【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
pSR【第二藤田家】藤田ことね+α
プチパレス。藤田ことねの自室にて。
アルファと篠澤広が掛け合う。
「アルファ。三回勝負しよう」
「俺の負けが確定する勝負持ちかけてくるのやめてくれます? あなたとの勝負なんて一回戦しか持ちませんよ」
「一回勝負だと私の負けがほぼ確定する。……でもそれがいい、ね」
ふたりは見つめ合う。
かたや青年は眉をひそめており、かたや少女は余裕の微笑み。
「……」
「……」
「……──二回勝負にする?」
「それだと引き分けですね」
「引き分け、だね」
どうやら決着がついた様子。
藤田ことねがツッコんだ。
「あのさ……口論かと思いきや実は惚気けまくってんの、余所でやってくれます?」
「出て行けって言われてますよ篠澤さん」
「それも当然。今日はことねが妻役で、わたしは愛人役だから。キャットファイト、する?」
「しねーよ! ──ちょっとあなた! この泥棒猫追い払ってよ!」
「でもなー。娘と
そのセリフに対し、座卓を囲って犬でも食べられるおやつを食べていた月村手毬・マメ丸・小宮果穂・いろはちゃん・鈴木羽那・篠澤広が順に振り向く。
「は? 娘って誰のことです?」
「ワン!」
「あたしは『同リョウ』役なんですね……!」
「おままごとー?」
「えー。私、何役なのー?」
「わたしは『愛人役』、だね」
藤田ことねは両手で──マメ丸やいろはちゃんが驚かない程度の強さで──座卓をドンと叩く。
「もうっ! あなたはあたしと愛人、どっちが大切なんですかっ!」
「もちろん君さ!
「っ!? ~~ッッ??!?!!!?!!?!?」
金髪おさげは目を見開いて紅潮する。
「それとも、藤田唯我の方が良かったかな?」
「っ────も、もぉぉ~~~~! そ、そういうのはぁ、まだ気が早いと思うんですけどぉぉ~~~~~?」
両手で頬を包む金髪少女は赤面し、身をくねらせて身悶えしている。明らかなデレデレ状態だ。思いっきりのろけているのはどちらなのだろうか? と乙女達は思う。
そのとき月村手毬が、落ち込むように視線を落としてボソッと呟いた。
「……天道手毬の方が似合ってるもん」
一同は目をぱちくりとさせて思いを馳せる。
(そういうこと言うのが娘感満載なんだよな~) 青年は腕を組んで天井の隅を仰いだ。
(また手毬が可愛いこと言ってる) 篠澤広は頬を染めて観察を続ける。
(これどういう反応したらいいんだよ……いいや、無視しとこ……)
(ワン!)
(なんで名字と名前を組み合わせて……? ……あ! そっか! 結婚したら名字が変わるから……!) 小宮果穂は気づきを得た。
(“て”んどー“て”まり? “てて”……“ててっち”! “おてて”っ!) 三歳児はあだ名を考える。
(……?)
一同は雑談しながらお菓子を食べ進める。
そこでアルファが片眉を上げた。
「それにしても月村さん。なんか先日から拗ねてません?」
「っ……! だ、だって……この前は、美鈴が変に割り込んできたから……そ、それに美鈴から聞いたんですよ! わ、私のこと、美鈴にこう言ったそうですね! ────あ、『赤ん坊を抱く気はない』って! あれ本当ですか!」
「やや曲解されていますが、まぁハイ。あながち間違いではないっすね~」
「────!!? ……っ……」
アルファは糸目でバリボリスナックを食べている。
対する月村手毬は歯を食い縛り、目尻に涙が溜まっていく。周囲がワタワタし始めて、藤田ことねと鈴木羽那が叱り飛ばした。
「ちょ……元プロデューサー! さすがに言い過ぎじゃないですぅ!?」
「天道さんっ。手毬ちゃんに謝ったほうがいいと思うなっ」
「んー。ごめんなさい、月村さん。──まぁ俺はほら、このように口が悪いのが本性ですし。なんでも素直に受け取るあなたとは相性悪いと思いますから、別の男を探した方が身の為と思うんすよね。それについて今ここで議論します?」
月村手毬は、喧嘩を売られたと解釈した。
ならば受けて立とう。この生意気な中学生をけちょんけちょんにして尻に敷いてやる。
「────私も口が悪い部類です。なので似た者同士です」 口の悪い藤田ことねのHPが100回復。
「それって後天的ですよね? あと
「それが? 私のことよく知りもしないくせに赤ん坊だなんて決めつけないで!」
「俺が人の心をある程度は読めるの知ってますよね? さっきあなたが涙目だった時に何を思っていたか、今ここで証言してもいいんすよ?」
「そ────っ?! ──おねがい、それだけはやめて……っ!!」 赤面する月村手毬は、口止め料がわりに自分のお菓子を一枚あげようかと考える。
はたして月村手毬は、いったい何を思っていたのだろうか。
藤田ことねと篠澤広は、ちょっとだけ気になってくる。
「正味……俺が月村さんを女性として見れないのは、ほかでもない俺のせいなんです。月村さんのせいではありません」
「……っ?」
「なんせ心が読めてしまうので、あなたが赤児のように純真無垢であることが伝わってきてしまう。そのため性的な食指が動かないんです。そこの鈴木さんみたいに」
「? あたし?」
鈴木羽那はぽかんとする。
いろはちゃんとお菓子を分け合って一緒に練るなどして遊んでいたので、あまり話を聞いていなかった。
「……それで言うなら、果穂はどうなの。彼女、小学生だけど」
「果穂はしっかりしてますので」
「私はしっかりしてないとでも!?」
「…………、……年相応には、しっかりしてると思いますよ?」
「なんで無言がそんなに長いの……っ!!!!!!」
明らかに言葉を選んでいる時間だった。
月村手毬は口惜しくて仕方がない。そろそろギャフンと言わせてやらないと気がすまない。
「分かりました。つまり私の心が綺麗すぎて、あなたの汚い心では眩しすぎるってことですよね。だって私、アイドルだから」
「ハァ?」
「っ────!? な、なんでよ! 事実でしょ?!」
「ええまぁ、俺の心が汚いのは正解なんすけど。……心が綺麗な人はお言葉が過ぎないと思うのですわ」
「くっ────!」
「ふぇぇん。広……元プロデューサーがいじめてくる……慰めて……」 青年は腹話術で月村手毬の声色を真似する。
「よしよし」 篠澤広は、今のが腹話術だと知りつつ、あえて騙されて月村手毬の頭を撫でた。
「ちょ、やめてくれる!? 今のそいつが言っただけで本当に私が思ってたわけじゃないからァ! ほんとだからァ!!」
そうは言いながら、篠澤広の撫で回しを全力で拒否ることはない月村手毬。
そこでアルファが問いかけた。
「ぶっちゃけ、なぜ俺に好意を持ったんです?」
『────っ!?』
月村手毬は目尻の涙が引っ込んだ。鼻を赤くしながら目を見開いて硬直している。結んだ唇は乾き始めていた。
「……い、いきなり、なんですかっ。別にあなたのことなんて……!」
「────なるほど」
「勝手に納得するなぁあああああああああああああああああああ!!」
プチパレス全体を轟かせる絶叫。
マメ丸といろはちゃんはおっかなびっくり。小宮果穂の膝上と背後に避難する。
「わー。すごいおっきい声だったね! 大声大会で勝てそう!」
鈴木羽那が言った。
「ぜぇ、ハァ……ゼェ……くっ……!!」
月村手毬は歯噛み。
そこでアルファが言った。
「俺で膝枕します?」
「……………………」
月村手毬は立ち上がる。
誰もが思った。アルファは彼女を怒らせすぎた。彼女は部屋を出ていく。その後は気まずくなる。なんでそこまで煽ったのか、このいじわるな青年を問いただして叱らなければならない。
かくして月村手毬は、畳に寝そべってアルファの膝を枕にした。
藤田ことねが絶叫する。
「いやするんかいィィィィッ!? 完全に喧嘩別れの流れだったろうが?! オイ手毬! 本当は今日あたしが元プロデューサーを独り占めする日だって分かっての行動かそれはァ!? お前が『私って人気過ぎて忙しいから全然元プロと予定会わないんだよね。チラ? チラチラ?』って泣きついてくるから仕方なく同伴許したんだぞこっちはよォ!」(そしたら騒がしくていろはちゃんが付いてきて、いろはちゃんを探しに来た鈴木さんと果穂ちゃんとマメ丸まで来て、しれっと篠澤さんまでいるし! なんで!?)「だってのにあたしを置いてのお触りは厳禁だろーがよォ────!!」
頭を抱える金髪乙女は体を左右に揺すって身悶えしていた。
「……うるさいな。もう片方の膝は空けてあげてるんだから、そっちで寝れば?」
「────」(ほんとこいつは……根っこは甘えん坊なんだから……まったく……)「はぁ……っし。そんじゃ、行くぞー!」
藤田ことねは一念発起。勇気を出してふれあいに行く。
そうして青年の両膝の上に、蒼髪と金髪が寝そべった。両者満足げの表情。
対するアルファは性欲を抑えるため、目に糸を引いて仏頂面を保っていた。何より今は部外者の三歳児と鈴木羽那が存在する。間違っても手を出してはならない。
「あはっ。手毬ちゃんとことねちゃん、仲良しだね~! そんなに天道さんの膝って寝心地いいのー?」
一方、小宮果穂と篠澤広は、ちょっと寂しい心地。
その気持ちを察したマメ丸が小宮果穂にじゃれつき、いろはちゃんは篠澤広の膝の上に寝転んだ。
「ワン!」
「ねー。あそぼー!」
遊びながら小宮果穂と篠澤広は、鈴木羽那の疑問に答える。
「はい! アルファさんの膝枕はスゴく安心するんですーっ!」
「脚が長いから四人は眠れるよね。ギュウギュウ詰めなら五人は行ける」
「さすがにあれは足がしびれたので、たまの頻度にしてほしいんですけどね……」
疲れた顔をする青年は、あることを思い出す。
「あ、ところで鈴木さん。今日ここで見たことは、すべて部外秘でお願いします。もし口が滑ったら『天道さんがそう言ってた』と言えば、流れ弾が俺に来るんで捌けます」
「? はーい」
鈴木羽那はよくわかっていない様子で返事した。
というのも別のことを考えていた。鈴木羽那はぶっちゃけるつもりはないが、素朴な疑問をぶつける。
「天道さんって、みんなに好かれてるんだね?」
『────!』
「おや。そう見えますか? なんだか面映ゆいですね。俺としては、みんなに嫌われていると思っているのですが」
「うーん。たしかに……それもあると思うなっ? だって口が悪いんだもーんっ。でも、それと同じくらい好きになってくれる人が多いんだね!」
『────』
「そうですね。みなさん優しすぎるんですよ。もうちょっと言いたいこと言ってくれたらいいのにと思わなくもない」
「えー。それは天道さんが素直すぎるんだと思うなー? だって言いたいこと全部口に出しちゃってる感じするもん」
『……』
「はは」
「えー? あはっ」
アルファと鈴木羽那はほどよく笑い合う。
今の話題で笑いどころあったか……? と思った藤田ことねは常識的である。単にアルファの皮肉を鈴木羽那がポジティブに受け取って微笑み合っているだけである。特に意味はない純粋な笑顔である。
そこで純粋な小宮果穂が笑顔で乗っかった。
「はいっ! アルファさんはヒーローですから! ヒーローはみんなを助けるカッコいい人だから、みんなが好きになっちゃうのは仕方のないことなんですーっ!」
「へー、そうなんだー! 果穂ちゃん、ヒーロー好きだもんねー!」
「はいっ!」
アルファは思う。それをそのまま口に出した。
「どうしよう。俺、果穂のヒーロー像に良くない影響を与えている気がする……なぁ果穂? その、一応言っておくけど……ヒーローは別に、みんなハーレムを作るわけじゃないからな? ンなもん言われなくても分かってるとは思うけど……」
「はいっ! アルファさんは例外ですっ!」
「そ、そうか……ならいいんだ。うん……」
殊にヒーローの話題だと雑に扱いたくない故か、アルファは慎重に徹するようになる。
その弱点を見抜いたアイドル候補生たちは徹底抗戦を始めた。
「それなら元プロデューサー。もっとヒーローらしくカッコいいところ見せてよ」
「手毬の言う通りですよ~。この前なんか咲季の奴、元プロデューサーをコーチとしてスカウトしたくて、なんか食堂で大暴れしたらしいじゃないですかー。──あーあー。また初星学園に戻ってきてほしいなー? といってもあたしには、もう最高にカッコいいプロデューサーが既にいるんで~、一度やめたそっちは……そうだ。マッサージトレーナーとかどうですぅ~?」
「わたしは咲季と同じでコーチがいい。またウルトラレッスンしたい、な?」
いきなり始まる引き抜きの話。
これには小宮果穂が待ったをかけた。
「そ、それは……! ア、アルファさんがしたいなら、いいですけど……でも……あたしと会える時間が、少なくなっちゃうので……うぅっ……!」
葛藤してしゅんとする赤毛の少女。
一方の鈴木羽那は、ただ綺麗な真顔で小首をかしげている。ひざに乗ってきた三歳児と向き合って、小さなおててをつないで、鼻歌交じりに社交ダンスをして、楽しいひとときを過ごしていた。
アルファは糸目で泰然と答える。
「特に行く理由がないので、その願いは聞けませんねぇ。ただまぁ……そういう仕事の縁が巡ってくれば、いずれそういう展開もあるでしょう。いつになるかは知りませんが」
曖昧な返事である。
ヤキモキしてしまうが、それこそ彼の手のひらの上になるのだろうか。
度量が問われるアイドル達は、ひとまず憩いの時間を満喫することにした。
§