【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
pSSSR【強敵と書いて友!】大崎甜花 ※パロ有り:ワートリ・MGS5TPP
鋼鉄羽の旋回音。赤いランプで照らし出されたヘリコプターの機内で、武装した天道唯我はブリーフィングテープを再生する。ノイズ混じりの男の声が鉄に響く。
『例の高層ビルを敵部隊が占拠した。数は不明だが人質も取られている。ただし
いいか、コードネーム・アルファ。今回の
なお
これを掻い潜って
ビルへの潜入は、途中までヘリコプターで近づく。当然、敵部隊の銃撃が予想される。ビルの屋上に着地するのは不可能だ。その前に撃ち落とされる。
そこで、我々の組織が作った最新鋭の転送装置を使い、お前をエリアAの任務開始地点に転送する。ただし転送地点はランダムだ。
そして、この
作戦限界時間は一時間。
ブリーフィングは以上だ。健闘を祈る』
コードネーム・アルファこと天道唯我は、ヘリコプターの鉄扉を開けて、エリアAの任務開始地点に着地した。
周囲を確認。幸先は良好。
武装を確認する。任務における携帯可能な武装は八つまで。
①〔
②〔
③〔
④〔
⑤〔
⑥〔
⑦〔
⑧〔
準備確認完了。天道唯我は潜入任務を開始する。
§
エリアA。薄闇の
不意に携帯端末から、ノイズ混じりの男の声が広間や通路に響く。
『諸君。
おそらく敵は
各
よって諸君の任務を変更する。今までは敵組織のビルの占拠だったが、
なお人質が救出されても問題はない。
独立傭兵たる諸君には高い金を払っているんだ。依頼通りに済ませてくれよ。健闘を祈る』
一方的な
その後、
「えと、それじゃあ……放クラのみんなは、エリアAの通信設備の防衛を、おねがい……!」
『
「それで、ストレイは……敵の迎撃……あ、でも、無理して倒されたら、ダメ……まずは、敵の武装を確認したい、から……偵察隊として、よろしく……!」
「了解っす! ……でも甜花ちゃん。別に倒せるなら倒しちゃっても構わないんすよね?」
「ふゆも了解です❤」
「うちもりょうか~い!」
「で、チームピーちゃんは……エリアBに、行きます……!」
「ほわっ……どうして……?」
「……もしかして、敵に……先に降りられちゃうと……困るから……?」
「あ、そっか~! Bの通信設備も破壊されちゃうと、どんどん後手に回るもんね~!」
「そういう、ことです……」
そして大崎甜花は、携帯端末越しに話しかける。
「浅倉さん、樋口さん、聞いてた……?」
『あ~。聞いてたー。オーバー』
『ノク半隊。エリアCの哨戒中。敵影、未だ見えず。オーバー』
「了解……! オーバー……! ──それじゃあ、みんな、勝とう……!」
『オー!!』
§
任務開始から五分後。
放クラは周囲を警戒しながら、エリアA北部の通信室の手前に到着。小宮果穂は小声で会話する。
(みなさん! すでに敵が中にいるかもしれません……! 気をつけましょう……!)
(そうだね……!)
(じゃあ、アタシが扉を開ける)
(凛世と夏葉さんは、後方警備を、担当しておりますゆえ……)
(果穂と智代子が突入ね……!)
(ちょこ先輩、準備はいいですか?)
(うん! OKだよ果穂! じゃあお願いね、樹里ちゃん!)
(オッケー。行くぞ……3、2、1────)
西城樹里は鉄扉を押し放つように開く。続けて小宮果穂と園田智代子が拳銃を室内に向けると、奇妙なものを発見する。
次の瞬間、足元から『ピピピッ!!』と甲高い音が鳴った。小宮果穂・園田智代子・西城樹里の三人は視線を下ろすと、そこには一本の赤外線が、開けられた鉄扉に直撃していた。西城樹里はその意味に、はたと気づく。
「ワイヤートラップ!?」
扉の開閉によって
それを合図にしたかのように、一拍遅れて『ピシュン!』という射撃音が鳴り響く。
「そんなっ!」
「……っ!?」
小宮果穂と園田智代子が発見した奇妙なものとは、通信室の中央に置かれていた狙撃銃である。銃口は通信設備に向けられていた。赤い発砲光が銃口から解き放たれて、通信設備の機械に直撃。エリアAの情報網に穴が開けられた。
§
ストレイはエリアA東部を哨戒中、携帯端末から『ジジッ……』というノイズ音を聞いて、通信妨害を受けたことを悟る。
『!?』
放クラは何をしていたのか。
すぐさま芹沢あさひが階段に向かって走り出す。
「早く、冬優子ちゃん! 愛依ちゃん!」
「ちょ、あさひ……!?」
「なになに!? もう放クラのみんなやられちゃった感じ!?」
それを慌てて追いかける黛冬優子と和泉愛依。
芹沢あさひは鉄扉を開けて階段を駆け下りる。その先はエリアBである。
「違うっす。たぶん先手を打たれたっすよ!」
階段の踊り場には赤いランプが光っており、薄闇の階段を明るく照らす。
そのため気付かなかった。普通の嗅覚を持つ者なら、踊り場を横切った時点で死んでいただろう。
「────? ──っ!? 来ちゃダメっす、ふたりともっ!!」
『っ!?』
赤いランプにまぎれて、踊り場の床に
一方の黛冬優子と和泉愛依は、階段の手前で立ち止まる。
起爆したグレネードは赤い光をばらまいて、芹沢あさひの片手と背中、黛冬優子と和泉愛依の上半身と下半身に着弾した。それぞれの残りライフは4点ずつとなる。
「うわっ、なに……!?」
「まぶし~っ!?」
「ふたりとも、ごめんなさいっす! ハナワカのトラップを踏んじゃった!」
普通なら即死だが、芹沢あさひの機転で即死は免れた三人。
しかし黛冬優子は、苛立ちを募らせる。
「っ……。……つまり、あんたが先走るから、ふゆたち、余計なダメージを受けたってことよね……?」
「そうっすね。だからごめんなさいっす」
「ごめん、じゃなくて……いいから、ちょっと落ち着きなさい。この先、慌てるの禁止」
「慌ててないっすよ。急いでるだけっす」
「っ~~……! じゃあ急ぐのも禁止!」
「でもハナワカがー!」
「まずは状況確認でしょ! どうやったかは知らないけど、天道唯我はエリアAの通信設備を落とした。そして今ごろ放クラは通信室に到着しているはず。鉢合わせして銃撃戦のはず。なのにあんたはエリアBに行こうとした。それはなんで?」
「……たぶん、今のトラップみたいに、ハナワカは遠隔で通信設備を破壊したっす。そんなことをするってことは、放クラ以外に
「今の当て推量の根拠は?」
「ないっす。ただの勘っす」
(話にならない……でもこいつの嗅覚はバカにならないし……)「とにかく情報共有が肝心よ。放クラとチームピーちゃんもエリアBに下りる可能性が高い。愛依、行くわよ」
黛冬優子と和泉愛依は階段を降りる。芹沢あさひと合流。エリアBに入るなり、携帯端末のノイズが消えた。
§
チームピーちゃんはエリアBを哨戒中、ストレイから通信が入る。
『もしもし、甜花ちゃん? ごめん、エリアAの通信設備が破壊されちゃったみたい……』
「──えっ……!? も、もう……!? えと、えと……あ……放クラの、みんなは……?」
『それが分からないの。ごめんなさい……とりあえず今ふゆたちは、エリアB東部の階段付近にいるけど……』
「じ、じゃあ……たぶん、アルファさんは……放クラと戦闘中……? なら援護に────」
そこで芹沢あさひが通信に割り込む。
『ハナワカは5対1なんてリスクを冒さないっすよ甜花ちゃん! 階段にレッドスパイダーとグレネードが仕掛けられていたし、もうエリアCにいるのかも!』
「そ、そっか……! ──レッドスパイダーとグレネード……じゃあ、浅倉さん、樋口さん……! アルファさんとの戦闘は避けて! すぐにストレイが、合流しに行くから……!」
『ラジャー。オーバー』
『了解。オーバー』
「じゃあ、ストレイはノク半と合流! それからアルファさんを叩いて! 甜花たちは────もっと下に……エリアDに行く! で、もし……そこの人質が回収されていたら……そういうこと……だから……!」
次の瞬間、携帯端末から『ジジッ……』とノイズが走り、相互通信が途絶した。
『っ!?』
大崎甜花の思考が回る。
エリアAの通信設備破壊から、エリアBの通信設備破壊までの時間が短すぎる。エリアの広さを考えるに、いくら最短距離で突っ走っても、まず間に合わない。
「まずい……本当に情報戦を仕掛けられちゃった……──たぶんアルファさんは、銃座付きの銃とレッドスパイダーを組み合わせて、エリアAの通信設備とエリアBの通信設備を“同時に”破壊したかったはず……でも、少し遅れた……それはなんで……?」
大崎甜花は時系列を考察する。
エリアAの通信室は北部にある。大崎甜花達の任務開始地点はエリアAの中部。放クラはそこから北へ、ストレイは東へ、チームピーちゃんは西へ、それぞれ向かった。
アルファの任務開始地点は不明だが、もしも運良く
その頃のアルファは、エリアBを巡回していたチームピーちゃんを躱しながら、通信室を捜索中だったはず。つまり戦闘回避のために、同時破壊は渋られた。もし破壊すれば、すぐさまチームピーちゃんはエリアBの通信室に駆け込んで、その近辺でアルファと遭遇。4対1の銃撃戦となっていただろうことは想像に難くない。
それを避けるべくアルファは、きちんとチームピーちゃんの位置を知りたがったはず。そのため一度は中距離まで接敵していた可能性が高い。それでも携帯端末のレーダーに反応がなかったことから、おそらくアルファは
ならばアルファは、今もエリアBにいるのか。否、チームピーちゃんの位置を割り出した上で通信設備を破壊したのであれば、すでにエリアCへ降りている可能性が高い。つまりノク半が危ない!
「でも、アルファさんの武装は、四つか五つに割れた……たぶんスナイパーライフルと、グレネード、レッドスパイダー、バッグワーム……! そして、スナイパーライフルの遠隔操作射撃を可能とするサプライザー! でも、そのために、スナイパーライフルはエリアAに置くしかなかっただろうから……まだ、何を武器にして戦ってくるのかは、不明……だから、これよりチームピーちゃんは、ノク半の援護に、向かいましゅ……ますっ!」
『了解……!』
大崎甜花は走りながら思う。
ストレイは東の階段から降りてきたはず。そしてレッドスパイダーが反応したということは、その反応もアルファの携帯端末に届いているはず。そのため踊り場に仕掛けたことも窺える。
なぜならエリアAの範囲にレッドスパイダーを置くと、エリアAの通信設備破壊後、エリアAに設置したレッドスパイダーが何度反応しても、その反応情報は端末に通知されない。よってアルファは、踊り場でギリギリ、エリアBとなる範囲で、レッドスパイダーを仕掛けたはず。つまりアルファは、だれかがグレネードトラップに引っかかったことも把握済み。
チームピーちゃんの現在位置は、エリアB西部の階段付近。すぐそこの通信室を南に曲がった通路にいる。おそらくアルファは逆方向に走って、北部か南部の階段を目指している可能性が高い。
ストレイは東部階段からエリアCに降りるだろうか? もし北部か南部に回ってから降りてくれると、二分の一の確率でアルファと遭遇する。それはチームピーちゃんも同じだ。今、大崎甜花は南部階段が近いため、そちらに向かって走っている。
「と、到着……! あ、開けて……! でも、気をつけて……!」
南部階段に到着。大崎甜花は息を上げる。
櫻木真乃は周囲を警戒。郁田はるきが鉄扉を開き、幽谷霧子が中に拳銃を向ける。すると誰かが階段を駆け下りる足音が響いた。
『──っ!!』
§
エリアCの南部。四人組のノクチルのうち、
「────浅倉」
「わかってる────」
敵の気配。エリアBとの通信が途絶して一分以上。まさかアルファは、エリアBの西の通信室から南の階段まで全力疾走してきたということか。一応この
それはそれとして、負けるつもりは毛頭ない。
「私が先行する。浅倉は援護して」
「おー。やるかー。
なるべく足音を立てないように南へ向かって通路を走る。T字路の手前。壁を背にした樋口円香は、南部階段付近を要警戒。一瞬顔を出して目視確認。誰も居ない。右手の通路の先にも人影無し。
「居ない……どうする? 先回りされる前に、最短で通信室に向かう?」
「あー……じゃあ、そうしよう」
ノク半は来た道を戻って、途中の十字路手前で左右確認。西に走る。
通路に響く足音が、やや間延びして聴こえてくる。
「それにAとBが破壊されたなら、放クラも一気に
「あー。たしかに」
「放クラは北階段、ストレイは東階段、チームピーちゃんは南階段。あとは私たちが西階段を抑えれば袋の鼠」
「──えっ。あ、そっか……なら、いいじゃん。それ」
「でも通信室は?」
「あぁ~……」
「袋の鼠を取るか、情報網を防衛するか。私は目先の欲に釣られず、情報戦を制する」
「ホワイ?」
「この世で最強の武器は情報。そういう言葉があるくらいだから、みすみす情報を奪われるわけにはいかない」
「なるほどー。なら急ぐかー。──ところで、樋口」
「わかってる。3、2で振り返る」
「じゃあ、1────」
樋口円香と浅倉透は同時に振り返る。そこには腰に日本刀を提げるアルファが付いて来ていた。樋口円香の足音と重なるようにして追尾していたのだ。つまり、妙に間延びしていた足音の正体は、追尾者の足音だった。
相対距離30m。
とっさにアルファは抜刀、
攻撃範囲が拡張する斬撃に対して、樋口円香は屈んで躱す。頭上を掠める赤外線は、浅倉透の右腕を通過。浅倉透のライフが1点減る。ただし浅倉透は躱せなかったわけではない。ダメージ覚悟で拳銃を構えて照準合わせ、しっかりとアルファの頭部を狙い据えて引き金を引いた。それに合わせて樋口円香も、低姿勢の状態から敵胴体めがけて拳銃を連射する。
追いかけるべきか。否、すぐさまノク半も後退して、十字路の左右に分かれて壁を背にする。一本道の通路を挟んでの睨み合い。あるいは、既にアルファは通路を回り込んでいるかもしれない。
「浅倉。今の通路は私が見張る。そっちは私の後ろをお願い。私も一応、そっちの後ろを見張るから」
「ラジャー」
「それと通信。よろしく」
「あ~……多いね、やること」
「それが戦闘ってことでしょ」
「じゃあ、すごいや。軍人とか、スパイとか……」
「いいから。早く報連相して」
「ラジャー」
※MAP‐エリアC
北○南
東
┘ └────┘ └────┘
←浅
樋→
┐ ┌────┐ ┌────┐
│ │ │ │ │
│ │ │ │ │
│ │ │ │ │
┘ └────┘ └────┘
ア←
┐ ┌────┐ ┌────┐
※記号注釈
罫線=壁 矢印=顔の向き
浅倉透は、片手に拳銃を構えたまま、もう片手で通信端末を開く。
やがて放クラと繋がった。
『透さん! 状況は!?』
「
『こちらは狙撃銃とレッドスパイダーを確認しました! ──それと……通信設備、守れなくてごめんなさいっ!!』
「構わん構わん。しゃーないしゃーない~」
『それで、こっちはどうしたら……?』
「あー。守りに入って、通信室」
『了解ですっ!』
「あ、でも……欲張って、階段も固めたい」
『……? どうしてですか?』
「────袋の鼠だから。────あ」
不意に浅倉透が、あっと驚いたように呟く。その視線の先は、樋口円香のはるか後方。
すぐさま樋口円香は振り返るも、何も見えない。
「……なに?」
「今、通った。アルファ」
「────放クラのみなさん、可能なら今すぐ二手に分かれて、通信室と北階段の防衛を。おそらく挟み撃ちにできます」
『ほ、ほんとですか、円香さん!? わかりましたっ! えっと、それじゃあ────凛世さん、樹里ちゃん! 北階段は任せます!! あたしとちょこ先輩と夏葉さんで、通信室に行きましょう!』
「ただし、あまり深入りしないように。できればこっちの合流も待って」
『了解ですっ!』
そして、ストレイとチームピーちゃんの通信も入ってくる。
『今どういう状況っすか!?』
『て、甜花も、知りたい……!』
樋口円香が簡潔に伝える。
「──ノク半、敵を追尾中。各自、降りてきた階段を防衛されたし。なおノク半と放クラの分隊は現在、通信室に急行して防備を固める所存」
『……!! ありがとう、樋口さん……! えと、じゃあ、確認だけど……全チームの現在位置を共有して……! チームピーちゃんは、現在、南階段!』
『こちら樹里と凛世の分隊。北階段を防衛中!』
『ストレイ! 東階段っす!』
大崎甜花は少し考えたあと指示を出す。
『西階段が空いてる……けど、そのままでいい! 基本ツーマンセルで動いて……! でも、芹沢さんは単独行動して良し……!』
『──!! ほんとっすか甜花ちゃん!? ありがとうっすー! それじゃあ冬優子ちゃん、愛依ちゃん! 階段の守りはよろしくっすー!』
『それで、西城さんと社野さんは、
§
エリアAの通信室。
エリアCの西階段から駆け戻ってきたアルファは、狙撃銃と赤外鋼線を回収。ゆっくりとエリアAを見て回り、一室一室を確認。人質を解放する。そして彼らに、
①巡回警備兵は、視界に入った敵プレイヤーを攻撃する。
②視界から敵プレイヤーが消えると、数秒後、元の巡回ルートに戻る。
③巡回ルートは固定されている。
……などといった特性を有する。要するに(大崎甜花によれば)ゲノム兵である。
やがてエリアAの人質を全て回収した頃────耳を研ぎ澄ましていたアルファは、遠方から足音を察知する。
音は二つ。気配も二つ。足音の響き具合も近い。
速やかにトラップを設置しつつ、なぜ自分がエリアAに居るとバレたのか、考察する。
(──……戦闘員の機動力を合わせてきたか。
数的不利のため直接戦闘は避けたい。
さらに大崎甜花が差し向けた敵小隊は、機動力の点で精鋭ぞろいのはず。
(戦闘的な機動力順の予想は────芹沢あさひ>杜野凛世(+)・樋口円香(+)>アルファ(++)>西城樹里(+)・有栖川夏葉(+)>>園田智代子(+)>>櫻木真乃・幽谷霧子>>郁田はるき>黛冬優子(+)>>浅倉透・和泉愛依>小宮果穂>>>大崎甜花(++)────って感じか。また、“戦術的な機動力有り”の証として
こうなれば、芹沢あさひ・杜野凛世・樋口円香を組ませた方が、単純な機動力においては最高速度を出せる。ただしチームまりあとして連携した経験がある二人ならまだしも、ここにいきなり樋口円香を投入すると即席連携に難が生じやすい。
そのため樋口円香の代わり、
故に、おそらく大崎甜花なら、芹沢あさひと西城樹里を組ませるだろう。
もちろん、同じユニットのため連携力が最高となる、杜野凛世・西城樹里・有栖川夏葉のうち二人を選抜して組ませている可能性も高い。
しかして杜野凛世は、その立ち居振る舞いから見抜いていたが、まず間違いなく気配遮断技術を有している。
(足音や気配は二つ。電子レーダーの反応も二つ。だが一応、伏兵を想定した動きをしておくか……)
※MAP‐エリアA
北
西○東
南
──────────────────────
┬□┬───□┬□┬───□┬□┬───□┬
│ │ 通信室 │ │ 北階段 │ │ │
│ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘
ア
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐
│ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐
│ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘
○ ○
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐
※記号注釈
○=アルファが予想する敵の位置
□=ダクトの出入り口
━=鉄扉
ふとアルファは気づく。
死角のため見えない上、顔を出す気もないが……約60~80m先の通路で、二つの足音が止まった。
§
芹沢あさひは携帯端末を開いて、小声で通話する。
「止まって!」
『!!』
「前方に赤外線を発見したっす。たぶんレッドスパイダー。甜花ちゃんの読み通り、樹里ちゃんが言ってた狙撃銃とレッドスパイダーを回収しに来たっすよ。それに最初と比べて人の気配が全然ない。たぶん人質は全部回収されちゃったっす」
『……まぁ、それに越したことはないというか……や、こっちは奪われちゃダメな悪役側なんだけどさ……! で────あさひは、どうしたい?』
「樹里ちゃんが引きつけて、わたしが刺す。でもわたしも囮っす。もしわたしが刺せなかったら、凛世ちゃんに裏を取ってほしいっす」
『二段構えってやつか……了解。それでいこう』
二つ先の十字路の左右に敵がいるはず。芹沢あさひ達は足並みを揃えて突撃。
次の瞬間、二つ先の十字路を横切っていた赤外線が消失。鉄扉を開く音が聞こえる。
「──!! 逃がすかっ!」
芹沢あさひは十字路に飛び出す。北階段を挟んだ視界左端にアルファの姿を発見。即、拳銃を向けて射撃。
対するアルファも、開いた鉄扉を遮蔽物として扱い、右顔半分と右腕だけ露出しながら射撃を返す。
続けて西城樹里も、通信室手前の通路から顔を出して射撃する。芹沢あさひが突出してしまったため、すかさず引き付ける役割を交代。今は芹沢あさひが引きつけているため、西城樹里が刺す役目を請け負う。敵は鉄扉を盾にしているが、芹沢あさひの射線と比べれば、相対距離の近い西城樹里の方が射線は通りやすい。
対するアルファは、西城樹里の射線を切るため鉄扉を若干閉めて射線を封じる。するとアルファの後方十字路から、幽玄なる殺気があらわとなった。
「
対するアルファは、まさか杜野凛世の神出鬼没ぶりを予想していたのか。杜野凛世の攻撃直前に放たれた殺気に合わせて横っ飛び。敵の
「ダクトに入られる!」
芹沢あさひの叫び。携帯端末から『ジジッ』とノイズ音。自重によって自動的に閉じていく鉄扉を、西城樹里が駆け込んでこじ開ける。そして通信室の内部に拳銃を突っ込んだ。目に付いた“動くもの”に向かって反射的に射撃する。
部屋の右端に設けられたダクトの出入り口には、扇風機に付ける
「安置に逃げられた! しかも回復した通信設備が、また破壊されちまった……」
芹沢あさひは通信室と北階段を挟む通路を見つめて、ダクトのヒラヒラの隙間を狙って射撃する。
「……! あさひ!?」
「わたしたちはダクトの中に入っちゃいけないっす。けど、ダクトの中を攻撃しちゃダメとは言われてないっす」
「……!! た、たしかに……それで、アルファは!? 倒せたのか……?」
「右に逃げたっす。あとダクトのひらひらが邪魔で、赤外線の攻撃が全然通らなかったっす!」
カタナを鞘に戻した杜野凛世が合流する。
「おそらくアルファさんは、ダクトを伝って、下に逃げる、おつもりでしょう……」
「凛世……そうだな。アタシたちが追跡すれば、アルファがダクトから出たところを、いつでも狙い打ちにできる。だからアルファは、エリアAのダクトから出てくることはないはずだ。アタシが逆の立場でも、そうすると思う。……で、たしかビルの四隅のダクトの中には、エリア間を移動できるハシゴがあるんだよな? そのことを仲間に伝えたいけど……」
「じゃあすぐ伝えてほしいっす! 階段の踊り場まで降りれば、通信障害の影響は受けないっすよ! わたしはハナワカを追跡するっす!」
芹沢あさひは北階段に駆け込む。
相変わらず次の行動までの動きが早い。無論、そうでなければアルファから先手を取れない。
西城樹里と杜野凛世は、互いの顔を見合わせる。
「……凛世、どう思う?」
「…………────各エリア間の通信室に、一名、プレイヤーを配置できれば……」
「でも甜花はそう命じなかった」
「おそらくは、各個撃破を、恐れてのことでしょう……」
「それにこっちは、アルファを倒せれば勝ちなんだし……」
「通信室を守る必要性は薄い……ですが……」
「だな。なんかアルファに、いいように動かされているみたいで、ちょっと悔しい。……でも今回の
「はい……」
§
エリアBの最北東部。そこに駆け込んだ芹沢あさひは耳を澄ませる。
ダクトの中から物音。アルファが這っている音だ。
(────ダクトの中に入ると、五分ごとに防衛設備が起動して、ダクトの中にいる敵プレイヤーを攻撃する。ダメージはライフ1点分。そんなもので、6点しかないライフに余計なダメージは食らえない。ハナワカのことだから、きっと五分以内にダクトから出てくるはず……)
ダクトの中を這いずるアルファは、東に向かって突き進む。なんとも迅速な
芹沢あさひは早歩きで通路を渡り、耳を澄ませてダクトの中を盗み聞く。
やがて東階段が近づいてきた。そろそろ五分が経つ。
「──……っ! そうか!」
芹沢あさひは勘付いた。アルファの行動を潰すため先回りする。
東階段の鉄扉を開けて踊り場を見る。ダクトの手前には、先ほど芹沢あさひが引っかかったレッドスパイダーとグレネードが設置されていた。アルファはこれを回収しに来たのだ。
(誰かの武器が落ちている場合、これを取り上げたり奪ったりすることは、ルールで禁止されていない……!)
※MAP‐エリアB東端・東階段内部
北
西○東
南
└─────────┤ア│
外通路 □ │
┌─────────┤∥│
│ ¦¦¦¦ │∥│
┃芹 ¦¦¦¦ 踊 │∥│
│ ┌─────・り/□ │
│猫│ ¦¦¦¦ 場 │∥│
│道│ ¦¦¦¦ │∥│
└─┘───────┤∥│
外通路 □ │
┌─────────┤ │
※記号注釈
□=ダクト出入り口
┃=鉄扉
¦=階段の段差
∥=滑り台
・=グレネード
/=レッドスパイダー
猫道=キャットウォーク
芹沢あさひが階段を駆け下りると同時。
通路側からダクトの坂道を滑り落ちてきたアルファが、ダクトのひらひらから拳銃と左手を突き出す。
「っ!?」
ひらひらの隙間から垣間見えるアルファの眼光。その視線と拳銃の矛先は、グレネードに向いていた。
とっさに芹沢あさひは振り返り、来た道を大急ぎで駆け上がる。
アルファの射撃音。銃口から放たれる赤外線がグレネードに命中して起爆する。
駆け戻る芹沢あさひは階段を駆け上がって──鉄扉を開けている暇はない──横手にある
起爆したグレネードから、三十本以上の赤いレーザーが全方位に振り撒かれる。
すんでのところでうつ伏せとなった芹沢あさひの頭上を、グレネードの当たり判定となる赤外線が何度も蹂躙するように通過した。
(っ──……まった。ハナワカは左手も伸ばしていた。それはなんで? レッドスパイダーを回収するためか! じゃあ────)
レーザーの蹂躙が収束する。
アルファはダクトの中の壁を思いっきり蹴って、踊り場に滑り出た。そのまま滑りながらグレネードを拾って回収。
対する芹沢あさひは柵越しに拳銃を突き出して、滑り落ちるように階段を降りるアルファを狙う。
それはアルファも同様だった。グレネードを手に取った瞬間、手すりの下の柵に肘を引っ掛けて旋回。地面に背中だけ設置することで摩擦を少なくしており、なめらかに滑走、階段の一段目を尻から落ちて両足を二段目と三段目に置きながら跳躍。拳銃を頭上の柵に向けて、起き上がりざまの芹沢あさひを狙っていた。
交差する射撃。
芹沢あさひは
アルファは一息で芹沢あさひの床下に跳んだことで射線を切り、体重の乗った重い着地をかます。
芹沢あさひは手すりに手を添えながら、片腕を突き出して床下に連射。
アルファはエリアCに続く階段を駆け下りながら、頭上に向かって拳銃を連射。
交差する連射。
アルファと芹沢あさひは階段を駆け下りながら射撃戦を続ける。
「壁の色は黒だ」
「────っ?」
突然アルファが変なことを言ってきた。たしかに壁の色は黒い。ただし、ところどころ無地の白い看板は設けられている。それがどうしたというのか。
アルファの射撃。それは芹沢あさひを狙ったものではない。しかしそれは突として、
「っ……!?」
赤外線は、白いものに反射して、黒いものに吸収される。
この建物の壁は、基本的に黒に近い鉛色の塗装。だが部分的に白い看板が設置されている。それはゲームに深みを増すための、赤外線反射用のマップアイテムだったのか。
なぜ赤外線が
────『↑5F』『↓6F』────
すかさず携帯端末を手に取る。
「みんな! ハナワカは東階段の六階から下に逃走中! わたしは五階と六階の踊り場で足止めを食らったっす! あとハナワカが変な弾を使ってきた! 拳銃の赤外線が跳弾したんすよ! これなんなんすかね? ──面白いっすー!」
§
エリアC。
指揮官の大崎甜花は考える。
エリアAの人質は解放された。それは巡回警備兵の復活を意味する。敵が増えたということだ。
現在の自戦力はエリアAからCに集中させている。このままD以下の階層の人質を解放されてしまえば、そのぶん巡回警備兵が復活して、敵の作戦行動を利する形になってしまう。
(でも……それでも、構わない……今回の
既に巡回警備兵が解き放たれたエリアAは捨てる。先ほどエリアBの偵察を任せた西城樹里と杜野凛世の報告によれば、なんとエリアBの人質は、あと一名とのこと。これはアルファが仕掛けた“メタトラップ”と見る。
というのも巡回警備兵は──ゲームのルール的に──人質を全回収すると解放されるのだ。
つまりアルファは、エリアBに巡回警備兵が居ないと見せかけておき、ここぞという時に最後の人質を回収することで、いきなり巡回警備兵をエリアBのマップ上に解き放つ魂胆なのだろう。
そのためエリアBも、既にアルファに有利な地形になっていると言える。そこで戦うのは得策ではない。よってエリアBも捨てる。
「作戦を告げる……! エリアAとBは、捨てる……! 全部隊は、エリアCを最終防衛地点に設定! 甜花が指示する通りに、トラップを設置してほしい……! そして、エリアDからGも、捨てる……!! 敵は、ここで迎え撃つ……!!」
§
十分後。エリアD。
アルファは電子レーダーを頼りに、効率的に最短距離を突っ走って、
(完全に下を捨てたか……いい見切りの付け方だ。やっぱ一旦、危険を冒してでも接近して、チームピーちゃんの装備を確認して正解だったな……)
アルファは、チームピーちゃんの武装を思い出す。
櫻木真乃〔
幽谷霧子〔
大崎甜花〔
郁田はるき〔
見間違いでなければ、大崎甜花以外の隊員は、かなりの重装備である。
(櫻木さんは登山が趣味……幽谷さんも看護関係で体力有り……郁田さんだけ一段階、身体能力が劣るため、全体の機動力を合わせるべく、重い狙撃銃の代わりに
アルファは未だ、放クラと黛冬優子・和泉愛依の武装を確認できていない。
その上で、エリアCに用意されているはずの罠や戦術を推察する。
(…………────、……──よしっ)
それも済めば、速やかに北階段を駆け上がった。
※MAP‐
北
西○東
南
──────────────────────
┬□┬───□┬□┬───□┬□┬───□┬
│ │ │ │ 北階段 │ │ │
│ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘
¦ 突凸
¦
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐
│ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘
○ ¦ ¦ ○
○ ¦ ¦ ○
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐
│ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ 執務室 │ │ │
│ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐
│ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘
○
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐
※記号注釈
○=アルファが予想する敵の位置
□=ダクトの出入り口
━=鉄扉
¦¦=赤外線柵
突凸=銃架付き突撃銃 ※“突”と書いてある方角に銃口が向く。
アルファは、エリアC北階段の鉄扉を開ける。西側の十字路に
また、鉄扉の
パラパラと明滅して撃ち注がれる赤いレーザー光線。
対するアルファは西側の十字路から南側の通路に駆け込んで躱す。突撃銃の罠によって誘い込まれた形。それは後手に回っていることを意味する。速やかに先手を取り返すべく、足腰に力を溜める。
アルファは、眼前の十字路の左右にも赤外線柵を目視。曲がり角の壁を蹴り抜いて跳躍宙返り。予想通り、通路両側の先に四人の人影を目視。四丁の拳銃が乱れ打ちされる。その全ては躱すまでもない。
というのも敵は動揺していた。アルファが地面に足をついて横切るのではなく、まさか地面から2メートル上を宙返りしながら高速で抜き去るなんて、誰が予想できようか。そうして拳銃を上に向けている間に、アルファは実質一本道の十字路を脱して着地した。
アルファは五点着地で受身を取りながら起立。疾走速度を落とさず全力疾走。眼前の十字路の左右に赤外線柵は無い。だが、その先の十字路から赤毛の少女が現れた。ならば先ほど抜き去った四人は────
「とおりゃー!」
小宮果穂の射撃。しっかりと両手で持って構えた銃口は、ピタリとアルファの胴体を狙う。
対するアルファは壁走り。右の壁を踏み抜いて1メートルほど斜め上に登り、銃撃を躱しつつ壁を蹴って跳躍。執務室南側の通路に転がり込む。南側の壁に左肩を激突して摩擦熱を感じつつ、身を旋回して、今度は三角飛びの要領で着地ざまに跳躍疾走。足腰の筋肉が悲鳴を上げる。腰から手榴弾を抜き取って、天井スレスレを通るように前方投擲。
前方の十字路・
「うおっ!! 早っ!?」
────やはり放クラ。西城樹里の拳銃が赤くまたたく。
真っ向からの撃ち合い。
アルファは背中の狙撃銃を取り出すなり盾として構え、頭部と左胸を守り、
対する西城樹里はそれを見て、すかさず脚部狙いに切り替えた。
秒間三発の撃ち合い。
一秒目。
アルファの左脚に一発命中。残りライフ5点。
西城樹里の胴体に三発命中。残りライフ3点。
「樹里さんっ!! 後ろを────!」
「────っ!?」
西城樹里の
それと同時にアルファは、自ら投げたグレネードに巻き込まれる間一髪のところで、狙撃銃を背中に収納しながら十字路を右折。西城樹里と杜野凛世から背中を打たれる位置にはなるが、南側の通路に駆け込んでグレネードの死角に入る。
「グレネード……?! いつの間に投げて────」
驚く西城樹里。
杜野凛世の視界では、西城樹里の頭上を通り過ぎる手榴弾が見えていたのだ。
刹那、アルファは拳銃を左手に持ち替えて振り返り、左腰の
対する杜野凛世も
同時に西城樹里も、寝そべりながら慌てて拳銃を構えんとした。
秒間三合の斬り合い。
一合目。
アルファの頭上を通過する
西城樹里と杜野凛世の胴体を
杜野凛世の胴体に命中する拳銃射撃の赤外線。残りライフ4点。
二合目。
屈むアルファの頭上と左肩先を通過する
西城樹里と杜野凛世の胴体を
杜野凛世の胴体に命中する拳銃射撃の赤外線。残りライフ2点。
三合目。
屈むアルファの頭上を通過する
西城樹里と杜野凛世の胴体を
杜野凛世の胴体に命中する拳銃射撃の赤外線。残りライフ0点。
西城樹里と杜野凛世の携帯端末から、
四合目。
屈むアルファの胴体を突かんとした
西城樹里の拳銃射撃の赤外線。アルファの胴体に命中する。だが西城樹里は既に死体のため、敵のライフにダメージは与えられない。
アルファは
西城樹里と杜野凛世の携帯端末から、
『──……ッッ!!』
もしも杜野凛世が、西城樹里諸共斬るつもりで攻撃していれば、アルファは四合すべてを受けてしまい、残りライフは1点になっていたことだろう。
(放クラは仲間を見捨てない。その習性を利用させてもらった)
戦闘不能通知を聞き届けたアルファは射撃をやめて、執務室南東の十字路を
敵を視界に捉えたふたりは拳銃を連射。その数発はアルファが背負う狙撃銃に命中した。体に命中したわけではないため、ライフにダメージは入らない。
アルファは走りながら屈んで、床に転がるグレネードを拾う。眼前の十字路を
「!」
すかさず小宮果穂は銃口を向けるが間に合わない。
アルファはノンストップで、エリアCの南側に突っ走っていった。
§
エリアC東部。
そこはストレイが受け持つ防衛区画。ふと三人の携帯端末から通信が入る。
『────こちら夏葉! 樹里と凛世が、やられたわ……っ!』
『……っ!?』
『敵は南東部を行軍中よ! おそらく今はストレイが近い!』
ストレイは目を見張る。
「ちょ……これヤバくない!? だって相手、ひとりっしょ……!?」
「…………」
「わたしが出る。ふたりは援護をお願いするっす」
「え、援護……って……」
「ダメ。逆よ」
「……逆? どういうことっすか、冬優子ちゃん」
和泉愛依は息を呑む。戦術的なことはさっぱり分からない。だが黛冬優子なら、きっと頭のいい作戦を考えてくれるはずだ。そう信じて、次の言葉を待ち望む。
「私も愛依も、戦闘の援護の仕方なんて知らない。だから、できない。……でも、あんたなら
「…………」
「だから私と愛依が、死ぬ覚悟で突っ込む。愛依、悪いけど付き合ってくれる? 玉砕覚悟で」
「────もち。っていうか、そうは言っても。ただでやられるわけじゃないっしょ? うちだって勝つ気だよ」
「当然。私たちは、誰にも負けないのよ。あさひ、いいわね?」
「……わかったっす。でも、ほんとにやられちゃダメっすよ?」
「そりゃね~!」
「たしかに、死地に飛び込む
黛冬優子と和泉愛依は拳銃を手にして駆け出す。
「愛依、散らばって! 私はこっちの十字路を見る!」
「なら、うちはこっちだね!」
芹沢あさひは別の道に駆け出して、北西部から来るであろうアルファを挟撃するべく、回り込む形を取る。
※MAP‐
北
西○東
南
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘ └
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘ └
黛 和泉
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘ └
芹沢
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘ └
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
※記号注釈
━=鉄扉
その時、黛冬優子の遥か
「冬優子ちゃん! いま後ろ通った……!」
「……っ!?」
「もう通りすぎちゃった……!」
南側の通路から射撃音。芹沢あさひの拳銃が火を噴いたのだ。しかしそれも一発だけ。
「ハナワカは南側に突っ切ってるっす! ノク半が危ない! すぐ援護に向かうっすよ! 走るっす、ふたりとも!」
「あーもう! 敵の位置が分かんないんじゃね……! こうなるのよ……!」
「アハハ~! でも、これってさ……挟み撃ちにできるってことっしょ!?」
ストレイは西側へ流れていき、二つの十字路を通過する。
次の瞬間、芹沢あさひの背後から“ダダダッ”と、全力疾走の足音が響き渡った。
「っ!? 愛依ちゃん!」
「────えっ……!?」
忽然と足音が消える。一秒間は消えていただろうか。
次の瞬間“ドンッ”という強烈な着地音が、和泉愛依の背後から響いた。和泉愛依は振り返ると、そこには拳銃から赤い光をまたたかせるアルファの姿があった。十字路の北側通路に半身を隠して、左手で射撃している。次いで不思議と違和感を抱いた。なにかがおかしい。
和泉愛依の携帯端末から
「へっ……!? うそっしょ……!?」
黛冬優子は目を見張る。一秒前に芹沢あさひが叫んだため、驚いて振り返った。故に目撃できた。
なんとアルファは、和泉愛依の背後を“飛んでいた”のだ。芹沢あさひが聞いた足音も、通路に反響して一拍遅れて聴こえていた。しかしそれが忽然と消えた。……着地と、一秒程度の足音の消失。これが意味するところは、つまり。
おそらくアルファは、芹沢あさひの叫びに合わせて、通路の中央で跳躍した。そして長い滞空を続けながら十字路を横切る最中、和泉愛依の背後を取って右手拳銃の三連射撃。ふしぎと射撃音は聴こえなかった。次いで“ドンッ”という着地音。和泉愛依が振り返ると同時、アルファは通路から半身だけ晒して、持ち替えた左手拳銃の三連射撃。一瞬で和泉愛依のライフを0点以下まで持っていった。
黛冬優子は片手に拳銃を構えつつ、もう片手に携帯端末を持って、入手した最重要情報を叫ぶ。
「────
『……っ!!?』
違和感の正体は、
まさか音が無いだけで、ここまで脅威になるとは。──黛冬優子は、あだ討ちするべく突貫する。
(愛依の仇……!)「愛依あんた死んでんだからしゃがみなさい!」
「っ────! ごめっ────」
和泉愛依は謝る前に行動に移す。全身を脱力させて、倒れるように床に寝転んだ和泉愛依の頭上に、黛冬優子の拳銃射撃が乱れ打ちされる。
対するアルファは、そのまま北へ逃げるかと思いきや────なんと、遮蔽となる壁際から飛び出して、和泉愛依の横を駆け抜け、黛冬優子との真っ向勝負に挑んだ。拳銃の銃口から、
(なめんじゃ────ないわよっ!)
走っていては照準がブレる。それは向こうも同じはず。黛冬優子は相討ち覚悟で片膝を就く。もはや回避は考えない。両手両腕を突き出して拳銃を固定。右眼をすがめて胴体狙い。速射する。
対するアルファは狙撃銃を取り出しつつ右半身を前に出す。左手指でつまんだ銃口をぶら下げる形で盾にしつつ、細い体を狙撃銃で覆い隠す。そして右手拳銃の銃口から、
(っ────!)
狙撃銃で上半身を隠してきた。しかしそうなると、今度はアルファの右足がガラ空きだ。狙撃銃は膝あたりまでしか被さっていない。黛冬優子は両手両腕を下げて右足を狙う。
対するアルファは狙撃銃を捨てて跳躍した。右手拳銃の銃口から、
(────っ!!)
跳躍中のアルファは、放物線を描いて真正面まで接近してきた。相変わらず右手拳銃の銃口は、
対するアルファは、狙撃銃を手放したことで
黛冬優子の拳銃射撃が、初めてアルファの胴体を捉えた瞬間。
彼女の携帯端末から、
「────────……」
命中すれば拳銃から通知音が鳴るはず。それがないということは、黛冬優子の銃撃は一発も当たらなかったことになる。否、最後の一発は当たっていた。だが当たっていた時には黛冬優子のライフは尽きていたためダメージにならなかったのだ。内心歯噛み。
アルファは着地。眼前の十字路の
すかさずアルファはきびすを返して全力遁走。芹沢あさひを追撃することはしない。才能の塊である怪物と正面切って戦うのは愚の骨頂。
そしてアルファは、うなだれる黛冬優子の横を駆け抜けながら、自ら落とした狙撃銃を拾い上げ、仰向ける和泉愛依の横を駆け抜けながら、彼女が落とした拳銃を拾い上げ、十字路から南側の通路に曲がって突っ走った。
§
『ッ────報告っす! 愛依ちゃんと冬優子ちゃんがやられた! わたしが……わたしが、仇を取る!!』
「ほわっ……そんな……ふゆちゃんと、愛依ちゃんまで……」
「……なら……私たちも、取ろう……かたき……」
「うん……みんな、位置に着いて……!」
「がるる……」
※MAP‐
北
西○東
南
ア
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘ └
∥~ ¦∥~~~●~~~~∥¦ ~∥
¦ ¦
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ A室 │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘ └
櫻
幽
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │ │ │ │ │
│ │ 資料室 │ │ B室 │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
┘ └── ─┘ └──━─┘ └──━─┘ └
段 郁┃ ¦
¦
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │∥~● │ │ │ │
│ │ │ │ C室 │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘段└──━─┘ └
狙 ¦ 突 甜 狙
凸 ¦ 凸 凸
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │∥~● │ │ │ │
│ │ │ │ 南階段 │ │ │ │
┴□┴□───┴□┴□───┴□┴□───┴□┴
────────────────────────
※記号注釈
□=ダクトの出入り口
━=鉄扉
●=手榴弾
段=展開大盾
∥=赤外鋼線 ~=赤外鋼線の飛距離
¦¦=赤外線柵
突凸=銃架付き突撃銃 ※“突”と書いてある方角に銃口が向く。
狙凸=据え置き狙撃銃 ※“狙”と書いてある方角に銃口が向く。
大崎甜花の携帯端末から通知音が鳴る。それはレッドスパイダーが反応した事を知らせる音。次いでグレネードが起爆した。大崎甜花は展開したダンボールの大盾から顔を出すと、はるか前方で前転回避するアルファを発見。有効射程距離ではないため、まだ撃たない。通路に転がって起立するアルファは疾走継続。その先には幽谷霧子が待っている。
A室東の通路を渡って十字路に飛び出たアルファは、右手に幽谷霧子を目視。左視界橋に人影を目視。加速しながらの
対する幽谷霧子と櫻木真乃は、互いに同士打ちしない位置に銃口を向けて射撃。しかし、ふたりの反射神経では加速したアルファを捉えきれない。
すかさず大崎甜花が顔を出して二挺拳銃を射撃。
B室東の通路を突っ切るアルファは、後方から幽谷霧子に挟撃される。前後の銃撃を躱すべく、右手の壁を走り蹴って跳躍、十字路の空間を斜めに宙返りしつつ、
(……っ!)
その先は
鉄扉を遮蔽物とする郁田はるきの拳銃射撃。
対するアルファは屈み込みながら回避疾走。和泉愛依の拳銃と自らの拳銃による二挺射撃で牽制射撃。
郁田はるきは、撃ち込まれる怒濤の攻撃回数を躱すため鉄扉の裏に引っ込む。そして再び半身だけ晒して射撃を返そうとするが、剛速球の何かが横切ってびっくり。それは背後のダンボールに直撃して、何かがコロコロと足元に転がる。それは見るに、
「わぁ……!?」
郁田はるきは、グレネードから死角となる資料室の中に飛び込んで躱す。
なんとアルファは、和泉愛依の拳銃を捨てるなり手榴弾を全力投擲していた。
ちなみに手榴弾は、表面が柔らかい材質で覆われているが、野球ボールより重いため、人間に直撃したら大変危険である。もしも郁田はるきに当たっていたら、アルファは反則で一発退場だった。おそらく当てない自信があったのだろうが、これはイエローカードである。ゲーム終了後、スタッフからお叱りがあるに違いない。
ただし、それは翻せば。そんなちょいワル行為をしなければ、アルファは“負ける”と悟ったということ。つまり確実に追い込んでいる事の証明でもあった。
そんなアルファは十字路を西側に突っ切り、左右から撃ち込まれる大崎甜花と幽谷霧子の挟撃を颯爽と駆け抜けて置き去りにしつつ、C室の鉄扉を開いて突入する。
(────っ!?)
アルファの足元にレッドスパイダー。視界端にグレネード。鉄扉を閉めつつ後退したアルファは、C室北西の十字路に駆け込む。その先では、自ら投擲したグレネードが起爆中だが、鉄扉とダンボールに挟まれているため、こちらまで赤いレーザー光線は届いてこない。
(──っ!)
十字路の南から赤い光がまたたく。
とっさに後退跳躍したアルファは(グレネードは早計だった)と危惧しつつ、B室南の通路に転がり込む。そして
次の瞬間、資料室南の鉄扉から郁田はるきが顔を出して拳銃射撃を行う。さらにはアルファの──起爆終了した──グレネードを拾って投げ返してきた。
対するアルファは鉄扉を閉めつつ、B室の中に転がり込む。転がり込みながら周囲を確認。罠のたぐいは無し。ただし、この
B室北の鉄扉が開かれる。鉄扉を遮蔽物として櫻木真乃が拳銃射撃。
袋の鼠となるまで追い込まれたアルファは、櫻木真乃の死角となる位置に滑り込んで瞬発思考────策を練る。
(中に入ってきたら抜刀銃撃×3で
四秒後。南から足音。B室南の鉄扉が開かれる。
すかさずアルファは、室内端の机に飛び乗って旋空抜刀するが、なんとそれを手放した。
B室北から櫻木真乃が突入してくる。
カタナは床を滑って高速回転しており、剣先から伸びる赤外線が室内を水平に回転斬りしていく。アルファは左手に拳銃、右手に狙撃銃を構えて両手を大きく開き、銃口を敵二名に向けながら、机を踏み砕く勢いで全力跳躍。同時射撃。
櫻木真乃と幽谷霧子の足首を二回斬撃する回転
櫻木真乃と幽谷霧子の拳銃銃撃は、机の上部から天井付近の壁まで着弾していき、B室中央の空中を飛ぶアルファを追いかけていく。
アルファの拳銃と狙撃銃の射撃が二回ずつ、櫻木真乃と幽谷霧子の胴体に命中する。それぞれの残りライフ2点と0点。
幽谷霧子の携帯端末から、
右足でカタナを踏んで着地したアルファは、狙撃銃を手放しつつ、完全に幽谷霧子に背を向けていた。もし幽谷霧子を倒しきれていなければ、背後から撃たれまくって一気に落ちる。つまりその行動は明らかな博打だった。左手拳銃を両手持ちで構え直し、櫻木真乃めがけて速射。残りライフ1点。
対する櫻木真乃も、しっかりと照準を合わせた両手持ちの拳銃射撃で一点をもぎ取る。アルファの残りライフ3点。
幽谷霧子の携帯端末から、
アルファの
櫻木真乃の拳銃連射は意味を為さない。既に死体のため、相手にダメージは入らない。
櫻木真乃の携帯端末から、
「────ふぅっ!」
ほっと一息ついたアルファは安堵も束の間、勝った兜の緒を引き締める。
危うく袋の鼠で蜂の巣にされるところだった。これだから多対一は物理的に勝利することが不可能なのだ。この質量世界において、戦いとは質量だよ。──などと思いつつ、アルファはこうも思う。
────不可能を可能にしてこその
故にアルファは、無理無茶無謀を覆す英雄として、燦然と戦場を駆け抜ける。
「戦力の随時投入は下策だぜ、
カタナと狙撃銃を回収したアルファは、扉の前でうなだれる櫻木真乃にどいてもらってB室北から通路に飛び出る。
対する郁田はるきは、背後から開閉音が聞こえてびっくり。だが予想はしていた。櫻木真乃と幽谷霧子が落とされたのだ。幽谷霧子がB室に突入する場面は見守っていた。ふたりが倒れたあともB室南からアルファが出てくることはなかった。ならば北に回り込まれて突撃してくることも想像できる。
アルファは鉄扉を遮蔽物として拳銃射撃。
対する郁田はるきも通路に出て壁を遮蔽物とし、拳銃射撃。
「さっきはグレネード当てちゃいそうになってごめんなさいね!」
「────! …………」
アルファが話しかけてきた。余裕ができた、ということだろうか。それとも興奮しているのか。ともあれ郁田はるきは応戦しながら会話に応じる。
「あと(イエローが)一枚でレッドカードですよ!」
「まったくその通りで! 大人気なく負け意地を発揮してしまいました!」
「それならお仕置きが必要ですねぇ……!」
「ははっ! 楽しみにしてますよ!」
そう言ってアルファは、思いっきり西側に全力遁走を始めた。そろそろ芹沢あさひや放クラが接近してくる頃合いだ。挟撃を避けるため撤退する。
§
エリアCの西部。
ノク半の携帯端末に通信が入る。
『こちら、いくはる! アルファさん、西に向かいました!』
「……了解」
「よし、やるか~。──化け物退治」
「言えてる。まさか単騎でここまでやるなんて……でも手負い。私達なら行ける」
「怖いぞー、獣は」
「……たしかに、手負いの獣は侮っちゃダメと聞く。けど、それはこっちのセリフでもあるんじゃない?」
「おー。言うじゃん。……なら、獣になるか」
再び通信が入る。
『有栖川夏葉、北西部から南下中よ! 果穂と智代子も、少し遅れてるけど付いてきてるわ!』
『わたしも中央から走ってるっす!』
『甜花ちゃん! わたし、援護に向かいたい……!』
『……! わかった、郁田さん……行って……!』
※MAP‐
北
西○東
南
至 果穂・智代子
至 夏葉
│├───┘ └──━─┘ └──━─┘ └
││
│□
│├───┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
││ │ │ │ │ │ │
││西階段┃ │ │ │ │ │
│□ │ │ │ │ │ │
│├───┘ └──━─┘ └──━─┘ └
││
│□ 樋
│├───┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
││ │ │ │ │ │ │
││通信室┃ │ A室 │ │ │ │
│□ │ │ │ │ │ │
│├───┘ └──━─┘ └──━─┘ └
││
│□ 浅 至 ア
│├───┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
││ │ │ │ │ │ │
││ ┃ │ │ │ │ │
│□ │ │ │ │ │ │
│├───┘ └──━─┘ └──━─┘ └
││
│□
│├───┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
至 郁田
至 甜花
※記号注釈
□=ダクトの出入り口
━=鉄扉
浅倉透の胴体から頭部に、赤い光点が登っていく。
「……ん?」
それに気づかない浅倉透は、はるか前方の通路に人影を見つけた。
ここはビルの西端だ。見つけた人影は、おそらくビルの東端に座っている。
不意に東端から赤い光がまたたいた。浅倉透の残りライフ4点。
浅倉透の携帯端末から『ビジュン』と効果音が鳴る。それは被弾したことを知らせる通知音。
「────っ!」
浅倉透は横っ飛びで回避する。再びまたたいた赤い光は、浅倉透の背後にあった壁に着弾した。
一方の樋口円香は、右視界端に一瞬だけ赤外線が通ったことと、いきなり浅倉透が横っ飛びしてきたことに驚き、敵の攻撃があったことを推測する。
「浅倉!?」
「……やられた。……スナイパー。もらった、一発」
「……どこにいた?」
「実戦なら死んでた。ヘッドショット。……ずっと向こう。端っこ」
「────まさかエリア東端から? 西に走ってると見せかけて東に? どんだけ元気っ子なの……」
郁田はるきの視界から消えるまでは西に走っていたが、途中で十字路を迂回して東端まで突っ走ったのだろう。とんでもない体力と脚力である。
浅倉透は壁を背にして座り込み、顔だけ通路に晒して、ちらりと東端を覗き込む。そして目を見開いた。
「────来てる。全力で」
「……は?」
「走ってる。……ふふっ。ほんとに元気っ子」
浅倉透の視界には、東端から全力疾走してくるアルファの姿が映っていた。
「笑ってる場合? そろそろ目に物見せる」
「よっしゃー。真乃ちゃんの仇じゃー」
浅倉透は立ち上がると、腰から手榴弾を取り出して投擲。
対するアルファは、放物線を描いて向かってくる手榴弾を仰いで、軽く跳躍、身をひねり────なんとオーバーヘッドキックで、手榴弾を蹴り返した。
「げっ」
放物線を描き返して、浅倉透の足元に転がる手榴弾。
とっさに浅倉透は北側に駆け出して跳躍。後頭部に両手を置いてうつ伏せとなり、レーザーの起爆から身を守る。
一方の樋口円香もA室北西の通路に身を隠して、レーザーの蹂躙を回避する。
三秒後。グレネードの起爆が収束すると同時、アルファはA室南西の十字路に飛び出して、自前の手榴弾を投擲した。
浅倉透は起き上がって振り返りつつ後退。樋口円香は壁から半身を晒して拳銃を向ける。その時には既に、浅倉透の足元に転がる手榴弾。
「おわっ……」
「っ……?!」
浅倉透は全力後退。だが間に合わない。
樋口円香は混乱する。最初に投げ込まれた手榴弾は、アルファの手榴弾ではないのか。なぜ二個も持っている。だれかから奪ったのか。ともあれ起爆までの一瞬、拳銃射撃を敢行。
対するアルファは、通信室の鉄扉を開けて中に飛び込んだ。
グレネードの起爆。
後退する浅倉透だが、後ろに後退するだけでは起爆から逃れられない。とっさに樋口円香が手を伸ばそうとすると、彼女の肩を掴んで制する少女が現れた。
橙色の長髪が颯爽とたなびく。浅倉透の左腕を掴み取った有栖川夏葉は、彼女の右肩もしっかりと抑えて────眼前まで伸びてくる赤外線を全身に浴びる寸前、来た道に横っ飛びする。それは浅倉透を抱えての跳躍。
樋口円香の前方に滑り込ん浅倉透と有栖川夏葉は倒れ込む。浅倉透は腹部に被弾して残りライフ3点。有栖川夏葉は右半身の脇腹に被弾して残りライフ5点。ともあれ、ふたりは間一髪、本来なら即死であったはずのグレネードから生還した。
「っ……! うおあー……」
「っ! ──ごめんなさい! 乱暴に腕を引っ張りすぎたかしら……?」
「……ぜんぜん。それより、ナイスです。助かった……正直。……もう死んだかと」
「──……ふふっ。私もよ!」
樋口円香は安堵する。もし自分が浅倉透を助けようとしても、有栖川夏葉のような筋力は出せない。ふたり同時に転がり込んでふたりとも生還、なんて真似はできない。せいぜい、浅倉透を庇って自分が落ちる、といった結果しか出せていなかった。
「そちらも、いきなりごめんなさい。出過ぎた真似だったかしら……」
「いえ。……うちの浅倉が、お手を煩わせてすみません」
「そんな。仲間だもの。それより遅くなってごめんなさい。──戦況は?」
「通信室に敵がいます。すぐに突入したいのですが……」
「────私が行くわ。あとに続いてちょうだい! 遅れた分は取り返すわ!」
アルファは迅速に動いている。そろそろ通信設備を破壊してもいい頃合いのはずだが、まだ通信障害は発生していない。すでにダクトから逃げられた可能性もあるが、油断はできない。
三人は通信室に駆け込む。
「ところで浅倉。最初のグレネードはだれの?」
「あー。私の」
「は?」
「蹴り返された」
「……それ、早く言って」
「ふたりとも、開けるわよ!」
有栖川夏葉が鉄扉を開け放つ。開けた瞬間に撃たれる可能性があるため壁を背にして警戒。顔だけ覗き込んで室内を見渡す。オフィステーブルとパソコンに囲まれた室内。前方には通信設備の大型機械。右手には何もなし。左手のテーブルの下にはホワイトボードが
ただし室内には、人ひとり隠れられる木箱が複数配置されている。その物陰にアルファが潜んでいる可能性が高い。木箱の配置は部屋ごとにランダムだが、なんとなく左側の方が作為的な配置のように思える。
※MAP‐エリアC最西端・通信室内部
北
西○東
南
│ ├────────┘
│ □ 外通路
│ ├────────┐
│ │ ○○○○○○■│
│ │○ ●● ■│
│ │○ ■ ■ ■│浅
│ │◎● │━樋
│ │◎●
│ │○ │夏
│ │○ ■■ ■■ │
│ □ ◆● ● │
│ │ ○○○◇○○■│
│ ├────────┘
│ □ 外通路
│ ├────────┐
※記号注釈
□=ダクト出入り口
◎=通信設備
○=オフィステーブル
●=オフィスチェア
◇=ホワイトボード
■=木箱
◆=有栖川夏葉が予想する、アルファの位置
有栖川夏葉と樋口円香は小声で会話する。
「……私が囮になる」
「危険です」
「後ろの床に転がってる二個のグレネード。あれはアルファのでしょ?」
「倒したプレイヤーから奪った可能性もあります」
「そうね。でもグレネードは持っていない可能性が高いわ」
「……失礼ですが、根拠は?」
「当然の疑問よ、失礼なんかじゃないわ。──甜花の報告では、真乃と霧子の装備に変化は無し。あさひの報告では、愛依の拳銃が奪われたけど、それは甜花によればチームピーちゃんとの交戦中にアルファが捨てたとのこと。智代子の報告では、樹里と凛世の装備に変化なし。どう?」
「……──了解。どうか気をつけてください」
「ええ。ありがとう。行ってくるわ」
有栖川夏葉は突入する。
対する樋口円香は、突入前の有栖川夏葉が居た位置に移動する。続けて浅倉透も、樋口円香が移動する前の位置に就く。ノク半は室内に拳銃を向けて要警戒。
「アルファ! 観念しなさい! この部屋にいるのは分かっているのよ!」
有栖川夏葉は、全方位に拳銃を突き出しつつ、ゆっくりと歩いて室内の中央に向かう。
対するアルファは、彼女が室内中央に足を踏み入れた途端、
狙撃銃の射撃音が一発、室内の北側から鳴り響く。それは有栖川夏葉の背中に命中した。残りライフ4点。
「っ!?」
すかさず有栖川夏葉とノク半は、室内北側に拳銃を向けて一斉射撃。
有栖川夏葉は目を見張る。オフィステーブルの下に狙撃銃が置かれていた。長い銃身はテーブルの下に隠れているが、長い銃口は突き出てしまっている。だがその長い銃口はオフィスチェアの下部に隠れていた。そして木箱と木箱の間を縫うように、赤い光が収束していく。
(狙撃銃の
有栖川夏葉の携帯端末から『ビジュン』という効果音が二度鳴る。残りライフ2点。
(サイレンサー! おそらくまた背中を撃たれた────しかも二度も!)「違う、後ろよ!」
『……!』
有栖川夏葉は振り返る。当初の予測地点にアルファは潜んでいた。
アルファは床に寝そべっており、木箱から顔と左手拳銃だけ突き出して無音射撃を繰り返す。残りライフ0点。
有栖川夏葉の携帯端末から、戦闘不能に陥ったことを知らせる通知音が鳴り響く。
それを聞き届けた瞬間、アルファは起き上がってダクトに
「くっ……!」
歯噛みする有栖川夏葉。
樋口円香は反省しつつ次の手を打つ。有栖川夏葉と背中合わせで突入していれば、全員が一斉に北側に振り向くことはなかった。互いに背中を守りながらであれば、アルファがダクトに滑り込む瞬間、一発はダメージを与えられたはず。サバゲーに慣れていないが故の失態。だが後悔しても後の祭り。覆水盆に返らず。今はアルファの追跡を優先する。おそらく
「ダクトに逃げられた。私は北。浅倉は南」
「了解。──任せましたよ、相棒」
「それまたなんの映画?」
ノク半は二手に分かれる。
樋口円香が西階段の鉄扉を開いて、赤いランプが眩しく照らし出す空間に入室した途端、薄闇である右視界端の
「っ!!」
あまりにも行動が早すぎる。アルファは西階段のダクトから出てきて階段を駆け上がり、猫道の隅っこで待ち伏せていた。こちらの心理的な動きが全て読まれているとしか思えない先回りっぷりだ。
樋口円香が返す刀で拳銃乱射する頃には、すでにアルファは鉄柵に背中をつけて寝転ぶように落下。追いかけて柵越しに階下を見やり、拳銃を突き出して射撃する。
アルファは着地と同時に三角飛びで猫道の真下に跳んでおり、完全に射線を切られた。
(私も────)
樋口円香は鉄柵に手をかけて飛び越えようとするが、はたと気づく。
(────……たかがゲームで何を熱く…………もし飛び降りるのに失敗してケガしたらバカみたい……ねんざでもしたら、あさっての仕事に支障が出るし……)
躊躇は一瞬。樋口円香は飛び降りた。段差の上に着地。普通に降りていれば三秒のロスだった。つまり三秒のタイムロスを縮めて鉄扉を開ける。
やがて樋口円香が思ったことは、全力で走りながら拳銃を構えて撃つことは不可能だということ。加えて、携帯端末を取り出して通信することも難しい。息切れが激しい。
つまり、これはもう、ただの全力を賭けた鬼ごっこだ。
(深追いは禁物────だけど────手榴弾と狙撃銃は奪った……ということはサプライザーの使い道も消える……実質武器を三つ奪ったことになる……確実に追い込んではいる……──自分の
樋口円香の脳裏に、先ほど通信室でうなだれていた
エリアDの西部を南に向かって縦断。
アルファと樋口円香は失速を許さず一本道の通路を駆け抜ける。
「────────」
不意にアルファは、樋口円香から見て三つ先のT字路を通過した途端、微かに左の通路を見た。
(──……?)
樋口円香が、その三つ先だったT字路を通過する瞬間。
突然アルファは振り返り、樋口円香に向かって拳銃射撃。サイレンサーを切ったのか、射撃音が鳴り響く。
「っ!」
とっさにT字路の左通路に駆け込んで、死角となる壁を遮蔽物にする。
相次いで放たれる、アルファの拳銃攻撃と『ピシュン』という射撃音。
(……なんで急に音を? ────……っ!)
樋口円香は、巡回警備兵の存在を思い出して、東側の通路を見やる。100mほど先から、二名の巡回警備兵が射撃音を聞きつけて走ってきていた。彼らの視界に樋口円香が入ってしまう。
「くっ……!」
巡回警備兵の突撃銃が乱射される。
樋口円香は、眼前の鉄扉を押し開けて入室。室内を縦断。反対側の鉄扉を開けて南側の通路に飛び出る。すぐさま西端の通路に顔を出すと、はるか先にアルファの後ろ姿があった。彼は西南端の通路の角を曲がっていく。おそらく南階段からエリアCに登るつもりだ。
「やられた────」
息せき切る樋口円香は、追跡を諦めない。もう後手に回ってたまるか。今後の疲弊を気にせず駆け出しながら、携帯端末を取り出した。
「ハァ、ハァ────敵、エリアDの南階段に向かった。オーバー……!」
しかし、返答はない。
エリアCに対する通信を行うと、必ずノイズ音が走る。通話不能の状態だ。
(……っ!? 通信妨害……!? どこで……! いつ……!)
樋口円香は走りながら考察する。
現時点でエリアDの通信設備を破壊する
────あとハナワカが変な弾を使ってきた! 拳銃の赤外線が跳弾したんすよ! これなんなんすかね?
「──……考えられるのは、あの
通信室に立て掛けられていたホワイトボードは、白い面が通信設備に向かっていた。もしもそれが関係あるとしたら────アルファは、狙撃銃で有栖川夏葉を倒しておきながら、ホワイトボードを使った跳弾によって通信設備まで破壊したことになる。
(いつ撃った? 私がエリアCに居る時に撃っていたら端末が反応するはず。だからそれはない。そもそも有栖川さんが邪魔でホワイトボードは狙えなかった。つまり有栖川さんが通信室を出た頃合を見計らって? じゃあ私との鬼ごっこ中に……? 私が巡回警備兵を回避する時に────
西南端通路の角を曲がる。思考に割かれて速力が落ちていた。前方通路にアルファの姿は見えない。速やかに南端通路を東に向かって横断。南階段に入室して階段を駆け上がると、踊り場の手前で目を見張り、頭上を仰ぐ。手すりを伝って、ゆっくりと段差を登り、踊り場で足を止めた。
エリアCに続く南階段の鉄扉手前でグレネードが起爆している。赤い光線を振り撒いているが、基本的に水平方向より下にはレーザー光線が届かないため、踊り場までは赤いレーザー光線が降ってこない。
(大崎さんが仕掛けたグレネードトラップ……起爆しているということは、無理やり鉄扉を開けてレッドスパイダーが反応。起爆する前に通路に飛び込んだ……ということになる。少しでも遅れればダメージを受けるけど、うまく行けば私への足止めになる……、────でも、グレネードの起爆は三秒まで────)
グレネードの起爆が収束する。
警戒する樋口円香は、階段上部のキャットウォークを確認するが、そこにアルファの姿は見当たらない。
(────おかしい。時間感覚が合わない。彼はとっくにエリアCの中部まで走っているものと────)
「背後がお留守だぜ」
「──ッ!!」
樋口円香の背後のダクトから、アルファの声が放たれると同時。
樋口円香の携帯端末から、
サイレンサーによる五連射だ。最後の一発を撃ったあと、声を掛けてきたのだろう。
(────)
しかしアルファは、どうやってダクトから階段上部のグレネードを起爆したのか。……階段の壁には、ところどころ何も書かれていない白い看板が設けられている。跳弾が可能だというのなら、ダクト内部から白い看板を撃って、跳弾した先にあるグレネードに命中させれば────理論上は起爆が可能だろう。だが、やろうと思ってできるものだろうか?
樋口円香が南階段に到着するまで三十秒はあった。その間に跳弾を練習して、一回グレネードの起爆に成功していたのなら話は分かる。あとは樋口円香の到着に合わせて跳弾起爆を成功させ、ダクト内で息を潜めていればいい。
そして樋口円香がグレネードの起爆に動揺して考察中の最中、チャンスがあればダクト内から奇襲を仕掛ける。
それで、バカでのろまな相手を殺せる。
「…………」
樋口円香は目をつむって押し黙る。
アルファはダクト内を這いずって、ずんずんと坂道を登っていった。
§
アルファは、南階段の左通路にある行き止まりのダクトから
※MAP‐
北
西○東
南
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘ └
∥~ ¦∥~~~●~~~~∥¦ ~∥
¦ ¦
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │ │ │ │ │
│ │ │ │ A室 │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘ └
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │ │ │ │ │
│ │ 資料室 │ │ B室 │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
┘ └── ─┘ └──━─┘ └──━─┘ └
段 ┃ ¦
¦
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │∥~● │ │ │ │
│ │ │ │ C室 │ │ │ │
│ │ │ │ │ │ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └──━─┘ └
狙 ¦ 突
凸 ¦ 凸
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │ ● │ │ │ │
│ │ │ア│ 南階段 │ │ │ │
┴□┴□───┴□┴□───┴□┴□───┴□┴
────────────────────────
※記号注釈
□=ダクトの出入り口
━=鉄扉
●=手榴弾
段=展開大盾
∥=赤外鋼線 ~=赤外鋼線の飛距離
¦¦=赤外線柵
突凸=銃架付き突撃銃 ※“突”と書いてある方角に銃口が向く。
狙凸=据え置き狙撃銃 ※“狙”と書いてある方角に銃口が向く。
アルファの眼前には、
来た道を戻って南階段に入室。手榴弾を回収。すでに
ちなみに踊り場を見やると、とんでもない感情を綯い交ぜにする樋口円香が佇んでいた。触らぬ神に祟りなし。才能への嫉妬は苦手なので退散する。
今度はC室の南から入って、グレネードトラップを解除して
次は資料室の南にある展開大盾を回収。
装備確認。
自前の装備〔
戦利品装備〔
(……さて、最終決戦だ)
§
エリアC・西端の通信室。
「夏葉さーん! うわーん!」
小宮果穂は、死体のように美しく倒れる有栖川夏葉の体を抱き上げて、悲しみに暮れながら悔しがる。
「……このホワイトボードに跳弾して、通信設備を破壊したのかー」
「えと……危ないから、アルファさんの狙撃銃は……隅っこに寝かせておいた……」
一方の芹沢あさひと大崎甜花は、狙撃銃の跳弾によって通信設備が破壊された事実を突き止めていた。
「夏葉さん……みんなの仇は、私たちが取ります……!
「いえーい。樋口ー。見てるー? やられたってことでしょ。戻ってこないってことは」
郁田はるきも、小宮果穂同様、握りこぶしを作ってロールプレイに興じる。
対する浅倉透は、ほかにトラップがないか探していたところ、偶然にも隠しカメラを見つけて、それに手を振ってピースしていた。そしてなぜだか、杜野凛世が手を振り返しているイメージが沸く。
現に、観戦室にいる杜野凛世は手を振っていた。
「……果穂。みんな。ここは危険だよ。早く有利な地形に移動しなくちゃ……」
「ちょこ先輩……!」
そして園田智代子は、本当は情に厚いものの、だからといって手は抜かない、できる仕事人ぶりをロールプレイしていた。
「悲しんでいたって始まらない。敵を倒す。それが夏葉ちゃんたちの弔いになると思うから……」
「っ……! ──はいっ……!」
それについて、浅倉透は同意する。
「それ。樋口も言ってた。──チームなんだから、最後に誰かが倒せば勝ちでしょ。みんなの。──って」
『…………!』
樋口円香の受け売りだが、浅倉透の一言によって、チームの結束力が高まる。
そして全員の視線が、
「……たしかにみんな、各個撃破されちゃった……でも、そのおかげでアルファさんは、いま、すごく疲れているはず……! あっちこっち、走り回らせて……弱ったところを、一気に包囲して殲滅する……! それが、甜花の作戦だった……」
「……っ! そうだったんですかぁ!? スゴいです、甜花さん! ──はっ! 間違えました。スゴいです、われらが
「にへへ……そう言われると、ちょっと照れる……」
大崎甜花は、にへにへと微笑んだあと。急にキリっとした目つきに変わる。
「じゃあ、ブリーフィングを、始める……よく、聞いて……!」
『……!』
「アルファさんとは、甜花と浅倉さんと、郁田さんとで撃ち合う。果穂ちゃん、園田さん、芹沢さんは、迂回してアルファさんを挟み込んで。果穂ちゃんと園田さんは近い方向から。芹沢さんは、一番遠い方向から」
「たとえば、十字路の東西で交戦した場合、ハナワカが東側に居たとするっす。果穂ちゃんと智代子ちゃんは南北の通路からハナワカを挟み撃ち。でもわたしは、東側から────つまりハナワカの背後から囲い込む。そういうことっすか?」
「そう! しかもアルファさんは走り疲れているから──あ、あとライフも少ないし──果穂ちゃんや園田さんを、強引に突破することも、むずかしくてやらないはず……! そして、もしまだ元気があっても、すぐに郁田さんや浅倉さんを突撃させて、無理やり
「透ちゃんとはるきちゃんは、死を恐れない兵士として突っ込ませるんすか」
「そういうこと……!」
大崎甜花は作戦を提示しながら隊列を組み直す。
「────それじゃあ、行こうか……ここからが、ラスボス戦……だから……!」
§
エリアCの中央付近。アルファは磐石に近い布陣で待ち構えていた。
前方から敵部隊接近。一部隊員が散開。おそらく包囲してくる。
アルファは拳銃射撃で牽制。
接近する敵部隊は遮蔽物に身を隠した。
敵部隊の指揮官たる大崎甜花は思う。
(北の通路にダンボール……南の通路には何もない……)
ならばと大崎甜花は指示を飛ばす。
「──郁田さん! やっぱり園田さんに付いていって! そっち側が脆い……はず!」
「! 了解……!」
※MAP‐
北
西○東
南
┘ └──━─┘ └──━─┘ └
果 芹
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ │ │ │
│ │ A室 │ │ C室 │ │
│ │ │ │ │ │
┘ └── ─┘段々└── ─┘ └
浅┃ ┃
ア ● 至 狙凸
甜┃ ┃
┐ ┌─ ──┐ ┌─ ──┐ ┌
│ 郁│ │ 凸│ │ │
│ │ B室 │ 突│ D室 │ │
│ │ │ │ ¦¦ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └
園 ∥ ∥
~ ~
~ ~
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
※記号注釈
━=鉄扉
●=手榴弾
∥=赤外鋼線 ~=赤外鋼線の飛距離
¦¦=赤外線柵
段々=展開大盾
突凸=銃架付き突撃銃 ※“突”と書いてある方角に銃口が向く。
狙凸=据え置き狙撃銃 ※“狙”と書いてある方角に銃口が向く。
アルファの視界右端の十字路を芹沢あさひが横切ると同時。
「浅倉さん! ゴー……!」
「ラジャー」
浅倉透が死兵として突撃してきた。A室とB室の鉄扉と鉄扉の合間を縫って走る瞬間。
アルファはB室東の通路に横っ飛びで転がりつつ、腰から提げた
浅倉透は、敵を追いかけて死角から飛び出す。拳銃射撃。アルファの残りライフ2点。
対するアルファは起き上がりざまに振り返って右膝を就き、右手拳銃で射撃しながら、左
浅倉透の携帯端末から、
「あちゃ~……」
浅倉透は壁に背中を預けると、ずるずると屈み込みながら、お腹に両手を当ててうつむき、「なんじゃあ~こりゃ~」と間延びした声を出しつつ、「うっ……がくっ……」と気絶したふりをする。
アルファの後方にある南十字路を、園田智代子が小ジャンプして横切る。レッドスパイダーに触れないようにするための小ジャンプだ。触れてしまえば何が起動するか分からない。しかし躱すための小ジャンプこそ罠である。レッドスパイダーを躱して着地すると、銃架付き突撃銃が自動射撃を開始する。
「えぇっ!? あわわわわ……!」
園田智代子は慌てて来た道を戻ろうとし、B室南の通路に飛び込むため、再びレッドスパイダーを小ジャンプして乗り越える。着地・振り返り・小ジャンプに必要だった溜め。それらの身体動作によって回避に時間を取られた園田智代子は、左半身に銃撃を浴びてしまう。残りライフ3点。
一方、アルファの前方にある北十字路から小宮果穂が躍り出た。拳銃を乱射しながら突撃してくる。
「アルファさん! かくごぉ────!」
さらにアルファの後方にある南十字路から郁田はるきが躍り出た。小ジャンプを繰り返して拳銃射撃。
対するアルファは突撃銃の背後に隠れて身を守る。小宮果穂の銃撃は、姿勢を低くした上で展開大盾を使い射線を切る。さらにアルファは懐から手榴弾を取り出して、小宮果穂の通路に投擲した。
「わわわ……!?」
小宮果穂はあわてふためいて後退。
グレネードが起爆。
うつ伏せになるよう飛び込んで後頭部を守るが、一拍二拍回避が遅れてしまい大きく被弾する。残りライフ3点。
(──……そろそろか)
アルファは突として起き上がり、大崎甜花に牽制射撃しつつ、C室の南通路に駆け出した。
これを好機と見た大崎甜花は、被弾を恐れず鉄扉から全身をさらけ出して、二挺拳銃射撃を敢行する。
対するアルファは宙返り。正確な射撃の雨を全力跳躍旋回で軒並み躱しつつ、C室南の壁を蹴って三角飛び。C室とD室の鉄扉と鉄扉の隙間向こうにある、
グレネードが起爆する。
「わっぷ!?」
芹沢あさひの驚き声。彼女は、ちょうど十字路に駆け込んでアルファの背後を取ろうとした瞬間、それを読まれていたのか罠を喰らってしまう。
芹沢あさひは寸前で跳躍後退し、うつ伏せになって身を守ったが、前のめりになっていたことで一拍遅れてしまい多少被弾した。残りライフ2点。
アルファはD室北の出入り口に着地する。
D室南の鉄扉が開かれた。入ってきた郁田はるきと視線が交差する。
刹那、互いに拳銃を向け合う。
アルファの右手拳銃射撃と左逆手の
郁田はるきの両手持ち拳銃射撃────の瞬間、彼女の眼前に無数の赤い光が立ち昇る。
「っ……!?」
郁田はるきの足元には、
アルファの拳銃射撃とカタナの高速切り返し。郁田はるきの残りライフ1点。
郁田はるきはまぶしくても引き金を引き続けて乱射していたが、アルファは射線を読んですり足で移動しながら回避。そして郁田はるきの前方が晴れた瞬間、アルファはカタナを捨てて拳銃の速射。郁田はるきの残りライフ0点。
郁田はるきの携帯端末から、
「ぐぅ……! ぐやじい……!」
郁田はるきは出入り口を塞がないよう、数歩後退して壁際に倒れる。
アルファはD室北の通路に飛び出て、西側から大崎甜花の銃撃を受けつつ、それを置き去りにする加速でC室に駆け込む。その直後、東側のグレネードに一発命中させておき、再び起爆。芹沢あさひの裏面取りを妨害する。しかし、それは無為に終わった。
C室北の鉄扉が開かれて、芹沢あさひが突入してくる。
「ハナワカ! 勝負だ……っ!」
芹沢あさひは加速する。
アルファも加速する。
正面衝突の危険性を意に介さず────激発。
芹沢あさひのスライディング拳銃射撃。
アルファの宙返り射撃抜刀。
互いにダメージ無し。
それぞれ鉄扉の出入り口を通過/着地して、互いに背中を狙い撃ちされないよう部屋から飛び出す。芹沢あさひはC室南の通路に滑り込み、アルファはC室北の通路に着地しながら三角飛び。脚部が悲鳴を上げてもなお、西回りに駆け続ける。
アルファは、A室とC室を挟んだ北の十字路を横切りながら、小宮果穂の背中を見つけるなり拳銃射撃。三発のうち一発だけ当たった。さすがに全身全霊の疾走中に全弾命中は最高難度と知る。小宮果穂の残りライフ2点。
「っ!?」
展開大盾の後ろに屈んで身を隠していた小宮果穂は、背後から足音が聞こえて振り返ると、西に向かって走るアルファの足裏が一瞬だけ見えた。射撃音は聞こえなかったが、携帯端末から被弾の効果音が鳴ったことで、撃たれてしまったことが容易に分かる。
一方その頃。大崎甜花は悲鳴を上げていた。
「ひぃん……! 何が起きているのか分からない……! なんでみんな、どんどんやられちゃうの……?」
それはアルファがエリアCの通信設備を破壊したことが大きい。
大崎甜花は知らないのだ。
アルファが南階段から上がってきたことで、チームピーちゃんが設置した数々のトラップを、逆に使われてしまっていることに。大崎甜花は情報戦を制されたことで、目の前の十字路の右側に、銃架付き突撃銃があることすら知らない。真向かいにグレネードが配置されていることは、起爆する時の発光で見えているが、小宮果穂の通路にもグレネードが投げ込まれた事実は知る由もない。東端に狙撃銃が設置されていることすら夢にも思わないだろう。
「甜花ちゃーん!」
それを察してか、園田智代子が駆け戻る。
「右の通路に突撃銃が設置されてた! 自動的に撃ってくるやつ……!」
「……──っッ!!? そ、そういう、ことだったんだ……!」
観戦室で見守る樋口円香は合掌する。謝罪の意思である。あそこはアルファを深追いせず、巡回警備兵に絡まれたあたりで引き返して、アルファが南階段に向かったことを口頭で報告しに行くべきだった。
しかし、そこまで考えつける完璧な戦士はいない。そもそも戦士ですらない素人が、そこまで着想して反省できること自体、樋口円香の才能が非凡であることを如実に表していた。
「あと、はるきちゃんが部屋に入ろうとしたら、赤いレーザーにやられちゃった! あの……フェンスみたいなやつ!」
「……! ────っ!!」
次の瞬間、アルファがA室とB室を挟んだ西側の十字路に躍り出た。園田智代子は背後から足音が反響して目を見張り、大崎甜花はアルファと視線が合って息を呑む。
アルファの拳銃射撃。園田智代子を遮蔽物として扱って連射。園田智代子の残りライフ0点。
対する大崎甜花は、園田智代子が遮蔽物となってしまい、二挺拳銃を構えても反撃できない。すぐ右にすり足で移動して射撃するが、その頃にはアルファも十字路を横切っていた。
園田智代子の携帯端末から、
「わわっ、ごめんっ!! 甜花ちゃん……っ!!」
「だいじょうぶ! 園田さんは、本当にイイ仕事、してくれた……! 報連相は、一番大事、だから……!」
観戦室の樋口円香は、再び合掌する。
「えーっと……じゃあ、私は、ここらへんで……」
園田智代子は、適当な壁際で“ぐでー”と倒れて、死んだふり。
対する大崎甜花は、今まで聞いたことないくらい、なるべく大きな声を──声が裏返りながら──張り上げた。
「アルファさん! 西回りに爆走! 現在ミナミの方角────!」
『……!!』
小宮果穂と芹沢あさひは、その声を聞き届ける。
そして芹沢あさひは目撃していた。大崎甜花と園田智代子が遮蔽となって助けられなかったが、アルファが十字路を横切りながら園田智代子を倒す瞬間を目にしていた。そのため中央十字路を南下。銃架付き突撃銃の背後に隠れてアルファを待つ。耳を澄ます。
足音。床の材質ではない。壁を蹴る音。
次の瞬間、芹沢あさひの網膜に映るは、B室とD室を挟む南十字路の空中を駆け飛ぶアルファの姿。しかも右手には
「──っ!!?」
アルファはよく、背中に背負った狙撃銃を盾にしていたが、それは完璧な防御策ではない。よくて体の半分を覆う程度である。突撃銃も、銃身のサイズは狙撃銃と大差ないため、それほど防御範囲は変わらない。
そしてアルファは、先ほど突撃銃を背にして身を守った際、頭部が露出しやすいことを察していた。よって、現在その場所に誰かがいるかもしれないことに賭けて、とりあえず抜刀していた。
正確な位置への斬撃。しかし当たらず。アルファと芹沢あさひの身長は
ちなみにアルファが南十字路を通過したことで、銃架付き突撃銃の自動射撃機能が一瞬反応したが、撃つ前に通過してしまったため起動しなかった。
「ハナワカ、南十字路を通過!」
芹沢あさひは情報を叫んで伝える。
一方の小宮果穂はいいことを閃いており、
※MAP‐
北
西○東
南
┘ └──━─┘ └──━─┘ └
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
│ │ │ ●│ │ │
│ │ A室 │ │ C室 │ │
│ │ │ │ │ │
┘ └── ─┘ └── ─┘ └
┃ 果 段 ┃
々 ● 至 狙凸
甜┃ 芹┃
┐ ┌─ ──┐ ┌─ ──┐ ┌
│ │ │ 凸│ │ア │
│ │ B室 │ 突│ D室 │ │
│ │ │ │ ¦¦ │ │
┘ └──━─┘ └──━─┘ └
∥ ∥
~ ~
~ ~
┐ ┌─━──┐ ┌─━──┐ ┌
※記号注釈
━=鉄扉
●=手榴弾
∥=赤外鋼線 ~=赤外鋼線の飛距離
¦¦=赤外線柵
段々=展開大盾
突凸=銃架付き突撃銃 ※“突”と書いてある方角に銃口が向く。
狙凸=据え置き狙撃銃 ※“狙”と書いてある方角に銃口が向く。
さらに小宮果穂は射撃の構え。D室北の出入り口と、真向かいの東十字路に銃口を向ける。
それは大崎甜花も同様。
アルファは東十字路を跳躍通過する直前、手持ちの
ダンボール越しに撃つ小宮果穂と、直立姿勢で撃つ大崎甜花と、ほぼうつ伏せに近い状態で撃つ芹沢あさひの、三重射撃。さらに芹沢あさひは、東十字路の先に転がる手榴弾に射撃を当てて起爆させた。が、アルファの対策によって爆発範囲が東十字路まで届かなくなっており、不発に終わる。
小宮果穂は(1、2、3……)と数えながら、ダンボールを飛び越えて、A室とC室を挟んだ北にある十字路を狙う。
9秒目。
北十字路をアルファが横切る。
小宮果穂は射撃。配置した手榴弾を起爆させるが、すでにアルファは通路を横切って爆発範囲外に逃れていた。
「9秒です! 9秒で回り込んできます!」
アルファはサプライザーを起動する。東端の狙撃銃が起動。小宮果穂の背後に命中した。小宮果穂の残りライフ1点。
「……っっ!!?」
小宮果穂は、どこから攻撃を受けたのか分からず困惑する。
しかし芹沢あさひは、小宮果穂の背中に赤外線が当たった瞬間を目撃していた。
「果穂ちゃん! 今すぐそこから離れて! 背中に赤外線が当たってた……!
「えっ……!?」
「────! えと、それ……たぶん、甜花たちの、狙撃銃、かも……! ごめん……!」
小宮果穂はダンボールの遮蔽物を捨てて移動。しかし、どこに隠れればいいのか分からないため、とにかくC室に駆け込む。
大崎甜花は先手を取るべく、西十字路に飛び出して迎え撃つ。しかし、5秒経過。待てど暮らせどアルファが現れない。
アルファは駆け戻っていた。小宮果穂の『9秒』発言を聞いて、かく乱するためにA室北の死角に身を潜める。そして小宮果穂が狙撃に驚いたのかダンボールから離れたため、すかさず駆け出し、目の前に置いてあった手榴弾を回収。先ほど投げた時と位置が異なっているため、おそらく小宮果穂が回収して再設置したのだろう。
そしてアルファは、中央十字路を疾走跳躍すると同時、
待ち構えていた芹沢あさひは拳銃射撃。
斬撃と射撃の赤外線が激突して相殺する。
アルファは通路に滑り込んで銃架付き突撃銃を回収する。
芹沢あさひは追撃を仕掛けるため中央十字路に飛び出して拳銃を構えるが、仰向けのアルファが突撃銃を掃射してきた。
「どわっ!」
芹沢あさひは、慌てて来た道を戻るように横っ飛びして、赤外線の暴力を回避する。
(──……疲れた……)
アルファは息せき切って立ち上がる。ゆっくりと息を整えながらジリジリと後退。
その時、大崎甜花が号令一下。
「敵、南十字路! 挟み込んで! 甜花は西から!」
十中八九、突撃銃の掃射から位置を割り出された。アルファは瞬発思考する。大崎甜花と芹沢あさひは、B室とD室を通ってくるだろうか。それとも外回りの通路を渡ってくるだろうか。どちらがどちらを選ぶかによって、接敵時間が大幅に変化してくる。
(中央十字路に飛び出れば果穂と鉢合わせる……不確定要素より、確定要素を扱うか────)
アルファは後退をやめて前進。中央十字路の南西に顔を出す。左確認。気配なし。右確認。気配なし。C室南の出入り口から小宮果穂が出てきた。突撃銃で射撃する。
対する小宮果穂は、とっさに海老反りになって尻餅を搗きながら室内に転がって躱す。しかし躱しきれず胴体に被弾していた。小宮果穂の残りライフ1点。
「ア────アルファさん! 中央十字路で、アサルトライフルを持ってますーっ! でも、スッゴくスッゴく、つかれた顔をしてましたーっ!」
(余計なことを……)
D室北出入り口から芹沢あさひが顔を出す。
アルファは突撃銃で牽制射撃。
「あさひさん!」
「……! うん!」
「いっせーのーせっ!」
小宮果穂の合図に合わせて、ふたりは室内の出入り口から片手だけ突き出し、手榴弾を投げ込む。
対するアルファは、ダンボールの陰に徒歩で移動して屈む。無駄のない動作。手榴弾をB室北の通路に投げ込む。すると読み通り、B室北の出入り口から大崎甜花が顔を出してきた。しかし大崎甜花は、なんと胴体を守れる
大崎甜花はホワイトボードを盾にして片手射撃。
対するアルファは地を横向きに転がって北に逃げる。壁で射線を切りつつ次の手を考える。しばらく走ることはできない。
「北の十字路に逃げた! 挟み撃ちにして!」
大崎甜花は手榴弾を投擲。ここぞという時のために取っておいた。
アルファは最後の力を振り絞って全力遁走。北の十字路に飛び込んでしゃがみこむ。そして視界右端、C室北の鉄扉が開かれたため制圧射撃、一瞬だけ赤毛が垣間見えた。さらに後方から殺気。グレネードの起動による赤いレーザー光線が乱舞する中、その間隙に射線を見出そうとする、白い悪魔の仁王立ちを目撃する。
芹沢あさひの精密射撃。蹂躙する無数の赤外線の隙間を縫って一発、アルファのふくらはぎに命中した。アルファの残りライフ1点。
対するアルファは息を荒げながら立ち上がり、遁走。東の通路に駆け込む。
グレネードが収束する。
大崎甜花が中央十字路に駆け込むと同時、芹沢あさひはC室南の出入り口に駆け込む。
アルファはC室北の出入り口に駆け込みながら突撃銃で射撃。すかさず南の出入り口にも速射した。
対する小宮果穂は、まさか強引に突入してくるとは思わず、目と鼻の先に躍り出てきたアルファに驚いて、すかさず拳銃を乱射するが────突撃銃の射撃速度には敵わない。小宮果穂の残りライフ0点。超至近距離のアルファに拳銃射撃が何度も命中するが、すでに小宮果穂は死体のためダメージは入らない。
そして芹沢あさひも、小宮果穂が遮蔽となって射線が通らない。小宮果穂が驚いて尻餅を搗くと同時、互いに射線が通るようになるが────同様に、拳銃の射撃速度では追いつけない。拳銃が秒間3発なら、突撃銃は秒間9発以上である。芹沢あさひの残りライフ0点。アルファの左胸に三発命中するが、すでに芹沢あさひは死体のためダメージが入らなかった。
ふたりの携帯端末から、ほぼ同時に、
アルファは、現在の大崎甜花の予想位置を描いて、適当にサプライザーを押し込みつつ後退。
大崎甜花の右脇下や背中、頭髪の先端を、狙撃銃の赤外線が掠める。
大崎甜花がC室南の出入り口から二挺拳銃を速射する。
対するアルファはC室北の通路に飛び出て東側に遁走。
(疲れた俺と
アルファは、C室北の出入り口の真向かいにある白い壁が目に入る。すかさず突撃銃で射撃。
対する大崎甜花は、まさかそれを読んでいたのか、横っ飛びで通路に飛び出した。左半身を床に打ち付けながら滑り二挺拳銃を乱射。全て外れる。
アルファはC室東の通路に曲がりながら、銃口を下げて片手射撃。全て外れる。
大崎甜花は起き上がる暇がないため、姿勢そのままに精密射撃。全て死角ギリギリの壁に命中。もし壁抜き射撃ができるなら今ので確実に殺せていた。
(詰将棋みたいになっちまった……まだまだ甘いな……ちょっとはしゃぎすぎたか……中央で勝負しなきゃいけない状況の練習とかやらなきゃよかったぜ……)
アルファは喘鳴しつつ全力後退。東十字路に向かう。
大崎甜花は起き上がって走り、壁を背にして決心。全身を晒して二挺拳銃を撃ちまくる。
アルファはC室南の壁に隠れて一計を案じる。次いで
「グレネード!」
「────っ!?」
大崎甜花は、つい驚いて壁に身を隠す。
その隙にアルファは一気に南下。
「……?」
通路に転がったはずの手榴弾が起爆しない。不思議に思った大崎甜花はおそるおそる顔を出すと、そこにはレッドスパイダーの器械が転がっていた。グレネードではない!
(だまされた……!)
大崎甜花は二挺拳銃を乱射する。
アルファはD室南の壁に駆け込んで一息つく。そして右手だけで突撃銃を構え、適当に制圧射撃。
(っ……! アルファさん、そうやって時間を稼いで、体力を回復するつもりだ……させない! 攻めどきは、今しかない……!)
大崎甜花は二挺拳銃を腰にしまう。物を持ちながら走るのは慣れていない。そして全身をさらけ出して駆け出した。
対するアルファはサプライザーを取り出す。
(────賭けに出たか。勝負は一瞬────)
(────みんなが削ってくれたライフ……甜花が……無駄にしない────!)
大崎甜花は東十字路を横切る瞬間。
アルファはサプライザーのボタンを押す。狙撃銃が起動して、大崎甜花の左半身を狙撃。大崎甜花の残りライフ5点。
次いでアルファはサプライザーを捨てながら突撃銃を両手持ち。遮蔽物から半身晒して精密射撃。
対する大崎甜花は緊急停止。両腰のホルスターから二挺拳銃を取り出して精密速射。
大崎甜花の上半身を蜂の巣にする。大崎甜花の残りライフ1点。
アルファの胴体に二発命中。アルファの残りライフ0点。
────刹那、会場全体にブザーが鳴り響いた。
《試合終了────! 勝者、大崎隊ィ────ッ!!》
けたたましく鳴り渡るブザー音。あまりの音量に驚いた大崎甜花は、両肩を飛び上がらせて萎縮する。
「ひっ……! ────? ……勝った……?」
「────だ゛あ゛ぁ゛ー゛! 負けたーっ!! チクショー!」
アルファは全身が限界なのか、両手からぽとりと突撃銃を落とすと、その場で大の字となって仰向けに倒れ込んだ。しかし、その笑顔は爽やかそのもの。彼は光り輝くような良い汗を大量に流しつつ、口から白い気体が立ち昇るほどの熱い息を洩らしていた。まさに白熱の男である。
§
【武装データ】 ※レギュレーション1.0の場合※
近接武器〔
中隔武器〔
遠隔武器〔
投擲武器〔
設置武器〔
防御武器〔
迷彩武器〔
索敵武器〔
【装備データ】
アルファ〔拳銃〕〔消音器〕〔手榴弾〕〔赤外鋼線×2〕〔旋空〕〔狙撃銃〕〔遠隔操作射撃端末〕〔電子迷彩外套〕
小宮果穂〔拳銃〕〔手榴弾〕〔旋空〕〔半透明小盾〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔電子迷彩外套〕
園田智代子〔拳銃〕〔手榴弾〕〔手榴弾〕〔半透明小盾〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔電子迷彩外套〕
西城樹里〔拳銃〕〔手榴弾〕〔手榴弾〕〔赤外線柵×2〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔電子迷彩外套〕
杜野凛世〔拳銃〕〔手榴弾〕〔旋空〕〔赤外線柵×2〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔電子迷彩外套〕
有栖川夏葉〔拳銃〕〔手榴弾〕〔手榴弾〕〔赤外線柵×2〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔電子迷彩外套〕
芹沢あさひ〔拳銃〕〔手榴弾〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔電子迷彩外套〕
黛冬優子〔拳銃〕〔手榴弾〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔電子迷彩外套〕
和泉愛依〔拳銃〕〔手榴弾〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔電子迷彩外套〕
櫻木真乃〔拳銃〕〔手榴弾〕〔展開大盾〕〔狙撃銃〕〔赤外鋼線×2〕〔突撃銃〕〔自動照準銃架〕〔電子迷彩外套〕
幽谷霧子〔拳銃〕〔手榴弾〕〔展開大盾〕〔狙撃銃〕〔赤外鋼線×2〕〔突撃銃〕〔自動照準銃架〕〔電子迷彩外套〕
大崎甜花〔拳銃〕〔拳銃〕 〔手榴弾〕〔赤外線柵×2〕〔FREE〕〔FREE〕〔遠隔操作射撃端末〕〔電子迷彩外套〕
郁田はるき〔拳銃〕〔手榴弾〕〔展開大盾〕〔赤外線柵×2〕〔赤外鋼線×2〕〔突撃銃〕〔自動照準銃架〕〔電子迷彩外套〕
浅倉透〔拳銃〕〔手榴弾〕〔旋空〕 〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔電子迷彩外套〕
樋口円香〔拳銃〕〔手榴弾〕〔手榴弾〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔FREE〕〔電子迷彩外套〕