【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
試合前日。真昼の事務所リビング。
今日はチームピーちゃんが勢ぞろいしており、L字型ソファにふわふわした花が咲く。
「ほわっ……楽しみだね……」
「ちゃんと……できるかな……」
「だいじょうぶ……甜花が、教える……! 甜花の指示に従っていれば、なんとかなる……!」
「甜花ちゃん、頼りになる~!」
そこに偶然、仕事終わりの黛冬優子が訪れた。
「──……っ!」
彼女は入室早々、なんともふわふわした雰囲気がリビングに充満していることを察知して、やや気圧される。
「……わぁ~! みんな、おはよう♡」
「あ、ふゆちゃん……! ふふっ、おはよう……!」
「おはよう……ふゆちゃん……♪」
「あ、おはよう、黛さん……、……」
「おはよう、ふゆちゃーん!」
大崎甜花はもじもじとしている。まさか警戒されているのか。否、大崎甜花は完全に黛冬優子に気を許している。頑なな苗字呼びは単なる趣味趣向の問題。好感度にはなんら影響を及ぼしていない。故に、ここは押し切る。
「チームピーちゃんが勢ぞろいだね~。なんの話をしていたのかな~? ふゆ、気になっちゃう~!」
「あうっ……ま、黛さんも、来る……? というか、いっしょに、遊んで、ほしい……」
「遊ぶ……?」
「うん……! みんなで遊んだら、楽しい……! 今度の土曜日、なんだけど……」
「土曜……うん! その日なら、運良く空いてるよ~❤」
「や、やった……! 戦力、確保……!」
(────戦力?)
若干疑問が生じたが、このふわふわ四人組の行く先だ。きっと黛冬優子好みのふわふわ空間に違いない。
「ほわっ……甜花ちゃん……」
「何をするのか、話さないと……」
「あ、そ、そうだった……!」
「ふふっ。甜花ちゃん、おっちょこちょい~!」
黛冬優子は、ふわふわのまぶしさのあまり、心のめまいがする。
「っ……。──ふふっ! ふゆも、土曜日に何があるのか、気になって今夜、眠れなくなっちゃうな~?」
「そ、それは、大変……! えと、ね……? 今度の、土曜は……!」
「土曜は~……?」
「みんなで、サバゲー!」
(────なんて?)
黛冬優子は笑顔満開のまま、心の中では硬直していた。
というのも、今しがた大崎甜花が何を口走ったのか、よく聞き取れなかった。なんともこの場の雰囲気に合わない単語だったので、生理的に受け付けなかったとも言える。
「えと……最初は、天道さんと行く予定、だったんだけど……その話を、天道さんから聞いた果穂ちゃんが、『あたしも行きたいですっ! アルファさんとふたりきりにできません! あたしも行かせてください!』って言って……甜花は『いいよ』って答えて……そしたら、今度行くサバゲー、放クラが企画でやったことあるからって、園田さんも、西城さんも、社野さんも、有栖川さんも……参加したいって言って……甜花『もちろんいいよ』って答えて……そしたら、西城さんが『人数が欲しいなら17歳組も誘おう』って言ってくれて……そしたら浅倉さんと、樋口さんも、『OK』って言ってくれて……甜花、嬉しくなって、この話を、今したら……真乃ちゃんも、幽谷さんも、郁田さんも、黛さんも……! 『行きたい』って言ってくれて……にへへ……甜花、もしかして、人気者……?」
大崎甜花の説明は、なんとなく理解が及ぶ。
「あ、そうだ! 芹沢さん、運動できて、すごいから……ストレイライトのみんなも、参加、してほしい……! 和泉さんも来てくれたら、頼もしさで百人力……! ──……あう……でも……甜花、ちょっと残念……来週の土曜、なーちゃん、お仕事で、いない……」
『甜花ちゃん……』
大崎甜花は落ち込む。17歳組の中で、大崎甘奈だけ予定が合わなかった。
当の大崎甘奈は『甘奈のことは気にしないで、みんなでたくさん楽しんでおいで!』と言っていた。そうでなくば大崎甘奈も悲しくなってしまうとも。
そのため大崎甜花は姉として、妹を落ち込ませてはならないと気を取り直す。今度の土曜は全力で遊ぶ。そして遊んだ内容を、全部なーちゃんにお話するまでが、
「そういうことだから……よろしくおねがいします……! 黛さん……!」
「────…………う、うん~❤」
なんとか返事ができた黛冬優子は、ようやく現状を理解していく。
(────いや、だから…………なんでサバゲー?)
§
試合当日。
昼前の高層ビル。最上階から数えて
映画のスクリーンのような巨大画面には、真剣勝負中の大崎甜花とアルファの撃ち合いが映っており、試合は佳境も佳境に入っていた。
西城樹里と有栖川夏葉が叫ぶ。
「行け、甜花! そこだ!」
「アルファは疲れてるわよー!」
一方、固唾を呑んで見守る杜野凛世。
それは、先ほどまで合掌していた樋口円香も同様だった。
櫻木真乃はホラー映画でも見ているかのような緊迫感で、となりに座る幽谷霧子の手をギュッと握り締める。
「…………」
一方、最後尾の座席で両手両足を組む黛冬優子は、なんだかんだ食い入るように観戦。
となりに座る和泉愛依も騒いでいた。
「いっけー! 甜花ちゃーん! ────えっ!? うわぁー! きゃー! 勝ったよ冬優子ちゃん! 今の見てた!? 見てたよね!? 勝ったぁああああ!」
「あーもううるさい……いっしょに見てんだから見逃すはずないでしょ……」
そう言いながらも黛冬優子は(よしっ……)と小さくガッツポーズを取っていた。
かくして観戦室は大盛り上がりの真っ只中。
大崎甜花の勝利によって、祝勝のブザーが鳴り響く。
一方、死んだふりをしていた園田智代子、郁田はるき、浅倉透、小宮果穂、芹沢あさひは勢いよく起き上がり、誰が勝ったのか知るべく、アルファと大崎甜花のもとに駆けつけた────
§
試合後。
高層ビルのとなりにはショッピングモールが併設されており、低層階の一部とは巨大な吹き抜けの空中廊下で繋がっている。そのためか、空中廊下には多くの露店が立ち並ぶ。パラソル傘の下に円卓とビーチチェアが揃った憩いの休憩所も点在しており、そこには283のアイドルたちが羽を伸ばしていた。
『つっかれたー! そしてぇ────かんぱーい!』
緊張感たっぷりの銃撃戦を楽しんだあとは、シュワシュワでカラフルなジュースを飲み干す。
燦々と照る陽射し。パラソルの陰に隠れて爽やかな風を総身に浴びつつ、火照った体を程よく冷ましていく。
そして自然と始まる感想会。
小宮果穂と園田智代子が謝罪混じりに叫ぶ。
「あたし、カッコいいから装備した
「私も~っ! 装備って色々ありすぎると、どれ使えばいいのか分からなくなるんだね……! とっさに選べる人は、どうやってるのー!?」
それに大崎甜花が答える。
「えっと……慣れ……?」
「やっぱりかー! 初心者が色々と装備するんじゃなかったー! ただ重たかっただけだったよー! そのせいで走るスピードが落ちちゃって、全然みんなに追いつけませんでした……申し訳ない……どうかご容赦をば……どうか、このお菓子で手を打ってはくれませんでしょうかー!?」
「えと……じゃあ、打つ……そのスナック、ちょうだい……? ──にへへ……ありがと……!」
そして自然と絡まる反省会。
有栖川夏葉と樋口円香が口に出す。
「それにしても、とことんしてやられたわね……」
「ええ……サバゲー。正直舐めてました。なかなか奥が深い……立ち回り次第で、ああも激戦になるとは……」
それについて西城樹里が、困惑気味に返答する。
「や……あれは、さすがにアルファさんが化け物だっただけ、な気が……?」
「不肖……凛世……己が未熟に……恥じ入るばかりで……ございます……もし、次があれば……今度こそ、切り伏せてみせましょう……」
「わたしも次は勝つっす! 一対一なら勝てる! 絶対! だってハナワカ、わたしから逃げてばかりだったもん!」
そこにアルファが現れる。
露店で頼んだ人数分のたこ焼きが全て焼きあがったらしく、それを両手の袋にどっさりと提げて戻ってきた。
「いやそりゃ逃げるでしょ。だれが好きこのんで勝てない戦いに挑むんすか。──勝てる時に挑む。それが戦術の基本っすよ!」
「お、なんか言ってら~。くれ~。たこ焼き~」
浅倉透は、敗者を煽りながら催促する。
たしかにアルファは最後、勝てない戦いに挑んで負けたのだ。至極当然の指摘である。
「まぁ終わったあとならいくらでも言えますから言いますけど……さすがにあのまま引き撃ち戦法は、ガチすぎてダサかったんでネ!」
「あうっ……それは、そう……甜花の、足の速さだと……あのまま、逃げられてたら……甜花、たぶん、負けてた……」
大崎甜花のセリフに、チームピーちゃんがおどろく。
「ほわっ……! そうだったの……?」
「アルファさん、そんなに強いんだ……」
「なんでそんなに強いの~?」
そこで和泉愛依が適当に当てに行った。
「もしかして、サバゲーやりまくってる上級者とか!?」
「あ~……演習をサバゲーと言うなら、まぁ……そんな感じっすね!」
ならばと黛冬優子は得心する。
試合前は、てっきり複数のグループに均等に分かれて競うものと思っていた。しかし蓋を開けてみれば、大崎甜花はさも当然とでも言うように『みんなで打倒! 天道さん!』と宣言して、
つまり大崎甜花は知っていたのだ。
天道唯我という人物が、とんでもない戦上手であることを。
そして、これは下衆の勘ぐりだが。
どうしても気になってしまったので、やんわりと問いかけてみる。
「……そっか~❤ でも甜花ちゃん。なんで天道さんが、そんなに強いって知ってたの~?」
「えと……初心者なのに、オンゲとかで、立ち回り、完璧だったから……きっとサバゲーでも、同じだと思った……! だから……実はサバゲー、上級者だったの……甜花も今、初めて知った……!」
アルファは苦笑いする。
ネットのMMOと現実の実戦はまったくの別物だ。いくら立ち回りが良くても、体力や運動神経に脆く、技量や戦術に暗ければ、今回の大崎甜花のような実力しか発揮できない。全て揃っていたアルファだからこそ、なんとかなったのだ。
というのもアルファ自身、黛冬優子と同じことを考えていた。てっきり均等にグループを分けて競い合うものと思っていたら、いきなり大崎甜花によって『vs283』となったのだ。しかし実力差を鑑みるに、それは妥当な戦力差とも言えた。そのため何食わぬ顔で引き受けたのだ。
それはそれとして突然の多対一に肝が冷えたのも事実である。どうやら大崎甜花は若干天然のようす。
「といっても『STEALTS』と『かくれんぼゲーム』のコラボサバゲーは初めてなので、ゲーム版のルールとの違いなどでは多少、戸惑いもありましたけどね」
それについて“STEALTS宣伝隊長”である放クラが物申す。
「さりとて、かつてのドッキリ以来……さらにバージョンアップした……コラボゲーム……凛世たちも、戸惑うところはありつつ……」
「そうそう。アタシたちも様変わり具合に困惑してたのに、そっちは新ルールの覚えが早すぎるだろ……カタナとか今回初登場なのに、当たり前のように使いこなしやがって……あと、なんなんだよ壁走りって……当たり前のように宙返りを連発するな……体力お化けかアンタは……!」
「それでもアルファさんは、見事に大立ち回りを演じてみせたわね! 尊敬するわ!」
「ただ、これだけは言わせて! アルファさん、エリアを縦横無尽に駆け回りすぎじゃない!?」
「はいっ! ドッグランで~、ワンちゃんたちが走り回るくらいっ! スッゴくスッゴーっく! 走り回ってましたーっ!」
「そうでもしなきゃ勝てなかったんでねー!? 数の暴力を埋めるには、常に先手必勝! あと情報戦に限りますよ。ま、それでも負けたんですが。──というわけで、郁田さん。お仕置きをどうぞ!」
「────……えぇっ!?」
全員の視線が郁田はるきに集まる。
お仕置きとは? という疑問が集まる。
「あ、あれは……その場の雰囲気で言っちゃっただけで~!」
「しかし俺はイエローカードを一枚もらってしまったのでね……これは何かしらの形で、グリーンカードをもらわなければ……」
「そんなぁ~! 別にいいよ~! 本当に気にしてないから~!」
郁田はるきは困ったように両手を振る。
「……イエローカード……?」
一方、小宮果穂は訝しむ。
イエローカードといえば、サッカー。
サッカーのイエローカードといえば、危険な行為の注意。
危険な行為の注意が必要な人といえば、ちょいワルな時のアルファさん。
つまりアルファさんが、危険な行為を、郁田はるきさんに……?
「あのっ! そのおはなし、もっと詳しく聞かせてくださいっ!」
「えぇっ!? 果穂ちゃん……?!」
「はっはっ!」
アルファは豪快に笑ってみせるが、内心では微笑ましさが混じる苦笑い。
小宮果穂の思考を読み取るに、またなんともな感情をないまぜにしていた。
§
「ねぇハナワカ! またサバゲーやろうよ! 次のレギュは“資料回収”とか!」
昼食後。それぞれが談笑する中、突として芹沢あさひが発言する。
表情から読み取るに、どうも対抗心を燃やしている模様。アルファに撃ち負けたのが相当悔しい様子。
「また機会があればっすねー。人気のサバゲーなんで、予約したら基本一ヶ月待ちっすから」
「えー! 今日やりたいのにー! ──あ、そうだ! あの旋空とか、売ってないの!?」
「どうなんすかね? 甜花さん」
「えと……ある、と……思う、けど……?」
「なら、それ買うっすー!」
すかさず黛冬優子が止めに入る。否、すぐ止めに入るのは危険だ。反発心を買って聞く耳を持たなくなると困る。ここは良い方向性に誘導する方が吉と見た。
「でも、あさひちゃん? それを買って、どこで遊ぶのかな~?」
「? 公園とか?」
「なるべく広くて、周りに人がいなくて……そういうところなら、いいかもね~?」
「なんでっすか?」
黛冬優子は懇切丁寧に理由を説く。
それで芹沢あさひは納得したのか、さっそくスマホを調べてサバゲー商品の値段を調べた。
「……うわぁ! 高い!」
「なら俺は買わないっすねー」
「えー! 買ってよー!」
芹沢あさひはアルファの肘を引っ張る。距離が近い。
次の瞬間、そのあいだに小宮果穂が割って入った。
『……???』
芹沢あさひ・黛冬優子・大崎甜花が目をぱちくりとする中、小宮果穂は唇を丸めてわたわたと両腕を開いては閉じ、その場を退散。
対するアルファは机に肘を就いて目元を覆っており、何かをこらえている。それは失笑でもあるし、微笑ましい感嘆でもあった。というのも今しがた、小宮果穂が抱いていた感情を読み取ってしまったため、その共感に羞恥を感じてしまっていた。
つまり、なんとも可愛い
ちなみに、となりの円卓で一部始終を見守っていた園田智代子と杜野凛世は悶絶しており、うつむいて全身をプルプルと震わせていた。銀河級の恋の波動を受けてしまったことで乙女心はオーバーキルである。しばらく少女漫画は読まなくてもいいくらいだ。なぜなら胸焼けしてしまう。
そして西城樹里に至っては腕を組んでおり、なぜかしきりにうなずいている。ただし有栖川夏葉は何も気づいておらず、いきなり果穂が席を離れてはすぐ戻ってきたことに、少し疑問を感じる程度だった。
「────! やっぱりそういうことかっ!!」
「あさひちゃ~ん? そういうのは分かってても言わないのが優しさだからね~❤」(つーか、そういうのには気づくのよね~こいつ……)
「……? ?? なに? 果穂ちゃん……どうしたの……?」
芹沢あさひと黛冬優子はピンとくるが、大崎甜花のみ何も分かっていなさそうな顔をしている。実際なにもわかっていない。
アルファは頭を下げる。特に黛冬優子に向かって会釈する。
「まぁ……とりま、見守っていただければ……」
「うん❤」
『??』
それに関しては、芹沢あさひと大崎甜花の脳天に疑問符が浮かんでいた。
§