【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
第四週・一日目。
朝方の168事務所。今週は
青髪のプロデューサーはホワイトボードの前で、定期公演『初』の選抜試験について説明を開始。
定期公演『初』は、月末ごとに“約二ヶ月間のシーズン”が始まる。シーズン中はブロックごとに中間試験と最終試験が執り行われて、中間を中位以内で突破し、最終で一位を獲得したアイドルは、講堂という名の巨大ドームで盛大なライブを開催できる。
今月は4月であるため“ダイヤモンドシーズン”となる。
宝石名で表されるシーズンごとには、宝石に沿った色名で表される四つのブロックが存在。
ダイヤモンドシーズンであれば、
つまり各ブロックの最終試験で一位入賞者・四名が講堂でライブを開き、
また、各ブロックには
「篠澤さんと倉本さんは実績が少ないため、今回、参加申請できるレギュレーションはレギュラーのみとなります。結果、篠澤広は雪ブロックへ、倉本千奈は白鷺ブロックへの参加が決定しました。各ブロックに参加している強力なライバル候補は、雪ブロックに秦谷美鈴をはじめとするその他全員……白鷺ブロックに姫崎莉波、花海佑芽となります」
「そうなんだ。わかった」
「ひ、ひぇぇ……」
篠澤広は泰然自若。倉本千奈は震え上がる。
一方の月村手毬は、体面こそ落ち着き払っているが、内心はそわそわしていた。
「月村さんは内部進学組かつ昔ユニットを組んで学園トップを張っていた実績があるため、プロのレギュレーションに応募申請し、月ブロックへの参加が決定しました。
「ふん。ぶっ潰してやります」
§
第四週・二日目。
しかし、それは168事務所に関係のないこと。目指すはダイヤモンドシーズンの
§
第四週・四日目。
昼下がりの初星学園・中庭の
ダイヤモンドシーズン・中間試験が執り行われる。上位入賞すれば
一番目に、白ブロックが始まる。熾烈な争い。
二番目に、雪ブロックが始まる。篠澤広の出番が来た。
篠澤広の控え室。
そこにいるアイドルは、なんとも不敵に微笑んでいた。
「プロデューサー。わくわくしてきた、ね……?」
「そうですね。最底辺がぶっちぎりで一位をもぎ取る圧巻絶句の
「…………本当に、そんなことができると、思ってるの……?」
「ええ。なぜなら私が育てた
「一人前……」
「信じられませんか?」
「ううん。プロデューサーのことは、とっても、とっても信じてる」
見つめる。あなたを。
見つめ返す。アイドルを。
「最後に、何よりも大事なことを、ひとつだけ」
「……うん」
「楽しんできてください」
「……うん!」
篠澤広。得意な勝負事では一度も負けたことがない。常勝無敗の天才少女。
生まれた時から、周囲に期待されて、期待通りに応えることができて、そのたびに褒められて、うれしくて、なんでもかんでもうまくいって、天才だと褒めそやされて、将来はどんなすごい人になるのかと期待されて……それだけなら良かったのに────あまりにも何もかもがうまくいきすぎてしまったから、得意なことが退屈になっちゃって、好きだったことがつまらなくなりかけて、褒められることも……退屈になりかけて────そんなのは、
篠澤広。頭脳の天才。
されど肉体は貧弱。その上を行く虚弱。さらにその上を行く脆弱。すなわち人間の身体能力の最底辺を叩き出す死に体の少女。なればこそ、歌って踊るアイドルなぞ、不可能に近い。だからこそ、飛び込んだ。
初めて、ねずみ色のステージに立つ。横並びにそろい踏みするアイドル達。それは自分よりもアイドルに向いているライバル達。中には見知った顔もいる。それは秦谷美鈴。彼女は、なぜか熱烈な視線を篠澤広に送っていた。
審査員の厳しい目が集まる中、歌が流れ出す。
これからアイドル達は、基本技・応用技・個性技を厳しく審査される。
声量。抑揚。歌詞。音程。ボイスレッスンの基本を届ける。
ステップ。ターン。試行錯誤。挑戦。仕草。精一杯のスパート。ダンスレッスンの基本を見せる。
振り付け。ポーズ。表情。スマイル。目線。アングル。意識。アピール。表現だけで選り取りみどり。ビジュアルレッスンの基本を振る舞う。
しかし篠澤広は、ほとんどの基本を放棄した。
それは青髪のプロデューサーと共に煮詰めた必勝の作戦。
最初から最後まで基本通りに歌って踊るだけで倒れる体。ならば
完璧なペース配分。その上で既に
それを今、ラスト
初めての理解者。初めての友達。初めてのす────否、それは
ほかに言うことがあるとすれば、それは篠澤広が生粋の勝負師であることだ。
「えいえい、おー!」
『……!?』
皆が基本に忠実に歌って踊って魅せる中、突として篠澤広は掛け声を上げて元気を高めた。勝ち鬨の応用技である。
審査員の注目が集まる
初めてのおでかけで、プロデューサーと道草を食べながら、アイドルについて研究した、ノートの内容を初披露する時。
「篠澤広、いきます────」
大手を振って自己紹介。なんとも──元気(?)な──挨拶で挙手。
両手でハートの形を作りながら、自分が流す汗で水たまりとなった足場をスキップして飛び越えて────
曲が終わる。
最後のアピールチャンスを逃さず。
「ありがとう────!」
────感謝の言葉を告げてフィニッシュ。
誰よりも汗だくで、自然な笑顔。皆が必死に一所懸命やりきったのも凄いのだが、ひとりだけ超自然的な立ち居振る舞いで審査員の目を釘付けにしてみせた。
雪ブロックの審査が終了する。結果は速やかに発表される。参加者は会釈。ステージを降りる。
ぜえぜえと息を切らし、ふらふらとゾンビのように歩く篠澤広は、今にも転げ落ちてしまいそうな段差を降りた先の舞台裏に────青髪のプロデューサーを見つけた。
彼は腕を組んで、したり顔で佇んでいた。
『発表します! ダイヤモンドシーズン中間試験・雪ブロックの六位から四位は────』
知らない名が挙がり続ける。
『次は上位者です! 三位は────』
またも知らない名が挙がる。
『二位は────秦谷美鈴!』
知っている名が挙がる。
『二位とダブルスコアの差をつけた、堂々の一位は────篠澤広!』
度肝を、抜く。
「────……ぇ……」
のけぞり、目を見張り、思わず振り返る。
審査員と目と目が合う。うなずかれた。間違いではないらしい。
また振り返る。そこには、やはり顔色の変わらないプロデューサーが立っていて。
「……すごい。こんなことも、あるんだね……!」
息せき切る掠れた声で、こみ上げる歓喜を打ち明けた。
§
中間試験の流れは早い。複数のアイドルを担当していると、試験を終えて控え室に戻った担当アイドルに声をかける暇もない。
次のブロック出場者である月村手毬は、自分の控え室で出番を待つ。
そこに訪れた青髪のプロデューサーは、ひと目で緊張していることを見て取った。
「月村さん。出番です」
「──……わかりました。いってきます」
「緊張は当然のことです」
「!」
「それよりも当然なことは、あなたが一位をかっさらうことです」
「…………いいね、それ。緊張なんて全然してないけど、その下手な励ましは気に入ったよ」『アリガトウ! ミテテネ!』
「……インコくんは、置いていきましょうね?」
数分後。月ブロックの審査が始まる。
壇上に揃う
全集中。
音楽が流れ始める。
月村手毬は初手からかっ飛ばした。著しく消耗する
(歌ってるか黙ってるか……とにかく人語を介さなければ、ドチャクソに可愛いんだよなぁ……)
青髪のプロデューサーは、かなりひどいことを内心つぶやく。
審査終了。結果発表。
『二位は────月村手毬! 一位は────花海咲季!』
「……は?」
月村手毬は茫然自失。
青髪のプロデューサーも、内心では(は?)と思っていたが、すぐに当然と思い直す。
(やっぱりミスが目立ったかぁ……ちょっとのミスなら可愛いもんだ、それで焦ったふりでもすれば愛嬌があって加点にもなる。だが月村手毬がそんな
月村手毬は壇上を降りる。ちらちらと青髪のプロデューサーを見やる。
「──フゥ……」
「ッッ!」
青髪のプロデューサーから洩れた深いため息。
それを浴びた月村手毬は、凍えるほど両肩を飛び上がらせた。
「月村さん。一位の取り方を定めました」
「……えっ?」
「あとで反省会すっ飛ばして作戦会議です。──最後に、楽しめましたか?」
「……っ……」(一位じゃなかった……喜べるはずがない……っ)
(楽しめたかどうかを聞いてんだけどなぁ……)「そうですか。であれば安心です。博打ではないかもしれませんね」
「……っ?」
§
中間試験、最後の白鷺ブロックが始まろうとしている。
控え室で息を整える倉本千奈は、これから始まる運命の試験にドキドキワクワクしていた。
そこへ青髪のプロデューサーが訪れる。
「リラックスしていますね」
「! 先生……! 来てくれたのですね! お忙しそうにしていましたから、てっきりわたくし……」
「ライブ前の控え室で独り佇むアイドルに、顔を出さないプロデューサーはいませんよ」
「うふふ! ──……先生。今この気持ちがリラックスしている証なのかは、わかりません……ですがわたくし、やりますわ! 先生からお受けになった、想像を絶する過酷な鍛錬の日々……月村さんと飽きるほど走った宵闇の河川敷……篠澤さんと死にかけるほど繰り返したレッスン室でのウルトラストレッチ……どれもこれも、その実を結ばせに行くのですもの!」
倉本千奈はハイテンション。
少し前までは緊張して『ひぃ……!』という貧弱な鳴き声を上げていたのに、土壇場では柔軟な胆力を発揮する。
「柔らかいは、ダイヤモンドよりも壊れない」
「……?」
「私の好きな漫画のセリフです。今このシチュエーションに最適であったため、引用させていただきました」
「まぁ……それは、どんな漫画ですの?」
「バトル漫画です」
「でしたら、題材もピッタリですわね!」
「ちなみに発言者も女性でしたよ」
「まぁ……! それは運命的ですわ!」
「まさしく。……倉本千奈さん。ひと味ちがうところを、魅せてやってください」
「……! ──ええ! 何を隠そう、この学園でぶっちぎりの最下位であるわたくしが、ぶっちぎりで一位をもぎ取る……そんな、刺激的で大逆転な勇姿を……しっかりと見ていてくださいませ! 私の先生っ!」
数分後。ステージに並ぶ新入生。
さっそく試験が始まる。BGMが響き渡る。
ライバル達は基本に忠実なアピールを繰り返す。
対する倉本千奈は、基本こそ頑張ってこなしているが、そのどれもが“まずまず”の歌唱力・踊り方・表現力。これでは中位が関の山。しかも大事な終盤でこけてしまった。
「あっ……! えへへ……!」
笑顔でごまかす。否、全然ごまかしきれていない。しかしかわいい。かわいすぎる。
健気に歌う。必死に踊る。一所懸命に笑顔を届けている。
高得点を稼ぎ続ける。
(そりゃ歌や踊りはうまいほうがいい。だがアイドルとはイメージの売り込み。何を好印象に感じるかどうかは趣味の領域ゆえ千差万別。そのため偶像に完璧はなく正解は存在しない。しかし是非もないことに、ひとには根源的な感情がある。それは
倉本千奈にマイナス評価は存在しない。
倉本千奈が自ら稼ぐプラス評価は低くとも、周囲が勝手にボーナスで、プラス評価をサービスしてくれる。
天性の愛嬌。
本当は震えながらも健気に振る舞う度胸。
人々の心に優しさを思い出させる求心力。
(要するに────結局は“
試験終了。倉本千奈は最後に、見事な所作でお辞儀する。令嬢であるが故の立ち居振る舞いは、素朴でありながら流麗な素敵さとして観客を魅了する。それもまた追加点。舞台から去るまでがアイドルだ。しっかりと審査項目に“去り際”も含まれている。
『白鷺ブロック! 結果発表!』
ステージから駆け下りた倉本千奈は、ドキドキして審査員を見やる。
『二位────姫崎莉波! 一位────倉本千奈!』
「……っ!!」
ぱぁっと花開く笑顔を振り向かせた倉本千奈の眼前には────
やはり、したり顔をする青髪のプロデューサーが腕を組んで立っていた。
§
篠澤広の控え室。
青髪のプロデューサーがノックするも返事が返ってこない、まさかと思って──着替え中かもしれないが──入室すると、アイドル衣装のまま椅子に座って熟睡する篠澤広を見つけた。安堵する。
「ハァ……」(マジで死んだかと思った……篠澤さんが……)
あまりにも貧弱すぎるため、万が一もあるとは恐れていた。
ともあれ健やかな寝息を聴くに、睡眠の質は良好のようす。しかし唇が青い。机の上のペットボトルは未開封。フタは事前に青髪のプロデューサーが開けておいたため緩んでる。つまり、疲れ果てて握力がゼロになったということか。これは握力不要のペットボトルを用意する必要がある。
青髪のプロデューサーは差し入れのスポドリを、篠澤広のほほに当てた。
「……ん……」
「まずは水分補給をしてください。褒めるのはそれからです」
目を覚ました篠澤広は、ごっくごっくと水を飲む。
「……ぷ、はぁ……ありがとう、プロデューサー。干からびるところだった」
「ゾンビからミイラに変身するところでしたね」
「……むぅ。頑張ったアイドルに掛けるべきセリフではない……」
「おや。スケルトンのほうが似合っていましたか?」
青髪のプロデューサーは皮肉げに両手を挙げる。
「……ふふ。プロデューサー、わたしより喜んでる……」
「最初あれだけ喜んでたのはどちらですか。私は後から実感が湧くタイプでしてね。トントンですよ」
「そっか……じゃあ、ようやく……同じくらいの、気持ちなんだ、ね……」
篠澤広は胸に手を当てて微笑む。
ふいに青髪のプロデューサーはキメ顔で、折り目正しく賛美・宣告した。
「第一関門、華麗に突破、おめでとうございます。ただし最終関門は、これの比ではありませんよ。すぐにレッスンの質を倍加させます。御覚悟を」
「……! ……そう、なんだ……ふふ、わたし……プロデューサーの、そういうところが、好き……」
頬を手で包んで恍惚顔。もはや見慣れた表情である。
篠澤広。うまくいくとモチベーションが下がる。褒められると嬉しくなるけど退屈になりかける。貶されると興奮するがムッともしている。なんとも扱いづらい人間である。上げても落としても嬉しいが、上げても落としても嬉しくない。なんなのだこれは。どうすればいいのだ。そう思いながら青髪のプロデューサーは、そのときどきの篠澤広の気分に合わせた言葉選びを心がけて、なんとかパーフェクトコミュニケーションを続けている。なお、たまにそれを避けて好感度調整をすることもあるが、それすら無視して好感度が上がり続けるのは、やはり無敵と言わざるを得ない。何を言っても上がって上がり、下がって上がるのだ。しかも楽しいことをしているならば、下がり幅より上がり幅のほうが大きい。その時点で調整は不可能と心得るべきだった。
「ねえ……プロデューサー」
「はい。なんでしょうか?」
「わたし、プロデューサーのこと……信じて、よかった」
「……」
「今まで信じていなかったわけじゃない。ただ、不安でもあった」
「大学の評価はどうでもいい……つまり遊んでるだけなのでは? しかもイロモノが好き……つまり自分をいじって楽しんでるだけなのでは?」
「うん、そういうこと。でも、こうして結果が伴ってきたことで……今までのことが、全部、理解できた」
「ほう。その心は?」
「……プロデューサー、もしか、しなくても……」
篠澤広は、一瞬視線を逸らしてから、すぐさま青髪のプロデューサーの瞳を見つめた。
「……わたしのこと、好きすぎる……?」
「特に好悪はありません。プロデューサーとして当然のことをしているだけです」
「……照れ隠しの顔だ、ね」
「それはそちらも同じでしょうに」
「へへ」
「その今までにない笑い方は反則ですやめてください。──しかし可愛さを極めてきたのは良い調子ですね。今回の試験もそれだけで突破したようなもの。その調子でどんどんアイドル街道を登っていってください」
「……うん。ようやく始まる、
§
月村手毬の控え室。
青髪のプロデューサーが入室すると、ずっと待っていたのか月村手毬が一歩踏み込んでくる。
「月村さん。一位を取れませんでしたね。失望しました」
「……っ!? た、担当アイドルに、開口一番に言うセリフが、それなんですか……!? し、信じられません……本当に最悪で最低ですね、プロデューサーはっ!!」
「落ちこぼれコンビは一位でしたよ?」
「くっ……ぐぅ……!!」『ナンデソンナコトイウノォオオオオオオオオオオオオオオ!! ウワァアアアアアアアアアアアアアアアアン!!』
「一言反省会です。最後の最後まで集中力を落とさずやりきったのは素晴らしい。その代わりラストターンで残り体力皆無の状態なのに、一切ペース配分できず無意味な
「っ……!! そんなことない……! プロデューサーは私のために全力を尽くしてくれた……! ────っ……!! …………と、言ってあげてもいいけど……?」
「ありがとうございます」
青髪のプロデューサーは視線を下げる。
(……プロデューサー、私のせいで、落ち込んでるのかな……)
そう思った月村手毬は、しゅんとして慰めの言葉をかける。
「……で? 例の作戦会議って、なんですか?」
「その前に前提条件を確認する必要があります。──月村さん。あなたは最終試験を突破して、講堂でライブをしたいですか?」
「当然です!」
「そのためなら、私の指示に従いますか?」
「は? そんなの────」
従うわけがない。ちょっとしか信じていないんだから。
反射的にそう言おうとした月村手毬は「……あっ」と口を
「ええ。思い出したようで何よりです。
「……?」
「要するにラジコンです。ライブ中、月村さんのペース配分を管理するため、私がマイクで指示を出します」
「────えっ? はい……?」
「それは月村さんにとって、過去の苦い経験を思い起こさせるトラウマとなるでしょう」
「っ────そうよっ!! なのに、なんでっ!? プロデューサーは、私のこと分かってくれると思ってたのに……っ!! また、燐羽みたいに、私の邪魔をするの……!?」
「嫌なら自力でペース配分をできるようになるか、そんなものなくても最後まで踊りきれるスタミナを身に付けてください」
「っ……!!」
「勝負事では実力が、言葉以上の力を持ちます。わがままを言いたいのであれば、それが許されるほどの実力を見せてください。──話は以上です。反論も
「────────」
月村手毬は
青髪のプロデューサーはスタスタと立ち去った。
§
倉本千奈の控え室。
青髪のプロデューサーが入室すると、倉本千奈はぴょこぴょこ跳ねながら小走りしてきた。
「先生!」
「────苦労が報われましたね。おめでとうございます」
「はいっ! 先生のご指導の賜物ですわ!」
「あなたの頑張りも大きかったですよ」
「! もう~っ! 得意げに褒めるのがお上手なのですねっ!」
「お互い、事実でしょう?」
「ええ……でも、まだ一歩目ですわ。ようやく一歩目なのですわ! わたくし、これからも精進いたします! 先生、改めて! 今後とも、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしますわ!」
「はい。それはもう、これからも……偉大な一歩を、どんどん踏み締めさせますよ」
「偉大な……────な、なんだか、またスパルタの予感がいたしますわぁ~!?」
§
講堂の回廊。
一同は控え室を後にする。回廊で四人が合流した。
「篠澤さん! 月村さん! 中間突破、おめでとうございますっ!」
「うん。みんなも、おめでとう」
「……ふん。やるじゃん……でも、まだまだこれからだからね。置いていかれたくなかったら、私に付いてきなよ」
「ええ! これからもっとレッスンですわね!」
「……なんで二位の人が偉そうなの?」
篠澤広の素朴な疑問が炸裂する。
「っ!! ……ケンカ売ってるの?」
「ちょっと気になったから」
「……っ! わ……私は周りの敵が強かったから……! こっちはプロ! あなたはレギュラーでしょ!? あまり調子に乗らないほうがいいよ!」
「そうだね。でも序列の確認は大事。わたしは以前、手毬に勝った。だからプロに参加してたら、わたしも一位を取ってたかも。そうなると手毬は、三位だね?」
「────────」
「次のシーズンが楽しみ」
「……その時は、ギッタンギッタンにたたきつぶしてやる……」
「望むところ。でもそれなら、ぺちゃんこになるまでたたきつぶしてほしい……」
(ひぃ……!? なんで満面の笑みで言うのぉ……!? やっぱりこの子、そういう子なんだ……! 怖い……っ!!)
月村手毬はドMに遭遇して内心怯える。しかし表面上は、視線をバチバチとぶつけ合わせていた。
そこで青髪のプロデューサーが苦笑する。
「仲良しそうで何よりです。今のは篠澤さんなりの激励で?」
「うん。手毬には、これが効くと思って。……ダメだった?」
「……!?」
「ま、まぁ……わたくし、急に篠澤さんが強気になられたので、驚いてしまいましたわ……」
「はて? 篠澤さんは普段から、割とこういう方では?」
「プロで一位なんて、今のわたしに取れるはずがない」
「……」
「それはわたくしも同じですわ……ですから、またみんなで頑張りましょう!」
「はい」
「おー。」
「…………」『オ、オー!』
§