【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
芹沢あさひは青空を眺めていた。すると脳裏によぎるセリフがあった。
────あんた、ああいう時の既読無視はホントにやめなさい。心配したんだから。
あれも青空を眺めていた時のことだった。別に既読無視したわけじゃない。あとで返信しようと思っていた。
ただ、通りすがりの人から『お天道様が見ているよ』と言われたから、なら自分も空を見ればお天道様と目が合うと思った。
そうやって青空に夢中だったけど、気がついたら別のことに気を取られていて、そのまま返信を忘れちゃっただけで。
§
プチパレス三階の憩いの場。
三方にソファがあり、北壁のソファにアルファが寝転がっている。
窓側のソファでは芹沢あさひが膝立ちで外を眺めており、視線の向きから察するに青空を眺めていた。
時計の針は昼下がりを指し示す。
「ねぇハナワカ。今日の空って既読無視の色してるよ」
「──ハァ? 急になんすか……」
アルファは「よっこいしょ」と起き上がる。
窓の外の青さを確認。
「……別に、代わり映えのしない青空じゃないっすか」
「でも、なんかこう……『あとで返すつもりだった』って言って、二度と帰ってこない感じの青さしてるもん」
「自分語りっすか? どんな経験したら青い空に既読無視の気配を感じるんすか……」
アルファは寝転がる。
「それにほら、よく見てください。白い雲がひとっつもない青天ですよ。お天道様がこんな晴れ模様にしたんすから、あさひ先輩を見逃すわけないじゃないっすか。既読無視なんかされないっすよ」
「……そういうことじゃなくて」
「じゃあどういう────」
「あ、虹だ!」
芹沢あさひの突発的な関心事で、セリフをキャンセルされたアルファは黙り込む。
「ねぇ見てハナワカ! 虹が架かってる!」
「そっすか。興味ないっすね」
「えーなんでー!」
写真を撮る音が連続する。チェインを送信する効果音が鳴る。
「ねぇハナワカ。じゃあ夕焼けってどんなチェインだと思う?」
「…………日本語のおかしさはさておき────そうっすね。炎上系コメントじゃないっすか」
「炎上? ……雲が赤いから?」
「怒ってるという意味ではまあ……はい。知りませんけど」
芹沢あさひはうつむくと、閃いたのか面を上げる。
「じゃあ虹ってどんなチェインだと思う?」
「もうチェインから離れてください。自然現象を全部チェインで再現しようとしないでください。──ったく……最近の若いもんはSNSを通してしか他人と話せねーのか、なんて言われちまいますよ~」
「……────あ、向こうに雨雲が見える。わ、雷が落ちた!! 今の見た、ハナワカ!?」
「後ろに目がついてるなら見えていましたねー」
「じゃあ見えたの!?」
「何を以て見えた可能性を見出したんすかね~?!」
遅れて遠雷が鳴り響く。
「……ねぇハナワカ」
「なんすか」
「ならさ。雷はさ────」
「はいはい。通話が切られた音とか?」
話が分かる男は、先読みして答えた。
が────
「お天道様が死んじゃった音?」
「どんな断末魔ァー!?」
毎度のごとく芹沢あさひは、予想の斜め上を突き抜けていく。
「殺された時の悲鳴ですかぁ?! ホラーじゃねーか! さっきまで繰り広げてたノー天気な話題はいずこへ!? うちの純粋な先輩を返せ!」
その時、南壁のソファ右手に座っていた郁田はるきはキメ顔で言った。
「天道さん。子供は汚くなって大人になるんですねぇ……」
「JKが知ったふうなこと言ってんじゃねーですよ! 葛城さんだって大人になっても二日酔いでゲロ吐いたその足でプラモ買いに行く少年心は持ったままなんすよっ!!」
「わたしのことなんだと思ってるんですかセンパイ……!?」
南側のソファ左手に座っていた葛城リーリヤは、雷撃級のショックを受けて放心する。
「結局ゲロで汚くなってるんですねぇ……」
「汚くなってもガキはガキのままなんすよ。風邪引いた人間と同じで、人間はいつだってハナタレ小僧のままなんす。オトナはカッコつけた鎧で社会に出てるだけなんすよねぇ……」
一方の芹沢あさひはスマホ片手にうつむいていた。
「……お天道様にチェイン送ったのに、全然返事が来ない……」
どうやら宛て先なしで何かを送信したらしい。
アルファは重々しい溜め息をついた。
「お天道様なんかいやしませんよ」
「っ!? セ、センパイ……!」
「いないの? 本当に……?」
葛城リーリヤは、女子中学生の純粋な夢を壊すような発言を諌めようとした。
しかしアルファは無慈悲に続ける。
「はい。少なくともこのあたりにはいませんね。お天道様はいろんな場所を晴れにするから忙しいんすよ。昼夜問わず働いてるからチェインなんて確認する暇ねーってことっすね。しかも世界中にどれだけの友達がいると思ってんすか……全員にチェイン返すだけで人生丸々潰れますよ~」
「……! センパイ……」
「……そっか。なら、お返事なくてもいいから……『お仕事がんばってください』ってチェイン、送るよ!」
「お好きにどうぞ~」
「あさひちゃん……」
葛城リーリヤはホロリと来たらしい。
一方の郁田はるきは、とても純粋な芹沢あさひと葛城リーリヤのふたりを、微笑ましく見守っていた。
§