【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
「ことねさんは、スゴいですーっ!」
「うおっ! 果穂ちゃん……急にどしたの?」
プチパレスに響く濁音。
急な称賛は小宮果穂の良い癖である。
褒められると自己肯定感が爆上がりする藤田ことねは、表面上こそ取り繕っているが、既にチョロくも完落ち気味。
「ことねさんは、どうしてあたしの気持ちが分かるんですか!?」
「んっ?!」
「ことねさんは恋愛マスターですーっ!」
「────ちょちょ、一旦落ち着こうか……?」
藤田ことねは憩いの間のソファに勧める。
さらに給湯器からお茶を入れて一服した。
「────ぷはぁ! おいしいですっ!」
「それは良かった。で、なんの話なのかな?」
「えっと……あの『ふわふわ』って曲ですっ!」
「あ~。果穂ちゃん聴いてくれたんだ? ありがと~! ……でも、それがなんで褒められることになるのかな?」
「だって、あの曲を聴いたら────」
小宮果穂は瞳を輝かせながら答えた。
「────歌詞が、あたしと同じ気持ちだったんですーっ!」
「……っ!!?」
「あたしが思っていたこと、ぜんぶ歌にしてくれました! だから、ことねさんはスゴいんですーっ!」
藤田ことねは万事理解して深呼吸する。
この心地よい小学六年生の居る空間の空気を吸って吐きたくなくて吸っていく。
(な、な────なんだぁこの激カワ純情小6はよぉーーっ!! 可愛すぎんだろ! ど
こほん、と咳払い。
浮かれる内心とは裏腹に、厳しい現実を教えておく。
「なるほどなるほど。でも果穂ちゃん。作詞家さんの存在を忘れてはないかな~?」
「ふぇ? ……────はっ!」
「そう。たしかにあたしは歌ったけど、あの歌詞を書いたわけじゃないんだナー」
「そ、そうでした……! あたし、つい、はしゃいじゃって……! ごめんなさいっ!」
「いやいや、いいのいいの! 作詞家さんたちにも伝えとくね? 果穂ちゃんが絶賛してたって! 絶対嬉しがると思うからさー!」
といっても面識はないと思われるため、そこは学園プロデューサーを介して伝えることにはなるだろう。
それはそれとして、恋バナができる雰囲気である。
(小学生の恋愛事情なんか、どーせ初々しいもんだからどーでもいい、と思っちまうけど……役に立つかどうかじゃなくて、単純に気になる思いもある! それが元プロデューサーとも関わりがあるならなおさらだろー! あーもうっ! 複雑だけど……ちょっと聞いてみよっかな……?)
藤田ことねは試し半分、挑み半分で問いかけた。
「その……具体的に、どのへんの歌詞が響いたのかな~? ……なんて?」
「全部ですっ!」
「おお、全部と来たか!?」
「あ、でも、まだしたことないのもありましたっ!」
「……したことない……?」
「はいっ! あたしとアルファさんは学校が違うから……教科書とか、部活とか……あと、アピる……? は、まだしたことないですっ!」
「────────」
藤田ことねは内心吐血した。
純度の高いイチャイチャを想像して恋バナ欲が満たされたのがひとつ。
好きな男が別の女とイチャイチャしていたショックがひとつ。
「むしろそれ以外は制覇したというのか……あたしの(学園)プロデューサーとも、まだそこまでは行ってねぇのに……」
「?」
小学生より遅れているのは高校生としてどうなのか。
いやそっちが早いだけだ、とツッコミたいところだが。
────負けてはいられない、というのも一つの想い。
だがその前に情報収集が必要だ。
「えっと、果穂ちゃん。つかぬことを聞くけど、さ。そのぅ……(青髪の)プロデューサーは、さ? ……何人囲ってんの?」
「ひみつですっ!」
「秘密にされなくても知ってるよ広とリーリヤと咲季だろぉ!?」
「えぇっ!? な、なんでわか────いえっ! なんでもありませんっ!」
「バレバレだよーっ! お前ら何度あいつの部屋に遊びに行ってる場面を目撃されてると思ってんだーっ! ウワーッ!」
ならばなにゆえ尋ねたのか。
自爆気味の藤田ことねは、自分でも何がしたいのか分からない。苦しんでいる。
「くそぅ……あたしもイチャイチャしてぇ……でも混ざりてぇって感想はちょっと違う……独り占めしてぇ……」
「……! ────も、もしかして……ことねさんって、ことねさんも……! アルファさんのことが……!?」
「ぐっ……そ、そうだよー! 悪いかー!」
「……、いえっ! 何かを好きになることは、ぜんぜん悪いことじゃありませんっ!」
「じゃあ今、ちょっとばかし黙ったのは、なんでなのか言ってみろぉー!」
「あたしも独り占めしたいからですーっ!」
どうやら意見は一致したようだ。
藤田ことねは手を差し出す。
小宮果穂は最初ぽかんとして小首をかしげたが、なんとなーく意味を察して握手した。
「よしっ! 果穂ちゃん。お互い女の想いをぶちまけあった仲だ。これで恨みっこ無しと行こう」
「……?」
「……えっと、つまり……その……これから、あたしもアタックするから……と言いますかァ……」
「! ……──はいっ! いいと思いますっ!」
(じゃあ今のちょっと長い沈黙はなんだったんだー! 小学生が無理してんじゃねーぞー!? いい子すぎるだろーがよぉ! ──ってか、そもそもこれは小学生が云々の問題じゃねぇ! あのクソスパダリプロデューサーが悪いんじゃボケーっ!!)
内心大暴れする藤田ことねは、ソファの上でも両脚をジタバタとさせる。スカートが舞い上がって大変そうだ。
「────……ハァ~。つっても、全然そんな機会が巡ってこないんだよねぇ……」
「……? 機会……ですか?」
「だって、ここ天川駅から近いじゃん? 今のあたしの仕事先は大抵天川駅周辺だから、プチパレスに移り住んだわけで。それで多少は交通が楽になったんだけど……ま、浮いた時間の分も全部ほかのことに当てちゃってるからさー。アイドルが恋愛にうつつを抜かしている暇なんてないわけですわ」
がっくし。
と、藤田ことねはソファの肘掛けにうなだれる。
「……その、ことねさんって、いつも何してるんですか?」
「え~? 別に……アイドル活動でしょー。掛け持ちアルバイトでしょー。学業に部活動。休日はちびどもと公園で遊んでぇ、家事もする」
「えっ!? それは……大変ですっ……!」
「まぁねー」
軽く流す藤田ことねは、それが他人から見て多忙を極める毎日であることに気づいていない。
それが彼女にとっての日常なのだから、自覚症状がないのは自然なのだが。
少々心配になってくる。
故に小宮果穂は決心した。
住人の心の平和を守るのも、代理人の務めである。
「あのっ! ことねさんっ! あたしにいい考えがあります────!」
§
休日のプチパレス。
アルファの部屋にて。
廊下側から扉を開けた小宮果穂は、藤田ことねを中に通して、室内に居るアルファに挨拶する。
「それではアルファさん! ことねさん! ゆっくり休んでくださいっ!」
────バタン。
閉じられた扉。
その脇で佇む金髪少女。
「…………」
「…………」
なぜだか気まずい無言の時間。
アルファは座布団の上を勧めることもなく、ただ一言。
「小学生にセッティングされるのは恋愛弱者すぎでは?」
「カッチーン! あーあー! そーゆーこと言うんですねー!? あたしも思ってますよーだっ! このっ、ばーかっ! ばーか!」
「まぁまぁ。減らず口のガキの接待でもよければ、どうぞお座りくださいな」
「……っ……まぁ~ぁ? そこまで言うなら~?」
ここで引き返すのはもったいない。
せっかく同じ休みの日が取れたのだ。それについても甘えるように文句を言ってみる。
「そもそも、そっちもそっちでプチパレスに居なさすぎじゃないですー?」
「それは俺の台詞でもありますよ。毎回口説こうと思っても折り悪く不在なのがしょっちゅうです。ま、お互い多忙を極める人種なんでしょう」
「さいですか……なら、普段どこで何してるんです?」
「ヒーロー活動」
「えぇ……」(本気で言ってんのかこの人?)
青ざめてドン引きする藤田ことねだが、妙な説得力を感じて納得してしまう。
(あたしの父親の件もそうだけど……ほんっと、不思議な人だよなー。本当はうちのちびどもとそう歳が変わんねーってのもなんかのバグだろ……全然そうは見えねぇ……)
「なんか最近口が悪すぎじゃないです?」
「プロデューサー成分が足りなくて荒んでるのかもしれませんね~? 学園プロデューサーも今じゃたくさんの担当がいて、あっちこっち引っ張りだこで大変ですから~。──それも、誰かさんが一気に大勢の担当を預けちゃったせいでね~。あーあー。誰かに慰めてほしいなー?」
目を閉じた無表情でなんてことのないように言うが、その心中はさめざめとしている。
しかし後半の台詞は、明らかに誘い受けというやつだった。
「んー。いざこうしてチャンスが来てみると、歯止めがかかる不思議……」
「ハァー!? なんでですー?!」
「さあ? ……あ、もしや姉御成分を感じるからでは? 実は俺“姉属性”がきら……弱いんですよ」
「今“嫌い”って言いかけましたー?!」
「はは。そんなわけ。はは」
アルファは手を叩いてひとり爆笑するが、傷は深そうだ。
笑顔なのに薄目の奥の瞳が笑っていないのである。
「もしこれが月村さんなら……いやダメだな。やっぱり、いじるだけで終わりそうだ」
「……」(今は、ふたりきりなんだから……ほかの女の名前とか出すなよな~……)
「ん~……かわいい。と、思えば抱ける……と、思いましたが……んー────」
「っ。な、なんだよぉ……あたしが可愛くないってのかー! ……ほんとに?」
「誤解です。可愛いと思っていても……こればっかりは、俺のほうが誘い受けっすね。自分から手を出す気はない。この前も(妖精境の件で)誘ったのに来てくれなかったし?」
「あ、あれは……! ちょっと、急用が入って……!! ほ、ほんとですからねぇ!? ……っ────」
何かの駆け引きが生じている。
藤田ことねは冷や汗を流した。
別に体を許す気はない。が、その手の雰囲気になればワンチャン有りだとは思っている。
それはそれとして、どうやらアルファは自らアタックする気はないようだ。
つまり藤田ことねの方からアタックしなければ進展は望めないということ。
「くっ……!」(ゆ、勇気を出せぇ……! せっかく果穂ちゃんが用意してくれた機会なんだぞぉ……!? このチャンス、逃してなるものかぁ……!)
藤田ことねは動き出す。
起立。座卓を回り込む。アルファのとなりにある座布団に正座。
ターン終了。
『…………』
座卓に頬杖をつくアルファは、傍らで目をつむり正座する、仏像か何かになってしまった少女の横顔を観察している。
対する藤田ことねは、次の行動について悩んでいた。
(ず、ずっとあたしのターン……しかも、青髪のプロデューサーはとんだエロガキ……ってことは、大抵のことは拒否らない……ってことかァ?! そ、それは、つ、つまり……! ああ、あんなことや、こんなことしても……いけるって、ことかァーっ!?)
何を想像したか、お目目ぐるぐるで頭を回し始める。
その思考を読み取ったアルファは軽蔑ではないが、呆れるような細目で見守っていた。
「っ……ふ、藤田ことね、いきます……!」
「まるでパイロットのような出撃セリフ」
座布団の上に這わしていた華奢な手つきは汗をかきながら、ゴツゴツとした手の甲に触れて覆った。
『…………』
華奢な手つきは真っ赤に急騰していく。
とっさに逃げようと引いた手を、ゴツゴツとした指先が捕まえて恋人握りを強いた。
「ひゃあああああああああああああ────!?」
プチパレスに震撼する黄色い悲鳴。
もしこれがドラマなら3カメで、映像は激しく揺れており、藤田ことねの絶叫顔と仰天ぶりがじっくりと抜き取られていた。
廊下側からドタドタと足音。
勢いよく扉が開かれた。小宮果穂と、なぜか篠澤広が顔を出す。
「アルファさん! また何かやったんですか……? めっ、ですよ!」
「アルファ……わたしたちを巻き込むなら今のうち、だよ?」
「藤田さんが何かやらかしたとは思わないんですか。まぁご明察で、なんか俺がやらかしたようなんすけど……」
藤田ことねは、ヤたらムチャしやがったポーズで死んでいた。いわゆる尊死のようだ。
「広ちゃん……そっとしといてあげよう。ただのしかばねのようだから……」
「あ、いたんだ、リーリヤ」
「わたしもいるわよ! 最終的に青のプロデューサーはわたしとプロデューサーがゲットするんだから、ほかの女にうつつを抜かしていても構わないわ! 最後にこの花海咲季のところに帰ってくればいいんだもの!」
「咲季さんも姉属性なので本当は苦手なんすけどね」
「なんでよっ!? いきなり新情報を出して混乱を誘おうと思っても無駄よ! ……どうして姉属性が苦手なの?」
アルファは、小宮果穂と篠澤広と葛城リーリヤと花海咲季の後方に、青系の髪色を見つけて訝しむ。
「ん? ──……月村さん? まさかあなたも
『────────────────』
アイドル達は固まった。
なぜそれがバレているのか。否、今しがた花海咲季が答えてしまったではないか。
姉属性の話題。
それはアルファと藤田ことねの会話を盗み聞きしていなければ理解できないワードのはずである。
「……
「うっ……! ごめんなさいことねさんアルファさん……っ! どうしても気になっちゃって……っ!!」
「わ、わたしは偶然通りかかっただけなので……! 本当ですからね、センパイ……!」
「わたしはリーリヤより早く通りかかって、それで……果穂と広が扉に耳を当てていたから、その……ごめんなさい……」
「……私は謝らないよ。みんなが扉に耳を当てていたら、そりゃ気になって見に来るでしょ。そしてまだ何も聴けてないし」
月村手毬の言い分は尤もである。
それはそれとして、藤田ことねはキレた。起き上がりざまに文句を言う。
「な────んだよそれ……お前らー! せーっかくの一対一の時間を邪魔しやがってー!」
『ごめんなさいーっ!!』
小宮果穂は九十五度のお辞儀をしてから退散。篠澤広もついて行く。
葛城リーリヤも同様にお辞儀して撤退。花海咲季は腕を組んで仁王立ちをかましたあと、なぜか尊大に帰路に就いた。
残された月村手毬は、純朴に問いかける。
「……そ、それで、ことね……さっきの悲鳴は、なに?」
「なぁ────!? なにって、なんでもねーよーっ! いいから手毬も帰れっ!」
「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃん! 心配したから見に来てあげたのに! もう知らないからね……っ!」
月村手毬は怒りつつも、きちんと扉を閉めて逃げ去る。
かくして静けさが取り戻された個室。
藤田ことねは座布団から立ち上がって、元の真向かいの位置に戻って正座した。
胸を抑えてドキドキを感じる。
(ふ、ふぅ~~~~……や、やべぇ……既に結構満足してる……だ、だって、恋人つなぎ、しちゃったっ……こ、こんなに破壊力あって、心が満たされるもんなんだ……恋人つなぎって……ふへ、ふへへ……い、一瞬しかしてないのに────脳が、溶ける……ッ!!)
アルファは失笑しないように目を伏せる。相手の心が読めてしまうというのも困りものだ。
対する藤田ことねは時間をかけて勇気を回復していき、再びアタックにチャレンジする。
今度も隣に座って、先程より距離は近く、肩と肩が触れ合うかどうかのギリギリを攻めてみた。
が、長いことその状態で耐え切れなくなり、すぐに逃げようとした刹那────
────耳元でASMRのごとく囁かれたことで再び絶叫してしまい、また廊下がドタバタしてきたことは……語るまでもない恋バナであった。
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