【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
放課後の河川敷。
レッスンが終わり、必ずしも事務所に帰る必要はないが、それでも放クラは事務所までの道のりを共に歩む。そのことを尊く思い、暗黙の了解として楽しんでいる。
やがて皮肉にも、園田智代子・西城樹里・杜野凛世の三人にチェインが来る。寮の仲間に買い出しを頼まれたのか、途中で商店街に寄りたいとのこと。もちろん構わないと小宮果穂・有栖川夏葉のふたりは答える。
三人は寮の備品について語り合う。園田智代子は寮住みではないが、実家の千葉県まで時間的に帰宅の余裕がない時があるため、時たま寮に宿泊することがあるのだ。つまり寮とは一切の関係性を持たない
「あのっ! 夏葉さん!」
「なーに? 果穂!」
「────物は相談です……」
小宮果穂は『見ない顔ですねぇ……』と言わんばかりのワル顔で、真剣に話しかける。
「あら……うふふ! 何かしら?」
「リョウみたいなアパート……住んでみませんか?」
「……っ! ……果穂。その話、詳しく聞かせてくれるかしら……?」
「────」小宮果穂はにっこりとした満面の笑顔に変わると「はいっ!」元気に返事した。
§
一方その頃。
初星学園の教室事務所にて。
篠澤広は、本人が目の前にいるのに突として藤田ことねのチェインに地図情報を送信してから、声をかける。
「ことねことね」
「はいはい、なんです~? ──って、なんか着信が……」
「アルファのことについて教えたいことがある」
「! ……(青髪の)プロデューサーのぉ? まぁ……話くらいは聞いてもいいけどぉ……? あ、ノロケはやめろよなぁ……!」
「この前デートで病院に行った」
「ノロケやめろって言ったよなぁ!? ──……えっ病院!? ちょ、広、もしかして……なんかあった……?」
「わたしじゃない。色々あってアルファがアパートの管理人を始めた」
「……ハァ? い、色々やるねぇ、あの人も……」(中学生のくせに大学生やって、プロデューサーやって、今度はアパートの管理人……? いやいや、どういう人生を歩めばそういう展開になるんだよ……! おかしいだろぉ!)
「そこで果穂が『住居者を集めたい』と言い出した。でもシェアハウス的なアパートだから『アイドルが住む以上は同じ女性アイドルしか住まわせないほうがいい』という話にもなった。そこで今、あなたに白羽の矢が立っている」
「あ~……なるほど? 頭のイイ人特有の簡潔な説明どうもで~す……あたしは興味ないんで、ほかの人を当たってくださ~い」
「ことね。聞く価値はある、よ?」
「じゃあ勝手に話してくださ~い。あたしは宿題やるんで~」
藤田ことねは長机に着いて、今日の宿題に取りかかる。その前にチェインを確認。呆れたようにため息をつく。
その横に立つ篠澤広は、恋敵にして友人である果穂のために、
「今ことねが考えていることは理解できる。ただこれだけは言わせてほしい。──売れない頃は寮生でいい」
「……っ?」
「でも売れてからの寮生は天川駅へのアクセスを優先するべき。それは
「……────」
戦略的に有り。
藤田ことねは、その一言に
行き着いた答えは、かつてアルファがセールストークしたような、様々なメリットとデメリットだった。
(たしかに仕事先として請け負うことが多い天川駅へのアクセスが細いのは、初星学園唯一の欠点……プチパレスに住むことで女子寮からレッスン室に行くまでの時間が+30分されるくらいなら大したデメリットも感じない……30分早く起きればいいだけだからな……特に朝が弱いわけでもないし……)
「ちなみにプチパレスにはレクリエーションルームがある。そこを借りれば自主レッスンができる。既にアルファから許可は得ている」
(──なら文句なしじゃね? しかもバイト先は天川駅周辺が多いから、もう麻央ちゃん先輩に叱られることもない……! ──いや、もうバイトはしてないけどね? 今のはちょっと思考のクセというかね? って、いやなに心の中で弁解してんだあたし……! こほん────さてさて、プチパレスと天川駅の距離を検索っと……へぇ? 徒歩一時間かぁ……走り込みの距離に使えるな……川沿いに繋がってるから走りやすいし……今のところメリットの方が多い、けど……)
藤田ことねは鉛筆を上唇に当てて、両手を結びあごの下に置く。
無意識に細めていた真剣の目つきは、虚空の先を見据えていた。
(いやいやでも……寮を離れたら築き上げた人脈が薄くなるじゃん……せっかく全員と友人関係になったのに、交流が減ったら知人レベルになっちゃう……そこは捨てがたいなぁ……このデメリットはデカいぞぉ……?)
「もしアパートの永住について悩んでいるなら臨機応変に考えればいい。いつでも引っ越し可。二ヶ月間のお試し契約でも可。ことねの好きに行ったり来たりすればいい。管理人はアルファだから融通は利く、よ?」
「……篠澤さん、ウマいねぇ……」
(そういうことなら、あたしのデメリットも少しは減るか……?)
「ちなみに寮費と比較して約九倍の安さ」
「マッジでぇーーーーーー!? それはもう買いじゃ~ん♪ つーかほぼ無料じゃ~ん♡」(いや待て落ち着けあたしぃ!? なんか
「
「ファイナルアンサぁ♪ うん買う買う~! 住む住む~! これは断る理由ないっしょ~! もちろん間取りとか周囲の買い物環境とかを見てからだけどねぇ~?」
「ふふ……
篠澤広はあごに手の甲を当てると、目つきをキランと光らせながらニヤけた。
その一部始終をデスクから聴いていた学園プロデューサーは苦言を呈する。
「篠澤さん……また変なことをして……ほかのアイドルを巻き込まないでください……」
「プロデューサーも住む?」
「お断りです。それに女性アイドルだけが住むという話だったのでは?」
「管理人が
「そんなことをすればアイドル生命が絶たれてしまいます」
「たしかにゴールインしちゃって……ふたりはプロデューサーとアイドルを辞めちゃうかも?」
「怖いこと言わないでくださいよ……」
そこへ藤田ことねが飛び込んでくる。
「きゃ~ん♡ プ~ロデュ~サぁ~♪ その様子だと、篠澤さんから既にアパートの件は聞いてるみたいですけどぉ……あたしの入居、認めてくれますかぁ~?」
「……近日中に安全基準を満たしているか訪問する予定です。それまではなんとも言えませんね」
「よーしっ! 広! プロデューサーより先回りして安全基準を満たしに行くぞぉ!」
「それがいい。管理人の代理人は果穂だから……彼女ならきっちりやるだろうけど、何か手抜かりがあるといけない。果穂のお手伝いをしに行こう」
「へー果穂ちゃんが代理人……果穂ちゃんが代理人!?
「それはわたしも思うけど今に始まったことじゃない。それに果穂も乗り気。応援したい」
「……篠澤さんって、なんか果穂ちゃんに甘いよね~?」
「そうなの?」
「や、自覚が無いなら無いで、あたしの勘違いかもしんないし……? いやでも、なんか甘いからあたしを誘ったとも取れるわけで……。──ハァ……とにかく! 正直ちょっと不安は残るけど、何事も持ちつ持たれつと言いますし? 入居希望者として、最低限のお手伝いはやらせてもらいますよ~」
§
一方その頃。
小宮果穂は、篠澤広よりは簡便さと饒舌さに劣るが、対有栖川夏葉特攻の的確な
「共同住宅プチパレス……! シェアハウスのようなアパート……! なんて甘美な響きなのかしら……!! アルファさんが管理人で、果穂が代理人で、ふたりともそこに住んで……さらに広も住むのね? 今後住人が増える可能性もあって……うふふっ! なんて楽しそうなの! ──……ねぇ果穂? この件、本当に真剣に考えてもいいのよね……?」
「はい! もちろんですーっ!」
「ならまず最初に訊くべきことがあるわ。これは重要よ。……ペットは可?」
「はい! アルファさんに確認しましたー! あたしもマメ丸と住もうと思ってるんですーっ!」
「うふふ! それは嬉しいわ! カトレアにも遊び相手が欲しかったから……!」
興奮冷めやらぬ有栖川夏葉と小宮果穂は大盛り上がりの真っ最中。
そこへ買い出しを済ませた三人が戻ってくる。
「ん……? ふたりとも、そんなにはしゃいでどうしたんだー?」
「私たちがお店に入る前にも盛り上がってたよね? なになに? なんのはなし~?」
「ふふ……凛世たちにも、聞かせてほしいです……」
「樹里! 智代子! 凛世! それなら事務所に向かいながら話すわ! 私、もう決めたもの!」
「わぁ……! ほんとですかぁー!? でもまだ、内装とか見せてなくて……!」
『……???』
「このチャンスは逃せないもの! 不足があれば知恵で補えばいいだけだわ!」
「! 知恵で……!」
ならば学ばせてもらおう。
ならばどうやるのか事前に推測して先回りしてみせよう。
有栖川夏葉が三人に説明する中、小宮果穂はじっくりと耳を傾けていた。
§
一方その頃。
教室事務所では。
「先生と!」
「センパイと!」
「プロデューサーと!」
「プロデューサーさんと!」
「青のプロデューサーと……」
『────同棲……!!!!?』
倉本千奈・葛城リーリヤ・月村手毬・花海佑芽・花海咲季が反応する。
それに篠澤広はこくりとうなずく。
「うん。シェアハウスだから同棲とは少し違うけど。でも同棲であることに変わりはない。同じ場所に棲む……ふふ。いい響きだ、ね?」
「はわわ……! 篠澤さんが、どんどん先に進んでいきますわぁ……!」
「わたし、まだセンパイの家に一回しか行ってないのに……メカ系ゲーム、まだ一作品しかしてないのに……!」
「リーリヤ、そこ問題? ──それにしても、ほんっと変態だよネ!
篠澤広は恍惚としながら即答する。
「そういうところが好き……」
「……ッッ?!?」『コワイヨォ! ナンデヨォ!? ヤッパリ ヒロハ ドエム ナンダァ…!! ホンモノノ ヘンタイダァ…!』
変態とビビりはさておき。
花海姉妹は向き合って対話する。
「お姉ちゃん! あたし、下見に行ってくるね!
「……わたしも行くわ。佑芽が住む可能性があるなら、きっちりした場所なのか、お姉ちゃんとして確認しないと……」
「じゃあ一緒に行こう! さっそくアルファさんに連絡だぁー!」
「わたしのプロデューサーにも連絡を入れるのよ。順番としてはそっちが先だからね」
「わかってるよぉ! いちいちうるさいなぁ!」
「…………」
花海咲季は
§
283事務所のリビングにて。
小宮果穂は、ほかのアイドルを
「アパートです!」
『?????』
「アルファさんがアパートの管理人になったんですけど、面倒だって言うからあたしが代理人になったんです!」
『!!!???』
「それであたしと夏葉さん、あと広さんは、そこに住もうと思っています!」
『?!?!?!?!?!?』
「みなさんもどうですかぁ!?」
『…………』
聴衆のひとりが、一歩前に進み出る。
「面白そう! わたし見に行きたい!」
「あさひさん! はい! 案内します! 場所は────チェインで送信しますね!」
「あ、わたしも欲しいかも~」
「はい! はるきさん! ありがとうございます!」
郁田はるきは、小宮果穂から送信された地図情報を元に、プチパレスの物件情報を確認する。
「へぇ~シェアハウス系アパートかぁ……内装とか普通のアパートとか違うねぇ。大体は外階段にドアが並ぶ感じだけど……屋内に入ってから個室が別々にあるんだぁ~。なんかアットホーム感が強いねぇ~」
「そうなんですぅ~!」
「しかも昭和の匂いがするような……これはインスピレーションを受けるためにも見学してみたいなぁ……たぶん、住もうとは思わないかもしれないけど……ダメかな?」
「いえっ! 来てくれたら、きっと気に入ると思います! なので見に来てくれるだけでも嬉しいですーっ!」
小宮果穂と郁田はるきは日程を煮詰める。
そこで横から話を聞いていた大崎甜花が、どもりながら割って入ろうとした。
「あっ……郁田さん……その日……甜花たちと、レアモン……」
「あ~! そうだった~! 甜花ちゃん……どうしよ~……!」
「あぅ……──だ、だいじょうぶ……! 甜花たち、郁田さんについてく……! レアモンは、どこでもできるのが、いいところ……!」
「わ~ん! ありがと~甜花ちゃ~ん! わたしがきちんと確認しなかったばっかりに~! ──……でも……真乃ちゃんと霧子ちゃんは……だ、大丈夫、かな……?」
「ほわっ……うんっ……!」
「気にしないで……ちょっと、ドキドキするけど……実は、楽しみなんだ……♪」
そこへ台所から浅倉透が戻ってきて、緋田美琴に問いかける。
「……なんの話?」
「アパートだって」
「あ~……ほわい?」
「天道さんが管理人を始めるみたい」
「天道……あー……あの子か~。お~……」
「興味あるの?」
「ん~……そんなに」
「そうなんだ」
「あの子は……いじり対象」
「えっ」
「ふふ。誤解誤解。その、あれです。あ~……なんて言えばいいんだろ……智代子ちゃん?」
「私に振るの!?」
気後れする園田智代子。
そこで小宮果穂が言った。
「透さん! アルファさんのこと、あまりいじらないでくださーい!」
「ごめんごめん。でも面白いから。みんなも分かるでしょ? ね、智代子ちゃん」
「だから急にこっちぃ!? え、えぇっとぉ……! そのぅ……なんっと言いますかぁ……? 年上の女性を口説くのは得意なくせに、こちらが『私はあなたのお姉ちゃん!』的なスタイルで近づくと、なぜかしどろもどろになって逃げていくのが可愛いといえば可愛いと言いますかぁ……?」
西城樹里がちょっと引き気味に問いかける。
「えっ……なんだそれ……チョコ、アルファさんにそんなことしてたのか……?」
「待って樹里ちゃん!! その目は誤解だよっ!? 凛世ちゃんとか甜花ちゃんとかノクチルとか、割とみんなしてることだからぁ! わ、私だけじゃあないからァ……!」
目をひん剥いて必死に弁解する園田智代子。それが逆に怪しさ満点。
小宮果穂は眉をひそめて訝しむ。あごに手の甲を当てて若干姿勢が屈んでいた。それは臨戦状態と言えなくもない。
なお杜野凛世は、小宮果穂の嫉妬心や敵愾心、なにより殺気を受けたくないがために、完膚なきまで気配を消していた。仲間たる園田智代子の弁明を助けるでもなく、小賢しく仲間をスケープゴートにして遁走済みだった。
「まって果穂ちがうの!! これは全然そういう話じゃないからぁ! 283の中でも弟妹持ちや年下持ちに共通する話題なだけだからぁ! この件はアルファさんも良くご存知のはずだから聞いてみてぇ! おねがい~~~~~~っ!! 後生だからぁ~~~~~~!!!」
愛しい愛しい大好きな仲間であり友達である小宮果穂にそんな目で見られとうなかった園田智代子は、とにかく涙目で土下座するかのごとく訴えかけていた。
§
夜の小宮家。
今日もきっちりやりきった小宮果穂は、自分へのご褒美として録画したヒーロー番組を見る。続きは、この前見た修行回の後半からだ。
『あんた最近がんばってるわね』
『おう!』
『でも
『なんだとぉ!?』
『だから、ね? その……これあげる』
『?』
ツンデレ系ヒロインは、熱血系ヒーローに一味の用紙を手渡す。
『これ、私からの宿題ね』
『はぁ?』
『できたら見せてちょうだい。張り切って採点するから。じゃね~』
『あ、ちょ! まてよ、オイ! ……──急になんなんだぁ?』
それは文章問題だった。
『問い1 二匹で経営するレストラン』
あるところに、紫色の犬と、赤い猫がいました。ふたりは先輩と後輩の仲です。
犬はなんでも完璧にできる万能型ですが、調理は完璧以上にできる特化型でもあります。
猫はなんでも普通にできる器用型ですが、何をやらせても完璧にはできない貧乏型です。
二匹の動物は、レストランを開くのが夢です。
でもレストランのお仕事は、やることがたくさんあります。
たとえば発注・調理・接客・配膳・清掃・会計・クレーム対応・その他の八種類があるのです。
これを二匹の動物だけでやるのは大変ですが、どうしても二匹だけでやらなければなりません。
さらに犬は、自分のレストランを“世界で一番人気のレストランにしたい”という夢を持っています。
そして猫は、その夢を絶対に叶えてあげたい、と思っています。
やがて、ついにレストランを開く日がやってきました。
待望の日です。これから忙しい仕事の毎日が始まります。
さて、問題です。
どうすれば犬と猫の二匹は、自分たちのレストランを“世界で一番のレストラン”にできるでしょう?
考え方は色の数だけあります。
『くっそぉ……俺だけじゃあわかんねぇ! こうなったら俺が答えを見つけるまでに、みんなもいっしょに考えてみてくれ! 頼んだぜ! じゃ、今日のエンディングぅ!』
急なメタ的発言。
エンディングロールのあと、次回予告が流れる。
「────…………ん~……んん~?」
ヒーローアイドルのヒナは、首をひねって考える。腕を組んで考える。
これはどうやら長い戦いになりそうだ。しかしきっちりとやっていれば、いつかきっと自分の
「果穂ー。明日からアパートでしょ~? そろそろ寝なさ~い」
「はーい!」
学校。アイドル。アパートの代理人。ヒーローからの宿題。
やることは山積みだ。だからこそ小宮果穂は、その全てをきっちりこなしたいと思っており、ひたすらワクワクしていた。
§