※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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pR【ディナータイム・シック(Sick)パーカー】小宮果穂(※R-15)

 

 後日。

 夕飯後の小宮宅。

 

 食卓で向かい合う親子。

 黒いパーカーを着込む小宮果穂は、母親に正面切って『おねがい』を持ちかけていた。

 

「お母さん! ご相談がありますっ!」

「……なーに?」

「門限の時間を……延ばしてほしい、ですっ」

「……理由を聞いてもいいかしら」

「えっと……アルファさんと、もっと遊びたい、から……じゃ、ダメ……?」

 

 小宮母は、いつも通りに振る舞いつつ、頭の中では大回転。

 最近の娘の様子は、ちょっとおかしい。直近では黒いパーカーが顕著だ。どういう経緯で購入したのかは不明だが、主にアルファとの関係で不安定になっていると見受けられる。それは今の相談事でも明らかだ。

 

「……もともと中学に上がったら、門限は延ばす予定だったんだけど……」

「それ! 今からじゃ、ダメかな……? 早すぎる……?」

「……──じゃあ、こうしましょう」

「!」

「第一に、通(・)常(・)の(・)門限の時間は、まだ延ばせません」

「え……」

「第二に、アルファさんと遊ぶ時だけは、門限の時間を少しだけ延ばしてもいいわよ」

「──!」

「約束、守れる?」

「……うんっ!」

「じゃあ、このこと。一応アルファさんに伝えるけど、いーい?」

「うん! ありがとう、お母さん!」

 

 そこで小宮母は、ひとつの懸念点を提示する。

 

「ただ……夜ご飯は、どうしましょうか?」

「あ! そっか……あたしは、アルファさんといっしょに食べることも、あるかもだから……」

「じゃあ、そういう時は、あらかじめ連絡ちょうだいね」

「うん!」

 

 最後に小宮母は、必要重大なことを問いかける。

 

「ところで果穂は────アルファさんのこと、好き?」

「────えっ!?」

 

 そこまで驚くことだろうか。左右に揺れる瞳。

 

「……う、うん~?」

 

 うなずくような、どこか否定しきれないけど否定する部分もあるかのような、斜めに落ちていく顔ばせ。

 そんな反応を見るに、友達に対する“好き”とは、明らかに異なるものと分かる。

 

「……そう」(よくわからないけど、複雑なのね……)

「……それが、どうしたの……?」

「いいえ。ただ、ちょっと別の話で……これから大事なことを教えたいんだけど────あ、その前にお兄ちゃんには、しばらく部屋にいてもらえるよう言ってくれる?」

「……? うん……わかった」

 

 うなずく小宮果穂は、伝言を果たすため席を立つ。

 小走りで駆け出すが、途中で立ち止まって振り返る。

 

「お母さん。何を教えてくれるの……?」

「────保(・)険(・)体(・)育(・)の、おはなし?」

 

          §

 

 翌日。

 夜の帳が降りたアルファ邸リビング。

 

 アルファは食卓でデスクワークをしている。

 黒いパーカー姿の小宮果穂は、ソファに座ってスマホをいじる。検索して調べ物。

 

 ────ヤンデレ‐病んだ上で愛すること。恋愛で病的な認識に陥り、恋い慕うあまり愛情表現が暴走する人のこと。

 

 小宮果穂は眉をしかめる。

 これには異を唱えたい。

 

「あの、アルファさん! あたし、病んでないと思いますっ!」

「そうかい。なら門限の時間を過ぎているのに、なぜまだ俺の家にいる? 一応お前の母親から、俺に限定して門限が延びたという報告は受けているけど……どうやって母親を説得した」

「アルファさんともっと遊びたいからって言ったら、OKしてくれました!」

「マジ? そんな直球で? ……なら、それに関わることで……なんかほかに言われたことはないか?」

「────っ!」

 

 保険体育。

 女の子が身を守るために必要なこと。

 

「なるほど。死ぬほど安心した。教育が行き届いている良い家庭だな。それが普通であるべき家庭の姿だよ、本当に。……マジで果穂は環境に恵まれている。素晴らしいことだ。小宮家の人達には尊敬の念しかない。ただ、まぁ────ちょっと遅かったけどな!」

「ッ……!」

「フハハハハ! ──……や、ホントごめん」

「い、いえっ……。……………………」

 

 沈黙。

 その気まずさを、アルファの理屈多弁が突き破る。

 その点、彼にとっての理屈とは、ムードを作る(メイクする)ためのツールとも言えた。

 

「日本において。昔、男女七歳にして席を同(おな)じゅうせず。今、男女は互いに敬重して協力するべし」

「……?」

「席とは同衾(どうきん)という説もあるらしい。ま、昔は子供=(イコール)神の子で、性別の区別はなかった。しかし現代は神の子云々より現実的に考えて、性差が生じる頃にはきちんと性別で区別しよう、となった。それだけの話だ。──似た話では、銭湯で異性の風呂に入れるのは六歳まで、とかな。社会的な性差感覚の常識ってやつだ。地域性によっては、割と振れ幅のある常識だけどな」

「……」

「つまり何が言いたいかって? もし俺だったら、子供が七歳の頃には性教育を仕込んでおくかな~? って話だ。無論、子供の知的年齢や精神年齢、その時の対人関係や性格も加味して、だいぶん調整するけど……そうなると低学年が終わる頃には、やっぱ教えるかな~。いや、どうだろ……やっぱ実際に子を持ってみないと、こういうのは分からないな。──ま、俺は子を儲けるつもりは微塵もないんですけどネ!」

 

 アルファは笑う。

 静寂。

 小宮果穂は押し黙る。

 

「バレたな」

「……え?」

「俺が抱いたこと、確定でバレた」

「っ……!?」

「保健体育の授業を母親から聞いている娘の反応が、予想より薄いというか、あまり驚かないというか、真剣に聞いているのはいいんだけど、なーんか違和感があるというか……あら? これってもしかして既に……? ──的な?」

「……っ……!」

「果穂は素直でいい子なぶん、ウソが苦手だからなぁ……」

「────」

「ま、たとえ得意でも。ちゃんと見ていれば気づくのが親ってもんだ。──それに、ぶっちゃけバレても問題はない。なぜならやましいことなんて何もしてないんだから。ただ愛し合っているだけだ。──や、最初は襲っちまったんだけど。それは百パー俺が悪い。両手が後ろに回る所業だ。なので改めて────申し訳ございませんでした」

 

 突然アルファは良心の呵責に苛まれたのか、椅子から滑り降りるなり両膝をついて五体投地。流れるような完璧な土下座を披露する。

 

「えっ……!? あ、あの! あたしは……! アルファさんだったから、“セーフ”だったので……!」

 

 かつてのやり取りを繰り返す。

 するとアルファは、歯噛みして起き上がった。後頭部をかいて渋い顔。

 

「いや~。これたぶん一生気にする罪だなー! あの時の修行不足が悔やまれる……あと果穂が可愛すぎるのが悪い。いや悪くないけど」

「っ……!」

 

 可愛い。そう言われて少女は赤ら顔。

 その表情を見たら再び興奮してしまうため、青年は煩悩抑制に勤しむ。

 

「……いや無理だな。どうする、果穂? 俺は────いつでもいいぜ?」

 

 流し目の誘い文句。

 逆らえるはずもない魅力。

 

「っ────」

 

 視線を逸らす赤毛の少女は、広いソファのすぐとなりの席を────ポンポン、と叩いた。

 

          §

 

 しかし小宮果穂は“おあずけ”を喰らっていた。

 当のアルファは台所で調理中。少女はむすっと頬を膨らませて待ち続ける。

 

「悪い悪い。焦らすと昂まるだろ? それにちょうど腹減ってたからさ! おっぱじめたら、寝る時間に食うことになって体に悪いし!」

「…………」

 

 アルファは大皿と、オレンジジュースのペットボトルを二本持ってくる。

 

 大皿には、食パンにケチャップ、ベーコンにレタスを使った、アルファお手製のピザがある。オプションに卵焼きやセロリも付いていた。

 また、ピザの大皿には、なぜかサランラップが掛けてある。すぐ食べるわけではないようだ。どうしてだろう。と思っていると、ソファ手前の座卓に大皿が置かれて、アルファは──小宮果穂が指定した席に──どかっと座って落ち着いた。

 

「さて……ちょっとかなり、お行儀の悪い食べ方をしよう」

「……?」

「イチャイチャしながら食べようぜ?」

「っ?!」

 

 アルファは人差し指をくいっくいっと曲げて招く。

 しばしためらった小宮果穂は、固くてたくましい左ひざの上に少しだけまたがって、斜め向きに対面。密着。相手の左上腕と肘を抱き込んで、張った胸を押し付ける。擦れる黒いパーカー。たくましい左肩の上に顔を載せて、ほっぺを寝かせる。首筋でもなんでもいいから噛みたくなる。ふつふつと煮えたぎる衝動の発露。

 

「怪獣になっていいよ」

「っ────」

 

 そんなことを言われたら。はち切れんばかりの思いの丈。

 ぶちかます以外に方法を知らない。衝動の抑え方なんて、誰からも教えられていない。

 

「……チュー、してください……」

 

 上目遣いのおねだり。

 青年は腰に手を回して抱き上げる。

 少女の反り上がる腰つき。

 

 柔和な口づけ。

 ケチャップの味。

 

「……?」

 

 少女は振り返る。いくつかあるピザのうち、一斤だけかじった跡がある。味見だろうか。つまみ食いだろうか。どちらでもいい。片手で大皿を拾った少女は、もう片手を青年の顔の横に突き出し、ソファの背もたれもろとも相手を押し倒す。展開されるソファベッド。大きな体の上で両足を遊ばせる少女は、青年の顔の横に大皿を置く。サランラップを少し開封して一斤のピザを取り出す。ぱくりと一口。肉厚で食感よし。ケチャップがおいしい。

 

「俺にも頂戴」

「……あーん」

 

 食べかけのピザを、どうぞと口元に持っていく。

 青年は、あーん、と大きな口を開けて噛み付いた。もぐもぐと咀嚼。

 

(……間接キスだ……)

 

 赤らむ少女は、なぜか目を細めて訝しむような目つき。青年を見下ろす。不機嫌そうな表情だ。

 対する青年はひと目で見抜く。悦んでいることを悟られたくないため、ポーカーフェイスを演じているだけであると。ならばそのポーカーフェイスを崩して素直にさせよう。頭に手を伸ばしてわしゃわしゃと撫で回す。

 

「……ん……」

 

 目をつむる少女は満更でもない様子で、すんとした表情を作る。

 青年は、頭をぽんぽんと優しくたたくと、ぐっと力を込めて引き寄せた。

 男の力強さに押し負けた少女は流されてしまい、青年の左胸に顔を寝かせる。あたたかい体温。右耳に響く鼓動の音。一定のリズム。乱してみたい。乱してやりたい。しかし、すでにこちらが乱されている。ずっと頭をなでなでされている。どうしようもない気持ちよさ。心地よさ。快感。逃れるために身をよじる。体の上から降りて、腕の上に乗る。青年の腕を枕として、添い寝。片手に残ったピザをぱくぱくと食べきる。指先にケチャップがついた。ぺろりと舐める。

 

「あー……」

「……?」

 

 残念そうに唇を舐めた青年は、寝転がって横向きとなり、少女を抱き込む。

 柔らかくも固く逞しい脇に埋(うず)まる赤ら顔。窒息間近。面を上げて「ぷはっ」と脱出。横顔と横顔、首と首、肩と顎、耳と赤毛の密着。

 

「…………」

 

 もっとこうしていたい。ずっとこうしていたい。

 ほかの人と、どれだけこういうことをしてきたのか。

 ほかの人は、どれだけこういうことが上手なのか。

 余計なことを考えてしまう。

 彼の時間を奪って奪って奪いまくって独り占めにしたい。

 

 不意に青年は、少女の脇腹を攻めた。

 

「っ!? ふっ────あはは……! や、やめって……くださいっ……あはは……! く、くすぐったいですぅっ……!」

 

 くすぐり攻撃を受けた。

 いたずらっぽく笑う青年。

 少女はお返しに反撃する。

 

「こしょこしょこしょこしょ……!」

「ふはは……!」

 

 青年は逆側に寝転んで逃げる。しかし腕枕をしているため逃れられない。また寝転んで戻ってきたところを少女は追撃する。すると青年もくすぐり返す。くすぐり対決だ。どちらが根を上げるか勝負である。

 

「────あっんっ……!」

 

 勝負は無効試合となった。否、青年の反則負けである。

 青年の右手によって突然、お腹と脇腹の真ん中あたりを指圧された。

 青年の左手によって突然、背中のツボを指圧された。脳に電流が走る心地だ。

 

 青年は覆いかぶさる。

 少女は圧迫される。

 

「んっ……んん~……っ」

 

 全身のツボを指圧されていく。マッサージだ。とても気持ちがいい。全身を預ける。自由にされる。片脚を持ち上げられてふくらはぎをもちもちとされる。強い指圧を受けて、びくん、と別の反応が起きる。性的な攻撃を受けたと錯覚した。いつ性的なことが始まるのかと、疑って/期待して、身構えてしまう。

 

「ふわぁ……っ……」

 

 全身脱力。弛緩した筋肉。

 馬乗りの青年はピザを手に取ると、ひとりでぱくり、豪快に一口で食べてしまう。指先にケチャップ。それを舐めとろうとする。

 少女は、力ない両腕を上げて、手のひらをパッと開く。とろんとした目つき。求める表情を送る。

 

「……俺ん時は舐めさせなかったくせに」

 

 添い寝して頬杖をつく青年は、少女の口元に指先を送る。

 少女は、人差し指をぺろりと舐めた。親指についたケチャップも舐めとる。なんだかおしゃぶりを咥える赤ちゃんみたい。少し恥ずかしくなってきたので、ちょっと噛む。

 

「なんで」

 

 少女は起き上がる。横向きの青年を押し倒して上を取る。馬乗りになった。さてどうしてやろうか。

 考えていると、黒いパーカーの裾の中に、青年の両手がするりと入ってきた。

 

「っ!?」

 

 下着をめくって柔肌に触れる。指先がひんやりと冷たい。自分が舐めたことで唾液が付いたせいだ。ちょっと汚い。

 

「あっ……だめっ……」

 

 局部に触れる。先端を弄られて、大きく揉まれる。冷却と電撃を受けたような感覚。萎縮する。これは困った。

 身をよじる。その程度の抵抗では終わらない。

 少女は、自らの胸を覆う男の手を、上から押さえ込む。これ以上のもてあそびは許さない。それから全身を前に倒す。大きな体の上で丸くなる。頭髪が青年の顎に当たる感触。そのまま膝に力を入れて登って行き、密着摩擦。相手との顔の高さを合わせる。ほっぺに頭髪をすりあわせて、ほっぺとほっぺをすりすり。

 

 すると不意に────ぎゅっ! と、両方の胸を握り込まれた。

 

「あっきゃっ!? っ……NO(ノー)! ですっ!!」

「……今お前“きゃっ”って言った? ……女の子らしい言い方を意識してんの?」

「……! っ~~~~……」

 

 両目を細めて抗議の視線を送る。

 

「あーはいはい。お好きにどうぞ。ご自由に」

 

 青年は思う。赤毛の少女は色々と試しているのだろう。

 何が相手にとって悦ばれるものになるのか。

 そろそろ攻勢に転じたいのだ。

 

 青年は、黒いパーカーの下に潜り込ませた両手を抜き取る。乳揉みから解放して、空いた手を後頭部に回す。

 対する少女は馬乗りのまま、黒いパーカーのチャックを開け始めた。

 

「────!」

 

 青年は反応する。視点がチャックに吸い込まれる。

 それを目の前で見て取った少女は知らず知らず微笑む。

 

 ジジジ……と開かれていくチャック。下着の白い服があらわとなる。

 

「ふむ。俺の好みとしましては、そこで生肌が出てくると良いのだが」

「……!」

 

 青年は目を閉じる。

 少女は慌てて黒いパーカーを脱ぐと、下着とブラジャーを脱いで畳んで脇に置き、改めて黒いパーカーだけを着る。

 

 青年は目を開ける。

 少女はやり直す。黒いパーカーのチャックを開けていく。青年の視線を一身に受けている。好きな人に凝視されている。そのまま自分だけ見ていればいいのに。

 

 ひらひらの黒いパーカーに谷間が見える。チャックは全て外しているため、着ているというより羽織っている状態。いつでも簡単に脱がされてしまう。もし青年が突然起き上がって肩を押してきたら、少女は一気に上半身が裸となる。

 

「……腹、寒くないか?」

「!」

「やはり腹巻きは外せないか……」

 

 そうやってすぐ、こちらの体調を心配してくる。

 

「……そういうところが、ズルイと思います」

「そういうふうにして口説き落としてんだよ」

 

 青年は自虐気味に嗤う。

 たしかにそういう側面もあるかもしれないが、それはそれとして本当に心配しているのは事実のはず。

 

 不意に青年は起き上がる。

 

「っ!!」

 

 馬乗りの状態から滑り落ちて、あぐらをかいた青年の足の上に座り落ちる。女の子座り。密着状態。どきどき。胸が高鳴る。ハグされている。ドキドキ。心臓の音がうるさい。

 

「キスしてくれる?」

 

 青年の催促。

 密着状態でそれは難しい。距離を取るため少女はあごを引く。見上げる。結果的に上目遣い。腰を伸ばさないと唇に届かない。そのため足腰に若干の力を入れて背伸びする。

 

 不意に変な力が掛かって、黒いパーカーが両肩から外れかかった。

 

「!?」

 

 自らの身を抱き込んだ少女は、なまめかしい両肩をあらわにしたものの、裸になることはなかった。間一髪、黒いパーカーの袖を掴み取ることができた。それはそれとして、なぜ外れかかったのか。背中に拳の感触。青年は黒いパーカーの背中部分を掴んでいた。しかし下に引っ張ったわけではない。ただ掴んでいるだけ。つまり少女が背伸びすると、少女自身の動きのせいで、チャックを閉じていない黒いパーカーは脱げてしまう。

 

「キスはまだ?」

「……っ……?」

 

 黒いパーカーを両肩に上げ直した少女は、弱い力で背伸び。すると、また肩から外れかかる。どうすればよいのか。キスしたい。要望に応えたい。こうなったらギリギリを攻めてみる。

 

「……────」

 

 慎重に。微かに。背伸び。少女の唇が青年の唇に届きかかる。それでも数ミリ手前までが限界。

 ゆっくり動くあまり足腰が震える少女の唇は、ぱくぱくと動く。

 

「────! ……────」

 

 すると少女は気づいた。青年の静かな吐息が感じられる。

 吐息の温度、とろける風、ピザの香り、吐息の柔らかさ。

 

 ゆっくりぴょんとジャンプ。肩から半分ほど外れる黒いパーカー。ようやく唇が届く。一ミリのギリギリで、届きそうで届かない、でも時々たまに届く、食み合いの感触。ギリギリのキス。

 

 お互いに口をパクパクと動かして、吐息を混ぜ合わせつつ、たまに上唇や下唇に届いて、食んで食まれてを繰り返す。

 

 やがて胸の奥から体温が上がっていく。汗を掻いてきた。集中力のいることをしていたからだろうか。背中に滲む汗。黒いパーカーを汚したくない。脱ぎたい。でも脱いでしまえば────本(・)番(・)が、始まってしまう。

 

 なので、脱がない。まだ、脱がない。

 キスだけでこうも焦らされたのだ。こんなキスのやり方もあるのだと学ばせてもらった。

 

「……~……」

 

 少女は舌を出す。

 自分も勉強してきたのだ。舌と舌を絡め合わせるディープキスとやらを。

 

「はは……~……」

 

 しかし青年の方が上手だった。

 黒いパーカーの背中を握られている以上、主導権は青年が握っている。ベロチューをしたければ、少女の方から行かなければならない。しかもそれは本番の開始を意味する。しっかりキスをするということは、黒いパーカーが脱がされてしまうということだから。黒いパーカーを、自ら脱いでしまうということだから。

 

「っ……もう────~~~────」

 

 一気に足腰を上げて背伸びする。黒いパーカーがはらりと肩から脱げ落ちる。肘の裏に溜まる袖。半裸のまま青年の首に両腕を巻きつけて、顔を斜めに倒す。やさしく、やわらかく、舌が奥まで届くように接吻。

 

 電撃。少女は自分で舌を入れておきながら、口の中が殴りつけられるような衝撃を受ける。

 雷撃。青年に舌を入れられて脳内がパンクするショートした脳内が熱くて蒸発しそうだ蕩(とろ)けてしまう。

 

 ぺちゃぺちゃと水音。

 耳の奥まで熱くなってきた。このままでは溺れてしまう/溺れたい。

 

(おぼれさせて……)

 

 不意に青年の腰が突き上がる。

 少女の頬に赤みが差す。苦しいほど抱き締められる。後ろ首を締め上げられる。全身を上げたくなる。股のあいだがいたくなる。

 

「────ま……まって……ぬぎます、から……」

 

 本能全開の腰振り。体ばかりを求められることに嫌気が差す。

 

(あたしの心を、求めてほしいのに……────)

 

 そう思いながら下を脱ぐ。

 

(────……どうすれば、いいのかな)

 

 それは試練という名の宿題だ。

 ヒーローを支えるヒロイン……ではなく、ヒーローを支えるヒーローになるためには。

 

「────────────────ぁ────────────────」

 

 うつむく少女は目をつむり、口元に自らの手の甲を触れる。

 浮き上がる肉体。天へと昇る意識。蒸発する理性。

 

 ヒーローを支えるヒーロー。

 それになるためには、まず。

 

 えっちの気持ちよさに慣れる必要がありそうだ。

 

          §

 

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