※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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sSR【ICF開催!! 百獣の王の翼を羽ばたかせて】初星学園〔100×283〕

 

 第13週・一日目。

 夏前の大型イベント『ICF』(アイドルコラボフェスティバル)開催当日。

 

 昼下がりの初星学園・野外ステージ。

 本番数分前。忙しない舞台裏では、アイドル科のアイドル候補生達と、283のアイドル達が出番を待っていた。

 見守るプロデューサー諸兄とスタッフ達。やがて学園プロデューサーも担(・)当(・)ア(・)イ(・)ド(・)ル(・)1(・)2(・)名(・)を送り出す。

 

 花海咲季・月村手毬・藤田ことね・花海佑芽・篠澤広・倉本千奈。

 葛城リーリヤ・紫雲清夏・姫崎莉波・有村麻央・十王星南・秦谷美鈴。

 

 どうやら賀陽燐羽は不参加のようす。いつものことである。

 

     ♪~100×初星学園×283`初~♪

 

 100プロダクションのプロアイドルと、アイドル科のアイドル候補生による全体ライブ。

 それも二番に入る瞬間、283プロデューサーは担当アイドル28名を送り出した。

 

 283アイドル達も混ざって『初』を歌い踊る。

 今回の主役は初星学園なのだ。それを盛り上げるために『初』の二番を覚えてきた。

 

 一曲目が大盛り上がりで終わる。掴みは完璧。

 

     ♪~283×100`星の声~♪

 

 次はゲストである283のために、100のプロアイドルがバックコーラスとバックダンサーを務める。

 なおアイドル候補生は体力が持たないため舞台袖に戻り、曲が終わるまで小休憩。ただし曲の順しだいでは、すぐにステージへ戻る必要がある。すでに篠澤広はダウン気味だが、花海姉妹ふたりがかりによる“アルファ直伝マッサージ”で高速の体力回復を促していた。

 

 それを見守る学園プロデューサーは、となりに立つあさり先生に確認を促す。

 

「あさり先生。七曲目でステージに上がります。よろしいですね?」

「はい。ちゃあんと分かっていますよ、プロデューサーくん!」

 

 あさり先生は深呼吸。調子を整える。

 

     ♪~never神MIX`鸚・哥・妖・精~♪

 

「ハローハロー」

『……!!』

 

 その時、ふたりの視界端から、青髪のプロデューサーがひょっこりと現れた。

 満面の笑みで手を振ってくる。どこかおどけているようすだ。

 

「ご同輩……ここは関(・)係(・)者(・)以(・)外(・)立(・)ち(・)入(・)り(・)禁(・)止(・)のはずですが?」

「ぷ、プロデューサーくん! そんな、突き放すような……!」

「おっとあさり先生。今のは先輩の冗(・)談(・)なので、お気になさらず」

「……そんなに分かりにくかったでしょうか……」

「えっ。じ、冗談だったんですか……?! ご、ごめんなさい、プロデューサーくん……! だって君、真顔で語気強めに言うものだから……ちょっと分かりにくかったでーすっ! 反省してください! もしアルファくんじゃなかったら、理解してくれなくて傷ついてましたよ!」

「ふはは! ほんとそれ!」

「すみません……──それで、ご同輩。何用で? もっと早く来ていれば、彼女たちと挨拶できたでしょうに……」

 

 学園プロデューサーは、青髪のプロデューサーの元担当アイドル達が寂しがっている、と言いたげに目を伏せる。

 そんなことは知らんと言いたげに、青髪のプロデューサーもといアルファは笑いかけた。

 

     ♪~爆射塔BANG a`Lore`ダイナマイトバンカー!~♪

 

「本番数分前に余計な感動の再会は要らんでしょう。──そんで用件はただ一つ。学園長から直々に許可をいただいておりますので────あさり先生! サプライズ、やっちゃいましょうか!」

「はいっ! アルファくん!」

「……え? ふたりとも、いったいなにを……?」

 

 今回の『ICF』のサプライズといえば、教師系アイドル根緒亜紗里の再登場である。

 ネット上では幻のアイドルとしてバズっており、早くも再登場が期待されている。そして今回のイベントで匂わせをすることで、期待して集まってきた根緒亜紗里ファンや、話題性のみで引き寄せられた新規に、サプライズで満足してもらい、より初星学園を好きになってもらおう! という魂胆である。

 

 しかしアルファは、さも当たり前のように階段を登って舞台袖に上がる。周囲のスタッフ達は、なぜか止めようとしない。あさり先生も止めることはなく、なんなら一緒にステージへ出そうな雰囲気。

 これはいったいどうしたことか。学園プロデューサーは慌てて追いかけて止めに入る。

 

     ♪~鵲EXceed`Blue.(ブルーピリオド)~♪

 

「ご、ご同輩!? その先はステージです! 戻ってきてください!」

「もちろん分かってますよ? ところで先輩。ひとつ提案なんですが……先輩も一緒に、歌って踊りません?」

「────は?」

「だって今回のイベントの趣旨は『競争』ではなく『お祭り騒ぎ』ですよ? アイドル候補生と283だけでなく、100のプロアイドルも参加しており、なぜか極月学園も無理やり飛び入り緊急参戦、他のプロダクションが参加できるならと765や315など、様々なプロダクションのアイドルも数名ほど参加しています。だからこその、この大盛況! それなら────俺(・)た(・)ち(・)が(・)出(・)た(・)っ(・)て(・)良(・)い(・)のでは……?」

「────なんて?」

 

 学園プロデューサーは混迷を極める。理解不能と言いたげに青ざめている。

 自分の同輩にして後輩は、こんなふざけた冗談は言わないはずだ。いったいどうしたのだ。まさかイベントを台無しにする気か。

 

「そんな馬鹿な真似はしませんよ。むしろ逆です逆! そこで先輩、お耳を貸してください!」

「──……っ?」

 

 アルファは、先輩の耳元にこしょこしょと打ち明ける。

 自らの芸名を。

 

     ♪~Leonides!`ツキノカメ~♪

 

「────っ!? は……?」

 

 目を見張る学園プロデューサーは、あさり先生に振り向く。

 彼女はただ静かに、にっこりとうなずいた。どうやら嘘ではないようす。

 

「先輩。俺の元担当アイドルから、聞いてないんすか? 俺(・)の(・)性(・)格(・)を!」

「────…………、……そう、でした、ね……ご同輩は、移籍の件をギリギリまで内緒にしていたほどの、大のつく────」

 

 ────いたずら好き。

 

「────しかし、まさか……そこまでの『いたずら』を用意していたとは……お、思いません、でした……毎度、君には驚かされます、ね……まったく……」

「はっはっはっ! ねえ見て見てあさり先生! 先輩めっちゃびっくりしてるー! ふははははははーっ!」

「ふふっ……! もうっ……でも、プロデューサーくんも。意外と納得したんじゃありませんか?」

 

 学園プロデューサーは、言われてみればと納得する。

 

「──……ええ。見た目の割に、なんとなくですが……どことなく幼(・)い(・)雰(・)囲(・)気(・)は、感じ取っていました。が……それはあくまで、個性の範疇だと……お、思い込んで……────あれ? ちょっと待ってください! そうなると、君は、まさか中学生……?」

「はいっ!! そうっすー!」

 

 面白くてたまらなさそうな顔をしているアルファは、とても良い返事を返す。

 ふと腕時計を確認。耳を澄ませる。どうやら六曲目が佳境に入った。

 

「おっと先輩! そろそろ七曲目が始まります! 気合を入れていきますよー!」

「いやちょ!? だから待ってください! それとこれとは話が別です! 君が、あの、例のトップ級アイドルだと言うのなら、行けばよろしいですが────なぜ俺まで巻き込む!?」

「そんなの先輩のアイドルパワーが高いからに決まってるでしょうがー!」

「なんの説明にもなっていない!! アイドルパワーってなんです!?」

「いいからー! ノリ悪いなーもう! だから友達いないんすよー! ただ一緒に踊りたいんすよー!」

「っ……! っっ────!!」

「はい残り五秒!」

「ッ……!?」

 

 逡巡し躊躇する学園プロデューサー。

 アルファは先輩の腕を掴んで無理やり引っ張っていく準備が万端。

 その時、もうひとり大人気なくはしゃいでいる人がいた。可愛いふたりの教え子の後ろに回り込んでいたあさり先生は、ふたりの背中を両手で押し出す。

 

「さぁ行きますよ! 覚悟を決めて、なんでもありのお(・)祭(・)り(・)騒(・)ぎ(・)ですっ! きみたちっ!」

「えええ!?」

「はは!」

 

     ♪~全体`初 Another.Ver.~♪

 

 桜色の学生服を衣装として身にまとうあさり先生と、その両隣に黒(・)ス(・)ー(・)ツ(・)姿(・)で並び立つことになったアルファと学園プロデューサーは、最後尾のバックダンサーとして踊り始める。

 

 初星学園のプロデューサーならば、伝統曲たる『初』を歌って踊れて当たり前。

 しかしバックコーラスまで担当する必要はない。学園プロデューサーは緊張しながら、イベントを失敗させぬため、調和を乱さぬため、ひたすらダンスに集中する。

 

 一方、観客からすれば、まさかの黒服の参戦。

 観客は訳が分からないものの、黒服ふたりを従える幻のアイドル・根緒亜紗里の登場に沸き立つ。

 

 しかし、いくら巨大なステージといえど、総勢50名を超すアイドルの群れの最後尾でバックダンサーを務めているのだ。全ての観客が根緒亜紗里を見つけられたわけではない。だからこそ八曲目は────

 

     ♪あさり先生`桜フォトグラフ♪

 

 ────あさり先生を除くアイドル達が舞台袖に走り去る。学園プロデューサーもその波に紛れて急ぎ戻ろうとしたが、アルファが目の前に立ちはだかる。本当に戻りたいなら邪魔立てはしない。ただそれで本当に良いのか? などと問いかけてくる瞳が実にキラキラとしており、学園プロデューサーはムカついた。

 

「ああもう! やればいいんでしょう!?」

「えー? 俺は何も言ってませんけどー?」

「まったく……!」

「なんか先輩って、ちょっと月村さんと似てますよね……? ツンデレ?」

「無駄口を叩いてないで、あさり先生をフォローしますよ! ライトウイングは任せました! 俺はレフトウイングです!」

「了解(りょっか)!」

 

 舞台袖からライブを見守る283プロデューサーは、腕を組んで佇み、素直に感心する。

 

「おいみんな! あれを見てくれ! すごいなぁ……! この学園のプロデューサーたちも踊ってるぞ! アルファくんもいる! ははっ! お祭り騒ぎってこういうことか! なんだか楽しくなってきたなぁ……!」

「みんな給水所に行っちゃったから居ないわよ」

「あ、冬優子……」

「まーったく。なーにアンタが一番はしゃいでんのよ。……なんならアンタも行ってくれば?」

「ええっ!? いやいや! 俺は踊れないし……! ──ふ、冬優子、さすがに冗談だよな……?」

「なーに? 本気だって言ったら、アンタ、踊ってくれるわけ?」

「そ、それは……! というか、冬優子! 水は飲まなくていいのか……!?」

「はーい話逸らした~。──ふゆは平気よ。一番乗りで舞台袖に走ったから、もう済んでる」

「そ、そうか……!」

 

 などというやり取りをやっているうちに八曲目が終了する。

 あさり先生は手を振ってお辞儀。舞台袖に走り去る。

 それに学園プロデューサーも慌てて付いていくが、一度だけ振り返り────アルファに声をかけた。

 

「────ご同輩、ファイト!」

「! ……はは! ありがとうございます!」

 

 観客は訝しむ。

 ステージの上に、なぞの青髪の黒スーツ男性が残った。彼はいったい何者か。これから何をするのか。

 

 ステージの上にはスタンドマイクが一本。

 その手前まで歩いた謎の男は────突として衣服の胸あたりをわしづかみ、それを破るように払いのけた。

 

『────!!?』

 

 ビリビリと破けて風に飛ばされていった黒スーツ。

 その下には────ま(・)る(・)で(・)ア(・)イ(・)ド(・)ル(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)青(・)い(・)衣(・)装(・)が輝いていた。

 

『────?!』

 

 舞台袖のアイドル達も狼狽(ろうばい)していた。

 スタッフ以外はサ(・)プ(・)ラ(・)イ(・)ズ(・)が(・)あ(・)る(・)ということしか知らされていないため、今ステージの上に立っているアイドルが何者なのか分からない。一方の283は、顔を見ればアルファだと分かる。青髪で変装していることは、放クラとノクチルによって周知の事実。

 

 しかし168事務所の元アイドル達は、目を見開いて驚いていた。

 

 ────なぜプロデューサーがステージの上に!?

 

 学園プロデューサーがあさり先生のステージでバックダンサーをしていたのも充分驚きに値するが、なぜ青髪のプロデューサーがステージの上に残り続けているのか、これが分からない。

 

 アルファは続いて、青髪(ウィッグ)を取り外す。

 すると元の髪色があらわとなり────観客エリアのところどころから察(・)し(・)の(・)良(・)い(・)黄(・)色(・)い(・)悲(・)鳴(・)が上がって、徐々にざわめきが増していく。

 

 そうしてアルファはスタンドマイクを乱暴に手に取って、雄叫びをぶち上げた。

 

「お前らァ! なんでもありのお祭り騒ぎだぁあああああ!! トップ級アイドル・天道唯我ァッ!! 参・上ッ!」

『────UUUOOOOOOOOOOO────!!?!?!!?!?!??!?』

 

 毎週どこかのテレビに出ている、よく見る顔の人が生出演。

 名を知らない者も、顔は知っている程度の知名度であり、場が急騰する。

 

「まず学園長に感謝を! 今回はご招待いただき恐悦至極! ──さて今回は、天道唯我が『ICF』のために用意した、一度限りの楽曲で、ファンの皆さんを楽しませるぜ! そのためにも一緒に盛り上げてくれる仲間を紹介しよう! ──カモン! 我が恩師! 我が同好の士!」

 

 舞台袖から走り出して、あさり先生と小宮果穂が手を振って現れる。

 

「今日限りのドリームユニット『GaV.Ltd.ED(ガブレッド)』と、みんな一緒に盛り上がろう!」

『OOOOOOOOOOooooooooo────!!!!!』

 

   ♪~GaV.Ltd.ED`巻き込まれ炎上系配信者サンタゴートくんの啓発~♪

 

 わけわからない曲名はともかく。

 それはひたすら元気爆発・夢いっぱい・妖艶華麗なドリームライブとして大いに盛り上がった。

 ライブはあっという間に終わってしまい、ファンから熱狂のアンコールが巻き起こる。それを天道唯我は秒速で切って捨てた。

 

『みんなー! ありがとー!』

『キャー! ドSー!!』

 

 甲高い黄色い声。予定が詰まっているのだからアンコールは不可能である。それでドSと言われるのはたまったものではないが、なぜかファンは断られても興奮しているため良しとする。

 

 大盛り上がりの会場。

 天道唯我の登場で、観客の興奮はピークに達しており、お膳立ては済ませた。

 

 今回のメインは女性アイドル。男性アイドルも小数参加しているが、大多数のファンからすればお目当てとは異なるため、お呼びではないだろう。即座に退散して、いざラスト十曲目が始まる。男性アイドルはバックダンサーを務めて、メインとゲストたる100と283が最前列で終幕を飾った。

 

     ♪~Campus mode!!~♪

 

 283は、初星学園の伝統曲である『Campus mode!!』さえ習得してきた。それだけは初星学園の生徒(アイドル候補生)が負けるわけにはいかない。100のプロアイドル達も本腰を入れて臨む。

 

 自由奔放な芹沢あさひが天道唯我にダンス勝負を吹っかけて、ふたりは競い合うように抜群のパフォーマンスを魅せていく。そこに緋田美琴と月村手毬などが緊急参戦、楽しくなってきた八宮めぐるも、ダンスが上手なのに腰が引けている藤田ことねを誘って、レッツ飛び入り参加。

 まるでストリートダンスのような極限ダンスバトルによって、会場は大盛り上がり。

 

 ならば歌声勝負はどうか。

 小宮果穂と天道唯我が、櫻木真乃や月村手毬、樋口円香や花海咲季などに、ちょっかいをかけて勝負を煽る。

 美声と熱唱の激突。個性際立つ歌声合戦は、大いに会場を盛り上げる。

 

 さらにアピール勝負はどうか。

 あさり先生と天道唯我が、藤田ことねや白瀬咲耶、有村麻央や斑鳩ルカなどに、ちょっかいをかけて勝負を煽った。

 可愛さと格好よさの激突。どちらも可憐で凜然とする戦い。会場の観客も、どちらが良いか応援合戦で決着を付けようとする。

 

 そしてファンサとなれば、全てのアイドルが負けてはいられない要素である。気づけばアイドル達は、会場全体に笑顔と視線、呼びかけを振りまいて、合いの手を要求。アイドル同士のバトルから一転、みんなで楽しむライブに自然と流れが変わっていく。

 

 かくして、お祭り騒ぎの『ICF』は、夢と驚きがたっぷり詰まったライブとなり、大盛況のうちに幕を閉じた。

 

          §

 

 『サプライズゲスト・????さま』の控え室。

 入室者の名前が疑問符で秘匿されている部屋。ライブ前に、その扉の前を通りかかったアイドル達は、いったい中に誰がいるのか気になっていたに違いない。だが、それも今は知れたこと。

 

 廊下側からドタバタと走ってくる足音が多数。

 扉が勢いよく開け放たれて、多重奏の大声が叫ばれた。

 

『ぷ────プロデューサーぁあああああ────っ!!?』

 

 控え室の中には、汗を流す天道唯我もとい、アルファが立っていた。今しがた飲み干したばかりのカラのペットボトルを置いて、ジト目で注意する。

 

「みなさん。廊下は走らず、入る時はノックをするように」

『────!! ご、ごめん、なさい……!』

「分かればよろしい。さて、それでは────残るお別れ会と洒落込みましょうか!」

 

          §

 

 夕暮れの教室。

 青髪のプロデューサーのお別れ会は、学園プロデューサーの事務所を借りて行われていた。

 

 アルファは最後の変装機会として、いつもの青髪姿で入室。

 すると教室の中には、既に一同が揃っていた。

 

「プロデューサー……来ないかと思った」篠澤広が不安げに不満げに腕を組んで目を細める。

「ぷ、プロデューサー! 聞いてないよ……! プロデューサーが、実はトップアイドルを張ってたなんて……!」月村手毬の激昂。

「そうですよプロデューサー! なんでこんなとんでもないこと、秘密にしてたんですぅ!?」藤田ことねの狼狽。

「センパイ。本当に驚きました……! その青い髪は、変装だったんですね……?」葛城リーリヤはまじまじと観察。

「しかし先生! わたくし、謝らなければならないことがありますわぁ! だって……天道唯我って、どういう御方なのですのぉーーーー!?」倉本千奈が疑問を叫ぶ。

「あたしも知らないですーーーーーー!!」花海佑芽も同じ思いで叫ぶ。

「わたしもよ! さっきから天道唯我天道唯我って騒いでるのは、内部進学組と三年生だけ……リーリヤと清夏も知らないんだって。だから、そろそろ説明してほしいんだけど……そんなに有名で人気なの?」花海咲季が問いかける。

「まぁアイドルに興味を持ったばかりの人では、知らないのも無理はないでしょう」学園プロデューサーが言った。「特に咲季さんや佑芽さんは、今まで競技ひと筋だったわけですし……」

「だとしても勉強不足ね、咲季」十王星南が言った。「テレビ、ネット、街頭広告、ポスター……ありとあらゆる場所で時間を問わず、何かしら話題になっている人よ」

「へ~。あ、でもあたし……」紫雲清夏が思い出す。「アイドル科のテストで、名前は見たような……? ほらリーリヤ、この前の『最近のトップアイドルと思う人を、選択肢の中から選びなさい』的なやつでさ……!」

「あ、それなら私のクラスでも授業に出てたよ!」姫崎莉波が言う。「ファンサの仕方とかを参考にさせていただいたんだよね!」

「そうだね。特にボクはカッコいい系を目指しているから、非常に参考になったよ」有村麻央は未だ混乱した様子で言う。「それにしても、まさかキミが、ねぇ……ほんと、君が正体を明かした瞬間、ボクは舞台袖で度肝を抜かされていたよ……」

 

 和気あいあいとする教室。

 長机の上には大量のお菓子とジュース。

 アルファはクッキーをつまみながら、オレンジジュースをグラスに注いで美味しそうに一気飲み。

 

「ぷはぁ! ──先輩。今日はお別れ会の幹事役を務めてくれて、改めてありがとうございます!」

「先輩として当然のことをしただけです。……加えて、お別れ会に関してお小言もあります」

「はい?」

「普通お別れ会は移籍前に済ませるものでは? 下手すれば君、お別れ会も無しに学園を去っていましたよね?」

 

 元168事務所のアイドル達は、学園プロデューサーの言葉にうんうんとうなずき、全面的に同意する。

 

「はい! 別に今生の別れでもあるまいし……これからもプライベートで会うなら、別にお別れ会は不要なのでは? という思いもありまして……──と思っていたら先週、正門前で詰められた時に、きちんとしたお別れを欲しがっていたようなので……急遽、先輩にお別れ会の開催と幹事役をお願いしたんですが────」

 

 とんでもない発言である。

 すかさずアイドル達は動いた。篠澤広と月村手毬はアルファの眼前を確保。花海咲季と花海佑芽はアルファの両側を確保。藤田ことね・倉本千奈・葛城リーリヤの三人はアルファの背後を確保。いわゆる四面楚歌である。あうんの呼吸で包囲網を敷かれた。

 

「……なんです?」

「プロデューサーとは、話し合うことがたくさんある」

「ほんっと、最低最悪の嘘つきプロデューサーですね」

「嵐のように来ては去るのやめなさい。性格悪いわよ」

「プロデューサーさん! そんなんじゃ友達、無くしちゃいますよー!」

「今のはあたしもカッチーンと来ましたぁ! ちゃんとプロデューサーとしての責任を、最後まで取ってください!」

「本当ですわぁ! 先生は……鬼教官が過ぎますのぉ……!」

「センパイ……わたし、悲しいです……」

「……なるほど。それは大変申し訳ございませんでした。──言い訳よろしいです? でもあれはやっぱり藤田さんが移籍の件をバラしたのが俺の計画を狂わせ────あいたっ!? ごめんなさいっ!! すみませんでしたぁ……!!」

 

 藤田ことねの軽い肘打ちを受けて、アルファは満面の笑みで謝罪する。

 まったく懲りていない。本当にどうしたものか、このいたずら小僧は。悪ガキが過ぎる。

 

 そこで篠澤広が問いかけた。

 

「ところでプロデューサー」

「はい?」

「さっき天道唯我について調べた。そうしたら中(・)学(・)生(・)ア(・)イ(・)ド(・)ル(・)って出てきた。これはどういうこと?」

『……!!』

 

 月村手毬と藤田ことねは目を見開く。

 そういえばそうだった。天道唯我は中学生アイドルなのだ!

 

「え? 本当は大学生だったってこと? ──そうだと思ったっ!! やっぱり私のプロデューサーは嘘つきだったんだぁっ! 本当に最低ですねっ!! さいっあくっ!! 担当アイドルを騙しまくるペテン師ぃ……っ!!」

「い、いやまて、手毬! ……正直、あたし……前から、ちょっと童顔っぽいなーとは思ってて……あと声も、ちびどもの声変わりみたいに、たまーに掠れる時があったから、なんか変だなぁとは思ってて……その……つまり────」

 

 月村手毬は未だに大学生と思っているようだが、下の子がたくさんいる藤田ことねは薄々勘づいていたようす。けれどまさか天道唯我とは思わなかった。喉が悪い程度に思っており、のど飴でも買ってあげようかと考えていたくらいである。

 

「はい。私は○○中学校の中学一年生ですよ!」

『────っっ!!?』

「さて、我が元担当アイドル達。実は年下の完璧超人(スパダリ)にプロデュースされていた気分はいかがです? もう情緒がグッチャグチャでしょう? どうします? 実年齢を考えて態度変えます? それともこのままいつも通り? まぁ俺/私としては、気分次第で好き放題に切り替えていきますネ!」

『うちのプロデューサーがやりたい放題すぎる……ッッ!!』

 

 元168の担当アイドル達は我慢ならず、一斉にツッコミをぶちかました。

 これには姫崎莉波も苦笑いで困り顔。

 

「はっはっはっ! 愉快愉快! 本当はこういった感じで、自然とお別れ会みたいな雰囲気にしていくつもりだったんすよー!」

 

 アルファは手を叩いてはしゃぐ。

 学園プロデューサーとその担当アイドル達は、とんでもないプロデューサーがいたものだと苦笑。遠巻きに見守る。対する元168の担当アイドル達は、もう何をどう反応したら良いのか分からず、頭の中が混迷を極めていた。

 

 青髪のプロデューサー。あだ名はアルファ。芸名は天道唯我。

 近々、プロデューサー科の専門大学を飛び級で卒業する予定。実は中学生だった。

 

 いつも一人称が“私”で敬語。性格は至極冷静でスパルタだったのに。

 今は年相応の口調で一人称が“俺”になる時があり、性格は至極陽気でいたずら好き。

 

 まさかプロデューサーで居る時の姿は嘘だったのか。などと一同は一瞬思うが────それもすぐに違うと分かる。

 なぜならアルファは、学園プロデューサーや年上の人と会話する時は、目上の人に当たるため、きちんと敬語を使っている。それは青髪のプロデューサーの喋り方である。

 その一方で元168の担当アイドルと会話する時は、無意識に舐(・)め(・)腐(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)のか、時折タメ口を利いてくる時がある。それは中学生男児らしい年相応な喋り方である。ある意味、信頼を寄せてくれている証かもしれない。

 

 はたして一同は、青髪のプロデューサーが『年下だった』という事実に対し、多種多様な反応を見せる。

 篠澤広は何を思ったか恍惚顔。花海佑芽は何を思ったか赤面。倉本千奈は頭を抱えて左右に振る。藤田ことねは叫んだ。月村手毬は拳を作って歯噛み。花海咲季は目を丸くして複雑な心境。葛城リーリヤは混乱する。

 

「……わたしのプロデューサーが、実は中学生だった……? ふ、ふふふ……なんか、変な扉が、開きそう……」

「ひ、広ちゃん!? その扉はえっちだよぉ……!!」

「つ、つまり、わたくしたちは……年下の鬼教官を、年上のお方と勘違いして……みっちり、しごかれていたのですかぁ……!? わ、わたくし、もうなにがなんだか分かりませんわぁ~……!」

「あたしも、もう脳処理が限界だぁあ~~!」

「……プロデューサーが……中学生……? ────くっ……! でも、実力は本物だから……っ!!」

「あなたには何度か驚かされてきたけど……その事実が一番驚いたわ……背が高いのね……」

「せ、センパイは……コウハイ、だった……??」

 

 さっそく篠澤広が攻める。続いて月村手毬も負けじと攻めた。

 

「プロデューサー……わたしのこと、『お姉ちゃん』って呼んでもいい、よ?」

「っ! わ、私のことも『お姉ちゃん』と呼んでください! だって年齢的にそうなんだから!!」

「なぜ……? そういうセリフは『お姉ちゃんらしさ』を見せてから言ってください。それに今までのやり取りを思い出しなさい。私がおふたりを『年上の女性として尊敬する』ような場面。一度でもありましたか?」

『っ────!?』

 

 篠澤広と月村手毬は青ざめて放心。普通にショックを受けている。

 対するアルファは咳払い。せっかくのお別れ会だ。最後くらいは赤裸々に愚痴っても構わないだろう。

 

「この際ですから率直に申し上げます。私は幼(・)稚(・)園(・)の(・)園(・)長(・)先(・)生(・)で(・)は(・)な(・)い(・)んですよ……? みなさんのプロデュースは非常に手間が掛かりました。葛城さん・藤田さん・花海咲季さんを除けば問題児ばかりです。──篠澤さんはチャレンジャーなのは良いのですが変態。月村さんは頑張っているのは良いのですが園児。倉本さんは将来有望なのですがダメダメ。佑芽さんは元気なのは良いのですが鈍感。葛城さんは覚悟があるのは良いのですが掟破り(クレイジー)。有村さんは言うに及ばず。藤田さんは可愛いのは良いのですが性格。咲季さんは不死身なのは良いのですが卑屈。秦谷さんは怠惰なのは良いのですが傲慢。賀陽燐羽さんは色々と素晴らしいのですが論外」

 

 流れ弾を喰らった有村麻央。問題児判定から除かれたはずなのに挙げられている葛城リーリヤと藤田ことねと花海咲季。

 しかし後半二名はどういうことか。月村手毬が目を丸くして問いかける。

 

「は? なんでそこで美鈴と燐羽が……」

 

 その時、引き戸がガラガラと開く。

 

「あらあら。プロデューサーさん。ひどい言い草ですね?」

「私のところだけ美点ひとつも挙げずに皮肉ったわね。殺すわよ」

 

 秦谷美鈴と賀陽燐羽が現れた。

 月村手毬は衝撃を受けて硬直する。

 

「まぁそういうわけで。裏で何人かプロデュースしていたんですよ。葛城さんや佑芽さん同様、非公式で育てていたアイドルは、秦谷さんと賀陽さんも含まれます。移籍するかどうかは、担当ではないので個々人の意思に任せていましたが……」

 

 どうやら秦谷美鈴と賀陽燐羽も、学園プロデューサーの事務所に移籍した模様。あるいは、移籍していないのに遊びに来ているのか。

 学園プロデューサーの困ったような顔を見る限り、秦谷美鈴は移籍しているが、賀陽燐羽はまだ移籍していないようす。

 

「プロデューサーさん。ご卒業おめでとうございます。この学園も、少し寂しくなりますね……」

「私は清々するわ。しつこくスカウトされて、むりやりプロデュースされたんだもの」

「秦谷さん。ありがとうございます。──でも賀陽燐羽さん。最終的には受けてくれましたよね?」

 

 何やら仲良さげな三人。いったい裏で何があったのか。

 月村手毬が問いただそうとすると、それより早くアルファが振り返った。

 

「さて、月村さん。あなたの最終問題も、これで解決ですね」

「────っ!?」

「篠澤さんとユニットを組んで、誰にも邪魔されることなく、マイペースに、支えられることもなく、のびのびとユニットライブができた。篠澤さんが相手では切磋琢磨とは言いがたいでしょうが……少なくともト(・)ラ(・)ウ(・)マ(・)は(・)克(・)服(・)で(・)き(・)た(・)はずです。あとは先輩の意向にお任せしますが……もう、あなたを阻むものは何もありませんよ!」

「────────」

「あとは仲直りだけですが、そこまでプロデュースするつもりはありません。なにより、もう私はあなたがたのプロデューサーではありませんのでネ! 仲良くするも喧嘩するも、どうぞご自由に~」

 

 満面の笑みでそう伝えたアルファは、突として飽きたように真顔となってクッキーをひとくち。オレンジジュースをごくごくと飲む。ひと仕事終えたあとのお菓子と一杯(ジュース)は最高に美味い。

 

「……え、まりちゃん?」

「! ちょっと、あなた……」

 

 月村手毬はポロポロと涙をこぼす。

 今の自分の実力は、追いつきたくて追い抜きたかった秦谷美鈴と賀陽燐羽と同じくらい。もう足でまといではない。もう対等なライバル。篠澤広という友達とユニットを組んで、自分の全部をぶつけることができて、先日のエメラルド講堂でも手応えがあった。

 

「────ぷろでゅーさーは、ずるいです……さいごに、ぜんぶ、わたしのぜんぶを、さいていさいあくに、していく……っ!!」『ウワァアアアアアアアアアアアアン!! アリガトォオオオオオオオオオオオオオ!! ダイスキィイイイイイイイイイイイイ!! デモ ヤリクチガインケンスギテ ダイッキライィイイイイイイイ!!』

「そうですか。それはすみませんでしたネ!」

 

 サプライズに次ぐサプライズ。

 すでに元168のアイドル達は、感情が追いつかず、思考の整理もつかず、振り回されっぱなしだ。いつも通りといえばいつも通りだが、今回ばかりはキャパオーバーの度が過ぎる。オーバーキルなんてレベルじゃない。

 

 ありがとうとさびしいとムカつきとかなしいで、何度も何度も顔面をぶん殴られた気分である。

 

「それでは落ち着いた頃に、また会いましょう! みなさん、お別れ会パーティーありがとうございました! クッキーとオレンジ、めっちゃおいしかったです!」

 

 ならばとアルファは、時間と場所を変えてやろうと、その場を後にした。

 

          §

 

 夜。

 初星学園の講堂前・河川敷。

 

 アルファは草地に寝そべって、川のせせらぎを聞き、夜空を見上げ、大学生活・最後のひと時を楽しんでいる。

 先ほどまで、スマホからは通知音と着信音が連続していた。チェインには、たくさんのメッセージ。電話では、たくさんお話をした。

 

 倉本千奈からは、改めて今までの感謝と、大学卒業を祝う電話。そして言い忘れたのか、尊敬する人物であることに変わりはないため、これからも先生と呼ばせていただいてよろしいでしょうか、というメッセ。

 葛城リーリヤからは、オタク談議を少々……からの、何かを言いかけて切られた電話。そして、これからは友達としてよろしくお願いします。それでも私のプロデューサーさんはプロデューサーさんで、センパイはやはりセンパイです、というメッセ。

 花海姉妹からは、花海佑芽の電話番号からだったが、すぐとなりに花海咲季がいるのか、お互い一台のスマホに耳を近づけて会話しているらしく、とにかくうるさかった。内容は、要約すればこれからも友達として/アドバイザーとしてよろしく、というもの。最後にふたりのチェインから、可愛らしいスタンプが送られてきた。

 ほかにもプロデュースしていたアイドル達から様々なチェインやメッセが来た。どれも似たり寄ったりの内容だが、その全てが感謝に満ちた内容。アルファは丁寧にひとつひとつ返事を返していく。

 

(まったく大変だ……ひとりひとりに卒業証書を渡す校長先生の気分だぜ……)

 

 今までで一番手を抜けない作業である。

 しかし気になることがある。篠澤広・月村手毬・藤田ことねの三名からは、一切チェインや電話が来ないのだ。

 

(まぁあの三人は好感度が高めだったから……もしかしたら拗ねてんのかなぁ……?)

 

 合理で考えるアルファは、何事もゲーム的な好感度にたとえて考える。

 無論、人の心は複雑怪奇であり、合理や統計だけでは説明しきれない現象もあるのだという事柄は理解している。

 

「あ、見つけた」

 

 ふいに篠澤広の声が、澄んだ夜の空気によく響いた。

 

「なぜ、見つけられるんです……?」

 

 アルファは少々悪寒がする。正直ちょっとびっくりして肩が跳ね上がった。

 夜の水辺ということもあり、痩せぎすの肢体が幽霊っぽく見えたのも悪い。

 

「……忙しそう?」

「少しだけ。あと数分で終わりますよ」

 

 ならばと篠澤広は、アルファのとなりに座り込む。

 体育座りで夜空を見上げてボーっとする。

 

 数分後。

 スマホ画面の明かりが消える。電灯の照明だけが頼りの暗闇。

 アルファはポケットにスマホをしまった。

 

「終わった?」

「はい。お待たせしました」

 

 いったい何用か。

 アルファは目を閉じて、今にも健やかに寝そうな気配。

 篠澤広はその横顔をじっと見て、小首をかしげる。髪がさらさらと肩口から落ちる。

 

「……ねぇ、プロデューサー」

「私はもうプロデューサーではありませんよ」

「それでもプロデューサー。もう慣れちゃった」

「そうですか」

 

 出鼻をくじかれた。

 それでも篠澤広は口にし続ける。今度は心を読まれて牽制されるため、別の話題を繰り出して、別角度から突入する。

 

「それに、プロデューサー」

「?」

「まだ仕事を果たしていないのに、プロデューサー、やめてもいいの?」

「……どういう意味でしょうか?」

「プロデューサーは、まだプロデューサーとしての責任を果たしていない」

「……──と、いうと?」

 

 微笑む篠澤広は、自信満々に胸を張った。

 

「ご褒美、もらってない」

「──はいぃ?」

「この前、今のプロデューサーが血反吐を吐きながらミニライブをさせてくれたんだけど」

(血反吐……?)

「その時に出ていたほかのアイドルが、ね。担当プロデューサーと、遊園地に行ったんだって」

「なるほど」(なら今のプロデューサーと行けば良いのでは?)

「……むぅ……」(そういうの、いけないと思う)

「残念ながら提案が遅すぎましたね。任期は過ぎているため私にはどうにもなりません。その手のご褒美を配るのは、今のプロデューサーの仕事です」

「それはそう。おっしゃるとおり」(そう言うと思った。引っかかった)

(!?)

 

 篠澤広はキメ顔で言う。

 

「なら、こうしよう。プ(・)ロ(・)デ(・)ュ(・)ー(・)サ(・)ー(・)と(・)ア(・)イ(・)ド(・)ル(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)関(・)係(・)で(・)……遊園地、行(・)こ(・)う(・)?」

「────────」

 

 途中からほんのりと赤らみながら、篠澤広は誘い文句を告げた。

 対するアルファは、不覚にも可愛いと思ってしまう。

 

「天道唯我と篠澤広が遊園地に行けば、炎上待ったなしですよ」

「変装すればいい」(プ(・)ロ(・)デ(・)ュ(・)ー(・)サ(・)ー(・)が(・))

「髪の色を変えて? 私が変装得意なのは今日のライブでバレていますから、なかなか難しいですよ」

「私も変装すればいい」(またブ(・)ラ(・)フ(・)に引っかかった)

「名案ですね。二の句を告げる前に手札が潰されていく……」(恐ろしい感覚です。本当の狙いが読みづらいあたり、今の会話を何度もシミュレートして、表面思考を固定したらしいですが……)

「うん。準備万端」(こうでもしないと、プロデューサーの瞬発思考力と口の早さには勝てないから)

「天才の演算は未来予測を可能とするか……」

「ふふん。参った?」

「では友(・)達(・)と(・)し(・)て(・)」

「────、…………」

 

 篠澤広は押し黙る。それは予想外の答えだったからではない。むしろ予想通りである。

 ざわつく心。鈴々と警鐘を鳴らす脳。焦っている。小宮果穂(ライバル)がいるから。だとしても。

 

 今しかないかも。貧弱な肉体。遠出はできない。電話はできても、簡単には会えない。

 だから今のうちに親睦を深める。あなたの心が誰に向いているのか、確かめるために。

 

「……あの、ね? プロデューサー────」

 

 勝利は確信している。それでも気恥ずかしくて視線が泳ぐ。一回だけ。すぐにまっすぐと相手の顔を見据える。

 人事を尽くして天命を待つ。やるだけのアプローチは掛けた。このあとの展開は、まったく予想がつかない。だから楽しい。でも結果はわかってる。いざ、勝負に打って出る。

 

「────いじわる。もうぜんぶ、わかってるくせに。でも、そういうところが……好きだ、よ?」

「……、…………────」

「プロデューサー、は……?」

 

 アルファは大きく息を吸い込むと、肩と腹を落とすように呼気を吐き尽くした。

 

「──ふぅ……そういえば、そこの花壇にグラジオラスが咲いていますね?」

「? ……、────!」

 

 震えた。動悸が激しい。全身がのけぞった。目を見開く。顔が熱い。

 堂々としていたかったのに。思わぬ返答に、してやられた。

 ドキドキが痛い。もう今にも苦しくて死んでしまいそう。

 

「……ち、ちょっと、待って、て……」

「はい」

 

 篠澤広は急いで立ち上がる。アルファが視線をやった花壇を急いで見に行く。急いで何色なのか確認しに行く。電灯の明かりではよく見えない。スマホのライトをつけて花壇に照射。

 

「────! ……紫色……」

 

 確定。また勝ってしまった。

 これでひとつ、大きな不安が取り除かれた。

 

「────ふぅぅぅぅぅぅ…………」

 

 退屈。安心。安堵。達成感。モチベ低下。複雑な心境。

 歓喜。歓喜。歓喜。感極まる。抑えて、抑えて、振り返る。

 

「プロデューサー……!」

「まだ早いですよ」

 

 篠澤広の唇に、人差し指が静(・)か(・)に当てられた。

 

「……!」

「私からも、大事な忠告と告白があります」

「……?」

 

 スムーズな対話のためとはいえ、一瞬でも期待させてしまって誠に申し訳ない。

 そんなことを言いたげな片眉の下げ方で、アルファは選択を迫る。

 

「篠澤さん。私は、既に複数の恋人がいます」

「────────────────えっ?」

「恋人達は、それを許した上で交際すると言ってくれました。……さて、あなたはどうしますか?」

「……ぇ…………ぇえぇ…………え…………ぇ……」

 

 掠れた声を発する篠澤広の目がグルグルと回りだす。

 相手は好意を受け取ってくれた。そ(・)の(・)結(・)果(・)は(・)予(・)想(・)通(・)り(・)である。

 けれどまさか本当に。予測不能の過(・)程(・)が発生するとは思わなかった。

 

「ここで私の価値観を教えておきましょう。……私は“恋人や伴侶は一対一”などという肩書きは、あまり好まない」

「!」

「みんな仲良しならそれでいい。仲良くできるなら仲良くできる数だけ仲良くすればいい」

 

 アルファはため息をつく。

 

「……無論、それができれば歴史上、人類はここまで苦労していない」

 

 アルファは疲れたように夜空を見上げた。

 

「──結局、私と恋人になりたいと言ってきた人々は、精神的に耐え切れず、近いうちに離れていきます。長続きする友(・)人(・)は、限りなく少ない」

 

 アルファは俯く。

 

「……というのも別れる原因は、私が恋人でもない赤の他人に──老若男女を問わず──まるで恋人のように扱うのが嫌だそうです」

 

 つまりアルファは、誰も彼もを特別扱いせず、誰も彼もを公平に扱う。そのように元恋人達は言う。だが本質的に、そんなことはありえない。

 なぜならアルファも人間だ。当然のように好き嫌いはある。

 

 好きな人がいれば、嫌いな人もいて、無関心な人もいる。

 

 そして、たとえば。

 悪者は、アルファの好きな人と嫌いな人を人質に取った。

 悪者は言った。一方を裏切れば、もう一方は助けてやると。

 

 ならばとアルファは当然のように、どちらも助ける第三の選択を掴みとろうとする。しかし万が一、第三の選択が失敗した時のため────次(・)善(・)の(・)策(・)として、好きな人だけでも助けられるように、嫌いな人を切り捨てる選択も視野に入れておく。

 

 おそらくそ(・)こ(・)なのだろう。

 逆(・)なのだ。

 好きな人を助けることが第一の作戦。どちらも助けるのが次善の策。それであるなら文句はないのだろう。

 

 しかし不可能だ。

 アルファはその逆転を、他人に押し付けはしないが、自らには押し付ける。その逆転を、個人的に厭悪(えんお)する。

 

 なぜならヒーローだから。

 そう在りたいと思い、そう在ると誓った。

 

「……なにか、あった?」

 

 篠澤広は問いかける。

 さすがの観察眼。アルファの過去を鋭く指摘する。

 

「ええ、まあ。このような価値観を育むにあたり、色々と……ね?」

 

 アルファは呆れたようにため息をつく。

 

「……元恋人達は、基本的に善人です。なるべく人として公平であろうとしている。しかしそんな彼女達が、最終的には私の公平さを厭(きら)うとは……いやはや、なんとも難儀な生き物ですね? 人間という知的生命体は……」

「……」

「誰も彼もが何かのナンバーワンになりたい。いわゆる競争。ええ、私も闘争は好むところです。故に、その気持ちは否定できません。そのおかげで人類は繁栄してきた。生命体としては、とても強固な個性です」

 

 それはそれとして、アルファは軽蔑する。

 

「その一方で、彼女達はオンリーワンでは満足できないらしい。いわゆる絶対評価より、相対評価に自己の重きを置く。なるほど未熟。不安定。悟りを開くには遠すぎる。そこが尊いとも言えるのですが……それは私にとって、無垢な子供を慈しむ感覚に近い。つまり、この尊いという感情は、決して対(・)等(・)な(・)感(・)情(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。どうしようもなく公(・)平(・)で(・)は(・)な(・)い(・)感(・)情(・)なのです」

「…………」

「もうお分かりですね? 私は公平と言われますが、私も人であるからには公平さを常に厳格に保ち続けることはありえない。月村さんを下に見ているように、私にも蔑みの感情は存在する」

 

 アルファは何が言いたいのか。

 

「……公平さを嫌うなら。下に見られたくないなら。──離れたほうがいい。私がつらいだけ、だから?」

「そういうことです。もちろん篠澤さんなら、私が下に見ることはありえません。人格的にも能力的にも尊敬しており、女性として魅力的に感じています」

「っ……急に、そういうこと言うのは、卑怯……」

「すみません。ただし唯一、嫉妬の感情だけは、私にはどうにもならない。要するに問題は、そこだけなんです」

 

 複数の恋人が居る。

 それを受け入れられるかどうか。

 

「……その中に、果穂はいる?」

「いません」

「えっ……! それは、びっくり……」

「理由をうかがっても?」

 

 篠澤広は、もじもじとする。

 

「てっきり、あなたと果穂は、もう恋人だと思ってた……でも、私の好意を受け取ってくれたから、そうじゃないんだって思った……でも複数の恋人が居るって言われたから、果穂も恋人のひとりかと思ったら、今、そうじゃないって言われた……ちょっと、混乱してる……」

「おそらく考えていることは当たっていますよ。果穂とは既に、そういう仲です」

「!?」

「ただ、口約束の上では恋人ではない、というだけです。果穂も肩書きにはこだわっていないようですし……いえ、それも気を使わせてしまっているだけなのですが。というのも果穂に、今の価値観を説明した結果……『それならアルファさんのしたいようにさせてあげよう!』という、なんとも優しいところに着地したらしく……」

「……! ふふっ……果穂らしいと思う。純粋無垢で、天真爛漫」

「まったくです。ぶっちゃけ俺のほうが小難しく考えすぎなんですよねぇ。しかし俺はもう、果穂みたいに純粋にはなれない……記憶を消したいですよ。本当に……」

 

 アルファは苦しそうな顔をする。それは無意識だろう。過去を思い出している。

 

「……ごめん。嫌なこと、話させちゃった?」

「いえ。自分から話したいと思ったので。……それに正直、ここまでのことを打ち明けたいと思った相手は……篠澤さんが初めてです」

「……そうなの?」

「はい。もちろんあなたに話した以上、果穂にも同じ話をしますけど」

「それは……嫉妬不可避」

「はは。ちなみに俺の一番嫌いな感情は、嫉妬です」

「じゃあ、わたしのこと、嫌いになる……?」

「いえいえ。嫉妬は俺にもあるし、誰にでもある。だから俺は、俺含めてみんな大嫌いですし、その上で好きですよ」

「複雑な人だね……」

「ええ。我ながら自分が面倒で嫌になります」

 

 掻き混ぜられる心地。それはどっちも。

 しかし今は、そちらの方を優先しよう。

 

「それでは────」

 

 アルファは一本の鍵を渡して立ち去る。篠澤広の手を取って、その中に無理やり握り込ませたのだ。

 篠澤広は何を手渡されたのかも考えられないまま、うつむいて微動だにしない。

 

「…………気を使われちゃった…………」

 

 実は泣きそうだった。でも自分の方から『わたしから離れて』とは言いにくかった。

 なぜなら歩く体力がない。一歩でも踏み出せば倒れてしまい、同時に感情もこぼれていた。

 それを見抜いて立ち去ってくれた。男前である。そういうところはかっこよくて好き。こんなつらい気持ちにさせてくるところも、好き。

 

「────! 広!」

 

 運が悪い。いや、いいのか。

 月村手毬が走ってくる。

 

「あのさ、プロデューサーのこと捜してたんだけど────って、え……広……?」

 

 篠澤広は目元を拭う。

 嬉しいのに悲しい。苦しいのに快感。おかしな感情に戸惑いを隠せない。必死に激情を抑えることに必死で、それ以外なにも考えられない。

 

「な、なんで泣いてるの……!? 何かあった……?」『エ、ドウシヨウ…! ソレトモ ワタシ…マタ ナニカ ヤッチャッタ…!?』

 

 あわあわと焦りまくる月村手毬。

 篠澤広は、ポロポロと流れ落ちる涙の跡を残したまま、にこっと微笑んだ。

 

「ふふ……わたし────振(・)ら(・)れ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)の(・)に(・)、(・)振(・)っ(・)ち(・)ゃ(・)っ(・)た(・)……」

「────え?」

 

 どういう意味か。なんの話をしているのか。

 月村手毬も乙女である。女子高生だ。気づかぬはずもない。

 

「……!! 広、まさか……プロデューサーに……!?」

「……うん……」

 

 月村手毬は衝撃を受ける。顔面蒼白。

 

(さ、先を越された……!!)

 

 否、そうではない。

 今は篠澤広をどうにかするべきだ。それにさっきのセリフはどういう意味なのかも気になる。

 

「えっと、まず座ろうよ……あ、歩ける……?」『ダイジョウブ? ドウシヨウ…ナントイエバ…ブッチャケ フラレテ ヨカッタトカ オモッチャッテルケド…』

「……てまり、なかなかひどい」

「っ!? い、今のは……! インコくんが悪いからぁ……っ!! 私なにも悪くないしっ!」

「…………」

「……っ! な、なにか言ってよぉ!」『ゴメン~!! ゴメンナサイィ!! ゴメンッテバァ! ダカラ モウ ナカナイデヨォ…!! グスッ…』

 

 ふたり揃って河川敷の傾斜に座る。ふわふわとした草地。

 篠澤広は思考と呼吸を整える。

 月村手毬は体育座りでそわそわとしながら、じっと俯いて待ち続ける。

 

 数分経過。

 

「…………────てまり、ありがとう。もう落ち着いた」

「! じ、じゃあ、教えてよ! 何があったの!?」

「……。プロデューサー、恋人がいるんだって」

「!!?!?!?!?!?!?!」

「しかも複数」

「?? ……っ!? は???!?!?!?!?!?(アバババババババババ)」

 

 月村手毬は目を見開いて硬直。

 篠澤広は容赦なく追撃する。

 

「わたしも、その複数の恋人の中に入れるかな? って。聞かれた」

「?!?!?!!?!??!?!?!?!??!?!?」

「ふふ……ままならない、ね……?」

「! ……まさか、広……諦めてないの……?」

 

 篠澤広は何も答えない。

 涙の跡が残る凛々しい顔つきで、つらそうに立ち上がる。

 

「……ふぅぅぅぅ……こんなの初めて……」

 

 胸を抑えて大きくため息。首をかしげて微笑む。……と思いきや、途端に両頬に両手を当てて、いつもの恍惚顔を浮かべた。

 

「勝利と敗北を、同時に味わった……これだからプロデューサーは……大(・)好(・)き(・)……」

「えっ……」(怖いっ! なんでそんな目に遭って、まだ好きでいられるのぉ!? やっぱりこの子、本当にそういう子なんだ……! 怖ぃぃぃ……!!)

 

 あくまで不屈の挑戦者(チャレンジャー)でありドMではないが、それはそれとしてMっ気はある。

 興奮する篠澤広は、さっそく作戦を立てるため帰宅する。

 

「えっちょっ……広! プロデューサーは!?」

「あっちに行ったよ」

 

 さっそく月村手毬は、篠澤広が指さした方向に走り出す。だがその前に緊急停止。ライバルは諦めていない。ならばライバルとして何も言わず立ち去るなんてありえない。友達として親身に寄り添うだけで、啖呵も切らず立ち去るなんてありえない。ライバルならば喧嘩は吹っかけるものだ。そういうふうに賀陽燐羽から学んだ。

 

「広! そういえばさ……私と会った時は泣いてたけど、ぶっちゃけ顔、赤かったよね!」

「……? それはそう。だって泣いてたから」

「ううん! ちがうっ! あれは完全に────め、め……メス顔、だったよっ!!」

「……! え……!」

 

 自分から指摘した月村手毬は恥ずかしくなり赤面。

 言われた篠澤広も、そうだったのだろうかと気恥ずかしくなり赤面する。

 

「……てまり」

「……なに?」

 

 ふたりは真剣に見つめ合う。

 

「してない」

「してた!」

「見間違い」

「してたぁ!」

「勘違い」

「してたってばぁ!!」

「たぶん、してない」

「してたからぁ! 完全に!! 認めて!」

「……たぶん、してた、かも?」

「あ、赤くなりながら言わないでよ……! ふ、ふん……往生際が悪いね……」

「……」

「……」

 

 無言の睨み合い。なお睨み合いと思っているのは月村手毬のみ。篠澤広は見つめ合っているつもり。

 やがて篠澤広は負けず嫌いを発揮した。無意識の仕返しである。

 

「そういえばプロデューサー。恋人以外に、もう心に決めた人がいるんだって」

「────へ?」

「どうしよう。その人に、全然勝てそうにない……でも、プロデューサーに対する理解力なら、わたしのほうが少し、ほんの少しだけ……上かも? だからそこで勝負する」

「……────」

 

          §

 

 数分後。夜も更けてきた初星学園・中庭。

 散歩していたアルファのスマホに電話が掛かる。

 

「はい、てまてま?」

『なっ!? なんですか、てまてま、って……!』

「手間が掛かる手毬から着信が来たから?」

『……ッッ!!? そ、それが────プロデューサーの、本性ですか……!』

「そうです。失望しましたか?」

『ええ! 本当に!! ──それにさっき広から聞いたよ!! 恋人が複数いるんだってね!! 変態なんじゃないですか!? モテまくるからってハーレム作るとか、恥ずかしくないの!?』

「みなさん幸せそうなので、特に恥ずかしいことをしている感覚はありませんね」

『っ……!! っっ…………────広、泣いてたよ……』

「でしょうね。捨て置きました」

『ひどっ!?』

「泣き顔を見られたくなかったそうなので」

『……! …………そう。なら仕方ないね。そういうところがイケメンなんだ。ほんとムカつくけど』

「それで用件は?」

『────…………今どこにいるのか教えてください。広が教えてくれたから、近くにいるとは思うけど……ちなみに今は橋にいます』

「本当にすぐそこですね。中庭ですよ」

 

 ビッ────と通話が途切れる。

 夜の闇に澄んで響く全力疾走の足音。

 

「プロデューサー! 見つけたぁ!」

「はい。どうされたのでしょうか?」

「っ……! へ、平気そうにして! ひとりの女の子を泣かせたあとの顔じゃありませんね!! ほんと最低で最悪っ! 性悪っ! 地獄に落ちれば?」

「それなら一緒に堕ちます?」

「────っ!?」

 

 いつになく弱気な声で言われた。

 さすがのアルファも、ひとりの人間を泣かせて傷まない心は存在しない。

 

「…………そんな、苦しそうな顔、しないでくださいよ……」

「それはこっちのセリフでもあるんですけどねぇ……なんで一対一にこだわるんです?」

「はぁ? そんなの────!」

「もちろん理解しています。共感できます。ただし私の生き方とは、なにぶん相性が悪いもので……本当に苦労しますよ?」

「……!!」

 

 月村手毬は視線を逸らす。

 

(やっぱり……もう私の気持ちは、読まれちゃってるんだ……)

 

 ならば、もはや何を隠す必要もない。

 

「……それでも、そういうところを知って、いっぱい考えて、膝小僧をすり合わせるからこその……恋愛とか、人間関係なんじゃ、ないですか?」

「おや。これは驚いた。初めて月村さんから含蓄(がんちく)のある言葉をいただきましたね……」

「ちょっと! ほんとに失礼ですよ!! プロデューサーは私のこと、なんだと思ってるんですぅ!?」

「自分が嫌いだけど、自分を好きになるため頑張っている子」

「っ……!!」

 

 月村手毬は歯噛みする。

 屈辱だ。なんでこんなひどい人に、腹の中を読まれてしまうのか。それは自分も同じひどい人間だからだろうか。

 

「どうして────どうしてプロデューサーは、そんなに私のこと、理解してくれるんですか……?」

「理解しているのは私だけではありません。以前も言った通り、あなたは意外と分かりやすい。きっかけさえあれば、あなたの理解者は多く現れます。ですから────何も私(・)じ(・)ゃ(・)な(・)く(・)て(・)い(・)い(・)と思いますが?」

「っ────! ……ほんっっっっっと……」

 

 月村手毬は手のひらを握り締めて、今にも殴りたくなる気持ちに襲われる。

 

「……プロデューサーは、何もわかってない!!」

「具体的には?」

「わかんない!! でも、ひねくれすぎぃ……!」

「はは! それはたしかにそうですネ!」

 

 アルファは豪笑すると、背中を見せて立ち去る。

 

「っ!?」

「それではまた。縁があったら」

「……っっ!!」

 

 月村手毬は何も言えなかった。本当の心の声を、何も口にできなかった。

 先を越された上、雰囲気も良くない。

 別に勇気がなくて言えなかったわけじゃない。いや嘘だ。ビビって逃げた。

 

「……わ、私も、諦めないからぁ……!」

「おやおやまぁまぁ。そう言っておきながら、すぐにもっと別のイイ人が現れて、そっちに転がる人を……かなり多く見てきたのですがねぇ……」

「っ……! はぁ!?」

「なので、そうやってひとりの男に、あまりこだわらないほうがいいと思いますよ? 恋することだって一対一ばかりではないのですから。複数の人に同時に恋したっていいんですよ~。──少なくとも私は許します」

「……っ?!」

 

          §

 

 数時間後。

 アルファは男子寮の自室に帰宅していた。

 

 あと一時間で日をまたぐ。

 するとアルファのスマホから通知音が鳴った。

 

「?」

 

 藤田ことねである。

 チェインにメッセージが来た。

 

『今度、デートしましょう』

 

「…………?」

 

 不審に思ったアルファは考察する。

 ほかのアイドルはお別れ会のあと、それぞれ電話をかけてきてメッセを送ってきた。そのどれもが大学卒業を祝う声を最初に送ってきた。それをすっ飛ばしてのデート約束の取り付けとは珍しい。礼儀正しい藤田ことねが、そこをすっ飛ばすとは思えない。

 

 おそらく自室で色々と考えすぎたのだろう。最終的にパンクして、一番やりたいことを衝動的に『もうこれでいいやこのやろー!』と送ってしまったのかもしれない。そして送信した直後『いやまずは今までの感謝と大学卒業を祝う言葉だろぉ!?』と青ざめて後悔して、速攻で電話番号をポチポチと押して────

 

 ────プルルルル、と電話が掛かってくる。

 

「はい。もしもし?」

『ぷぷぷ、プロデューサーぁ! 今のは、あの、その! 色々と順番を間違えてぇ! つか読みましたか!? 読みましたよね! だって既読ついてますもんねすんません!!』

「……、…………???」

 

 焦って電話してくる。それは予想していた。しかしどこか様子がおかしい。相手の表情は見えないが、あまりにもキョドっているように感じられる。しかも環境音は屋内のそれではない。虫のさざめき。川のせせらぎが遠い。

 

(……まさか……)

 

「あの、藤田さん。まさか外に居ます?」

『へぇええ!? べべ、別にいませんけどぉ!?』

「……風の音が強いのですが。葉ずれの音も強いですね。野外ステージあたりですか? もう深夜になるのですから、あまり外を出歩くのは……」

『いやいや! え、エアコンの音じゃないですかねぇ!?』(ウッソだろこの人なんで分かるんだぁー!?)

 

 ものすごい剣幕で否定してくる。

 これはどうしたことか。アルファは様々な状況を想定する。

 

「なるほど。篠澤さんとの話を聞いていたんですか」

『ッ────────』

 

 藤田ことねは息を呑む。絶句した。

 アルファは思う。どうやら当たってしまったようす。

 

「……なるほど。では正直、どう思いましたか?」

『えっ……』

「プレイボーイと思われたとしても、それは事実なので」

『いやっ……まぁ、そういうのは、なんか……人それぞれ、ですしぃ……?』

 

 人の価値観は多種多様。それはそれとして驚いたに違いない。

 なにせ理想とは違っていたのだ。この数時間、現実とのすり合わせには相当苦労しただろう。

 

「あれから数時間、ずっと学園内を歩いて……?」

『…………』

「迎えに行きます」

『ひぇ!? い、いえ! そこまでは……! 帰ります! まっすぐ帰りますから……!』

「では何かあったら困りますので、このまま電話は掛けたままで。通話料は自業自得ですよ」

『……はい……すんませんでした……』

 

 中学生に叱られてしまった。

 そんな自分を情けなく思うような声色が、アルファの耳に響いてくる。

 

「…………」

『…………っ…………』

 

 アルファは沈黙する。暗い夜道のはずだ。会話に気を取られて足元がお留守になっては困る。

 しかし藤田ことねは沈黙に耐え切れないようす。何かを言おうとしては口をつぐむ呼吸音が頻繁に繰り返される。

 

「……」

『……っ────あーもうだめっ! プロデューサー!』

「私はもうプロデューサーではありませんよ」

『そういうのいいからぁ! プロデューサーはプロデューサーなんですぅ! 話を逸らさないでくださいっ!』

 

 藤田ことねは真剣な声色で、鋭く問いかける。

 

『単刀直入に聞きますっ! 恋人……何人いるんですかぁ!?』

「それは難しい質問ですね。なにせ日毎(ひごと)に変わりますもので」

『……はぁっ?!』

「まぁ大体……九人前後ですよ。語弊なきよう付け加えると、別にキープしているわけではないです。向こうが『恋人になりたい』と言ってきたら、大抵は辟易しながら受け入れます。恋(・)人(・)に(・)な(・)る(・)こ(・)と(・)で(・)相(・)手(・)の(・)心(・)を(・)救(・)う(・)こ(・)と(・)に(・)繋(・)が(・)る(・)の(・)な(・)ら(・)。そして相手が『やっぱ別れる』と言ってきたら──ヒーローとして用済みの場合──当然、別れたことになるわけで。自分としても引き止める理由はないのでね。ハァ……まったく幼稚な肩書き合戦ですよね……これだから女は嫌いだ」

『っ!?』

「すみません主語が大きかったです。まぁその手の幼稚な恋愛も、肩書きを毛嫌いする要因でね。小学生の恋愛じゃないんですから……相手と一緒にいたいならいればいい。離れたいなら離れればいい。そこにいちいち肩書き、必要と思いますぅ?」

『…………』

「そりゃあコミュニケーションとしては、必要になる時は必ずあります。ただしその使い方を間違えている人がいる。軽薄に濫用している人がいる。そこもまた価値観の相違ですので、あくまで私の意見に過ぎない。ならば私の価値観をお教えしましょう。──人と人の間にある虚無(かたがき)を見て虚空の絆を確かめ合うより、きちんと自己と相手の中にある心(・)を見て真実の絆を高め合うほうが、とても有意義とは思いません?」

『────』(──この人……マジで中学生か……? なんか、達観しすぎじゃね……? マジで過去に何があったら、こんな子に育つんだよ……! 人間できすぎかぁ……!?)

「……などと。なんだか説教のようになってしまい大変申し訳ありませんが、つまるところ────」

 

 アルファはため息をついた。

 

「────今の恋人の中で“愛嬌”に関しては、藤田さんが一位だと思いますよ」

『……っ?! え……なんで……!』(なんで私が聞きたかったこと、当てられるんだよぉ……!! 怖いわぁ……!!? しかも今の重いため息はなにぃ!?)

 

 藤田ことねは混乱する。

 

(えっ?! マジでなんで当てられたの!? 今までそういう質問をする女が多かったってことぉ!? やべっ……あ、あたし……プロデューサーさんの“嫌いな女”リストに、入っちゃったかな……?!)

 

「特にそういうことはありません」

『っ?!?』

「むしろ、とても可愛らしい質問だと思いますよ! ……さて、プ(・)ロ(・)デ(・)ュ(・)ー(・)サ(・)ー(・)で(・)は(・)な(・)い(・)自(・)分(・)を(・)知(・)っ(・)て(・)も(・)ら(・)う(・)た(・)め(・)に、色々と面倒な男を演じてしまいましたが……こんな奴でもよければ、友達でも恋人でもなんでも構いません。これからもよき仲間として、どうかよろしくお願いします……」

『……! あ、はい……! それは、こちらこそ……よろしく、です……!』

 

 アルファはぺこりとうなずく。

 一方、帰宅途中の藤田ことねも、耳にスマホを当てながらペコペコとうなずいていた。

 

「さて、デートの件ですが……」

『っ!?』

「また後日。落ち着いたらすり合わせるということで」

『……!』

「それで、そろそろ女子寮が近いのでは?」

『! あ、はい! もう、目の前で……って、まさか計算してたんですか!?』

 

 その時、アルファは電話越しに、有村麻央の声が聞こえてきた。かなり遠くから藤田ことねの名前を呼んでいる。どことなく怒っているような声色。それもそうである。こんな夜更けまで帰宅しなかったのだ。何かあったのかと心配したはず。

 

『あ、寮長……!!』

『ことね! 今までどこに行ってたんだい!? 電話しても無視するわ、メッセ送っても既読つかないわ、また電話したら通話中になってるわ……! いま誰と話してるんだい!?』

『ご、ごめんなさいぃ……!! 説教は受けますから! ほんと! すんません! ──あ、き、切りますね! ほんと、ご迷惑おかけしましたぁ……!!』

 

 ────ブツッ。と通話が途切れる。

 

 今ごろ寮長から鬼のように叱られているに違いない。まったく困ったものである。

 

「はぁ……起こり得る事態とは思っていたが、なかなかどうして……」

 

 まさか三人の担当アイドルと、恋愛に発展しそうになるとは思わなかった。

 そしてアルファは、長らく思っていた自らの異変を言語化する。

 

(……なんでだろ。いつもなら抱くことしか考えないのに……なんか今は、全然そんな気分じゃない……三人とも可愛いから正直タイプなんだけど……抱きたいっちゃ抱きたいんだけど……そんなことより、早く果穂と会いたい……一緒にゆっくり過ごしたい……でも、なんかおかしいな……果穂とそういうことしたい気持ちにもなれない……なんだこれ、初めての心理状態だ……三ヶ月も女を抱いてないから、禁断症状とか覚悟してたんだけど────嗚呼、なんか、あっという間の大学生活だったなぁ……)

 

 今までの勉強が実って、たった三ヶ月で大学を飛び級で卒業できた。

 ふしぎな焦りが消える。とても安堵したような、憑き物が落ちたような、安堵の気分。

 

「…………」

 

 ────ボタンがひとつでもかけちがえば、あの手の雰囲気を持つ人間になっていた。

 

 なぜか花海咲季の言葉を思い出す。

 

(どちらかといえば、ふわふわした人間というか……植物のような……?)

 

 ともあれ夜も遅い。

 あくびをしたアルファは思考がよどむ中、あったかい布団の中に潜り込んだ。

 

 

 

          §

 

 

 

 第12週・二日目。

 

 朝方の初星学園・野外ステージ。

 その近くでは、青髪で黒スーツ姿のアルファがスマホをいじっていた。

 

 ネット上では様々な記者の記事(スクープ)が、善かれ悪しかれトップニュースとなっている。

 

 たとえば善村記者の記事。

『初星学園プロデューサー科の生徒(プロデューサー)が、あの男性トップアイドル天道唯我だった!? プロデューサーの才能もあった万能勇者系アイドルの活躍の軌跡を追っていく! まず初星学園には選抜試験(セレクション)という登竜門が存在する。天道唯我がプロデュースしたアイドル候補生は全員、選抜試験を一発で通過し、晴れ舞台である講堂でライブを披露。彼の担当アイドル達は一躍人気を博して────』

 

 たとえば阿久井記者の記事。

『初星学園の専門大学に男性アイドルが潜り込んでいた! 超絶イケメン貧乏アイドルと言ってはばからない天道唯我は、邪な気持ちでもあるのか青いウィッグにメガネ、赤いカラコンを身につけて変装。本名が知られていないことをいいことに、面食いなのか見目の整った女性アイドルの卵をプロデュースして、たった三ヶ月で好成績を打ち出した。その裏には倉本家の賄賂的な協力もあったと噂されており────』

 

 アルファは記事を読みながら突っ込む。

 

「おいおい死んだわ阿久井さん。そこで倉本グループの名前を出すのは悪手だってぇ……炎上商法も度が過ぎれば裁判沙汰でマイナスだってぇ……そんなんじゃあ犯罪界のナポレオンには成れませんよぉ~? まぁなる気もないだろうけど。それはそれとして善村さんは少々持ち上げすぎ……でも俺よりアイドル候補生について多く書いてくれているのは嬉しい。こちらの意図を汲んでくれている。この人エスパーか?」

 

『そして先日〔ICF〕(アイドルコラボフェスティバル)にて、天道唯我は青髪のウィッグを外して正体を現した。しかし彼はバックダンサーに務めることが多く、あくまで初星学園の知名度を上げる意図に専念していたことがうかがい知れる。この件に関して、天道唯我が独りよがりの知名度略取戦略を打ったと考える記事は、大いに本質を見誤っていると言っていいだろう。確かに担当アイドルにはえこひいきをしていたかもしれないが、彼の行動は結果的にアイドル候補生ひいては初星学園全体の知名度向上に繋がっていることは、ここであえて述べるまでもなく証明されており────』

 

『やがて天道唯我は知名度を独り占めするべく、最後の略取戦略に打って出たのだろう。先日の〔ICF〕(アイドルコラボフェスティバル)では独壇場を演じ、アイドル候補生の視線を一身に集め、事実としてハーレム展開を築いたのだから。ほかにも男性アイドルは居たが、天道唯我と比べれば知名度は低い。保険を掛けるための隠れ蓑と、自分より面が良くない当て馬の、両方の意味で用意しただけだろう。そう、彼は自らのモテ度を利用した。はたしていったい何人のアイドル候補生が、彼の餌食となったのだろう。その証拠にエメラルドライブのあと、正門付近で女性アイドル候補生に泣きつかれている青髪の男性が目撃されており、ほかにも何人もの女性アイドルに囲まれていたという情報があった。これはいわゆる修羅場だと私は見ており────』

 

 アルファは一笑に付す。

 

「月村ァ! ……のせいじゃないな。完璧に俺のせいだ。つかこれホントに阿久井さんの記事か? 訴えようとしたら別人の記事で、倉本グループに名誉毀損の訴えでも起こして、なんとかブラックなとこを暴こうとしてんじゃ……えーっと阿久井さんの電話番号はっと……あれ? 通じない。電話中だ。もしや姑息な手を倉本グループに勘付かれたか? あー……ご愁傷様です……また懲りずに俺のアンチ記事を書いて炎上商法してくださいな……善村さんも、いちいちアンチ記事を潰しに掛からなくていいですから……そのぶん変な輩がコメント欄に集まるんですし……いや嬉しいんですけどネ! あまりご迷惑を掛けたくないと言いますか……! まぁ『それが仕事ですから』と返されるのも承知してはいるのですが……!! あーもう感謝感激雨あられっすね~……」

 

 アルファは時間を確認する。そろそろだ。

 スマホをしまって黒スーツの着こなしを確認。

 

 野外ステージの上に学園長が立つ。手元には黒い筒。

 たったひとりの卒業式が始まる。本来は体育館の使用を予定していたが、入学試験は野外ステージでやったのだから卒業式も同じ場所がいい、とアルファが述べていたことで、学園側はその意向に沿ってくれていた。

 

「────くん」

「はい!」

 

 野外ステージの段差を登り、学園長・十王邦夫から卒業証書を受け取る。

 近くでは、あさり先生や学園プロデューサーが見守っており、パチパチと拍手。

 

「うむ! 君の将来に、輝きが多からんことを……!」

「ありがとうございますっ!」

 

 お辞儀。クルッと回って段差を降りる。

 学園長が締めの言葉を述べる。礼。かくて卒業式は無事終了した。

 

「アルファくん! ご卒業、おめでとうございます!」

「ご同輩、おめでとうございます。よもや後輩が先に卒業するとは……」

「たしかに珍しいっすね! じゃあ先輩より先に卒業したことを、親しい人には自慢してもいいっすか?」

「……!」

「それは……まるで私が留年したように聞こえるので、やめてください……」

「はは! 冗談ですよ。この前のお返しです!」

 

 にこやかに笑い合うアルファと学園プロデューサーは、固い握手を交わす。

 

「俺の育てたアイドル達が、もっと遠く高く羽ばたけるように。どうか、よろしくお願いしまっす……!」

「はい。責任を持ってお預かりします。必ずトップアイドルへと導いてみせますよ。なにより君は、俺の夢にも協力してくれたわけですからね。ご友人」

 

 ふたりを見守るあさり先生は両手を合わせ、学園プロデューサーに友達ができたことを嬉しそうに微笑む。

 そこへ学園長が降りてきた。

 

「うむうむ! 青春じゃな! ──少年よ大志を抱け……やはり人は夢を抱き、自らの道を歩んで個性を磨くことで、健やかに成長できる! お主はすでに多くの初を経験しておるが、これから先もまた、星が無数にあるように、多くの初を経験するじゃろう。そのたび戸惑い、懊悩(おうのう)し……されど確固たる決意と覚悟があれば、お主は平気そうじゃの。そのまま心の赴くままに、お主だけの一番星へと向かうが良い。才知に満ちた若人よ!」

「はいっ!」

 

          §

 

 初星学園・正門前。

 アルファは男子寮へと帰る。引っ越しの身支度をするためだ。となりにはあさり先生。学園プロデューサーは教室事務所に戻っており、学園長たる十王邦夫も学園長室に戻ったようす。

 

「────……アルファくん」

「はい」

 

 横から呼びかけられた。故に視線をやったアルファは、ほっぺに柔らかい感触を受ける。

 

「────っ……!?」

「ふふ。先生からの出血大サービスです! それではアルファくん。どうか、お元気で!」

 

 羞恥心を隠すように微笑むあさり先生は、手を振って後者に早歩きで去っていく。

 その後ろ姿を見届けるアルファは、最後の最後にやり返されたと悔しがりながら、にやけてしまう。

 

「くっそぉ……今のは反則だろぉ。だって可愛すぎるってぇ……あさり先生ぇ~! 聴こえてますぅ~? 聴こえてますよねぇ~!!」

 

 あさり先生は耐え切れなくなったのか、とたとたと慌てて走り出す。

 それを笑って見送ったアルファは、誓約を満了するため家路に急いだ。

 

          §

 

 放課後のアルファ邸。

 週一から週二の頻度で帰宅していたが、いずれも一夜を明かしたことはない。そのため実質、約三ヶ月ぶりの帰宅を果たす。

 

「ただいまぁ~」

 

 荷物は手に持てる程度しか存在しない。ノートパソコンのみである。

 家具などは、すべて最初から用意されていたもの。着の身着のままでバスや電車を乗り継いできた。

 

「────お、おかえりなさい!」

 

 小宮果穂の明るい声と駆け足が、リビングから廊下に向かってくる。

 何やら緊張している声色。どうしたのだろうと、アルファは疲弊のため息を吐(つ)きつつ面を上げた。

 

「応────……って……」

 

 目を見張る。目を奪われる。目の中に入れても痛くない。

 明らかに、いつもよりオシャレしてきた服装。年頃の淑女のような、遊び心も取り入れた清廉(せいれん)な恰好が薄闇の廊下に淡く輝く。また、そのチョイスはアンティーカ味を感じてならないが、小宮果穂に似合うポイントを理解し尽くした選択(チョイス)でもある。おそらく田中摩美々と白瀬咲耶の協力があったのだろう。加えて服に合う髪飾りなどは、もしやアルストやシーズなどが協力したか。

 

「……果穂。かわいい」

「──! ……っ……」

 

 自信満々の勝負服。素直に言うと、褒めてくれると分かっていた。それでも褒めてくれるとやっぱり嬉しい。嬉しいのなら感謝して笑おう。普通ならそうなる。だけど恋とは、やはりふしぎなものだ。

 褒められるか不安だった。褒められると嬉しいのに、なぜか目を逸らしてしまう。直視できない。いつもと違う行動を取ってしまう。どうしてだろう。胸の奥がギュッとして痛くなる。痛いことはイヤなことのはずだが、なぜか全然イヤではない。相変わらず慣れないドキドキである。

 

「……かわいい」

「っ!? わ、わかりました、から……!」

「やぁやぁ小宮。なぁなぁ果穂よ。お前さんは、なぜ、そんなに、かわいいんだい? 頼む、教えてくれ……俺は三ヶ月もの禁欲生活でおかしくなっている……禁断症状かもしれない……性欲が湧かないんだ……かわいすぎて理性が飛びそうだ……」

「……?!」

 

 襲ってこないのはありがたいが、理性が飛ぶということは、やはり襲ってくるということなのではあるまいか。

 アルファはその後も意味の分からない童謡のような言い回しで呟きつつ、精神状態が真剣に心配になるレベルで独りごち、ソファに寝込む。

 

「あ、アルファ、さん……?」

「果穂。確認だ。俺は……もうプロデューサーじゃないんだよな?」

「……そうだって、アルファさんから、聞いてますけど……?」

「なら俺は、先達の誓約を果たしたということで、よろしいのですよね……?」

「は、はい……たぶ、ん……?」

 

 なぜいきなり敬語。急にアルファはバグったようにおかしくなった。小宮果穂は心配する。

 だがそう焦るようなことではない。理由は単純。アルファは性欲が爆発しないように、おどけることで欲情を抑えているだけだった。──少なくともアルファは、そのつもりである。

 

「果穂。その服を汚したくない……意味わかるか?」

「……、────?! っ……も、もう……っ! アルファさーん……!」

「ははっ! ──さて、できればお前の方から来てくれ……いつでもいい……なんなら俺が寝た時に頼む……たぶん起きてる時に襲われたら、マジで三日三晩は相手してもらうからな……」

「むぅ……えっち無しで、おしゃべりして過ごしたり、ゆっくりくつろいだりすることは、できないんですか?」

「無理」

「即答……」

 

 ならば仕方がない。

 それに以前のアルファなら、既に問答無用でおっぱじめているところである。

 

 どうやら大学生活の中で、色々と変化があったようす。

 

 小宮果穂は思う。

 もしかしたらアルファさんは大学を卒業したことで、ひとつ大人になったのかもしれない。では、なぜそう思うのか。これはあくまで想像だが、アルファさんはどことなく大(・)人(・)に(・)な(・)れ(・)な(・)い(・)ス(・)ト(・)レ(・)ス(・)を、エ(・)ッ(・)チ(・)な(・)こ(・)と(・)で(・)発(・)散(・)しているように感じられたのだ。でなければ、ここまでえっちが好きな説明が付かないと思う。もちろん好きなことに理由は要らないのだが、それにしては度が過ぎているようにも思えたのだ。

 

「……添い寝、するだけですよ?」

 

 小宮果穂は、好きな人の横に寝そべる。

 たくましい腕を引っ張って枕にし、可愛い服を気にしてホコリを取りつつ、丸くなって就寝する。

 

 ……すると徐々に、相手からのちょっかいが増えてくる。

 頭を撫でて、髪を撫でで、耳に触れて、ほほに触れて、鼻を押したかと思えばあごをくいっと持ち上げて唇に触れるか触れないかの感触。

 

 ドキドキは突破してムズムズに。

 アルファさんは、人をえっちな気分にさせる天才である。

 

「……がおー!」

 

 覆いかぶさってこしょこしょ攻撃。

 ふたり分の笑い声が上がる。

 

「アルファさん! 大学生活の話、聞かせてください!」

「そうだなぁ……何を話すかなぁ……」

 

 夕焼けに燃えるリビングで、日が暮れるまでソファベッドの上で語り合う。

 いつもの日常が戻ってきた。長い三ヶ月だった。やはり離ればなれになることは寂しいと知る。

 

 だからこそ尊く思う。

 

「────ってことがあってさぁ……」 

「えへへ……!」

「いま笑うとこだったか? まぁいいや。そんでさ────」

 

 一向に手を出してこない。

 楽しそうに大学生活を話してくる。それ自体は嬉しいこと。

 一抹の寂しさを抱くものの、幸せそうな姿を見るだけで、こちらまで元気になってくる。

 

「……よかったですね、アルファさん!」

「ん? ああ、そうだな……果穂と、果穂のお兄さんと、周りの人達のおかげだよ。ほんと、ありがとな……」

 

 アルファは満足したようにあくびをする。

 そのまま眠ってしまった。

 

「……………………」

 

 目を細めて頬を染める小宮果穂は、うんと背を伸ばして顔に接近。

 その唇を食む。なぜか下腹部が熱い。もじもじとしてしまう。すると起き上がって当たってくる固いもの。困ったものだと舌なめずり。こてんと首をかしげて、心臓の鼓動を聴く。背中に手を回してギュッと抱きしめる。熱い体。火照る気持ち。始めるか始めないかのギリギリを心に問いかけ続けて、やがて始めないことを選ぶ。なぜなら、どちらを選んでも幸福だから。

 

 ただ、今は、始めない。

 それだけ。

 好きを確かめ合う方法は、なにも言葉と肉体だけじゃない。

 

 ただ一緒に居ることだって、とても大事な方法なのだから。

 

          §

 

 それはそれとして。

 夜になってから朝になるまで、信じられないほど突かれ続けたことは、また別のお話である。

 

 

 

     学マス編・完

 

 

 







 あとがき



 ☆通知表☆

 プロデューサー名:────(通称:アルファ)

 総出席日数:80日
 総プロデュース回数:52回

 最初にプロデュースしたアイドル:篠澤広
 最初に講堂出演(Normal End)をみたアイドル:篠澤広

 プロデュースしたアイドル:篠澤広、月村手毬、倉本千奈(依頼契約)、藤田ことね(特殊契約)、葛城リーリヤ(非公式)、花海佑芽(非公式)、有村麻央(非公式)、花海咲季(移籍)、ほか46名(非公式:秦谷美鈴、賀陽燐羽など)

 プランごとのプロデュース回数
 センス 9回:月村手毬、花海咲季、ほか7名
 ロジック 39回:篠澤広、倉本千奈、藤田ことね、花海佑芽、ほか35名
 アノマリー 4回:葛城リーリヤ、有村麻央、ほか2名

 取得した単位(アチーブメント)数 ※卒業に必要な単位数は「アイドルとプロデュースの二項目を合わせた50単位」です※
 篠澤広 17単位:「マスターアチーブメント」「ずっと、楽しいね」「課題達成」「倒れなかった回数」「辛いほどいい」「一番向いてない仕事」「初契約(ふぁーすとすかうと)」「茨の道」「次の課題はなに?」「放っておけない」「まだ見捨てない?」「才能なしでもやれること」「苦難こそ喜び」「ミステリアスガール」「本気の趣味」「光景」「わたしとみんながワクワクする歌」
 月村手毬 7単位:「体質改善」「ストイック」「失望させないで」「意地とプライドとインコくん」「どこまでも高く」「孤高の負けず嫌い」「歌姫」
 倉本千奈 7単位:「スタートライン」「ぶっちぎりで最下位ですわ!」「落ちこぼれからの挑戦」「一歩一歩成長中!」「天真爛漫」「ダメダメだって頑張ってる」「いっしょけんめい」
 藤田ことね 8単位:「イチバンかわいい」「仕事は仕事」「成り上がれ!」「秘めた才能」「初星学園の看板娘」「軽快ステップ」「Colorful Cute!」「カワイイ♡はじめました」
 花海咲季 8単位:「もう逃げない」「入学試験主席の力よ!」「不死鳥のアイドル」「小さなお姉ちゃん」「無限の向上心」「オールラウンダー」「絶対に負けない」「Fighting My Way」
 プロデュース 9単位:「テクニシャン」「サポート上手」「水分補給」「準備万端」「創意工夫」「学園生活」「指導上手」「常連さん」「敏腕プロデューサー」
 ┗合計56単位 ※卒業に必要な単位数「50単位以上」の取得を確認しました。卒業可能です※
 その他 108受賞(アチーブメント):「初星学園へようこそ」「がんばりや」「ルーキー卒業」「下積み」「青二才の努力」「期待の新人」など~~~~「全授業修了」「初の講堂ライブ」「倉本爺の依頼達成」「アイドル根緒亜紗里の誕生」「極悪の秘密結社アルティメットムーンスクールの撲滅」「大型イベント企画『ICF』達成」「飛び級卒業」など

 プロデューサーLv.30
 単位/受賞(アチーブメント)の総取得数:164回
 ファンサ指導(スキルカード使用)回数:3996回
 担任(あさり先生)への相談回数:117回
 お出かけ/授業回数:244回
 活動支給/差し入れ回数:32回
 合計獲得Pポイント:18,272Pt
 Pドリンク獲得回数:326回
 Pアイテム獲得回数:167回

 データ取得 XX/06/23時点


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