【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
まえがき
それは芹沢あさひがアイドルになったあとの出来事。
小宮果穂とハナワカが、明らかにそういう感じになったことを、芹沢あさひが察し始めた頃の物語。
昼休みの教室。
芹沢あさひは机に突っ伏している。
そこへ二名の女子が声をかけた。
「えっと……寝てる? 芹沢さん」
「ごめんね、ちょっといいかな?」
芹沢あさひは面を上げる。
眠たげな顔ではない。退屈そうな顔ではあった。
「……なに?」
「その、急に変なこと聞くかもしれないけど……芹沢さんって、一年生に仲良しな子がいるでしょ?」
「同じ小学校だったとか?」
意図が読めない質問である。
一年生で仲良しな子。ひとりしか思いつかない。おそらくハナワカのことだろう。
小学校は同じではないため首を横に振る。
「あ、そうなんだ……」
「じゃあじゃあ、どんな関係なの? もしかして……!」
どんな関係。そんなの、ただの友達だ。
しかし、この手の雰囲気は、ほんの少し分かる。
返答を間違うと勝手に盛り上がられて、よくわからないまま
「────もしかして、付き合ってるの?」
「……って、どっちもアイドルなんだから、んな訳ないかー!」
「…………」
芹沢あさひは返答に困る。
相手は今、なんの話がしたいのか。
とりあえず黛冬優子の顔を思い浮かべる。
「……それ、答えなきゃダメ?」
「──え?」
「……や、別に……?」
沈黙が流れる。
もう質問は無いのだろうか。
「もういい?」
「あ、うん……」
「……」
芹沢あさひは机に突っ伏す。
しかし腕の中で目は開けており、考察を広げていた。
§
放課後の283事務所。
「おはよっす~! プロデューサーさん!」
「おはよう、あさひ! 今日も元気だな!」
笑顔の芹沢あさひはプロデューサーの顔を見るなり真顔となって佇む。
「……ん? あさひ、どうした……? 急に固まって……」
「…………んんっ────思い出したっす。そういえば今日の昼休み、ハナワカと付き合ってるのかって聞かれたっす」
「え……」
突然の報告。
プロデューサーは動揺を抑え、冷静な対応を心がける。
「……だれに?」
「女の子にっす」
「……クラスメイトの?」
腕を組む芹沢あさひはこくんとうなずく。
「……それで……あさひは、なんて答えたんだ?」
「何も答えなかったっすよ? 前に冬優子ちゃんが『そういう質問には絶対に答えないこと』『ふゆがそう教えたことも絶対に話さないこと。……愛依とプロデューサー以外には』って、何度も言われたっすから。……あの時の冬優子ちゃんは、もう嫌になるくらいうるさかったっすー!」
「……! はは……さすが冬優子だな……既に手は打っていたのか……」
「プロデューサーさん。これで良かったんすよね?」
芹沢あさひはどこまで理解しているのか不明だが、純朴に問いかけてくる。
「ああ、問題ないよ。それに冬優子の言いつけを守れて偉いぞ!」
「ほんとっすか? やったー!」
褒められた芹沢あさひは飛び跳ねて喜ぶ。
「……ただ、ひとついいかな?」
「いいっすよ! なんか質問っすか?」
「ああ。……あさひは、それを聞かれて……どう感じた?」
こちらを気にしてくれる問いかけ。
芹沢あさひは腕を組んで当時の気持ちを思い出し、考察する。
「……特にないっすね」
「そっか……。──じゃあ、もしまた何かあったら、今日みたいに教えてほしい」
「……了解っす!」
芹沢あさひはうなずいたあとソファに行く。
プロデューサーはデスクワークを再開。
周囲には誰もいない。
哲学者は腕を組んで瞑想。やがて根を上げるように唸り声を上げた。
「……………………ん~~~~、わかんないっす~!」
「ど……どうした? あさひ……」
「なんか思い出したせいで気になってきちゃったっす~! なんであんなこと聞いてきたんすかね? プロデューサーさん」
「まぁ……そういう話題が好きな人もいるから、かな?」
「じゃあ、そう見えた理由が知りたいっす! わたしとハナワカ、なんで付き合ってるって思われたんすかね?」
「それは……普段あさひと天道くんが学校でどう関わってるか、俺は知らないからな……あさひは学校でいつも何してるんだ?」
「別に普通っすよ」
「……えっと、そこを掘り下げてほしいんだけど……たとえば、休憩時間は何してる? 友達と会話とか、それこそ天道くんと────」
「いないっすよ、友達」
「……え?」
「
「──あ……」
芹沢あさひは胸の前に手をやり、相手の反応を観察する。
対するプロデューサーは、芹沢あさひのWING優勝時を思い出した。
「そうだったな……でも、今は────」
「はいっす! ハナワカがいるっす!」
芹沢あさひは笑顔で両手を握る。腕を体の前に持ってきて喜びを表現する。
「そうか……なるほどなぁ……」
「? なるほどって、なにか分かったんすか? 教えてほしいっす!」
「んー……その前に。嫌なら答えなくていいんだけど、学校で天道くんとは何してるんだ?」
「何もしてないっすよ」
「え? そうなのか?」
「大抵は探すことになるっすから」
「……探す?」
「不登校だからほとんど学校にいないんすよ。たまにしか登校しないんす。でも法則を見つけたんすよ! 道徳の授業には必ず登校するっす。あと行事の準備がある日とか。先生に聞いて、一年生にそういう日がある時は、昼休みや放課後にいつも顔出してるっす」
「……顔を出すっていうのは……もしかして、一年生の教室に?」
「はいっす!」
今まで真面目な顔で答えていた芹沢あさひは、最後に笑顔で返事する。
「なるほど……やっぱり、そういうことかもなぁ……」
「! だから、どういうことなんすか! いい加減教えてほしいっすー!」
「はは。んー……まぁ……仲が良さそうな男女がいたら、そう勘違いする人もいる……ってだけじゃないか?」
「そうなんすか?」
「そういう人もいるって話だな」
芹沢あさひは理解しがたいと言いたげに腕を組んでうつむき、なぜそうなるのか考える。
そのためには何かに置き換えて考えるのが良いと感じて、やってみる。
「……じゃあ、わたしとプロデューサーさんが仲良しなところを誰かが見たら、その人はわたしとプロデューサーさんが『付き合ってる』って勘違いするんすか?」
「────えぇっ!? いや……さすがに大人と中学生じゃ勘違いしないだろ……」
「そうなんすか? なんでっすか?」
「なんでって……うーん。普通に犯罪と言うか……」
「えっ? ……ふむ……」
「それに年が近いほうが『付き合ってる』って勘違いは多くなるだろうし……」
「…………そういうものなんすか?」
「たぶんな」
「……ふーん……」
芹沢あさひは腕を組んで考える。
やがて思考に倉庫がよぎる。そういえば最近、面白いものが入ってきた気がする。
ソファを蹴り立った芹沢あさひは、さっそく面白いものを探しに向かった。
§
後日。
昼休みの一年教室。
「ハナワカー、いるー?」
芹沢あさひが顔を出すと、クラスの委員長が答えた。
「芹沢先輩。アルファくんなら、さっき出て行きましたよ」
「あ、そうなの? どこ行ったか分かる?」
「それは……すみません……」
「謝らなくていいよ! ──どこ行ったのかなー」
「……」
芹沢あさひは探索を開始した。
§
数時間後。
放課後の一年教室。
「ハナワカ、どこー?」
芹沢あさひが顔を出すと、またまたクラスの委員長が答えた。
「あ、芹沢先輩……アルファくん、昼休みの時に早退しちゃったらしくて……」
「えーっ! ……あ、そっか。道徳は四時限目だから……忘れてたー!」
「……」
「よし、今日は川原に行こう!」
「!?」
ハナワカと会えなくてもやりたいことは山積みのようで。
疾く進もうとした芹沢あさひを、委員長が呼び止めた。
「あ、あのっ!」
「──……ん?」
「せ、芹沢先輩って……アルファくんのことが、その……」
「……? ……」
「…………」
芹沢あさひは待つ。相手は何か話したいことがあるらしい。
だが委員長は最初の勇気がしぼんでいき、口をつぐんでいく。
「……どうしたの?」
「あ、えっと────先輩は、よくアルファくんに会いに来ますけど……その理由って……?」
「理由? 遊ぶため!」
「……そう、ですか……」
「……話は終わり?」
「あ、え、は、はい……! お引き止めして、ごめんなさい……!」
「あははっ、タメ口でいいよ! いつも教えてくれてありがとね!」
「……!」
芹沢あさひは駆け出した。
§
夕暮れの川原。
橋の下で変な石を探す。飼い犬と触れ合った。
宵闇の雑木林。
境内の外れで虫を探す。子供? と触れ合った。
夜の駅前広場。
あちこち走って色々探す。色々な人と話した。
「────……あっ」
色々見つけた中で、ようやく確定で面白いものを発見。
「あれはもしかして……ハナワカ!」
カツラを付けて髪色や髪型を変えているが、後ろ姿で誰か分かる。
「ハナワカー!」
青髪のハナワカが振り返る。
「──……おやおや。こんばんは、先輩」
「ここで何してたの? あと昼休みと放課後、会いに行ったのにいなかった」
「……まず飯を探してました。そして文句に関してですが、それについては俺からも文句があります」
「え、なんで?」
「お互いアイドルなんですから、過度な接触は避けましょう。この前もそう言ったはずですが?」
「…………そうだったっけ?」
「そうだったんです……まぁ右から左に流してるなーとは思っていましたけど……」
ハナワカは目元を抑えて失笑する。
それより芹沢あさひは遊びに誘う。
「夜ご飯まだなの?」
「はい。奢ってくれます?」
「──! いいよ! どこ行く?」
「おそらく先輩も食べるでしょうから軽食にしましょう。夕飯まだでしょう?」
「うん! じゃあ屋台がいいかも! 付いてきて! あっちに屋台並んでたんだ!」
「付いていきますけど走りませんよ~」
芹沢あさひは駆け出す。
振り返っては立ち止まり、悠然と歩く少年に対して「早く~!」と呼びかける。
音楽フェスで観衆ごった返す広場。
そこに軒を連ねる屋台は、焼きそばやたこ焼きなど。
「ふむ……じゃあ俺は、焼きそばにお好み焼きを乗っけて、更にたこ焼きといか焼きを乗っけたいですね」
「え~! そんなにお金ないよ~! もっと減らして!」
「では金魚すくいで」
「────!? え、金魚食べるの?」
「小骨が厄介なので甲斐甲斐しくすり身にして、しっかり菌を焼いてね。──まぁこれは食用じゃないんで食べないですが」
「なんだー」
「クレープでいいっすよ。先輩と同じものが食べたいっすね」
「クレープ……わたし、今はたこ────なんでもない!」
「……たこ焼きでもいいんすよ?」
「なんでもないってば!」
芹沢あさひは看板メニューを眺めて、これにしようと決定、店員にクレープを注文する。
すると店員は、あっという間に生地を作ってクリームを掛けて果実を盛り付けして完成。
「おおー……すごい! 早業っす!」
「おまちどうさまー!」
「これ代金っす! お姉さんクレープ作るのうまいっすね!」
「ありがとうございますー!」
芹沢あさひは両手に熱いクレープを持って、先に席を取っていたハナワカのところに持っていく。
「はい、ハナワカ!」
「ありがとうございます」
パラソルの下、風に飛ばされそうなほど軽い椅子の上で。
少年少女はクレープを頬張る。
「……」
最初は黙々と食べていた芹沢あさひだが。
「…………────」
あることに気がついた。
(こうして、外で学校の友達と食べるの……)
以前にもあった。ホットドッグ。
当時は特になんとも思わなかったが、今だからこそ分かる。
「…………」
ちらりと前の席に座る少年を見やると、どこか寂しげな横顔。
空を眺めている。前もそうだったような気がする。
自分も見上げると、今は夜だと気づいた。
星は見えない。
その代わり、街の輝きが空に向かっている。
「……ねぇハナワカ」
「……なんですか?」
「……ありがとね。学校で仲良くしてくれて」
「────」
目をぱちくりさせたハナワカは、何事かと相手の顔を見つめる。
「急にどうしたんすか? 変なものでも食いました?」
「なんでもないよ。ただお礼を言いたかっただけ」
「それまたなんで」
「……」
以前、プロデューサーと話したことを思い出す。
皆まで言わずとも、ハナワカは見抜けるだろう。エスパーなのだから。
「……今まで、ひとりぼっち、だったから」
「あー。まぁ先輩の振る舞いを見ていれば察するにあまりあります。あなたのそれに付いていける人は少数でしょうね」
「……そうなんだ……」
やっぱり、とは思う。
しかし合わせたい気持ちもあるのだ。それより興味が優先するだけで。
「……プロデューサーさんと出会って、冬優子ちゃんや愛依ちゃんと出会って……友達……友達? 仲間……とにかく、楽しい人がいっぱい増えて! 毎日が……すごく楽しくなった!」
「しかし学校では変化なし」
「うん……でも、そのあとハナワカが来てくれた。だから学校も、少し楽しくなった!」
「それは何よりで。ま、俺、ほとんどいませんけどネ!」
「なんで来ないのー?」
「退屈で無駄で幼稚だからー。幼稚園卒業したのにわざわざ幼稚園に戻るほど趣味人じゃないんで~」
芹沢あさひはうつむく。
「わたし……学校うまくいかないから、わたしも不登校になって、ハナワカに付いていこうかな……」
「とんでもないこと言うのやめてください。俺を振り回して気づいたら海外行きの船に乗っていたとか、そういう状況全然ありえるんでやめてください」
「それ面白そう!」
「真面目な顔で真に受けるのやめてください」
「冗談だよー!」
「今のは……まぁ、はい……そうですね。もっと時間かけてもっと世界を広げれば、いつかきっと落ち着ける場所ができますよ」
「…………」
§
時空が乱れる。
ハナワカは頭痛でもするのか、ひどく眉をひそめた。
虚空の一点を睨み、訝しむようにキツくすがめている。
「────……あの、先輩。重箱の隅を突くようで申し訳ないんすけど、一応確認したいことが。……なんか今さっきの話、順序が逆じゃありませんでした?」
「え? なんのこと?」
「俺は先輩がアイドルになる前から学校に居ましたよね? つまり今さっきの話は、先輩がアイドルになったあと、俺との学校生活が楽しくなった……そういう解釈でよろしいですか?」
「え? そんなことないよ。入学してくれた時から楽しいよ! あの時はハナワカが来てくれて嬉しかったなー。入学式でハナワカの顔を見つけた時、つい叫んじゃって」
「そんな記憶は……いや、かすかに……、────あ、なるほど。これ合世界か!」
「へ?」
「なんでもありません。今の俺の疑問は全て忘れてください」
「…………?」
しばらく宇宙猫になっていたハナワカは、ともあれクレープを一口でペロリと平らげる。
「わ、一気に!」
「……モグモグ……ハァ、困ったな~。先輩からそんな話を聞かされたら、修正する気が失せるなぁ……!」
「……っ?」
「ま、変化が俺の在籍程度なら特に問題ないか。それに俺が何かしなくても、気づいたら元に戻ってる可能性もあるかもだし?」
「…………さっきから、なんの話ししてるの?」
「嘘つけないから独り言でーす」
ハナワカは席を立つ。
「あ、待って! まだ食べてる!」
「先輩。今日は俺のこと探し回ったようですが、なんでスマホで探さなかったんです?」
「……! そっか、チェイン! すっかり忘れてた!」
ハナワカは考察する。
(合世界化で一旦記憶が初期化されて再構成されたことに加えて、今は季節が八巡か九巡した五月……でも俺や先輩の気分は一巡目に近い。そのせいで先輩は、アイドルになるまであまり使わなかったチェインを使い慣れていない感じになってる。なるほどな……ま、すぐに気分は本来の巡回に追い付くだろうけど。……時間は進んでないのに過去に戻るって、不思議な感覚だな~!)
§
ハナワカは背中で語る。
「では改めて、これからもよろしくお願いしますね、先輩! あと奢ってくれてありがとうございまーす!」
「あ! 待ってよハナワカ! まだクレープ残ってるのにー!」
ハナワカはその場を去る。するとポケットから振動音。
スマホを取り出す。ロック画面には芹沢あさひからの初メッセが来ていた。
『
『承知しました』 PM 19:05
§