【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
伝えねば熄みに途切れる寝待ち月
彼岸にて待つ江戸の逆花
§
翌日。
曇天の放課後。窓の外の雨脚が強まるアルファ邸リビング。
小宮果穂は大事な大事な預かり物を届ける。亡き沖田総子が、恋して愛したアルファに宛てた、辞世の句を読み上げる。
ぐしゃぐしゃの目元。鼻を大きくすする。号泣をこらえて、震えた声で、大きく大きく恋の心を
「つたえねば、やみにとぎれる、ねまちづき……ひがんにてまつ、えどのさかばな────」
「────…………そうか。逝ったか」
小宮果穂は、達筆な俳句の札を食卓に置く。
そして、何度も何度も目元を拭って、しゃくり上げた声で静かに泣く。
一方のアルファは、窓の前で佇立しており、乙女の言い分を受け取った。
ちなみに彼の両手には、赤く滲んだ包帯がグルグル巻きにされている。ヤブ医者でも雇ったかのような乱暴な治療であった。
「なぁ。沖田総子の辞世の句には、どういう意味が含まれていると思う?」
「────え……?」
「後学のため教えようか。沖田も、そのつもりでお前に託したんだろうし」
アルファは語る。
彼は窓の外の曇天を見上げており、真後ろからでは表情が読み取れない。小宮果穂は窓の反射で顔を確認したいが、涙が邪魔して視界が霞む。
「…………────これを代わりに伝えてほしい。私が病によって死ぬ前に。かの天才剣士が没した日、かの十九日が終わる前に。私は日を跨ぐ前に死ぬだろうけど、臥して待つだけが女ではない。逆さまに読め、エドヒガン。
──血染めの桜と言ってくれた、桜色のきれいな髪。霞の城の桜の年輪。樹齢六百、優に超す。その先に。
──火事と喧嘩は江戸の花。そうは言うけど来世はその逆。落花流水、その先に。輪廻の果てに六百年後。
また会いましょう。今世は喧嘩別れのようになってしまったけれど、来世はその逆。仲睦まじく。夫婦のような痴話喧嘩。できたらそれは、しあわせですね────嗚呼、あなたとわたしが、逆だったら良かったのに」
「────っッ!!」
逆だったら。
それは、沖田総子と小宮果穂が、という意味だろうか。
「最後は予想だ。もし間違っていたら、あの世で殴られてくる。あるいは化けて出て殺されるかもな!」
そうなってくれたら、どれだけ嬉しいことか。
お化けでも会いたいと言いたげに、アルファは乾いた笑い声を発した。
「──……命の儚さ、恋の鮮烈、愛の温度。
死後に出逢える。
そんな誠の理想郷があるとしたら、そこで堕ち逢おう。
戦場に生きた、桜の君よ。
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