【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
sSR【アンティーカの育児日記・一日目】田中摩美々
翌日。
正午の283事務所。
いつも通りマメ丸と散歩していたいろはちゃんは、ゆうべ小宮果穂に教えられた通り、283プロの事務所手前に到着した。
小宮果穂によれば、今日から
しかし開幕からトラブルが起きた。
どうやって事務所に入ればいいのか分からない。たしか階段を登った記憶があるものの、その階段がどこにあるのか見当たらない。階段がどこにあるのか忘れてしまった。
それも無理はない。283事務所の出入り口は、少し分かりにくい位置に設けられている。それはペットショップと隣の建物の隙間の奥にある階段である。
日光が燦々と降り注ぐ昼間であっても、隙間奥の階段は暗がりとなっている。そのため建物の間の奥にズンズンと足を踏み入れて行かなければ、そこに階段があると分からない見かけになっていた。
困ったいろはちゃんは、とりあえず目の前のペットショップに入店する。
「たのもー!」
「ワンッ!」
「……? いらっしゃいませ~」
ペットショップの女性店員は、小さいお客様の到来に首をひねる。二歳くらいだろうか。保護者の姿が見当たらない。段ボール箱の積荷作業を一旦中断して、赤ん坊の前に歩み寄り、両膝を抱えて座り込む。視線の高さを合わせて挨拶。
「坊や。どうしたのかな?」
「あのねー。まいご!」
「え!? そうなの? だいじょうぶ……?」
「だいじょばない! えっとねー……なんだっけ? あのねー。ツバサにあそびにいくんだけどね~」
「────283? それなら、この上にあるけど……?」
「そう! でもねー。かいだんがねー。わからん!」
「あ~……階段かぁ! たしかにちょっとわかりにくいよね~? よし、お姉さん知ってるから、いっしょに行ってみようか!」
「わぁー! ありがとー!」
万歳するいろはちゃん。マメ丸も「ワン!」と感謝を吠える。
そのダブルな可愛さに微笑む女性店員は、店の外に出て暗がりの階段に案内する。
「ここを登っていけば283さんの事務所だよ~。二階。わかるかな?」
「あー……んー……」
「……? ……あっ。もしかして、暗くてちょっと怖い?」
「んー……ちがう! あのねー。ピンポンどーしよーかなーて」
「ピンポン……?」
「まぁたたけばいっか! ありがとうござまーす!」
いろはちゃんはさっそく歩き始めながら後ろのお姉さんにお辞儀して手を振ってお礼を言いながら階段を登り始める。忙しない言動だ。お礼を言うことと階段を登ることを同時にこなしている。少しせっかちさんなのだろうか。
いろはちゃんは壁に手をついて一段ずつゆっくりと上がって行き、時に段差に手をついて犬猫のように登っていく。先行くマメ丸と同じ登り方をした方が早いと判断したようだ。
「えっほえっほ……」
「…………」
いろはちゃんは踊り場まで登りきった。そのぶんなら大丈夫だろう。
しかし女性店員は心配のあまり、ついつい最後まで見守ろうとする。
「えっほ、えっほ……あーもーつかれた」
「ワン!」
あと三段というところで、いろはちゃんは段差の上に座り込む。上から二段目の段差に肩肘をかけてもたれかかり、少し休憩。
ちょっと汚い。段差の汚れが腕や服に付いてしまう。踊り場の陰から見守る女性店員は、そんなことを考える。
一分経過。元気が戻ってきたのか、いろはちゃんは登山を再開する。最後の三段を登りきって「ふう!」と達成感のあるため息。事務所の扉を手のひらで“ぱんぱん”と叩いて「たのもー!」と呼びかける。
「ワンッワンッ!」
いろはちゃんの声量では聞こえないかもしれないため、マメ丸も甲高く吠えることで呼びかける。
すると廊下側から慌ただしい足音。事務所の扉が開かれた。事務員の七草はづきが焦ったように現れる。
「──い、いろはちゃん~! 電話はどうしたのかな~……?」
「?」
「事務所の前に着いたら、はづきお姉ちゃんに“お電話する”ってこと……忘れちゃったかな?」
「……あー……?」
何かを思い出したらしきいろはちゃんはポーチの中をまさぐる。
そして、プロデューサーが用意した、中古のSIM入りスマホを取り出した。それは昨晩、小宮果穂から持たせられた、よくわからないスベスベの携帯。折り畳み型の携帯ではないため、すっかりこれが通信端末であることを忘れてしまっていた。
「これ?」
「そう! だって階段登るの大変だったでしょ~? ごめんね~」
「わすれてた!」
「そっか~。次はちゃんと連絡してね~? 抱っこして連れて行きますから~」
「ん~……たぶんね!」
いろはちゃんからすれば、自力で登りたい気持ちがある。
抱っこは嬉しいが、そろそろ抱っこからは卒業したい気持ちもある。
甘えたい心と甘えたくない心。心が二つある。
かくしていろはちゃんとマメ丸は、七草はづきに通されて事務所の中に入っていく。
それを見届けた女性店員は
§
数分後。
玄関マットで足をふみふみして汚れを落としたマメ丸と、洗面所で手洗いうがいを済ませたいろはちゃん。
一人と一匹はリビングに向かい、いろはちゃんはL字型のソファによじ登って、マメ丸は絨毯の上で丸くなる。
いろはちゃんはポーチをまさぐってスマホを取り出すと、さっそく電話アプリを起動した。
「もしもしー?」
デスクに着いたばかりの七草はづきのスマホが振動。
七草はづきはもしやと思いつつ、スマホを取り出して応答した。
「はい。もしもし。283です」
「いろはだよー!」
「いろはちゃんでしたか~。こちらははづきで~す!」
「こんにはー!」
「こんにちは~」
ソファに座るいろはちゃんと、デスクの椅子に座る七草はづきの視線が合う。
にこにこと応対する七草はづきは、笑顔のいろはちゃんとの電話を楽しむ。
「ばいばいー!」
「ばいば~い!」
特に話す内容は無かった模様。
いろはちゃんは相手の顔をジッと見つめながら、まっすぐと手を挙げてさよならの手を振り、スマホに視線をやって電話を切った。
それからソファの上をハイハイで渡っていき、座卓に置かれたリモコンを発見。手を伸ばしてリモコンを掴みとり、赤いボタンを押してテレビを点ける。
そうしてテレビを見るのかとも思いきや、すぐに飽きたのかテレビを付けっぱなしのまま、つまらなさそうにソファの上をゴロゴロと寝転がった。
「おねえちゃーん」
「なーに~?」
「あそんで~!」
「……ごめんね~。お姉ちゃん、お仕事があるの~」
ならばといろはちゃんはソファを降りて、かまってもらうために攻撃を仕掛ける。
七草はづきの足元に到着。膝をつんつんとつついて問いかける。
「おなまえは~?」
「七草はづきですよ~」
「じゃ~あ~……はづいぜ……」
「?」
「はーちゃん」
「……」
「づっきー?」
「!」
「きーちゃん! どれがいいー?」
「……ん~。その中なら~、はーちゃんがいいかな~」
「じゃあはーちゃん!」
いろはちゃんは笑顔で万歳する。
その時、廊下側の扉が開いた。
§
「おはよう……ございます……」
「は~い。おはようございます~」
幽谷霧子が毎日の水やりに訪れた。七草はづきが返事する。
するといろはちゃんはデスクの陰から姿を現して、訪問者の姿を確認。
銀髪白巻き女の子。見た目からして面白い存在がやってきた。
とたとたと歩いて彼女の足元に到着したいろはちゃんは、相手を見上げてつま先立ち。大きく手を挙げて大声で挨拶する。
「いろはちゃん! さんさい!」
「……! ……幽谷霧子、17歳……です……!」
「おー……ゆうちゃん? きりちゃん? りこちゃん? きりこ? どっちがいーい?」
「え……うーん…………どれでも、いいよ……♪」
「じゃーあー……きりこー! ちゃん!」
「ふふっ……いろは……ちゃん……♪」
にこにこと微笑み合う空間。
幽谷霧子はスカートの後ろを抑えて屈み込み、いろはちゃんと目線の高さを合わせて微笑み、首をかしげる。
「いろはちゃん……かわいい、ね……♪」
「いろはちゃんかわいいー! でもねー。いろはねー」
「……?」
「いろはちゃん! さんさい! おとこのこー!」
「……────! そう、だったん、だ……?」
「びっくりしたー?」
「うん……びっくりした……でも、やっぱり、かわいい、ね……!」
お互い首をかしげながら満面の笑顔を交わし合う。
その穏やかな癒し空間を傍目で見守る七草はづきは、つい笑みが洩れる。それはそれとして今、衝撃の事実を知ってしまった。てっきり女の子だと思っていた。しかし男の子であっても何も問題はない。とにかく可愛い。それに尽きる話である。
「それじゃあ……わたし……これから、水やり、するね……」
「みずやりー? いろはもやるー!」
「ふふ……じゃあ、いっしょに、やろっか……♪」
幽谷霧子は小さめのジョウロに水を汲んでくる。いろはちゃんを抱っこして植物の前に持っていく。
水やり開始。
「どうぞー」
「ふふ……ありがとー……って、言ってるよ……」
「いろはものどかわいたー」
「え……じゃあ……水やり、終わったら……冷蔵庫、見よっか……」
「このしょくぶつのひと、オレンジジュースのむー?」
植物の人。
もしやゼラニウムさんのことを言っているのか。
「ゼラニウムさんは……オレンジジュース、飲まないよ……!」
「まめまるはー?」
「……たぶん、マメ丸も……飲まないんじゃ、ないかな……?」
「そっかー」
水やり終了。
幽谷霧子はジョウロを片付けると、いろはちゃんを抱いたまま台所に向かう。
「扉……開けてくれる……?」
「いいよー!」
いろはちゃんは冷蔵庫の扉を開く。
麦茶。オレンジジュース。コーヒー。牛乳。ミネラルウォーター。スポーツドリンク。
「これなにー?」
「えっと……スポドリ……かな……?」
「すぽどり? のんでみたーい!」
「えっと……じゃあ、ちょっとだけね……」
「なんでー?」
「塩分が……多いから……」
「? えんぶんおおいから、どうなるのー?」
「……多いと、具合が悪く、なっちゃうかも……」
「あー……そうなのかー。じゃあちょっとだけー!」
いろはちゃんは納得した。
ならばと幽谷霧子は、いろはちゃんを床に下ろして準備する。グラスにスポドリを少々注いで、どうぞと渡す。
「まめもみずー!」
「あ、うん……!」
幽谷霧子は小皿を用意してただの水を注ぎ、マメ丸のところに持っていく。
「わんっ!」
「ふふ。どうぞー……」
いつもいろはちゃんから目を離せられなかった保護者マメ丸は、今はのんびりとくつろぎながら水を舐め飲む。
「しょっぱーい!」
「……!」
加えて、少し
しかしお残しするとスポドリに悪い。我慢して頑張って飲み干す。
「あ……無理しなくて、いいんだよ……?」
「……────ぷはぁ! オレンジー! くちなおしー!」
「……! ふふ、うん……!」
§
数分後。
ソファの上に座る幽谷霧子。その膝の上には、いろはちゃんが乗せられていた。小さな手にはストロー入りのコップがある。
幽谷霧子は台所の棚を探っていたら使い捨てストローを見つけたため、これはちょうどいいと思い、いろはちゃんのために使わせてもらっていた。
いろはちゃんはストローをかじりながら、なみなみと注がれたオレンジジュースを、ちゅーちゅーと吸っている。
「おいしいね~?」
いろはちゃんはオレンジジュースのおいしさを伝えるため、幽谷霧子の顔を見上げたい。しかし幽谷霧子は真後ろにいる。真上を見上げながら体を後ろに倒すと、頭のてっぺんに何か柔らかいものが当たった。そして見下ろしてくる幽谷霧子と目と目が合う。
「ふふ……よかったね♪」
「のむー?」
「……いいの? ……じゃあ、ちょっとだけ……」
「どうぞー」
いろはちゃんはコップを掲げる。少し斜めに持ち上げたのでこぼれそうになった。
幽谷霧子はこぼさないよう、慌てて受け取る。そしてコップのふちに唇を当てて、一口、ミカンの香りと甘さを堪能した。
「……おいしい……」
「でしょー?」
「でも、冷たいね……お腹、冷えてないかな……?」
「? しらーん」
幽谷霧子は「ちょっと……ごめんね?」と断り、いろはちゃんの裾をまくって、あったかいおなかに手のひらを当てる。
するといろはちゃんは、突然の冷たい手のひらに驚いて、少し暴れた。くすぐったかったのもある。
「にゃー!」
「わ……ご、ごめんね……!」
カップの中のジュースがこぼれそうになる。
いろはちゃんは座卓の上にカップを置くと、膝の上でぐるっと振り返り、幽谷霧子と面と向かい合う。
「……?」
「おかえしー!」
なんといろはちゃんは、こしょこしょ攻撃を始めた。幽谷霧子の両脇腹に小さな指先を当てて、思いっきりさすりまくる。
「ひゃ……ふふ……ふふふふっ……! や……やめ……くすぐっ……たいよ……ふふ……っ! ご、ごめん……ね……ふふ……!」
§
三分後。
事務所に新たな訪問者が現れる。
「おはようございまーす」
「おはようございます~摩美々さ~ん」
「はづきさん……どうも~」
リビングに入った田中摩美々は、くるっと踊るようにゆっくりと旋回して、何か面白いものはないかと室内を見渡す。ちょうど立ち止まったところで、ソファでぐったりと横になる幽谷霧子を目撃。その背中とソファの背もたれに挟まれるいろはちゃんを発見した。
「!?」
「こしょこしょこしょ……こしょ」
「────っ────~~っ────っ~~~~~────」
約三分間の絶え間ないこしょこしょ攻撃。
笑い疲れた幽谷霧子は、かすかに震える体で、ただ子供のされるがままにされていた。
「……えっと……霧子~?」
「? おまえだれだ。──きりこねー。いろはとあそんでたのにねー。ねちゃったのー!」
「……いや……それ、寝ちゃった、というかぁ……」
「こしょこしょこしょ……」
「ちょ……」
もうやめてあげな。
子供が相手だと──なぜかは知らないが──その一言がなかなか言えない田中摩美々。
「こしょこしょ……おきろーきりこー……こしょこしょ……なぜわらわない!」
「────~っ────ンっ────フ────っ~~~────」
「…………」
どうすることもできない田中摩美々は佇立するほかない。
幽谷霧子は明らかに拷問されている。一切の悪意がない赤子のこしょこしょ攻撃を、いったいどれくらいの間、受け続けていたのか。なぜ抵抗しなかったのか、という疑問も湧いてくるが……ともあれ、やはり止めたほうが良いだろう。なぜなら、ぷるぷると小刻みに震える幽谷霧子は、もはや笑いを通り越して呼吸すら難しくなってきている。
「……えっと……いろはちゃん……だっけー……?」
「? そうだよー! いろはちゃん! さんさい!」
「……私は、田中摩美々~……」
「まみみ? たなかはいっぱいだからねー。まみちゃん? みみちゃん? どっちがいいー?」
「……別に、なんでもいいけど……それより、その……」
そろそろ幽谷霧子へのこしょこしょ攻撃をやめてくれないか。
いろはちゃんは田中摩美々と挨拶して会話しながら、幽谷霧子の両脇腹を攻め続けている。
どうすればよいのだろうか。
田中摩美々は一生懸命考えた末、ひとつの突破口を閃いた。
「……私と、遊ばない~……?」
田中摩美々は、髪の
「────!!!!!!」
それを目にしたいろはちゃんの両瞳は、しいたけの形をして光り輝いた。
§
十五分後。
事務所リビングに三人のアイドルが訪れた。
「おはようばーい!」
「おはようございます」
「おっはよ~!」
月岡恋鐘、白瀬咲耶、三峰結華が顔を出す。
三人はデスクで仕事する七草はづきと会釈。そしてソファに座る幽谷霧子の微笑み顔と、田中摩美々の後ろ姿を見て、久々にアンティーカが全員集合したことを悟る。
「霧子! 摩美々~!」
「おや。アンティーカ集合だ。これは嬉しいね!」
「なになに~? ふたりとも何してたの~?」
三人は、田中摩美々の顔を見るため、ソファの手前に回り込む。
「ぽふぽふぽふぽふ ぽふぽふぽふぽふ」
『……!!?』
そこには、悶絶必至の
田中摩美々は仏頂面で天井を仰ぎ、いろはちゃんを抱っこしている。小さな背中に手を回して、ポンポンと叩いている。
対するいろはちゃんは膝立ちで背伸びしており、田中摩美々の鎖骨にあごを置いて上目遣い。小さな両腕を懸命に伸ばして、紫髪の
「ぽふぽふぽふぽふ────」
「な……なんばかわいかことになっとるとぉ~!?」
「ま……摩美々……!」
「これは……まぎれもなく────シャッターチャ~~~ンス!!」
とっさに三峰結華はカメラを取り出す。速やかに最適なアングルを探してパシャパシャと撮影。次いで月岡恋鐘と同時にスマホを取り出して撮影。さらにふたりは動画を撮り始める。
「……ちょっと~……これ見て最初にやることがそれなわけ~? たすけてよ~……」
「当たり前ばい!! こがなばーりばりかわいか状況! 撮る以外すること無いたい……! しょいなかもうちょい我慢して~!」
「ふふ……これは……ついつい見惚れてしまうね……! だから、すまない摩美々。私も、いろはちゃんと摩美々の可愛さに、魅了されてしまったようだ……!」
「いいよーまみみん! そのまま動かないでねー! いろはちゃんも一心不乱にまみみんの髪をぽふぽふしてるのいいねー! もうずっとそうしてていいよー!」
「ふふ、ふふ……!」
幽谷霧子は笑いが止まらない。
こしょこしょ攻撃の余韻が尾を引いているのだろうか。
「私……もう十五分もこのままなんだけど~……」
田中摩美々は姿勢を保つのがキツくなってきた。地味に鎖骨も痛い。三歳児の体重も、思ったより抱き続けていると重く感じてくる。膝の上が痛くなってきた。しかもふしぎなことに、膝の痛みを回避するべくもじもじと身をよじるたび、より一層痛みが増していくのだ。しかし
そして今、田中摩美々は十五分もの耐久について伝えたはずだが……その
「ぽふぽふぽふぽふ ぽふぽふぽふぽふ」
「
「ぽふぽふぽふ? ぽふぽふぽふ!」
「っ……! 緩急を、つけ始めた……!」
「ぽふぽふぽぽふ。ぽふぽふぽもふ?」
「ぐっ……!!? 高音ボイスの“ぽもふ?”からの、あざとかわいい、くびかしげ……だとっ!? まみみん、ごめん……! 三峰、もう、
三峰結華、尊死。
左胸を抑えて
「ちょっと~……もうダウンしたいのはこっちの方なんですけどぉ~……」
月岡恋鐘は瞳を輝かせて動画撮影を続けており、白瀬咲耶はあごに手を当てて興味深そうに観察しており、幽谷霧子は微笑むばかりで一向に助け舟を出さない。
「……もぉ~……」
子供との遊びには根気がいる、ということか。
あるいは、いつまでも付き合っていたら
本当にキツくなってきたら、心を鬼にして引き離さなければならない。
しかし田中摩美々には、どうしてもそれができなかった。
§
三十分後。
ソファの端っこでぐったりとする田中摩美々は、幽谷霧子の肩にもたれかかっていた。幽谷霧子も「お疲れ様……♪」とマッサージを始めて、「もみもみ……」と田中摩美々の心身をいたわる。
一方のいろはちゃんは、マメ丸を連れて外に飛び出してしまった。今回は事務所に慣れるための訪問であるため、特にいろはちゃんを保護するようには言われていない。
ソファに座る月岡恋鐘と三峰結華は、お互いの動画を見返して悶絶。白瀬咲耶は全員分の飲み物を運んでくる。
「こい動画、ツイスタに投稿しちゃいけんとやろか~? いろはちゃんの顔は映っとらんけど……」
「ならこがたん。果穂ちゃんに聞いてみよう! 果穂ちゃんのチェインに動画を送信……っと。まぁ今はまだ授業中だろうから、返事があるのは夕方からだろうけど────って、あれ!? もう既読がついた!?」
「みんな、飲み物を用意したよ。──ちょうど果穂は休み時間だったのかな?」
「ありがと咲耶~!」
「ありがとさくやん!」
「ふふ。どういたしまして。──霧子と摩美々は、大丈夫かい?」
幽谷霧子は、こくんとうなずく。
田中摩美々は目を閉じたまま微動だにしない。
「でも……脇腹が……もう……」
「私は全身が終わってる~……」
「ふふっ。霧子は何をされたのかな?」
「えっと……ずっと、こちょこちょされてて……そうしたら、摩美々ちゃんが、助けてくれたの……!」
「……でも霧子、割と容赦なく私のこと見捨てたよね~?」
「おや。さすがの霧子も、いろはちゃんとの
白瀬咲耶の言う通りである。
田中摩美々も逆の立場なら、絶対に交代はしなかった。そのため田中摩美々と幽谷霧子は、くすりと微笑んで流し合う。むしろ、ふたりは子供との遊びの過酷さを共有する者として、一種の連帯感が生まれつつあった。
「ふふーん。ほかの三人も、子供と遊んでみれば分かるんじゃな~い?」
「? 何がわかると?」
「それはー……私と霧子の秘密~?」
「えぇ~? なんばそがんこと言うたい~! うちらにも教えんとよ~!」
田中摩美々は、つーんと無視する。
「おや? もしかして、まみみん……すねちゃった?」
「!? ま、摩美々~! すぐ助けんかったんは、うちらが悪いけん~! 許してっちゃ~!」
「すまない、摩美々……お詫びと言ってはなんだが、次の摩美々のお願いは、なんでも聞き入れるよ」
そこで田中摩美々は、そーっと人差し指を突き出す。
その行き先は────幽谷霧子の左脇腹だった。
「────つんっ」
「────ひゃ……!」
『……?!!』
幽谷霧子の──聞いたことがない──甲高い悲鳴が飛び出た。
「ま、摩美々ちゃん……! ふふ、やめて……っ!」
「え~? どうしよっかな~? ────つんつん」
「わ、ひゃっ……ふ、ふふ……!」
まるで今度は、田中摩美々がいろはちゃんになったかのよう。
「な……なーにをふたりでイチャイチャしちょると~?! うちも混ぜて~!」
「それなら三峰も~! きりりん、ここか~? ここが弱くなっちゃったのかな~?」
「ふふ……私もいいかな?」
その様子をにこにこと見守る七草はづき。
ぎゅうぎゅう詰めのソファの上では、今日も笑顔と笑いが絶えないようである。
§