※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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pR【はじめてのおとうと?】小宮果穂

 

 昼ごろ。小宮果穂が通う小学校。三時限目終了のチャイムが校舎に鳴り響く。

 

「……────」

 

 小宮果穂は、登校時からずっとそわそわとして落ち着きがない。

 それについて、まおちゃんが問いかけた。

 

「果穂ちゃん……だいじょうぶ?」

「え?」

「朝からずっと変だよ。気になることでもあるの?」

「……! う、うん……でも、たぶん、だいじょうぶ……だから……!」

「……そう……」

 

 明らかに大丈夫そうではない。二時限目に至っては、廊下で担任を呼び止めて『早退してもいいですか?』と相談までしていたのだ。結局、担任に理由を聞かれて、なんとなくはぐらかしたようす。どう見ても正常ではない。

 

 その時、クラスの男子たちが窓の外を見て騒ぎだした。

 

「おい! あれ見ろよ! 犬だ!」

「えー!? どこどこ!?」

「あれ柴犬じゃね?」

「でもちっちゃくなーい?」

「なんかすっごくちっちゃい子もいるー!」

「……あれ? あのスカーフ……もしかして、果穂ちゃんのマメ丸じゃないの……?」

 

 ふとした友人の一言。

 

「えっ!?」

 

 小宮果穂はクラスメイトをかき分けて窓辺から校庭を覗き込む。そこには、地面を嗅(か)いでニオイの痕跡をたどっているマメ丸と、それについていくいろはちゃんの姿があった。

 

(────っ!! な、なんで……!? どうして……どうやって……!?)

 

 まさかの珍事態。

 

「あ、ちっこい奴が座り込んだ!」

「疲れちゃったのかな?」

「ねえ。あれやっぱり小宮さんの犬────」

 

 友人の問い掛けより早く、小宮果穂は教室を飛び出す。

 

「果穂ちゃん!?」

 

 校舎を走って昇降口で靴を履き替えて校庭に出る。

 

「はぁ、はぁ────マメ丸ー! いろはちゃーん!」

「! ワンワンッ!」

「あ……おいこらー!」

 

 いろはちゃんはキレ気味に呼びかけると、ポーチから空っぽに近いペットボトルを取り出す。

 

「な、なに……!? どうして、ここに……?」

「ペットボトル! あかなかったっ!」

「……!!」

「このまわすやつ! あけて! のどかわいた!」

「……っ!? あ……そっか……そう、だよね……ごめんね……っ!!」

 

 小さな子の力では、ペットボトルのフタを開けられない。高いところに置くと届かないだろうから床に置こう。そう考えるまでは正解だった。しかしフタまでは意識が向かなかった。まだまだ細かい点が至らない。危うくいろはちゃんを危険な目に遭わせるところだった。否、すでに何度も何度も遭わせてしまっている。

 

(やっぱり……あたしひとりじゃ、ムリが……)

 

 小宮果穂は、いろはちゃんを抱きしめる。

 

「?」

「ごめんね……やっぱり、あたしのお母さんに相談する……」

「……? それしたらどうなるの?」

「……たぶん、おまわりさん……?」

「えー? やだー!」

「で、でも……!」

「かほとまめまるとはなれるの、やー!」

「……なんで?」

 

 いろはちゃんは、なぜと問われて考え込む。

 

「ながーい! のにつまらんのきらい!」

「……どういうこと?」

「あのねー。まめとおさんぽしてねー。はし、わたった! かわ、みた! もり、あるいた! えき、いった! しょうてんがいも! たのしいのによー。すきなのによー。なんでせまいところに? いろはひろいのがすきー! さっきのおうちがいーいー! おまわりさんのなら、いろはイエデするー!」

「……………………」

 

 それは困る。よくわからないが、いろはちゃんなりにアルファ邸を気に入っているようす。二ヶ月間を過ごす場所として、既に覚悟を決めているようだ。また、なぜ警察が狭い場所なのかは不明だが、もしや交番の広さを指して言っているのだろうか。たしかに交番で暮らすのは狭そうだが、全ての迷子がそこで長く暮らすわけではないだろう。もっと別の場所に案内されるはずだ。しかし、それをいろはちゃんに説明して伝わるだろうか。

 

 いろはちゃんは大の字になってイヤイヤ期を始めた。地団駄を踏んでいる。

 

「……わかった……」

「!」

「あたし、もう二度と、失敗しないから……!」

「…………えっと、なんだっけ…………さ(・)く(・)せ(・)ん(・)は(・)あ(・)る(・)の(・)か(・)ね(・)?(・)」

「あるよ!」

 

 それもどこで覚えてきたセリフなのか。

 ともあれ小宮果穂は、万事を尽くす所存である。

 

「じゃあ、ドアあけろ!」

「えっ!?」

「あけるのにたいへん! つかれた! つかれた! つかれた!」

 

 三回も続けて言うとは、よほど脱走に体力を使ったようだ。

 いろはちゃんは、もういやだと言いたげに倒れて、ぐでんと地面に伸びる。死体のつもりか、泥のように眠ろうとする。

 

「……そうだね……それも考えるよ!」

「あと、しんぱい、いらない! まめがいればだいじょうぶだいじょうぶ」

「そ、そうかな……?」

 

 小宮果穂はマメ丸と視線を合わせる。

 

「ワンッ! ワンワンッ!」(任せとけ! おれがおにいちゃんとして、果穂とちっこいアルファの面倒を見るぜ! 妹に続いて弟がひとり増えたようなもんだ! 楽勝よ!)

「……そっか! じゃあマメ丸、あたしがいない時はよろしくね!」

「ワンッ!!」

 

 そしていろはちゃんは、まだ不安なのか。ダメ押しとばかりに、なぜアルファ邸がいいのかを、なんとか言語化しようとする。

 

「あとねー。なんでおかあさんとおとうさんのしゃしんがあるのー?」

「────え……?」

「たたみのさー。へや!」

 

 たたみ。畳。部屋。

 ────和室。そこには仏(・)壇(・)が(・)あ(・)る(・)。つまりアルファの両親の写真が飾られている。

 

(っ……!! しまった……! めったに入らない場所だから、すっかり忘れてた……!!)

 

 小宮果穂は青ざめる。

 

「あ、あの、それはね! えっと……!!」

「……? ……まぁいっか!」

「!?」

「おなかすいたー。いってきまーす! ばいばーい!」

 

 いろはちゃんは、小宮果穂に手を振ると、マメ丸を連れてどこへなりと立ち去る。

 

「え……ど、どこ行くの!?」

「しらな~い! ぼうけ~ん!」

「あ……あまり遠くに行っちゃダメだよ……!! マメ丸、ほんとによろしくね……!!」

 

「ワンッ!」

 

          §

 

 小宮果穂はクラスに戻る。

 するとクラスメイトたちがわっと群がって質問攻めを始めた。

 

「果穂ちゃん! あの子と何を話したの?」

「知り合い?」

「なんで果穂ちゃんのマメ丸とお散歩してたの?」

 

 さて、なんと説明したものか。

 

「え、えっと……!」

 

 小宮果穂は、当たり障りのない言い訳を考える。

 

「……────その……知り合い、で……マメ丸とお散歩、してたけど……学校に来るとは思わなかったから、あたしもびっくりしちゃって……!」

「そうなんだー!」

「親戚の子とか?」

「ちっちゃくて可愛かったねー!」

 

 小宮果穂の視線が泳ぐ。なんとも分かりやすい。

 となりで何も言わず見守るまおちゃんは、友人が苦しい言い訳をしていることを察する。

 

「あ、もしかして果穂ちゃんの妹とか?」

 

 小宮果穂の家族構成を知らないクラスメイトが問いかける。

 

「う、ううん……! それはちがう……! あと、男の子だから……!」

 

「あれ、そうなの!? なんだー!」

「やっぱりちっちゃい子って性別わかんないよねー」

「名前は?」

 

「えっと……いろはちゃん……」

 

「へー! ……え?」

「男の子なのに、いろはちゃん?」

「どういうこと?」

 

 言われてみれば、確かに疑問である。

 男の子であるはずだが、女の子みたいな名前だ。

 

「それは、わかんないけど……」

 

 ともあれ、この話は終わりにしたい。

 すると運良く、四時限目開始のチャイムが鳴り響いた。

 

          §

 

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