※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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pSR【放課後:ヤンデレクライマックス】小宮果穂

 

 夕暮れの事務所。

 小宮果穂は、休憩中のプロデューサーに問いかける。

 

「プロデューサーさん! 今は休憩中ですか?」

「おう、そうだぞ?」

「では! 恋愛相談、よろしいですか!?」

『っ!?』

 

 となりで休憩中だった七草はづきがコーヒーを吹きこぼしそうになる。

 それを一瞥したプロデューサーは心配しつつ、小宮果穂の真剣な眼差しに真っ向から応える。

 

(久々に来たな……)「よし……いいぞ! どんと来い!」

「ありがとうございますっ! ──プロデューサーさんは、どういう人を好きになりますか?」

「俺か? うーん……俺は、俺のことを好きになってくれる人が好きかな?」

「……つまりプロデューサーさんは、プロデューサーさんを好きな人の数だけ、お付き合いするということですか?」

「────なんて?」

 

 話の飛躍。

 それにも限度がある。

 プロデューサーと七草はづきは、まばたきを繰り返す。

 

「……えへへ、冗談ですっ!」

「────! はは……そうか、冗談か! びっくりしたよ……!」

「でも……もし、そういう人がいたら……プロデューサーさんは、どうしますか?」

「……うん? そういう人って……?」

「たくさん恋人がいることを公言している人を好きになっちゃったら……どうすればいいんでしょう?」

「え……? それは……うーん……その人がどういう人かにもよるけど……」

 

 プロデューサーは“そういう人”がうまく想像できないため、腕を組んで首をかしげる。

 すると小宮果穂は力を込めて説明した。

 

「スゴく! イイ人ですっ! ちょこ先輩と樹里ちゃんと凛世さんと夏葉さんと! あと咲耶さんと摩美々さんとはるきさんと! しかも円香さんと美琴さんとルカさんが合体したような────はぁ、はぁ────とにかく、スゴく、イイ人、です……っ!!」

「──……そんなにスゴくイイ人なら……しょうがないんじゃないかな……?」

「えっ……!」

「好きになっちゃったのなら、どうしようもないし……」

「……! ですよね……!」

「それでも、どうにかしたいと思うなら……それは相手よりも、自分をなんとかしたほうがいいと思うし……たとえば、そういうところを受け入れる度量を持つように努力するとか、あるいは、自分が無理をするようならいっそきっぱり諦める努力をするとか……」

「……相手より、自分……」

 

 プロデューサーは面を上げると、小宮果穂の目を見据える。

 

「だって、相手を変えるのは難しいけど……自分を変えることは、自分次第だろ? ……相手を変えようとして、相手が変わるかどうかは……結局、相手次第だからさ。それって、相手次第で振り回されるってことだし……」

「……そっ、か……」

「自分をしっかり持っていれば、振り回されることはない……と、思う。……で、自分を持つっていうのは……自分次第で決めることなんじゃないかって、俺は思うな」

「…………」(じゃあ、あたしは……何を決めれば……)

 

 小宮果穂は、何を決めればいいのか分からない。

 アルファは関係にこだわらない。小宮果穂は関係にこだわりたい。

 小宮果穂は相手の考えを受け入れたい。アルファは相手の考えを受け入れる。

 

 矛盾。二律背反。

 加えて、胸算用。

 

 小宮果穂がお淑やかになれば、アルファは告白してくる。

 では、現在の小宮果穂が告白したら、アルファは受けるのか?

 それすら──フラれて傷つくのが怖くて──聞けないまま、あれこれ悩んでもしょうがない。

 

(わかってる……わかってるけど……)

 

 クラスメイトの男の子は、どうやって告白する勇気を持てたのか。

 それも相談して聞けば良かった。

 小宮果穂は臆病者だ。否、いつからか臆病になってしまった。

 

(ラブレターを送った時は、こんなに悩まなかったのに……っ)

 

 むしろウキウキで気持ちをお届けした。

 それが今ではどうだ。胸の奥がグチャグチャになって、何をするにも苦しいばかり。

 

 好き。好き。好き。苦しい。苦しい。苦しい。だから嫌い。でも好き。大好き。大好き。苦しくて死んじゃう。もう嫌だ。嫌いだ。大嫌いだ。それでも好きなんだ。

 

(うぅ……)

 

 頭がおかしくなりそうである。恋の病とは、こういうことを指すのか。まったくとんでもない病気に掛かったものだ。こんなの心が耐え切れない。いろいろなものが、はち切れそうだ。

 

「……宿題、かな?」

「────へ……?」

 

 プロデューサーは、悩める乙女の表情を見て察し、そのように助言した。

 

「果穂……もしかして今、とても苦しいか……?」

 

 小宮果穂は、こくりとうなずく。

 

「……今すぐなんとかしないと、どうにかなっちゃいそう……?」

 

 こくこく、とうなずく。

 

「でも、たぶん……今すぐの解決は、難しいか?」

 

 こっくん、とうなずくほかない。

 

「なら、やっぱり宿題だな」

「……どうして、ですか?」

「果穂が焦ってるように見えたからさ。自分次第の問題なら……いつ問題を解くのかなんて、それも自分次第だろ?」

「────」

「もちろん、だからって後回しにしていたら、色々と問題もあるけど……ははっ。ごめん。なんとか助けになるようなことを言おうと思ったんだけど、いきなり矛盾するようなことを言っちゃったな……!」

 

 自分次第。宿題。大人にも宿題はある。先生のいない宿題。それをいつ解くのかも自分次第。

 

「……プロデューサーさんは、やっぱりスゴいです……」

「そうかな?」

「はい! ありがとうございますっ!」

「……それなら、よかった」

 

 小宮果穂とプロデューサーは、にっこりと微笑み合う。

 傍から見守っていた七草はづきも、思わずにっこりと微笑む。

 

「プロデューサーさん! 改めて恋愛相談、ありがとうございましたっ!」

「おう!」

「あたし、いってきますっ!」

 

 小宮果穂は駆け出す。

 今日は特に用事はない。恋愛相談のためだけに事務所へ訪れていた。

 

          §

 

 門限間近のアルファ邸リビング。

 

「ア゛ル゛フ゛ァ゛さ゛ん゛!!」

「どうした?」

 

 リビングの中央に立つ小宮果穂は、食卓でパソコンを打つアルファと対面する。

 

「改めて確認させてください。アルファさんは“付き合うことの意味”を、どう考えていますか? ネットで調べたら“交際の意味が分からない”という意見があったんですけど……もしかしてアルファさんもそうなんですか?」

「ンなことはない。好きだから付き合うんだろ。それ以上の理由が要るか? むしろ分からない奴は無性愛者か何かで、さもなくば単なる考えすぎのひねくれもんだ。後者の場合は、論理だけでなくフィーリングでも生きたほうがいい。──ほどほどにバカに、ほどほどに賢く。何事もバランスが大事。それが本当の賢さだと、空手パイロットも言ってたワケ」

「は……! たしかに言ってました……!!」

「で、俺にとって付き合うことの意味は、だって? ンなもん、無(・)い(・)。強いて言うなら相(・)手(・)が(・)交(・)際(・)を(・)求(・)め(・)て(・)く(・)る(・)か(・)ら(・)に決まってる」

「……」

「改めて宣言しよう。──みんな仲良し。ならば良し。好きなだけ抱き合って、好きなだけ笑い合う。ぶっちゃけ、お互い幸せならそれでいいだろ。お互いそれで満足してるなら、もうそれでいいだろ。肩書きが必要なら用意する。不要なら用意しない。なんでもいいんだよ。そういうの、至極どうでもいい。俺のスタンスは、何事も中庸中道・バランスさ」

 

 信じていいのだろうか。

 今の主張を、という意味ではない。

 自分を幸せにしてくれる、という意味ではあるかもしれない。

 自分はこの人を幸せにさせてあげられるだろうか、という不安が大きい。それは自分の力不足が原因だ。もっと修行して強くならなければ。それもこれも自分次第だ。

 

 中庸中道(バランス)。

 真ん中なら、勝つも負けるもない。

 自分も中庸に(そう)なりたいわけではない。

 ただなんとなく、それでも負けたくない。やはり彼はライバルだ。好敵手である。目指すべきものではないが、あこがれではある。

 

 気を使いたくないし、気を使われたくない。

 とにかく気の置けない仲になりたい。

 いいように扱われたくない。

 真に対等でありたい。

 なにより誰にも取られたくない。自分だけを見ていてほしい。どうして彼は。どうして多情。どうして浮気。自分がダメなのか。自分ではダメなのか。そういう自由な人だから仕方ない、なんて理由で認めたくない。でも相手次第だから、どうにかなるものでない。わがままばかりで強要もしたくない。どうにもならなくて目(こころ)が死んで(ころされて)いく。

 

 小宮果穂は思考が滅茶苦茶になりつつ、よくわからなくなった言葉を絞り出す。

 

「────信じさせて、ください……」

「そりゃお前次第だ。俺のことを信じ続けられるのか? 我慢は大敵だぞ」

「……だから、がんばります」

「苦労人だな」

「アルファさんほどでは、ないです……」

「どういうことだ?」

「アルファさんは、色々な人を助けてます。自分をギセイにしてまで……」

「……だから“支えたい”のか。なるほどな」

 

 ともあれ小宮果穂は考え疲れた。理性的な会話が出来た試しがない気がする。先日から浮き沈みの激しい心のまま突っ走ってきた。なんとも衝動的だった。きっとこれからも、こういった不安定な時期は時折、波のように打ち寄せては引いていくのだろう。

 

「……むぅ……」

 

 それなのに眼前の男は、いつだって泰然自若。冷静沈着。冷徹で冷血と言っても差し支えない。なぜそこまでクールに振る舞えるのだろう。それは感情の荒波を嫌っており、自分だけは嫉妬などの激情に囚われないよう気をつけているためだろうか。

 なんにせよ小宮果穂は、ちょっと理不尽に思えてきた。最後に彼の心を揺さぶるため意地悪をする。

 

「……今日の放課後。告白されました」

「────!」

「……聞きたいですか?」

「そりゃあな。クラスメイトにでも告白されたか?」

「それは────」

 

 小宮果穂はうつむく。表情を読ませない。

 その上で近づく。アルファの真横で立ち止まる。耳元にささやく。

 

「ひ・み・」

 

 そこまで言って。

 

 ────つ(ちゅ)。

 

 ほっぺにキスをした。

 

「────」(おいおい────)

 

 アルファは目を見開く。

 食卓に肘を突いて目元を覆う。口元が緩む。

 

 今のは反則だろう。色々とダメだろう。

 可笑しみと愛しさと恥ずかしさとがぐるぐると。

 

「……っ……」

「お(・)前(・)も(・)恥(・)ず(・)か(・)し(・)く(・)な(・)る(・)くらいならやるな……そんな親父ギャグみたいな……」

「っ!? なんで分かったんですか……!?」

 

 小宮果穂の呼吸音や衣擦れの音で分かろうもの。

 対するアルファは机を叩いて天を仰ぐ。目をギュッと閉じて何かに葛藤する。

 

「あ~! ヤンデレ化はさぁ~! 急に攻撃的になって、愛情表現が過激になるからさ~!」

「……っ?」

「心臓に悪いんだよなぁああああああ────!?」

 

 アルファの、照れ隠しを交えた叫びが、リビングに響き渡る。

 かくしてアルファは、自分を信じようとしてくれている小宮果穂に敬意を払うため、本心を吐露した。

 

「最後に教えよう。今から言うことは、俺と長く深い付き合いをしている奴なら誰もが知っていることだが……俺という人間を知る上では、非常に役立つ標語(モットー)として参考になるだろう」

 

 ならばと小宮果穂は、真剣に耳を傾ける。

 

「いいか。俺はな? 無限の恋をするよりも、無限の性欲を満たすよりも────」

 

 ────たったひとつの愛が欲しい。

 

          §

 

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