【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
283事務所のリビングでは、放クラが揃っていた。
L字型ソファの中央を占める園田智代子と杜野凛世は黙々と少女漫画を読んでおり、園田智代子のかたわらには西城樹里が背もたれに肘をかけて覗き込む。背もたれの裏側では有栖川夏葉と小宮果穂が立っており、三人の頭上から漫画の内容を覗き込む。そう珍しくはない光景である。
いま読んでいる少女漫画の登場人物は、ヒーローくんとヒロインちゃんと、サブヒロインちゃん。
ヒロインちゃんは、ヒーローくんのことが好きすぎるあまり、ヒーローくんのことをもっと知るべく……
それについて園田智代子、西城樹里、杜野凛世がコメントする。
「うおお……すごい執念だね……」
「つか……これストーカー、一歩手前じゃないか?」
「そして、ストーカーまがいの行為が……ヒーローさまに、バレてしまう……」
「ちょっと“痛い”って思われちゃうかもね……! これは……!」
「まぁ……アタシたちは、ヒロインちゃんがどうしてそこまで不安になって調べちゃうのか、過去のつらい理由があることを知っているからいいけど……ヒーローくんは知らないからなぁ……」
やがてヒロインちゃんは、その痛さを親友のサブヒロインちゃんに指摘されたことで猛省。反省したのは良いのだが、ひどく落ち込んでしまう。そしてヒーローくんに嫌われちゃったかもしれない。と、思い込んでしまうが……当のヒーローくんは、実はなんとも思っていなかった。度量の広い好青年である。
しかし、あるとき事件が起きる────
「おぉ……」
西城樹里はビクッと肩を飛び上がらせる。
ヒロインちゃんの両目からハイライトが消えたのだ。真っ黒に塗りたくられた闇の目は迫力があり、ホラー級の怖さがある。
「~~~っ……お願い……ヒロインちゃん……闇落ちしないでぇ……」
「誤解……すれ違い……信じたい気持ちとは裏腹に、引き締まる胸の内……」
ヒーローくんは、転びそうになったサブヒロインの腕を取って助けた。結果的にふたりは、傍から見たらハグをしていると誤解されるほど、体の距離が近くなった。
そこに偶然、ヒロインちゃんが通りかかったのである。そして好きな人と親友が
────『これから三人はどうなるのか!? 次号をお楽しみに!』
「えっ……?! ここで終わってしまうの……!?」
有栖川夏葉から悲鳴が上がる。
これは続きが気になってしまう。いったいヒーローくんとヒロインちゃんはどうなってしまうのか。
園田智代子は、週間少女漫画雑誌を閉じる。杜野凛世と瞑想するように目を閉じて合掌。お祈りを捧げる。どうか彼らに幸あれと。
それはそれとして園田智代子は、まさかの衝撃展開にびっくりしていた。今回はキャピキャピした回と思っていただけに、突然の展開を受けて場が気まずくなってしまわないだろうかと懸念する。そのため少女漫画の読み方について指南した。
「みんな、大丈夫……この手の誤解やすれ違いの展開は、少女漫画の子達に降りかかる絶対の試練なのです……きっと次の回では乗り越えて、以前より距離が縮まるのです……私はそう思い込むことで精神を保っておるのです……」
「そ、そうか……保っていられているようには、全然見えないんだけど……。凛世もそうなのか?」
「はい……保って……おるのです……」
「そうだったの……少女漫画は精神も鍛えられるのね……素晴らしいわ! いつもキラキラした展開だけ見せてもらっていたから、そういうものだと思っていたのだけれど……真摯に恋愛の難しさを描くこともあるのね……正直、甘く見ていたわ……次号は私も買おうかしら!」
園田智代子の合掌祈願。それを見て苦笑いする西城樹里。衝撃展開にダメージを受けすぎた杜野凛世はプルプルと震えている。そしてストイックに捉える有栖川夏葉。その一方で、なぜか小宮果穂の反応がない気がする。
それに気づいた放クラの
『……果穂?』
絶句する。
四人は思わず息を呑む。
『────っ……!?!?』
小宮果穂の両目から光が消えている。
真顔。まばたきのない目元。
佇立。何かを考え込んでいるのか、微動だにしない直立姿勢。
威圧感。ふつふつと湧き上がるような、メラメラと燃えるような、そんな気配を感じてならない。
「……………………」
ぱたんと閉じたはずのページを今も見つめているのか、視線と視点の位置も固定されている。
虚空を突き刺す闇の瞳。
あるいは、今しがた読んだ少女漫画のヒロインのように、つらいものを見て
「……かっ……果穂……?」
「……? はいっ! なんですか、ちょこ先輩?」
小宮果穂の両目が光り出す。
いつも通りのはなまる笑顔を向けてくる。
『…………、……────』
「?」
それぞれ目を合わせる四人組。
一方の小宮果穂は、こてんと首をかしげていた。
「……果穂。その……何かあった?」
「……えっ……!?」
なぜそんなことを聞いてくるのか。何かおかしなところでもあって、それを見抜かれたのだろうか。少女漫画を読んだあとに、そう聞いてくるということは……つまり、そういうことを見抜かれたのか。
動揺する小宮果穂は、今持っている悩み事を言おうか迷う。しかし自分でも心の整理がついていない。きっと説明しようと思っても、要領を得ない話になるはず。加えて、なぜか
それを察した西城樹里が制する。
「や、言いたくないなら、無理して言わなくていいんだ……! ただ、その……ちょっと……さっきのヒロインと、同じ目を、してたからさ…………びっくり、しちまって……」
「……っ!! そ、そうなんですか……!?」
そうなのである。現に杜野凛世は心停止していた。自らの胸を抑えて背もたれに身をあずけている。
病んだ目とは無縁と思われた純粋無垢の赤毛少女が、突として光無き
「果穂。私たちはいつでも助けになるわよ。だって仲間だもの!」
「……! はい……夏葉さん! ありがとう、ございます……!」
小宮果穂は視線を落とす。今のところ相談する気はないらしい。
園田智代子と有栖川夏葉は視線を合わせて心配。西城樹里と杜野凛世も目配せして押し黙る。
「……あ。そろそろレッスンの時間です! みなさん! 鍵を持ってレッスン室に行きましょう!」
『……!!』
しかしそれは、切り替えが早い、というのとは大きく異なるように感じられた。おそらく無意識で無自覚の症状なのだろう。恋バナになると目から光が消えて、それ以外になると目に光が戻る。それはつまり、病名としてはひとつしかない。
────恋の病。
放クラのお姉さん組は、しばらくそっとして見守ることにした。
小宮果穂なら、きっとひとりでもクリアできる問題かもしれない。
自分達のリーダーは、最高で最強の
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