【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
正午の初星学園。教室事務所。
長机に着いて向かい合うアルファと学園プロデューサーは、黙々とオセロを打っていた。
「賀陽燐羽・有村麻央・花海佑芽・倉本千奈・葛城リーリヤ……以上5名を《学P:無自覚系やる気の三次参加者》に
「いやいや、ご同輩……それはさすがに……賀陽さんは違うでしょう? せめてDでは? その位置だとCだ」
「分かってないっすね~。高長身丁寧語で性格キツめの年上系教導者に惚れない女は世にいねーんすよー!」
「……そういうご同輩も似たような属性持ちではないですか。眼鏡の付け外しはギャップなのでは?」
「それは先輩も似たようなものでしょう。俺は先輩に眼鏡の付け外し
「……では、私の手番です」
(否定しないのか……ちょっと意外だ……)
学園プロデューサーは白いオセロを打つ。黒を挟んだオセロをひっくり返していきながら語り尽くす。
「十王星南・紫雲清夏・鈴木羽那・樋口円香・浅倉透・和泉愛依・黛冬優子・桑山千雪・大崎甘奈・杜野凛世・三峰結華・月岡恋鐘……以上の十数名を、《168P:ほかにいる系の不参加者》にオールインです」
「まぁ当然っすね~。……先輩、なかなかの審美眼をお持ちで?」
「人を見る目。人と人の関係性を見る目。どちらも養わねば一流のプロデューサーとは言えません」
「さっすが~! んじゃ次は────」
「────はい。同時に……」
アルファと学園プロデューサーは、それぞれ黒と白のオセロを打つ。同時に打ってしまったので、どれがどれを先に裏返したほうがオセロのルールに抵触しないのか分からない。つまり、彼らは明らかに────
「そうっすね~……善村記者・芹沢あさひ・大崎甜花・小宮果穂の以上4名は、《283P:それより系の不参加者》で」
「同感です。では……福丸小糸・幽谷霧子・白瀬咲耶・田中摩美々の以上4名は、《283P:そういうのは系の不参加者》で」
「刻みましたね~?」
「刻んでいきます。歴が深い関係性ともなると、この程度の段階分けは大切でしょう」
「道理です」
「君のターンですよ」
アルファは黒のオセロを打つ。ひっくり返しながら滔々と語る。
「十王星南・紫雲清夏・秦谷美鈴・月村手毬・篠澤広……以上5名は《学P:そこそこやる気の二次参加者》でステイルメイト」
「異議有り。月村さんと篠澤さんは……その……本当に?」
「前者はともかく後者は既にお気づきでしょう。──あ、ちなみに先輩は下ネタ嫌いですか?」
「……下卑たものは唾棄すべきと断ずる性分ですが……まぁ、可もなく不可もなく……」
「俺と先輩と篠澤さんで(3P)ってのはどうです?」
「今のは聞かなかったことにします」
「ごめんなさいっ! ……でも割とあのヒト悦ぶと思いますよ?」
「だから困っているんですよっ…………!!」
「ご愁傷様で~す」
「君は楽でいいですね……」
「卒業しちゃいましたからね~? 優秀だったから────
「
「おっ腕まくり。これはヤバイか……?」
学園プロデューサーは右腕の袖を肘より上までまくりあげて白のオセロを強く打つ。渾身の一刀両断であった。
「賀陽燐羽・秦谷美鈴・有村麻央・斑鳩ルカ・緋田美琴・七草にちか・福丸小糸・市川雛菜・大崎甜花・有栖川夏葉・西城樹里・幽谷霧子・白瀬咲耶・田中摩美々・八宮めぐる・風野灯織・櫻木真乃の以上十数名を《168P:そういうのは系の不参加者》に任命します」
「いや~? 白瀬さんと有栖川さん以外は、やろうと思えば落とせるけどなぁ~?」
「まだ俺のターンですよ」
「げっマジです?」
「花海咲季・葛城リーリヤ・倉本千奈・郁田はるき・芹沢あさひ・園田智代子の以上6名を《168P:無自覚系やる気の三次参加者》としてリーチ。
「いやいや! あさひ先輩と咲季さんはないっすよ! 園田さんなんて論外だって!」
「あなたの目は節穴ですか? あなたにその気がなくとも
「うわうわ! うっわぁ~……! ……──えっマジ? 具体的にどのへんが?」
「私はそちらの交流をよく存じ上げませんが、今までのご自身の振る舞いを振り返るというのはいかがでしょう?」
アルファは唇の下を親指と人差し指でつねるように視線を逸らして考え込む。かなり怪訝な表情だ。
「やろうと思えば落とせる、の筆頭候補?」
「キッカケさえあれば、という話です」
「なら気をつけないと……
「面白いジョークと慣用句ですね」
「やはり時には別の視点も重要か……ちょっとまだ信じられないけど参考になりました。お礼にこれ
「ではお言葉に甘えて」
「そんじゃ次は────」
「────また同時、ですね」
アルファと学園プロデューサーは、白と黒のオセロを名前の数だけ適当にひっくり返していく。もはやオセロの盤面はまだら模様だった。
「樋口円香・黛冬優子の2名は《283P:既に勝利確信系の最終参加者》でダブル役満の
「郁田はるき・斑鳩ルカ・緋田美琴・和泉愛依・有栖川夏葉・西城樹里・園田智代子・八宮めぐる・風野灯織・櫻木真乃の以上10名は《283P:無自覚系やる気の三次参加者》としてツモ」
「どちらかといえば
「たしかに」
「では────」
「────レンチャンですね」
「確変とも言う?」
「ハーフタイムでも構いませんよ」
「七草にちか・七草はづき・市川雛菜・桑山千雪・三峰結華の以上5名は《283P:そこそこやる気の二次参加者》で
「鈴木羽那・浅倉透・大崎甘奈・杜野凛世・月岡恋鐘の以上5名は《283P:全力やる気満々の一次参加者》としてチェックメイト」
「出たぁ! バトルドーム!
「誰が単騎なんです?」
「そこを論じたら戦争ですよ先輩?」
「……失敬。致命的な失言でした」
「ひとつの失言が戦争につながる……愚か愚か。これだから痴情のもつれは……」
「いま裸になって後ろ向いてくれます?」
「おっことわり~!」
背中の刺し傷は数えさせない。
攻守交替。アルファのターン。黒のオセロを盤外に打つ。
「根緒亜紗里────」
「トラップカード発動」
「────んなにぃ!?」
学園プロデューサーは胸元の内ポケットからトレーディングカードゲームのパックを取り出す。二本の指でつまんで長机の上にひらりと叩き、そっと差し出す。
「これで私のターン増加です」
「バリア! バリア!!」
「効きません」
「じゃあせめてなんのカードパックか教えてくださいよー!」
「篠澤広のカードパック第二弾です」
「いつの間にそんなものを!? アンタなかなかにゾッコンですねぇ?! しゃあねぇ貰いますよっと……正直要らんけど……」
「おや。コレクション系は苦手で?」
「うちはヒーロー系だけで置き場がないんでねぇ……メカ系のコレクションも断念してんすよ。なんかもうあそこまで増えたらヒーロー系一色にしたいなーって。……だからいつか別荘でも建てて、そこにメカ系グッズや果穂系グッズでも揃えようかなーと……」
「なるほど。気持ちは理解できます。聖域は分けたいですよね」
「はい。性癖は分けたいです」
「君は……、…………突っ込んでたらキリがありませんね。無視します」
呆れることを諦めた学園プロデューサーは、白いオセロを続けて打つ。挟み込んでいない黒のオセロをひっくり返していく。もはやそれはオセロではない。考え事をしながらオセロをひっくり返しているため、たまに白いオセロを黒にひっくり返していることに学園プロデューサーは気づかない。
「月村手毬・花海佑芽・藤田ことね・根緒亜紗里……以上4名を《168P:そこそこやる気の二次参加者》として王手」
「ん゛ん~……まぁ残念ながら当然のティア表って感じ? でも佑芽さんってそこまでって感じっすかね? 月村さんが論外として」
「はい。彼女はなかなか、あなたに気を許しているそうで。私の腕も認めてくれてはいますが……真の信頼を得るのはこれからになりそうですね」
「夏前の『NIA』で咲季さんに勝てば信頼を得れますよ!」
「……、……ここだけの話にしてくださいね? 私としては咲季さんに全ツッパしたいんですよ」
「先輩ィッ!? この部屋に盗聴器が仕掛けてあったらどうすんすかァアアアア!! そういうのは嘘でも俺の前でも言っちゃダメっすよ! ちょっと!!」
「一番聞かれたくない姫崎さんには疾うにバレています。
「……、……────」
「俺はプロデューサー失格ですね……。……正直、莉波お姉ちゃんをスカウトした件について、下心が無かったとは言い切れない。当時の私はキッパリ否定するでしょうが……咲季さんとの出会いが、あまりにも運命すぎた……」
「……プロデューサーとして一番燃える
「はい。まさに
「そんなことはないっすよ。人間は比較の原理から逃れられないものです。だからこそ公平性を大事にする先輩の姿はとても尊いものとして映る。その点はみんな理解してますし、俺と同じく尊いとありがたがっているでしょうし、それについて感謝していると思いますよ。それに失格云々言うなら、十王星南が藤田ことねにゾッコンなのはどうなんすか」
「……それとこれとは……」
「同じっすよ。考えすぎっす。態度に明確な差を付けなければ十二分にやっていけます。俺が保証しますよ。なんたって俺は篠澤広に全ツッパしましたからネ! 月村手毬は保険だって初めから言ってましたし、倉本千奈なんかは押し付けられた厄介者ですし。……でもみんな文句の一つも言わず付いてきた。なんでだと思います?」
「…………わかりません。赤裸々にぶっちゃけるのも、またひとつの公平性なのでしょうが……」
「公平性に関しては、俺とあなたのやり方の違いとして一旦脇に置いといて────なぜみんな付いてきてくれたのか? それは
「────!」
「初心忘れるべからず。プロデューサー失格と思い込むのは別に構いませんが、それでも付いてきてくれているアイドルのことだけは忘れないであげてください。明らかに花海咲季や姫崎莉波にゾッコンでも、
「……それだけは避けたいものですね……」
「らしくないくらい弱気ですね? こんなの言われるまでもないでしょうに」
「……────少し、背中が痛くて、ですね……」
「!?」
アルファは席を立って回り込む。背広の裾を掴んでまくりあげる。
「ちょ、やめてください!」
「見せて! ほかの男の背中を見ないと安心できない!」
「そういう意味で言ったのではありません! あくまで比喩表現です! ──というか君、本当に刺されたことがあるんですか……!?」
「いいから脱いで! 背中傷だらけ連合を作りたいんすよォ!」
「誰がそんな連合に入りますかぁ!?」
ガッタンガッタンと机が揺れる。オセロが跳ねて数枚が盤上からこぼれ落ちる。
その頃には学園プロデューサーの防御が功を奏し、上半身が裸になる事態は避けられた。アルファはブーたれながら席に戻る。
「んだよもー! 別に減るもんじゃねーんだからいいじゃないっすかー!」
「上着にワイシャツ、下着と脱いで、いきなり人が入ってきたら三枚も一瞬で着込める自信がありません……」
「じゃあ隣室に……や、それもなんか誤解されそうでヤだな……なんかすんませんした……」
「君のターンです」
アルファは決まりきった手つきでオセロを四枚打つ。
「根緒亜紗里・藤田ことね・花海咲季・姫崎莉波……以上4名を《学P:全力やる気満々の一次参加者》として国士無双!」
「ファイナルアンサー? 私は────篠澤広・小宮果穂の2名を《168P:全力やる気満々の一次参加者》として
「四面楚歌と!?」
「既に囲い込みは完了しているものと思われますが?」
「果穂がぁ!? 広とぉ?!」
「はい。……君にしては珍しいですね。どういう展開を予想していたんですか?」
「いやそりゃアンタ……俺と先輩と広で(3P)して……ね? もし果穂が俺の性癖に付き合ってくれるなら、前と後ろであのはい……すんません……いまさらですけどエロガキです……」
「そのようですね……いま色々と君の新たな一面を見てドン引きの真っ最中です……ポリアモリーは別にして、なかなかの性癖ですね」
「俺は同性愛者や両性愛者じゃないっすよ? 思いっきし異性愛者っす。でもどうせなら
「カッコつけないとプロデューサーでは居られないのでね。申し訳ありませんがしばらくは侮蔑の眼差しを受け続けていただきます」
「クッソォー! これじゃあ俺だけが変態みたいじゃあーねーかよぉー! 先輩だって莉波お姉ちゃんとバブミーなプレイしながら花海咲季のライブをラブホテルで鑑賞したいとか思ってるくせによぉおおおおおおっ!!」
「人の心を恐ろしいほど的確に読んでくるの本ッッ当にやめてくださいっ!!? 人権侵害で訴えますよ!!!」
「やってみろやオラァー! こんなふざけたティアワンしてる時点でお互い様だろうがボケがよぉおおおお!!」
「それは……! そうなんですが……!!」
「んじゃまとめっぞオルァー!」
アルファと学園プロデューサーは、今までオセロを打ちながら英単語の暗記カードに書き込んでいた“Tire表”を整理して見せ合う。
《学P恋愛対抗戦》
全力やる気満々の一次参加者:姫崎莉波・花海咲季・藤田ことね・根緒亜紗里。
そこそこやる気の二次参加者:篠澤広・月村手毬・秦谷美鈴・紫雲清夏・十王星南。
無自覚系やる気の三次参加者:葛城リーリヤ・倉本千奈・花海佑芽・有村麻央・賀陽燐羽。
《アルファくんの恋愛対抗戦》
全力やる気満々の一次参加者:小宮果穂・篠澤広。
そこそこやる気の二次参加者:根緒亜紗里・藤田ことね・花海佑芽・月村手毬。
無自覚系やる気の三次参加者:園田智代子・芹沢あさひ・郁田はるき・倉本千奈・葛城リーリヤ・花海咲季。
そういうのは系の不参加者:櫻木真乃・風野灯織・八宮めぐる・田中摩美々・白瀬咲耶・幽谷霧子・西城樹里・有栖川夏葉・大崎甜花・市川雛菜・福丸小糸・七草にちか・緋田美琴・斑鳩ルカ。有村麻央・秦谷美鈴・賀陽燐羽。
ほかにいる系の不参加者:月岡恋鐘・三峰結華・杜野凛世・大崎甘奈・桑山千雪・黛冬優子・和泉愛依・浅倉透・樋口円香・鈴木羽那。紫雲清夏・十王星南。
《283さんのプロデューサーさんの恋愛対抗戦》
全力やる気満々の一次参加者:月岡恋鐘・杜野凛世・大崎甘奈・浅倉透・鈴木羽那。
そこそこやる気の二次参加者:三峰結華・桑山千雪・市川雛菜・七草はづき・七草にちか。
無自覚系やる気の三次参加者:櫻木真乃・風野灯織・八宮めぐる・園田智代子・西城樹里・有栖川夏葉・和泉愛依・緋田美琴・斑鳩ルカ・郁田はるき。
既に勝利確信系の最終参加者:黛冬優子・樋口円香。
そういうのは系の不参加者:田中摩美々・白瀬咲耶・幽谷霧子・福丸小糸。
それより系の不参加者:小宮果穂・大崎甜花・芹沢あさひ・善村記者。
「やっぱ283プロデューサーってモテるんすね……」
「180台後半超えで白コートが似合う男性ならば当然でしょう」
「でも本人は至って純粋で無自覚系の──恋愛的に悪く言えば唐変木とも言う──天然ホストなんすよ」
「それはすごいですね。人格の天然記念物じゃないですか」
「しかも世相に毒されてない熱血系なんすよ~!」
「国宝級では?」
「正直……人格面では一番好きっすね。尊敬できる兄貴分です」
「私もコラボの際ご挨拶しましたが……彼は文字通り、非の打ち所が無いプロデューサーでした。新進気鋭の小規模事務所で、これだけの即戦力を発掘して国民的アイドルを生み出すプロデュース能力……参考にしたいが、凄すぎて検証のためのデータが足りないほどです。……改めて、283さんと引き合わせてくれた君には感謝しかありません。本当にありがとうございます」
「どいたまっす~!」
────ガラガラ。っと教室の戸が開く。
それとほぼ同時。あるいは光の速度で、戸が開き切るより刹那ほど早く。
アルファと学園プロデューサーは超高速かつ阿吽の呼吸とも言うべき超がつく連携能力で、かたやオセロのコマをまとめ、かたやティア表のカードをまとめ、かたや折り畳み型のオセロ盤を開き、かたやその中に全てを突っ込み、かたやオセロ盤を閉じて、かたや学Pのカバンを開き、かたやその中にぶち込んで、かたやチャックを閉めて────何事もなかったかのように、ふたりは席に着いていた。
完璧な証拠隠滅である。
「おっはようございまーす! ──って、わわぁ!? (青髪の)プロデューサーぁ!? なな、なんでここにぃ!?」
「どうも藤田さん。遊びに来ました」
「私の方から聞きたい話がありまして」
「……えっと……ちなみに、一瞬だけ見えたんですけど……今、オセロしてましたよね?」(なんであたしが入ってくるなり、超慌ててお片付けを……?)
「おや、先輩。大変お恥ずかしいところを見られてしまいましたね……」
「ええ……まったくです。大事な相談にかこつけて、実は遊びたかっただけという側面もあるなどと……プロデューサー失格ですね……」
「……えーっと、もしかしてなんかふざけてます? 別に仕事中でもなし……今は昼休みですよぉ? そんなオセロで遊んでたくらいで幻滅するアイドルなんかいませんって! 気にしすぎですよぉプロデューサーぁ♪」
(見られたら幻滅される遊びをやってたんだよなぁ……)
(私としたことが、本当になんでこんな遊びを……いくら莉波お姉ちゃんに『私より咲季ちゃんのこと好きでしょ?』と言われたからって……なんとか弁明したものの、今朝がた喧嘩別れのような形となり、かなり落ち込んでしまったからといって……ご同輩の口車に乗せられて、このような形での恋愛相談など……するものでは、なかった……)
しかし割と楽しかったのは内緒である。
ちなみにアルファと学園プロデューサーは、お互いがお互いの恋愛ティア表を作成していた。アルファは、学園プロデューサーのことが恋愛的に好きそうなアイドルを段階評価でランク付けしていき……学園プロデューサーは、アルファのことが恋愛的に好きそうなアイドルを段階評価でランク付けしていった。そして、ふたりの恋愛観の帳尻を合わせて意思疎通がしやすいように、第三者たる283プロデューサーに白羽の矢が立った。つまり彼のことが恋愛的に好きそうなアイドルを段階評価でランク付けしていくことで、客観的な恋愛観を養おうという試みである。
おかげで学園プロデューサーは、(アルファ視点ではあるものの)姫崎莉波以外に、花海咲季・藤田ことね・根緒亜紗里などが、自分のことを狙っているのかもしれない、という事実に気づくことができた。つまりこの三人に気をつけていれば、姫崎莉波の嫉妬を助長させることはない、という論点である。
アルファは嫉妬を嫌うため、なんとも彼らしい着眼点から作成し合った参考資料である。無論、これだけでは不十分。本当は『学園プロデューサーが恋愛的に好きそうなアイドルのティア表』も作ることで、学園プロデューサーが無意識に目を奪われているアイドルを
しかし無駄に長い遊びと雑談、ひいては相談事をしていたため、昼休憩の時間はとっくに過ぎてしまい、こうして藤田ことねに邪魔されてしまった。
「では先輩。続きは電話で」
「……続きは普通にやりませんか……?」
「それもそうっすね!」
学園プロデューサーが今まさに欲しいものはデータである。オセロや猥談などといった無駄話は極力省いて、さっさとアルファ評のティア表を作成したい。
(うっわぁ……このふたり、どんだけオセロ好きなんだぁ~? 電話でやるってどういうこと……? 口で言ってどっちかが打つの? オンラインアプリとか使うんじゃなくて? おっかしーの~!)
ほくそ笑む藤田ことねに対して、アルファは別れの挨拶を繰り出す。
「ではまた、藤田さん!」
「────っ!?」
アルファは歩きながら一度も立ち止まることなく、左手の人差し指と中指を自分の唇につけると、藤田ことねのほっぺに投げるように、かつハンコを押すように優しく触れ当てる。それは流れるような投げキッスと間接キッスの複合技だった。さらに頭をぽんぽんと撫でて、颯爽と去っていく。
「ちょ、なっ……?! んっ……んもぉ~~~~~~う! そういうところぉ~~~~~~~~~~っ!!」(の……脳がぁあああああああ! 脳が沸騰すりゅうぅうううううう! クッソォーーーーーーーーーー!! 許さんぞぉ! あたしより年下のくせにぃいいいい!! ああああああ胸がキュンキュンするぅうううーーーーーー!! 我ながらちょろすぎんだろぉ!? あんな浮気野郎とはさっさと離れたいのにぃ!)「うごごごごごごごごごっ……!!」(しゅきぃ~~~~~~♡)
ひとりで頭を抱えては地団駄を踏み、悶絶する変人系アイドルがひとり。
学園プロデューサーは苦笑しつつ様子を見守る。
「相変わらず大変そうですね……」
「っ!! ぷ、プロデューサーぁ! 笑わないでくださいよぉ……! 本気で困ってるんですからぁ!」
「笑っていません。呆れているだけです」
「ひっど! アイドルが悪い男に捕まっちゃったんですよ!? プロデューサーならなんとかしてくださいよぉ!」
「……そう言われましても……」
その時、藤田ことねはイイことを閃いたのか、ピンと表情が──悪巧みをするように──微笑んだ。
「あ、そうだ! それならぁ~? プロデューサーがあたしのこともらってくださいよぉ~?」
「……あまり変わらないと思いますよ?」
「へ?」
「私も────彼と同じくらい、悪い男ですから」
「────っ!!」(うっほばっはあぁあーーーーーー! なんだぁその澄まし顔はぁあああーーー!? くっそぉ……あたし、もしかして惚れやすい女なのかなぁ……? あっちのプロデューサーもこっちのプロデューサーもかっこよすぎて……ことね、困っちゃう~♡)
藤田ことねの百面相はとどまるところを知らない。
そんなアイドルはさておき、学園プロデューサーは遅めの昼食を取ることにした。
それは姫崎莉波の手作りお弁当と、付け合わせの
「……………………」
向けるは恋慕と信仰。
向けられるは明らかな恋慕と不明瞭な感覚。
黒い狐は思い悩む。
ひとりの男としての距離感と、ひとりのプロデューサーとしての距離感。
その虚空たる狭間には、何を詰め込むべきか。あるいは、過ぎ去るべきか。
しかし片方が足踏みしている間に、もう片方は早々に見切りをつけて歩みを変えていくものだ。
恋慕も信仰も、愛情も憧憬も、執着だって諸行無常。
しかして先駆者は未知を恐れず、激流から火中の栗を拾う。芽吹きを
それこそ彼が惚れ込んだ、信仰すべき勝利の女神なれば。
自他の勝利を
相手を勝たせて、自分も勝つ。
真の勝利とは? 完璧な勝利とは何か。
それはきっと、競技だけの話ではないのだろう。
恋愛勝負・何番目。いざ尋常に────
§