※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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sR【海の幽霊】天道唯我

 

 夕方の高速道路。

 帰路に就くプロデューサーの車の中では、後部座席に座る小宮果穂とアルファがヒーロー談義をしていた。

 

 高速道路を降りて一般道路に出る。そして海の上の鉄橋を渡ると────

 

「……? っ────降ろしてください」

「──え?」

 

 プロデューサーは呆けた声を出す。

 いきなりの発声で聞き取りにくかった。

 アルファは目の色を変えて、何かに焦りだす。

 

「降ろしてください。おいどけ」

「え……えっ? アルファさん?」

 

 ────アルファは突然、シートベルトを外し、扉のドアロックを解除する。だが扉を開けることはしない。しかしいつでも開けそうな迫力・雰囲気を感じる。

 

「えっ!? ちょ、ちょっと待ってくれ……! すぐ路肩に止めるから……!」

 

 おっかなびっくりしたプロデューサーは、速やかに停車。すかさずアルファは降りて扉をバタンと閉める。トランクからレンタル自転車を取り出して展開、乗車はせず、手押しで歩道に乗り上げる。

 対するプロデューサーは窓を開けて心配そうに呼びかけた。なにやらのっぴきならない雰囲気を、アルファから感じ取ったのだ。小宮果穂も窓を開けて、アルファの背中を見つめる。

 

「ど、どうしたんだ……? 危ないじゃないか。……もしかして、何か不快なことでも……?」

「え? いえいえ誤解です。危ない真似をしたのは本当に申し訳ございません。ただ急に走りたくなりまして。ほら、こういうまっすぐな道を見ると、ね! わかりません?」

 

 アルファは、あっけらかんとでも言うように、しかしどこか怖さを感じる微笑みで相対する。

 その、よくわからない笑顔に気圧されたプロデューサーは、どうしてよいかわからず曖昧な返事を返した。

 

「────……そ、そう、かな……?」

「じゃ、自分はここで帰りますので。途中まで送迎いただき、ありがとうございました」

 

 自転車を手押しするアルファは、折り目正しく会釈して走り去る。

 一方のプロデューサーは窓を閉めて、腕を組み考え込む。

 

「うーん……ここからでも、かなり距離があるけど、大丈夫かな……? 果穂、何か知ってるか……?」

「え……! えっと……あたしも、わかりません……」

「そうか……なにかしちゃったのかな……? 急にどうしちゃったんだろう……」

「…………」

「まぁ、本当に走りたくなったのかもしれないし……とりあえず、車、出すぞ?」

「あ、はい!」

 

 プロデューサーは車を出す。歩道を歩くアルファを追い越して橋を通過。ビル街に入る。

 

(…………でも────)

 

 うつむいて考え込む小宮果穂は、はたと気づいた。

 

「あの! あたしも降ろしてください!」

「えっ!? 果穂も……? 理由とか、聞いていいか……?」

「えっと……アルファさんが、心配で……!」

「……そうか」

 

 しかしプロデューサーは、小宮果穂を直で自宅まで送り届ける予定だと、小宮母に連絡済み。予定が変わったことを連絡しても良いのだが、いずれにせよプロデューサーはアイドルを自宅まで送り届ける任務がある。そのため同行は必須となる。

 

「──……じゃあ、路肩に停めるけど……さっきのアルファくんみたいに、走行中にドアロックを解除しないでくれよ?」

「は、はい! それについては、あたしからきちんと注意しますっ! ごめんなさい!!」

「はは。果穂が謝ることでもないと思うんだけど……。ただ、ここで降りて徒歩で帰るのは割としんどいぞ? 俺も、果穂を家まで送り届ける約束を、果穂のお母さんとしちゃったし……」

「そ、そうでした……! じゃあ、プロデューサーさんもいっしょに……は、ムリですよね……」

 

 小宮果穂はしゅんとする。

 おそらくアルファは、こ(・)の(・)道(・)またはこ(・)の(・)橋(・)の車がイヤで、とつぜん降りたのだ。

 そしてプロデューサーは、アイドルを家に送り届けたあとは、また別の仕事がある。その仕事を、小宮果穂のわがままで遅らせるわけにはいかない。

 ならば、今は諦めるしかないのだろうか。本当はアルファのもとに、今すぐ駆けつけたい。しかし、プロデューサーさんの仕事を邪魔するのもイヤだ。

 

「しゅん……」

「……果穂」

「?」

「果穂は、アルファくんとお話したいんだよな? だから降りたいって言った。そうだよな?」

「はい……でも……」

(もしかして、俺のことを気にしてくれているのかな……)「よし。それなら回り道して戻って、橋の出口あたりで待ってみよう。アルファくんが通りかかるかもしれない」

「え! でも……!」

「俺もアルファくんのことが心配だからな。果穂と気持ちは同じだよ。それに俺のことは気にしなくていい。とにかく、いっしょにアルファくんを捜してみよう。それは俺(・)が(・)や(・)り(・)た(・)い(・)こ(・)と(・)だ。果穂は、どうしたい?」

「……! はいっ! それも、あたしのやりたいことですっ! プロデューサーさん、ありがとうございます!!」

「はは。よしきた。じゃあ俺は前しか見えないから、果穂は横や後ろを頼めるか?」

「はい! あたしが、アルファさんを見つけてみせますっ!」

 

 プロデューサーの車は来た道を戻る。小宮果穂はキョロキョロと辺りを見渡して、アルファの姿を捜す。

 やがて車は、橋が終わる交差点の路肩に停車。小宮果穂は外に飛び出して、橋の向こうを見渡した。するとアルファの姿を発見。鉄柵に腰掛けて、今にも降り出しそうな曇天を見上げている。

 

「アルファさん!」

「────……? おいおい、どうしたよ」

 

 アルファは、駆け寄ってくる小宮果穂と、その後方で停車するプロデューサーの車を発見する。

 対する小宮果穂は、胸を押さえながら────アルファの黒い瞳を見つめて問いかけた。

 

「あ、あの……っ! も、もしかして……アルファさん……って……」

 

 小宮果穂は、何を問いかけたいのか。

 少女の痛ましい表情から察したアルファは、要点をぼかすような話し方で気軽に答える。

 

「こ(・)こ(・)じゃないよ」

「……っ!!」

「もっと別の場所。ただロケーションは似てる」

 

 アルファが、今のアルファになる転機となった悲劇の場所。

 車。鉄橋。下に海。────交通の要衝。

 アルファは、そのどれもを見ようとはしない。ただ天国を見上げている。

 

「海は、嫌いじゃない。でも、海を連想させるものは、なんとなく……まだ苦手だ」

「……!」

「そのせいで水着とか、あんま興奮できないんだよなぁ……たとえば、海水浴場とかプールとかでも、親子連れを見ると、急に萎えちまうんだ。色々と……イヤになるくらい……頭(・)と(・)心(・)が(・)う(・)る(・)さ(・)く(・)なって……閃光弾(フラッシュバン)でも喰らったみたいに……ドアロックいきなり解除する程度には、慌てちまう。下手したらあのまま車道に飛び込んでたな。いやー怖い怖い。ヒーロー談義に夢中で、海(・)の(・)上(・)の(・)橋(・)は(・)車(・)で(・)渡(・)ら(・)な(・)い(・)で(・)く(・)だ(・)さ(・)い(・)、と伝え忘れていた。困ったもんだぜ」

「…………」

「ハァ……悪い。落ち着いた。また乗せてもらっても構わないかな? もう自転車に乗る気がしないや」

「……はいっ。そのために、あたしとプロデューサーさんは、戻ってきましたから」

「じゃ、デリケートな話題だ。あんま他人に知られたくない。俺が急に暴走したのは、適当な理由をつけてプロデューサーさんに話してくれ。俺は車の中で寝る」

「えっ……」

 

 アルファは自転車を手押ししてプロデューサーの車に戻る。トランクに詰め込んだあとは、検めてプロデューサーに謝罪して、後部座席で腕を組み天井を見上げて、ぐーすかと狸寝入り。

 対する小宮果穂は、そのとなりに座って、車を発進させたプロデューサーに訳を話す。

 

「……あのっ。プロデューサーさん……アルファさんが、突然降りたのは、その……」

 

 明らかに話しにくそうな表情で、小宮果穂はもじもじとしている。

 それをバックミラー越しに確認したプロデューサーは、無理することはないと笑いかけた。

 

「果穂。言いにくいことなら、無理に話さなくていいよ。それより、もうふたりは大丈夫なんだよな?」

「……! はい、たぶん……?」

「はは。なら良かった」

 

 安堵するプロデューサーは少し誤解している。本当のところは何もわからないが、もしかしたら小宮果穂とアルファの間で、何かケンカでもあったのかもしれない、と思っているのだ。

 

「あ、でも! その、プロデューサーさん! アルファさんを乗せている時は“海の上の橋は通らない”ように、おねがいできますでしょうか……!?」

「え? ……それは、もちろんだけど……?」

 

 どうして海の上の橋は渡ってはいけないのか。気になるところだが、どうやらデリケートな話題のようす。

 プロデューサーは無理には聞かず、ルートを変更した。

 

「じゃあ、この先もそういう場所が一本あるから、ちょっと迂回するけど……いいか?」

「はいっ! ありがとうございますっ!」

 

 かくして一同は、安全な家路に着く。

 そして小宮果穂は無意識だったが、アルファはあることを実感していた。

 

(──……ったく。ア(・)ル(・)フ(・)ァ(・)さ(・)ん(・)を(・)支(・)え(・)た(・)い(・)、か……ああ、たしかに────支えられちまったな……)

 

 助けて。助けられて。

 驚かせて。驚かされて。

 相手が未熟なら、自分もまだまだ未熟の極み。

 

「……っ?」

 

 不意にアルファは、小宮果穂の頭を撫でる。

 そしてお礼の代わりに、ぽんぽんとたたく。

 

「……──」

 

 小宮果穂は、無言で微笑む。笑みがこぼれる。

 褒められたことの嬉しさと、役に立てた喜びで、また元気が湧いてきた。

 

 そしてお返しとばかりに小宮果穂は、アルファの耳元に小声でつぶやく。

 

「──……アルファさん。あたしがいますから、だいじょうぶですよっ!」

 

 それはなんとも可愛らしくて頼もしい、ヒーローアイドルらしいセリフだった。

 

          §

 

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