【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
風呂桶がカコン、と響き渡る。
シャワーの音。浴槽に浸かる音。
藤田ことねは朝風呂の湯加減を満喫する。
「ふぅぅ────ぎもぢ~~~~~~……かぁ~っ! 温泉は本当にいいねぇ……!」
「え? これ銭湯よ?」
「咲季ぃ~……似たようなもんだろうがよぉ……今は温泉ってことにしておいてぇ……」
「あらそう……でも銭湯って公衆浴場のことだし、やっぱりわたしが間違っていたわ。これはただのお風呂ね!」
「……咲季。あたしは二回も同じこと言わないかんなぁ……」
「あっ。ご、ごめんなさい……ちょっと気になっちゃったのよ。うちのジムにも温泉を引いたお風呂があるから……」
「……は? え、マジ? 咲季んちって結構、スゴい家……?」
風呂場に響く藤田ことねと花海咲季の会話。
そこへシャワーを浴び終えた幽谷霧子が入ってくる。
「ふふ……おじゃまして、いいですかー……」
「あ、はい! どうぞどうぞ……!」
藤田ことねは何度も会釈する。
対する幽谷霧子は、友達距離の二人とは、ほんの少し離れたところに落ち着いた。
すると花海咲季が話しかける。
「幽谷さんは朝早いんですね! 今朝、屋上で洗濯物を干してるの見かけましたし」
「わ……ふふ……わたしも、見たよ……シーツの向こうから……咲季ちゃん、たくさん、汗を流して……ただいまーって……」
「あ、それはランニングの帰りですね。なら……今まで結構見られていたのかしら?」
「ふふ……うん……。あと……」
「……あと?」
「……────敬語じゃなくても、いいよ……?」
幽谷霧子は朗らかに微笑む。
その儚さと美しさに目を奪われた花海咲季は、生唾を呑んで我を取り戻した。
「────分かったわ! それならこんな感じで、砕けた調子で話すけど……これでいいかしら? 幽谷さん」
「わ……ふふ……うれしい、な……ありがとう……」
「これくらいどうってことないわ! でもそうね……これだけだとまだ友達感ないわね……よし、なら勝負しましょう!」
「咲季~。もう砕けた口調の時点で友達だから、そういう熱血少年漫画な友達の作り方はやめとけ~」
花海咲季がご無礼を働かないように、藤田ことねは牽制する。
しかし幽谷霧子は、意外と乗り気だった。
「えっと……勝負って……?」
「それは────レアモンよ!」
「……!」
「幽谷さん、櫻木さん、郁田さんの三人は、よく甜花先輩とレアモンを探しに出かけているじゃない? あれ、わたしも佑芽とリーリヤに勧められてやってるのよ! 佑芽と時間内にどれだけのレアモンを捕まえられるか勝負したり、その勝負で捕まえたレアモンだけで勝負したり……!」
「わっ……楽しそう……」
「でっしょう? あ、ことねもやる?」
「あたしはパスで~」
「つれないわねぇ……」
「……じゃあ、今度の休日、出かけるから……もし、スケジュールが合えば……」
「ええ! ぜひ戦いたいわ! 楽しみにしてるから、クビを洗って待ってなさい!」
その時、ガラガラと更衣室の扉が開かれる。
朝っぱらから遊びに来た芹沢あさひと、彼女と廊下でバッタリ会った根緒亜紗里が入ってきた。
「うわぁ! お風呂、広い! 銭湯みたい!」
「あ、走ると転んじゃいますよ~! ──おや。みなさん、おはようございますっ!」
『おはようございます……っ!』
学校の教師と一つ屋根の下で暮らすというのは、なかなか気が引き締まるものだが。
根緒亜紗里の当たり柔らかさは、その辺を忘れさせてくれるものがあると、藤田ことねは考える。
一方の芹沢あさひは湯船を覗いている。
花海咲季は一応注意した。
「……あさひ。ちゃんと体を洗ってから入るのよ?」
「……これ熱いっすか?」
「え? そうね……40度くらいかしら? 結構ぬるいほうよ」
「ふーん……」
芹沢あさひは駆け戻ると、根緒亜紗里のそばに座り、話しかけながらシャワーを浴びて体を洗い始めた。
その時、ガラガラと更衣室の扉が開かれる音が反響する。
壁を越えた先の音だ。つまり男湯に誰か入ってきた。思い当たる人物は一人しかいない。
糸目で湯船に浸かる藤田ことねは、なんとなしに挨拶する。
「……もしかして、あたしの元プロデューサーですか~?」
「──……はい。ただ壁越しに声を掛けられるのは想定外でしたね。湯加減はいかがですか?」
「めっちゃきもちいーで~す……」
「それは何より。そちらに何人いるか分かりませんが、のぼせることのないように」
「安心なさい青のプロデューサー! わたしがことねに付いているわ!」
「おや。花海咲季さんがいるなら安心ですね」
「わたしもいるよハナワカー!」
「は? 先輩こんな朝っぱらから何してるんすか……?」
「ちょっと寄っただけ! 果穂ちゃんいる?」
「果穂は……まだ寝てると思いますよ~」
男湯から響くは、風呂桶を置く音とシャワーの音。
「とーう!」
突として芹沢あさひは湯船に飛び込んだ。
バッシャーンと水音を立ててお湯が散る。
「どわっぷ!?」
「わっ……」
「ちょ!? あさひ! ことねと幽谷さんに掛かったじゃない! 湯船に飛び込むのは禁止よ!」
「えー。……あれ? なんで咲季ちゃんには掛かってないんすか?」
芹沢あさひは首をかしげると、花海咲季は腕を組んで胸を張った。
堂々と仁王立ちである。
「そんなの避けたからに決まってるじゃない!」
「え! どうやったんすか!?」
「ふふん、知りたい? なら、まずはわたしとの勝負に勝つことね!」
「……勝たないと教えてもらえないんすか? ならいいっすよ。絶対に勝って避け方を教わるっす! で、勝負はなんすか?」
「
「! 手でやるやつっすか! それならわたしもやったことあるっすよ!」
「なら、この威力を喰らったことはあるかしら?」
「?」
花海咲季は両手を特異な形にして水鉄砲を噴射する。
刹那、およそ水音とは思えない轟音が発生した。
芹沢あさひの顔面にお湯ビームが直撃する。
「ぶは────っ!?」
「先手必勝ぉっ!」
「……────」
芹沢あさひは、一目見た花海咲季の特異な手の形を真似て、即興で実演。
瞬間、高所から落下した隕石が海を叩いたような轟音が響いた。
花海咲季の顔面にお湯ビームが直撃し、水が激しく飛び散る。更に、のけぞった彼女の体は湯船の水面に後頭部を打ち叩いた。その衝撃で更にお湯が弾け飛ぶ。
「あははー! 咲季ちゃんがすっ転んだ!」
すると必然、そばにいる藤田ことねと幽谷霧子の頭上にも波しぶきが掛かる。
次の瞬間、藤田ことねの怒号も弾け飛んだ。
「おっ……お前らーっ!! 他人も入ってる温泉では静かにしろぉ────っ!! 咲季もさっきあさひの飛び込みを注意しといて、なーにを自分から水合戦しとんじゃーっ!」
「────! ふ、ふふ……! ふふふ……っ!」
幽谷霧子のツボに入った笑い声が響く。
対する藤田ことねは、花海咲季と芹沢あさひの首根っこを引っつかんで浴槽の外に連れ出し正座させた。怖い説教が始まる。
一方の根緒亜紗里は、それを眺めながら微笑み、ゆったりと湯船に浸かった。
「ふふ……先生の代わりに叱ってくれる生徒がいると、楽でありがたいですね~」
やがて花海咲季と芹沢あさひは、正座中に体が冷えたことでくしゃみをする。
その時点で説教を切り上げた藤田ことねは、さっさと二人を湯船に入れた。
すると温まりたい二人は一旦勝負を預けて、静かに湯船に浸かり続ける。
「ふぃ~。やっと静かになったかー……あーさむさむっ。……つーか、湯船はほかにもあるんだから、遊びたいならそっちでやれよな~」
「えー。みんなと一緒のお風呂がいいっすー!」
「わたしも同じ気持ちよ!」
「……! っ……なら、せめて静かにしろよな~?」(ったく、こいつら急に可愛いこと言うんだから……)
その時、男湯の方から声が発された。
「やっと落ち着きましたか」
「──っ!? あ、えと、すんませんプロデューサーぁ!!」
「あ、いえ、怒っているわけではなく。それに藤田さんが謝ることでもありませんよ。……ただちょっと、俺にも教えてほしいなーと。思っただけでして」
「……へ?」
そのとき花海咲季と芹沢あさひは、まさかまさかとお互いの顔を見やった。
「おそらくタイミング的に先輩の水鉄砲でしょうけど……俺の頭上にもパラパラと、お湯の飛沫が降ってきましてね。いったいどうすれば、そんなふざけた
花海咲季と芹沢あさひの頭上にて、同時に電球が閃く。
「いいわよ! 特別に教えてあげるわ! そしてわたしと勝負なさい! 今度こそ呼び捨てにさせるんだから!」
「咲季ちゃん! わたしが教えたいっすー! でもわたしのやつもまだ完璧じゃないから、まず咲季ちゃんから教わりたいっす!」
「分かったわ! なら向こうの湯船に移りましょう! 完璧に教えてあげるわ!」
「やったー! ……? でも完璧に教えたら、ハナワカに勝てないかもしれないっすよ?」
「……そうかもしれないわ。でもね、あさひ。完璧な相手に勝つから、完璧な勝者になれるのよ?」
「────! ……なんか……」
「?」
「……あ、なんでもないっす。咲季ちゃん、早く教えて!」
芹沢あさひは一瞬、黛冬優子の顔が脳裏をよぎった。
しかし彼女なら、わざわざ相手を強める策略は打たないだろう。
されど、その熱血さについて、どこか通じるような部分が垣間見えた気がした。
これは、ただそれだけの感傷である。
かくして花海咲季と芹沢あさひは別の浴槽に移った。
やっとのんびりできる藤田ことねは、しかし悶々とあることが気になってくる。
(……こっちのお湯が、元プロデューサーの頭に……? ──え、タンマタンマ。それってつまり、女湯の水が、男湯に混じったってこと? え……うぇええええ~~~~!? あ、あいつら……なーにしてくれちゃってんのーっ!? しかもそのことに気づいてないっぽいし! つーか気づいたところで『だからなに?』って顔しそうな連中だしぃ!? あ、やべっ。なんか恥ずかしくなってきた……あたしが浸かったお湯が、プロデューサーのお湯に…………あ、あばば────)
羞恥心に溺れかける藤田ことね。
それに幽谷霧子が気づいた。
「あばばばばば…………」
「──え? こ、ことねちゃん……?」
「あばばばばばぶ────」
「わ、わ……! た、大変……! ことねちゃん……! ことねちゃんが、のぼせちゃった……!」
「────えぇっ!?」
根緒亜紗里が喫驚する。
二人はすぐさま藤田ことねを連れ出し、涼しい脱衣所で介抱した。
うちわを扇いで熱を冷まし、水を飲ませて楽にさせる。
一方、やけに静かになった女湯。
花海咲季と芹沢あさひが不思議に思って振り返る。
「あら? 気づいたらわたしたちだけね……」
「! それって、水手砲し放題ってことっすよね?」
「……そうね……」
「……………………」
ならばと二人は構えを取る。
向かい合うのではなく、男湯の壁の向こうを見据えて並び立つ。
勝負の内容は言うまでもない。
どちらが水手砲を、より遠く、より多く、標的に降らせるか。
「三秒数えたら撃つわよ。3、2、1────」
「────ほっ!」
海を割るような轟音。
二条のお湯ビームは壁越えを果たし、滝のような灼熱のお湯を降らせた。
「っ!? ──ぶはっ……!! ちょ、なんすかこれ!? や、もしやとは思ってたけど! まさか本当にやるとは思わないじゃないっすかーっ!?」
「ふはははははは! さすがのエスパーも相手の顔が見えなければ形無しね!」
「! そっか! じゃあハナワカ、よけられないんだ!」
「そりゃそうでしょうよ!? さすがに雨を躱すのはできませんって!」
「つまり一方的な攻撃が可能ということ────あさひ! このチャンスを逃してはならないわ!」
「もちろんっす! あははー! やるっすよー!」
「それ楽しいんすか!?」
立て続けの轟音。
しかし即座に二人は反撃を喰らった。
音もなく頭上から、冷たすぎる雨が降ってきたのである。
「ひゃっ! なによこれ! 冷たい~~~!」
「わっぷ! ハナワカ、何やったの~~~!?」
「めっちゃ冷ましたシャワーの勢い強めて放水してまーす。なお水道代がもったいないので一分ほどでやめますねー。風邪引きたくなかったら湯船に素潜りしてくださーい。その間に勝ち逃げさせてもらいますねー」
「なんですってぇ~~~~! たかが冷水のシャワーが何よ! こっちには
「はいっす!」
立て続けの轟音が冷水のシャワーを押し返す。
しかしアルファは鼻で笑い飛ばした。
「おや? こちらにはダメージがありませんね~? というのもSUGには弱点があります」
「なんですって!? そんなはずは……!」
「通常、お湯とは空気中に放出されると急速的に冷めます。しかしSUGは放出力が強すぎて、なぜか熱が保存されたまま発射されるようですね。故に────
「なっ……! そ、そんな弱点があったなんて……っ!」
花海咲季は片膝を屈する。
狭い風呂の中で妹の佑芽とお湯ビームを撃ち合ってばかりだったので、放物線を描いて雨を降らせた時の具体的な効果は未検証だった。
「咲季ちゃん! まだ負けてないっすよ! こっちも冷水シャワーを降らせるっす!」
「はい、一分立ちました。一足先に上がらせてもらいますねー」
「あっ! まて、ハナワカー! ずるいぞ! 戻ってこい、ハナワカー!!」
男湯の引き戸がガラガラと閉じられた。
芹沢あさひは追いかけるため脱衣所に向かう。
取り残された花海咲季は、されど不敵にくつくつと笑いながら立ち上がった。
「ふっふっふっ……なるほどね? でもその弱点、すぐに改善するわ! 要はお湯を冷ましやすくしながらSUGを撃てばいいだけ……なら、それができるように特訓するまでよ! 次の勝負で進化したSUGを見せてあげるわ! それまでクビを洗って待ってなさい! アルファーッ!!」
花海咲季の宣戦布告がプチパレスを轟かせ、大樹に留まる小鳥の群れが飛び立つ。
それはプチパレスにおいて、割と日常的だったりする────
────朝の
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