【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
祝日の夕方。大型ショッピングモールに点在する
しかし幼児服と一口に言っても系統や種類が存在する。
まずベビー服とキッズ服の違い。ベビー服は0~2歳の赤ん坊を目安に着用するとして、キッズ服は3~4歳頃から着用可能になるという目安が、店内の柱に貼られた張り紙に参考記事として書かれていた。具体的には身長100cmが分かれ目であると書いてあり、身長・ウェアサイズを測るための身長計も、張り紙として貼られていた。
「いろはちゃん。ちょっとここに立ってみて。まっすぐ!」
「んー……」
「ぐらぐらしちゃうね……まだまっすぐ立ち続けられないのかな? 私が支えるよ!」
「ありがとう、まおちゃん!」
まおちゃんが支えて小宮果穂が計った結果、いろはちゃんの身長は約79cmと判明した。
張り紙によれば、三歳児の平均身長と比べると、かなりの低身長とのこと。それは小宮果穂も育児本を読んでいく中で薄々と勘づいていた。以前、手元にある三十センチの定規で、動き回るいろはちゃんの背丈を簡単に計ったところ、身長90cmも無いことが分かっていた。しかし、まさか80cmを切っているとは思わなかった。
「79cm……本によれば、一歳五ヶ月の平均身長……」
「え……そんなに遅れているの? 実年齢の半分以下……」
「うん……この『-2SD』っていうのを下回ると、低身長みたいだから……」
「……三歳児の平均身長は?」
「93cmから99cm……低身長の目安は86cm以下……」
「そっか……平均だけで15cm以上も違うんだ……低身長の目安も7cm下回ってるし……やっぱり、心配だよね?」
「うん……」
「でも、十年後のアルファさんは、あんなに大きくなったんだよ? ならきっと大丈夫だよ!」
「──……それもそうだねっ!」
いろはちゃんの低身長は、その実母が一番不安で心配であり、そのために猛勉強して、どうするべきか理解していることだろう。小宮果穂では小児科に連れて行くこともできないためどうにもならない。つまり今の小宮果穂がやるべきことは、十年前バズーカの効果が切れる二ヶ月後までに、いろはちゃんの面倒を見て、きちんとした育児を行うことである。
「まおちゃん、服を探そっ!」
「うん! 79cmってことは、身長的にキッズ服じゃなくてベビー服ってことだから……」
「あっちだ!」
天井に吊り下がる案内板が見えた高身長の小宮果穂は、いろはちゃんを抱っこしてまおちゃんと共に、ベビー服コーナーに移動する。
様々な種類の服がある中、小宮果穂はあらかじめ育児本を読んで“これ!”と決めていた“スウェット”を中心に探していく。伸縮性に優れて汗を吸収しやすいスウェットは、とにかく長距離を歩き回るいろはちゃんに必須の服と言えた。
そして小宮果穂とまおちゃんは、男の子コーナーに陳列されたスウェットを一つ一つ見ていく。
また、細かなサイズにも気をつける。いろはちゃんの身長は79cmのため、服の大きさは80サイズが目安とされるが……いろはちゃんの体型は細身のため、70サイズでも普通に着ることができてしまう。それは今しがた試着して確認したところ。しかし70サイズは生後六ヶ月の赤ん坊が目安のため、服の装いや柄的に違和感を覚えてしまう。つまり三歳児に着せるものではない。そのため70~80サイズに近い、三歳児に合うデザインの服を探していく。
「いろはちゃんは、どんな服の
「かほのならなんでもいい~」
「そう? じゃあこれは~? クマさん!」
「いやー! どうぶつばっかりー!」
「え~? なんでもいいって言ったのにぃ~……」
「おとうさはなんでもいいという」
「? いろはちゃんは?」
「んー……かわいいの!」
小宮果穂とまおちゃんは目を点にする。男の子コーナーは可愛い系も揃えられているがフリル系はなく、カッコいい系が多い。しかし要望は“かわいいの”であるため、一応、女の子コーナーに足を運んでみる。するといろはちゃんは難しい顔で拒否反応を示した。
「かわいすぎる~。ふりふりいや~」
「え~? 注文が多いですねぇ……」
「ふふっ……」
ならばと男の子コーナーに戻る。無難に無地系のデザインを選んで見せようとすると、いろはちゃんは飽きてしまったのかキョロキョロと辺りを見渡していた。
「いろはちゃん、何色が好き~?」
「……?」
「? 赤? 青? 黒かな? 白かな?」
「……………………」
いろはちゃんは長考している。
どうしたのだろう、と小宮果穂とまおちゃんは互いの目を見合わせた。
「……いろはねー。いろしってるよー! あか! あお! きいろ! ……しろ! …………くろ!」
「……!」
小宮果穂はハッとする。そういえば育児本では、三歳ごろになると“色の名前を言えるようになる”という記載があった。
さっそく小宮果穂は、様々な色の名前を質問していく。といっても服は、一色のみで染め上げているわけではないため、服のデザインの一部分を指さして問いかける。
「じゃあ、この部分は何色?」
「あかー!」
「これは?」
「あおー!」
「これは?」
「きいろー!」
「じゃあ~……これは?」
「……しろ!」
「正解! じゃあ、これ!」
「…………くろ!」
「正解! 最後に、この部分は?」
「……………………んー……はっぱ? くさ! しばふ! もり?」
「惜しい! スッゴく……惜しいっ……!!」
「んーっ……」
緑色が答えられない。だが喉元まで出かかっているようす。
そこで我慢できず、まおちゃんがヒントを差し出した。
「────み……?」
「! みどりー!」
「わぁ……! 正解だよっ!」
「ばんざーい!」
いろはちゃんは小宮果穂とハイタッチする。
そして振り返り、ヒントをくれたまおちゃんにもハイタッチを要求して、笑顔で両手を打ち叩いた。
「それじゃあいろはちゃん! 今の中で、何色が好き?」
「みどりー!」
どうやら答えられたことが嬉しくて、それを選んでいるだけのような気もするが。
「じゃあ緑色(とベージュ)のスウェットを買うね? それで、あと四着くらい欲しいんだけど……せっかくだから、いろんな色の服が欲しいなぁ。ほかにも好きな色ってな~い?」
「なーい。なんでも~」
「う~ん……」
小宮果穂は悩む。どうやらいろはちゃんは、まだ色に興味が無いようす。
育児本のコラムにあった一般ママの
そのため、いろはちゃんの好みを早期に探るべく、なるべく多くの色の服を取り揃えておきたい。小宮果穂は、とりあえずお金はあるのだから片っ端から買ってみるのも一つの手だろうと考える。どうせすぐ汚して破いて使い物にならなくなる可能性も高い。しかし子供の身長はぐんぐんと伸びるため、あまり買いすぎるとすぐに着れなくなる可能性も高い。それは少しもったいない気がする。経済的に何着買うか、なかなか悩ましいところである。
「果穂ちゃん。何に悩んでるの?」
「えっと……同じデザインで色違いの服を買ってもいいんだけど……せっかくだからデザインも違うのを買いたいんだ……さっきみたいに、色の名前を言えるか一緒に練習したいし、丸とか四角とか三角とか、形の名前を言えるかも練習したいし……」
「……! そっか……」
そこまで考えていたのか。
ならばとまおちゃんは、様々な図形がふんだんに用いられたカラフルな服を探して見つけて、小宮果穂のもとに持っていく。
「果穂ちゃん! これは?」
「わぁ! いいね! いろはちゃんはどう?」
「? ……」
一瞬小宮果穂の視線の先を見たいろはちゃんだが、すぐに別の場所を向いてしまう。
「もう飽きちゃったかな? まおちゃん、カゴに入れておいて!」
「わかった!」
「あとこれも!」
小宮果穂は、悩んだ末に選んだ三着の服を手渡す。
「さ~て、次はパンツだ!」
§
カゴに溜まった幼児服。これでしばらくは、いろはちゃんの服で困ることはないだろう。
いろはちゃんを抱っこする小宮果穂は、カゴを持ってくれているまおちゃんと共にレジで会計を始める。
「ありがとうございます~! 受け取りますね~!」
カゴを受け取った店員さんが、膨大な服を『ピッピッ』と片付けていく。
その様子を見つめていたいろはちゃんは、ふと叫んだ。
「でんわ!」
「え? ちがうよ~? これはね……なんだろ?」
「だからでんわ! おようふくとおはなし!」
バーコードリーダーに対して、なかなかメルヘンな言葉が出てきた。
思わず小宮果穂とまおちゃん、そして女性の店員は微笑んでしまう。
「可愛い子ですね~! 女の子ですか?」
「! いえ! 男の子なんです……!」
「いろはちゃん! さんさい! おとこのこ!」
「あら、そうなんですか! ごめんなさい! でも可愛いなぁ……!」
「はい! とっても可愛いんですっ!」
「いろはちゃんかわいい!」
いろはちゃんは手を挙げて自己紹介。自らの可愛さも伝える。
そして店員さんは、テキパキとレジ仕事を進めながら、雑談。
「お洋服って、こうして買うと出費がかさみますよね~」
「! そうなんです……っ!」
「だからというわけではないのですが……ふふっ、すみません! 宣伝ってわけじゃないのですが……こちら、主に
「わぁ……! ありがとうございますーっ!」
「赤ちゃんはすぐ大きくなって、サイズ違いの服を買い替えなきゃいけませんから……ほんと出費がバカにならないんですよねぇ……なので、これ一枚で三枚は無料で買えるので、ぜひセール中にまた来てください!!」
「三枚も無料で!? わかりましたーっ! 絶対また来ます……っ!!」
これは素晴らしいクーポン券をもらった。
それはそれとして、まおちゃんは訝しむ。
(あれ……なんかこれって……
まおちゃんは考察する。
小宮果穂は高身長ゆえ、よく初見で高校生と間違われる。しかし中身は、小学生が高学年にもなると卒業してしまう(低学年レベルの)無邪気さを備えているため、ひとたび会話すれば、すぐに小学生だと気づくことができる。
けれども様子を見るにレジ係のお姉さんは、まだ小宮果穂が小学生だとは気づいていないようす。それも無理はない。見た目二歳児の赤ん坊を抱っこしているのだ。しかも購入した服のサイズは一歳児が主に着るものであるため、つまり────
(果穂ちゃんは、今……! このレジの、お姉さんに……!!)
────中学卒業か高校入学の間に妊娠・出産した、若い母親と思われている。
その可能性が高い。その気配が濃厚である。
若年出産。幼妻。若奥様。
様々な類語はどうでもいい。
この誤解を解くべきか否か。少なくとも懸念を知らせない選択肢はない。
まおちゃんは小宮果穂の肩を叩いて急遽、耳打ちする。
(果穂ちゃん……!)
(?)
(たぶん、このお姉さん……果穂ちゃんが、いろはちゃんのママだと思ってるよ……!)
(……)「えっ……!?」
びっくりした小宮果穂は、つい声に出してしまう。
「……?」
レジのお姉さんは首をかしげるが、すぐに仕事に戻る。
「あ、袋いりますか?」
「……! あ、えっと……いえ……! あ、じゃなくて、はいっ……!」
小宮果穂は考える。考えることで頭がいっぱい。誤解は解いておきたいが、なかなか言うべきタイミングが見つからない。
やがてレジ係のお姉さんは、大きな袋をカウンターに差し出して、礼儀正しくお辞儀する。
「お買い上げありがとうございましたー! ──……あの、頑張ってくださいね!」
「──……っ!!」
その応援は、つまりそういうことなのだろうか。ならば今しかない。
小宮果穂は勇気を振り絞った。
「あ、あの……! もしかして、なんですけど……」
「?」
「あたし、何歳くらいに、見えますか……?」
「え?」
「その……もし、高校生とかに見えているなら……あたし、小学生ですっ! この子のママじゃ、ありません……!」
しばしの沈黙。
すかさず、いろはちゃんが畳み掛けた。
「いろはのおかあさんはちがうひと!」
それを聞いた瞬間、レジ係のお姉さんは大口を開けて、両目を大きく見開いた。
「──っ……!? そ、それは大変……! 失礼しましたーっ!!」
「い、いえ! 誤解が解けたのなら、良かったです……! なので、このクーポン券、お返しします……っ!」
「あ、はい……や、でも……! お詫びとして、どうぞお受け取りを……! 本当に、ごめんなさいぃ……!」
「え……でも、あたし……
「いえいえ、あくまで“主に”ですから……! ママさんじゃなくても配っているんです……! 本当に申し訳ございませんでした……ッ!!」
お姉さんは気恥ずかしいようすで、ペコペコと頭を下げる。
そこでまおちゃんが助け舟を出した。
「果穂ちゃん。せっかくだからもらっておけば? だって三着も無料になるんだよ?」
「……! それは……たしかに……?」
「おとくだね~?」
「そうそう、お得だよ!」
「……おトク……あの、じゃあ、やっぱり受け取ります! ありがとうございましたっ!」
若干気恥ずかしいのか面を上げられない小宮果穂は、袋を手に取ったあと深々とお辞儀して店を後にする。
いろはちゃんは「ばいばーい!」と店員のお姉さんに手を振るが、その視線はバーコードリーダーにも向けられていた。
「……果穂ちゃん。大丈夫?」
「! うん! えへへ……ちょっと、びっくりしちゃっただけ……!」
「私も~! でも勘違いしちゃうのも仕方ないよね……果穂ちゃん、立派にお母さんしてたし~?」
「え~? そうかなぁ……」
「そうだよ! ずっと真剣に服を選んでたんだもん。あれを見てたら、私でも勘違いしちゃうよ!」
店の中で三歳児の育児本を開いて読み込むくらいだ。付箋の数も大量だった。
そこまでいけば、もはや誤解してくれ、と言っているようなものであろう。
「そうかも……? でも私、どう見えてたんだろ?」
「それは……」
さすがの小宮果穂も、言わずとも察してはいるだろうが……まおちゃんは、あえて直接的な明言は避ける。
中高生のうちに妊娠と出産。そこまではいい。
相手は蒸発したのかどうか。そのような下衆の勘繰りをしてくることは無いだろう。さもなくば、あれほどまっすぐな瞳で無料クーポン券を渡してくるはずがない。ただし少なくとも、ほかの客と比べて応援に身が入っていたのは事実である。
そのため色々と懸念して、まおちゃんは話題を逸らす。
全ては小宮果穂の心労を、少しでも減らすためである。
「──私がどう見えてたのか。そっちの方が気にならない?」
「まおちゃんが?」
「うん。だって、もしかして私……果穂ちゃんの妹とかに、思われてたかも?」
「え……! そうかな……? なんでそう思うの?」
「だって、ママとその赤ちゃんと一緒に、服を買いに来る女の子って……そのママの家族しかいなくない? ママ友の線もあるけど、私はどう見ても小学生だし……高校生と小学生の友達っていうのも珍しいし……そうなると、身長的に……ね?」
「! あ、そっかぁ……!」
「ふふっ。なんか面白いね!」
「えへへ……そうだねっ!」
友達なのに、姉妹だと思われていたかもしれない。
なんとなく気恥ずかしさと嬉しさを共有するふたりの少女は家路に就く。
「じゃあ買い物袋を家に置いてきたら、公園でみんなと合流っ!」
「うん!」
今日はクラスメイトの友人達と遊ぶ約束をしている。もちろん、いろはちゃんも混ざる予定だ。ただし小宮果穂が遊びにかまけて目を離すと危ないため、いろはちゃんの監視役としてマメ丸も連れてくる。これは必須事項だ。
「こうえんー! いろはもー!」
「うん! マメ丸と行こうね!」
小宮果穂は、
今日も今日とて、全力で
§