【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
休日のプチパレス。
早朝は過ぎた。朝方の廊下。
朝風呂を終えたアルファが出てくる。
入れ違いに有栖川夏葉と邂逅。
「あら、アルファさん。おはよう! 朝風呂かしら?」
「はい。……おはようございます」
「朝風呂は爽快よね! でも私、朝は弱いから、なかなかゆっくりできないのよね……」
「なるほど」
「────あ、ちょっと待ってちょうだい! 今の言い方だと語弊があるわ。ちゃんと体は洗っているのよ?」
「そこはもう完璧に分かっていますよ」
アルファは深々と頷きながら思う。
その手の話題を男子相手にするのはいかがなものか。
(もしや俺が年下だからか? ……まぁいっか……)
そこへ寝ぼけ眼の小宮果穂が通りかかる。
「あら、おはよう果穂! あなたも朝風呂?」
「
小宮果穂は目元をこする。
アルファには挨拶しない。それは既に挨拶したからであろうか。
「……今日はレッスンね。元気に頑張っていきましょう!」
「はい!」
「──でも果穂? もしかして、ゆうべはよく眠れなかったの?」
「……っ!」
アルファは知らぬ存ぜぬと退散する。なに食わぬ顔である。
小宮果穂は引き留めて文句を言いたかったが、有栖川夏葉の前では気恥ずかしいため今は我慢する。
「は、はい……ごめんなさい……」
「あら。別に責めているわけじゃないのよ? ただ、何か失敗してしまったのなら、それを反省して対策して次回に活かす! 同じ失敗をしないためにね! 私はそれのお手伝いがしたいの。……見たところ、今起きたようだけど……この時間だと寝坊ね? ゆうべは何があったのかしら?」
「っ! そ、それはぁ……」
「それは……?」
小宮果穂は、ぼのぼの汗を飛ばす。
有栖川夏葉は真剣な眼差しで、あらゆる問題事であろうと真摯に向き合って解決を図るため、仲間の言葉を待ち受けるが────
「────ごめんなさい言えませんっ!!」
「────、……えぇっ!?」
「っ……」
小宮果穂は申し訳なさそうにしゅんとする。
それを目にした有栖川夏葉は、即座にフォローした。
「……! そ、そう……分かったわ! 言いたくないこともある、わよね? ごめんなさい、気が利かなくて……」
「い、いえっ……! ……その、いつかお話します! だって、夏葉さんは大人、ですから……!」
「……?」
小宮果穂は女湯に逃げ込んだ。
有栖川夏葉は戸惑うばかりである。
§
昼下がりのレッスン室。
ダンスレッスンを終えてジャージ姿のまま帰路に就く放クラは、コンビニに寄って飲み物を買い、自然とプチパレスに集まっていた。
シャワーを借りてサッと汗を洗い流し、食堂で小休憩。
冷蔵庫で冷やしておいた飲み物を取り出して、三階の空き部屋を借りる。
ちゃぶ台を囲んで団欒。
三階には誰も住んでいないため、多少騒がしくしても問題はない。
わいわいと姦しく賑やかな午後。
ふと、小宮果穂が目をこする。
西城樹里が心配した。
「……果穂、眠いのか?」
「! い、いえっ……!」
「え? ……でも、朝から頻繁に目をこすってたろ。あんまりこすると赤くなっちゃうぞ。今から昼寝するのもいいと思うけど……」
「……っ」
「……? 果穂……ホントに大丈夫か……?」
有栖川夏葉は見守る。
ここで小宮果穂を手助けするか、西城樹里に味方して引き出すか。
しかし朝から眠そうにしていたことは、園田智代子と杜野凛世も勘づいているはず。
ここで手助けしても、その二人から追撃されると弱る。
確実に小宮果穂を助けるためには、三人を納得させる要素が必要だ。
(────私とつい夜更ししちゃった、なんて嘘は……ダメね。最初はごまかせても、あとで絶対に見抜かれるわ……)
そんなことはない。仲間の言うことは信じるのが放クラである。
しかし有栖川夏葉は小宮果穂のためを思うあまり、回り回って策を練りすぎた。
「……果穂?」
「果穂さん……?」
園田智代子と杜野凛世の心配そうな視線が集まる。
そこで小宮果穂は、ついに罪悪感が限界を迎えた。
「────しゅん……みなさん、ごめんなさい……」
「果穂……! む、無理して言わなくていいのよ!? ええっと、その、みんな! 実は────」
「────いえっ! 夏葉さん! あたし、お話します……っ!」
「……!」
小宮果穂は覚悟を決めた顔つきをしていた。決意がみなぎっている。
ならば、これ以上の助太刀はむしろ邪魔になる。有栖川夏葉は神妙な面持ちで待機した。
「あたし、悔い改めます……。実は、ゆうべ、よく眠れませんでした……!」
『……!!!!』
「だから反省するために、次回に活かすために、『再発』を防ぐために、折り入って、ご相談があります……!!」
『……っ!!!!』
「────断り方を、教えてください────」
『……!!??』
断り方。
それはどういう話なのか。
神妙な面持ちで俯く小宮果穂は、やがて面を上げた。
「──『恥を忍んで』言いますっ! ──きのうの夜、あたしが誘っちゃったのも悪いんですけど……でも、アルファさんも悪いんですっ!」
『……!!!!』
一同は察する。
(これは────まさか────恋バナ案件……!!??)
ちょっと違う。
恋愛相談である。
「あたし、朝になっても……ずっとアルファさんに『キス』され続けて……」
『!?!?』
「ぜんぜん眠れなかったんですーっ!!」
『!?!!?!?!!!!!?!?!?!!????!?!?!!?!?!?』
一同の肌色が赤熱する。
声にならない叫びが、表情として物語っていた。
「────そ……それは……それはぁ……良くないわね! 夜ふかしは美容の天敵よ! ええ! まったくだわ……! そ、そう思うわよね、凛世!?」
「────は、はい……はい……はい…………」
西城樹里は真っ赤な顔を片手で覆っている。
「か、果穂……! もう少し声、抑えよっか……!?」
「はっ! ご、ごめんなさいぃ……っ! ちょっと、恥ずかしくて……っ!」
恥ずかしさを吹き飛ばすために大声で叫んでしまった。
プチパレス中に響いていなければ良いのだが。
「その……頭、撫でられるのも……体、触ってくるのも……キス、されちゃうのも……ぜんぶ、本当はうれしくて……だから、断りたくなくて……でも、断らなきゃいけない時もあって……そういう時に、ぜんぜん断れなくて……だからっ……!」
『っ~~~~~~~~~~……!!!!』
「で、でも、それは、アルファさんも、おんなじだと、思うんです……! だって、『ダメだよ』って言ったら、最初は離れてくれるんですけど……でもすぐ、また戻ってきちゃって……」
『────────』
「あ、あたしも……この前、アルファさんのお膝の上から離れなくちゃいけないのに、立ち上がっても、またすぐ座っちゃって……門限、破りそうになって……だ、だからっ……!! そろそろ、どうにかしないとって……!」
『 』
「夏葉さんは大人だから、きっと知ってると思うんですっ!」
「っ!?」
突然の流れ弾に有栖川夏葉は度肝を抜く。
「ちょこ先輩と凛世さんは、そういう少女漫画、たくさん読んでるし……樹里ちゃんも、やさしいから……! そんなみなさんだったら、こういう時、ちゃんとできるんだろうなって、思って……」
一同は『なるほど』と頷くほかない。
でも、それはちょっと買いかぶりすぎだよと。
ツッコミたい気持ちを、年上ぶりたいため押し隠して。
「教えてください……! あたし、一個、対策を見つけてるんですけど……それだけだと、まだ足りないと思ってるから……みなさんの『知恵』を、お借りしたいんです……!」
一同は『もう既に一個を見つけちゃってる果穂の方がスゴいよ』と思わざるを得ない。
先ほどの年上ぶりたかった押し隠しを今すぐ謝罪して。
実のところ恋愛経験値は果穂の方が上だということを打ち明けるべきでは?
────と思う今この瞬間が、残酷に過ぎ去っていく。
時計の針がチクタクと進む。
小宮果穂以外の四人は俯いている。表情が前髪に隠れて読めない。
「────果穂」
『!!!?』
不意に園田智代子が発言した。
彼女はハードボイルドな顔つきで、卑怯な手を惜しみなく使う。
「まずは、果穂の閃いた『一個の対策』とやらを、聴かせてもらえるかな……?」
(智代子……! それは……!)
(先に果穂さんの恋愛レベルを把握して……)
(それを元にアドバイスしようという魂胆ね……!)
あながち悪くない手ではあるのだが、プライドを優先させているためにそのような質問をする、という決断を下した四人からすれば、卑怯な手と思ってしまうようだ。
一方の小宮果穂は、そんな戦略なんてつゆ知らず。天真爛漫な笑みで素直にうなずく。
「はいっ! それはぁ……『広さんに押し付けること』ですっ!!」
『────!?!??!?!!?!?!????!?!?!??』
四人の中で『小宮果穂の恋愛レベル測定値』がキャパオーバーを引き起こした。
カオスの混乱状態である。頭痛が痛い。空いた瞳孔が塞がらない。目が渇く。
(え……まってどういうこと? ────えっ。ほんとにわからない! どういうことぉ!? こわいっ! こわいよ!? たすけてみんなぁ……!)
(チョコが先に訊いたことだろうがっ! あ、アタシは知らねー……!)
(……凛世も……力及ばず……)
(────────)
小宮果穂は「……?」と首をひねる。
もしや、あまりよろしくない対策だったのだろうか。
確かに押し付けるのは良くないことかもしれない。それでも役割分担は大事だ。
「あたしがダメな時は、広さん! でも、もし広さんもダメな時はぁ……リーリヤさんや咲季さんにお願いしますーっ!」
『 』
「そうすればぁ……バッチリ解決すると思うんですっ! ……でも、それでもダメだった時のために、みなさんの知恵を……!」
『────────────────』
やがて四人は思い出した。
そういえばアルファさんは、多情な恋愛観をお持ちの人だったことを。
しかし、よもや、そこまで身近な人が、既に取り込まれていたとは、つゆ知らず。
園田智代子は、小宮果穂の失態を指摘する。
それは禁断の指摘ではあるが、これ以上犠牲者を増やさないためにも必要な指摘だった。
「──……果穂。チョットマッテネ」
「? はいっ!」
「果穂の今の対策は~、ね? どうしても私には、こんなふうに聞こえちゃったんだ」
「……?」
「広ちゃんとリーリヤちゃんと咲季ちゃんは────“アルファさんとキスをする仲”であると」
「…………」
「……」
「……────」
小宮果穂は目を黒点にした。
唇をもにょもにょとさせながら、じんわりと大量の汗がにじみ出てくる。
なぜ、そこが頭から抜け落ちていたのだろう。
自分にとっては当たり前のことで。
今までそれを他人に隠すことがなかったから。
彼我の認識の不一致を気にする習慣があまりなくて────
「ごめんなさい今のはぜんぶ忘れてくださいぃいいいいいいいいいいっ!!」
────炎のように真っ赤に燃える顔面で、歯噛み歯ぎしり。
どうしてこんなミスをしてしまうのか。我が未熟を呪うばかり。
「────よしっ! わかった! 忘れた! ね? 樹里ちゃん!」
「嗚呼、アタシはもうダメだ……わりぃ果穂、話について行けねぇ……だってなんかもう別世界の話だ……そりゃあゲームの主人公が数人のヒロインを囲むハーレムみてーな話はあるけど、大抵は最後に一人を選ばなくちゃいけなくてさぁ……──でもそれがないんだもんなー。なんかすげーなー……共有してるってことか? どうやってんだろ……果穂はそれ許せてるのか? ……すげーなー……」
「なんか感動してしみじみとしてらっしゃる!? ちょちょい、凛世ちゃんは!?」
「はい……はい……はい…………」
「ああダメそうだね! だって純愛特化だもんね!? そりゃあ右から左に突き抜けちゃうよねっ?! でも逆に良かったのかな!? じゃあ夏葉ちゃんは……!」
「もちろんよ! つまり広とリーリヤと咲季と果穂がキスすれば解決なのよね!?」
「こっちは錯乱してらっしゃるぅ!? 私たちの最後の希望がーっ!! 二十歳がこれならもうダメだよー! 放クラは全滅だーっ!!」
§
大混乱のトンチキ騒ぎは収まり。
放課後クライマックスガールズは秘密の会談を始める。
「それでは果穂の【“
「問題は、アルファさんと果穂がお互いに、イチャイチャをやめられないっていう話だ」
「なんと甘いお悩み……して、何か策はあるのでございましょうか……凛世は、そのままでも良いと思ってしまいます……」
「そうね……そうね……そうね……」
若干二名怪しいが、ともあれ会談を進めていく。
「はい! 私に策がありますっ!」
「おっ。チョコか。それはなんだ?」
「これは単純ですね。予定日の前日は────『夜に会わない』────」
「なるほど。我慢するってわけか……ま、それが一番確実だよな! どうだ果穂?」
「はいぃっ……やってみますぅ……」
「逢瀬したくとも逢えない恋の苦しみ……果穂さん。心中お察しいたします……」
「そうね……」
「樹里ちゃんは何かある?」
「えっ。チョコの回答で大正解だと思うからなー。……
「樹里ちゃん……ごめんなさい……
小宮果穂は先の失敗を踏まえ、名前を言わないようにしようと努めたらしい。
だがその
「もはや夫婦……」
「そうね……」
「そろそろ凛世ちゃんと夏葉ちゃんには、こっちに戻ってきてほしいんだけどなー?」
「諦めろ。ふたりには
ともあれ小宮果穂は、園田智代子の案を採用することにした。
「みなさん、ありがとうございますっ! あたし、やってみます……!!」
「うん! 応援してるよ! また何かあったら相談してね! たの────期待して待ってるよ!」
「おいチョコ……ったく、さっそく第二回をやりたそうな顔で……」
「恋の話は……いくらあっても良い……」
「そうね……」
その後、小宮果穂を除く放クラメンバーは、篠澤広・花海咲季・葛城リーリヤと対面するたび、ちょっとしどろもどろだったとか、ほんのり顔が赤くなっていたとか、なんだとか。
§