【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
平日の夕方。283事務所。
学校帰りの小宮果穂は、プロデューサーのデスクの前で絶望したように絶句していた。
「え……」
「? 果穂、どうしたんだ? もしかしてこの仕事、イヤだったか?」
「……! い、いえっ……! そういう、わけじゃ……」(ないん、ですけど……)
「……でもやっぱり
「────」
それもあるが、それどころではない。
二泊三日のドラマ撮影。とてもやりたい。そのお仕事は絶対に受けたい。
しかし、そのあいだ。
やはり仕事は断念せざるを得ないのか。
やはり自分ひとりでは、育児と学業とアイドルの、三足のわらじは無理だったのか。
それも当然である。あらかじめ予想はしていた。
いつか、こういう日が来ることは、分かっていたのである。
分かってはいたのだけれど────
「……ぷ、プロデューサー、さん……」
「……どうした?」
「────その…………た、」
「……た?」
そのため小宮果穂は、邪魔な
そういった諸々の挑戦・反抗期は────
────
困ったことがあれば仲間に相談する。きちんと周りに助けを求める。
それができる人が、本当の大人である。それが小宮果穂が目指すべき
小宮果穂は真剣な表情で、どうかこれから伝える“スゴい話”を信じてほしいと言いたげに、前のめりになって叫んだ。
「────たすけてくださいっ!!」
§
一時間後。ふたりきりの社長室。
座卓を挟んで向かい合う小宮果穂とプロデューサーは、現状の確認を済ませていた。
「つまり────アルファさんは三歳児のいろはちゃんになってしまった。そして、いろはちゃんを警察に届けるとマフィアに暗殺される可能性が高い」
「あたしも殺されてしまうかもしれません!」
「それはダメだな……絶対にダメだ……このことを知っている人は?」
「あたしとまおちゃんと、プロデューサーさんだけですっ!」
「じゃあ、まおちゃんと俺も危険か……」
「────え? ──……っッ!? あっ……そ、そうなるんでしょうか……っ!? ど、どうしよう、あたし……っ!!」
「! いや、まだ分からないから……! 今のは“たぶん”っていう話で……! そ、それより────」
小宮果穂は、知らず知らずまおちゃんとプロデューサーを危険なことに巻き込んでしまった。それに気づいて動揺する。そのことに気づかなかった自分が、どうしようもなく未熟に思い、自己嫌悪に陥る。
その表情を見て取ったプロデューサーは、慌てて話題を変えた。
「────果穂といろはちゃんは、本当に半月も……その、ふたりで暮らしていたのか……?」
「あ……はいっ! といっても、ほとんどマメ丸が、アルファさん……いろはちゃんの面倒を見てくれていたんですけど……っ!」
「マメ丸が……そうか。でも、そうだよな。果穂には学校があるし……────そうか……俺、全然気付かなかったよ……」
それはそれとして注意しなければならないことがある。
「でも、できれば……もっと早くに伝えてほしかったかな……」
「……!! はい……ごめんなさい……」
小宮果穂はしゅんとする。
「いや、仕方ないことでもあるんだ。ボンゴレっていうマフィアの話によれば、警察には頼れないし……果穂が、この不思議な話を、周囲の人に信じてもらえないと思って怖がる気持ちも分かるから……」
「──……でも、プロデューサーさんは信じてくれました! どうしてですか……?」
「それは────
「??? ハロウィン……?」
小宮果穂は首をこてんとかしげる。
プロデューサーは後頭部を掻いて、ごまかすように笑うほかない。
「はは……たぶん俺の話の方が、信じてもらえないと思うんだけど……」
「えっ……プロデューサーさん……そんなにスゴい体験をしたんですかぁ!?」
「ま、まぁな……いまさら異世界があるとか、幽霊や吸血鬼が実在するとか、果穂とそっくりな猫人間が銀河鉄道の車掌さんをやっていたとか言われても……特に驚きはしないよ」
「……!!」
小宮果穂は驚愕する。
そして、より一層プロデューサーに対して、全幅の信頼を置いた。
「やっぱり────プロデューサーさんはスゴいですーっ!! 勇気を出して相談して良かったですー……っ!!」
「はは! 俺も頼ってくれて嬉しいよ。──さて、それじゃあ……」
具体的な対策を考える時間がやってきた。
「果穂。このことは、俺と果穂とまおちゃん、三人だけの秘密にしよう」
「はいっ! ……ほかの人を、巻き込めませんから……っ!!」
「そうだな。……でも、みんなの力は借りよう」
「へ?」
どういうことか。
プロデューサーは一つ一つ確認しながら説明する。
「まず果穂は、二泊三日の長期ロケはもちろんだが……これから似たようなお仕事が舞い込んでくるだろう。それは受けたいか?」
「はいっ! あたし、育児もお仕事も、何も諦めたくないですっ!」
「そうか……それが聞けて良かった。でも俺と果穂がロケに行くと、いろはちゃんは──マメ丸がいたとしても──部屋で数日ひとりきり。それはとても危険な環境だし、そもそもそんな状況には絶対にさせてはいけない」
「はいっ」
「だから────俺は二つのプランを考えている。作戦だな」
「
二つのプランとは何か。
小宮果穂は気になって気になって仕方がない。瞳を輝かせて、頼りになるプロデューサーの次の言葉を待つ。
「まず一つ目のプランは────俺と果穂といろはちゃんの三人で、二泊三日のロケに行く」
「……!」
「今回受けるお仕事は、果穂も慣れている業務内容だ。現場に俺が居なくても平気だろ?」
「あ、はい……! ……じゃあ、えっと、つまり……?」
「俺が必要になるタイミングは送迎だけだ。なら俺は、果穂が現場で仕事している間、いろはちゃんの面倒を見ようかなって。もちろん果穂に何かあれば、いろはちゃんと一緒に向かうよ。いろはちゃんは……まぁ俺の親戚ってことにしておけばいいだろう。ダメかな?」
「……!! いえっ! その作戦は……とても、とーっても、いいと思います……っ!!」
「はは。でもこれは、次善の策なんだ」
「? じぜん……?」
「果穂の話を聞いていく中で、
「!
小宮果穂は、なんだかワクワクしてきた。
プロデューサーも、どこか真面目なキメ顔で語る。
「二つ目のプランは────283の事務所で、いろはちゃんを預かることだ!」
「──えっ……!?」
「思えば俺は正直、三歳児の面倒を見れる自信がない……ぶっちゃけ、この半年間、よく果穂はいろはちゃんの面倒を見切れることができたなって、俺のほうが感心するくらいだ……なぜって俺は、よくよく考えてみれば
「……? えっあのっ……三歳児は、もう
「えっ? ──あ、そ、そうか……! そうだったか……!? い、いやぁ、ははっ……まぁ、赤ん坊に対しては、こんな感じの認識というか、知識量なんだ……すまない……」
プロデューサーは赤らんで恥じらう。
後頭部を掻いて視線を下げる。
「だから、こんな俺が、いろはちゃんの面倒を見切れるのだろうか……? と、考え直していると……かなり不安になってきて……だから、やっぱりはづきさんや社長とかに任せた方が安全かな? と、思えてきて……果穂は、どう思う?」
「…………」
小宮果穂は考える。
「あたしは、それでもいいと思います! 283のみなさんなら、安心していろはちゃんを任せられますっ! それはもちろん、プロデューサーさんもそうなんですけど……でも……」
「でも?」
「どうやって、説明するんですか……? だって、説明しちゃうと、283のみなさんを危険な目に……」
「……そうだな。もしかしたら、いろはちゃんを預けるだけでも、みんなを危険な目に遭わせてしまうかもしれない」
「!! じ、じゃあ……!」
「でも、それよりも……大切なのは、いろはちゃんの安全だ」
「────!」
「それに、困った時はボンゴレが助けてくれるんだろ? なら、マフィアのことはマフィアに任せよう。俺たちが分からないことで怯えていても仕方がない。俺たちは俺たちにできることをするんだ。それは当然────」
「────いろはちゃんの、えがお!」
「はは、そういうことだ!」
小宮果穂とプロデューサーは微笑み合う。
「──……と言いつつ、避けられる危険は避けるべきだ。俺は、何もバカ正直に、この件をみんなに説明する必要は無いと思っている」
「!」
「つまり、嘘をつくんだ。みんなには悪いけど、俺が考えた
「……!!」
かくして話はまとまった。
さっそくプロデューサーは、283のアイドルと事務員に緊急招集をかける。
全員が空いている日時を詰め合わせて、待ち合わせ場所は283事務所の会議室に決定。
「な、なんだか、おおごとになってきました……!」
「ははっ……俺もこんなこと滅多にないから、ちょっと緊張してるよ……!」
それもこれも、いたいけな三歳児を守るため。
プロデューサーはヒーローのように全力を尽くして、困っている人達を助けに行く。
「がんばろうな、果穂!」
「! ──……はいっ!」
§
翌日。
平日の夕方。事務所の会議室。
何も書いていないホワイトボードの前で腕を組むプロデューサーは、自信に満ちあふれた仁王立ちで待機していた。
その手前には、人数分の座席に283のアイドル達が座っており、ほとんどの顔ぶれが揃っている。姿が見えないアイドルは、小宮果穂のみ。
『……………………』
プロデューサーは覚悟を決める。
説得の失敗は許されない。なぜなら頼りになる人は、283のみんなしかいない。
一方のアイドル達は、これからいったい何が始まるのか不安そうにしていた。
もじもじとする月岡恋鐘や園田智代子。平気そうにスマホをいじる樋口円香。
やがて扉が開く。廊下側から、事務員の七草はづきと小宮果穂が入ってきた。
樋口円香はスマホをしまう。
「プロデューサーさん。小宮果穂さんと
「お、遅くなってすみません……! いろはちゃんが、また脱走しちゃって……!」
「んー! まめのせいでつかまったー!!」
事務所の玄関先の踊り場でおすわりするマメ丸は、悔しがるいろはちゃんに噂されてくしゃみする。
「……よし、これでみんな揃ったな。いろはちゃん。ごめんけど、これから大事な話があるんだ。すでに果穂から聞いてるだろうけど……俺の話、聞いてくれるかな?」
「? ……どちらさですかー?」
「! すまない。俺はプロデューサーだ」
「いろはちゃん! さんさい!」
小宮果穂に抱っこされるいろはちゃんは、大きく右手を挙げて挨拶する。
「ははっ! よろしくな!」
「よろしくっ! おなかすいた!」
「えっ……!? あ──じゃあ、はづきさん……!」
プロデューサーは助けを求める。
既に彼から事情を説明されている七草はづきは、小宮果穂からいろはちゃんを受け取って抱っこした。
「はい~。……いろはちゃん。リビングにお菓子があるんだけど、はづきお姉ちゃんといっしょに食べよっか~?」
「! たべるー!」
「あ、じゃあ……あとはお願いします、はづきさん!! ──いろはちゃん、いい子にしててね!」
「はい~。果穂さん。責任を持ってお預かりしますね~」
「いい子にしてるよ~! たぶんね~!」
七草はづきの間延びする語尾を真似たいろはちゃんは“たぶんね”と言うからに、おそらく再びの脱走を計画している。しかし七草はづきがそばにいれば大丈夫だろう。玄関の外にはマメ丸も待機している。仮にどうやってか脱走しても、すぐに追跡して捕まえることができる。
小宮果穂は着席。
プロデューサーは両手を叩いて注目を集め、大事な相談を始めた。
「さて、みんな。よく聞いてくれ。──実はやんごとなき事情があって、さっきの子を
『────……!!?』
「ああ。突然のことで驚くよな。でももう預かるしかないんだ。相談もなくすまない……」
『…………』
「それで……本当に申し訳ないんだが────この話は、
『────……????????』
アイドル達は目を丸くする。
そこで樋口円香と黛冬優子が問いかけた。
「どういうことです?」
「え~っとぉ……今の子を預かることになった
「──……そうだよな。気になるよな。でも俺も譲れないものがある。心を鬼にして、みんなにこう言わなければならない」
ごくり、と生ツバを呑むアイドルが多数。
プロデューサーは、溜めに溜めた“会心の
「
『……っ!!!?』
「いや、訳は話してもいいんだが……説明すると余計に混乱するかもしれない。それならいっそ、話さないほうがいい、と判断したんだ」
『……ッ??!』
「たとえば、さっきの子が
その時、七草にちかが意見した。
「はー? そんなウソ信じるわけないじゃないですか! もっとちゃんと説明してくれますー?」
「……とまぁ、こういう意見が出てくることが容易に予想される。
『……っッ!?』
「宇宙人というのは確かに嘘だが、それと同じくらい難しい話なんだ。だから頼む! お願いだ!! 本当は宇宙人じゃないにしても、あの子の境遇は
『────!!! !!!!? !!!!! !?! ?!! ???! !? ??!』
お互いの信頼関係。それを利用した交渉術。下手をすれば信頼度が低下する蛮行。
しかしここまで言えば、
「無理なお願いだとは百も承知だ……! その上で────頼むッ!! いろはちゃんの面倒を見ることを、みんなに手伝ってほしいんだ……!」
プロデューサーは頭を下げる。
すると小宮果穂は席を立ち、プロデューサーの横に並んで深々とお辞儀した。
「あ────あたしからもっ!! どうか、よろしくお願いします……っっ!!」
『……!?!?』
一同は思う。
ならば赤ん坊と小宮果穂の関係とは?
プロデューサーは明らかにそれを知っている。
しかし語れないという。その上でアイドルに子守をしろという。
信じたいが故の疑惑。逡巡する推理。それも過ぎれば邪推となる。
身元不明の赤ん坊。それに関わる小五女子と成人男性。
しかしプロデューサーといろはちゃんは初対面のようだった。
ふむ。
「ふふっ。わからん」
「ぴゃ……と、透ちゃん……!」
笑って目を閉じうつむいた浅倉透は、慣れない推理を放棄した。
福丸小糸も似たようなものであり、気まずい静寂を打ち破った浅倉透の名を呼ぶ。
やがてイルミネーションスターズの三人が、震える口を開く。
「ほわわっ……ぷ、プロデューサーさん……」
「……わかりました。そういうことなら、私は何も聞きません」
「と、とにかく、あの子の面倒を見ればいいんだよね……? どのくらい?」
「あと一ヶ月半かな? そうすればいろはちゃんは、元の世界に帰れるはずだ」
────元の世界。
それは明らかな失言だった。
しかしプロデューサーは、失言をしたことにすら気づかないほど、さもそれが当たり前かのように平然と言って流したため……ほかのアイドル達も失言に気づかなかった。否、中には気づいているアイドルも大勢いたが、それよりも動揺と混乱のほうが大きすぎて、
「……わ、わかったばい! うちはプロデューサーのこと信じとるよ! だから……!」
「まー……私は基本パスで~……」
「ふふ。なんだか面白いことになってきたね……」
「えぇ~……さくやん心臓強すぎでしょ~!」
「あの……子供のお世話は、わたしに任せてください……!」
「! そうか……霧子は病院の手伝いで慣れているのか! それなら心強い」
「!! それなら霧子さん! あとであたしにも教えてください! 子供のお世話の仕方……!」
「……樹里ちゃん。話についていけてる? 私だけかな? ついて行けてないの……私だけかなぁ!?」
「いや……まったく……アタシも、なにがなんだか……」
「……………………」(凛世は……凛世は……ただ、プロデューサー様のことを信じ……お子を、お預かりするのみで、ございます……)
「…………」
「……凛世、夏葉。大丈夫か? 当然、大人の対応として言いたいことは山ほどあるだろう……だがそれにも目をつむってほしいんだ。もちろん全責任は俺にあるから、みんなに迷惑をかけることはない。要は、俺と果穂が居ない時に、いろはちゃんの子守をしてほしいってだけの話だから」
「────ぷ、プロデューサーさん……いったい、何が……」
「……? どうしたの、なーちゃん? もしかして、不安……? それなら、安心して……! 甜花、お姉ちゃんだから……! 年下の女の子の面倒を見ることくらい、楽勝……!」
「…………」
「あ、悪いけど甜花。いろはちゃんは男の子だぞ?」
「え────、…………そ、それなら、甜花、もう……ゲームオーバー……」
大崎甜花は落ち込む。
そういう問題なのだろうか? 芹沢あさひは訝しむ。
「あたしは別にいいっすよ! いろはちゃんとは、もう友達っすから!」
「────……はぁ!? っッ……! ご、コホン……! ──えっと、あさひちゃん♡ それってどういうことか、あとで詳しく聞かせてくれる?」
「う……うちも知りたい感じなんですけどぉ~……!」
「はは。そうだったのか? まぁいろはちゃんは毎日外出してるみたいだから……どこかで会ったりしてたのか」
芹沢あさひは「公園で会ったっす~!」と返す。
「あー。それなら私も友達だわ。樋口も」
「ジャングルジムから降りるの手伝っただけでしょ」
「へ~? 透先輩と円香先輩も、あの子のこと知ってるの~? じゃあ後でそのこと、雛菜にも聞かせて~!」
「ぴぇっ……!」
「透と円香もか。それならいろはちゃんも顔見知りが多くて安心できるかもな! あ、でも基本は寮組に預かってもらう予定なんだ。ロケの宿泊で、俺や果穂が事務所を空ける時とか……」
「……え。これマジで預かる感じ……?」
「それって……アイドルのお仕事なの? ……まぁ、そうじゃなくても、小さな子の面倒くらいは見るよ」
「ありがとう、美琴」
「……くだらねえ。私はパスだ。ほかの奴が面倒見ろよ……」
「え~。あたし、プロデューサーの子供、ちゃんと見れるかな~?」
「は、羽那ちゃん!?」
「は、羽那……?! 別にいろはちゃんは、俺の子ってわけじゃないぞ!? それだけは絶対に違うからな!! それは大変な誤解だ……!」
「はい! あ、ちなみに、あたしの子供でもありませんっ!! いろはちゃんは────なんていうか……その…………ご、ごめんなさい! うまく言えませんでした……!! やっぱり何も言えません……っ!」
小宮果穂は両手で口を抑える。
無理に説明する必要もないだろう。そのようにプロデューサーも差配して説得したのだ。このまま押し切ればいい。ただし今の小宮果穂が感じているように、若干の申し訳なさを覚えるのもまた事実。
助けてほしいなら、その理由を述べるのが
それでも言えない事情がある。故に、これは最初から無作法なお願い。だからこそプロデューサーは
プロデューサーは面の皮を厚くして、この交渉事を有利に持っていく。
「そういうことで、よろしく頼んだ! ──ちなみに今度、果穂と二泊三日のロケがあるんだけど……その時はいろはちゃんもロケに連れて行くから安心してくれ。ただ、その後日、また宿泊ロケが入っているから、その時は寮組や事務所のみんなに預かってもらう予定だ。……でも、いきなり知らないところに預けられたら、いろはちゃんは不安に思って負担になるかもしれない。だから寮や事務所に慣れてもらうため、みんなとは前もっていろはちゃんと交流しておいてほしいんだ」
『……────』
「話はこれで以上だ。質問は受け付けるが、答えられないものは何一つ答える気はない。──俺も昨晩、社長やはづきさんにこのことを打ち明けたら……それはもう鬼のような詰め方で、山のように問いただされてな! だからみんなが気になる気持ちはとても分かるけど……あまり俺を、いや、果穂やいろはちゃんを困らせないでほしい」
プロデューサーは、とてもずるいことを言った。
「あ、ところでいろはちゃんに関しては社外秘だ。でも存在自体は隠せないから、SNSに写真や動画を上げることは構わない。あと言わなくても分かっているだろうけど、顔が写っていないならOKとしておく。そして一ヶ月半後、もしかしたら(アルファさんにお願いされて)投稿した写真や動画は全部削除することになるかもしれないから、そこらへんもよろしく。──それとファンに説明が必要な場合は、事務員の親戚の子、ということにでもしておいてくれ。俺もロケ先ではそういう口裏で合わせておく。じゃ、そういうことで!」
話は以上。と断ったあとに、そんなことを付け加えてくる。
色々と事後承諾が過ぎる。必要なはずの説明が後回し過ぎる。
「最後に────みんな、いろはちゃんと仲良くな! じゃ、俺は仕事があるから……」
そう言ってプロデューサーは、明らかに逃げるように会議室を出て行った。
取り残された283の面々の視線は自然と────小宮果穂に注がれる。
「……ハッ!! あ、あたしも、何も言えませんから……! ご、ごめんなさい……っ!!」
『…………────』
いたたまれなくなった小宮果穂は、カニ歩きで壁を背にして、すたこらと会議室から逃げ出す。
しばしの沈黙。
「にゃー!」
「こら~まて~!」
その
もしやいろはちゃんは、また脱走を企てたのか。笑顔で追いかけてくる七草はづきの抱っこ攻撃から逃げまくる。
いろはちゃんはホワイトボードの裏に隠れた。しかしホワイトボードの脚は細い。その裏に隠れても、体の大部分がはみ出している。それでも隠れているつもりなのか微動だにしない。
一方、童心に返っていた七草はづきはハッとして頬を染め、姿勢を正し、はじらいを隠すようにアイドル達へ問いかけた。
「──! ……こほん。あ、みなさ~ん? プロデューサーさんからの説明は、納得できましたか~?」
『────』
できるわけがない。
しかし、それはそれとして。
「ちらっ?」
首をかしげたことできれいな髪がさらりと流れ、ホワイトボードの脚から顔を覗かせた、可愛すぎる赤ん坊。
それを間近で見て、メロメロにならない
(((────くっ……かわいい……っっっ!!!!!)))
§