※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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sR【六時限目:恋人ごっこ】小宮果穂

 

 夕暮れの校舎裏。生垣に囲まれた体育館の裏手。

 そこには、小宮果穂のクラスメイトの男子が待っていた。

 

「あ……」

「……っ! ……よ、よぉ、小宮……」

 

 小宮果穂は、丸い目で相手を見据える。

 対する男の子は、恥ずかしさがまさって直視できない。うつむいてしまう。

 

「……これ。あたしに、伝えたいことって……?」

 

 小宮果穂は紙切れを見せて問いかける。

 対する男の子は、両手で服の裾やズボンを握りこむと、深呼吸。咳払い。頬をかく。心を突き動かす。

 

「その────おれ、小宮のことが────」

「……」

「────、……っ……」

 

 歯ぎしりした男の子は、次の瞬間、ぺかーっと明るい笑顔で後頭部をかく。

 

「……ははっ! やっぱり、いつも通りがいいな……」

「……?」

「えっと……おれ、今、小宮に告白しようと思ったんだけど……小宮は、アイドルだし……やっぱ、迷惑だよな……ごめん……!」

「……え?」

 

 ────てか、小宮さん。アイドルだもんね……

 

 思い出す。あの時の言葉。

 その意味。ようやく分かった気がする。

 

 ────でも……アイドルって、恋人を作ったり、結婚できるんですか?

 

 初めて自分が恋をして、気になって、ネットで調べてみたら……色々と書いてあって、もっと気になったこと。

 点と点が線で繋がる。

 

「……そう、かな」

「……え」

「あたしは……迷惑じゃないよ」

「……!」

 

 ────好きなものは、好きでいいのに……

 

 ────伝えるってことは、今の関係を変えるってことだから。

 

 だから、変わることに不安がることはない。

 迷惑ではない。そのように伝えたけど。

 答えは決めている。

 その上で、自分がこんなことを言ってしまって良いのか。言ってしまってから悩む。

 

「……じゃあ、言うけどさ」

「……うん」

「……──おれと、付き合うってのは、どうだ……?」

 

 付き合う。

 しっかりと、その告白を受け取る。

 

 ────果穂。恋人を作れ。もちろん、俺以外で。

 ────さすればおのずと見えてくるものがあるだろう。

 

 邪念を振り払う。

 

 恋人は、好きな人ってこと。この場合は、全然ちがう。

 自分のためだけに恋人を作るのは、自分勝手なことだ。

 

 深呼吸。折り目正しく頭を下げる。

 しっかりと、告白のお返事を返す。

 

「────ごめんなさい!」

「……!! ……っ……」

「あの! これからも、友達じゃ、ダメかな……?」

「…………いいの?」

「うん」

「……なんか、ちょっと気まずいけど……ま、小宮はそういう奴だもんな……じゃあ、これからも友達で」

「……うん!」

 

 もじもじ。もじもじ。

 相対する少年少女は、そわそわとする。

 

「……悪い。引き止めて。じゃあな!」

「──……あ、まって!」

「……?」

「その……少し、おはなしが、あるんだけど……」

 

          §

 

 体育館の壁に寄りかかる少年少女は、人ふたり分の間隔を開けて話し合う。

 

「で……話って何?」

「あたしの、どこが好きになったの……?」

「え……っ……そ、それ聞くか……? っと────え、笑顔……かわいい、な……って……」

「……そっか……えへへ、ありがと!」

「っ……!」

 

 男の子は、向けられた可愛い笑顔に四苦八苦する。

 そして小声でつぶやいた。

 

「……なんだよこれ……拷問かよ……」

「?」

「あー。話って、それだけ?」

「……じゃあ、さ……“恋人”って、なんだろう……」

「……え?」

「なんで、あたしと付き合おうって、思ったの?」

「……! それは……」

「……当てていい? ひとり占め、したかったから?」

「……っ! ……たぶん……」

「そっか」

「……なんだよ。小宮は、ちがうの?」

「ううん。たぶん、おんなじ」

 

 意見の一致。

 たったそれだけのことで喜んでしまう心を押さえつけるため、男の子は理性的に振る舞う。

 

「つーか、みんなそうだろ」

「ううん。そうじゃない人も、いるみたい」

「……そうなの?」

「……わかんない」

 

 伏し目がちの小宮果穂は、両手を背中に回して土を蹴る。

 その寂しげな横顔を見た男の子は、きっと彼女が何かに悩んでいることを察する。

 

「…………」

「……恋人にならないと、わからないのかな……」

 

 ぼつりと洩れた言葉。

 そこから小宮果穂は、あることを閃く。

 

「あっ」

「?」

「……っ」

「 ……なに?」

「……! ううん、なんでもない!」

「……隠すなよ。小宮、そういうの下手なのみんな知ってるし」

「! …………」

 

 小宮果穂は落ち込む。ポーカーフェイスはむずかしい。

 それはそれとして、そう言ってくれるのなら、言ってみよう思った。

 

「ちょっと……いけないこと、思いついちゃった……」

「そうなの?」

「うん。迷惑かもしれないから、イヤならイヤって、ちゃんと言ってほしいんだけど……」

 

 小宮果穂は知りたい。恋人とは何かを。

 

「────恋人ごっこ、しない?」

 

 泣きそうな微笑みの先に、病んだ黒を隠して。

 

          §

 

「────ヒーローごっこじゃなくて?」

「うん。恋人(ヒロイン)ごっこ」

「なんだそれ。小宮らしくないな」

「……──そうかな?」

 

 男の子は何も言わない。

 小宮果穂は、問いかける。

 

「じゃあ、始めるね」

「えっ」

「君は、あたしと恋人になったら……なにしたい?」

「……ッ!? ──……そういえば、何も考えてなかった……」

「そうなの?」

「うん。……おれは、きっと……小宮の“特別”に、なりたかった、だけだと思う、から……」

「特別……」

「さっき小宮は“恋人ってなに”って聞いたけど……恋人ってさ。そういうことじゃないの?」

「……“俺”は、そう思わないかな……」

「……は?」

 

 突として小宮果穂が“俺”という一人称を使ってきた。

 男の子は困惑する。

 

「えへへっ。あたしが男の子設定で、そっちは女の子設定ね!」

「──……えぇっ!?」

「こほん。──俺は、友達とか、恋人とか、夫婦とか、そういう“関係”には、こだわらない」

「……──」

「──と言いつつ、こだわりたくないという思いには囚われている……ということには、さておいて」

「さておいて」

 

 さておいて。

 その言葉の意味や使い方を知らない少年少女。

 しかし小宮果穂は、それでも“彼”の言葉遣いや言い回しを再現していく。

 

「──俺には、たくさんの恋人がいる」

「え……」

「──愛人だって、たくさんいる。それでも君は、俺の恋人になりたいか? 俺は、みんなが“特別な子”だと思ってる。でも、みんな“普通の子”……いや“平等の子”でもあるんだ。この考え方は認められないか? 受け入れられないか? そもそも理解できないか?」

「────」

「──俺の恋人達は、そういう俺の考えを受け入れてくれている。もちろん心の中では、なんで私だけを見てくれないんだーっていう気持ちでいっぱいになって、とても悲しいだろう。寂しいだろう。悔しいだろう。それでも俺は、この愛し方をやめるつもりはない」

「──……」

「──納得できないなら、俺とは距離を置いた方がいい。恋愛観や価値観が合わないのだから。君が疲れてしまうだけだ。……それで、返答は?」

 

 とんでもない男を演じた小宮果穂は、男の子に目配せしてパスを出す。

 

「……! …………それでも、おれは────じゃない。……あたしは、こみ……。君の、ことが────っ……」

 

 男の子は、規格外の恋愛観を前にして、ふしぎと自信が失われていく。

 好きなものは好きでいいのに。どうしてか気持ちが冷めていく。

 

「……やっぱ、迷っちゃうよね」

 

 男の子は、こくりとうなずく。

 

「……嫌いに、なった?」

「──っ! いや……というより……。…………わっかんねえ……」

「ふふっ。あたしも!」

 

 小宮果穂は笑顔で答える。

 

「じゃ~あ~……恋愛ごっこ、おわり!」

「……なんだったんだよ、結局」

「ごめんね? ちょっと、やりたくなっちゃって……こういうの、あたしのことを好き! って言ってくれた人としか、相談できないと思って……」

「相談……」(やっぱ、何かに悩んでたのか)

 

 ────あのさ。もしかして……それが小宮の好きな人?

 

 などと問いかけようとした男の子だが、まさかそんな規格外の人がいるはずもないので、やめておく。きっと小宮果穂のことだから、ヒーロー番組に出てくる変な奴の持論を真に受けて、恋愛について悩んでいたんだろう。と、勝手に決めつけて考えておく。

 でなければ、脳が破壊されそうだ。

 

「……あのさ。小宮」

「なーに?」

「……小宮だったら、今の……どう答えてた?」

「うーん……考え中!」

「……そっか……」

 

 それはそれとして男の子は、好きになった人の悩みくらいは解決してあげたいと思い、問いかける。

 

「なんか、すごいな」

「?」

「そういう人。マジでいるの?」

「……──ないしょ!」

「えー。それいる奴じゃん……どういう人なの?」

「……えっと……」

「あっ。ごめん! やっぱなんでもない!」

 

 危うく自分で自分の脳を破壊してしまうところだった。

 男の子は慎重に言葉を選ぶ。

 

「……ジャスティスⅤのヒーローでたとえたら……どんなやつ?」

「! えっとねぇ……ブラックで、ブルーな人!」

「……男の中の男で、クールな分析家?」

「うん! あ、パープルでもあった!」

「……男なのに可愛い名前で、先輩?」

「えへへ」

 

 花が咲いたような微笑み。

 男の子は、それがブラックでブルーでパープルな人に向けられたものであると悟る。

 

「────」

 

 喜んでくれるとうれしいのに。

 笑ってくれるとチクチクする。

 ないまぜとなる心は、否定を示す。

 

「そいつってさ……恋人とか、たくさんいるんだろ……?」

「?」

「それって、そういうの自慢したいだけなんじゃねーの?」

「──そんな人じゃないよ」

 

 高い声色が、突として低くなる。

 

「……ッ! っ──」

 

 横を見れない。いま小宮果穂は、どんな顔をしている?

 男の子は歯噛みして、片眉が歪む。

 

「……じゃあ、どんな人なんだよ……」

「ダークヒーローみたいなひと。まだまだ分からないことばかりだけど……みんなに優しくて、なんにでも気づいてくれて、大切に見守ってくれて……相手にとっての幸せがあるところに導こうとしてて……」

「……」

「あ。それと、もしあたしが誰かと付き合ったら……」

「え」

「心の底から喜んでくれて、祝福してくれて……あたしの恋人と友達になりたがるかも」

「……──」

「でも、その人はし(・)っ(・)と(・)が苦手だから……」

「……じゃあ、無理じゃん。(おれとか)、絶対しっとするもん」

「ううん。しっとは、いけないことじゃないから……たしかにその人は、ネガティブな感情はきらいだけど……そういう感情を否定しない。否定したら、人間ぜんぶを否定することになっちゃうから。それって、その人自身のことも否定することになるでしょ?」

「…………────」

「だから、しっとを向けられたら笑い飛ばして、ずんずんと仲良くなりに行く。それでも相手がいやがったら、しゅんとして距離を置く。きっと、そういうひと。ひとりが好きだけど、さびしがり屋でもあると思うから……」

「……へー。なんか、すごいな、そいつ……全然、想像できないや」

「うん。あたしも、全然想像できなかった」

 

 出会った時と比べて、多くのことを知ってきたように思う。

 それでも次々と知らないことが出てきて。

 まだまだ知らないことばかりで。

 知れば知るほど驚くことばかり。

 こういうのをなんて言うのか、子供達はまだ知らない。

 

「ほんとうに、魅力的(スゴいんだ)」

「────」

 

 茜色の夕空。

 少女は笑いかける。

 

 茜色の横顔。

 視線を落とす少年。

 

「……あの。おはなし、聞いてくれてありがとう!」

「え……あ、いや……」

「ここで話したの、あたしと君のひみつね!」

「……! おう……秘密だ。約束する」

「えへへ、ありがと! 約束!」

 

 どこかスッキリしたように微笑む小宮果穂は「ばいばい!」と手を振って走り去ろうとする。

 

「あ────小宮!」

「え?」

「────……そいつのこと、好きなのか?」

 

 少年は問いかける。

 返答なんか聞くまでもない。これは潔く諦めるための質問。

 

「……きらい!」

「──は? えぇっ!?」

 

 だったのに。

 

「またあした、クラスでね!」

「ちょ────……」

 

 小宮果穂は、わからない。

 全然、想像できない。

 そういうところが、きっと。

 

「魅力的(へんなやつ)……」

 

          §

 

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