【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
夜の帳が降りたオフィス街。
小宮果穂とマメ丸は家出をする勢いで外に飛び出してから、赤信号の横断歩道以外、ノンストップで突っ走った。二つの旅行かばんが重すぎる。ぜえぜえと息を吐きながら小宮果穂は先を急ぐ。そして、夜でも眩しいほど明るいコンビニの前を素通りする。
「────あっ!!」
「ワフッ!?」
夜ご飯の買い物を思い出して、急ブレーキUターン。
マメ丸のリードが引っ張られて首が後ろに引きずられる。後ろ足だけで立って身をひねるように旋回。すぐさま小宮果穂を追い越して、一瞬背後をチラリと見やり、小宮果穂がコンビニを目視しているため、その中に入るのだと了解。電柱の近くでおすわり。
「ありがと、マメ丸!」
小宮果穂はリードを結んで、すぐさまコンビニでカレーライスを二つ購入。そういえば冷蔵庫のオレンジジュースが切れかかっていたことを思い出してそれも買う。店員の「あたためますか?」を断り、会計を済ませてコンビニを後にする。
猛ダッシュ。アルファのマンションロビーに到着。そういえば、いろはちゃんのファミリー登録を済ませなければ。それは明日にでもやればいい。今はとにかくエレベーターに乗って五階に上がる。
アルファの部屋番号に到着。するとおかしなものを見つけた。扉の前に、なぞの木箱が置いてあるのだ。
「……?」
木箱を開いてみる。すると中には牛柄のタイツが入っており、その上にメモが置いてあった。
『ボヴィーノファミリーです。このたびは、うちの構成員のランボが大変ご迷惑をおかけしました。これはほんのおわびのしるしです』
『パスタ×2 オリーブオイル×3 ワイン×1 牛柄タイツ×1 養育費100万円×2 グレネード×1 十年後バズーカ×1』
『なお、これを受け取らないということは、ボヴィーノの謝罪を受け入れず、ケンカを売ってきたとみなして殺し屋を送ります。ただし受け取ってくださるなら、我々の方からは金輪際、近づきません。どうぞよしなに』
「……!?!?!? に、二百万円……!?」
札束の恐るべき厚み。ともあれ鍵を回して入室。
木箱は玄関口の脇──靴箱の手前──に、とりあえず置いておく。
「ただいまー! アルファさーん? じゃない、いろはちゃーん? 遅くなってごめんね……!」
「ワフー? ワン!」
マメ丸は興味深そうに、辺りをキョロキョロと見渡す。
アルファの自室から、小宮果穂の濃厚な匂いがする。
「あ、マメ丸! そこはダメ! アルファさんの大切なヒーロー部屋だから!」
「……? ワン!」
どうやらマメ丸の侵入防止用の柵が必要そうだ。
ともあれ小宮果穂は、大荷物をリビングの窓辺に置く。そこで気になった。
(────あれ……
「……っ!! い、いろはちゃん……? どこにいるのー?」
「ワフ?」
「────はっ!」
いの一番にカーテンを開けてベランダの鍵を確認。窓の鍵は施錠されている。ほっと一息。一応ベランダ内を見渡す。誰もいない。隠れられる場所もない。
(玄関扉も鍵はかかってきた……いろはちゃんは鍵を持っていないし、背の高さからしても外から鍵を掛けることはできない。そもそも中からドアノブに手が届かないから外に出ることもできない。じゃあどこに……?)「いろはちゃーん!」
「ワン!」
和室を覗く。
心拍数が高鳴る。
「っ……押し入れの中に隠れてるのー? ────っ……いない……いろはちゃーんっ!!」
すぐさま洗面所を通って風呂場に駆け込む。バスタブに水は張ってない。洗面所にも居ない。まさかとは思うが、洗濯機の中にも居ない。
「ど、どこー!? いろはちゃーん!?」
リビングに駆け戻って台所を見る。どこにもいない。
アルファの自室を見に行く。どこにもいない。
「……ワンッ!」
マメ丸は、小宮果穂が探し物をしていると判断する。おそらく人を捜しているのだろう。なぜならこの家には、もうひとり匂いがする。アルファのダークな匂いがする一方、同じようでかなり違う、アルファと似た初々しい匂いを感じる。まるで小宮果穂が生まれたての頃の匂いだ。懐かしさで思い出す。
「……ワンッワンッ!」
「え? マメ丸……?」
懐かしさに浸っている場合ではなかった。匂いからして年齢は低め。小宮果穂が焦るように、たしかに子供がどこにもいないというのは危険だ。すぐさまマメ丸は床を嗅いで、匂いの痕跡をたどる。
ソファベッドから台所に到着。台所の下にある両扉の向こうから匂いがする。
「ワン!」
「ここ!?」
小宮果穂が両扉を開けると、どこにもいない。食器やら包丁やらが置かれているだけである。
その中に入り込んだマメ丸は、匂いの痕跡を辿っていく。すると台所の下の収納スペースをぐるりと周り、別の両扉の中から吠えた。
小宮果穂が別の両扉を開けると、そこから出てきたマメ丸は、台所を出て行って廊下を渡る。そのまま洗面所に入って、洗面所の下にある両扉の向こうに吠えた。
「ワン!」
「ここかー!」
小宮果穂が開けると、洗剤道具の山の向こうに、うずくまるいろはちゃんを発見した。ぴょこっと顔だけ出してきたいろはちゃんは、にっこりと微笑む。それは見る者を魅了する、ほにゃっとしたハナマル笑顔。
「かくれんぼー!」
「……っ! もう! ダメだよ……!!」
「────!?」
小宮果穂の叱咤する大声に驚いたいろはちゃんは、びくっとした硬直顔から一転、しゅんとうつむく。
その怯えたような表情を目にした小宮果穂は、しまったと反省して弁解しようとするが、うまく言葉が出てこない。
「あ……えっと……」
「……………………」
小宮果穂は逡巡する。
危ないからダメ。居なくなったかと思って心配した。暗くて狭い場所。もし見つからなかったら、いつまで隠れ続けるつもりだったのか。もう夜で眠いはず。寝落ちもありえた。この考えと気持ちを、なんて言えばいい。ぜんぶ言ったら怒りすぎになるだろうか。なぜ
(あたし、こういう時、お母さんに、どうされたっけ……)
唇を丸める小宮果穂は、意を決して話しかける。
「ご、ごめんね! 大声出して……家から出て行っちゃったのかと心配して、危ないからダメってつもりで言ったの……」
「……なにがあぶないの?」
「え? それは……なにがあるのか、わからないし……」
「なにがあるの?」
「……それは……」
「いろは、よくわかんないのでおこるの、きら……いやー!」
「……!」
嫌いという言葉は強すぎると思い、慌てて言葉を選び直したいろはちゃんは、ぷいっとそっぽを向く。そして数々の洗剤道具の隙間を縫うようにして、外に出てきた。きちんと両扉を閉めて、一度も小宮果穂の顔を見ず、たたたっとリビングに走り去る。
「あ……!」
その小さな肩に手を伸ばす小宮果穂は、廊下に踏み出したが立ち止まり、反省する。
たしかに感情が先走りすぎた。心配のあまり語気が強くなっていた。まだ幼いいろはちゃんからしたら、なぜ叱られたのかも分からないだろう。もう少し落ち着いて、理路整然とたしなめるべきだった。
一方のいろはちゃんは、廊下の終わり際でピタリと立ち止まる。そして服の裾を握り締めながら、首だけ振り返り、小さな声で謝った。
「でも……しんぱいさせて、ごめんさい」
「……!」
先に謝られてしまった。小宮果穂が感情的になった理由も察してもらっている。
どうやらアルファもとい、いろはちゃんは、三歳児でも人間が出来ているようだ。
「……あたしも、ごめんね!」
「うん! いろはもごめーん! なにがわるいのかわかんないけどー!」
にかっと笑ったいろはちゃんは、とたとたと走ってソファベッドに飛び込む。リモコンを持ってテレビを点ける。
小宮果穂は洗面所で手洗いうがい洗顔を済ませる。ふと鏡に映る自分の顔を見て────両のほっぺを“ぴしゃん”とたたいた。
(────あたしが、しっかりしなくちゃ……!)
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