【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
休日の朝方。アルファ邸リビング。
ソファの背もたれに深く身を預けるアルファは、膝の上にノートパソコンを乗せて作業中であり、高速でキーボードを打ち続けている。やがて予定より五分早く、玄関口から鍵の開く音が響き、小宮果穂が遊びに来た。
「あーるふぁさーん!」
「……?」
妙に間延びした調子の呼びかけ。気分が良いことは一聴しただけで分かる。何があったのだろうかと一瞬考察するアルファだが、どうせ何を言わずとも報告してくるだろうと思い、作業しながら返答する。
「おはよー」
「はい! おはようございますっ!」
にこにこと笑みを絶やさない小宮果穂は、むふむふと嬉し笑いがこぼれており、ソファの後ろに回る。作業に集中しているアルファの後頭部を凝視。シンプルな黒髪は寝癖で少し跳ねており、珍しくフケが散見される。おそらく徹夜で作業しており、シャワーすら浴びず、ソファの上で眠ったに違いない。
「アルファさん。フケが付いてますよ~?」
「あぁ」
淡白な相づち。仕事中なのだから仕方ないのかもしれないが、小宮果穂はそわそわとし始める。そして閃いた。小走りして洗面所に向かい、引き出しの中から
「……っ!?」
ぞぞぞ、と、こそばゆい感触を覚えたアルファは驚いて振り返り、櫛を目にして状況を理解。小宮果穂を見上げて目と目が合う。真顔の少女はまあるい目をパチパチとさせていた。一秒二秒の沈黙のあと、アルファは何も言わず視線を画面に戻す。
小宮果穂は、頭頂からなだらかに髪を
沈黙の格闘。まだ細かいフケが残っているため、部分的に髪を梳く。全体を梳くより一部を梳く方がくすぐったさも少ないのか、アルファは比較的おとなしくなる。やがて黒髪は清潔となり、小宮果穂は満足。そのまま身を倒し、背もたれに腹を寝かせて、アルファの背後に抱きついた。
アルファは首元と背中に、ぬくもりと柔らかさを感じる。首と首の体温が共有され、背中には豊満な感触。
「……なんだよ」
「えへへ……」
抑えた声でむふむふと微笑。柔らかく包み込むような
「なんかイイことでもあったか?」
「…………、……──」
それは当然。小宮果穂は内心で思ったことを、実際に口に出してみる。
「はい! 今が、その“いいこと”ですっ!」
アルファは表情を変えないようにしているが、わずかに口角が糸を引いて微かに釣り上がる。まったく天真爛漫な少女は照れ臭いことを素直に言い切るものだから困ったものだ。
「アルファさんと出会えたこともいいことです! 今日もまた、ここに遊びに来れたこともいいことだし……アルファさんの髪をきれいにできたことも、いいことですっ!」
「っ……そうか……。……なんだ? 今日はどうしたんだ。いつにも増して上機嫌じゃないか」
「そうですか~?」
また間延びしたような口調。
「あぁ。というより……」
対応が変わった。そのように見受けられる。
(なんというか、女を出してきたというか……女らしくなったというか……女になったというか……? だが、どうも無意識っぽいな。俺の愛人たちと出会ったことで、なんか触発されたか……)
それ自体は特に悪いことではない。ただなんとなく甘い雰囲気が漂ってきそうな予感。甘味に合う何かが欲しくなってくる。端的に言えば、香り良く風味のある、弱い酸味が欲しい。今の状況をスイカで例えるなら、それにしおらしさを掛けて甘さを引き立たせる塩味があっても良いだろう。さて、小宮果穂はどちらに転ぶのか。
「お仕事、おじゃましてませんか?」
小宮果穂は懸念する。青年の横顔を流し目で見つめながら、近い吐息と甘えるような声色を漏らす。
「問題ない。好きにしろ」
またもや淡白な返事。いつものことだが、なぜだか今日は気にしてしまう。いつもは気にしなかったのに、これからは気にしたくなってしまう。小宮果穂は視線を落とす。虚空や床を見つめていても面白くない。パソコン画面を見てみるが、何をしているのか全く分からない。ボランティアで書類の作成や整理をしていることはなんとなく見て取れたが、アラビア文字の羅列はちんぷんかんぷんだ。
「──……ヒーロー番組は見ないのか」
ふいにアルファが問いかける。
「……──今は、こうしていたいです」
小宮果穂は犬か猫のように、アルファの頭に髪をこすりつけた。声を抑えた笑い声。今度はほっぺにほっぺを優しくくっつけてもっちりもちもち。
「
「えへへぇ……!」
さすがのアルファも作業中断。片手の操作でファイルを保存しながら、もう片手を持ち上げて小宮果穂の頭を撫でる。髪に触れるか触れないかの繊細さで、くしけずるように手を這わせる。
やがて声を抑えた笑い声は押し殺しきれなくなり、床を蹴って突撃。密着力を強めた。背もたれが前後に大きく揺れる。
「もっと撫でてくださーい!」
ならばと力強くゴシゴシと撫で回す。
頭をグルグルとしごき回される小宮果穂は満面の笑み。青年の首を
力強い抱擁を受けたアルファは、寝癖で跳ねた赤毛をつまんでは引っ張り、いじくりまわして、指のつま先で弾いては遊び回す。
かくして少年少女のじゃれあいは、日が暮れるまで続いていった。
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