【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
「しゅん……」
ブランコは踊らない。いつもと違って
「……かーほーちゃん?」
それを見かねたまおちゃんが遊びに来る。今日の
「……まおちゃん……」
小宮果穂は潤んだ瞳を逸らす。心配させたくないのか、自分は特に何もないよ、と言いたげに平然を装う。その時点で何かあったと教えているようなものだった。相変わらず素直な友達である。
「あのさ、果穂ちゃん。私、親に雑誌を買ってもらったんだ。一緒に読まない?」
「……────読む」
小宮果穂のとなりにあるブランコが揺れる。パラパラとめくる音。突風。さらにパラパラと紙がまくられる。
「……あ、これ見てよ、果穂ちゃん。──『ファッションで気になる子を振り向かせよう!』のコラム!」
「……! ……────み、見せて……!」
小宮果穂はブランコを蹴り立つ。合わせてまおちゃんもブランコを降りて場所を変える。一緒に本を読むなら身を寄せ合える場所がいい。夕焼けの逆光を避けるため、木陰のベンチに落ち着く。
様々なコーデが載っている女子小学生向けのファッション誌。
ぺらぺらと読んでいくと、小宮果穂はとあるコラムに目をつけて息を呑む。
────遠距離恋愛のコツは、久しぶりに会う時まで女を磨いてサプライズ!
そのような
まおちゃんが次のページをめくろうとする。
「あっ!」
「……?」
「っ……こ、このページ……ちょっと、スマホで、撮って、いい……?」
「──うん! いいよ!」
小宮果穂は、パシャリと撮影。
「果穂ちゃん。アルファさんと、何かあったの……?」
「!?」
なぜバレた。なぜ見抜かれた。小宮果穂は訝しむ。
まおちゃんは困ったように苦笑した。
「え~? わかるよ~」
「……そ、そんなにあたし、わかりやすいかなぁ……?」
「うーん? ほかの子は知らないけど……果穂ちゃんのことなら、私が一番よく分かるかな?」
「……────ふ、えへへ……ありがと、まおちゃん……!」
わざわざ細かいことを口にせずとも、察して受け取って、通じ合えるものがある。
むふむふと笑みがこぼれる小宮果穂は、まおちゃんに恋愛相談を持ちかけた。
「あのね? アルファさん、ちょっと遠い学校に行っちゃったんだ……」
「え? ……転校ってこと?」
「うん……」
「…………」
「あ、でも……そこは、アルファさんが行きたかった場所だから……! だからね? この前アルファさんと、新しい学校で必要なものを買うためにモールに出かけたんだけど……アルファさん、あたしよりはしゃいじゃってて!」
「へー……! 果穂ちゃんよりはしゃぐなんて、よほど行きたい学校だったんだね!」
「うん! だから、あたしも嬉しくて……! …………────うれしいって、よかったねって……それだけ思って、いたかったんだけど……」
「──果穂ちゃん……」
小宮果穂は、しゅんとする。無意識にもじもじ。肩を縮めており、腕を太ももの間に挟んでいる。
「……次は、いつ会えるの?」
「わかんない。あたしが『会いたい』って言ったら、アルファさんは絶対に来てくれるけど……だから、困ってて……あまり、邪魔したくないなーって……」
「……────アルファさんは、果穂ちゃんに会いたいって言われて、邪魔だなんて思うの?」
「……」
小宮果穂は、首を否と振る。
きっとアルファは、邪魔だなんて思わない。むしろ久しぶりに会えば、必ずえっちなところに連れ込むだろう。それもそれで、また別の困ったことである。ゆっくり一緒に居たい気持ちも尊重してほしい。もちろんそう思えば、それを察してそうしてくれるのだから、感じた不満はすぐに解決する。
「うぅ……」
「?」
「アルファさん……絶対、向こうで────
「……!?」
それはいったいどういうことか。
慌てたまおちゃんは視線と腕を右往左往。
「でも────だから……っ!!」
「……っ!?」
「あたし、アルファさんを振り向かせるために、久しぶりに会う時まで────
それは“女を磨いてサプライズ”という意味だろうか。
「まおちゃん! 声かけてくれてありがとう! あたし、すぐ家に帰って作戦を立てないと……! またね!」
「あ、うん! またねー!」
§
翌日。
休日の昼下がり。人でごった返すショッピングモール。
小宮家の母と娘は、いつもの洋服屋に入る。
小宮母は思う。娘は動物が好きであるため、動物のシルエットやワッペンが入った洋服を選ぶ傾向が高い。それだけでは子供っぽすぎるため、一応体裁を考えて遊び心満載のポップな絵柄を提案する時がある。すると娘は、赤やピンク、黄色や水色など、比較的明るい色を選ぶ傾向にある。しかし一番は娘の気持ちだ。やはり動物柄の方が好きらしい。ただし動物柄は小さいサイズしかない場合が多く、探すのに一苦労する。
「……あ、見つけた」
小宮母は、デフォルメされたウサギやハリネズミ、ライオンやカピバラといったデザインの洋服を見つける。そのうちいくつかはサイズがぴったり。呼びかけるため振り返ると、どこにも娘の姿がない。
「あら? ──果穂ー!」
「! お母さん、ここー!」
「ここって……、……?」
まったくどこをぶらついているのか。娘はポップな絵柄が多いコーナーではなく、クールな絵柄の多いコーナーに移動していた。
「なにしてたの? 果穂が好きな動物柄、見つけたわよ。好きなのを選んで」
「わぁ! ライオン! ────!! ……うっ……ううっ……」
「!?」
大好きな動物柄を見つけて、顔にパァっと太陽が咲いたかと思いきや。次の瞬間には葛藤と戦うようにライオン柄の洋服を手放そうとしている。
「……いったいどうしたの?」
「……お、お母さん……あたし、これ、スッゴく欲しいけど……でも……」
「……でも?」
「……ほかの洋服も、買ってみたいなぁ、って……」
小宮母は目を見張る。
どうやら娘はスマホ片手に、何かを探していたようす。
「いいわよ。何が欲しいの?」
「! え、えっとね……!」
小宮果穂はスマホ画面を見せる。そこには何枚もの写真。ふわふわ系お姉さんの服装から、シャキっと系お姉さんの服装まで。様々なコーデが載っている。雑誌の一部を撮影したものらしい。
「……なーに? もしかして果穂、ファッションに興味が出てきたの?」
「うん! でも……雑誌に書いてあること、なにもわかんなくて……検索しても、出てくる言葉が全部むずかしくて……」
「そうねえ。長いカタカナとか多くて、困っちゃうわよねぇ」
「うん、そうなの! ……お母さんも、そうなの?」
「昔はね。今ならお母さんだって、ちょっとくらいは分かるわよ? ……お母さんのアドバイス、欲しい?」
「! うん! 教えて、お母さん!!」
微笑み合う親子は、さっそくいつもと違う服探しに向かう。
「あ、でも! ハリネズミの服は買って!」
「はいはい」
ほかの服を買うなら、ここで買う服は一着だけ。
そのため小宮果穂は内心選抜しており、ライオンよりハリネズミに決めたようだ。おそらく決め手は可愛さだろう。
「えっと、じゃーねー……────あ、あれ? お母さん、どこ行くの? そっちはレジだよ……?」
「ええ。違う服が欲しいんでしょう? なら、いつもと違う服屋にも行ってみましょうよ」
「!! ちがう……お店……!? ここ以外にも、洋服屋さんってあるの……?」
「そりゃあ数え切れないくらいあるわよ……せっかくのショッピングモールなんだから、少し見て回りましょう? きっと果穂のお気に入りになるお店が見つかるわ」
大型洋服店は老若男女を網羅した、とにかく無難なものが取り揃えられている。
そのため小型洋服店を見て回り、少々オシャレさんなものを探しに行こう。
「冒険ね」
「……っ!! 冒険……!!」
小宮母に乗せられた娘の果穂は、大喜びでレジに向かった。
§
一時間後。
ショッピングモールの上階。ちょっとお高いオシャレな洋服店。小学校高学年から中学生の洋服が取り揃えられている。
「……あれ? この服、見たことある……」
「あら。もしかして、お友達が着ていた?」
「うん、たぶん……そっか、みんな、ここで買ってたんだ……!」
(といっても、ほとんどの服はさっきの店で購入していたでしょうけど……)
子供の身長はすぐ伸びる。女の子となれば、男子と比べて成長が早いため尚更だ。割安かつ少しおしゃれな大型店が人気となるのは当然。しかし、そこでもう一段階ブラッシュアップしたければ、このような小型店を探す必要がある。値段は少し張るものの、年一で奮発して購入してファッションを楽しむのであれば満足できる一品が多い。ただし、それでもなるべく長く使い続けられるよう、多少ぶかぶかのものを選びたくなるのは、
「…………」
「……果穂? どうしたの」
「あ、えっと……事務所のみなさんの服を、思い出してて……」
「! たしかにそうね……果穂には、参考になるお姉さん達がたくさんいるんだもの。思い比べて探してみたら?」
「うん!」
小宮果穂は思う。
樋口円香や田中摩美々が着ていそうな服が多い。
すると噂をすれば影が差す。
「────おや?」
「お……果穂はっけ~ん」
「──……! 咲耶さん! 摩美々さん!」
白瀬咲耶と田中摩美々が現れた。
「こんにちは、果穂。そちらは……果穂のお母さんかな?」
「……こんにちは~」
髪の房をポンポンとたたく田中摩美々は人見知りでもしたのか、そそくさと白瀬咲耶の背後に回った。
「おや、摩美々……ふふ、申し訳ない。彼女は少し、気恥ずかしくなってしまったようだ。どうか許してほしい」
「いえいえ! 気にしていませんよ。それで、白瀬咲耶さんと、田中摩美々さん、ですよね? 果穂からよく話を聞いています。随分とお世話になっているようで……これからも果穂のこと、よろしくお願いします」
小宮母は折り目正しく会釈する。
思わぬ礼儀正しさ。これには思わず白瀬咲耶も、少し胸をくすぐられる。
「そんな、頭を上げてください……! 私たちも、果穂さんからいつも元気をもらっています。大切な仲間ですよ」
「そうそう~。それに果穂は、しっかり者なんで~。私のほうが、手のかかる子供ですよ~? ふふー」
「ふふ。摩美々はいたずらばかりだからね……」
「いたずらでぇ、娘さんを困らせたこともあったりぃ~? 摩美々は悪い子なんでぇ~」
白瀬咲耶と田中摩美々は、あくまで小宮果穂のことを対等な仲間として見ていることを告げる。
そのさりげない優しさとフォローを察した小宮母は、娘に振り返った。
「果穂。本当に良いお姉さん達に囲まれたわね?」
「! うん! 咲耶さんはカッコよくてかわいくて、摩美々さんはスッゴくオシャレさんなんだよ!」
「……! ふふ……果穂のまっすぐな称賛は、いつも胸がくすぐったくなるね……!」
「咲耶が“かわいい”って言われて照れてる~」
和気あいあいとする世間話。
しかしお互い買い物に来たはず。小宮母と白瀬咲耶は、お互いに邪魔になってはいないかと気にし始める。だが小宮果穂と田中摩美々を見るに、そんなこともないようす。そこで白瀬咲耶が問いかけた。
「果穂は、なんの服を買いにきたんだい?」
「……! 咲耶さんや摩美々さんみたいな、カッコいい服を探しに来ましたー!」
「へぇ~? 果穂、ファッションに興味が出た感じぃ~?」
「おや。それはワクワクする情報だね。となると今の私たちは、果穂の新しい可愛さが見られるかもしれない場所にいるわけだ。これを逃す手は惜しい……」
「……! そ、そうでしょうか……っ?」
「そうかもしれないしぃ~、そうじゃないかもしれないぃ~。というわけでぇ、果穂の新しい可愛さを見るためにぃ、摩美々は勝手に服を探しに行くのであったぁ~」
「おや。それなら私も同行しよう。果穂たちは、しばらくここにいるんだろう? なら、私たちの選んだ服を試着してみてくれないかな? きっと気に入るものを用意すると約束するよ」
「え、えぇ……!? いいんですか……? ────ありがとうございますっー!」
小宮果穂は大はしゃぎ。小宮母は、少し落ち着きなさいとたしなめる。そして白瀬咲耶と田中摩美々に感謝を告げた。
くすりと微笑む白瀬咲耶は颯爽とコーナーに向かう。真剣な眼差しで小宮果穂に似合う服を選んでおり、田中摩美々は慣れた手つきで服を二、三枚選んで、すぐに戻ってきた。
「これとかイイんじゃなーい?」
「え、早いです……!」
驚く小宮果穂。だが驚くべき点は早さだけではない。
小宮母は、田中摩美々が別々の商品を選んで、下着と上着、ズボンと靴、メガネやヘアピンを一瞬でコーディネートしてきたことにも驚いている。
「あ、果穂の欲しいテーマを聞いてなかった。まぁでも、お母さんの懐事情に合わせて、割と格安なものを選んでコーデしたんでぇ~、オシャレさも値段も、結構イイ感じだと思いますよぉ~?」
「おや、さすがは摩美々だね。果穂、私も選んできたよ。──おや、摩美々はパンク風か。そうだろうと思って、私はおとなしめのものを選んできた甲斐があったよ」
小宮果穂は思う。
田中摩美々が選んできたコーディネートは、樋口円香や斑鳩ルカが着ているようなイメージの衣服である。
一方、白瀬咲耶が選んできたコーディネートは、樋口円香や桑山千雪が着ているようなイメージの衣服だった。
(どっちも円香さんが着ていそうなもの……パンク風は、黒くて……おとなしめが、ベージュ……?)
小宮果穂は、パンクやおとなしめといったテーマを、色と結びつけて学んでいく。
「それで、果穂はどっちが好み~?」
「どっちもカッコいいですーっ!」
「え~? それじゃあ困るんですけどぉ~」
「え……っ! じ、じゃあ……うーん……」(アルファさんは、どっちが好みなんだろう……!?)
小宮果穂は腕を組んで唸る。
田中摩美々は、そこまで悩むものだろうかと首をひねるが、おとなしく待ち続ける。
そこで白瀬咲耶は、なんとなく小宮果穂が気にかけていることを察した。今までファッションに興味が薄かった年頃の乙女が、突然ファッションに目覚める理由としては、やはり────自分を美しく見せたい相手ができた、という理由が納得できるというもの。小宮果穂とアルファの関係を知るだけに、そう思ってしまうのは仕方がないだろう。たとえ誤解だとしても、白瀬咲耶は突っ込んでみる。
「果穂。おそらく
「────!!」
「ふふ……っ。すまない。私も考えてみたんだが、やはり彼ならこう言うと思ってね? あまり参考にならなかったかな……」
「い──……いえっ! たしかに、アル────れ、例の人は! そう言ってくれると思いますっ!」
小宮母は、あんぐりと口を開けてから察する。なるほどと得心した。白瀬咲耶のおかげで、娘の意図を理解する。
それならば、あまり
それも無理はない。プロデューサーさんによれば、アルファは不登校と聞く。本当は飛び級できるほどの学力を有しているが、それができず、とにかく中学校が退屈で退屈で仕方がないのだとか。そのせいで夜の街を出歩くことが多く、不良のイメージが付きやすいそうな。しかし休日の夜はプロデューサーさんと焼き鳥屋に行くことが多く、アルファという少年の人となりは、あのプロデューサーさんが太鼓判を押すほどだ。
そのため小宮母は、アルファさんの素行については、あまり心配していないのだが────おそらく小宮果穂は、アルファさんの
細部は事実と異なるだろうが、そのように小宮母は考察する。
驚くべきことに、それはほとんど正解であった。娘を深く想う母の情報網と観察眼を舐めてはいけない。そのことを娘の小宮果穂が知るのは、もう少し大人になってからであろう。ややもすれば親の心子知らずとは、このことを言うのだろうか。
§