※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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日常編④ 副題〔広がる日常〕



日常編④ 副題〔広がる日常〕
pSR【やっほ】篠澤広


 

 七月中旬。

 休日の朝方。

 

 電車に揺られてバスに揺られて、オフィス街の中心で下車。

 スマホの地図アプリとにらめっこして、女子寮を出てから小一時間とかからず目的地に到着。

 

 改めて、合鍵と共に握り込められたメモを見やる。

 

『〒xxx‐xxx XX市 xxx番地 501号室』

『来る時は連絡してください』

 

 連絡はしていない。

 アポなし突撃である。理由は色々。一つは驚かせてみたい。一つはほかの女がいるなら見てみたい。

 

 篠澤広は、高層マンションを見上げる。

 

「ここがナンパ男(プロデューサー)の伏魔殿(ふくまでん)……」

 

 エントランスに入る。合鍵でゲートを開けてロビーに入る。セキュリティゲートを通って廊下を渡り、エレベーターに乗って五階に到着。501号室の玄関前で、胸に手を当て深呼吸。鍵穴に合鍵を差し込んで回す。解錠。重い扉を開けることに手間取る。体力の五割を消費。なんとか重い扉を開けて入室。

 

「おじゃまします」

 

 上がり框の手前を確認。靴は一足しか存在しない。

 赤く活発でガーリーな靴だ。もしや小宮果穂の靴だろうか。

 

 鍵を閉める。靴を脱いで上がり框を越える。薄暗い廊下を歩く。家の中は全て消灯されている。もし折り悪く、明かりがない中でよろしくやっているとするなら、かなり気まずい。脳と心が掻き混ぜられて、泣いてしまうかもしれない。

 

 リビングに続く扉を開けると、カーテンのないベランダの窓から朝日の名残りが入ってくる。

 次の瞬間、大きなソファから人影が飛び上がった。

 

「アルファさん! おかえりなさ────」

 

 元気に笑顔で登場したのは、小宮果穂である。

 篠澤広は真顔で佇み、申し訳ないと会釈する。

 

「プロデューサーじゃなくてごめんね。わたしだよ」

「────え、広さんっ!? なな、なんでぇ……?!」

 

 小宮果穂は大混乱。

 初めてアルファ邸で友達と遭遇したかもしれない。

 

「おじゃまだった?」

「っ……!! い、いえっ……! ……? あ、えっと、その……」

「……ふふっ。ごめんね。今のは意地悪な質問。邪魔なのは当然」

「──! っ……」

 

 あの純粋無垢で天真爛漫な赤毛の少女が、これといって否定しない。

 彼女も乙女だ。きちんと勘づいているのだろう。篠澤広が恋(・)の(・)ラ(・)イ(・)バ(・)ル(・)であることを。

 

「プロデューサーは?」

「……お、お買い物に……行ってます……────そ、それより、広さん! ここに来たってことは、まさか……っ!」

「うん」

 

 篠澤広は合鍵を見せびらかす。

 

「はっ! そ、それは……!!」

「この前もらった」

「っ!!? と、ということは……広さんは、アルファさんの、こ、こ……恋(・)人(・)、に……っ!?」

 

 小宮果穂はドキドキしながら問いかける。

 対する篠澤広も、相手の赤面を受けて共感したのか、余裕ありげな顔を維持できなくなってきた。

 

「ううん。わたしはアイドルだから恋愛できない」

「……!」

「でも────恋人にはなれなくても、恋(・)人(・)以(・)上(・)の(・)関(・)係(・)に(・)は(・)な(・)れ(・)る(・)」

「!!」

 

 小宮果穂は思う。

 アイドルだから恋愛できない、というのは、本当にそうだろうか? かつてその手の話題で悩んだことがある。明確な回答は用意できていないが、ファンとの絆を大事にしていれば特に問題はない、という結論に着地した覚えがある。

 無論、その手の話題に関する回答は人それぞれ。篠澤広は、いわゆる旧態依然とした一般論を重視しているようす。

 

 一方、篠澤広は思う。

 アルファは、アイドルは恋愛できない、というポピュラーな考えを持っているわけではなさそうだ。それは本人のプレイボーイ(恋人が複数いる)発言から分かること。故に、これはま(・)っ(・)た(・)く(・)の(・)偶(・)然(・)ではあるが……アルファの性格とアイドルの方便は、すこぶる相性が良いのかもしれない。

 

「わたしのプロデューサーは、肩書きに囚われないことに囚われている。過去に何があったのかは分からないけれど、それは重要ではない。み(・)ん(・)な(・)仲(・)良(・)し(・)な(・)ら(・)そ(・)れ(・)で(・)い(・)い(・)……その考え方は、プロデューサーの良いところだから仕方ない。そして、そういうところがアイドルと相性いいのかも」

「……?? アイドルと……?」

「プロデューサーは皮肉と詭弁が好き。つまり彼は“恋人”とか“夫婦”とか、そういう口約束や法律上の契約にうんざりしている。そして──アイドルは恋人を作ってはいけない。そういう文化がある──と、わたしは聞いている。だから、ね?」

 

 かたや肩書き(こいびと)の関係性に囚われないでいる。

 かたや肩書き(こいびと)を作ることを禁じられている。

 

「わたしは理解した。心(・)で(・)通(・)じ(・)合(・)う(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)れ(・)ば(・)、た(・)し(・)か(・)に(・)そ(・)れ(・)だ(・)け(・)で(・)い(・)い(・)」

「!」

「この国の法律に反していても、人としての道徳に反しているわけではない。……うん。改めてこう口にすると、わたしのプロデューサーは実に破天荒。相対的な価値観に縛られず、絶対的な価値観を通している。社会の枠に収まらない人物。……たぶんそれで色々と、苦労しているだろうね。アウトロー……とまでは、行かないだろうけど」

「…………」

「そしてプロデューサーにそ(・)の(・)つ(・)も(・)り(・)は(・)な(・)い(・)だろうけど……肩書きに囚われない彼の性格と、わたしたちアイドルの不文律である恋愛禁止は、非常に相性がいいと思う。これは、もしかしたら運命かも? ふふん……」

「……!」

 

 無論、実質恋人やら事実婚など、ありとあらゆる概念が存在する。ほかにも挙げ出せばキリがない。

 そのため詭弁方便のたぐいであることは先刻承知。ファンの人達には悪いが、それでも走り出すこの恋情は止められない。

 

「これがわたしの答え。……果穂は、どういう考えでプロデューサーの友(・)達(・)をやってるの?」

「────…………い、いっしょにいたいから、ですっ!」

「……うん。そうだね。わたしも色々と語ったけど、それは難しく考え過ぎているだけ。友達と一緒にいることに理由は要らない。好(・)き(・)で(・)い(・)る(・)こ(・)と(・)に(・)理(・)由(・)は(・)要(・)ら(・)な(・)い(・)」 

「!! ────はいっ! そうなんですーっ! 大好きなことは、大好きー! って! 言えばいいんですっ!」

「────うん!」

 

 小宮果穂と篠澤広は、満面の笑みで喜び、うなずく。

 その時、玄関の扉がガチャガチャと開けられた。

 

「ただいま~──って、この靴は……」

 

 廊下側から足音。リビングに通じる扉を開いて、アルファが帰宅してきた。

 

「アルファさん! おかえりなさーい!」

「やっほ。来ちゃった。お邪魔してる、よ?」

「……──ただいま。そしてお久しぶりです篠澤さん。お茶入れましょうか?」

「! それなら、あたしが入れます!」

「ありがとう。でも水がいい。すでに体力の六割を消費している……どこかに座って休みたい……」

「ならばそちらのソファへどうぞ。倒してベッドにすることもできますよ。──果穂、スポドリを渡してやってくれ」

 

 篠澤広はソファに落ち着く。小宮果穂はスポドリをプレゼント。アルファは買ってきたものをそそくさと隠す。客人には見せられないゴム製品だ。

 篠澤広は水分補給して少し休むと、すっくと立ち上がって歩き回り、部屋の物色を始めた。

 

「この段ボール箱の山は何? 奥にも積まれてる。ちょっとした迷路みたい」

「はい! ぜんぶ特撮ヒーローやロボット物のDVDなんですーっ!」

「プロデューサーの趣味ってニチアサ系だったんだ。初知り。リーリヤとメカ談議をしてるところはたまに見かけたけど……うん。いいね。プロデューサーのこと、もっと知りたい」

「それならヒーロー部屋に案内しますっ!!」

 

 小宮果穂と篠澤広は、アルファ邸の案内と探索を始めた。

 ソファでくつろぐアルファは、ふたりを放置する。どちらも自分と仲は深いが、果穂と広の関係はまだ浅い。ここで女同士の親睦を深めてもらうべく、邪魔立てしないように立ち回るようだ。

 

 

 

 (リメイク版) アルファ邸・間取り。

 

┌────────────────┐

│      ベランダ      │

├━━━━━━━━━━━━━━━━┤

│          段箱 段箱 │

│TV 座 ソファ    段箱 段箱 │

│台 卓 ベッド    段箱 段箱 │

│                │

├─┰──━━┓ ┌○○○○┬──┘

│押┃    ┃    台所│

│入┃ 和室 │ │棚  IH│

│れ┃ 仏壇 │ │棚  冷│

├─┸────┤ ├───┬┘

│      │ ┃ 便所│

│      ┃ ├───┤

│ ヒーロー ┌─┤ │洗濯洗│

│ 部屋 ┃クロ│ ┃  面│

│    ┃ー│ ├─━─┤

│    ┃ゼ┃ │ 風呂 │

│    ┃ット┃ │大浴槽│

└─窓窓─┴─┴━┴─窓─┘

 

 

 

 小宮果穂と篠澤広は、和室の仏壇から風呂場の大浴槽まで、隅々を探索する。

 小一時間ほどでリビングのソファベッドに帰ってきた。

 

「ふぅ……まんぞく」

「えへへ! よかったですっ!」

「ふたりとも楽しそうで何よりですが、男の家を物色して満足する変態性についてはノーコメントとしておきましょう」

 

 小宮果穂は額面通り受け取ってあわてふためくが、篠澤広は蔑みの視線を受けて恍惚と微笑む。

 

「ご、ごめんなさい! アルファさん!!」

「ふふ……果穂、心配いらない。今のはプロデューサーの照れ隠し」

「え、そうなんですかぁ……?」

「いじわる。性悪。いたずら好き。悪魔、鬼教官、スパルタの擬人化。全てが果穂と正反対。でも、そういうところが好き……」

「ありがとうございます」

「っ!? アルファさん……ひどいこと、たくさん言われたのに……お、お礼を、言っちゃうんですか……!?」

「ふふ……果穂もそういうところ、すごいかわいい……」

「わかります」

「えぇっ!? えぇ……?」

 

 小宮果穂は訳が分からずドン引きする。同時に、なんだか悔しくなってきた。アルファと篠澤広の間だけで分かり合うような、大人の雰囲気を感じる。

 

「むぅ~! ……あたしも大人になったら、おふたりが何を分かり合っているのか、分かるようになるんでしょうか!?」

「果穂。悪いがそれは……大人になる、というよりも……」

「……よごれる?」

「よごれるっ!? ど、どういう意味ですかぁ……?!」

「家に帰ったら『性癖』について調べるといい。直接的な答えにはならないけど」

「うわぁ……プロデューサー、小学生にそういうこと教えるんだ……」

「『セイヘキ』……わかりました! 広さんがそういう反応をするってことは、きっとえっちな言葉なんですねっ! お母さんには内緒で調べますっ!!」

「大丈夫ですよ、篠澤さん。果穂は何も分からず帰ってきますので」

「そういう問題じゃないと思う……」

「っ! た、たしかに調べても、よくわからないことは多いですけど……いつか、わかるようになりますっ!」

 

 色々とズレた会話の応酬。

 アルファは一笑に付して、篠澤広は少年にドン引きしつつ少女の将来を心配し、小宮果穂はやる気満々の姿勢。

 

「ところでプロデューサー」

「はい。なんでしょうか?」

「一応わたしは、アイドルとして元プロデューサーに助言をもらいにやって来た……という体(テイ)で、今ここに居る。だから、事務所に戻った時に有益なアドバイスをもらえた話をしないと、新しいプロデューサーに幻滅されちゃう。だから……質問する、ね?」

「なるほど」

「わたしがアイドルになれる確率を知りたい」

「篠澤さんは既にアイドルですよ。極論、名乗ればそれになれます。さらに歌って踊れば、それだけでアイドルです」

「そうだけど、その上で数値化してみたい。どう?」

 

 ならばとアルファは考える。

 

「……約3.5%」

「その方程式(ココロ)は?」

「283プロを参考にしました」

 

 ────問題。とある少数プロダクションに28人のアイドルがいます。そのうち1名は『なんもできない人』です。『なんもできない人』は『篠澤広』にとても近しいアイドルと言えます。さて、篠澤広がアイドルになれる確率は?

 ────数式。『1人÷28人×100分率=3.57~』=『3.5%』

 

「という感じでしょうか」

「なるほど。わたしが遠回しに『なんもできない人』にされているのは、事実だから言及は避ける。それはそれとして、プロデューサーは283のことをよく知っているから、それは信頼できる数値だと思う」

 

 篠澤広は「3.5%か……」と独りごつ。すると「ふふ。ままならない、ね?」と微笑んだ。

 いつも通りのチャレンジャースマイルである。

 

「ありがとう、プロデューサー。納得した」

「それは良かった。なんなら283プロデューサーと学園プロデューサーの才能も数値化して比較しましょうか?」

「……それは、いい。わたしは今のプロデューサーを信じている。わたしの『趣味』には困っているみたいだけど、理解は示してくれた。ありがたい趣味仲間」

「それは何より。篠澤広は、おそらく月村手毬に次いで、二番目にプロデュースが難しいアイドルですからね。あなたの資料を多めに残しておいて正解だった」

「そうだったの? ふふ……わたしのプロデューサーは、心配性……」

 

 一方の小宮果穂は、アルファと篠澤広(ふたりだけ)の空間に思うところはありつつも、283プロにおける『なんもできない人』とは、いったい誰なのだろうか考える。あごに手を置いて真剣に悩む。

 

(う~~~~~~ん……そんな人は、いないと思うんだけど……?)

 

「果穂が不服そう」

「私も名誉のために実名を挙げるのは避けますね。まぁ本人がこの場にいれば、間違いなく自分だと名乗り出て、凄まじく落ち込むのでしょうけど」

 

 やがて篠澤広は振り向き、アルファの横顔をジッと見つめる。

 

「ありがとう。これでノルマ達成」

「ではどうぞお帰りください」

「……プロデューサー。嘘つくのはダメ。全然帰ってほしそうな顔してない」

「ならばそちらも、ノルマ以外の目的もさっさと達成してください」

「っ……! …………やっぱり、プロデューサーは、いじわる……」

 

 篠澤広は赤面する。もじもじ、もじもじ。なかなか勇気が出てこない。

 小宮果穂は訝しんだ。これは明らかに恋(・)す(・)る(・)乙(・)女(・)の(・)顔(・)である。

 

「……プロデューサーは……わたしのこと、好き?」(好きなら、どこが……? とは、まだ聞けない……)

「容姿も性格も好み(タイプ)ではあります」

「! うれしい……相思相愛?」

「しかしまだお互いのことをよく知りませんからねぇ……まずは同棲でも始めて、色々な相性を見定めたい」

「そういうことなら、ご褒美としてではなく、友達として……そろそろ遊(・)園(・)地(・)デ(・)ー(・)ト(・)の予定を煮詰めよう」

 

「!?」小宮果穂は目を丸くする。事態についていけない。

 

「場所は決めてある」

「どこへだろうと付いていきますよ」

「変装は、ひとつ名案がある。プロデューサーも変装するとして、さらにわ(・)た(・)し(・)も(・)男(・)装(・)す(・)る(・)……」

「それは無茶すぎます」

「だからこそ、面白い」

「“面白い”で炎上のリスクを高めないでください」

「近くにブティックとかある?」

「行きつけの場所があります。──たしか果穂もこの前行ったよな? ほら、黒いパーカーのやつ」

 

「! あ、はい……で、でもあれは……」

 

「ふたりとも洋服屋さんデートしたんだ」

「いえ。あれは離別一歩手前のケンカかと……」

 

「っ……!?」(あ、アルファさん! それ、言っちゃうんですかぁ……!?)

 

「なるほど。さすがに果穂も耐え切れない時があるんだ」

「篠澤さんは耐え切れなくなったら、俺に何すると思います?」

「わからない。こんな気持ち初めてだから。でも背中から刺すようなマネはしないから安心して」

「仮に刺してきても撃退できるので、そのへんも安心してください」

 

 アルファは死んだ魚のような目で微笑む。

 篠澤広はむすっとして腕を組んだ。

 

「本当に誰も信じていない、ね?」

「失望しましたか?」

「うーん……むずかしいところ。あなたからの信頼は、今まで確かに感じていた……だからこそ、矛盾する。あなたは他人を信(・)頼(・)し(・)て(・)い(・)る(・)の(・)に(・)信(・)頼(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)……これはどういうことなのか、考えても考えても分からない。だから今日は、それも聞きに来た」

「それは単純なことですネ。おそらくは、裏(・)切(・)ら(・)れ(・)る(・)ま(・)で(・)は(・)信(・)じ(・)て(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)、でしょうか」

「……──続けて」

 

 アルファは語る。

 

「基本的に他者は信じて用います。それはそれとして裏切ってきた時のために保険はかけておきます。ただし保険の存在がバレて『アルファは自分のこと信じていない!』などと指摘され、お互いの信頼関係が崩れそうなら……保険なんてものは用意しません。最後まで信じて頼ります」

 

 アルファは背もたれに寄りかかる。自重で沈む背もたれの傾きに引っ張られて、両側に座る小宮果穂と篠澤広の体が少しだけ引き寄せられる。

 

「やがて本当に裏切ってきたら、当たり前のようにボコします。そして裏切り者が反省すれば、再び信じて用います。そして『こいつは一度裏切った』という前科を利用することで、バレても信頼関係が崩壊しない保険を仕掛けます。────話はそれだけ。あとは、それの繰り返しです」

「…………なるほど。つまり完(・)全(・)な(・)寛(・)容(・)性(・)か(・)ら(・)く(・)る(・)コ(・)ミ(・)ュ(・)強(・)の(・)対(・)話(・)法(・)だ。裏切るまでは完全に味方。裏切ってきたら完全に敵。そして喧嘩したあとに待つ展開は仲直り一択。裏切り者は許して、再び味方として扱う。そしてまた裏切ってきても、喧嘩→仲直り→味方化……これを繰り返す」

 

 篠澤広は呆れたように溜め息をついた。

 

「寛(・)容(・)性(・)が(・)柔(・)軟(・)す(・)ぎ(・)る(・)。今までどんな波乱万丈の対人関係を築いてきたの?」

「秩序から中立を経て混沌まで。善性から中庸を経て悪性まで。人の形をした獣どもが星を見上げながら泥の海に沈む光景まで。天に祀られる神仏から、地に蔓延(はびこ)る百鬼夜行まで。それはもう、よりどりみどりの人間性と折衝(せっしょう)してきました。これはそんな泥船の旅路で培った、呪われた土地の賜物(たまもの)ですかネ!」

 

 自分の過去を話す時のアルファは、ひどく道化を演じる傾向にある。

 苦しそうな顔を隠すために笑顔を作り、今にも吐き出しそうな辛さを隠すために滑稽を歌う。

 

「……ちょっと闇がある年下系プロデューサーは、い(・)け(・)る(・)ク(・)チ(・)」

『……!』

「この前は泣いちゃったけど……あれは突然の情報の濁流に、ちょっとびっくりしただけ。もう落ち着いた。そして考えた。わたしはプロデューサーの価値観とうまく付き合えるのかどうか……それはまだよくわからない。だからこそ、わ(・)か(・)る(・)た(・)め(・)に(・)や(・)っ(・)て(・)き(・)た(・)」

『────!』

「わたしはプロデューサーのことを知っているようで何も知らない。たった三ヶ月の付き合いなんだから当たり前だけど、それを改めて思い知った。だから、これからも、もっと深く知っていきたい。……いいよ、ね?」

 

 篠澤広は問いかける。

 いちいち語尾に読点を付けて小首をかしげるのは、もしや自分の可愛さを発揮するためだろうか。そのあたりもまた、アルファはまだまだよく分からない。だからこそ、深く知っていくために、人として付き合い続けていこう。

 

「ありがたいことです」

「畏まる必要はない。わたしも千奈と佑芽が友達なのかどうか、しばらく考えていた時期がある。それと比べれば、あなたのそれは根深いけど、でも似たようなもの。わたしは気にしない。小難しく考えるのは、割と似た者同士だから」

「類は友を呼ぶって? そうでなくとも、やはり嬉しいものですね。ツーカーの仲というものは」

 

 アルファはソファから立ち上がる。

 

「それでは果穂、篠澤さん。行きましょうか。私行きつけのブティックへ」

『……!』「はい!」「うん!」

 

          §

 

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