【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
ある日のレアモン勝負。
チーム・ピーちゃんvs花海咲季のレアモン探し勝負に決着がついた。
真昼の公園で高笑いが上がる。
「あーっはっはっはっはっはっはっ! わたしの勝ちよぉおおおおおおおおお────!」
「あう……咲季ちゃん、強い……甜花、負けた……」
「ほわっ……束になっても、勝てなかったね……」
「……ごめんね、甜花ちゃん……」
「むぅ……次こそはリベンジ……!」
「いつでも受けて立つわ!」
そして白熱の勝負が終われば、温和な会話が始まる。
「それで甜花先輩。次は何して勝負する?」
「えと……次は、甜花、勝負じゃなくて……普通に、遊びたい……レアモン交換、とか……? あ、でも、疲れたから、ちょっと休みたい、かも……」
「なら日向ぼっこでもしましょう! あっちにベンチあるわよ! そして疲れた時には、この花海咲季特製SSD!」
「あ、ありがと……でもそれ、いらない……」
「あら。甜花先輩、好き嫌いはダメよ?」
「あう……それは、好き嫌いじゃない……」
「え?」
さすがの大崎甜花も断り方に力が入る。
SSDとは、それほどの劇物ということか。
四人でベンチに着く。一息ついて穏やかな時間。
そこで郁田はるきが問いかけた。
「そういえば咲季ちゃん。前から気になってたんだけど~」
「はい、なんですか?」
「それそれ~。敬語じゃなくていいのに~」
「あ、そうなの? えっと、じゃあ……」
「はるきでいいよ~。──真乃ちゃんは~?」
「ほわっ……! あ、えっと、わ、わたしも……! ……わたしも、呼び捨てして、ほしいな……?」
「あら、そうだったのね? 分かったわ!」
花海咲季は笑顔で承諾する。
対する櫻木真乃は、郁田はるきに囁いた。
(あ、ありがとね、はるきちゃん……!)
(ううん~! よかったね、真乃ちゃん!)
(うん……!)
「それで、はるき。気になってたことって、わたしの敬語のこと?」
「あ、うん。というより……甜花ちゃんの呼び方について、かな?」
「甜花先輩の?」
「そうそう。なんで甜花ちゃんのこと、学校が違うのに“先輩呼び”なのかな~? って!」
「ああ、それは────」
花海咲季は「ほわんほわん」と思い浮かべながら、過去を語った。
§
それはプチパレスに引っ越した直後の出来事。
大崎甜花は二階の憩いの場のソファでくつろいでいる。
そこへ通りかかった花海咲季は、まだきちんとした挨拶を交わしていなかったため声をかける。
「あ、大崎さん!」
「──ひゃい!? ……ふぇ? え、な、なに……?」
「あっ……ごめんなさい、驚かせてしまって……同じプチパレスの住人として、きちんと挨拶しておこうと思ったんです。改めて、よろしくお願いします! 大崎さん!」
「あ、えと……は、ひゃい……! ……よ、よろしく……」
大崎甜花は戸惑いながら会釈する。
それが嬉しかった花海咲季は、しれっと隣に座った。
「でも大崎さん。たしか双子の妹さんがいるんですよね? 以前も遊びに来ていましたし」
「あ、う、うん……! なーちゃん、甜花のこと、心配してくれて……よく来る……」
「本当にそっくりでびっくりしました。そのとき声を掛けようと思ったんですけど、苗字が同じだと紛らわしいなと思って……ならフルネームで、と考えていたら、声をかけるタイミングを逃しちゃったんです」
「……あ、そ、そうだったんだ……えと……ごめん?」
「いえ。それで……もし失礼がなければ、大崎さんのこと、これから名前で呼ばせていただいても構いませんか?」
「────へ……?」
大崎甜花は目を点にする。
何を言われたのか頭に入っていない。
ある意味では、夢のような申し出とも言える。
それほどの衝撃だった。甜花史上、最大の好機だった。
「あ……やっぱり嫌でしたか?」
「う、ううん……! て、甜花……甜花のこと、名前、呼ぶの……い、いいと、思う……! ま、まぎわらし、まぎらわ、あ、あれ? まぎわ……あれ? ────い、いいと思う……! 甜花、オール、オッケー……!」
「ほんとですか? よかったー! では、これからは『甜花さん』って呼びますね!」
「────!!!!!!!!!!」
大崎甜花は、自分の学校における生徒の中で、今まで下の名前で呼ばれたことがなかった。
────大崎。
────大崎甘奈の姉。
────大崎甘奈じゃない方。
(……甜花のこと、『甜花』って呼んでくれる人は……学校では、なーちゃんしか、いなかった……)
双子の妹を『友達』と呼んでいいのかは不明だが。
少なくとも大崎甜花の友達は、学校で一人しか居なかった。
(────だから────)
大崎甜花の顔が、ほころぶ。
「に、にへへ……花海さん、いい人……」
「あら? ……甜花さん。実は────わたしも、双子の妹がいるんです」
「────へ? そうなの……?」
「はい。わたしと相部屋の子ですよ。花海佑芽って言うんです。可愛いですよね!」
「……! うん、可愛い……! ……でも────似て……る? あれ……似て……ない……?」
「たしかに、あまり似てるとは言われませんね?」
「……そっか……じゃあ、花海さん、甜花と、おんなじ……!」
それは何を以て“おんなじ”と言ったのだろうか。事と次第によっては失礼に当たるかもしれない。
だが、今まで友達が居なかった点は、たしかに同じかもしれなかった。
「あ、また!」
「……へ?」
「もう……わたしも佑芽っていう、同じ『花海』がいるんですよ? だから、わたしのことも下の名前で呼んでもらわないと、紛らわしいと思いますし?」
「……──! あ、そ、そっか……! 花海……佑芽ちゃん、だから……じゃあ……さ、咲季ちゃん……?」
「はい!」
「……に、にへへぇ……なんか、照れる……友達、みたい……」
「! ……もしかして、年功序列とか気にした方が良さそうですか?」
「……へ?」
「うーん、それなら……、そうだ! 学校は違いますけど、甜花さんのことを『先輩』って呼ぶのはどうですか?」
「へ? え、な、なんで……? 甜花、別に……甜花のままで……えと……」
少し考えすぎた花海咲季の申し出に対し、大崎甜花は戸惑ってしどろもどろになる。
「? すみません。よく聞き取れませんでした。もう一度いいですか?」
それはコミュニケーションが下手な子にとってはトドメになる一言だった。
「ひぃん……! そ、それで、いい、でしゅ……!」
「わかりました! では甜花先輩! 改めて、これからよろしくお願いしますね!」
「…………」
「……? 甜花先輩? どうしたんですか?」
「あ、えと、あの……その……やっぱ、タメ口、で……」
「! じゃあ……甜花先輩、でいいのよね?」
「! う、うん……! あ、あと……甜花、
「はい! なんでも言ってください!」
「────甜花のこと、朝、起こしてほしい……!!」
§
────というようなことがあった。
昼下がりの公園。
花海咲季は、自らの視点でその事を語る。
「だから甜花先輩なのよ!」
「ほわっ……そうだったんだね……!」
「ふふ……わたしも、咲季ちゃんにタメ口、お願いできた時……嬉しかったな……」
「にへへ……」(ほんとは、先輩、なくても良かったけど……でも、
「そうなんだ~! 意外と歴史があった……! でも、先輩呼びなのに砕けた口調なのか~。──あ、別に悪い意味じゃなくてね!? ちょっとした疑問というか!」
「! たしかに……郁田さんの言う通りね。どうしてなのかしら、甜花先輩?」
「────ふぇ!? え……えと……甜花も、わかんない……」
「あらそう……まぁなんでもいいわよね! ──それより、そろそろ休憩終わりにしない? わたし、動きたくてたまらないわ!」
「え……て、甜花……まだ休みたい……歩き疲れた……」
「わたしは勝つために走り回ったけど……」
「で、でも、咲季ちゃん、ぜんぜん汗、流してない……」
「それは鍛えているからよ!」
「ひぃん……有栖川さんみたい……」
「仕方ないわねぇ……はい、SSDを飲めば、すぐに疲れが取れるわよ!」
「……………………甜花、それ…………まずいから、イヤだ……」
「えっ────!?」
大崎甜花は目を逸らしながら、いつもなら減らすはずの口で付け加える。
「あと……ゲーミングは、飲むものじゃない……」
「げ、ゲーミングぅーっ!? これのどこがゲーミングなのよっ! というかゲーミングって何よぉ!」
「あう……ググって……」
そのやりとりを見ていた櫻木真乃と幽谷霧子と郁田はるきは、ひたすら目を丸くする。
よもや大崎甜花が
「くぅ~! なによ! ググればいいんでしょう!?」
花海咲季はググる。
次の瞬間、衝撃を受けたのか画面を凝視、硬直していた。
「────たしかにこれは、ゲーミングだわ……」
§