※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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sSR【アルティメットムーンスクールの陰謀!!】篠澤広〔バトル〕

 

 第十一週・中頃。すなわち六月の中旬。

 休日の朝方。初星学園・中庭。

 

 今日も初星学園に遊びに来ていた郁田はるきは、同じく散歩中の杜野凛世とばったり出くわす。

 

「あ……凛世ちゃんだ~!」

「……! はるきさん……おはようございます」

「おはよ~。この中庭、いいよね~」

「はい……とても、良い雰囲気の、学園です……」

「うん~! わたしはインスピレーションが刺激されるせいか、ここ最近よく来てるんだよね~! おかげで学園ものが多いんだけど……」

「もしよろしければ、完成した暁には、観賞を……」

「えぇ~! そんな上手くはないから、あまり期待しないでね~!」

 

 郁田はるきと杜野凛世は微笑み合う。

 それから自然と、一緒に散歩を始めた。

 

          §

 

 一方その頃。

 芹沢あさひと小宮果穂は、河川敷で釣りを楽しんでいた。

 

「──おお! なんか引っ張ってくる!」

「え! て、手伝いますか……!?」

「おねがい!」

「えいぃ~~~~~~っ!!」

 

 芹沢あさひが木の枝と小さな昆虫を植物のツルで巻きつけて、釣り上げたものは────まさかの長靴。

 

「なんでぇ!? 生き物ですらない!」

「はっ! でもあの長靴、柄がジャスティスⅤのやつですぅうううう!」

「え、そうなの!? うーん……でも汚いから、ちゃんとゴミ箱に捨てようか?」

「はいっ!」

 

          §

 

 一方その頃。

 168事務所の隣室に設けられた、薄暗い臨時作戦会議室。

 

 そこでは学園プロデューサーと青髪のプロデューサーが、密かに『藤田ことね育成計画・零式』を練っていた。

 慎重に扱わなければならない議題。というのも会議内容は、藤田家に深く踏み込む事柄ゆえに。

 

「さて、ご同輩。藤田ことねの実家は借金苦。ほうぼうの多重契約で利息が積もり積もっている状態です」

「では金融機関による利息の一本化は、先輩のほうが一日の長があるようなのでお任せしても?」

「はい。そして人探しについては、ご同輩のほうが一日の長があるようですので、お任せします」

「役割分担っすね。特撮で例えるなら、俺は実働部隊の戦闘班で、先輩は外回りの司令塔?」

「お好きなように解釈してください。ただし一応言っておきますが、遊びではないのですよ?」

「もちろん分かっていますとも。童心を忘れず戦場に突っ込むのが私なりの美徳でね」

「……収集した情報が事実であれば、藤田ことねの父親は、かなり危険な仕事に就いています。最悪、あなたのプロデュース人生に幕を引く恐れさえある……」

「なら一層、俺向きの仕事ですよ。先輩の夢を守れるなら後輩の出番です。荒事は任せてください。その代わりサポートお願いしますね、司令官!」

「……ふぅ。まったく、君のその自信は、いったいどこから湧いてくるのか……」

「当然、余すことなく鍛え上げた全身の筋肉です!」

 

 秘密の会合。テーブルランプの灯りを頼りに地図を開いて作戦を練る。

 そこへ────篠澤広が入ってきた。

 

「プロデューサー。遠隔通信端末の親機と子機が完成した。親機はヘッドセット型。子機は奥歯に嵌め込むタイプ。親機の音声が子機から歯神経を媒介して三叉神経に伝播する仕組み。よって最小の音量で適切に聴き取れる」

「こちらが話す際も、囁き声未満の声量でいいんですよね?」

「うん。だから隠密性は○(まる)。なお周波数は咬合(こうごう)力の強弱で調整可能。強ければ上がって、弱ければ下がる」

「素晴らしい。ありがたく使わせていただきます」

「副作用は、長時間の連続使用による歯痛・頭痛など」

「あと電波傍受された場合、爆音を流されたら鼓膜が破壊されて死にますね」

「うん。注意して。──材質は、急な力に強いセラミックだから、爆音を流される前に子機を破壊するには、ゆっくりとねじるように噛んで挽(ひ)き潰す必要がある。でも一応、強い音響振動を受けた場合は、内部から自壊する構造にした」

「ラーメン構造?」

「……似て非なる、かも?」

 

 ともあれ準備は整った。

 学園プロデューサーは親機のヘッドセットを装着。

 青髪のプロデューサーは奥歯に子器を嵌め込む。

 

「ご同輩。気をつけて」

「はいっす!」

「プロデューサー……何をやるのかは、わたしにはまったく分からないけど……危険な仕事に行くことは、なんとなく分かる。でも止めない。必ず帰ってくるって、信じてるから」

「……篠澤広さん。改めて、あなたのプロデューサーを危険な目に遭わせることをお許しください……」

「大丈夫ですよ、ふたりとも。最初はひとりでやるつもりだったんですから。あ、帰り何か買ってきます?」

「ふふ……コンビニ感覚だ、ね?」

「ハァ……では、三人でささやかな祝勝会を開き、乾杯するための飲み物など」

「了解でーす!」

 

          §

 

 初星学園の中庭。

 杜野凛世と郁田はるきは談笑していると、遠くに青い髪の青年が疾走しているところを見つける。

 

「────おや……」

「? どうしたの凛世ちゃん? ──あっ」

「……はるきさん。お分かりで……?」

「もしかして、だけど……てんど────じゃない! あぶないあぶない……えっと、アルファさん?」

「はい……」

「わぁ……やっぱりそうなんだ! よーし、今度は逃がさないぞぉ……!」

「?」

「ごめんね、凛世ちゃん! わたし、アルファさんに変装術の極意を取材したいんだ……!」

「……! お、お待ちを────はるきさん……!」

 

 郁田はるきは走り出す。彼女は芸術関連の話題になると、時折周囲が見えなくなる時がある。それは集中の証であるため良いことなのだが、取材ついでに極秘事項を漏らしてしまう恐れを懸念。さらに青髪のプロデューサーは、容易には捕まえられてくれないだろう。彼女の芸術活動のお手伝いをするためにも、杜野凛世は慌てて追いかけた。

 

          §

 

 初星学園の正門。

 ゴミ箱に長靴を捨てた芹沢あさひと小宮果穂は、颯爽と正門の外に駆け抜けていった青髪の青年を目撃する。

 

「あっ! ハナワカだ!」

「えっ! あ、待ってくださーい! アルファさーん!」

 

 しかし声は届かず、あっという間に走り去ってしまった。

 

「……行っちゃったね」

「はい……あんなに急いで、どうしたんだろう……?」

 

 ふたりは行き先を確かめるため正門の外に出る。

 青髪のプロデューサーは天川駅方面に走っていた。どこかへ出かけるのだろうか。

 

「あっ」

「?」

 

 そこへ一台のタクシーが駐車する。

 いいことを閃いた芹沢あさひは、小宮果穂のため手を挙げて近づいた。

 

「あの! 乗せてほしいっす!」

 

 窓が開く。運転手が顔を出すと、申し訳なさそうに言った。

 

「すみません。予約が入っていて……」

「! そうなんすか……」

 

 その時、正門から聞き覚えのある声が響く。

 

「はぁ、はぁ……! あ、アルファさん、足が早すぎるよぉ……!」

「────ふぅ…………」

 

 息切れする郁田はるきと、ひと呼吸で息を整えた杜野凛世。

 

「はるきさん! 凛世さん!」

「あ、凛世ちゃんだ! はるきちゃんもいるー!」

「……! 果穂ちゃん、あさひちゃん……」

「おふたりとも……アルファさんを、見ませんでしたか……?」

「見ましたー!」

「天川駅のほうに全力疾走してったっすよ~。あんなに急いでどうしたんすかね? あ、でも笑顔だったから、きっと楽しいことするつもりなのは間違いないっす!」

「そっかぁ……じゃあもう追いつけないかなぁ……」

「無念……またの機会に、いたしましょう……」

「? 凛世さんとはるきさんは、アルファさんと会って何を……?」

「気になるっす~!」

 

 四人は雑談を交わす。

 しばらくすると、篠澤広が現れた。

 

「……? あ、果穂とあさひと凛世と、知らない人だ」

「あっ! 広さん! おはようございますっ!」

「おはようっす~!」

「おはようございます……」

「おはよ~。わたしは郁田はるきって言います~!」

「わたしは篠澤広。みんな、ここで何してるの?」

「アルファさんを見かけたんです! なにしてるのかな~? って思って、声をかけたんですけど……」

「こっちに気づかず天川駅方面に行っちゃったんすよ~!」

 

 篠澤広は、なるほどとうなずく。

 

「実はわたしも、プロデューサーを追いかけていた」

『……!』

「乗る? タクシー。予約してたんだ」

「! あのタクシー、広ちゃんのだったんすか! なら面白そうだから乗りたいっす~! ハナワカはいつも面白そうなことしてるから、みんなで混ざりに行くっすよー!」

 

 篠澤広はタクシーに向かう。それを追い越して「早く早く!」と催促する芹沢あさひ。

 しかし小宮果穂たちは、そこまでして追いかけたいわけではない。本当に同席して良いのか迷う。

 

「? どうしたの? 行かないの? わたしは待たない。乗らないならすぐ行く」

「果穂ちゃん行こうよ! 凛世ちゃんも! はるきちゃんも取材するチャンスっすよ!」

「で、でも……あさひさん! あたしたちは、初星学園のアイドルと交流するのが、お仕事で……!」

「…………」

「果穂ちゃんの言う通り、なんだけどぉ……」

「え~? でもせっかくの休日だよ? たしかにお仕事だけど、強制じゃないってプロデューサーさんも言ってたし! わたしは面白いこと優先っす!」

 

 篠澤広は助手席に乗り込む。スマホを取り出して地図アプリを開いた。赤い光点が波動を発している。それは天川駅に直進していた。さらに懐から『てまりインコ二号機』を取り出す。二号機のクチバシからは『青髪のプロデューサーの息せき切る声』と『環境音』が流れ出す。

 

 芹沢あさひは後部座席に乗り込む。さすがに彼女を単独行動させるのは危険だ。杜野凛世は慌てて追いかけて乗り込む。続いて小宮果穂と郁田はるきが乗り込んだ。

 

「……全員乗った? じゃあ天川駅に出発。なるべく急いで。──きっとプロデューサーは電車に乗る。天川駅に先回りして、どの路線を使うか特定する」

「広ちゃん! もしかしてそれ……GPSと盗聴器っすか? なんか探偵みたいっす!」

「……!? しかし、それは────」

「────す、ストーカー……じゃあ……?」

「広ちゃん、大胆だね~?」

 

 タクシーが発進する。

 

「仕方ない。緊急事態だから」

「え? 何かあったんすか?」

「うん。おそらくプロデューサーは危険な仕事に出かけた。わたしは心配……でも、わたしじゃ力になれない……だから、せめて見守ることにした」

「そうだったんすか……危険な仕事って、たとえば?」

「分からない。プロデューサーは何も教えてくれなかった。──あ、プロデューサーだ。みんな、頭を下げて。追跡がバレたら完全に撒かれる恐れがある」

『……!!』

 

 篠澤広は、背もたれに身をあずけて全身をズルズルと滑り落とす。芹沢あさひと小宮果穂は顔を手で覆って、指の隙間から覗いていた。杜野凛世と郁田はるきは頭を下げて顔を隠す。

 

「──……へい、運転手。もういい?」

「あ、はい……河川敷を走ってる人なら、もう通り過ぎましたけど……」

「でも念のため、天川駅に着くまで、このままでいよう。プロデューサーは油断ならない。この程度の追跡なら想定しているかもしれない。わたしたち、以心伝心だから」

 

          §

 

 天川駅前。

 篠澤広一行はタクシーを下車。適当に駅の切符を買う。

 

「行き先わかってないのに買うんすか? しかも一番高い切符を買ったっすよね?」

「お釣りは要らない。みんなも切符必要? 戦(・)力(・)に(・)な(・)り(・)そ(・)う(・)な(・)ら(・)ま(・)と(・)め(・)て(・)買(・)う(・)けど」

「……戦力?」

「わたしじゃ役に立たないけど……あさひと凛世なら、役に立つかもしれない。ふたりには絶対に付いてきてほしい。もしプロデューサーがピンチになったら……手助けしてほしいから。もちろん本当に危険なものだったら、ふたりにそんな危険なことはさせられない。わたしが責任を以て逃がす」

「…………」

 

 芹沢あさひは腕を組んで真顔熟考。危険危険と言うが、どういうふうに危険なのかまったく想像できない。

 一方、杜野凛世は訝しむ。篠澤広の様子を見るに、なにやらただならぬ予感。戦力という単語も気になる。よもや荒事であるというのなら、仲間を向かわせるわけにはいかない。

 

「あ、そろそろプロデューサーがここに到着する。隠れよう」

 

 篠澤広は全員分の切符を購入。不要なら捨てていいと話す。

 そして、全ての番線が目に入る駅構内の中心地に佇むと、小宮果穂の背中を突っついた。

 

「果穂、果穂」

「え? はい!」

「わたしをおぶって」

「……え?」

「ほかの人でもいいよ。見ての通り、わたしは走る体に適していない。電車を一本遅らせて追いかけることも考えたけど、理想は同じ電車に乗ること。いい?」

「あ……はい! でも、なんでわたしなんですか?」

「一番背が高いから。わたしをおぶっても平気かなって。でも筋力は不明。大丈夫そう?」

「! はい! たぶん平気です!」

 

 小宮果穂はしゃがみこむ。その背中に篠澤広がしなだれかかる。

 

「よっこいしょ……」

「あ、プロデューサーだ」

「!」

 

 青髪のプロデューサーは、一直線に地(・)方(・)行(・)き(・)のホームへ降りていく。

 

「追いかけて。バレないように」

 

 篠澤広一行は尾行。青髪のプロデューサーは電車に乗り込んだ。一行も駆け込み、別の車両に乗り込む。車両と車両の間をつなぐ貫通扉の窓からこっそり覗き込むと、青髪のプロデューサーが席に座っていた。

 

 郁田はるきと杜野凛世は相談を始める。

 

「わぁ……なんだか探偵になった気分……でも────」

「────はい。本当に、これで良いのか……」

「いいに決まってるっすよ。だって面白そうっす!」

「あさひちゃん……」

「…………」

 

 そこで篠澤広がおぶられながら言った。

 

「巻き込んだのは、ごめんなさい。何事もなければそれで良し。お詫びに日帰り旅行のお土産でも買ってあげる」

「わーい! ここどこ行きっすか?」

「いま調べる……あ、果穂。下ろしていいよ。ありがと、ね」

 

          §

 

 ガタンゴトンと揺られて、徐々に乗客が減っていき、最終的に三時間が経過。

 マイナーな駅に到着。青髪のプロデューサーが立ち上がる。

 

「あっ! みなさん、アルファさんが────!!」

『……!!』

 

 退屈すぎて眠っていた芹沢あさひは寝ぼけ眼で飛び起きる。篠澤広はスタスタとホームに降りる。一行もそれに続き、青髪のプロデューサーが改札口を通る瞬間を目撃する。急いで追いかける。

 

 改札口の外に出ると────段々畑に点在する家屋、あぜ道に田んぼ、青山が連なる谷間に入道雲のような大雲が漂う、いわゆるド田舎の景色が広がっていた。

 

「……プロデューサーは、どうしてこんな辺鄙(へんぴ)な場所に……? ことねの出身地は埼玉県だから、てっきりそこに行くのかと思っていたけど……」

 

 明らかに別の地方の、名も知らぬ村落に到着した。学校さえあるかどうか分からぬ。

 

「あ、ハナワカ見つけたー!」

 

 青髪のプロデューサーはあぜ道を全力疾走していた。見るに駅とは正反対の青山に向かっている。まさか登山するつもりだろうか。それ以外の目的地らしき目的地も見当たらない。

 

「タクシーもない……わたしの体力だと、ギリギリ歩いて行けても、その頃には全部終わっているかも……どうしよう……」

「それなら、あたしがおぶっていきます!」

「果穂? それはさすがに無理。山向こうまで走るだけで厳しい。その上わたしを背負うのは自殺行為」

「うっ……」

「行く気があるなら、先に行って。わたしは別の方法を考える」

 

 篠澤広は辺りを見渡す。探索を始めた。

 小宮果穂と芹沢あさひは互いを見やる。

 

「う~ん……あたしは、みんなで行きたいですっ!」

「わたしも! 同じこと考えてたね、果穂ちゃん! おーい広ちゃん! 待つっすよ~!」

 

          §

 

 がらがらがらがら。手押し車の四輪がけたたましい音を立てて振動しながら回り続ける。台車に乗る篠澤広は振動に合わせて全身が小刻みに震えており、芹沢あさひは無邪気に最高速度で台車を押し込んでいく。

 

「あわわわわわわわわわ……よ、酔う……!」

「あははは~! 楽しいっす~!」

「ま、まってくださーい! あさひさーん!」

「あさひさん……! 田んぼに落ちないよう、お気を付けを……!」

「前だけじゃなくて、ちゃんと両隣も見てね~!」

 

 駅の近くで売られていた農耕具の中古品。ほぼ無料の格安で売っていたため、店員替わりの貯金箱に百円硬貨を投入。手押し車を購入した。

 

 それを使ってあぜ道を爆走する。手押し車に搭乗する篠澤広はぐるぐると目を回しており、それに気づかない芹沢あさひはニコッと笑って走り続ける。その後方から追いかける小宮果穂と杜野凛世、ぜえぜえと息を切らす郁田はるき。

 

 ところどころ休憩を挟みつつ、一時間以上は走っていただろうか。

 ようやく青山の山麓に到着した。

 

「広ちゃん! ハナワカはどこにいるっすか?」

「GPSを見るに……ずっと山の上をウロウロしてる……?」

「アルファさんは、いったい何をしているんでしょう……?」

「行けば分かるよ!」

 

 芹沢あさひは手押し車を押して坂道を登ろうとしたが、かなり重い。

 

「ぐぬぬぬぬ……! これ無理っすよ!」

「じゃあ降りる。ウロウロしてるなら急ぐ必要もなさそうだけど、いつ動き出すか分からない。つまり急ぎたい。誰かおぶってくれる? ひとりが疲れ切ると問題だから、交代制がいいと思う」

 

 篠澤広のおんぶは、小宮果穂と杜野凛世が買って出る。

 ゆっくりと登山。山道は舗装された道路しかなく、ガードレールに沿って登っていく。小一時間ほどで山頂に到着。車は一度も通らなかった。

 

「……え~?」

 

 そして芹沢あさひは落胆した。なぜなら何(・)も(・)な(・)い(・)のだ。

 山頂の先には、下り坂の道路しか見当たらない。両隣には緩やかな下り坂の森林が広がるのみ。その先は再び登り坂になっている。それが延々と続いているのだろう。

 

「広ちゃん! ハナワカは?」

「プロデューサーは……────森の中にいる」

「森……ですかぁ!?」

 

 小宮果穂が驚く。しかしアルファならありえる。デートコースに山中の洞穴を選び、秘密基地や朝焼けの花畑を見せてくるような人物だ。

 

「じゃあ森に入るっすー! 右っすか? それとも左?」

「右」

 

 そこで杜野凛世と郁田はるきはストップをかけた。

 

「──お待ちください。あさひさん、そろそろ……」

「そうだよ! さすがに森の中は危ないし……!」

「え~? せっかくここまで来たのにーっ!」

 

 小宮果穂は、気持ちとしては芹沢あさひに同意だが、危ないというのは杜野凛世と郁田はるきに同意する。どうすれば良いのか。

 

「……みんな、ここまでありがとう。これは帰りのお金。ちょっと多めにしといた。お土産は無さそうでごめんね」

「えっ……ひ、広さん!?」

「わたしは行く。またね」

「あ……ま、待ってください! 山の中は、危なくて……!」

「それでも、わたしは行かなくちゃならない」

 

 篠澤広はガードレールを乗り越えるのに数分かかり、杜野凛世や郁田はるきの言葉に聞く耳を持たず、転ばないよう坂を下っていく。

 それを見守る小宮果穂と芹沢あさひは、杜野凛世と郁田はるきに振り返った。

 

「り、凛世さん……あたし……!」

「わたし行くっすよ! いいっすよね!?」

「……! し、しかし……」

「っ……あ、そうだ! アルファさんに電話をかけるのは!?」

『……!!』

 

 郁田はるきは灯台下暗しであることに気づいて盲点を突く。さすがにここまで付いてきてしまえば、アルファも観念して同行を許可するはず。合流したほうが安全だ。さっそくスマホを取り出して電話をかけようとするが────

 

「────えぇっ!? け、圏外だぁー!!」

『……!!』

 

 山奥のため電波が届かない。

 ならば次の策。どうしようと悩んでいると、徐々に篠澤広は森の奥に消えて行き、坂を登り始める。いつクマやイノシシ、野犬や毒蛇といった猛獣が出てもおかしくはない。太陽の光は森の葉っぱに遮られており、どことなく薄暗い。不安と心配が募っていく。

 

 やがて篠澤広は登頂した。ふと、こちら側に振り返る。手を振ってきた。なにやら声を発しているが、かぼそすぎて聞き取れない。一同は耳を澄ませた。加えて杜野凛世は目を細め、唇を読もうとする。

 

 ────みつけた。プロデューサー。

 

『……!!』

 

 小宮果穂と芹沢あさひはガードレールを乗り越えて駆け出した。

 

「果穂さん!」

「あさひちゃん!?」

 

 杜野凛世と郁田はるきも追いかける。四人は、篠澤広が十分以上かかった道のりを一分と掛からず走破。

 

「広さん!」

「ハナワカは!?」

「あっち。わたしの声も聴こえないみたい」

 

 篠澤広は、さらに奥の森を指さす。そこへ辿り着くためには、再び斜面を滑り降りて、しばらく枯れ葉の上を歩き、また坂を登っていく必要がある。そこに青髪のプロデューサーの背中があった。あまりにも遠くて小さいが、よくよく目を凝らせば────片膝立ちで隠れるようにじっと屈んでおり、なにやら望遠鏡を使って遠方を眺めているようす。

 

 一同は、さっそく青髪のプロデューサーのもとへ急ぐことにした。

 

          §

 

 青髪のプロデューサーは、山頂の外れから存(・)在(・)し(・)な(・)い(・)都(・)市(・)を眺めていた。

 そこは公共交通機関を用いると、決して辿り着くことができない都(みやこ)。

 日本地図のどこにも載っていない、秘密結社によって隠匿された街。

 

 陰謀渦巻く怪しい町。

 されど人口は村の域。

 

 三方を険しい岩山で囲まれ、一方を海原で閉じた、断崖絶(・)望(・)の村の名は────風騎町(ふうきちょう)。

 

 平安時代、武士を訓練するために作られた隠れ里は、21世紀現在、天然の要害となる地形から研究所が建てられ、人造人間(クローン)と生贄(いけにえ)を使った非人道的な人体実験が執り行われている。生贄とは、日本各地の借金苦に悩む人間を選出して集められた住民達のこと。住民達は、存在しない都市(ゴーストタウン)のコンビニやショッピングモールに残された缶詰等で飢えをしのいでおり、人口は517名。

 

 なによりも────これから、こ(・)の(・)街(・)は(・)消(・)失(・)す(・)る(・)!

 

(────なんて、どこのバトル漫画だよ……)

 

 青髪のプロデューサーもといアルファは、今回プロデューサーとしてではなく、ひとりのヒーローの卵として活動していた。

 

 まずは観察。

 情報収集こそ必勝戦略。

 

(人口の割にビル群が多い……街のあちこちに破壊の痕跡がある……戦闘というには一方的に見えるため、市街地戦を想定した虐殺(せんとう)訓練でも行っているのか? さて、藤田ことねの父親は、こんな邪悪な気配がプンプンする僻地(へきち)で、いったい何を────)

 

 背後から足音。

 とっさにアルファは振り返り、戦闘態勢も束の間────愕然(がくぜん)と目を見張る。

 

「え────篠澤さん!?」

「ふぅ、ふぅ……山登りは、キツい、ね? ……ついて、きちゃった。失望する? プロデューサー……」

「……────」

 

 アルファは瞬発思考。

 最寄りの駅は徒歩三時間の距離。プロアスリート顔負けの走力と体力を有するアルファは、走って小一時間で此処に到着した。対する篠澤広は虚弱体質。自動車でも使わなければ、い(・)か(・)な(・)る(・)方(・)法(・)で(・)あ(・)っ(・)て(・)も(・)追(・)い(・)つ(・)け(・)る(・)は(・)ず(・)が(・)な(・)い(・)。

 

「……どうやって、ここまで来たんです?」

「ふふ……盗んだ自転車で、走り出した?」

「また古い冗談を……」(やべぇ……表情筋に不自然な点が見当たらない……本(・)物(・)、なのか……?)

 

 アルファは冷や汗を流す。

 というのも先輩(学園プロデューサー)からもたらされた『不審な情報』によれば────

 

「……どうしたの? プロデューサー……?」

 

 刹那、アルファは土を蹴り抉って駆け出し、拳打一撃(こうげき)、篠澤広の鼻(・)っ(・)柱(・)を(・)へ(・)し(・)折(・)っ(・)て(・)殴(・)り(・)飛(・)ば(・)し(・)た(・)。

 

「ヅッ────!?」

 

 鼻血を吹き出して、きりもみ回転する、枯れ枝のような細い体。

 後頭部から木の幹に激突。首が折れたのか、だらんと頭部が垂れ下がる。

 

「────本物の篠澤広なら、俺(・)の(・)思(・)考(・)を(・)読(・)ん(・)で(・)訝(・)し(・)む(・)はずだ……今お前は、俺が本(・)物(・)か(・)偽(・)物(・)か(・)迷(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ことを見(・)抜(・)い(・)て(・)お(・)き(・)な(・)が(・)ら(・)無(・)視(・)し(・)た(・)……それは非常に不自然だ……まるで偽(・)物(・)だ(・)と(・)バ(・)レ(・)た(・)く(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)無(・)視(・)し(・)た(・)ように見える……────さあ、正体を表せ! あなたはどちら様ですかぁ!? 正直めっちゃ怖くてビビりまくってまーす!」

 

 アルファは、篠澤広と瓜二つの別(・)人(・)に恐怖する。が、口の上ではおちゃらけることで、戦闘では役立たない恐怖を、戦闘で役立つ別の感情に変換(コンバート)しようと努めていた。

 

「────……おかしい、な……」

「っ!!」

「……バレちゃった、ね……? エスパー、なの……?」

 

 偽・篠澤広の首元が、水色の汚泥として溶けていく。骨折したはずの首が、液体化(ゆうかい)してから固形化(ぎょうこ)して骨折を治した。ぎょろりと回る首と頭。琥珀のような橙色の瞳が、寂しそうにアルファを射抜く。

 

「おいおい、冗談だろ……?」

 

 今まで命と女の修羅場は数え切れないほどくぐり抜けてきた。

 しかし、さすがにこれは……次(・)元(・)違(・)い(・)である。

 

「篠澤広の人造人間(クローン)……俺のことを知っている点から、製造年月は二ヶ月以内……────首を折ってから訊(き)くのも何難(なんなん)ですが、そちらは現行人類に友好的ですか……?」

「ふふ。ほんとに、何難(いまさら)だね……? ────残念だけど、この体は勝手に殺戮モード」

「そうっすか!」

「ままならない、ね? でも信じてる、よ……プロデューサーなら、わ(・)た(・)し(・)た(・)ち(・)の(・)こ(・)と(・)終(・)わ(・)ら(・)せ(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)って……」

「っ……!!」

 

 偽・篠澤広は、両手の親指と示指・中指を立ててカメラの形を作り、右目をギュッとつむった。細めた左目を使い、対象物としてアルファの全身を捉え、背景に森林と、その先に延々と広がる青空と海原を映し出す。

 咄嗟にアルファは、カメラに収まらないよう横っ飛びした。

 

「────『光景(Flash Landmark)』────」

 

          §

 

 坂の上で爆音。

 

『……!?』

 

 一分と掛からず登れる坂道は、篠澤広にとって五分は掛かる難所。彼女の背中を押してあげる芹沢あさひと、片腕を後ろ首に回して引っ張り上げる小宮果穂は、ひたすら登山の介抱をしていた。すぐ後ろには転倒した時のため杜野凛世が待機しており、郁田はるきも下り坂を転がっていかないようにいつでも受け止める準備が万端だった。

 

 そんな時に、アルファの居場所から、大きな爆発音が轟いたのである。

 

「────急ごう……!」

 

 篠澤広の、かすむような大声。

 一同は最後の踏ん張りを込めて登頂した。そこには────直角に抉れて樹洞があらわとなった木の幹。枯れ草が吹き飛ばされて抉れた茶色い地面。遠方では青空に漂う雲が消し飛ばされて、海原の一部の鋭角に吹き飛んで豪雨が降る。だが、それのなによりも驚くべきことは────も(・)う(・)ひ(・)と(・)り(・)の(・)篠(・)澤(・)広(・)が、振り返ってきたことである。

 

『……!!!??』

「やっほ。もうひとりのわたし。来ると思った」

 

 左の木陰から疾走音。

 偽・篠澤広はカメラのポーズを取る。五人のアイドルの光景を収めんとする。

 不意に木陰から飛び出してきたアルファは、偽・篠澤広の手首を手繰り寄せてポーズを解かせ、一本背負い。地面に叩きつけた。彼女の背中に両手首を極めて動きを封じる。

 

「ハァ、ハァ……ッ!!」

 

 アルファは生きた心地がしなかった。このまま森の木々を障害物として立ち回ろうと考えていたら、小宮果穂たちの顔が見えたのだ。なぜここにいる。尾行してきたのか。気づかなかった。篠澤広の尾行なら納得だ。いかにしてアルファに気づかれないよう尾行するのか、その天才的な頭脳で上(・)を(・)行(・)か(・)れ(・)た(・)のだ。

 

「────なんでここにいるッ!!?」

『……っ!!』

 

 アルファの激昂。あと一歩遅ければ殺されていた。山奥は住む世界が違うのだ。いわば神の領域。だというのに恐れ知らずにも乗り込んできた。バカの集まりだ。失望どころの騒ぎではない。い(・)か(・)に(・)し(・)て(・)無(・)事(・)に(・)帰(・)す(・)か(・)────

 

「その思考は無意味だよ、プロデューサー」

「!!」

「全ての人造人間の知覚は“マザーAI”が統括している。わたしは、あなたたちを発(・)見(・)した。もう逃げられない」

「どうすればいい」

「わたしのコアを抜き取って異能を習得。降りかかる火の粉を払うしか、生きて帰ることは不可能だと断言する」

 

 アルファは腰からサバイバルナイフを取り出す。

 

「場所は?」

「心臓の右奥。正中線」

「なぜ助けてくれる?」

「……最後に、わたしの名前を……プロデューサーに、覚えていてほしかった、から────」

「遺言を聞こう」

「────わたしに与えられた名前は……“ガガンボ”……」

 

 偽・篠澤広は薄く微笑む。

 

「由来は……人造人間(クローン)の中で、最弱だから……」

 

 アルファは警告する。

 

「みなさん。目を背けてください。グロいと思いますので」

『────────』

 

 アルファはサバイバルナイフを振り下ろそうとした。

 その時、篠澤広の両手が、アルファの手首を弱々しくも握りこんで離さない。

 

「────まって。プロデューサー……なに、しようと、してる、の……?」

「…………」

 

 既に理解は及んでいるはず。その上で篠澤広は止めに入った。

 アルファは腕に力を入れる。篠澤広の腕力では到底止められない。

 ハッとした小宮果穂も駆け飛び込み、アルファの手首を掴んで引っ張る。

 

「ア────アルファさん……!!」

「っ……」

 

 抑え込まれている偽・篠澤広がつぶやく。肉体は、アルファたちを殺すため稼働をやめず抵抗を続けているが……言語機能は逆らえるのか、アルファたちを活かすために稼働している。

 

「ああ……ままならない、ね……好きな人に殺してほしいけど、好きな人に傷は残したくない……ずっと、この時が来るのを、待っていた……ずっと、この時にどうしてほしいか、迷ってた……けど、結果的にそうなるなら……それが、一番、いい────」

 

 それはどういう意味か。頭上に影が差す。ハッとして目を見開いたアルファは瞬時にバックステップ。小宮果穂と篠澤広を背中で突き飛ばして庇い立てる。

 

「────ばいばい……受け取って、ね────」

 

 樹上。否、空高くから高速落下してきた赤い閃光。

 それは偽・篠澤広の背中を蹴り貫いて降り立った。

 

『────!!?』

 

 降り立つ勢いで爆風が生じる。アルファに突き飛ばされたことで尻餅を搗く小宮果穂と篠澤広。

 舞い上がる枯れ草と土埃に目を細める一同は、竜巻の中心に立つ少女(アイドル)に見覚えがあった。ただ唯一の差異点は、およそ人間の眼球とは思えない、赫々たる真紅の炯眼を機械的に発光させていた点か。

 

「ガガンボの裏切り行為を認識。マザーAI自らの手により始末完了」

「────咲季……?」

「ガガンボのオリジナルを確認。ほか抹殺対象を識別登録。殺戮を開始する」

 

 宙を舞う水色の宝石(コア)。

 それは偽・篠澤広もといガガンボの天才的頭脳によって、自ら殺されることを計算に入れた軌道を描き、アルファの手元に落ちていく。

 

「────Fighting(約束された)────」

 

 アルファは腕を振るい、水色に輝く宝石(コア)を手の中に収めた。

 

「ッ゛────!!?」

 

 刹那、手元から神経細胞を伝って脳内に電流が迸る。

 

 瞬時に理解した。

 コアの使い方。超能力とも言うべき異能の使い方。

 しかしアルファの異能は使い物にならないと即断。

 

 即座にコアを棄却。

 具体的には、背後の篠澤広に投げ渡す。

 

「────My Way(勝利の仮面)────」

 

 両腕を天高く掲げたマザーAIは、服を脱ぎかけるようなポーズで静止。

 異能発動。全身に仮面と鎧を身にまとう。変身完了。

 一歩、眼前の標的(アルファ)を殺害するため踏み出す。

 

 対するアルファも一歩、武者慄(むしゃぶるい)しながら踏み出した。

 激突。交差する拳打。アルファの掌底は仮面の顎(あご)を打ち抜く。ダメージはないがマザーAIは天を仰ぐ。しかしてマザーAIによる拳は、アルファの左胸を正確無比に貫く勢いで走っていた────

 

「────『光景』&『メクルメ』────」

 

 途端、水色の宝石をお腹の上で受け取っていた篠澤広が、つぶやく。

 

 爆音。

 視界いっぱいの光景が水平線まで吹き飛ぶ。木々が、枯葉が、地面が、マザーAIが、死体のガガンボが、雲海が、水平線上に押しやられて落下を始める。だが、ひとつだけ例外があった。ア(・)ル(・)フ(・)ァ(・)だ(・)け(・)が(・)水(・)平(・)線(・)ま(・)で(・)吹(・)き(・)飛(・)ん(・)で(・)い(・)な(・)い(・)。それは第二の能力の効果だった。

 

「────篠澤さん。どういう異能を得たのか簡潔に説明を」

「……し、視界内の物質を、視界内の一番奥まで一瞬で吹き飛ばす……写真のように、水平線上にピタリと貼り付ける……それが、光(・)景(・)……そして、第二の能力のメ(・)ク(・)ル(・)メ(・)は……わたしともうひとりに災いを引き寄せる代わり、それ以外の人々は災いから守られる効果がある……」

 

 アルファは瞬発思考。おそらく篠澤広は、その“もうひとり”にマザーAIを指定したため、アルファは光景という災いを受けずに済んだのだ

 背中のカバンを下ろし、業物の日本刀を取り出す。

 

「その“もうひとり”には、常に敵か俺を指定してください。指定する際の条件は?」

「……特にない……と思う……」

「杜野さん。護身用にこの刀を持ってください。俺は二本目の刀を腰に提げておきます」

「……!」

「全員、俺と篠澤さんから離れずに付いてきてください。あなたがたは軽率にも殺し合いの世界に足を踏み入れた。生きて帰りたいなら覚悟を決めてください。分かりやすく言うと、アニメや特撮の世界が現実になった。あるいは、戦国時代の合戦場に来てしまった。そう思ってください。……さぁ行きますよ。都市に入ったほうが隠れる場所が多い。どうせ来た道を戻っても殺されるだけです。ならば殺られる前に殺れの精神ですよ……まったく……」

 

 アルファは篠澤広をお姫様抱っこ。小宮果穂の手を引っ張り、光景によって抉れた斜面を滑り降りる。

 

『……!!』

 

 芹沢あさひ・杜野凛世・郁田はるきは、慌てて追いかける。

 一同は絶句するほかない。

 

          §

 

 岩山を滑り降りて住宅地に着地。適当な一軒家に入る。あらゆる建物の扉は施錠されていなかった。内装は皆無。家具ひとつない新品の空間。と思いきや、ところどころ小さな血痕が散らばっている。いつか誰かが怪我をしながらこの家の中を通ったのかもしれない。

 

「みなさんはここで息を潜めてください」

「っ……!? あ、アルファさんは、どこに行く気なんですか……!?」

「俺は藤田ことねの父親を助けるために来た。──おそらくこの街では、さっきの篠澤さんや花海咲季にそっくりな人造人間たちが、人々を殺して回っている」

『……!?』

「それでも救出対象が生き残っている可能性を捨てず、俺と先輩は今回の救出作戦を閃いた。──というわけです。先輩。全部聞いてますね? 青ざめているところ悪いですが、いきなり問題発生ですよ。意見ください」

 

 アルファは奥歯にはめ込んだ通信機に語りかける。

 するとアルファだけに聞こえる音声が返ってきた。

 

『────是が非でも守り抜いてください』

「了解。それしか言えませんよね……是非もなし。──では篠澤さん。果穂たちを連れてきた責任をきっちり取ってください。つまり、あなたの天才的頭脳と胆力を信じて、彼(・)女(・)た(・)ち(・)の(・)護(・)衛(・)を(・)任(・)せ(・)ま(・)す(・)」

「────…………」

 

 それだけ告げて、アルファは一軒家から出て行った。

 

          §

 

 私は、家族を守ると誓った。

 娘たちを、息子たちを、愛する妻を。借金に苦しめられる生活から解放するために。

 

 父親としての責務を果たすため、危険な仕事を引き受けた。

 それが私に許された、今を生きる理由。地獄(ここ)で戦う理由。

 

 私は、二度と家には帰れないだろう。家族の顔を見ることは、ついぞ叶わないのだろう。

 家族に心配を掛けないため、蒸発したように見せかけた。逃げ出したように見せかけた。

 

 子供たちは失望したに違いない。

 退路は絶たれた。疾うの昔に覚悟は済んでいる。

 

 この命に代えても、借金は完済する。

 

 たとえ、アイドル力(パワー)を軍事転用する悪の組織の生贄になったとしても。

 たとえ、アイドル細胞を培養してクローン人間を人造し、アイドル力を超能力として発現させる、超能力開発機関(アルティメットムーンスクール)の生贄になったとしても。

 たとえ、毎日毎晩、実験と称して実験体を風騎町に解き放ち、私たち住民を殺戮する“リアル鬼ごっこ”が繰り返されていたとしても。

 

 奴らは、私と約束したんだ。

 私が実験体(クローン)に殺された場合、住民としての役割を満了したものとして、返礼に藤田家の借金は完済すると。

 

 しかし私は死にたくなかった。あと少し、もっと長く、生きていたい。

 必死に走った。必死に隠れた。息を潜めすぎて気絶したこともある。失禁だってしてしまった。

 

 そうこうして私は、今日もまた奇跡的に生き残ってしまっている。

 このあいだにも、家族が借金で苦しんでいるかもしれないのに……!

 

 ────私は臆病にも傲慢にも、自分の命を優先してしまっている。

 

 最悪な父親だと罵ってくれ。

 家族と会いたい。嫌だ死にたくない。

 

 それでも────あ(・)の(・)顔(・)を(・)し(・)た(・)実(・)験(・)体(・)に殺されるなら、私は────

 いいや! ダメだ! それだけはダメだ……!

 

「それだけは……それだけは……!」

「あ♡ 見~つけた! お(・)父(・)さ(・)ん(・)!」

「────ッッ」

 

 ゴミ箱の外から、藤田ことね(愛する娘)と瓜二つの声が聴こえてくる。懐かしい声だが、今では悪夢のようだ。慌てて外に出ようとしてゴミ箱ごと倒れた。震える首で見上げる。

 そこには、我が子が高校生くらいに成長した、リッチャーという実験体(クローン)が立っていた。ゴミ箱の中に隠れていたので汚れだらけの私が臭いのか、鼻をつまんで蔑みの視線を寄越し、臭いを払うように手を振ってあざけっていた。

 

「ほらほら、逃げないと殺しちゃうよ~?」

 

 彼女に人の心はない。単純な殺戮マシーンだ。なぜかは知らないがオリジナルの記憶を保持している。その上で肉親や知り合いを殺すことを厭わない。以前はビームで脇腹を貫かれて捨て置かれた。どうやらリッチャーはすぐに殺すのはつまらないと思う性格をしているらしく、なぶり殺しにするのが好きなようだ。

 

「ひぃいい……ッッ!!」

 

 私は、情けない声を上げて逃げ出す。

 恐怖のせいで身がすくみ、うまく走れない。ビルとビルの間からオフィス街の大通りに出ると、そこでは仲の悪い実験体同士が殺し合いを始めていた。

 

「今日こそ殺す……! ピャーリン……!」

「さんを付けろよ雑魚スケ野郎ォオオオオオオオ!!」

 

 ムーンベイビーの口から放たれる冷凍光線と、全帝(ぜんてい)王ピャーリンの意味不明な超能力が激突する。本来ならムーンベイビーの冷凍光線で周囲一帯は吹き飛び、凍結されたクレーターが形成されるのだが……全帝王ピャーリンが不思議な能力を使うと、いつもビル群の白線部分だけが凍結して、全窓ガラスが一斉に粉砕────つまり、私の体を突き刺す刃物の雨が降り注ぐ。

 

 全身擦り傷だらけになりながら通りを疾走。実験体たちから距離を取る。隠れる場所を探さなければ……!

 リッチャーはいつも徒歩で私を捜し当てる。見つかれば二分の一の確率で肉を抉りに来る。そのたび私は、奴らから支給された武(・)器(・)で傷を癒す。私には治癒の効果があるようで、それも超能力の産物なのだとか。

 

「あのさァ! 俺、来る世界、間違えたかなァアアアアアア!? アイドルって、怖(こえ)ぇええええええ!!」

 

 ……っ!? 突然、遠くから若い青年の声が叫ばれた。

 もはやこの都市に私以外の人間はいないはず。生(・)き(・)残(・)り(・)は(・)い(・)な(・)い(・)はず。

 

 彼は一体何者だ? いやまて。その近くには……まずい!

 あれは────最も異色の実験体! ライアーだ!

 

「あっはは! 逃げないでよ~アルファっち?」

「俺の素性は調査済みだと? よろしい。それは宣戦布告と受け取るぜ? 女だからって加減は無しだ」

「それはこっちのセリフなんですけど? 人間だからって加減しないかんね~?」

 

 格闘する二名。青年は隙を見て全力で逃げおおせる。どうやらライアーは本気を出さなかったようだ。彼女が本気を出せばマザーAIさえ瞬殺できるらしいが……それが本当なら、ライアーの本気なんてものは見たくないものだ。

 

「────!?」

 

 建物の屋根をパルクールの要領で疾走していた青年と目と目が合う。

 私は隠れ場所を探すのに必死だ。残念だが彼を助けてあげる余裕はない。

 

「見つけたぁあ!」

「!?」

 

 それは彼も同じはずだ。関わりあう暇はないはず。

 それでも屋根から飛び降りて、私の前に降り立った。

 

「藤田ことね!」

「────……!!」

「の、父親ですね!?」

「っ……!?」

 

 ど、どうして、そのことを……!?

 

 問いかける前に、彼は私の手を取って駆け出した。すごい力だ。とんでもない怪力で引っ張られていく。私は転ばないよう必死に両足を回して走る。走る。走る……足の回転が追いつかない! 何度もこけて転びそうになる。そのたび彼は引っ張り上げるように、叱るように、ものすごい力で助け起こしてくる。今まで体験したことがないスピードで住宅街の路地を疾走。

 

 ふと海岸方面から爆音。ゴロゴロと転がるような爆音と、恐竜のような咆哮が響いてくる。おそらくPBとステラサウルスが組み手をしているのだろう。となれば残るはガガンボとロウヒ、リナ姫と魔王子か。彼女たちはどこにいるのだろう? 居場所さえ分かってしまえば、今日も安全に逃げられるのだが……。

 

 やがて正体不明の青年は、一軒家の中に隠れようと決めたのか。

 私を牢屋にぶち込むように、屋内に連れ込んだ。

 

          §

 

 アルファは、篠澤広たちが待機する一軒家に帰還した。

 

「アルファさん!」

 

 小宮果穂が駆けつける。となりには知らないおじさん。もしや彼が藤田ことねの父親だろうか。

 

「はぁ、はぁ……! どいつもこいつも生きてた……良かった……! よし、あとは作戦会議だ……! 藤田さん……俺は人造人間たちを全員倒す必要があります……! どうか知恵をお借りしたい……!」

「ハァ、ハァ……! っ……! 君は、いったい、何を……ッ!?」

「ごちゃごちゃ話してる暇はない! 俺はこの場にいる全員を生かして帰さなくちゃならないっ!! あなたの娘さんは初星学園でアイドルになるため頑張ってる! でもあんたが帰ってこないと、彼女は満足にライブもできない……!! アイドルは笑顔が一番だ! なのにアンタのせいで! 彼女は……本当の笑顔が出てこない……!!」

「────ッ!!」

「責任を取れ! 責任っつーのは、娘さんと同じアイドルである彼女たちを初星学園まで生かして帰し、あんた自身も娘のもとに帰ることだ! このバカ親父……!!」

「────っ……!」

 

 藤田父は、膝から崩れ落ちる。アルファの叱り飛ばすようでおもんぱかってもいる慈愛の視線を受けて、目頭に熱いものがこみ上げてくる。

 

「し、しかし……私は、借金が……!」

「ンなもん俺たちがなんとかする! それに娘さんも自分が稼いで返すって決めてんだ! なーにカッコつけてやがる! 娘さんは今でも、あんたが蒸発したこと、自(・)分(・)の(・)せ(・)い(・)だ(・)と(・)思(・)っ(・)ち(・)ま(・)っ(・)て(・)る(・)……!!」

「────!? そんな、ばかな……!」

「あんたの責任感が強いように、娘さんも責任感が強く育っちまったみたいだな! まったく皮肉だぜ……滑稽だよ、あんたら親子は……」

「っ……!! くっ……!」

 

 藤田父はうなだれる。

 アルファは腰に手を当てて深呼吸。

 

「────何か言うことは?」

「…………」

「コアは持っていますか?」

「……」

 

 藤田父は、こくりとうなずく。

 ポケットから五つの宝石を取り出した。赤色が二つ、青色が一つ、褪せた黄色が一つ、黒色が一つ。

 

「あなたは異能を使えますか?」

「……使えない……いや、一日かけて軽い傷を癒す程度の異能は、使える……」

「出力に差があるのは?」

「おそらく私に、アイドルパワーが少ないからだ……」

「なるほど……その宝石は、どこで? 人造人間同士でやりあってる場面を見ました。そこから?」

「ああ……」

「複数持ってるのは、誰かの遺品だったり、コアが壊れた時のための予備?」

「そうだ……」

「可能なら、それを彼女たちに配ってください。──そして果穂。お前に頼みごとがある」

 

 アルファは、同好の士に向ける眼差しで頼み込む。

 

「────お(・)前(・)が(・)守(・)れ(・)」

「……!! ────はいっ!!」

 

 小宮果穂が藤田父の護衛を務める。

 

「ことねさんのお父さん!」

「……!」

「あたしは、ヒーローアイドル・小宮果穂です! あたしが、あなたを守ります! だから、どうかあたしたちに力を貸してください……!」

「────」

 

 真っ直ぐな瞳。覚悟を決めたような顔つき。

 恐怖に震える肩、腕、脚。それでも正義のために戦う闘志が、瞳の奥に燃え盛っていた。

 

「……君たちは、本気なんだね……?」

『はいっ!!』

 

 アルファと小宮果穂が応える。

 ならばと藤田父は、今まで自分を生き残らせてきた、命の次に大事な宝石を────配り始めた。

 

「これでも私は生贄の中で、誰にどのコアを持たせた方が効率的なのか、判断する目利きがあってね……果穂ちゃん、と言ったっけ? 君には、赤色の方が似合いそうだ……」

「! えへへ……!」

「? どうしたんだい?」

「あ、いえ! あたし、ユニットではレッドなんです! だから、同じでうれしっくて……!」

「…………」

 

 この極限状態で、そんなことを言える精神性は、どういうものなのだろう。

 もはや藤田父は、普通の感覚がマヒしていた。小宮果穂には“覚悟”があるから平気そうに振る舞えるのか。それとも世界そのものが狂ってしまったのか。もはや何も分からない。精神は限界だ。なんでもいいから許してほしい。なんでもいいから謝りたい。藤田父は芹沢あさひ・杜野凛世・郁田はるきに宝石を配りながら、懺悔を始めた。

 

「私は……人造人間たちに『悲鳴が面白い』という理由で、ほかの誰よりも少しだけ長く生かされてきた……私の生存戦略は、とにかく情けない声を上げてしまっても、逃げ続けることだった……時には、自分が生き残るため、誰かを見殺しにしなければならない時もあった……そんな私は、助けていい人間じゃない……いつか報いを受けるべきだ……いつか、いつか────きっと、ぜったい、かならず……限界が来て、殺されて────でも、そのおかげで! か、かか、家族が、救われるのなら……っ!!」

 

 アルファは見守る。藤田父の精神療養は後回しだ。彼は頭では何をするべきか理解している。今は全てを吐露させた上で、そんなもの関係ないとすくい上げればいい。それがこの手の人間に一番堪(こた)える精神療養(こうげき)だと、アルファは紛争地域を渡り歩いた経験則から知っている。要するに軽いPTSDとサバイバーズギルトである。

 

「────あはっ♪ また見~つけた♡」

『っ────!!?』

 

 窓ガラス越しの庭先に、ひょっこりと現れた藤田ことね似の人造人間・リッチャー。

 

「総員! 戦闘態勢────!! 習得した能力を教えろ────!!」

 

 アルファの命令。小宮果穂と杜野凛世は身構えて、藤田父と郁田はるきは身がすくんでおり、芹沢あさひは一軒家の外に飛び出し、篠澤広は不幸(わざわい)の対象をリッチャーに指定する。

 

「────『世界一可愛い私(Cupid in The World)』────」

 

 それは世界の認知が歪む異能。

 一度でもリッチャーを目にした人間の視線をリッチャーに釘付けにして、自分含む人間すべての姿がリッチャーに見えてしまう能力。

 

『────!!?』

 

 一同は驚愕する。周囲の知り合いが消えて、同じ場所にリッチャーが現れた。

 アルファは瞬発思考。

 

「認知の歪みだ! 本物はひとり! 誰でもいい、ご(・)ち(・)ゃ(・)ら(・)せ(・)ろ(・)────!!」

 

 メクルメは無力化された。篠澤広の認知にとって、全人類はリッチャーになっている。自分とリッチャーが災いを引き寄せる場合、ほ(・)か(・)の(・)リ(・)ッ(・)チ(・)ャ(・)ー(・)に(・)も(・)災(・)い(・)を(・)引(・)き(・)寄(・)せ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)。篠澤広は天才的思考で、全てのリッチャーに災いが降りかかる前にメクルメを解除した。

 

 アルファが窓ガラスを蹴破る。庭先に立つリッチャーが今のところ本物である。表情を読むに、これほどの悪意をにじませる仲間はほかに存在しない。どうやらガガンボは殺人衝動以外、篠澤広と似た精神構造をしていたが……全ての人造人間がオリジナルと同じ精神構造を有するわけではない模様。

 

 アルファとリッチャーの格闘。人造人間は一通りの格闘術を習得しているのか、アルファと互角に殴り合う。それだけではない。筋力は明らかに人外の域。アルファは敵の拳をモロに受けた時点で、おそらく被弾部位が炸裂し、最悪貫通されて五体が弾け飛ぶだろう。

 

 必死の形相のアルファ(リッチャー)と可愛い笑顔を浮かべるリッチャーの激闘。

 ほかのリッチャーたちは、戦いの邪魔をしないためにも、観戦するほかない。

 

「果穂! 能力は!?」

「っ……! あたしは────多すぎます……!!」

「杜野さん!」

「────彼我の全能力値をMAXに────」

「郁田さん!」

「っ……────思考を……押し付けあう……!」

「それだ! 発動してください! 五秒くらい────!!」

 

 一同は、喋り方を頼りに郁田はるき(リッチャー)へ振り返る。

 見つめられたリッチャーは、意を決して異能を発動した。

 

「い、いきます……! ────『夢模様キャンバス(I-KUTA MAGURA)』────」

 

 リッチャーは混乱した右ジャブからの左蹴りは相手の思考だ自分は左ストレートで胴体貫通のつもりだった星印をつけなければいけない背後から刺し殺すためにアルファさんを助けるためには第四の能力が適切だろうかあわよくば日本刀でしかしどちらがアルファさんなのかいつも頭がごちゃごちゃしている周囲の人間に押し付け合えばどうなるのかこうなるのか私には何ができる右ジャブが来る躱す思考の読み合い即ち分析合戦次は左蹴りだろ分かってんだから回避できるに決まって左ストレートを飛ばすそうかそれは私の思考だったつまり左蹴りで俺の胴体を貫通しようとしていたわけだなにこれ頭がごちゃごちゃするっす頭おかしいんじゃないの左蹴りで首を折る五秒経過した!

 

「がはっ……!?」

 

 アルファの左蹴りがリッチャーの頭部に激発。首をへし折って家の壁に叩きつけた。すかさずリッチャーは左手を掲げて気弾のようなものを生成。それをアルファに射出する瀬戸際、芹沢あさひが無重力のように空中を高速移動してライダーキック、リッチャーの左腕を蹴り飛ばして気弾をあさっての方向に飛ばした。生垣に気弾が命中して爆砕する。リッチャーの負傷部位が徐々に黄色い泥へと変わっていく。芹沢あさひは昼の空に輝く一等星に向かって空に舞い上がった。

 

「あさひ先輩! 能力は!?」

「わたしは体が星の概念に引っ張られる! さっきそこらじゅうに星マークを書いた! たぶんやろうと思えば隕石も降らせることができる、かも!」

「それは最終手段で! ──藤田さん! 人造人間にトドメを刺す方法は!?」

 

 アルファは返答をもらう前に疾走。サバイバルナイフを取り出して胸部に刺突。肉を引き裂いた後にカツンという感触。人間の体内構造として、そこに骨は存在しないはず。すなわち──学園プロデューサーの事前調査によれば──そこにコアが埋まっているはず。ナイフを引き抜いて傷跡に手刀を鋭く差し込む。心臓の鼓動、血管の脈動が近くに感じられる場所で、石のような感触の物体を掴み取り、容赦なく引き抜く。

 

「────くそがっ……」

「最後の遺言がそれでいいのか?」

 

 リッチャーは悪態をつく。

 アルファは最後に素直になることを勧める。

 

「……────お、おとう、さん……」

「っ……!!」

 

 リッチャーの全身が加速度的に黄色い泥へと変わっていく。折れた首の再生は不可能。左腕の骨折も再生不可。二本の足で歩き、藤田父を見やる。リッチャーの視線固定(くぎづけ)能力によって、藤田父たちはリッチャーから目が離せない。

 

「…………あはは。迷惑かけて、ほんと、ごめんね────?」

「────っッ!!」

 

 藤田父は駆け出した。

 溶け崩れるリッチャーの体を抱きとめるが……父の腕には、もはやただの黄色い泥が粘りついて落ちていくばかり。

 

「あ……ああっ……!! そんな……こ、ことね……っ!! もうひとりの、私の……ことねぇ……ッ!!」

『────……』

 

 藤田父は、黄色い泥濘(ぬかるみ)の上で這いつくばる。

 小宮果穂は駆けつけるが、黄色い泥を踏んでその体を起こすことははばかられた。

 

「……────配置を指示します。俺と郁田さんは攻撃組として別行動します。それ以外は専守防衛組として固まって動いてください。──小宮果穂は藤田さんの護衛を。杜野凛世は篠澤広の護衛に専念。篠澤広は全員の護衛に専念。芹沢あさひは敵の迎撃に専念。郁田はるきは俺と来て援護に専念してください。ちなみに思考をごちゃらせる能力の範囲は?」

「……! わ、わたしの周囲……数メートル、くらいかな……? でも頑張れば、十数メートルは広げられるかもしれない……あ、でも、一対一も、いける……!」

「無理するようなら乱発は控えてください。郁田はるきは俺が護衛します。ちなみに専守防衛組のリーダーは果穂だ。参謀は篠澤広。杜野凛世と芹沢あさひは鉄砲玉。藤田さんは非戦闘員。よろしいですね? では出発しましょう」

 

 アルファは手招きする。

 それが郁田はるきに向けられたものだと察した少女は、一拍遅れて駆け出した。

 

「あ、待ってくださいアルファさん! はるきさん! この────『頑張りの紋章』と『知恵の紋章』を受け取ってください……!」

 

 小宮果穂は投げ渡す。それは桃色と緑色のワッペンだった。服の上に触れると、ふしぎと強く貼り付く。

 

「能力は?」

「装着者は一度だけ『ヒンシ』に耐えるそうです……! はるきさんのは装着者に最適な判断を促す『直感』で……!」

「なら『頑張り(これ)』は藤田さんに付けるべきだろ」

「いえ……! アルファさんに何かあったら……あたしたちは、全滅します……! アルファさんはチームの切り札なんです! だから、これで正解です……っ!!」

「……そうか。それもそうだな。分かった。──ではみなさん、ご武運を」

 

 アルファと郁田はるきは都市部へ走り去る。

 そこで篠澤広が言った。

 

「……果穂。隠れる場所を探そう……」

「……! は、はい……! ではみなさん、行きましょう……!! ──藤田さん……!」

「…………ああ……そう、だね…………」

 

 意気消沈の藤田父は、この数十秒で顔がやつれにやつれていた。絶望している。今まで自分を殺そうとしてきた殺人マシーンにも感情があったのだ。思うところがあったのだ。その真実を知ったことで居た堪れなくなる。それでも立ち止まるわけにはいかない。家には、愛する家族が帰りを待っているのだ。

 

 父親は涙を拭って立ち上がる。今は全身に浴びた黄色い泥が、外付けの勇気となっている。

 

「みんなで、生き残ろう……! どうか私に、力を貸してくれ……!」

『────はい……!!』っす!」「うん……!」

 

          §

 

 頭の中がごちゃごちゃを極めている。

 

「はぁっ、ハァッ……!?」

 

 過呼吸寸前。

 

「人造人間の肉体に脳髄は存在しない。頭蓋骨内には人工知能のブラックボックスが埋め込まれている」

 

 爆弾投下。

 目の前を走る青年(アルファ)から教えられた豆知識で、郁田はるきの夢色脳内は渾沌(こんとん)を彩(きわめ)る。

 人工知能だから殺害に躊躇するな、という意味だろうか。それとも別の意味があるのか。自分を落ち着かせるための世間話か。ならば、非日常の中で、日常的なことをやってみよう。

 

「あ、アルファさんは……何者なんですか……!?」

「果穂と同じですよ。ただのヒーロー見習いです」

「……うえぇ!? か、果穂ちゃんも、こんなことを……!?」

「さあ? ヒーローみたいなことをしたいのか、ヒーローそのものをしたいのか。本人に取材してみてはいかがです?」

 

 ふたりはオフィス街の大通りを疾走。

 突としてビルの最上階が大爆発。赤色と黒色の火花と煙が弾けて広がる。太陽の逆光にまぎれて影が落ちてきた。それはアルファと郁田はるきの眼前に着地してアスファルトを砕き割る。敵だ。その顔には見覚えがある。

 

「個体名は?」

「っ……リーリヤ、ちゃん……!?」

「全帝王ピャーリン。────『白線』────」

 

 不意にアルファの視界が転換する。俯瞰風景。アルファは、なぜかビルの壁面に立っていた。重力に従って自由落下を開始する。高さ5階。「────ッ!!?」瞬発思考。白線という異能名から類推。対象を白線の上に立たせる能力か。なぜならビルの壁面の一部は白く塗られていた。現状認識できる射程範囲は20mほど。もし雲を『白線』とみなされて飛ばされると一巻の終わり。地上では全帝王と郁田はるきが対立。一度に飛ばせる対象は一名のみか。

 

「ごちゃらせろ!!」

 

 アルファが指示を出す前に、最適な行動を直感した郁田はるきは異能行使。しかし全帝王も同時に異能を行使していた。同時に発動する。

 刹那、郁田はるきは白線に飛ばされず、全帝王のほうが20mほど離れた横断歩道の白線に転移。どちらも混乱した表情。加えて郁田はるきは怯えた表情。アルファは壁面を駆け抜けて宙返り、着地ざまの三角飛びで全力疾走。最短経路の肉体操作で最短距離を突っ走り、全帝王に肉薄。唸る拳で顔面を抉り抜かんとする。

 

「────『白線』────」

 

 全帝王はランダム転移を敢行。郁田はるきと思考が混線して対象指定が不可能ならば敢えて暴走させた。選ばれたのはアルファ。横断歩道の白線二番目に転移。全帝王は三番目に立っている。誰もいない虚空に拳が過ぎ去る。

 

「────『白線』────!!」

「────『I-KUTA MAGURA』────」

 

 郁田はるきの知恵の紋章が光り輝く。直感が発動。今『白線』と叫んだのは郁田はるきである。そのせいで全帝王は『I-KUTA MAGURA』の異能名を叫んだ。思考混線。白線は不発する。郁田はるきの“ブラフ”に騙された全帝王は、何がどうなっているのか混乱して、数瞬、心身が硬直する。その側頭部へアルファの拳が迫った。

 

「────『飼い慣らされた虚偽の超次元(Violet-summer-S・clean-Cloud)』────」

 

 アルファの視界が転換する。唸る拳の先には、怯えた表情の郁田はるきの側頭部。足元に横断歩道。瞬発思考。別の白線の上に飛ばされた? しかし混線した思考でここまで的確なトラップを打てるだろうか。加えて今、誰かが異能名を言った。類推。────おそらく幻覚だ。半信半疑で、偽物と判断した郁田はるきの側頭部を殴り飛ばす。

 

「ガハッ────!?」

 

 葛城リーリヤと似た悲鳴が上がる。全帝王に攻撃がヒットしたらしい。

 

「は? ウソ────なんでそんな、ためらいなく人を殴れるわけ~?」

 

 アルファの視界が転換する。白線二番目の上に立ったままだ。眼前では横向きに倒れる全帝王。右視界端には無事な姿の郁田はるきが佇立。左視界端には「人の心とかないの?」などとのたまう偽・紫雲清夏が近づきながら嘲(あざけ)ってきた。

 

「また会ったな。個体名は?」

「ライアー」

「嘘つき(ライアー)か……ら(・)し(・)い(・)能(・)力(・)だな」

「言ってくれるじゃん。ところで、お化けって怖い感じ?」

 

 アルファの背後に冷たい気配が多数。肩を服を腕を手首を腰を足首を掴んでくる紫霊(しりょう)の群れ。

 

「ッ……!?」

 

 身がすくむ思いをしたアルファは全力で振り払う。別の能力者がいるのか。それともライアーの能力はひとつじゃないのか。幽霊の群れを振り払うことができたのも束の間、走ることもなく徒歩で近づいてきたライアーと立ち上がってきた全帝王に挟まれる。2対1の格闘戦。

 

「────あ、アルファさん……! 複数人に掛けようとすると、範囲型になって……!」

「構わない! 五秒だ────ッ!!」

 

 ライアーの回し蹴りフェイントを織り交ぜて全帝王の正拳突きそれがふたりの胴体に命中それは誰の考えだ目に映っているモノが真実だ吹き飛ばされる全帝王アルファとライアーの思考交錯格闘よくもピャーリンを白線全帝王が戦線復帰一撃空気を破裂させ一撃大地を砕く飛び躱すアルファ不動の姿勢で空間粒子を操作幻覚生成ピャーリンとライアーの位置を入れ替えるどっちでも構わない全帝王を蹴り飛ばす移動すると死霊軍団能力に移行する時速で異能が変化するタイプかやばいバレるじゃんこれ白線、混線転移、郁田はるきとアルファ、全帝王とライアーが位置交代。ライアーの即死拳打を直感で回避アルファ疾走ピャーリンが畳み掛けるまずは弱い奴から背中を見せたら殺す「屈め!!」脳漿はじけ飛ぶはずの一撃が躱される「横っ飛び!!」全帝王の踏みつけを飛び躱すウソっしょあいつこの思考混線の中でまさか読めるというの死にたくないよぉ六秒経過していた

 

 全帝王とライアーの中間に跳躍していたアルファは両足を左右へ振り抜く。右つま先が全帝王の後頭部を蹴り穿ち、左かかとがライアーの顔面を打ち砕いた。

 

『カハッ────!!?』

「もう六秒!!」

 

 アルファは宙返り着地サバイバルナイフを引き抜いて三角飛び全帝王の背中を羽交い締め両手首を固める人造人間は莫大な膂力(りょりょく)を有する抵抗されれば拘束は容易に外せる背骨を避けて一突きコアの位置を確認ナイフ引き抜いて手刀すべからく背後からライアーの影ピャーリンを殺させはしない疾走準備それだけはダメだよライアーやめておねがい雷速(マッハ583)────は? え? だめぇライアーぁああ!

 

 瞬閃、落雷が迸った。思考混線を焼き尽くす圧倒的な光(フラッシュ)と火花(スパーク)の暴力。ライアーは疾走すると全身が雷速(らいそく)に達する代わり、雷と同じ速度すなわちマッハ583の重力加速度(G)に耐え切れず肉体が自壊する定めにある。

 

 まさしく落雷の体当たり。雷も同然と化したライアーはビル群を貫いて消滅。それに巻き込まれたアルファは即死した────はずだった。瀕死のアルファの胸元から桃色に光り輝く頑張りの紋章。ライアーは自らを犠牲にしてアルファを確殺する『1対1交換』をやり遂げようとしたのだろうが、それは小宮果穂の異能によって防がれた。いわゆる無駄死にである────ちがうっ!!

 

「よくも……よくも、ライアーをぉおおおおおおおっ!!」

 

 六秒経過。焦げ付くアスファルトのにおい。

 郁田はるきの眼前に、友の死を嘆く全帝王ピャーリンが立ちはだかる。

 

「しね────『白線』────」

 

 郁田はるきの視界が転換する。青空だ。雲の手前で空を飛んでいる。否、落ち始めた。寒さを実感。標高は大気圏? だって日本列島が見える。日本海と太平洋がこんなに広い。大陸の端っこも見えた。あれは淡路島? 向こうは、まさかハワイ? 空気抵抗? 暴風で目が開けていられない。なんかもう涙がちょちょ切れてきた。

 人生で一度やってみたかったパラグライダーじゃない飛行機から飛び降りて色々とポーズを決めるあれをやる気にはならないけど、お腹から落下していって、両手両足が風圧? によって持ち上げられていく不思議な感覚を噛み締めて、おそらくわたしは、逝(い)く。

 

「わ────わぁ~…………」

 

 人間、処理能力の限界を突破すると、こんな上ずった声を発することしかできないのだと────郁田はるきは、最期に色々と勉強になった。

 

          §

 

 杜野凛世の日本刀と魔王子の結晶剣(フロウライト)が激発して火花を散らす。

 日本刀の切れ味、肉を裂く。結晶剣の切れ味、ビルを両断する。

 それだけのパワー差があって、なぜ日本刀は折れずに閃いているのか。

 

(つばぜり合いは、またたくまにへし折られる……攻撃の軌道を逸らす役割さえ果たせば、必要十分……残る半身切り落としてくる軌道は、半歩すり足で躱せば佳(よ)い……)

 

 それは杜野凛世の卓越した技量が、鉄骨両断の馬鹿力を凌ぎ、ギリギリの死線を掻い潜り続けているため。

 

「キミ、強いね────」

「────」

「でも、これでおしまいだ────『Fluorite(変わりゆく君の名を)』────」

 

 それは一言で変(・)容(・)。材質変化能力。

 結晶剣がフランベルジェのように、刀身さざめき陽炎のように揺らめく。

 

「────『常咲の庭(The Ultimate DUO)』────」

 

 杜野凛世は、範囲内における生命すべての潜在能力(ポテンシャル)と心魂体調(コンディション)を最高潮(MAX)にする異能を発動。それは才能合戦で勝利を決する、アイドル優等生らしい能力だった。

 

 魔王子の変容軌道斬撃は100%の技量を以て外敵を切り伏せる。

 対する杜野凛世の受け流し動作も100%の技量を以て外敵を切り伏せる。

 あとは上限勝負。魔王子による肉体操作レベルの上限(100%)が『80レベル』だとするなら。杜野凛世の肉体操作レベルの上限(100%)は『150レベル』である。相互『70レベル』の技量(レベル)差によって、杜野凛世は変容軌道を見切り、ほぼ完璧に退き躱す。

 

「なに────っ!?」

「────」

 

 返す刀で追撃は……仕掛けない。殺人思考に呑まれると手が鈍る。まだ人を殺す覚悟はない。故に功を焦ることは厳禁。今は生き残る事を優先する。杜野凛世が敵一名を引き受けているのなら、その間、ほかの仲間の手が空く。無理に踏み込んで遅れを取るくらいならば、現状維持が最も戦果の高い行動だと信じる。無論、他の仲間が遅れを取り、自ら助太刀せねば危ういというのであれば────

 

 ────杜野凛世と魔王子は後退跳躍。ふたりの中間にティラノサウルスのような巨躯の恐竜が倒れ伏す。アスファルトを削り穿って転がる恐竜は即座に起き上がり、咆哮。火を噴きそうな火打石の牙を打ち鳴らし、尻尾を振るってガレキを打ち飛ばした。敵味方を問わない全体攻撃。芹沢あさひは無軌道に空を飛んで躱す中、ひとつの大岩(ガレキ)が小宮果穂と藤田父に迫る。

 

「────『ハナマルバッジ(Five Crest)』……『勇気の紋章(アンブレラブレード)』抜剣展開────!!」

 

 小宮果穂の胸元に光る青いワッペンがアンブレラブレードを召喚。傘を開いてバリア形態に移行。踏ん張りを込めて、飛んでくるガレキを傘で受け止める。衝撃。なんとか受け流して、自らと背後の藤田父・篠澤広を守り抜く。

 

「────『clumsy trick(ドジっ子ストーム)』────」

 

 三人の背後にリナ姫が回り込む。

 多種多様な能力を有する代わり、その全てが半端な効果となる。小宮果穂に束縛まがいの重圧をかけ、藤田父に盲目まがいの砂埃をかけ、篠澤広に視線固定を掛けるがそれは能力者本人にも掛かる。地盤沈下まがいの草結びで杜野凛世の足を引っ掛け転ばせるが、なおも杜野凛世の技量は冴え渡り、魔王子と互角の剣戟を披露する。

 

 あちこちに小石で引っ掻くように描かれた星マーク。指定した星に向かって強力な引力が発生。足から落下を始めるため、芹沢あさひは瞬時に多方向の星に引力を乱発して肉体を旋回。縦横無尽に空中で自分を引っ張り回し、千変万化の軌道でリナ姫の後頭部に蹴りを見舞い、速やかに背後に回って背中を蹴り飛ばす。

 

「くっ……!!」

 

 恐竜────ステラサウルスの突撃。巨大な牙で噛み殺さんとする攻撃を飛び躱して側面に回り込み────隕石を引き寄せる。小粒ほどの隕石が大気圏を突破。熱された赤い石が、恐竜の胴体側面に着弾した。爆熱と爆風。衝撃波が広がってビル群の窓ガラスを全壊。日差しを受けて乱反射するガラス粉末地帯は光輝燦然(さんぜん)と周囲を照らし出す。ステラサウルスの胴体は貫通していた。上半身と下半身が分かれて倒れているが、すぐさま体液らしき白い泥がにじみ出て癒着、徐々にステラサウルスの肉体を修復していく。

 

「やっぱりコアを抜き取らないと不死身……!!」

「────『光景』────」

 

 篠澤広はステラサウルスの下半身と背景を指カメラに収める。背景の最奥まで吹き飛ばされた下半身。白い泥が散り舞う。これで再生を遅らせることができた。

 ふと芹沢あさひの胸元から茶色のワッペンが光り輝く。それは『親愛の紋章』────効果は『小宮果穂以外の潜在能力を最大値まで開放する』というもの。覚醒した芹沢あさひは異能が進化、思考(ポテンシャル)が鋭敏となり、勝利の方程式を閃いた。ステラといえば星。すなわちステラサウルスも星の概念を有する。

 

「────『星々をめざして(Believe in Gravity ACT2)』────」

 

 今まで星をめざして(Believe in Gravity)、芹沢あさひの肉体は引き寄せられていた。が、次からは星が芹沢あさひをめざしてくる。ステラサウルスの体内に隠れたコアが芹沢あさひを目指して引き寄せられていき、恐竜の体躯と炉心(コア)が完全に分離した。ステラサウルスは肉体が保てなくなり、全身が白い泥に変わっていく。

 

「────『小さな野望(インフェルノ)』────」

 

 ステラサウルスは最期の最期に異能発動。大口を開いて業火の道(ヘルフレイムロード)を噴き出し、遠方に吹き飛ばされたはずの下半身から僧佉のごとし大風(ヘルストームブレイク)を繰り出す。小宮果穂がアンブレラバリアで業火を防ぐ一方、下半身の周辺ではビル群がたちまち木っ端微塵と砕け散っていく。今際の際で大暴れしたステラサウルスは────「ありがとう」────そう遺し、穏やかな表情で絶命した。

 

 杜野凛世と魔王子の剣戟。

 小宮果穂達とリナ姫の多種多様な異能合戦。

 

 轟然と遠雷。都市を震撼(しんかん)する爆音が連鎖。

 おそらくアルファと郁田はるきの戦闘音がこちらまで響いてきた。雷系の能力者がいるのだろうか。

 

「────『Wonder Scale(マカ・プラーナ)』────」

 

 大空一面に無数の光弾が展開。頭上を埋め尽くした光弾は一斉掃射。豪雨のごとく降り注ぐ。

 

『────っ……!!?』

 

 次から次へと敵が来る。キリがない。

 もはや絶命必至。避けようのない弾幕が迫る。

 しかし小宮果穂は決して諦めず、今こそ必殺技を叫んだ。胸元の赤いワッペンが光り輝く。

 

「────『始まりの紋章』────!!」

 

 それは『小宮果穂の潜在能力を最大値まで高める』効果を有するが、もうひとつ────『寿命を削る代わり、500%まで潜在能力の上限を開放する』能力。

 

 小宮果穂は限界を超えた特大バリアを瞬間展開。通常のバリアでは藤田父と篠澤広しか守れなかったが、寿命削減の代わりに拡張した特大バリアのおかげで杜野凛世と芹沢あさひを守れる。効果範囲内に存在した魔王子とリナ姫も守ってしまうが、こんな終わり方よりはマシである。

 

「うおおおおおおおおおおおっ────!!」

 

 特大バリアと弾幕の競り合い。小宮果穂を信じた杜野凛世と芹沢あさひは空を仰いで絶望することをやめる。魔王子とリナ姫に肉薄。戦闘再開。剣戟と無重力の格闘戦。特大バリアにヒビが入る。

 

「ぐぅうう……! なら! 300%だぁああああああああ!!」

 

 小宮果穂は一歩踏み込む。特大バリアが極大発光。弾幕を押し返す。

 そこで名参謀・篠澤広が叫んだ。

 

「────果穂! バリアで殴って────!!」

「……!! それはぁ────名案ですっ!!」

 

 小宮果穂は駆け出した。

 

「っ────!?」

 

 特大バリアは一棟のビルを殴りつける。激突と震撼。屋上に佇む弾幕の主・ロウヒは動揺。ほかの能力を使い始める。

 瞬間移動で小宮果穂の背後に転移。

 

「っ!?」

 

 篠澤広は叫ぼうとするも間に合わない。次の瞬間にはロウヒの拳が小宮果穂の背中を貫くだろう。メクルメでロウヒを指定、光景で小宮果穂以外を吹き飛ばそうにも、特大バリアまで吹き飛ばしてしまえば次の瞬間、弾幕で全滅だ。手の打ちようがない。

 

「うおおっ!!」

 

 すると前もって駆け出していた藤田父が、渾身の体当たりをロウヒにお見舞いした。

 

「きゃあ!?」

 

 藤田父は、ロウヒの転移能力を知っていたようす。焦ると背後に回って確殺を決めてくる習性も知っていた模様。

 倒れ付したロウヒは透明化して逃亡。

 

「ロウヒは物質を硬化させて電磁力で飛ばしてくる……! なんとかしてくれ……!!」

「────!!」

 

 すなわちレールガンか。篠澤広は瞬発思考。青髪のプロデューサーを見て学んだ思考法で──ガレキの中に金属を見つける──即断。本当にこれで正しいのか迷うも、躊躇すれば瞬殺される戦い。故に覚悟を決める。地面に向けて指カメラのポーズ。光景発動。写真の切れ端にガレキと金属片を収めて吹き飛ばし、ガレキから金属片を分離。金属片を手のひらの上に置く。

 

 不意にアスファルトを砕き割って無数の芽が出てきたかと思えば急成長して大樹となり森林が形成された。その中にまぎれて透明化したまま暗殺を企てているのだろうが、もはや無意味。

 

 篠澤広は手のひらの上で金属片を回す。それは方位磁針の役割を果たし────突として西を指し示した。強い磁場が発生したのだろう。すかさず西に向かって指カメラのポーズ。対角線には杜野凛世がいたはずだ。メクルメの不幸対象をロウヒに変更したことを確信して、光景発動。

 

 連写爆撃。森林を吹き飛ばしてビル群に叩きつける。一切合切の物質が消失した空間には杜野凛世と魔王子が佇んでいた。メクルメの効果によって災いから守られたのだ。すかさず魔王子を不幸対象に切り替えて連写。魔王子を吹き飛ばす。かくしてロウヒと魔王子は吹き飛ばされたが、おそらく死んではいないはず。そのうち再生して戦線に復帰してくる。ちなみにこれは希望的観測だが、不幸対象となったロウヒと魔王子は、不運にもコアが破壊されているかもしれない。

 

 杜野凛世は佇立しながら休息。

 一方、芹沢あさひは割と容赦なく、リナ姫をタコ殴りにしていた。

 

「そろそろ降参するっすよ!」

「っ……!」

 

 リナ姫の傷跡からピンク色の泥がにじみ出て傷口を修復する。

 その時、芹沢あさひの思考が混線した。

 

「────っ!? 助けてってどういうこと……!? ────はるきちゃんっ!!」

 

 突として芹沢あさひは戦闘放棄。一等星の空に向かって飛び上がる。

 小宮果穂は特大バリアを消失。始まりの紋章は光を失って鎮まった。フリーになったリナ姫は、最も近くにいた篠澤広を殺すため駆け出す。すかさず杜野凛世が割って入り相対した。リナ姫は小石を拾って投擲。閃く白刃は投石を切り捨てる────はずだった。

 

 物理法則を無視した軌道変化。投石は杜野凛世の脇腹を打ち抜いて肋骨を折る。

 

「ヅッ゛……!!?」

 

 それはリナ姫の最大能力(きりふだ)。

 狙撃系のダメージは必中となり、不意を打つ現象が確定する。

 是(これ)・異彩を放つ事象の横溢(はみだし)。

 

 小宮果穂はアンブレラブレードをブレードモードに切り換えて、傘の先端からビームを放つ。

 

「どりゃあああああっ!!」

 

 リナ姫の脚部を狙ったビームは膝下に着弾。負傷部位はピンク色の泥となってリア姫は脚部を失い転倒。

 徒歩で回り込んでいた篠澤広が指カメラで光景発動。直前にメクルメで不幸対象を指定。リナ姫とクレーターだらけの地面とビル群を、最奥の断崖絶壁まで吹き飛ばして更地に変えた。

 

「────『Wonder Scale(マカ・プラーナ)』────」

 

 最終能力・空間遡行(じかんそこう)。

 超電磁砲(レールガン)を撃つ直前、篠澤広の光景によって吹き飛ばされたはずのロウヒは────超電磁砲を撃つ直前の立(・)ち(・)位(・)置(・)ま(・)で(・)巻(・)き(・)戻(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

『……っ!?』

 

 既に蓄電済み。タメがない射出。声だけ聴こえる。透明化しているのだ。

 電磁波の光線が篠澤広の胴体を撃ち抜く。────災(・)い(・)が(・)、(・)降(・)り(・)か(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

「────ごぽっ……」

「ひ────広さん……!!」

「っ──! ……臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前────凛世、悪鬼羅刹となりましょう……!!」

 

 篠澤広は吐血。気を失うほどの激痛苦痛大悶絶。全身から筋力という名の気力が抜け落ちていく。底の抜けたバケツのように一瞬で生命が放出されていく感覚を抱く。それに興奮する自分に呆れた。ままならない日常は求めていたが、それはあくまで楽しいことが大前提。死ぬのはさすがに、嫌すぎる。

 

「ふ、ふふ……なん、じゃ、こりゃ……」

 

 微動だにできない仰向けのまま、最後の吐息を使って、一度は言ってみたかったセリフを口にする。

 小宮果穂と藤田父が駆けつける。藤田父は篠澤広のコアを奪って、なけなしの治癒能力を発動。篠澤広の胴体に空いた風穴の周囲が黄色い光に包まれて修復を開始するが、間に合うわけがない。流血過多。まもなく篠澤広は絶命する。

 

「広さん! しっかり!!」

「死ぬな!! 意識を保って……!!」

「────か、かほ……ごめん、ね……まき、こん、で……、────」

「────!? 広さん……だめです……!」

 

 足音。

 篠澤広は朦朧とする意識の中、もうひとりの友を見つけた。

 

「────う、め────」

 

 否、それは人造人間(クローン)。

 

「あたしの名前は、PB(ピービー)だよ、広ちゃん」

 

 小宮果穂は臨戦態勢。

 藤田父は恐怖をこらえながら全力の治癒を続ける。

 PBは、死にかける篠澤広の前に正座すると、もはや上下しない胸にそっと触れた。

 

「────『The Rolling Riceball(お腹が鳴った花咲か爺さん)』────」

 

 それは『枯渇逆転』能力。

 生命尽きる篠澤広の枯渇現象が逆転し、瞬く間に生命(いのち)の熱量があふれだす。藤田父の治癒能力を待つまでもなく、篠澤広の風穴が超抜的な自然治癒で塞がれていく。光彩に色を失い、意識遠のいていた篠澤広は────永眠のまぶたを閉じた直後、まばたきするようにパチッと覚醒の目を開けた。

 

「────……? あれ……わたし、生きてる……なんで?」

「! た、助けて……くれたんですか……?」

「っ!? な、なぜ……!」

 

 篠澤広・小宮果穂・藤田父は動揺する。

 対するPBは何も言わず立ち上がり、海の向こうを見据えた。やがて口を開く。

 

「……ガガンボとの約束だったから。きっと広ちゃんは、ロウヒを見て油断するって。ところでマザーAIは海に飛ばしたんだよね? なら、ようやく一対一で戦えそうだ……もう逃がさないよ、お姉ちゃん……」

 

 PBは海岸に足を運ぶ。

 一方、小宮果穂達の後方では剣戟ががなり散らす。

 

「っ!! り、凛世さん……!!」

 

 そこでは鬼の形相で刀を振るう悪鬼が独り。魔王子とロウヒを相手に死闘を演じていた。1対2であるというのに一切の遅れを取らぬ激闘。肋骨の骨折はどこへやら。肉体を戦闘用に作り替えたとしか思えぬ身体能力と気迫で圧倒。魔王子の拳打を左手で払いながら跳躍、首を股に挟んでゴキリと折りながら旋回、姿見えぬロウヒを足音と気配のみで判断して斬撃、血しぶきと血痕を頼りに追撃を仕掛けて一閃、首から上を払い落とす。背後から迫る結晶剣の変容斬撃を刀で受け止め刀身が真っ二つに折れた瞬間、折れて旋回する刃を握りこんで手のひらから出血、そのまま振り下ろして魔王子の心臓まで射し込む。死に物狂いの肉弾戦。短剣二刀流の構えを取る杜野凛世は魔王子の両肘から下を切り落として縮地。ゼロ距離で肩打を叩き込む。背後からロウヒの超電磁砲。指先からタメ無しの速射。宙返りで回避。硬化物が魔王子の胴体を貫通してコアを破壊した。着地ざまの二刀両断。透明人間の体を三枚おろし。橙色の泥が噴出、それにまぎれてコアが流れ出た。すかさず切っ先を突き立てて破壊する。

 

「────────────────ッ…………フゥ、フゥ……ッッ!!」

 

 五分ほど息をしていなかった。呼吸を忘我(ぼうが)して、ただただひたすら歴史に名高い侍になりきっていた。精根尽き果てると同時、杜野凛世の異能が事切れる。

 すると魔王子とロウヒが、最期の息吹きを発した。

 

「……ああ、これで、ようやく、終われる……ごめんね、君は、殺したんじゃなく、救ったんだ……ありがとう……どうか、これが呪いにならないことを、願うよ────」

「わたくしたちは、何千人もの人を、殺してきましたわ……あなたは、これ以上殺される人を、減らしたのです……どうか、あなたがたが、見事生還することを、心より祈って、おりますわ────」

 

 紫色と橙色の泥人形が落下、跡形もなく地面に満ちる。

 杜野凛世の全身は血まみれ。表情は前髪に隠れていた。

 

          §

 

 アルファはガレキの山から這い上がる。頑張りの紋章のおかげで即死を免れた。小宮果穂は命の恩人である。

 やがて、はるか上空で落下中の郁田はるきを、芹沢あさひが捕まえる光景を目撃。

 

「────助かった……どうやら俺の出る幕は無さそうだな」

 

 郁田はるきの救出任務が無くなったのは嬉しい誤算。

 三つの足音が近づいてくる。ひとりは全帝王ピャーリン。残りふたりは────

 

「個体名は?」

「ムーンベイビー」

「アロガント」

「月の嬰児(みどりご)と華麗(エレガント)なる傲慢の姫君? 皮肉すぎる命名だな。まぁ数秒後には終わる命どもだ。覚えておこう」

 

 ────月村手毬と秦谷美鈴に似た人造人間(クローン)だった。

 1対3。量の上では形勢不利。だが質の上では負けず劣らず。

 

「来いよ。全員仲良く天国に送ってやる」

 

 白線。アルファの視界が転換する。ビル九階の白い壁面に転移。同時、ムーンベイビーの口腔から冷凍光線が放たれた。アルファは壁面を落ちながら駆け抜けて横滑りに逃走。真後ろに光線が着弾、壁面が瞬く間に凍りついて追いかけてくる。

 白線。アルファの眼前にアロガントが出現。互いの腕と腕の激発。双方、落下しながら格闘する。高さ三階ほど自由落下。

 白線。アルファの体が横断歩道の1メートル上に転移。落下の慣性は残っている。秒速1m後に、アルファの肉体は三階分の落下衝撃を受けるだろう。瞬発、アルファは五点着地、思考を挟む余裕を捨てて起立疾走、至近距離(ピャーリン)の気配に回し蹴り。するとムーンベイビーの右腕を砕きながら蹴り飛ばす形になっていた。

 

「ぐっ……!?」

 

 アルファは瞬発思考。全帝王の射程範囲は短い。全帝王の20m付近に別の白線は無かったのか。それともムーンベイビーの近くにわざとアルファを転移させたのか。あるいはムーンベイビーを目の前に転移させて全帝王は自分の身を守ったのか。ふたりの仲は悪いのか。

 

「ピャーリン……!!」

「当たるなよ雑魚が」

 

 アロガントは壁面を砕いて跳躍。全帝王の顔面に蹴りをぶち込もうとするが、白線。アルファの背後にある白線の真上にアロガントを転移させた。アルファの真後ろから傲慢の気配。とっさに身をひねって躱すと、肩口を抉ってアロガントが通り過ぎ、大地爆砕、アスファルトの一部が弾け飛ぶ。

 

「よくもベイビーを……許しませんよ、全帝王……」

「お前ら仲悪いのか仲良しなのかどっちかにしろ!」

 

 思わず突っ込んだアルファは、敵三名がなんだかんだ連携が取れている事実を確認。仲違いを利用して立ち回る戦法は期待しないほうがよさそうだ。

 

 白線。アルファは横断歩道の中心に転移して立っている。前後にムーンベイビーとアロガントが転移。挟撃を受けた。すかさずダブルラリアットを屈んで躱し、足払い。転倒寸前の二名に対し、旋回する両足を開いて双方の脇腹を蹴り飛ばす。

 

 白線。同じ白線上に全帝王が飛んできた。アルファは起き上がりざまに身をひねり、背中を貫く正拳突きを打ち落として顔面殴打を喰らわすと、白線で全帝王の背後にアルファが転移、全帝王の後ろ蹴りを瞬発思考で回避、再び白線が連続。アルファの両側にムーンベイビーとアロガントが転移、拳打の数々を打ち払い捌ききって、肘打ちによる顔面破壊をムーンベイビーにお見舞いする。

 

「────『ツキノカメ(Fold to the Moon)』────」

 

 空間屈折。新聞紙を折り畳めば月面に到着する距離と同等。カメのような速度でも、ただ折り紙を畳むだけで青天井にたどり着けてしまう才能の具現化。はらりとページをめくるように、空間一帯がめくられていく。

 腹部から二次元的に手折られたアルファは瞬発思考、アロガントの表情から────それが幻覚であると見抜く。だが見抜いたところで脱出法が不明。ムーンベイビーや全帝王ともども折り畳まれていく。このまま地面とキスをして畳まれて封じられてしまうのか。

 

 白線。全帝王は転移して空間屈折から離脱した。

 首元から折り畳まれていくムーンベイビーは焦った表情でアロガントを睨む。すかさずアルファが叫んだ。

 

「ムーンベイビー! 一時共闘だ!! 異能を教えろ!」

「────!! っ……!?」

 

 地面とのキスまで残り三秒。

 

「そうか諦めるか!」

「──ッ! ────『Luna say mayb(月の鼻唄)』────!!」

 

 ムーンベイビーは肉体を液化。空間を手折るページが濡れて破けた。直角に折れる空間からゴロンと転がってムーンベイビーは離脱する。地面とのキスまで残り一秒。破けたページに、アルファは飛び込んだ。前転。振り返る。ぱたん、と閉じられた空間は突如────波濤(はとう)となって大通りを濁流した。

 

 文字通りの大津波(わだつみ)。引き波のない圧砕力を有する大洪水。地面の傾斜に沿って大水が道路を枝分かれしていき、やがて海に合流する。途中の道路標識に掴まっていたアルファは、濁流の水位が下がることに合わせて徐々に地面に足が着く。

 

「────みんな、大丈夫ですか!?」

「うん! みんないるよ! 果穂ちゃん!」

 

 アルファの後方から小宮果穂と芹沢あさひの掛け合いが聞こえる。

 振り返ると、特大のバリアを張って大水を防いでいた。

 

(……空間屈折も大水も、すべて実体の伴った幻覚……有幻覚(ゆうげんかく)ってところか……アロガントの表情を見るに、現実的ではない空想ばかりしていたからな……空想具現化……文字通り、なんでもできる異能ってところか。──いや最強か?)

 

 アルファはふらつきながら小宮果穂一行と合流。

 

「! アルファさん……!」

「油断するな。転移持ち。液化持ち。万能持ちが残ってる。ほかは?」

「……! えっと、PBっていう治癒持ちが広さんを助けてくれて、リナ姫っていう能力いっぱいの人がいて……!」

 

 杜野凛世は、藤田父の治癒能力によって、骨折した肋骨をじわじわと再生中。

 郁田はるきは四つん這いで動けそうにない。あれだけの高所から落下したのだ。腰が抜けたのだろう。

 

 篠澤広は胸部と腹部の中間あたりの衣服が丸く破れて血まみれ、口に吐血の痕(あと)がある。明らかに死にかけた様子だが、なんとか生き残っている。

 

「郁田さん、能力の準備を」

「……っ!」

「あさひ先輩。俺ごと隕石で敵をぶちのめす用意を」

「!? ──! そういうことか! 分かった……!」芹沢あさひは、篠澤広を一瞥(いちべつ)して納得する。

「果穂。自他の背後に気をつけろ。……後ろは任せた」

「────! はいっ……!!」

 

 アルファは、誰もいない通りを見据えて格闘の構えを取る。

 白線。全帝王とアロガントが順に、ビルの屋上から転移してきた。白線の射程は視界内か。ムーンベイビーの姿が見えない。液化で隠れているのか、海まで流されたか。周辺の水たまりの位置を瞬間記憶。2対1の肉弾戦。それではアルファは殺せない。

 ならばと空間屈折。アロガントは再び空間をめくり始める。

 

「────『夢花日常過鋼(Chaos Tide)』────」

 

 リッチャーの黄色いコアを用いて、アルファは異能を発動する。

 それは悪性泥化(マッドギアス)。対象の悪性に比して魂・精神・肉体の三要素の泥化(でいか)症状が進行していく。悪性の基準は術者本人の観念次第。アルファは寛容が過ぎるため、泥化による他人の廃人化や死亡は原則として発生し得ない。ただし独りだけ生き残った罪悪感から、術者本人の完全泥化は約五分で完了する。すなわち異能発動から約9秒で、アルファの心身は完全に泥として溶け落ち、残り291(憎恚)秒の経過を以て、魂は完全に泥となり溶け砕かれる。

 

「なんでもできる異能なら、同じ能力は使うべきじゃなかったな」

「……っ!?」

 

 アルファの肉体泥化。一秒で全身の肌が泥化して焼け落ちる。泥によって濡れ破れて燃え盛るページ。空間屈折から脱したアルファは異能解除。全身が地獄の業火(どろ)で炙(あぶ)られるような激痛の中、歯を食いしばって乾坤一擲の顔面殴打。アロガントの首を一回転させた。左逆手でナイフを引き抜き胸元に刺突、右掌底でナイフを押し込む。切っ先がコアに激突。掌底から手刀の形に変えたアルファの一撃が、アロガントの体内に突入。圧倒的な膂力(パワー)で背骨と背中を貫き、コアを体外に突き飛ばした。その代わり余力を残さぬ全力攻撃の敢行だった。おかげでアルファは次の瞬間後まで、一切の回避が不可能となる。

 

「っ……!? よくも、アロガントをぉおおお────!!」

 

 遠方の水溜りからムーンベイビーが出現。液体となっていた肉体を固形化して冷凍光線を放つ。アロガントが背中から倒れると同時、膝を屈したアルファの眼前に冷凍光線が差し迫る。回避できない。

 

「とりゃあーーー!!」

 

 直前、小宮果穂の雄叫び。アルファの頬にアンブレラブレードが掠る。バリア展開。冷凍光線を防いだ。アルファは足元の小石を拾って振り返る。全帝王ピャーリンの横顔を確認。視線の先を探すまでもない。「雄雄雄ッッ!!」雄叫びを上げて全力投擲。投石は小宮果穂の頬を掠って飛んでいく。

 

 白線。全帝王は杜野凛世の背後に転移。治癒中で無防備な背中を貫かんと拳を振るう間際、眼前に迫る投擲物。それが小石だと認識した瞬間、左目を潰されて衝撃、頭部がのけぞる。次の瞬間、杜野凛世は振り返りつつ居合い切り。高速の抜刀術で全帝王を逆袈裟斬り。肉体を引き裂きながら、体内のコアが“パリン”と音を立てて両断された。

 

「ああ……ライアー……いま逝く、ね……」

 

「────『光景&メクルメ』────」

 

 篠澤広は指カメラにムーンベイビーを収めてビル壁面に一瞬で叩きつける。

 天高く舞い上がっていた芹沢あさひの手元には鉄パイプ。地球そのものを目印として急降下。高速の突撃。

 

「切り捨てゴメンっすぅううううう────!!」

 

 激突。鉄パイプの先端がムーンベイビーの胸部を貫き、体内のコアを一撃で破壊した。芹沢あさひはすかさず反対方向に引力を発生させて、危うく自重により首などの関節が折れそうになりながら急減速。地面との激突を避ける。異能による無重力運転は、やはり全身に負担がかかる。

 

「……ベイ、ちゃん……」

「……アロ、ガント……」

 

 全帝王ピャーリンは白い泥に、ムーンベイビーは青い泥に、アロガントは紺色の泥に。

 それぞれ溶けて、役目を終える。

 

 アルファは息せき切って立ち上がり、まだ戦いは終わっていないと歩き出す。

 

「郁田さん! 一秒!! 全員、1足す1は?!」

「────!」

 

 郁田はるきは異能発動。2だよ(広)2!(あさひ)2……(凛世)2です!(果穂)2だけど……(郁田)2かな(リナ姫)なんで急にそんなことをきっと何か考えがまだ敵は残っているどこにいるこの距離で不意打ちは赤毛の子かな一秒経過

 

 アルファと芹沢あさひと篠澤広は同時に動いていた。回(・)答(・)と(・)な(・)る(・)『(・)2(・)』(・)を(・)思(・)考(・)し(・)た(・)者(・)が(・)一(・)名(・)多(・)い(・)。思考混線によってリナ姫の位置を特定。芹沢あさひは小宮果穂の衣服に付けた星マークに引っ張られて高速移動。小宮果穂の体を抱きかかえて一等星の空に向かって飛び上がり、必中ゆえ追尾してくる投石から逃げ続ける。篠澤広は投石が飛んできた方向に振り向いて物陰に隠れるリナ姫を発見、指カメラでビル壁面に一瞬で叩きつけた。すかさずアルファは全力疾走。芹沢あさひが使った鉄パイプが経路上にあったため拾い上げ投擲。投槍の要領で百発百中。リナ姫の胸部を貫いてコアを破壊した。異能が途切れて不意打ちの必中投石が落下を始める。

 

「……そっか……やっと……きみたち、ごめんな、さい……ありが、とう────」

 

 リナ姫はピンク色の液体となって崩れ落ちた。

 

 芹沢あさひは急降下、地面激突前に引力先を変更して急上昇しようとすることで一瞬無重力に近い状態となるため、その間際に小宮果穂を地面に下ろす。あちこちに引っ張ってもらい、無軌道にふわふわと浮かぶ芹沢あさひの体。負担がかかるというのに、半ば引力で遊んでもいる。

 一方のアルファは海岸沿いを見つめていた。人影が立っている。偽・花海佑芽(PB)だ。よくよく見れば沖合から泳いでくる人影も見える。マザーAIだ。

 

 小宮果穂は投げた傘を回収。苦しそうな顔で肩を上下させながら戻ってくる。藤田父は治癒能力を使い続けているが、杜野凛世の肋骨が完全に治る気配は見られない。芹沢あさひは息切れで着地。郁田はるきは立ち上がるもふらついている。篠澤広は女の子座りで体を休めていた。

 これから決戦だというのに、全員の疲労は限界に近い。が、もとよりアルファはひとりで戦うつもりだった。

 

「全員、効率的に休め。あいつら以外の敵がいるかもしれない。俺は一人で向かう。ピンチそうだったら、援護は隕石のみで充分。ほかは周辺の警戒を怠るな。ここは狙撃されやすい」

 

 アルファは広間の段差を降りて砂浜を歩く。

 

「個体名は?」

「……パーフェクトボディ。略してPBだよ、プロデューサーさん」

(俺を知ってるってことは、俺と出会ってすぐ、細胞と記憶をコピペされて……)「敵意があるようでないな。殺人衝動を“お姉ちゃんと競いたい衝動”で押さえつけてんのか、すごいな……いやなんだそれ?」

「お姉ちゃんと戦うほうが重要だもん。……だから安心して。もうお姉ちゃんに、人殺しの罪は重ねさせない……」

「手伝おうか?」

「その必要はない。あなたを殺してから、お姉ちゃんを殺すことになるから」

 

 どういう意味か。

 光景によって水平線まで飛ばされたマザーAIが、ついに海岸線まで泳いで戻ってくる。打ち寄せる波をものともせず、ずぶ濡れの体で一歩一歩、機械的に、鈍重に、殺意の相貌(そうぼう)を以て上がってくる。

 

「────何をしているの、PB。権限発動。侵入者を抹殺せよ」

 

 PBは振り返る。格闘戦の構え。

 敵意はないが、アルファに殺意を向ける。

 

「なるほど。お姉ちゃんの命令には逆らえないわけか」

「それだけじゃない。正直ワクワクしてる自分がいる」

「やっぱ戦闘民族じゃねぇか……いいぜ、闘(や)ろう」

 

 PBのとなりにマザーAIが立つ。

 2対1。

 潮風が吹く。泥に焼けた肌が灼(や)けるように激痛(ひりつく)。

 

 三人は同時に駆け出した。

 

「やれ!!」

 

 アルファの指示を受けて、芹沢あさひは隕石を落とさんと天上を指さす。

 その突発的な行動に目を見開いた小宮果穂は、とっさに駆け出してアンブレラブレードを展開。背後に藤田父と杜野凛世を入れてバリアを張る。篠澤広と郁田はるき、芹沢あさひも自発的にバリアの中へ飛び込んだ。

 

 青空に炯々(あかあか)と、一条の終滅(ひかり)が尾を引いて堕ちゆく。

 

 激発。

 アルファはPBの拳を打ち払い、マザーAIの蹴りを跳び躱し、首狙いの手刀一閃、PBはのけぞって躱す。アルファは手刀から瞬時に切り替えた裏拳の突き出し。それをマザーAIは高速演算で回避軌道を算出、完璧に躱す。

 

「────『Fighting My Way(約束された勝利の仮面)』────」

「────『The Rolling Riceball(お腹が鳴った花咲か爺さん)』────」

 

 隕石着弾一秒前。

 姉妹は隕石激突に備えて、装甲防御と枯渇蘇生を試みる。

 

 隕石着弾、超高熱の衝撃波が都市全土を襲う────

 ガラス化する砂浜、干上がる海岸線沿いの海水、埋没して形成されるクレーター、地震激震大津波。

 爆風によって順々にめくれ上がるタイル、花壇に電灯にベンチに、ありとあらゆるものが一瞬で彼方に吹き飛ばされていく。

 倒壊するビル群。なおも衝撃波の蹂躙は鳴り止まない。轟音に次ぐ連鎖的な爆発音。どこかの施設が爆発した模様。三方の岩山にて土砂崩れが発生。全てが破壊の限りを尽くして、絶望的な終焉を迎えていく。

 

 ────黄金の風が吹く。

 都市を覆い尽くす白煙と黒煙が晴れていく。

 

 ガラスのクレーターの上には、驚くべきことに無傷のアルファが仁王立ちをかましていた。

 篠澤広が解説する。

 

「わたしの『メクルメ』で隕石衝突の最中、不幸対象をPBからマザーAIに切り替えた……逆の順番だったらマザーAIを蘇生されて殺しきれなかった……PBの性格上、彼女は必ず姉を庇う。ただしマザーAIは別。ほかのクローンと比べて性格が違いすぎる。妹を庇うことは絶対にしない。だから先にPBを殺す必要があった。枯渇逆転によるマザーAIの蘇生を防ぐために……そ(・)れ(・)こ(・)そ(・)が(・)P(・)B(・)の(・)狙(・)い(・)。この順番でないとマ(・)ザ(・)ー(・)A(・)I(・)を(・)倒(・)す(・)手(・)段(・)が(・)無(・)か(・)っ(・)た(・)……だからこそ、PBは、わたしを……っ────い、生きかえ、ら、せた……────」

 

 篠澤広の目元から、脈絡なくポロポロと、涙があふれでて落ちていく。

 嗚咽。苦しさで胸が破裂しそう。死んでしまいそう。現に死にかけていた。

 

 アルファは────灼熱の溜(た)め息を吐き出す。

 喉が灼けるように熱い。これほどまでに非業(ひごう)な出来事があるだろうか。否、山のようにある。さんざん見てきた。厭(いや)というほど見てきた。人類に絶望するほど見てきた。

 

 だからこそ。

 せめて彼我の絶望の先に救いあれと……かつて幼き少年は、泥にまみれきった魂に誓ったのだ。

 

「なれたかな。み(・)ん(・)な(・)の聖雄(ヒーロー)に……なれてたら、いいんだが……──」

 

 敵も味方も善も悪も関係ない。全ての心を援(たす)ける。それが真のヒーローなれば。

 アルファは深呼吸。心機一転。勝って兜の緒を引き締めよ。

 振り返る。小宮果穂たちの前に戻り、一言。

 

「────帰るぞ。バカどもが……! でも正直、助かった。ありがとよ……」

 

          §

 

 帰りの電車。ガタンゴトンと音が揺れる。

 夕焼けに燃える誰もいない車両。長い座席には、カラフルに泥だらけで血だらけの郁田はるき・芹沢あさひ・小宮果穂・篠澤広・杜野凛世・藤田父が座っていた。彼らの目の前にはアルファが立っており、一本の紐の下に五円玉を結んでぶら下げている。

 

「さて、これからお前らに催眠術を掛ける。今回の出来事は夢として扱い、記憶を消す。いいな? 異論は許さない」

『────っッ!!?』

「藤田さんは目をつむってください。さすがに長期間あそこに留まっていては、消せるものも消せないので。色々と背負って生きてくださいね」

「……! わ、分かった……当然、そのつもりだよ……忘れては、いけないことだし……」

 

 しかしその一方で無垢なアイドル達は、あまりにも非現実的なことに巻き込まれすぎた。

 だがそれも数時間程度なら、綺麗さっぱり消せる。

 無論、たまに悪夢として見ることはあるだろう。殺し合いの恐怖。誰かの命を絶った負い目。それでも知らぬが仏ということわざがある。必要な罪の意識と無用な良心の呵責は区別するべきだ。藤田父は前者の向きが強いが、彼女達は後者の向きが強い。

 

 なにより背負いたければ、どのみち悪夢という形で背負うことになる。

 大いに悩めばいい。大いに苦しめばいい。だが必要以上に記憶を背負う意義は薄い。いたずらに苦しめるだけの記憶と、必要な分だけ苦しむ悪夢なら、後者のほうが理にかなっている。

 

「悔しかったら催眠術に逆らってみせろ。背負いたければ眠らずに抗え。勝てば官軍というように、この世界は勝者が正義だ。お前らが勝てばお前らが正義なのだろうよ。ならば戦(や)ろうぜ。────はぁい眠たくなぁる眠たくなぁる……」

 

 最初から、電車の揺れに合わせて揺れていた五円玉。

 眠たくなぁる、という呪文を一言つぶやく時、すでに一行は催眠術に掛かっていた。

 

「今回のびっくりどっきりな出来事は、実は全部、夢でしたぁ……俺をストーカーした罪悪感から生じた悪夢でぇす……────はい、おやすみなさい!」

 

 こくん。と、少女(アイドル)達は一斉にうなだれて、健やかな寝息を立て始めた。うそのようにすやすやと眠り始めている。

 藤田父は苦笑い。

 

「で、でも……服とか、血が付いてるし……カラフルなペンキをかぶったみたいに泥だらけで……起きても、すぐに夢じゃないって思い出しちゃうんじゃ……?」

「そこで藤田さんの治癒能力ですよ。彼女たちを清潔にしてあげてください」

「え。でも……私の治癒は、かすり傷でも数時間かかって……!」

「あさひ先輩からワッペンを取って、あなたの潜在能力を開放すればいいでしょう。それでさっさとみんなの傷と汚れを癒し、できれば心の傷も浄化してやってください。──で、それが終われば全てのコアを俺が回収して破壊、処理します」

「……処理?」

「すでにうちの社員が事後処理に当たっています。政府の言い分しだいでは、あの都市は綺麗さっぱり消えてしまうでしょうね。その代わり悪の組織も壊滅しますよ。すでに風騎町の研究所を包囲して研究者たちを捕縛、政府に引き渡す準備が済んでいるとの報告を受けました。つまり────もう安全ですよ! スポンサーの極月学園がどう出るかは知りませんがね!」

「……っっ!!? き、君はいったい……本当に、何者なんだ……?」

 

 アルファは、にかっと微笑んで答えた。

 

「コードネーム・アルファ。ヒーロー見習いのアイドル兼、今はプロデューサーもやっています!」

 

          §

 







あとがき



 名前:マザーAI 能力名:『Fighting My Way(約束された勝利の仮面)』 能力:自己の全身装甲化。最高出力2000%。 余談:彼女は端末に過ぎない。本体は別に存在する上、能力も異なる。

 本体能力(一部抜粋):破壊光線。ダメージ削減装甲。装甲による攻撃時、猛毒系ダメージ付与。装甲被弾時、火傷系ダメージを付与。破壊現象の概念操作(専ら死亡概念を操作して不死身と化す)。標的固定追尾(常時ロックオン機能)。強敵探知。標的術技吸収→我流昇華(要は写輪眼)。自他の戦闘行動における最適解を(口頭・アイコンタクト等の物理的指示を介さず)超誘導する因果律操作系の指揮力。……などなど。

 名前:ムーンベイビー 能力名:『Luna say mayb(月の鼻唄)』 能力:自己の溶解(液化)・凝固(固化)。※その他の能力が増える伸びしろ有り。成長性B。

 名前:リッチャー 能力名:『世界一可愛い私(Cupid in The World)』 能力:他者の視線を自己に釘付けにした上、対象の視界内における全生物の姿を“リッチャーの姿に改ざん”する。

 名前:ライアー 能力名:『飼い慣らされた虚偽の超次元(Violet-summer-S・clean-Cloud)』 能力:不動姿勢時のみ空間粒子を操作して幻覚を作成可能。徒歩移動時のみ紫色の死霊の大群を操作可能。疾走移動時のみ紫色の雷と化すが、雷化に肉体が耐え切れず自壊する。 余談:本能力は“虚偽”であり、真の能力『Tame-Lie-One-Step』が別にあると考えられている。あるいは『飼い慣らされた虚偽の超次元(Violet-summer-S・clean-Cloud)』そのものが虚実を織り交ぜた能力なのか。真相は不明である。

 名前:全帝王ピャーリン 能力名:『白線』 能力:対象1名を視界内における“白い線の上”に飛ばす。飛ばす速度は瞬間的から(音速的を飛ばして)高速的まで調整可能。 余談:音速的、そして中速的から低速的は努力中だった。もし可能となれば無敵の能力となる。

 名前:ガガンボ 能力名:『光景(Flash Landmark)』 能力:視界内の光景に存在する全物質を“最も奥行きのある場所”まで吹き飛ばす。それは視たものすべてを地平線・水平線の彼方まで吹き飛ばす無差別攻撃。故に応用技として、両手の親指と人差し指のつま先をつなげて、いわゆる“カメラ”の写真を切るような形を作り、視界範囲内を絞ることで──攻撃箇所の限定・吹き飛ばす速度の飛躍的な向上──などといった、能力の改善に成功している。

 名前:ロウヒロウヒ(浪費する老婢) 能力名:『Wonder Scale(マカ・プラーナ)』 能力:森林創生・暴風制御・瞬間移動・透明化・先鋭疾駆・伝播・熱線・精神干渉無効化・空間遡行などといった多種多様の能力を有しているが、それは全て“超電磁砲(レールガン)”能力の副産物に過ぎない。なおロウヒは多すぎる能力の半分も使いこなせていない模様。

 名前:PB(パーフェクトボディ) 能力名:『The Rolling Riceball(お腹が鳴った花咲か爺さん)』 能力:枯渇遡行。

 名前:リナ姫 能力名:『clumsy trick(ドジっ子ストーム)』 能力:欲しい能力をいくらでも獲得できる代わり、その全てが中途半端な効果となる。束縛まがいの重圧・盲目まがいの砂埃発生(砂粒による実際の目潰しは運次第)・相互視線固定(互いに背中を見せられない)・地盤沈下まがいの草結び。ただし狙撃系ダメージは必中効果となり、不意を打つ事象が確定する。是(これ)・横溢異彩(はみだしヴァンダリズム)の極意的奥義。

 名前:魔王子/光姫 能力名:『Fluorite(メタモル/フォーゼ)』→『Fluorite(変わりゆく君の名を)』 能力:結晶剣の創造・結晶外殻・変容・未来造形(運命力次第で未来予知の内容を確定or確変させる) 余談:心象風景の自己分裂によって魔王子と光姫は別個体として分離を果たす。魔王子の別側面として覚醒した光姫は、殺戮マシーンと化しているサイキック・クローン達の問題を解決するべく生贄達の味方として奮戦したが、速やかにマザーAIによって“処理”された。

 名前:ステラサウルス 能力名:『小さな野望(インフェルノ)』 能力:地獄の概念を顕現させるほか、分析の魔眼という細胞に紐付けられた天性の異能を有する。応用技として、地獄の業火を制御して放つ業炎の道(ヘルフレイムロード)、鉄囲山外界の暗黒風を疑似再現する僧佉の風(ヘルストームブレイク)などといった必殺技を開発済み。

 名前:アロガント 能力名:『ツキノカメ(Fold to the Moon)』 能力:月光粒子による空想再現。それによる潮汐操作・波濤召喚・わだつみの化身外殻など、主に海関連の応用技を好む。本を読んだ直後であれば本に関連する応用技を使うなど、思いつきでなんでも再現する。ただし怠惰かつ傲慢な一面があるのか、同じ技を繰り返す悪癖が存在する。



 名前:小宮果穂 能力名:『ハナマルバッジ(Five Crest)』 能力:五紋章(ワッペン)。始まりの紋章は寿命削減の代わり潜在能力の最大値を上限突破する。勇気の紋章はアンブレラブレードの召喚。傘を閉じれば剣戟ビーム、傘を開けば大盾バリア。知恵の紋章は最適な判断を促す。頑張りの紋章は一度だけ瀕死に耐える。親愛の紋章は他者の潜在能力を最大値まで解放する。

 名前:芹沢あさひ 能力名:『星をめざして(Believe in Gravity)』 能力:目印の星を刻むと、そこへ自分に対する引力が発生する。出力を調整すれば引力の強弱を操作・設定することが可能。なお、初めから星の概念を有する存在(惑星・恒星・隕石・街中の星型オブジェクト等)は、本体が目にした時点で引力の設定が可能となる。 余談:やろうと思えば流星群も落とせるようだが、そんなことをすれば地球上から生命体が死に絶えてしまうため「絶対にやらないっす」とは本人の弁。

 名前:篠澤広 能力名:『光景』『メクルメ(Vinayaka`Consort)』 能力:『光景』の能力詳細は上記の【ガガンボ】を参照。……メクルメの能力発動中、本体と一名の対象に災いを引き寄せる代わり、その他の人々の災いを鎮める。つまり強引に歓喜なるハッピーエンドを迎えさせる。自らと災いの運命を共にする相棒には負い目が生じるものの、だからこそ共に歩もうとプロポーズされれば吹っ切れる。そんなワクワクドキドキを引き寄せる感動(ラブラブ)量産系超能力。……として期待されていたが、もっぱら相棒枠に敵を指定しなければ味方陣営の攻撃が命中しない(攻撃が災い判定となって鎮められてしまう=仲間の攻撃が敵に命中しない)ため、戦闘中に秒間数回以上のオン・オフを繰り返して戦う必要性が生じる。集団戦闘においては(大規模戦闘であればあるほど)非常に不便な能力となるが、篠澤広はその天才的な頭脳によって、本能力を完璧に使いこなすことができている。 余談:「正直、脳がすごく疲れる……」「体より脳が先に疲れるのは、初めての経験かも知れない……」「ふふ。ままならない、ね……?」とは本人の弁。

 名前:杜野凛世 能力名:『常咲の庭(The Ultimate DUO)』 能力:本体周辺の範囲内における全存在(有機物・無機物を問わず)の潜在能力(ポテンシャル)と心身調子(コンディション)を最高潮(MAX)にする。 余談:彼我の才能限界合戦で、言い訳のしようもない公平な勝敗を決する、実にアイドル優等生らしい能力。自身の究極的な限界を痛感させられるため、実はすごく怖い能力である。相手の精神的ダメージは計り知れない。特に才能面で苦しんでいる存在(マザーAIなど)には特攻となる。

 名前:郁田はるき 能力名:『夢模様キャンバス(I-KUTA MAGURA)』 能力:イークタ・マグラ。幻夢王冠・夢想回路すなわち互いの思考が強制的に混ざり合う互いに今の思考が自分のものか他者のものか逐一自分の心に従って確認し他者の思考を分析して読み合い合戦を押し付けるくせに本体の脳内が常時ごちゃごちゃとしているため分析通りに行動しないバグが発生するたとえば右ストレートでぶっとばすと思っていたら左ストレートが炸裂するなど思考通りにいかないことが多いそのため本人も対象も混乱しまくるさながら五歳児ドリームワールド余談:せめて句読点(、。)や空白(『 』)くらいは付けてほしいと思考しているのは本人と周囲の弁ただしアルファはこのままでも構わないらしいどういうことだ「たとえばドラゴン○ールで言うところの身勝手の極意的な反射技術があれば思考不要で行動できます」とのこと頭おかしい



 名前:アルファ 能力名:『夢花日常過鋼(Chaos Tide)』 能力:悪性を泥に変えて無に帰す、断罪と殺戮の獣性権能。ただし本人の“悪性を赦し許容する寛容性”と“世界の罪悪に対する自罰性”がアダとなり、もっぱら自傷行為でしか使えないハズレ能力。 余談:夢模様・ハナマル・サンデー・常咲・過純性・ダマスカスが由来。なお『ACT2』に進化することがあるなら、おそらく能力名に誰ソ彼・千夜・見鳥・サイダーなどといった曲名の一部が混ざる。

 諧謔(かいぎゃく):パンドラの箱のようなものを開けて、世界に悪性を解き放ち、結果、世界中に悪人が生まれてしまった神話があるとするなら。たとえ五歳児であっても、何も知らなかったとしても、ただ家に帰りたい一心で箱を開けてしまった責任は、死ぬほど重たい。死にたくなるほど重たい。だからこそ、あれから成長し、幼き頃の極罪に気づいた少年は、箱を開けた責任を取るべく、世界中の罪業を集めて箱に戻す作業を繰り返す。この世全ての悪を鎮めるため、終わりなき贖罪(しょくざい)の旅を、誰に言われたわけでもなく自らに課して、それはもはや人ではない生を歩み続ける。なぜなら彼は、優しすぎる世界を壊してしまった救世主(ヒーロー)なのだから。つまり彼は過去に悪をばらまき、今それを回収している。明らかにマッチポンプだ。故に傍(はた)から見て、彼が悪を挫き弱きを助けたからといって、それを理由に善行を褒め称えることは、少年にとって非常に理不尽なものに感じる。そのため少年は、自らのヒーロー活動に対する賞賛が極めて苦手である。そして、それもまた自分に対する罰であると受け入れている。




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