【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
休日の昼間。
今日も平和な小宮邸。
台所ではバシャバシャと水音。
窓辺では健やかな寝息。
リビングではテレビの音。
ソファではゲーム機の音。
同じくソファから着信音。
「あれ? だれだろ……」
小宮果穂はスマホを手に取り、画面を見るなり。
「あっ!」
と叫んで、すぐ耳元に当てる。
「────はいっ! もしもし?」
小宮果穂はソファから席を外すことなく、その場で電話を始める。
一応、父親が見ているテレビの音を邪魔しないように小声で話している。そして窓際に移動しようか、別の場所がいいのかと、どこに行けば良いのか視線を彷徨わせていた。
「────えへへっ。今リビングなんですっ! お父さんがテレビを見ていて~。お兄ちゃんはゲームしてて~。お母さんは洗い物してて~。マメ丸はひなたぼっこ中です! ……あたしですか? あたしもひなたぼっこ中でしたーっ!」
電話の相手は誰だろうか。
小宮果穂は話し終わったのか通話を切ろうとする。
「はい。……はい! 分かりましたーっ! ちゃんとカレンダーに書いておきますねっ! ……はいっ! プロデューサーさんっ!」
通話を切る。スマホをソファに置く。
小宮果穂は視線を振って、ソファを共有する兄と父に問いかけた。
「えっと……うるさくなかった?」
「別に?」
「父さんは大丈夫だぞ」
「……そっか!」
緩やかに時が流れていく。
不意にソファから着信音。
「あれ……またプロデューサーさんかな?」
小宮果穂はスマホを手に取り、画面を見るなり。
「────あっ!」
ふいに甲高い声色で立ち上がり、すぐ耳元に当てる。
「────はいっ。もしもし……?」
それは、ただの小声ではなく、密やかな囁き声だった。
思えば立つ必要はなかったと思い出したように、ゆっくりとソファに落ち着いていく女の子の体。無意識なのか背もたれには腰掛けず、ピンと背筋を立たせたまま、姿勢よく視線をスマホの方に流して発声する。
「…………えへへっ……! ……はいっ。……そうなんですか? ……ふんふん。なるほど……じゃあ、あたしからもいいですか? それは絶対に……黄色がいいですっ!」
電話の相手は誰だろうか。
そんなもの、妹の声色の変化を耳にすれば一聴瞭然であると、小宮兄は言いたげに固まっていた。もはやゲームのボタンを押してストーリーを進行させる余裕は失せている。
なぜならば。
────妹の声が、明らかに高くなっているのである。
────しかし時に、何かしらの威厳を示すためか、妙に声を低く取ることもあった。
まだ幼い妹の女の子な一面に、兄は驚くばかりである。
最初は小さな違和感だった。
徐々に大きな気づきを得ていた。
やがて先程の電話を思い出して比較。
現在は明確に識別しており衝撃を受けている。
思わず兄は振り向いた。片眉を上げながら妹を指差して、事態の共有を目で訴えかける。
息子に見つめられた父親は、ただただひたすら、うんうんとうなずくばかり。
そして父兄は一斉に、台所へと振り返った。
母親は知らんぷり。されど、どことなく微笑んでいるようだった。身に覚えがあるのだろうか。それは同じ声色を何度も聴いてきたという意味か、あるいは自らの過去にも同様の経験があるという意味か、そのどちらもか。
「はーいっ! じゃあまた……あ、はいっ! ……じゃあ、またあとで……すぐ電話します! ……では、また……! ────はい! またです、アルファさん……!」
名残惜しそうに、時間をかけて、そっと通話を切る。
スマホをソファに置かず、しばらく握ったまま膝の上に置く。
小宮果穂は視線を振ると。ソファを共有する兄と父が、目を丸くしてこちらを見ていたので少し驚いた。
「っ……? お兄ちゃん、お父さん、どうしたの? ────あっ! も、もしかして、うるさかった……!? ご、ごめん……! 次は、また電話あったら、自分の部屋に戻るから……!」
「……い、いや……別に、そこまでうるさくはなかったけど……つか、気にしすぎだけど……むしろ会話聞いちゃっていいのかって感じなんですけど……」
「…………そうか。果穂も、大きくなったなぁ……」
「??」
小宮果穂は首をかしげる。
小宮母は吹き出した。
「何よお父さん。大きくなったって……ちょっと黙ってなさい」
「だってぇ……」
そこで小宮兄が何かに気づいたのか、焦ったように問いかける。
「ち、ちょっと待った! も、もしかして俺も、リビングで電話してる時、なんかその、えっと……!!?」
「お兄ちゃんはそういうとき自分の部屋にいそいそ行くでしょ」
「だ、だよな……! ……? ……────???????!!!!!」
兄は赤面する。なぜそういう時、いそいそ自室に行くことが母親にバレているのか。
穴があったら入りたいと言いたげに、ソファの上でもんどり打つ。
「お、おい! 急になんだ……!? おい、リモコン蹴飛ばすな……!」
「わわ、お兄ちゃん……? どうしたの……?!」
小宮兄、撃沈。
ソファの座席に背中をつけて、床に後頭部を打つという、だらしのない恰好で沈黙。
父親は察したのか、そっとしてあげることにしたようで、リモコンを拾い上げ、テレビの録画を巻き戻し、続きを見直す。
「……?」
一方の妹は首をひねる。
ともあれ行動あるのみ。
「マメ丸! いこっ! ひなたぼっこ終わり!」
「──! ワフッ!」
小宮果穂はマメ丸を連れ立って、スマホを握りながら、ウキウキと自室に戻っていった。
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