【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
土曜日の朝方。
高速道路を走る車の運転席にはプロデューサーが座っており、後部座席には小宮果穂といろはちゃんが窓の外を見ていた。
広い青空。雑木林にトンネルに海岸と、移り変わる様々な景色。
いろはちゃんは窓に小さな手と丸い鼻を当てて、後ろの小宮果穂に何度も振り返りながら話しかける。
「りょこう! りょこう!」
「旅行? たしかにそうかもっ!」
「ははっ。二泊三日だからな。観光地としても有名な場所だし、いろはちゃんからしたら本当に旅行だな」
そうして高速道路を走りつつ、かれこれ一時間ごとの道の駅。
いろはちゃんのためのトイレ休憩である。それも終わればすぐに出発。いろはちゃんは道の駅の店を名残惜しそうに眺めているが、残念ながらゆっくりと見て回っている時間はない。
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昼間。
ホテルの一室。
プロデューサーはA室で泊まり、小宮果穂といろはちゃんは隣室のB室で泊まる。
荷物を降ろして身支度。撮影現場に直行。プロデューサーと小宮果穂といろはちゃんは、大勢のスタッフと挨拶を交わす。当然、いろはちゃんについて質問を受ける。プロデューサーは平然を装って答えた。
「実は知り合いの子を預かることになりまして……この子の面倒を見るため、現場の撮影の邪魔にならないよう外そうと思うんですが……大丈夫でしょうか?」
「ああ、大丈夫ですよ、もちろん! 特に難しいことはないし、今までとやることは同じですから。果穂ちゃんしっかりしてますし!」
「はいっ! あたしは大丈夫ですっ! それじゃあプロデューサーさん! いろはちゃんのこと、よろしくおねがいしますっ!」
「おう、任せとけ!」
小宮果穂は手を振り、プロデューサーといろはちゃんは撮影現場を立ち去る。プロデューサーと手をつなぐいろはちゃんは、ずっと後ろを振り返って小宮果穂に手を振っていた。
§
夕方。
ホテルのA室。
プロデューサーは、全力で
ホテル周辺の露店を見て回り、いろはちゃんと買い食い。
公園のベンチで休憩中、高身長であることから“たかいたかい”を要求される。
“のどかわいたー”の一言で自販機に向かい、水分補給。
“かくれんぼしよー!”その一言で勝負が始まる。
「めをつむってじゅうかぞえるんだよー! まずいろはからねー」
最初はプロデューサーが数本ある木立の中から一本を選び、木陰に隠れる。
すぐにいろはちゃんに見つかった。
「次いろはねー!」
それを確認したいろはちゃんは、一番遠くにある木陰に入って、身を潜めた次の瞬間。
「じゅーう────って、やっぱり! いろはちゃーん!?」
木陰から飛び出したいろはちゃんは全力で駆け出した。
脱走である。
実はプロデューサーは、目を覆ってはいても、目をつむってはいなかった。しっかりといろはちゃんの背中を見つめていた。というのも小宮果穂から、あらかじめ忠告されていたことがある。それは“いろはちゃんの脱走グセ”について。
────いろはちゃんが“かくれんぼしたい”と言ったら、気をつけてください! それは脱走の合図ですっ!!
その忠告通り、いろはちゃんは公園をとてとてと走って横断する。
プロデューサーは走って追いついて回り込み、いろはちゃんの道行を妨害する。
「んー!」
「い、いろはちゃん……! 隠れんぼはどうしたんだ……? これじゃあ鬼ごっこになるけど……」
いろはちゃんが右に進もうとすれば、プロデューサーは若干後退しながら右に出て道を塞ぐ。
いろはちゃんがフェイントをかけて左に飛び出せば、プロデューサーも大股で左に飛び出すだけで間に合い、簡単に道を塞ぐ。
「んーーっ!!」
「い、いろはちゃん……行きたいところがあるなら、俺も一緒に行くから……! ひとりで行動すると危ないから……ダメだぞ~! ほら捕まえた~!」
「にゃー!」
両脇を掴まれて抱っこされたいろはちゃんは、両足をバタバタとさせて、なんなら蹴飛ばそうとする。
しかしプロデューサーの長い腕と比べれば、いろはちゃんのやさしいキックは届かない。
(はは……分かっててもびっくりしたな……まさか本当に脱走を図るとは……)
プロデューサーの腕の中にすっぽりと収まったいろはちゃんは、もはや脱獄は不可能だと一旦諦める。
「んー……」
(……すごく不満そうだ……)「……いろはちゃん。なんで脱走するんだ?」
「そこにやまがあるからだぼーい」
「……そ、そうか……」
それはどこで覚えてきたセリフなのだろうか。
ともあれプロデューサーは、いろはちゃんの言動に注意を払いつつ、子守を続ける。
「──よし。じゃあ面白いところに行こうか」
「?」
「ホテルの中にゲームセンターがあるんだ。いろはちゃん、興味ないかな?」
「んー……ある? かも?」
「それなら、試しに行ってみようか!」
それからプロデューサーといろはちゃんは、思う存分、遊び呆けた。
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夜八時頃。
ホテルB室。
ダブルベッドの上では、小宮果穂がいろはちゃんに添い寝しており、絵本を読み聞かせていた。それも読み終わったが、いろはちゃんは興奮しているのか眠る気配がない。そのため眠くなるまで、おはなしすることにした。
「いろはちゃん。今日はどうだった? プロデューサーさんと一緒にいて楽しかった?」
「うん! あのねー。ぷろでゅーさーねー。ゲームセンターでねー。いろはといっしょに『ぶーん!』ってうんてんしてねー。いろはよりたのしんでたー!」
「え~? そうなんだー!」
「クレーンでねー。チョコとってねー。いっぱいとれたから、はんぶんこしてねー。ぬいぐるみはとれなくてねー。ざんねんでねー。でもねー。たのしかったー!」
いろはちゃんは両手を大きく広げて思い出を語る。夢いっぱいのバンザイである。
対する小宮果穂は、その愛らしさに胸をくすぐられて、ついつい抱きしめたくなる。
「んー!」
「えー? だっこイヤなのー?」
小宮果穂は優しく抱擁しているが、いろはちゃんからしたら少し息苦しいのである。
まったく胸の中にある丸いものはいったいなんなのかと、いろはちゃんは問いただしたくなる。野球ボールならぶん投げてやろうか、などとも思う。
小宮果穂は姿勢を変える。仰向けになって、体の上にいろはちゃんを寝かせる。これなら嫌がって暴れることはない。
自由になったいろはちゃんは、頭の後ろを柔らかい谷間に挟まれながら、ぐでーっと死んだフリのような姿勢で眠りに就く。……就きたかったのに、お腹をさすさすと撫でられる。
「おなかポンポンだ……」
「にゃ~」
くすぐったくて
「う゛っ……重゛い……」
少し苦しむ表情を浮かべた小宮果穂の体をハイハイして登ったいろはちゃんは、その首に抱きついて目をつむる。
「……! …………」
それは今までにない行動だった。
小宮果穂は首をひねる。そして閃いた。淡い期待を抱く。
「……もしかして、あたしがいなくて、さみしかった?」
いろはちゃんは眠ってしまったのか。微動だにしない。と思いきや、こくり、と小さくうなずいた。
「……そっか。ごめんね? ──これからも、さみしいことが続いちゃうかもしれないけど……でも、そのぶん、楽しいこともいっぱいあるから! ……あと、一ヶ月半のがまんだよ、いろはちゃん」
「……いっかげつはん。どれくらい?」
「えっと……じゅうが……5と4のあいだ、くらい?」
「? じゃあ、まだまだか~」
「そうだね。まだまだだね~」
いろはちゃんは落胆するようにぐったりとする。
小宮果穂は、いろはちゃんの“おうちに帰りたい気持ち”を察して慈愛の眼差しを持つと同時、複雑な心境に至った。
「……あたしも、ちょっとさみしくなってきちゃったなぁ……」
「…………────」
いろはちゃんは健やかな寝息を立てる。
この寝顔を見ていられるのは、あと一ヶ月半まで。
ふと手元にスマホを発見。
小宮果穂は「そ~っと……そぉ~っと……」と静かにスマホをかざして、パシャリと一枚。思い出の
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