【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
プチパレスの休日の朝。
アルファの部屋にて。少なくない人物が過ごしていた。
「どーしてアルファさんは、そんなに女の人が好きなんですかっ」
「ついに問い詰められたか……さすがの果穂も我慢の限界らしい」
その限界なら、とっくに何度も超えているだろう。
そして小宮果穂自身も、何度同じ質問──という名の苦言──を呈したか数え切れない。
恋愛や恋人に関する話題では、いつも……
──好きなものは好き。
──能書きが気に食わない。
──いつか早死するから悲しませないように。
──セフレなんだから何人抱いても構わないだろう。
──法令や仁義に反しているわけでもなし。自由に遊ばせてくれ。
──苦しむくらいなら潔く身を引いて、自分を大事にしてくれる別の男のところに行け。
……などなど、出てくる答えは数多いが、一貫して突き放すような態度を取ってくる。
呆れたものである。よもや女を抱かねば生きられぬ体でもあるまいに。
かといって女の側も、この繰り返す押し問答にはだいぶ飽きてきた。
ねたみ。そねみ。しっと。ひとりじめ。どくせんよく。
彼が本心から女体を求めて行動しているのなら。
こちらとしても本心から求めたって良いだろう。
好きな人のほっぺたを。
「ちゅっ!」
突然のほっぺたにキスを喰らった青年は、脳が溶け落ちる代わり口角が釣り上がって鼻先を赤くした。
「────な、なん……」
「アルファさん! 大好きですっ! だいだい、だーいすきですっ!」
突然の突撃ベアハッグを喰らった青年は、ひっくり返る心地で小さな女体を抱き留める。
羞恥心のあまり相手の顔を見られない。そのため何を考えているのか読み取れない。
珍しく後手後手に回る青年は、胸板に感じる豊満な感触に脳が縛られて唸った。
「は……恥ずか死ぬから、やめてくれ……──だれの入れ知恵だ……?」
「ことねさんですっ!」
アルファは決意した。かのぶりっ子な藤田何某を懲らしめてやろうと決意した。
アルファには甘え方が分からぬ。親愛が分からぬ。
けれども性欲は理解できた。だが、それ以外のことには、とんと疎い。
「あたま……なでてください?」
「…………」
あぐらをかいた膝の上で猫の手をする赤毛の少女の小さな体を抱き締めながらアホ毛を巻き込んでわしゃわしゃと祈るように撫で回す。くつくつと嬉しそうな声を聴くたび多幸感を覚えるが、その気持ちをどのように発散するのが正しいのか、青年には分からない。
ただ頭の悪いことを考えるばかりだ。
「……なんか欲しいのか?」
「?」
少女は、たくましい胸板の衣服に頬ずり。くんくんと嗅ぐ。好きな匂いだった。
心臓の鼓動を感じる。ただそれだけで満たされる。あったかい。
「……ただ、ずっとこうしていたいですぅ……」
「…………」
青年は、頭を撫でる左手と、柔らかな背中を抱く右手とを結ぶように力を込め、まるで胸の中の奥に閉じ込めるようにかき抱いた。
「うぅっ……苦しいですぅ……でも、もっとだきしめてくださいぃ……」
少女は思う。
抱きしめ返してくれる、ということは、気持ちが通じ合っていることだと。
そんな無垢な少女は気づかない。
青年はそっぽを向きながら、どこか泣きそうな表情だった。不機嫌という感じではない。ただ、赤毛の上に横顔を寝かせ、複雑そうに虚空を見つめている。
「────なんて顔してるの?」
ふいに篠澤広が問いかけた。
心底意味不明と言いたげな声色だった。
ハッとした青年は咄嗟にいつものポーカーフェイス。
目を閉じて頬を膨らませ、不機嫌そうに軽口を叩く。
「なんすかー。そっちも普段から似たような顔してるくせにー。俺がほかの女の子と話すたび目から光をなくしやがってー。そういうの怖いからやめてくださいー」
「……わかった。じゃあわたしも参加する、ね?」
今まで座卓の前で休憩していた篠澤広は、アルファのとなりに座った。
「ちゅっ」
突然のほっぺたにキス。この天才少女は何も分かっていない。あえて疑問を棚に上げて輪の中に混ざりに来た。
面喰らった青年は何もできず、鳩が豆を食ったような顔をして仰ぎ、後手に回る。
この時点で小宮果穂と篠澤広は理解したろう。
気難しい相手には、気にしない攻撃が一番堪えるのだと。
「ちょ……まっ……あの……会話成立してない……」
「うん。わざと成立させない。ことねから教わった」
青年は睨んだ。かの邪知愛嬌の藤田何某を許さじと睨みつけた。
「な、なんすか……!? そんなにあたしを睨んでもあたしのせいじゃないですしぃ?! ……つーか、あ、あ……あたしも、まぜろぉ~~~~! うぉぉぉおおっ!!」
どこに攻め込むというのか。
青年の前と右は塞がれている。ならば空いた左と、ついでに後ろを貰おうか。
タックル藤田ことねは今までいじっていたスマホを置いて、いざや出陣。
「ちゅ♪ ちゅ~~♥」
「やめてください恥ずかしい!!」
突然の────キスはなかった。唇は尖らせていたが、触れるか触れないかのギリギリで寸止めしていた。おそらく寸前で尻込みしたのだろう。
それでも声音がチョコレートのように甘すぎて、青年の肩から背中にかけて鳥肌が立つ。
「えっ。うわ、なんか首周りの鳥肌ヤバッ……、……ちょっとちょっと、元プロデュぅサ~? もしかしてぇ……こーゆーあまあまなスキンシップ、実はチョー苦手だったりしますぅ~?」
猫の目となって弱点を見抜いた金髪おさげは、なぜか青年の肩を揉みしだく。
「いつも容赦なく抱いてくるくせにこういうのは恥ずかしいんだ? 安心して。わたしも……だよ?」
「その『だよ?』もやめてくださいオーバーキルです」
包囲された青年は、いつもと毛色の違う甘え方におっかなびっくりして逃亡を試みる。
腕の力を緩め、ハグしていた赤毛の少女を解放し、片腕にしがみつく虚弱な少女を押しのけて座布団から立ち上がろうとする。
「────ちゅ!」
不意に唇を押す感触。真下から赤毛の少女が、逃げる口先を追いかけて捕らえた。
「……」
口元を覆って視線を逸らす青年は、背後の金髪おさげを押しのけて脱出を図る。
バタンと閉められた扉。
男を逃がしてしまった。
解放された赤毛の少女は、ぽかんとした顔で小首をかしげている。
おしのけられた虚弱の少女と金髪の少女は、かたや仰向けのまま、かたやうつ伏せのまま、倒されても不敵な笑みをこぼして感想を交わす。
「どう思う篠澤さん?」
「…………勝った、ね」
「えっ! 何か勝負していたんですか……?」
純粋な小宮果穂は首をひねった。
「んー。期せずして弱点発見、的な?」
「でも本当に嬉しそうで嫌そうだった」
「! それは……きっと『嬉しい』って、思ってくれていると思います! でも、アルファさんのことだから『嫌そう』なのも、きっと本当で……」
「そだねー。闇深系だね~。今時そういうのは女の子だけが流行りなのにね~?」
藤田ことねは両手で頬杖をついて両足を遊ばせる。
「ところでさ。あれでビビるってことは、もしかして普通に手をつないだら、それだけでヤバいんじゃないの? だってめっちゃ顔真っ赤にしてたし~!」
「それはことねなんじゃ?」
「この前のアレはちがうし! あ、あんなエロい手つき、初めてだったから、ちょっとびっくりしただけ~!」
篠澤広の容赦ないツッコミ。
恋人つなぎ程度で悲鳴を上げた弱腰乙女は赤面して言い繕う。
一方、小宮果穂は閃いた。
「────『初めて』……そっか……じゃあ、やっぱり『しあわせ』に慣れてないんだ……だから……!」
篠澤広と藤田ことねは、ぽかんとした顔で互いを見合う。
どうやら付き合いの長い小宮果穂だからこそ、気づけることがあったらしい。
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