※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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共同住宅プチパレス編〔不穏バトル編④〕
pSSR【生きること。】小宮果穂


 

 とある深夜チャンネルのネットドラマ企画。

 今回のお題は『ヒーローもの×絶体絶命』で、ミニドラマ撮影が行われる。

 おまけ情報で、なんと制作期間は一ヶ月のみ。準備に三週間、撮影に一週間の突貫工程となる。

 

 脚本は、巷で有名の監督が担当。

 その旨が宣伝されると、少なからずSNS上でバズる。ファンが監督の新たな作品を待ち侘びているのだ。

 

 283プロダクションのプロデューサーは、業界の流行を知るべくサーチしている中で、そのミニバズりを目に留める。

 

(……ヒーローといえば果穂だけど……オーディションとかは……特にやってないみたいだな。ということは既にキャストは決まっているのか。いや、この監督の方針は、たしか宣伝してからキャストに直談判する形式をよく取るから────)

 

 ふいに受話器が鳴り響く。

 七草はづきが「はい、もしもし~」と手に取ると、相づちを打って頷く中で、ちらりとプロデューサーにアイコンタクトを送った。

 

          §

 

 深夜ドラマだけあり、脚本は大人向けのシリアス風味。

 ヒーローものと言っても、作品の雰囲気は戦隊系というよりライダー系。

 

 ────それでも構わないですか?

 

 という監督の要望。

 それをプロデューサーから伝えられたヒーローアイドル・小宮果穂は、なんのためらいもなくヒーローポーズを取って返事した。

 

 『はいっ! あたし、そのお仕事、やりたいですーっ!!』

 

 かくして一週間後。283事務所に監督執筆の台本が郵送される。

 それを一読した283プロデューサーは目を見開いた。脳天を背後から殴られた心地だ。

 

 こんな話を小学生にやらせてよいものか。しかも企画の手が混みすぎており、倫理観の綱渡りが発生している。これは今すぐ出演をキャンセルする演者で溢れかえってもおかしくない。だが、元々そ(・)う(・)い(・)う(・)タ(・)イ(・)プ(・)の(・)監(・)督(・)であることは、業界ではとっくに有名である。

 

(これは……仮に出演するとしたら────まず果穂本人とご家族に確認を取る。次に専門家に来てもらって安全を整えたい……けど、それは監督の方でもやっているだろう。でも、こちらとしてもダブルチェック体制で万全を期したい。最後に283プロダクションとしても、世間に迷惑をかけないよう、ファンに心配をかけないよう、世情も考慮して慎重に声明を発表して……────)

 

 そもそも受けないという選択肢もある。だが、小宮果穂のことだ。この恐ろしい企画の内容を知っても、きっとそれでも『やりたい』と口にすることは目に見えている。それは長い信頼関係の積み上げから見越した未来予知である。

 

 危険が伴うことは絶対にないと約束するが、それでも万が一ということもある。

 苦痛が伴うことは絶対にあると言うしかないが、それでもアイドルが挑みたいと願うのなら……プロデューサーとして、やるべきことは────

 

 

 

          §

 

 

 

「────フハハハハハハ! 聴こえているか、ヒーローども! 我が名は魔王ダンジキ! 邪悪を成すために生まれてきた悪の魔王なれば! 我が魔道を邪魔する憎きヒーローどもを一網打尽にするべく、貴様らを、我が結界城塞の中に閉じ込めてやったぞー!」

 

 天の声が響き渡る。

 

「その閉鎖空間から脱出したくば、一名以上のヒーローが『死ぬ』ことだ! さすれば一人の犠牲で全員が脱出できる! ……そう、これはデス・ゲームだ! しかしヒーローである貴様らには、仲間を殺すことなど到底できない。しかも変身ベルトを奪われた貴様らは、もはやただの無力な人間同然ッ! ──故に! 我が勝利はここで確定したッ!! せめてもの情けで飲み水は用意してやったが、容赦ない魔王は食べ物を用意しなかった! この閉鎖空間の中で、全員飢えてお陀仏になっちゃえーっ!」

 

 高笑いする天の声は遠のいていく。

 閉じ込められたヒーローの数は七名。

 レッド・ブルー・イエロー・グリーン・ピンク・ホワイト・ブラックが集まっている。

 

 いの一番に声を挙げたのは、ヒーローポーズを取った熱き正義を誇る小六系女性アイドルのレッドだった。

 

「くそっ! 魔王のいいようにされて黙ってはいられない! みんな! あきらめずに脱出方法を探すぞ!」

 

 そこで、王子系男性アイドルのブルーは、壁に掛かる説明版を読み上げた。

 

「──この閉鎖空間は、一(・)時(・)間(・)が(・)一(・)日(・)の(・)空(・)腹(・)に匹敵する。つまり一時間が過ぎれば、お前らは一日何も食べていない状態と同じになる──だってさ。とんでもないな……」

 

 人の絶食限界は約七日とされる。

 この閉鎖空間では六時間が過ぎれば実質六日目となり、絶食限界がいよいよ間近に迫って来る。

 その時点で絶命する者も少なくないだろう。五日目の時点で餓死してもおかしくはない。よって速やかな脱出が求められる。

 

 そこで、大食い系女性アイドルのイエローが続きを読み上げた。

 

「──さらに閉鎖空間は、六時間後──つまり実質的な六日後──に爆発するよう設定した。餓死するのが先か、爆死するのが先か。好きな方を選びたまえ──か。これはヤバイね……」

 

 まずは全体の構造を把握しよう。

 現在は広間にて、輪を描くようにヒーローたちは立っている。

 北側には、大きく東西に湾曲した螺旋階段があり、二階に続いている。

 二階には、一本の長い廊下があり、両側に十枚ずつ扉がある。扉の先は全て個室で、うち七部屋がヒーロー用の寝室、うち十部屋が謎解きの間、うち三部屋が円卓の間・武器庫・男女別トイレだった。そして廊下の一番奥には、給水所がある。

 

 閉鎖空間の構造を理解したならば、さっそく謎解きに取り掛かるべきだろう。

 野生児系男性アイドルのグリーンと、癒し系女性アイドルのピンクが、そのように勇気を込めて言った。

 これには北欧系女性アイドルのホワイトと、スパダリ系男性アイドルのブラックも同意して、いざ全員で動き出す。

 

          §

 

 謎解き開始から一時間が経過。

 ヒーローの空腹度は、丸一日何も食べていない領域に突入する。お腹がぎゅうぎゅうと鳴り続ける。

 

 一個目の謎解きすらできず手間取っているブルーとイエロー。

 手分けしたほうが良いと二個目の謎解きにチャレンジしていたグリーンとピンク。

 同じく三個目の謎解きにチャレンジ中のレッドとホワイト。

 しかしブラックは、一旦全ての謎解きの間を回ることで、見抜いていた。

 

 全ての謎解きは、答(・)え(・)が(・)用(・)意(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)虚(・)飾(・)であることに。

 文章問題の場合、その文章中に致命的な矛盾が存在する。それは引っ掛け問題でもなんでもなく、解かせる気のない意味不明な文章の羅列だった。おそらく暗号ですらない。

 パズル問題の場合、ひとつのピースを取り上げたことで、絶対に完成することがないパズルだった。おそらく隠されてすらいない。

 リズムゲームの場合、ノーツの反応間隔を一部、致命的にズラすことで、絶対にクリアすることができない音ゲーだった。おそらく故障ですらない。

 

 つまり魔王は、そもそもヒーローたちを脱出させるつもりがなかった。

 当然である。抹殺が目的なのだから、あえて脱出口を用意するわけがない。このまま監禁して餓死を待てば良いだけなのだから。

 

 故にブラックは武器庫に入る。拳銃や金属バットを発見。バットを入手して男性便所に入る。そこの壁は鉄板製だった。容易には突破できない。それでもチャレンジしてみる。バットを振りかぶって壁を攻撃。

 だが、激しい物音が立っただけで、壁が壊れることはなかった。擦り傷が付いただけである。ならばもっと壊しやすい壁を探そう。

 廊下を壁伝いに歩きながらノックを繰り返す。どれも中身の詰まった硬い音が返ってくる。力技での突破は対策済みというわけだ。

 その時、全ての部屋から六人のヒーローが出てきた。どうやら激しい物音に驚いて出てきたらしい。

 

「アル────天道! そのバットは、いったいどうしたんだ……?」

「なんだ。分からないのか? ヒーローと言ってもたかが知れるな。どいつもこいつも無能すぎて、呆れたもんだ」

 

 絶対零度のような蔑みの視線でレッドを見下したブラックは、螺旋階段を降りて広間に向かった。

 

「なんだアイツ……レッド、ブラックなんか放っておいて謎解きに集中しようぜ」 ブルーが言った。

「そうだよ。もうお腹ペコペコ……ってかもうこんな時間……急がないと爆死しちゃうよ!」 イエローが慌て出す。

「しかし、全然解ける気がしません……」 グリーンが落ち込む。

「でもでも、諦めないのが肝心だよ!」 ピンクは激励する。

「…………でも、謎解きだけが正解じゃ……」 ホワイトは、ブラックの狙いに気づいていた。

「……そうだっ! みんな、いっしょにがんばろう!」 最後にレッドが全員の気持ちをひとつにまとめる。

 

 そのためにもグリーンは「まず相談しましょう。そして謎解きをジャンルごとに分けて、それぞれの得意分野に割り振れば、きっとクリアは早いです!」と助言した。全員それに賛同して、いざ謎解きに挑む。

 

          §

 

 謎解き開始から二時間が経過。

 ヒーローの空腹度は、丸二日何も食べていない領域に突入する。頭がクラクラしてきた。

 

 広間で断続的に上がっていた激しい物音は、今では鳴りを潜めている。

 全ての謎解きに挑戦したヒーローたちは一旦、円卓の間で一堂に会し、互いの進捗を確かめる。

 

「ダメだ……全然解けねぇ……」 ブルーは表情は陰鬱だった。

「私も……つか、これ解かす気がないよね?」 イエローは問題の真相に気づきつつあった。

「……もしやブラックは、それに気づいて実力行使を……?」 グリーンは悟る。

「え、そうなの!? 道理でおかしいと思った! つまり脳が疲れただけ……そんなのってないよー!」 ピンクが女の子座りで落胆する。

「……そろそろ空腹も限界です。まさか二時間……いえ、二日分の絶食が、ここまで体を追い詰めるなんて……どうすれば……」 ホワイトは顎に手の甲をつけて考え込むが、脳はどんよりと重く沈んで回らない。

「ぐっ……こうなったら、あたしたちも武器庫で武器を探して、残った体力で壁を壊せば……!」

 

 そうすれば、もしかしたら望みはあるだろう。七人分の破壊力があれば、さすがの鉄板も押し切れるかもしれない。

 だが、そうはさせない。

 天の声が響き渡る。それは魔王の嘲笑だった。

 

「フハハハハ! 苦労しているようだな、ヒーローども! お腹が空いただろう? パンが食べたいだろう? カレーライスが食べたいだろう? ならば────我が軍門に降れ。さすれば脱出させてやろう!」

『なに……っ!?』

「武器庫に闇のゲートを生成した! そこに入れば閉鎖空間から脱出できるぞ。さあ、どうするか選びたまえ!」

 

 天の声が聞こえなくなる。

 すかさずレッドが立ち上がった。

 

「これは、どう考えても罠だっ! みんな、気を強く保つんだ!」

 

 ────そこまでが台(・)本(・)である。

 ────ここまでが“筋書き通り”だった。

 

 ────ここから先は“アドリブ”で、演者は振る舞う必要がある。

 

 現実的な我慢ならない空腹感と、演技的にこなさねばならない役回り。

 その二つを天秤にかけることで、演じるキャラクターの真価は、演者の真価そのものに置換される。

 

「……っ。断食って、こんなにツライのかよ……こんなことなら、受けなきゃよかった……」 ふいにブルーがボヤいた。

「ちょ……やめなよ。カメラ回ってるんだよ……っ」 小声でイエローが注意する。

 

 広間の八方。螺旋階段の各部。廊下の四隅。個室の四隅。あらゆるところにカメラが設置されている。

 唯一、寝室とトイレだけはプライバシーの観点から、カメラは設けられていなかった。

 

「…………闇のゲートは、絶対に罠だ。でも、その罠さえ乗り越えれば……脱出できて、しかも魔王に会えるかもしれない。そこで魔王をぶっ叩けば……」 ブルーは思索を巡らせる。

「……自分から罠と分かってて飛び込むって言うの? そんなの危険だよ……」 イエローは賛成しかねるが、否定する気もなかった。

 

 なぜなら、その名目であれば脱出できるのだから。たとえそれが事実上の降参宣言を意味していても。

 結果、魔王の罠を回避できず、まんまと掛かってしまっても、なんらかの役回りは、まだ期待できるかもしれない。

 もう閉鎖空間にこれ以上身を置きたくない。空腹が我慢できない。それをなんとかするために、役者の務めを正当化し始める。

 

「……そういうわけで、レッド。俺、行くわ……」 ブルーは立ち上がる。

「──えっ……!?」 レッドはおっかなびっくり。

「……なら、私も行く。ブルーひとりじゃ危険だから……」 イエローは便乗する。

「──! ……で、でも、あのっ……こんな時だからこそ、やっぱり、みんなで……」 ホワイトは強い意志で引きとめようとする。

 

 そこでイエローの演技が炸裂した。

 

「じゃあ何!? ここで餓死して全滅しろって言うの!?」 

「はいすみません……っ!!」 ホワイトは目をギュッと閉じて竦み上がった。

「……怒鳴ってごめん。でも私たちなら大丈夫。罠なんて軽くひねり潰して、きっとレッドたちを助けに来るから……」

 

 ブルーとイエローは、一同に背中を見せる。武器庫に向かいだした。

 

「あっ……っ……────」

 

 レッドは何も言えなかった。去り際のふたりの顔は、とても苦しそうな顔をしていたから。

 きっとお腹がペコペコなのだろう。それを知った上で引き止める勇気も覚悟も決意も、今のレッドには持ち得なかった。

 

 最後に天の声が嘲笑う。

 

「────ふっ。フハハハハハハ! チームの心はバラバラだなぁ! レッドぉ!」

 

 

 

          §

 

 

 

 監督の命令は単純明快。

 

 ────ガチで断食した状態で脱出してください。

 

 とある専門家が定めた断食可能時間は、小中学生なら4~6時間。

 高校生なら6~8時間。長くても10時間が限度。

 成人なら8~12時間。ただし演者の健康状態や撮影の負荷次第。

 

 小中学生においては、もはや断食という時間の長さではなく、単なる朝飯から昼飯までの時間しか経過していない。

 だが、現代の安全基準・倫理観・炎上リスクを考えると、そもそもの断食が不可能という結論に至る。

 

 故に実際のところは、撮影前の軽食を2~3時間ほど控え、顔色を悪くするメイクや疲労感を強調する演技指導を行い、“本当に絶食しているように見せかける”というのが、現代撮影世評の実情であろう。

 

 だが、それならば、わざわざ舞台(セット)に寝(・)室(・)を(・)用(・)意(・)す(・)る(・)必(・)要(・)は(・)あ(・)っ(・)た(・)の(・)だ(・)ろ(・)う(・)か(・)……?

 

 真相は、闇の中である。

 

 

 

          §

 

 

 

 監督の話によれば『脱出できなかった場合の脚本は用意していません』とのこと。

 無論、爆発オチはサイテーである。それだけは避けるようにお願いされている。

 

 つまり演者は、演者同士で脱出というゴールを、途中からアドリブ全開で目指さなければならない。

 

 監督の狙いは、その時に生じる個性のぶつかり合いだろう。

 だが、さすがに甘い見通しだった。人を見る目は確かな監督だが、さすがにこのような極限状態で、早々ドラマが生まれるはずがない。

 

 それでも集めた七人の演者のうち、たった二人でもいい。

 最高のドラマを魅せてくれれば、あとはそれを盛りに盛って脚色すれば良い。

 

 魔王役として嘲笑う監督は、人の極限状態における希望と絶望の可能性を撮影すべく。

 自身も演者同様に断食した状態で一心不乱、ただただひたすら血走る眼で、重たいカメラを回し続けていた。

 

 狂気の沙汰である。

 

 

 

          §

 

 

 

 謎解き開始から三時間が経過。

 ヒーローの空腹度は、丸三日何も食べていない領域に突入する。心身ともに限界が近づいてきた。

 

 起床。寝室から廊下に出てきたレッドの頬は痩せこけていた。目尻も垂れ下がって顔色が悪い。

 グリーンやピンク、ホワイトやブラックも同様である。

 

「すまない。壁は壊せなかった。屋根も同様だ。通気口や排水管のたぐいも全滅だ。この空間を建造した人物は、ゴリ押しを視野に入れていたようだな。変身ベルトがない状態では、力技では決して脱出できない、ということか」

 

 ふとした謝罪。

 全員の疲れ切った視線がブラックに集まる。

 

「ところで────生きるとは、どういう事だと思う?」

『……っ?』

「俺にとっての“生きる”とは、“信念を貫くこと”だ」

 

 信念。

 それは具体的に何か。

 

「このまま全滅することは俺の信念に反する。魔王の策略にハマるのは癪だが全滅するよりはマシだろう」

「……っ!? ブラック! だがそれは……!」

「レッド。────俺たちが死ねば、誰が魔王を倒すんだ?」

「ッ……!!」

 

 レッドは青ざめた顔で唇を噛む。

 ブラックは顔色一つ変えず、こんなこと最初から覚悟していたと言いたげに堂々と胸を張って仁王立つ。

 

「誰かが誰かの屍を踏み越えねば世界は救われぬ。ならば俺は宣戦を布告する」

「────……まてっ! ブラック……!!」

 

 叫ぶレッドの喉は掠れており、もはや濁音のついた大声にはなりえない。

 

「俺は、俺と決闘する戦士を求める」

『……っ!!!?』

「舞台は広間のホールだ。しかし日付を跨ぐまで誰も来なかった場合、俺は魔王討伐において最(・)も(・)不(・)要(・)な(・)仲(・)間(・)と判断したヒーローを選んで殺す」

『────────』

 

 ブラックは、レ(・)ッ(・)ド(・)を見ながら、そう口にした。

 

          §

 

 円卓の間で、レッド・ホワイト・グリーン・ピンクの四人は相談する。

 

 ──ブラックの言うことは一理ある。

 ──自分たちはその選択をする決断が遅かった。

 ──覚悟が足りなかった。

 ──でもっ……!

 ──いま脱出できても食料を見つけるまでに野垂れ死にする可能性が高い。

 ──早めに誰が決闘しに行くか決めないと。

 ──本当にこのままじゃ全滅する……。

 ──まだ時間はある。みんなは部屋で休んでくれ。

 

 ヒーローといっても、まだ子供だ。

 正義感は強くても、問題解決能力は低い。それが普通なのだ。

 

 レッドの指示で全員寝室に向かう。

 ちょっとした会議だけだったのに、それだけで脳が疲れてシャットダウンしてしまった。

 もはや空腹は限界。決闘する気力だって本当は残されていない。

 

 武器庫の扉が開く。

 拳銃を見つける。

 赤いマガジン。

 真紅の弾。

 装填。

 

          §

 

 午後23時ジャスト。

 

 黄金劇場のような豪華絢爛の広間(ホール)にて、ブラックは螺旋階段に背を向けて仁王立つ。

 コツコツと足音が降りてくる。

 

 ブラックの背中を見据えて登場したヒーローは、赤毛の少女だった。

 

「……やはりレッドか。来ることは知っていた」

「……ブラックに、仲間を殺させるわけにはいかない……からな」

「ほう。俺ならいいのか?」

「っ……! そんなわけ、ないだろ……! いじわるなことを……言うなっ!!」

 

 レッドの怒号は弱々しい。

 だが侮ってはならない。

 ブラックは振り返る。

 

 互いの心臓を突き刺すような視線が交差し、赤黒い火花を散らした。

 

「……弱肉強食とは、もともと意地悪なものさ」

「……っ」

「強いものが弱いものを喰らって、この先の未来を“生きる”……その運命に勝てる生物はどこにもいない。たとえ、どんなヒーローであろうとも……」

「だからって……ほかにも方法が……」

「見つけられなかったから今こうなっている。……────果穂。俺たちは、弱(・)い(・)ヒ(・)ー(・)ロ(・)ー(・)だ(・)っ(・)た(・)な(・)……」

「────……ああ、その通りだ。だから、二度と、こんなことには……っ!」

 

 腕を組むブラックはそれを解いて拳法の構えを取る。

 すかさずレッドも、後ろ手に隠した拳銃を取り出して構えた。照準をブラックの胴体に合わせる。

 

『────────』

 

 静寂の中、互いの思考を読み合う。

 

「変身ベルトのないレッドは、ただの小学六年生の女の子だ。体格に勝る俺には勝てない」

「ああ。だから遠距離武器を選んだ。もちろん、それだけで勝てるとは思ってないぞ……!」

 

 相対距離10m。

 引き金を引く。すると火薬銃が火煙を噴いた。

 

 予想以上の反作用と衝撃音で、レッドの姿勢が揺らぎ、目を見開く。

 その硬直を逃さず、一発目の銃弾を屈んで回避していたブラックは全力疾走を開始。最短距離を選んで直進する。

 

 たたらを踏んだレッドはすぐさま肩に力を入れて照準を合わせる。

 引き金を引く。その瞬間を捉えていたブラックは爆発と同時に横っ飛びして二発目の弾丸を回避した。

 

 相対距離5m。

 レッドを中心に弧を描いて全力疾走するブラックの脚力は、靴の底面が破けて床にくぼみが残るほど強烈な足取りだった。一歩を踏むたびに床が爆発するような音が鳴り響く。それは練り上げられた筋肉から放たれる瞬発力の打擲音。

 レッドの耳朶に轟く足音は戦慄に値する。だが、それに身がすくんではいられない。

 

(心で負けたら終わりだ……!)

 

 レッドは落ち着いて照準を合わせ続ける。

 ブラックは半周した時点で、懐から光るものを取り出した。

 

(っ?! あれは────ナイフ!?)

 

 レッドの驚愕と同時にブラックは跳躍。厭に長い滞空時間を過ごし、空中で無防備な姿勢を晒す。

 チャンスだ。レッドが引き金を引いた瞬間、空中で半身ひねって弾道を避けたブラックはナイフを投擲。

 

「────ッ?!」

 

 眼前に迫る銀色の切っ先。

 反射的に頭部はのけぞって、剛速球のナイフは拳銃と激突。その衝撃で、レッドの手元から拳銃が弾かれ、ナイフは柄と刃が折れて分離した。

 

「っ……ぁ────」

 

 音もなく着地し、忍び足で刺すように迫るブラックを目にして、レッドは戦慄(ゾッと)した。

 5m先にブラックは飛んでいたはずで、まだそこに足はあるはずなのに、頭部だけは影のように伸びて、レッドの胸の下に潜ってきているような……そんな異常な威圧感を抱かざるを得ない。恐ろしさで強張る目つきと表情。

 だが、既に覚悟していたはずだ。心で負けたら終わりだと。

 

「────どぉおおりゃああああああああああ……っっッ!!」

 

 互いの前腕をぶつけ合わせる。十字を描く激突は、すぐさま次の連撃に繋がる。

 レッドは、相手の胸ぐらを掴んで振り返り、腰を上げて一本背負い。

 ブラックは、懐から取り出した二本目のナイフで滅多刺しにするため腹部と頚動脈を狙うが、迷いのない勇猛な振り返りの勢いに負けてどちらも刺し切れなかった。

 

 見事な一本背負いで投げられるブラックは、5mを縮地して全力突貫した衝撃も合わさり、大きく宙を舞って旋回。轟音を立てて両足から着地する。偶然、足元に拳銃がスライドしてきた。先ほどレッドの手元から弾かれた拳銃である。悪運はブラックに傾いた。

 

 拾い上げて振り返り照準を感覚で合わせて速射する中、ブラックは瞠目する。

 レッドは既に駆けていた。投げる時、ブラックの予想着地地点の近くに拳銃が滑っていくのを目にして休んでいる暇はないと看破したのだろう。次のブラックの行動を予測して、破れかぶれにも動き出していた。その上、直感の動きにしては完璧だった。

 

 姿勢を低くして下半身を隠し、両腕をクロスして顔面を守る。

 故に全弾速射した五発の弾丸は、右の拳と肘を撃ち砕き、左頭髪と眉尻を抉り抜き、最後の一発は左肩に着弾した。

 

「両腕は殺した」

「うわああああああああああっ!!」

 

 雄叫ぶレッドはクロスした両腕を解いて力なく鮮血を垂れ流しながら前傾姿勢で跳躍。乾坤一擲。さながらロケット弾のごとく、渾身の頭突きを相手の胸板に叩きつけた。

 本来なら衝撃に負けてブラックがたたらを踏むはずだが──反対にレッドが打ち負けてのけぞる。なんてこともなく──相殺。ブラックは姿勢ひとつで衝撃を緩和した。さもなければレッドの首は傷んでいただろう。

 

 ブラックは容赦なく相手の胸ぐらを掴み上げる。

 だが、掴んだ拳がそれ以上、持ち上がらない。なぜかと理解した時には遅かった。

 

 ただの頭突きではなかった。打ち負けることも想定して、レッドは相手の衣服を噛んでいた。

 必死の咬合力はワニのように食らいついて離さない。体を持ち上げられてしまえば敗北が確定することを理解している。ブラックの腕力とレッドの咬合力が拮抗する中、レッドは既に次の手を打っていた。……否、打つのは手ではない。足だ。足を打ち下ろす。

 

 撃砕。ブラックの左靴が踏み抜かれる。

 

「ぐッ……!?」

 

 ブラックは、たまらぬ痛みで反射的に姿勢が崩れた。

 レッドの炯眼が光の軌跡を描く。彼女の狙いは、ブラックの右手に握られた拳銃である。その銃口に噛み付いてでも奪い取った。

 

 尻餅を搗く両者、中間に拳銃が転がる。

 

 ブラックは先ほど『両腕は殺した』とうそぶいたが、レッドにはまだ左腕が残っている。たとえ左肩が砕かれていようと、激痛にさえ我慢すれば────

 

「づっ……うああああああ……っ!!」

 

 ────震える左手を伸ばして拳銃を取り戻した。

 

「無駄だ。全弾使い切った」

 

 ブラックは右足のみでふらつきながら立ち上がる。

 レッドも急いで立ち上がる際、拳銃を噛んで左手をカラにし、マガジンを抜いて────懐から一発の弾丸を取り出した。

 

「──……!」

 

 荒い息遣いのレッドは、手負いの獣のごとく敵を睨みながら、しつこく肩を上げ下げしている。

 左手と咬合力を使って排莢。弾丸を薬室に装填。リロード。引き金に指先を添えて、震える左手を一所懸命、持ち上げていく。

 

「────ハァ、ハァ……ぐっ……!! づっ……ハァ、ハァァ……ッッ!!」

 

 限界まで目を見開いていたブラックは瞠目を続けていた。

 戦いというものは、天運を除いた場合、より準備を万端にしたほうが、勝利する。

 

 見合う。

 静寂。

 ブラックが動(うご)────

 

 

 

 ────真紅の撃鉄は下ろされた。銃声が鳴り響く。

 

 相対距離3m。

 ブラックが距離を詰めようと一瞬、動作に転じようとした一瞬の直前に。

 

 レッドは、決着を付けた。

 

 揺らぐ体は、膝から崩れ落ちる。

 

 戦闘時間は三十秒にも満たない。

 最初の発砲音を聞きつけたほかのヒーローたちが螺旋階段に顔を出してきた頃には、疾うに終わっていた。

 

「そんな……!」 グリーンは絶句した。

「レッ……ド……?」 ピンクは状況を認識できない。ひとり抜け駆けしてこんなことをするとは予想だにしていなかった。

「ブラック……センパイ……」 ホワイトは理解した。今あの場では、漢同士の決闘が行われていたのだと。

 

 床に滔々(とうとう)と赤い液体が滴りゆく。

 膝を屈した男は天を仰ぎ、生存を語った。

 

「──フッ……動物も、植物も、みな同じ命だ……俺たちはそれを喰らって生きている。ならば人間は等しく地獄に落ちるべき殺戮の罪人だ。そんな人間に赦される天国があるとしたら、それはこの原罪(じじつ)を受け入れて“生きること”だろう……、あるいは、いつか、その事実を“クリアする”ために……俺たちヒーローは、っ生きて────」

 

 漆黒の瞳から光が消える。

 男は、膝立ちのまま死んだ。否、やおら斃(たお)れゆく体は地に伏して血の池に落ち、鮮血を跳ねて骸(むくろ)と変わった。

 

「────だれかを助けるのが、ヒーロー……だれかの命を助けるのが、ヒーロー……でも、あたしはっ、ブラックを……! ッ……だけど、まだ、あきらめるわけには、いかない……だって、魔王は……ッ! 全ての命を消そうとしているのだから────!!」

 

 透明な雫が止まらない。とどまることを抑えられない。

 滂沱(ぼうだ)のごとく流れ落ちてゆく色づいた涙は、あらゆる虚飾(メイク)を剥いで、生命の真実を露呈させた。

 

「────っ────でもっ……」

 

 独りの少女は、大声を上げて泣き叫んだ。

 

「う、うわぁああああああああああ!」

 

          §

 

 幕が閉じる。

 

「カーット!!」

 

 監督の号令が聞こえた瞬間、ブラック役の天道唯我は跳んで立ち上がった。

 

「よっしゃー! めっちゃいい感じのアドリブになったはず! 監督どうっすか!?」

「パァアアアアアアアフェクトォオオオオオオオオ────!!」

「やったー! おい果穂! さすが果穂だっ!! お前なら俺の決闘に応えてくれると思って────」

 

「うああああああああああっ!!!」

 

「────あれぇ!? ガチのマジ泣きぃーっ?!」

 

 全身、赤いペイントボールもといペイントバレットの血糊(ちのり)まみれで号泣する小宮果穂は、立ったまま天を仰いで目元から大粒の涙を流し、号泣していた。

 

 スタジオに響き渡る痛ましい泣き声。

 

 スタッフの何人かは、その慟哭が移ったようで、ハンカチで涙を拭く者、鼻をかむ者、袖で何度も拭って赤くなった目尻のまま鼻をすすってカメラを回す人々などがいた。

 

「ちょ、果穂……や、まぁ、うん、そりゃそうですよね……でもその、えっと、あのぉ……────」

 

 ひとりの女の子を泣き止ませるヒーローになる。

 かつての公園で秘密裏に努力目標としていた事柄だが、どうもそれはまだまだ遠そうだ。

 

(こ、ここで抱きしめて撫でたりしたら、色々とアレだよな……監督のことだからまだカメラ回ってるだろうし……絶対ここNG集的な感じで切り抜かれるし……かといってそれ以外で落ち着かせる方法も咄嗟に思いつかないし……! く、くそっ! また何もできねーのか俺は……!)

 

 しかし、小宮果穂を落ち着かせることができるヒーローは、ほかにもいる。

 今回は、そのヒーローに頼ることにした。戦隊を見守る司令官とも言う。

 

「────ぷ、プロデューサーさぁん! ヘルプミー!」

 

 大声で呼び出された283プロデューサーは急いで駆けつける。

 かくして撮影は一旦、長い休憩に入った。

 

          §

 

 控え室にて。

 しゃくり上げる小宮果穂は、プロデューサーに猛反省を告げる。

 

「ぷ、ぷろで゛ゅう゛さあ゛さ゛ん゛……! あだ゛じ゛……まだまだ、ひーろーど゛して゛、弱゛い゛……! です゛……!! ぜんぜん、弱い゛ですっ……!!」

 

 小宮果穂は、レッドとブラックの敵対を思う。

 演じるキャラクターのことを思っているわけではない。それも正解だが、少し違う。

 

 なぜなら、あの一連の流れはアドリブだったのだから。

 小宮果穂とアルファの決意から生じた、必然の敵対だったのだから。

 

 お互いに真剣だった。

 本気で殺陣(アドリブ)を演じて殺し合った。

 多くの仲間を助けるため。ひとりの仲間を殺した。……殺さざるを、得なかった。

 

 それ以外の道を選べなかった悔しさ。実力不足への後悔。ヒーローとしての不甲斐なさ。

 ブラックを切り捨てるしかなかった選択に、悔いしか残らなくて、涙が止まらなかった。

 

 最初は、自分が犠牲になってブラックに殺されようという考えが浮かんだ。

 でも、それではブラックに叱られると、すぐに気づいた。

 多くのヒーローたちにも叱られると、たちどころに気づいてしまった。

 

 ────生きること。

 

 それは具体的にどういうことか?

 その信念を、まだ小宮果穂はハッキリと持っているわけではない。

 

 だが、だからこそ。

 自分から生きることを諦める選択は、誰かを助ける選択の放棄なのではないか。

 そんなことを思い、それだけはできないと思った。

 

 台本では『レッドでなければ魔王は倒せない』と書いてあった。

 ほかにも『仲間がいなければレッドひとりでは魔王を倒せない』とも。

 

 世界を救うために魔王を倒す。そのためにブラックを犠牲にするか否か。

 ブラックを助けるために自分が死んで、世界を魔王の意のままにさせてもいいのか?

 

 二者択一。

 第三の選択肢を閃けるのがヒーローだとしたら。

 

 それができなかった自分は────

 

「────……そう、かもしれないな……今、果穂が経験したことは、とても難しい問題だ。俺だって、不甲斐なくて申し訳ないけど、どう答えていいかわからない。だってこればっかりは、人それぞれが答えを持っているものだから」

「う゛ぅ゛……」

「……でもさ。だからこそだよ、果穂。もっと修行するんだ。ブラックを助けられるように、一緒に修行していこう……!」

 

 ヒーローとは、不可能に立ち向かう戦士である。

 

 みんなを助けて、世界を救う。

 では、みんなとは、どこからどこまでを含むのか。

 もちろん、胸を張って“すべてだ”と言いたい。言える奴がヒーローだ。言えて実現できる奴はスゴいヒーローだ。

 

 最後まで生きることを諦めず、誰かを助けるために誰かと戦う、崇高な使命をその身に宿した覚悟ある戦士。

 自らの信念を貫く生き様は、だからこそ強く目に焼きつき、カッコよくて憧れる。

 

 小宮果穂が目指すヒーローの形は、またそれとは違ったものだが────

 

「────はい゛っ……!! 次は、負け゛ませ゛ん゛……ッ゛!!」

 

          §

 

 その後の撮影は滞りなく行われて、映像作品は完成した。

 評判は上々だったそうな。特に名シーンは、やはりレッド役の小宮果穂の号泣シーンであり、カット後の号泣までエキシビション映像としておまけ特典に付いていた。すると、どうやら監督は小宮果穂のファンらしい、という説がSNS上で浮上する。だとするならこれは、なんて歪んだ愛だろう。

 

 

 

 一方、その後の物語としては────

 

 ブラックの死によって閉鎖空間から脱出できたレッド・グリーン・ピンク・ホワイトの四人は、急いで基地に戻って食事を取り、休眠。

 

 魔王城に立ち向かう際、魔王に洗脳されて手駒にされたブルーとイエローが敵として立ちはだかる。

 そこでグリーンとピンクが『ここは僕/私たちに任せて先に行け/行きなさい!』と言ってくれた。

 

 仲間にその場を任せたレッドとホワイトは魔王城に殴り込み、魔王と対峙する。

 

 ヒーローの中で最も高い戦闘力を有するブラックが居ない今、戦隊は恐るるに足らず。

 そのように嘲笑う魔王だが「お前はひとつ思い違いをしている」とレッドは告げる。

 

 ブラックの魂は、まだ自分たちの中に宿っている。

 それを魔王は根性論だと一笑に付すが、そうではない。

 

 実はレッドの師匠はブラックだった。

 彼から戦闘術を教わっていたレッドは、今こそ封印していた暗黒の力を解禁する。

 

 だが、それは復讐のために使うものではない。

 たしかにブラックが死んで悲しかった。悪いのは魔王である。だが、殺したのはレッド自身だ。

 しかしそんなことよりも、果たさねばならぬヒーローの使命がある。

 

 それは、魔王から世界を救うことだ。

 

「それが、ブラックの遺志だった!」

 

 レッドの真紅のパワーと、内に秘めていた暗黒のパワー。

 さらにレッドが暗黒のパワーに呑まれないよう、ホワイトが純白のパワーでサポートし、究極奥義を発動する。

 

「くらえ! これで終わりだーっ!」

「ぐわあああああああああ────!!!???」

 

 紅蓮暗黒精霊拳の一撃で魔王の肉体は滅び、精神は魔界に退散する。

 かくして世界は救われた。ブルーとイエローも洗脳から解放された。

 

 しかしブラックという犠牲は、レッドたちの心に重くのしかかった。

 それでもヒーローたちは負けない。正義を志す限り、諦めることはないのだと。

 

          END

 

 

 

          §

 

 

 

 休日の昼間。

 プチパレス。小宮果穂の自室にて。

 

「アルファさん。座ってください」

「はい……」

 

 互いに正座して向かい合う。

 小宮果穂は、最初こそもじもじとしていたが、覚悟を決めて問いかけた。

 

「……アルファさんは、もし、同じ状況になったら……同じことをするんですか……?」

「するよ。それが俺の考えるヒーローだもの」

 

 呆気ないほどの即答である。

 だが、そう答えることはなんとなく分かっていた。

 

「……あたしは、まだ、よくわかりません……」

「迷うのは悪いことじゃない。むしろ良いことだ。何が正しいのか、常に疑っている証明だからな。疑うってことは、正しいものがあることを信じているからできるんだ。しかし俺は正しいものなんてわかんねーから、自分の回答を既に決めつけちまってる」

「…………」

「これを『スゴい』と褒める奴もいるけどな。見方を変えれば思考停止とあんま変わらねーのよ」

 

 そうは言っても、きっと彼は、もしその時の状況が違えば、その時の最適な判断を下せるのだろう。

 その最適な判断というものが、誰にとっての“正しい”なのか、彼にとっての“理想”なのかは、さておき。

 少なくとも彼は、疾うに選ぶ道を決めているようだ。あらゆる極限状態における選択を既に常から想定しているようだ。

 

「……なら、もし、同じことがあった時は……あたし、ブラックも助けますっ!」

「……──そうかい。ま、がんばれ」

「はいっ!」

 

 腕を組む青年は照れ隠しに俯いて失笑したが、

 対する少女は満面の笑みで正面から告白した。

 

 

 

「ぜーーーーーーーーーーーーーーーったいにっ! 助けてみせますっ!」

 

 

 

          §

 

 

 





 あとがき

 ── スタッフロール ──

 レッド  小宮果穂
 ブルー  男優A
 イエロー 女優A
 グリーン 男優B
 ピンク  女優B
 ホワイト 葛城リーリヤ
 ブラック 天道唯我

          §


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