユニットのコンセプトが明白だからですよ」
「コンセプト……?」
「今まで雛菜のこと避けてたくせに~」
「お仕事なのでね。効率の良い方を選んでいるだけですよ。ちなみにあと一名スカウトする予定です。そのためにも、これから初星学園に向かう予定でね。一緒に来ます?」
「え……甜花……ゲームしたい……」
「雛菜このあとレッスンの時間~!」
「そうですか。では今ここで軽く説明を。────ユニット名は〔
『────!』
「ではスカウトされた旨を283プロデューサーさんに告げたあと、私のスカウトを受けるか否か今日中に決定してください。さもなくば私は、次のコンセプトを叶えるため別プロダクションに向かいます。では、これにて。お邪魔しました」
§
初星学園のNo.100事務所にて。
そこは学園プロデューサーの本教室。隣の副教室は、かつて青髪のプロデューサーが色々と改造して台所や仮眠室などを設置した憩いの場でもある。現在は半分倉庫としても使われており、その充実ぶりから学園プロデューサーが激しく頑張っている事が見て取れた。
青髪のプロデューサーは本教室の引き戸を二回ノック。
「すみませーん! 初星学園OBの、元168プロデューサーと申します~!」
────ドドドドドドドドドド……ドカッバカッ。
────「おい肩ぶつかんなって!」「スピード勝負なら負けないよー!」「当たり負けする方が雑魚だから!」
などと、慌ただしい室内の引き戸が開かれる。
そこには藤田ことね・花海佑芽・月村手毬の三人が我先にと立っていた。まるで飼い主の帰りを待っていた犬たちの大集合である。
「おやおや。こうしてお会いするのは懐かしい感じがしますね」
『(青髪の)元プロデューサー!!!』
「はい。その様子だと、おそらく企画のことをご存知だとお見受けしますが────残念。今回は新しいアイドルをスカウトする予定ですので」
『────っっッ!!?』
重低音のピアノ鍵盤で頭を殴られたかのごとく、三者は両膝を屈する。
そうして室内が見渡せるようになった青髪のプロデューサーは、ソファで座りながらうたた寝するアイドルを見つけた。
「────秦谷さん。起きてください。やる気を出す時間ですよ」
「────…………まあ。その声は……わたしを捨てた、とてもひどい、ひどすぎる、元プロデューサーさん……」
「冗談半分の軽口なくせに、割とガチの恨みを混ぜて微笑んでくるのやめてくれます?」
「わたしにはカギを渡さなかったのに、広さんにはカギを渡した……」
「ああなるほどそれで……えー……はい。……──ともあれ、あなたをプロデュースさせてください」
「うふふ……“火に油を注ぐ”って知っていますか……?」
「“鈴に鍵を渡す”も、同様の意味だと思ったのでね……」
まるで離婚した夫婦が再会して、夫側が妻側に助力を願うような構図である。などと感じたのは藤田ことねと花海佑芽と月村手毬のみ。
恋愛脳に侵されていない一般人からすれば、これはただの同族漫才である。
「……例の大型企画の件、既に学園プロデューサーさんからお聞きして、承知しております。ですが、改めて。──本当にわたしでよろしいんですか……?」
「月村さんのために非公式プロデュースしたのは、あなたにとって地雷だったようなのでね。そのお詫びも兼ねて、今回は本当にプロデュースしようと思いまして」
「まぁ……律儀ですね?」
「尻拭いしてるだけ、と言わないでくれてお優しいですね。ありがとうございます」
「うふふっ。まりちゃんりんちゃんと引き合わせてくれた、その温情ゆえです。……仲直りは、まだですが……」
「そこはお三方の仕事ですし、学園プロデューサーたる先輩のお仕事でもあるのかもしれませんネ!」
「ふふ……面倒事を押し付けて去っていく……相変わらず、傲慢な方ですね?」
「あなたには言われたくないですねぇ……」
秦谷美鈴は席から立って、青髪のプロデューサーに付き添う。
かくして青髪のプロデューサーは引き戸の前から立ち去ろうとするが、秦谷美鈴は動かない。
「──おや?」
「元プロデューサーさん。本当に傲慢ですね。わたしはまだ、スカウトをお受けするとは口にしていませんよ?」
「────そうでした。それで?」
「……わたしに、やる気を出させてください」
小首をかしげて笑顔のお願い。反則的な可愛さだが、それに絆される男ではない。
青髪のプロデューサーは瞬発思考。
(────鍵を渡すか? そうすれば一巻の終わりだ。熱愛報道とか囁かれたら溜まったもんじゃない。この人、特に変装せず俺の家に来そうだし。や、ちゃんと変装する配慮はあるだろうけど。あとコレは勝手な決めつけであり、かつひどい妄想だけど────なんか、俺のヒーロー部屋やダンボール部屋を勝手に整理整頓される可能性が、どうしても頭から抜け切らない……)
「…………」
「…………」
「俺の部屋に入ってきたら何をします?」
「やはりお部屋のお掃除が定番かと……」
「よーし鍵の線は消えましたね」
「──! な、なぜですか……?」
(さて、ここは予定通りのやる気スイッチを渡そうか……)
「あなたのお世話好きに適した人材を用意しています」(もし大崎さんがスカウトを受けなかったら、その人材が誰かは俺になってしまうけど……)
「……!」
「まだ仲直りしていないということは、月村さんや賀陽さんに、まだ世話を焼けていない。その認識でよろしいですね?」
「…………」
「といっても、これだけではやる気にならないでしょう。なので、今のはただの餞別です」
「……では?」
「先輩からお聞きしました。秦谷美鈴のレッスンは曇りの日に行うと」
「はい。その通りです」
「そして、なぜか曇りの日が続くと」
「はい……なぜなんでしょう?」
「それと同じ条件で行きたいです。“約束”……してくれますか?」
「……────はい。それなら、きっとマイペースに歩けそうですね。よろしくお願いします、青のプロデューサーさん」
今、秦谷美鈴は、地獄への片道切符を予約してしまった。
彼女は知るべきだったのだ。
彼女は知らなかったのだ。
この青髪のプロデューサーが、地獄のスパルタレッスンを得意とする、鬼教官である事を。
§
青髪のプロデューサーと秦谷美鈴は教室から去った。
その一方で月村手毬は歯噛みしていた。
「ぐぬぬ────な、なにあれ!? 美鈴ったら私の前で、あんなに青のプロデューサーとイチャイチャと……っ!」
「恋愛に関しても、手毬を歩いて抜き去っていくのか……」
「──えぇっ!? 手毬ちゃんことねちゃん。今の、そういう話だったの?」
花海佑芽は頬を染めながら首をひねる。
しかし藤田ことねは思い直した。
「ゆーて、学園プロデューサーにも独占欲丸出しだし、ファンにも独占欲丸出しだから……いつも通りか?」
「いーやちがうね! 色目使ってた! 完全に!!」
「つ、使ってたのぉ!?」 花海佑芽は赤面する。何やら興味津々のようだ。
「いやいや……手毬ちょっと落ち着けって。そもそも美鈴はさ。あたしや佑芽たちが学園プロデューサーとふたりっきりで食事するだけで『浮気ですね』って怖い顔でプロデューサーに詰め寄るじゃん? そんな子が、自分だけほかのプロデューサーにスカウトされてホイホイ受ける、ンな浮気みたいなことするか~?」
「するよ! 美鈴のこと一番よく分かってるのは私だもん! みんなに独占欲丸出しだからみんなにも丸出しなんだよ!」
「丸出しなのぉー!?」
「ほんとか~?」
藤田ことねは知らない。
秦谷美鈴は、ファンをどうしたいのか。どうなってほしいのか。
────埋め尽くしたい。
その貪欲なる、暴食のような、独占でしかない激情に。
§
第一週目。
晴天の朝方。天川駅前広場。
青髪のプロデューサーは三十分遅刻で来た。
待ち合わせ場所には、誰もいない。
五分経過。
青髪のプロデューサーはスマホをいじる。
やがて金髪の女子高生が私服姿で陽気に歩いてきた。
「あは~。おはようございま~す! 遅刻してごめんなさ~い! ちょっと駅のホームが混んでて~。許してくれますか~?」
「もちろんですよ。ちょうど通勤ラッシュでしたからね」
「……あれ~? ほかの人はどうしたんですか~?」
「現状は市川さんが“まとも側”である証拠です。これから仲良く胃を痛めましょうね」
「へ~? どういうこと~?」
十分経過。
青髪のプロデューサーと市川雛菜は、ウインドウショッピングから広場に戻ってくる。
やがて茶髪の女子高生が私服姿のスカートを翻して走ってきた。
「っ……へぇ、はぁ、はぁ、ふぅ…………ち、遅刻して、ごめんなしゃい……!!」
「何があったんですか? チェインからの返事がなくて心配していたんですが……」
「……ね、寝坊、しちゃった……」
「ああなるほど。更にスマホも充電切れで?」
「あうぅ……」
「スマホ使えない中で、よくここまで来られましたね。スゴいです」
「! そ、それは……なーちゃんが、連れてきてくれた……さっき、そこの改札で、別れた……せっかくだから、ショッピングするんだって……」
青髪のプロデューサーは思う。
(今度、大崎甘奈さんに何か菓子折りでも持っていこう……や、こっちは何も悪くないんだけどさ……甘奈さんも、苦労してる、なんて思ってはないだろうし……)
「持ち歩きバッテリー要ります?」
「! い、いいの……?」
「はい。これから遅刻しないのであれば」
「ひぃん……! ご、ごめんなさい……」
「ところで朝飯って食べてなかったりします?」
「あぅ……起きて、着替えて、すぐ、出てきたから……お、お腹、減った……これから、どっか食べ行くとか……だめ?」
二十分経過。
青髪のプロデューサーと市川雛菜と大崎甜花は、オシャレな飲食店で軽食を済ませて広場に戻ってくる。
やがて紺髪の女子高生が私服姿で悠然と歩いてきた。
「ふわぁ……皆さん、遅刻して申し訳ございません。今日はとても心地よいお天気でしたので……つい、バスの中で……しばらく、街中をぐるぐると……」
「あは~雛菜、その気持ち分かる~! 気持ちよくて寝ちゃったんだ~?」
「て、甜花も……! 来る時、電車の中で、ちょっとだけ、寝た……!」
「さて、(俺としては)予定通りですね。さくっと行きましょうか」
「あら……皆さん、お怒りではないのですか……? これだけのご迷惑をおかけしてしまったのに……」
「雛菜は楽しいの見て回って美味しいのタダで食べられたから、しあわせ~!」
「て、甜花も……! スマホも充電オッケー……! お腹も、いっぱい……!」
「まあ……さすがは青のプロデューサーさんですね?」
「言っておきますが、ほかの一般プロデューサーであればきっと既に
かくして四人は駐車場に移動。
そこにはキャンプカーが駐車していた。運転席には、青髪のプロデューサーが雇った女性ドライバーが座っている。
「こちらの車で移動します。寝床もあるので気楽に過ごしてください」
『……!』
さっそくキャンプカーは発進した。高速道路に乗る。
各々は思い思いに過ごす。大崎甜花はソファに座って座卓にスマホを立てかけてゲームを始め、市川雛菜は内装を見回り、秦谷美鈴は日当たりの良いソファに座って日向ぼっこを始める。そこで市川雛菜が問いかけた。
「あのー、天道さ~ん。今日は何をするんですかー? 雛菜たちー、まだ何も聞かされてないんですけどー」
「レッスンですよ」
不意に秦谷美鈴が反応する。
「まあ……おかしな話ですね。わたしは曇りの日にしかレッスンしないと、そう約束したはずですが……」
「へ~? そうなんだ~」
「今日は、おひさまぽかぽかで、いい天気……!」
そう言った矢先、日光が弱まっていった。
『……???』
「さて、
キャンプカーはレッスン場に駐車する。
「こちら、各々に最適化したレッスンメニューです。マイペースで良いので、一ヶ月後のライブまでに半分は達成してください。余剰分の達成数があればあるほどライブは良いものとなります」
「────────」
秦谷美鈴は目を見開き、口をあんぐりと開け、しばらく放心していた。
よもや、このような強引な暴挙に打って出るとは、予想だにしていなかったのだ。
「さて、秦谷さん────“約束”、守っていただけますよね?」
§
第二週目。
あれから秦谷美鈴は、キャンプカーの乗車を断固拒否した。
────わたし、青のプロデューサーさんのこと、キライです。
そのような発言まで残した。ぷいっとそっぽを向いて、頬を膨らませながら拗ねてしまったのだ。
それに対する青髪のプロデューサーの反応もまたカンに触ったらしい。
────構いません。秦谷さんの能力の高さは信頼しています。一度全員で練習したのであれば、既に振り付けは頭に入っているでしょう。あとは曇りの日が来るたび必ず練習していれば、外に出せる技量にはなっています。……なっているはずです。
などと、重い信頼を寄せられたのだから……困ってしまう。
「どこが重いんですか?」
青髪のプロデューサーは訝しむ。
あれはどちらかといえば、願うような信頼であった。
今日は快晴。されど仕事の日。
女子寮まで迎えに来たキャンプカーは、秦谷美鈴を乗せて仕事場のスタジオに向かっていた。
「ふふ……青のプロデューサー。今日はわたしを騙して、どこに連れて行くというのですか……?」
「本当に仕事なのでご安心ください。大型企画で、新しいプロデューサーにスカウトされた成長途中のアイドルの実力を確かめる撮影を行います。まぁ普通に歌って踊ってください。嫌なら手を抜いても構いません」
「まあ……そんなことは、いたしませんよ?」
「どうだか。それはやる気があればの話でしょう? ──で、今回の撮影では、月村手毬・樋口円香・西城樹里のドリームユニットも呼ばれています」
「……!」
「こちらはプロデューサー無しで組まれたチームですね。双方のプロデューサーが相談して送り出したようです。──負けられませんね?」
「……青のプロデューサーさんは、わたしを扱うのが本当にお上手ですね……ムカつきます♪」
秦谷美鈴は可愛らしい笑顔を弾けさせた。
(こ、怖くないもんねっ!)「えー……月村さんの実力は理解しているでしょう。樋口さんの実力も高い。彼女なら月村さんの競争心を更に引き出せるはず。西城さんのフォローもあれば衝突しすぎる事もないでしょう。ですが、こちらが張り合うほどの実力では、まだない。きちんと私の臨時担当アイドルが、私のウルトラレッスンメニューをこなしていれば……やる気で負けない限り、まぁまぁの確率で勝てますよ」
現場に到着。
控え室では、ちょうど市川雛菜と大崎甜花が来たばかりだった。
「あは~! 久しぶりに秦谷さんと会った~!」
「お、おはよう……! 秦谷さん……!」
「はい……お久しぶりです。市川さん。大崎さん。では……勝ちましょう」
「あれ~? 今日はやる気だね~?」
「…………」(な、なんか……ちょっと、秦谷さん、怖い……?)
かくして〔MyPace〕の三人は、
審査員から『Dランク』の評価を受けて、帰ることになった。
ちなみに月村手毬のユニットは『Bランク』である。
ただし、来週放送された番組を見た視聴者の反応と評価は、大きく異なっていた。
〔MyPace〕は『Bランク』と遜色ない評価だともてはやされたのだ。それはなぜか。
青髪のプロデューサーは、そもそも一緒に練習できる時間が取れないため、端から合わせる必要性の薄い振り付けにしていた。
誰と踊ってもすぐに合わせられるような、初心者用の振り付け。
しかし、それはダイナミックさに欠けやすい振り付けにもなりやすい。
そのため目が肥えている審査員は落第点を下した。大崎甜花は、その初心者用の振り付けすら、満足に踊れていなかったのだから。
しかし一般の視聴者やファンは総合評価で考える。放送日に青髪のプロデューサーが『仕事の都合で初日しか合同レッスンができていない』という情報をSNSに流したことで、むしろ『初日しか合わせていないのに、なぜここまで息が合っているのか?』という疑問と考察、すなわち注目が集まった。
その疑問の答えは明白である。
全員、話を合わせるまでもなく、生態としてマイペースに挑んでいるからであろう。
そして、その三者三様の速度がピッタリ合うように調律するのが、プロデューサーの仕事なればこそ、ということらしい。
§
第三週目。
休日の快晴。初星学園の中庭。
青髪のプロデューサーは学生の衆目を集めつつ、五人でピクニックに来ていた。
青髪のプロデューサーはもちろん、秦谷美鈴、市川雛菜、大崎甜花────そして、いろはちゃんである。
「といっても私は用事があるので、あとは四人でどうぞ」
「まあ……そう言わず、同席なさってください」
「みんなで食べた方が、しあわせ~かもだよー?」
「甜花、このおっきなお弁当、食べてみたい……!」
「ごはん! おなかへった!」
「……では、お言葉に甘えて」
約二名、甘えさせてくれる言葉を吐かなかった花より団子がいたものの、それはともかく。
秦谷美鈴は、初めて見るいろはちゃんに興味津々。
「ところで……この赤子は……?」
「この子はね~。雛菜もよく知らなーい! 今は小宮さんが面倒見てるんだって~!」
「283で預かったことがある子……! いろはちゃんは、えっと……とても、かわいい……!」
「いろはちゃん! さんさい! おまえだれ!」
「ふふ……とても気さくで可愛い子ですね……挨拶も上手で、えらいえらい……。……ああ、とてもお世話したくなってしまいます……抱っこしていいですか? はい、ありがとうございます……」
「あは~! まだ何も答えてないのに抱き上げた~! ──でも秦谷さんって、本当に世話焼きが好きなんですね~? 最初に合同レッスンした時も~、大崎さんを甘やかしてましたし~」
「て、甜花……秦谷さんが、なんでもしてくれるから……なーちゃんより、なんでもしてくれるから……だ、ダメダメに、なるところ、だった……!」
既にダメダメなレッスンだった気もするが。
そのように青髪のプロデューサーは思いを馳せる。
なぜなら大崎甜花がレッスンで疲れを見せるたび、秦谷美鈴はスポドリやタオルを差し出して頻繁に休憩に誘うのだ。それに大崎甜花は流されてしまい、ほとんど合同練習ができていなかった。一方の市川雛菜は一人で振り付けを覚えるなり帰路に就いていた。その後も秦谷美鈴は、大崎甜花が自宅に帰るまで
「ふふ……私、どうしても誰かをお世話したくなってしまう性分なんです。……よしよし、いろはちゃん。まずは白米を食べましょうね? お弁当箱の白米は固いので、きちんと水筒に入れたお味噌汁でほぐしてから食べましょう」
「いろはひとりでたべられるよっ!」
「ふふ……だめです♪」
「へ~? 教育に悪そ~! なんでもかんでも全部やってあげちゃうの~?」
「て、甜花も……ひとりで、食べられるから……! だから、もう……あーんは、しなくていい、よ……?」
大崎甜花は初日レッスンの帰り道。ファミレスに誘われたので寄ったところ、次のような目に遭った。
最初は真向かいの席に座っていた秦谷美鈴だが、料理が運ばれて食べ始めると、何を思うたか隣に座ってきて『あーん』をし始めた。大崎甜花は困惑したものの、特に断る理由もないので『あ、あーん……』と受け入れたが、周囲から視線を集めていることが分かってモジモジし始めた。が、秦谷美鈴は一歩も引かず、次々と『はい、あーん、ですよ……ふふ』と嬉しそうに食べさせてくる。断りづらいと思ったものの断る力もない大崎甜花は、そのまま『あ、あーん……!』と、最後まで食べきってしまった。
その様子を青髪のプロデューサーは、ただ別の席で黙って俯いて聴いていた。
「ふー、ふー……はい、いろはちゃん。あ~ん……」
「んー……こまったこね! あ~……むっ!」
いろはちゃんは、秦谷美鈴が冷ました味噌汁ご飯入りスプーンを咥える。
そうして一同は食事を取り始めた。が、ふいに秦谷美鈴は青髪のプロデューサーの口にスプーンを差し出す。
「はい、青のプロデューサーさんも……あーん」
「要りません」
「……あーん?」
「ゴリ押しで行けると思わないでもらいたい」
「まあ……いけずな人ですね……では、甜花さん。あーん」
「あぅ……て、甜花……甜花…………────甜花ぁ……!」
大崎甜花は、ぱくりと一口、もらってしまった。
「ふふ……お次は、はい。市川さん……」
「────」
思わぬ急接近。
加えて、予測不能だった刹那のターゲット切り替え。
「?」
「あは~? 雛菜もダメダメになっちゃうかもなので、謹んでお断りします~!」
「まあ……ふふ。予想と比べて青のプロデューサーさんより、随分と堅物そうで……?」
「へ~?」
間合いの測り合い。
青髪のプロデューサーは目を伏せて知らないふり。
「たや!」
「……?」
ふいにいろはちゃんは、秦谷美鈴を見上げてそのように呼ぶ。
「たや! つぎ!」
「……まあ。もしかしてそれは、わたしのあだ名ですか……? ふふ……はい、たやからの、次のご飯ですよ。どうぞ……」
「ちがう! すぷーん!」
「それは、あげません♪」
「じぶんでたべる!」
「ダメです♪」
かくしてマイペースな三人は、幼子を通じて親睦を深めた。
……はずである。
§
第四週目。
本番・数時間前の会場リハーサルにて。
不意に青髪のプロデューサーの計画は総崩れとなった。
「────はい? 大崎甜花さんがケガ……? どういうことですか、スタッフさん」
「はい。リハーサル中に転んでしまって……足首に、軽い捻挫を……」
「……なるほど。まぁ大して問題ではないですネ!」
「────は?」
「それより大崎甜花さんは今どこへ?」
青髪のプロデューサーとスタッフは控え室に向かう。
そこでは椅子に座る大崎甜花と、看病する秦谷美鈴、様子を見守る市川雛菜がいた。
「大崎甜花さん。大丈夫ですか?」
「だいじょばない……足首、痛いぃ~……」
「そうですか。まぁ捻挫しましたからね。どれ……」
「ひゃうっ!」
「なるほど。これは二週間ほど掛かりますね」
「え、そんなに……軽いねんざ、なのに?」
「大崎甜花さんの筋肉の特性を鑑みて、これでも軽いほうかと」
大崎甜花はしゅんとする。
「……っ────ご、ごめん、なさい……天道、さん……もうすぐ、本番、なのに……」
「はい。まぁ別に。──で、その件なんですが、ひとつみなさんの意思を確認したい」
「……っ?」
青髪のプロデューサーは問いかける。
その表情は真剣なのだが、どこか意地悪なものでもあった。
「別に俺は出場を見送ってもいいんすけど……大崎甜花さんはライブ……出たいですか?」
「! う、うん……出たい、……けど……」
「なぜ出たいんですか?」
「……ファンの人達、待ってる、し……なーちゃんと、千雪さんも、来るし……」
「みんなを笑顔にさせたい?」
「────うん」
「みんなを落ち込ませたくない?」
「……うんっ」
徐々に大崎甜花は面を上げていく。返答も少しずつ力を取り戻していく。
けれどケガをした。これでは無理。すぐに落ち込んでしまう。
「そうですか。では特に移動のない振り付けなので、車椅子にでも座って市川さんや秦谷さんが押して回れば演出っぽくなります。車椅子に乗ってる理由は、甜花さんが振り付けを覚えきれなかった、ということにでもしておきましょう。不名誉なことでしょうが、まぁこれは私からの罰と思っていただければ。案外ファンも納得すると思いますし。──で、どうですか?」
『────っ!?』
「以前、ある演者に似たようなことがあって、非常に悔しい思いをされたと、又聞きですが小耳に挟んでいたので。この作戦に関して、三人は問題ありませんか?」
問われた秦谷美鈴はあごを支え、市川雛菜は天井を仰ぎ、大崎甜花は即答した。
「そ、それで、やれるなら……甜花、やりたい……!」
「わたしも……異論はございません。具体的にどうするかについては、きっと何か、青のプロデューサーさんに策があるのでしょう……」
「雛菜はなんでも~? みんな楽しければそれでいい~!」
「では決まりですね。スタッフさんもそれでよろしいですか?」
「────えっ」
四人の視線が集まる。
トントン拍子に進んでいく話に追いつけないでいるスタッフさんは、とりあえず緊急会議を開くとして、運営責任者に報告しに行った。
「あ〜、ありゃダメだな」
『……!』
「まぁ策はありますよ。その代わり蛮行なので、お三方の覚悟のほども問われますが。あらかじめ覚悟しておいてくださいね?」
『……???』
青髪のプロデューサーは見切りをつけて、スマホの録音をオンにする。
やがてスタッフさん────ではなく、運営責任者さんが戻ってきた。
「まずは、このたび足をお痛めになられたとのこと。さぞ皆様も驚かれたことでしょう。心よりお見舞い申し上げます。ご出演を楽しみにしておりましたが、まずはお体が第一とのことで、出演はお見送りということに決まりました。どうぞ御静養の上、次の機会には万全のご準備をなさってくださいませ」
「そうですか。こちらの許可もなく?」(皆様も驚かれたって他人事かよ。万全のご準備ってなんだ、暗に準備不足だとでも?)
「────はい?」
「ところで大崎甜花さん。こう言われても、まだ出たいですか?」
唐突に話を振られた大崎甜花は、目が泳いでうつむいて、戸惑いながらもこくりとうなずく。
それに対して運営責任者さんが指摘する。
「う、うん……甜花、出たい……パパとママも、くるし……」
「……お気持ちは痛いほど理解できますが、大崎さんはよくても、本番で何かあったらほかの皆さんにご迷惑がかかります」
「まあ……なぜです? わたしはむしろ、お世話のしがいがあって、余計やる気になりますよ」
「なんで雛菜が迷惑に思うかどうか、そっちが勝手に決めるんですか~? 変なの~!」
「────はい?」
(俺のセリフが全部取られた……やっぱこのふたりアウトロー気質だわ……俺と同じ混沌にして中立中庸の側だから、ちょっと同族嫌悪があるんだよな~)
運営責任者と青髪のプロデューサーは、それぞれ別の意味合いで困惑する。
そして極月学園の運営責任者さんは、この論法で説得することができなかったため、すぐに次の手を打つ。
「……しかし、ですね。やはり大崎甜花さんの出演は、お見送りでお願いします」
「それはなぜ……ですか?」
「なんで~? 車椅子の件は聞きましたか~? それなら怪我は悪化しませんけど~」
「そういう問題ではないのです。……子供にはまだ分からないことでしょうが、これは大人の事情なのです」
「……では、その事情というものを、詳しくお聞かせください」
秦谷美鈴は、大崎甜花を介護するため立ち上がり、問い詰める。
「……もし、今の大崎甜花さんを出演させた場合────いいですか? 重要なのは『怪我の状況を知りながら出演させた』という事実が大きな問題になるんです。万が一、怪我の情報が世間に漏洩したり、いっときの感情に流された無茶な出演でトラブルが起こった場合────コンプライアンス違反となり、イベントそのものが批判を受けることになる」
「あぅ……」
「……」
「ふ~ん?」
「それはみなさんにとって本意ではないはずです」
「…………────みんなに……迷惑が、かかるなら……甜花……」
「……大崎さん……」
「……」
「本意。確かに。他人に迷惑が掛かるのは本意ではありませんね」
青髪のプロデューサーが
「────分かっていただけましたか」
「はい」
『────』
大崎甜花は唇を丸める。しゅんとする。
秦谷美鈴は寄り添う。
市川雛菜はペットボトルの蓋を開けようとした。
「なるほど批判。それが御社の正式回答ということで、よろしいですか?」
「……っ? はい……そうなりますが」
「では批判を浴びる覚悟で、足を捻挫した大崎甜花の出演を認めてくださりますか?」
「────はぁ?」
「我々は批判程度覚悟しています。本意ではない~? 先ほど市川さんが俺のセリフを取りましたが、むしろ本意ですよ。まぁそれはこちらが小さな事務所だからこそできる蛮行ですがね! もちろん御社に迷惑を掛けることはできません。なので、そちらの覚悟をうかがいたい。批判を恐れず、ファンに笑顔を届ける。それを望むアイドルに対するお返事とは、これ如何に?」
「…………お気持ちはお察しいたしますが、お見送りが正しい判断なんです。そのため出演は控えさせていただきます。──それに中学生とはいえ、プロデューサーという立場であれば、お分かりいただけることと存じます」
(いーえ訳分からん。アンタ馬鹿なのか? 人生の手札が少ない人だな~)「承知しました。では、そのように話はまとまった。ということで?」
「はい。恐縮ですが……ご理解いただけて感謝します」
青髪のプロデューサーはスマホを取り出す。
録音を──ピッ──と切った。
「いーえ訳分からん。アンタ馬鹿なのか?」
「────……は、はい?」
「我々が無断で出演した、ということにしましょう」
「……は?」
「物的証拠いります? 今の会話を録音しておきました。これを御社に渡します。しかして、私は善良な運営責任者の言葉に従い、ケガしたアイドルの出演を控えるとのたまっておきながら、我が身可愛さで無理やり怪我人を出演させた、悪徳プロデューサー。とでもスキャンダルにすればいい。まぁこのデータをどう扱うかは御社に任せますがね」
そう言いつつスマホを操作して、バックアップを取る青髪のプロデューサーであった。
編集されて改ざんされたデータを悪用されることがないようにするための保険である。
その後、録音データは運営責任者さんのアドレスに送信しておく。
────後々、この送信履歴が運営責任者の命運を分けた。
これを誰よりも早く上司に転送していれば、彼は首を洗うような災難な目には遭わなかったかもしれない。
「どういう形であれ、これを公開した方が我々のせいにしやすい。なんせ話がまとまったのに、我々が強行突破したわけですから。どうです? 情報は統制するもんじゃない。操作するもんだ」
「……おっしゃる意味が、測りかねます……」
「批判だコンプライアンスだなんだとほざいておきながら、結局は我が身可愛さのためじゃねぇか。それが正解だと? ああ秩序としては正解さ。全面的に同意しますよ。──で? その秩序で人々の笑顔と心は守れるのか? 確かに守れますね! 御社の心労と笑顔だけ!」
「────」
「人々に笑顔を届けるお仕事を生業にしている大人の判断とは到底思えませんネ! アンタこのお仕事向いてないのでは? たとえば世界の危機が掛かってるのに秩序を守るのが正解だなんだのと喚いてる劇場版マグ●モンくらいには情けない姿を晒してお可愛いこと! や、まぁ、社長あたりへの忠誠心が高いのは良いことですがね?」
「?!」
「いいか、ルールは守るもんじゃなくて使うもんだ。くだらない秩序に従って嫌な思いをするくらいなら、そんなもんブッ壊して大勢を笑顔にさせてくる。それが俺の人生だ。その邪魔は誰にもさせない。邪魔するなら折衝だけど、折衝する知能もないなら悲しいことに闘争なのよネ! あーやだやだ」
「────あんた、何を言ってるのか────」
「アンタには分からないって? 上等! それが
言葉尻を捕らえる青髪のプロデューサー、否、アルファは豪快に笑う。
「────雛菜、美鈴。一時間以内に車椅子を見つけてこい。できればブレーキとベルト付きのやつ。その後、三十分以内に俺が振り付け修正を指導する。実力ある二人なら可能だろう。その後、出演だ。今こそやる気の中のやる気を引き出して全力を振り絞れ」
『……!』
「全責任は俺が取る。や、責任というより汚名だけど。運営さんもその方が良いでしょ? なんなら今から誓約書でも書きます? ──まぁ全部バレたらどのみち全方位に迷惑かかるが、知るかンなもん。だからこそ絶対に成功させるぞ。それが“俺の
青髪のプロデューサーは控え室を後にする。
「え、ちょ────あ、あんた、ふざけてんじゃ────!!」
運営責任者さんはアルファを追いかける。
つまり隙ができた。市川雛菜は蓋を開けて水をゆっくりと嗜んでから立ち上がる。
「────大崎さん。どうします~?」
「ひゃい……!? て、甜花……甜花……でも…………」
「……まぁ大崎さんが『そこまでされても』って言うなら、雛菜も『そっか~』ってなりますけど」
「……っ」
「でも今回のユニットって、三人じゃないですかー。だから雛菜、三人で出るのがいいと思うんですよね~。ファンの人達もそれを楽しみにして、今日はライブに集まってくれたわけですし~」
「……でも……」
「だから~。大崎さんが嫌でも、雛菜は三人でちゃんと出たいから、車椅子探してくる~!」
「────ふぇ? い、市川さん……!」
市川雛菜は「あは~!」と笑いながら控え室を出て行った。
秦谷美鈴は微笑んで見送る。
「ふふ……わたしも市川さんと同感です」
「──……え……えぇ……!?」
「大崎さん。こう見えて、わたし、不良なんですよ?」
「────っ!?」(そ、そうだった、の……?)
「たしか一階の正面玄関の脇に、共用車椅子の駐車スペースがあったはず。ベルトは無かった気がしますので……近くの服屋さんでハーネスでも見繕ってきましょう。ふふ、いろはちゃんとの出会いが役に立ちましたね? では、わたしはそれらを取りに行ってきます」
「え。で、でも……甜花、そんな……」
「それとも……ライブ。そこまでされて出たいとは、思えませんか……?」
「────────」
「……いいえ。出たいですよね。だってファンが待っているんですもの。どうしても出たいに決まってる。もしこれがまりちゃんなら……今頃、泣きじゃくってなだめるのが大変で、打開策なんて考える余裕もありませんでしたけど……」
秦谷美鈴は、控え室を出ていく。
「ほんの少しだけ、お待ちくださいね?」
「えぅ────は、秦谷、さん……!」
誰も大崎甜花の答えを聞かず出て行く。
当然だ。全員、自分のやりたいことをやっているだけであるからして────
出演五分前。
青髪のプロデューサーは、運営責任者さんにこっぴどく叱られていた。
「いいですか!! 絶対に認めませんからね!!」
「はい。誠に申し訳ございませんでした」
「それと冗談とはいえ、今回のことは上に報告させていただきます! これからお仕事減りますからね!」
「それ私に対しての脅しですか? 無意味な遠吠え過ぎません? 芸能界が全てじゃあるまいに~。お仕事減るのがデメリットに感じるって暮らしてる世界狭すぎません?」
「────本当に反省しているんですか?」
「はい。運営責任者と同じ社交辞令と敬語を使っていますよ?」
「…………であれば、よろしいんです」
(あ、この人、やっぱり……嫌味が通じないと皮肉となり、その皮肉も通じないと無垢となる? はたして大人の定義は賢いことか? ならこの人の方が子供じゃね?)
スタッフから呼び出しがかかる。
「次はチーム〔MayPace〕です! 出番待ちお願いしますー!」
「は~い! いま行きま~す!」
「大崎さんは、舞台袖で見守っていてください」
「う、うん……」(どきどき……)
そこへ青髪のプロデューサーがやってきた。
市川雛菜が問いかける。
「でも天道さん。これ、天道さんとうちの事務所だけじゃなくて、初星学園にも迷惑かかっちゃいますよ~? たとえ全部うまくいっても~」
「そうですね。まさにそこが肝なんですよ。──うまくいっても迷惑が掛かる。失敗しても迷惑が掛かる。……なら市川さんは、どちらの迷惑を取ります?」
「! ────あは~!
「やは~。俺も~!」
そもそも、
それを知った上で彼らは
むしろ、やらなければ死ぬのだ。人として。人間性が。完膚なきまで。魂が壊れて。
そうなったとき、もはや彼らは彼らではなくなる。
故にこそ、この道を選ぶことに一切の躊躇はない。呼吸も同然。徒歩も同然。
当たり前のように。誰もがしたくてもできない
アルファと市川雛菜は、それぞれの笑い声を上げていた。まるで天使の顔をした悪魔の笑い声である。
傍らの秦谷美鈴も静かに、されどそれがなんだか恐ろしげであるかのように見えるほど、快く微笑んでおり……大崎甜花だけが青ざめていた。
「……や、やっぱり、やめよう……」
「へ~?」
「まあ……どうしたんですか? 大崎さん……」
「だって、天道さん……悪者に、なっちゃう……果穂ちゃん言ってた……天道さん、ダークヒーローだから……自分が悪いことして、みんなが助かる道があるなら、絶対にそうするって……──で、でも、甜花……天道さんに、悪い人、なってほしく、ない……っ!」
「ならそうしましょう」
青髪のプロデューサーはいつだって、相手の意思を尊重する。
「運営責任者さんにも迷惑が掛かりますからね。あの人にも生活が掛かってる。それ以外の人にも全て等しく。大崎甜花さんのファンも、無理して出演してほしくないと思っているかもしれない。なにより大崎甜花さんご自身にも掛かるのであれば、こんなのは当然やるべきではない」
「う、うん……で、でも、甜花は、そんな? だけど……だって、ちょっと、どきどき、しちゃってた、し……」
「では市川さん。秦谷さん。振り付けでは舞台袖から大崎さんの送迎をする手はずですが、その際────もしも、少しでも大崎さんが行きたくなさそうなら、連れて行かないでください」
「は~い!」
「了解しました」
「…………本当に?」
「え~? 信じてよ~! 雛菜がしあわせ~でも、大崎さんもしあわせ~じゃないなら、連れてかな~い!」
「はい……わたしも、大崎さんがしたいことを、お世話するだけですから……」
「っ────」
大崎甜花は息が詰まる。
本当は? 本当の気持ちは?
隠しても隠しても、隠している時点で、それは────
「次のユニット! 本番五秒前! 3、2、1────!」
♪~Wandering Dream Chaser~♪
────市川雛菜と秦谷美鈴は笑顔でライブに飛び出す。
入れ替わりに、月村手毬、樋口円香、西城樹里が戻ってきた。
そこで青髪のプロデューサーは、樋口円香の肩を叩く。
「? ああ……
「ありがとうございます」
青髪のプロデューサーは頭を下げる。
やがて楽曲も佳境に入った。間奏である。
小一時間前に直した振り付けの通り、市川雛菜と秦谷美鈴は────ひとりでいいのに、ふたりで舞台袖に走り出す。
『────!?!?!?!?!?!?!!?!?!!??!!』
スタッフ一同は驚いた/ファンたちも驚いた。
なぜ戻ってくる台本と違うぞ/音楽はまだ鳴ってるのにもう帰ってしまうのか?
青髪のプロデューサーは(ひとりで良かったのに~)と苦笑い。
「あは~! タイミング掴めなくて、雛菜も来ちゃった~!」
「ふふ……わたしもです。さて、大崎さん。どうしますか?」
「っ────て、甜花……甜花……!」
運営責任者が飛び込んでくる。
そこで樋口円香が「あのすみません。このペットボトルってどこに捨てればいいですか?」などと捕まえて質問。邪魔をする。
「て、甜花……甜花は……行きたい、けど、それはやっぱ、ダメ、で……でも……────」
「あは~! 時間切れ~!」
「ふふ……!」
「ひぃん! そ、そんなぁ~……!」
歓声。客席がわっと沸き立つ。
市川雛菜と秦谷美鈴は振り付けなんてお構いなし。大崎甜花の車椅子を押して押して舞台を駆け回り続ける。
その時、運営責任者が青髪のプロデューサーの胸ぐらを掴んだ。
「あ、あんた────やりやがったな……!」
「はい。ですから私もそのように話を締めたはずですが」
「は……はぁ!?」
「その後はお互い知らぬ存ぜぬを通していたのでは? ここで喚いていたら、まさに今あなたが万が一の情報漏洩をしてしまっているのでは?」
「────」
「二度と俺をアンタの企画に呼ぶなよ。我が身可愛さばかりかお耳も遠いなんて、確かにその頭とまんまるお目目の身はなんてお可愛いこと! 当たり前を守るばかりで本当に大切なものを何一つ守れない能無しが喚いてんじゃねーよ」
「────あんた……」
「大崎甜花は実力不足で怪我をした。ライブに出たくても打開策を閃けない。つまり知力の実力も不足している。ならそのままライブに出られず終わるのが自業自得の運命だ。しかし俺には実力がある。そしてアンタにも運命を切り拓く力があるはずだ。なのになぜそれを使わない? 面倒がってんじゃねぇよ。アンタ、なんのためにこの仕事就いてんだ? 金稼ぎたいだけで、みんなが笑顔になる道は模索しないのか? 別にそれは悪いことじゃない。だがそれは俺のやり方じゃない。──なぁもっと頭使って生きていこうぜ? みんなが幸せになるためによ! お互い協力して苦労しようぜ!」
「これのどこが幸せだ! わかってんのか!? アンタはたくさんの人に迷惑を────」
「例の録音を公開すればよろしいでしょう。それとも私が公開しますか? 分かりました。では今すぐSNSで発信しますね」
「────っ?!」
「はい送りました。私が先に情報をリークしたということは、私が先手を取ったということです。あなた、まだそちらの社長に報告、済ませてませんね? その点でも私が更にリードした。おやおや。人、これをテロリストと呼びます!」
「────────」
送信した、というのは半ば嘘である。
たしかに各社長とプロデューサーには送信した。が、SNSには、まだ公開していない。もっと言えば、実は疾うの前から送信済みである。具体的には控え室を出たタイミングで送信していた。つまり今しがた送信したデータは重複メールとなる。
「ほらほらいいんです? ここで会話してたら共犯と思われちゃいますよ? コンプライアンス違反と思われたくないんですよね? 俺に全部おっかぶせたいなら知らぬ存ぜぬでそう動かないと! ──あっ! そう動いてるから今、胸ぐらを掴んでるのか! これは気が利かず失礼しました!」
「……っ!?」
「頭が悪い人ってこういう時に混乱して何も言えなくなるからダメダメなのよねー。もっと気楽に生きていけばいいのにー。スイーツ要ります? 糖分摂取は脳みそによろしいですよ!」
「────……あんた、悪魔だよ……」
「ええ。悪魔の元は天使ってネ! ゆーて天使の方が悪魔よりヤバい所業してるらしいですが。もしそれがほんとなら、いやー世の中どこも理不尽。なら好き勝手やるのが勝者って? だったらこの世界、腐りきってやがらーな! ふははっ!」
「っ……あんたそうやってふざけてるのも今のうちだぞ?」
「あ、ちなみに大崎甜花は出演中止って、ライブ直前にファンの皆さんに言っちゃったんですよね?」
「っ!!? そ、そうだ……どうすれば……!」
「ですから、私が無理やり出演させたんですよ。人の話ちゃんと聞いてましたか? 週一で耳かきしてますか? 報連相、できてますか~?」
「……!! そ、そうだ、そうしよう! それしかない! じゃないと私がクビになる!」
(だから最初っからそう言ってんだよなー)「まぁクビになったら我が社で雇いますから! お詫びも兼ねて、以前より高給でネ!」
「ふざけんなっ!!」
「はいっ! 仰る通り過ぎて反論の余地もありませんっ!!」(そして最後に試すようなことをひとつまみ)「でも観客はあんなに盛り上がってるんだからいいじゃないっすかー」
「今はそれでよくてもっ! これで違反が明るみに出れば運営が潰れて次のライブができなくなるかもしれないだろっ!! そっちのほうがダメじゃあないかぁっ!!」
「それはそう! なんだちゃんと分かってるじゃないですかー!」
「アンタは分かっててこんなことしたのか!? 本当に?! 何を考えてるんだ頭沸いてんじゃないか!!?」
「そりゃそうですよ。だって俺────
「────」
「アンタはたったひとつの運営を守る。俺はみんなの笑顔を守る。そのうちアンタの焦り顔も笑顔にしてあげますから、クビを洗って待っててくださいネ! ──では改めて! 誠に申し訳ございませんでしたーっ!! 反省文百枚書けば許される世界って滅んだほうがいいのでは楽勝ォーッ!」
「ふざけるなぁあああああああああ────!!!!!!!!!!」
青髪のプロデューサーは、形だけはよろしいお辞儀を繰り出す。
おそらく皮肉のつもりだろう。
直後、ライブが終了する。
ドリームユニット〔MayPace〕が戻ってきた。
「あは~! 楽しかった~!」
「雛菜」
「あ、円香先輩だ~!」
「ん」
「へ~?」
スイーツを頬張る樋口円香はグーを差し出す。
汗だくの市川雛菜は、それをパーでくるんだ。
「……そこはグーでしょ」
「え~? ジャンケンじゃなかったの~?」
それを見ていた運営責任者さんは叫ぶ。
「────っ!! き、君! さっき私に声を掛けて邪魔してきた……! グルだったのか!」
「……」
「そ、そうだ! たしか市川雛菜と樋口円香といえば……例のノクチルだなっ!? またアンタらか……! くそっ! 覚えておけよ、ノクチル……!!」
「…………うまひ」
「!?」
「雛菜も喉渇いた~! 甘いの食べたい~! 車椅子、重い~! もう二度とやりたくな~い!」
「クレープ、あっちあるひょ」
伏し目がちの樋口円香は、巨大クレープをモグモグと食べながら退散する。
市川雛菜はお水を飲んでぷはぁと笑顔。たくさんあるスイーツに目移りして「ひとつだけとか選べない~!」と困ったように頭を抱える。
一方の秦谷美鈴は車椅子を丁寧に押して、大崎甜花に水を飲ませ、スイーツを選んで食べさせていた。
「樋口さん。俺もスイーツ食べたいっす。オススメないっすか? 久しぶりに頭使って疲れましたんで」
「ん」
「そんなにクレープ美味しいんで? じゃあ俺もいただきまっす!」
「……んっ。────能力べらぼうにある物好きは大変だね」
樋口円香は咀嚼物を飲み込んでから皮肉を言う。
ちなみに、
「そっすね~。これからほうぼうを駆け回る羽目になりますからね~。ベッドで寝れるのは二日後か三日後じゃないっすか~? それまでは公園のベンチで寝るのが各社を回る最短効率っすね~」
「ドンマひ」
「あざーっす」
§
第五週目。
快晴の公園。心地よい風が吹き、葉擦れの演奏会が小気味好い。
燦々たる日光が降り注ぐ中、アルファはベンチでうたた寝中。
一方のSNSは炎上中。真夏でもないのに炎天下。
天道唯我のツイスタは見るも無残な有様である。
(…………────なるほど。一億匹の
それはそれとして、極月学園・283・110・初星学園・市川雛菜・秦谷美鈴・大崎甜花・樋口円香などのツイスタはどうか。
先に青髪のプロデューサーがリークした改竄情報によって、吉村記者や阿久井記者の速報記事が功を奏し、アイドルを好き勝手に使ったプロデューサーという報道が成されているため、各プロダクションやアイドルたちには同情の声を寄せる人々が圧倒的多数。
(世の中は権力と可愛いものが好き。権力とかわいいは正義。ならその法則を利用させてもらう。法は守るより使うもの~。権力は従うより流すもの~。かわいいは守るより愛でるもの~。正義は主張するより味方するもの~。SNSは発信するより活用するもの~。────人、これを混沌と呼ぶ~)
十王学園長と天井社長と黒井社長には、運営責任者より早く情報をリーク済み。
特に黒井
ちなみに運営責任者はどうしたのか問いかけたところ『あんな報連相の遅い社員はクビにしたよ! 普通は君より早く報告するものだろう? だが君はライブ中に送信してきた! 話の早い奴は助かる。なんせ世の中は、情報を多く持っており、スピードのある奴が強いからね! それより君、我が社の顧問にならないかね?』などと言ってくるため、アルファはその運営責任者を引き抜くことにした。
(あの運営責任者さん。あの中で一番お仕事ちゃんとしてた人なのに。クビにするなんて黒井社長は見切り付けんの早すぎんだろ~。じゃ、路頭に迷ってる運営責任者さんはこちらが引き抜かせてもらいますよっと!)
つまり、これが企業を有するアルファなりの
(大抵こうやって社員や仲間を集めてるし~? 伝説の傭兵みたく、カリスマ性さえ見せれば、割とみんなすぐ手のひら返すのよね~。だってキャッチボールうまいのが人間ですし? スナップ利かせるのは人間性の十八番なのよネ!
恐ろしい子である。
「────あ、あのっ! 天道さん……ですか?」
「────はい?」
アルファは起床する。
見知らぬ女子高生。なんらかの興奮と恐怖と期待感を察する。
「うぬぼれでなければ、ファンのおかたかな?」
「っ……! ──そ、その……今、大変そうですけど……私、信じてます! 応援してます!」
「何を?」
「────ぜ、全部ですっ! 先週のライブ、私、観に行ってて……突然、甜花ちゃんが出られないって放送を聞いて悔しかったけど……でも、甜花ちゃんのライブ……観れたので! 甜花ちゃん、あんなに楽しそうな笑顔で……! っ──だ、だから! あ、ありがとうございましたっ!!」
(秩序を破壊した犯罪について感謝されてもな~。ちっとも嬉しくないんだよな~。まぁ感謝そのものは受け取っておきますけど)
天道唯我のファンでもあり大崎甜花のファンでもある女の子は、深々とお辞儀して駆け去っていく。
(……ふむ。しかし学園長と社長達もうまく合わせたよな~)
青髪のプロデューサーは控え室を出たあと『大崎甜花が怪我した』という音声部分のみ消去。
その改竄データを学園長や社長たち、各記者に送信したのだ。元データを持ち得ない記者達は、当然のように下記の情報を信じて客観的に、恣意的に、それぞれ解釈して、情報を発信した。
『心よりお見舞い申し上げます。ご出演を楽しみにしておりましたが、出演はお見送りということに決まりました。次の機会には万全のご準備をなさってくださいませ』
『そうですか。こちらの許可もなく?』
『────はい? ……お気持ちは痛いほど理解できますが、本番で何かあったらほかの皆さんにご迷惑がかかります』
『まあ……なぜです? わたしはむしろ、余計やる気になりますよ』
『なんで雛菜が迷惑に思うかどうか、そっちが勝手に決めるんですか~? 変なの~!』
『────はい? ……しかし、ですね。やはり出演は、お見送りでお願いします』
『それで、なぜ……ですか?』
『……子供にはまだ分からないことでしょうが、これは大人の事情なのです』
『……では、その事情というものを、詳しくお聞かせください』
『……もし、出演させた場合────いいですか? 重要なのはトラブルが起こった場合────コンプライアンス違反となり、イベントそのものが批判を受けることになる』
『あぅ……』
『……』
『ふ~ん?』
『それはみなさんにとって本意ではないはずです』
『本意。確かに。他人に迷惑が掛かるのは本意ではありませんね』
『────分かっていただけましたか』
『はい』
『────』
『なるほど批判。それが御社の正式回答ということで、よろしいですか?』
『……っ? はい……そうなりますが』
『では批判を浴びる覚悟で、出演を認めてくださりますか?』
『────はぁ?』
『我々は批判程度覚悟しています。本意ではない~? 先ほど市川さんが俺のセリフを取りましたが、むしろ本意ですよ。まぁそれはこちらが小さな事務所だからこそできる蛮行ですがね! もちろん御社に迷惑を掛けることはできません。なので、そちらの覚悟をうかがいたい。批判を恐れず、ファンに笑顔を届ける。それを望むアイドルに対するお返事とは、これ如何に?』
『…………お気持ちはお察しいたしますが、お見送りが正しい判断なんです。そのため出演は控えさせていただきます。──それに中学生とはいえ、プロデューサーという立場であれば、お分かりいただけることと存じます』
『承知しました。では、そのように話はまとまった。ということで?』
『はい。恐縮ですが……ご理解いただけて感謝します』
これに各プロダクションは、この記者報道に対して柔軟に応じた。
そのぶん時間を取らせて苦労させたろう。だがアルファからすれば、それは必要経費であった。とんでもない男である。
(あちこちで『天道プロデューサーは同意したのにも関わらずルールを破った。風紀を乱した。許されざる蛮行だ』……なーんて言われてるけど、もうちょっと厳しく言ったほうがいいんじゃない? 許されざる蛮行より上のことしたのよ? ボキャブラリーないんか?)
しかし世は不思議なもので。
たしかに仕事はめっきり減りそうだが、そのぶん増えそうなのが厄介の種。
増えた中にはアルファ同様に反骨精神バリバリのベンチャー企業もあれば、明らかに怪しい悪党の企業もある。
(ま、反骨心バリバリなら我が社と協定して、怪しい方は悪の組織ならぶっ潰せばいいわけで……正直、一石三鳥なのよねーっ!
──あれ、おかしいな? こんな悪いことして俺は何も損してないとか、この世界って理不尽で残酷すぎない? 一度滅んだほうが良いのでは……?
──ま、だからこそ“
一石三鳥。
アイドルを助けると、ファンたちが喜ぶ。
すると同好の士を得る。ぜひ仲間にする。
すると悪党を見つける。ならば成敗する。
一連の流れにメリットしか生じていない。これは嬉しい悩みの種である。
種は芽吹き、いつか収穫するものだ。既にネットの時期は秋になろうとしていた。情報社会における四季の巡りは早い。
(世の中どんな悲劇が起きても、それを有利に変えられる
独り、こうして公園でベンチに寝転がり、情報社会から一旦距離を置いて休んでいる時点で、ある程度は炎上が効いている証である。不特定多数の批判なら受け止めて然るべきだが、批判・批評ですらない先鋭化した袋叩きの罵詈雑言は、やはり怖いものがある。
その上で、まともではない情報は気にするだけ無駄、ということは頭では分かっていても、怖いものは怖い。そればかりは、さすがのダークヒーローも、どうにもならないことらしい。
「────うっし。悪いことしたあとの散歩とひなたぼっこ終わり! さーて、やること山積みだぞ~! 各方面に対する謝罪と対策提示は無論のこと既に終わらせており、次回のイベントが潰れないよう根回し済みで、ほかの界隈にも影響が及ぶようならそのあたりの根回しを今日中に済ませる予定だ。そのための対策提示もひなたぼっこ中に済ませた。あとは口と足を動かすだけだな。
──でも一番大事なのは、あの運営責任者さんが、もし何か情熱があってあのお仕事をしていたら、俺がそれを奪った形になるから……そこらへんのメンタルケアをしっかりすることだ。首でも吊られたらたまったもんじゃないからな! そのついでにスカウトも済ませとく。一発三発いや十発殴られるくらいは当然、必要経費だ。
さらに、ほかにもエトセトラエトセトラ……あー、やること盛りだくさんで、全部口に出してたらキリがないぜ! 反省文百枚を朗読した方がまだ早く言い終わるぞ!? ──で、あとはそうだな……。
やっぱ、果穂たちにはめっちゃ叱られるな~。そっちのほうが何倍も怖いな~? まぁ────誰になんと言われようとこの生き方を変える気はサラサラないから、問答無用なんですけどネ!」
勇者・英雄・ヒーロー・正義の味方。
それらの
どちらの側なのか。
恐ろしいことに、陣営が異なるだけで、評価は逆転してしまう。
どうも両者、自分が正義と信じている。そう信じなければ行動する勇気が出ないのだろうか。
自らが悪たらんとする勇気が欠けている。根っからの悪は自己を鼓舞することが上手な魔王の様子。
反して、自らが善でありたい人々に、勇気や客観性など皆無である。
自らが善の陣営に属しているなら、それで満足する不届き者が多い。
ならば、陣営に席を置かない中立者は? 第三陣営を名乗る中庸人は?
無論────どちらにとっても、テロリストである。
故に味方が存在しない。そんなもの、誰もなりたいとは思わない。
独りぼっちは怖いから。善ではないのは怖いから。悪になるのは怖いから。
それでもその恐怖に孤独に孤高に挑むのが、きっと真のヒーローなのだろう。
観測者が居ないため、誰も英傑たる魂の輝きを知らない。気高き精神の向かう先を知らない。
誰も知らないということは、それは光なき
故に。
チェインにメッセが来る。
『ダークヒーローのアルファさん!
帰ったら何があったのか、あたしに
こっそり教えてくださいねっ!!』AM 09:05
『コンプライアンス違反
となるため教えられません』AM 09:05
『 ^^ 』AM 09:05
『それ幽谷さんの? 怖いからやめろよ。
なに考えてんのか読み取れねぇよ……』AM 09:07
それはさておき、やはりというか。
どんなことにも、
『 ^^ 』AM 09:07
『 ^^ 』AM 09:08
『 ^^ 』AM 09:09
『わかった、わかったから……!
教えねぇけど、すぐ帰るから!』AM 09:09
『 ^^ !』AM 09:09
たとえ
愛してやまないために────
§