【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
共同生活・数日目。
・1階
──────────────┐
┌──┬──┬──┐ │
ド│101.┃ 階段│ 太樹 │
ッ│アルファ│ ├──┤ │
グ├──┤ ┃102.│ │
ラ│103.┃ │篠澤│ │
ン│小宮│ ├──┤ │
├──┘ ┃104.│ │
┃廊下 │有栖│ │
├── ┐ └─┬┴┐ 〒
家│台所 ┝ ~玄┃
庭│F │ ∥関┃
菜┃ 食卓│ ┌─┴┬┘
園│大食卓│ ┃E │ │
├─┬─┤ ├──┤ │
│男┃更│ ┃LL │
プ│湯│衣┃ ├──┤ 洗濯 │
ー├─┼─┤ │CC│物干し│
ル│女│更┃ ┃ ┃ │
│湯┃衣│ │倉庫│ │
└─┴─┴─┴──┘ │
──────────────┘
・2階
┌──┬──┬──┐
│201.┃ 階段│
│藤田│ ├──┤
├──┤ ┃202.│
│203.┃ │根緒│
│大崎│ ├──┤
├──┤ ┃204.│
│205.┃ │幽谷│
│緋田│ └─┬┴┐
├──┤ 憩 出│
│206.┃ 場 窓│
│花海│ ┌─┴┬┘
├──┤ ┃E │
│207.┃ ├──┤
│郁田│ │RR│
├──┤ ┃ │
│208.│ │ │
│イルミネ┃ ├──┤
│ │ ┃WC│
└──┴──┴──┘
・住人名簿
101号室:アルファ。 ※管理人室。
102号室:篠澤広。
103号室:小宮果穂・マメ丸・いろはちゃん。
104号室:有栖川夏葉・カトレア。
201号室:藤田ことね。
202号室:根緒亜紗里。
203号室:大崎甜花。
204号室:幽谷霧子。
205号室:緋田美琴。
206号室:花海咲季・花海佑芽。
207号室:郁田はるき。
208号室:櫻木真乃・風野灯織・八宮めぐる・ピーちゃん。 ※大部屋。
早朝。午前六時頃。
203号室の扉が叩かれる。廊下側からくぐもった声。
「こん、こん……♪ 甜花ちゃん……起きてー……朝だよー……ふふっ♪」
もぞもぞと衣擦れ。
シーンと静まり返る室内。
「甜花ちゃーん……、……? …………また、時計の針が一周したら……こんこんって、きっとあるよ……」
時計の針が一周する。
「コンコン。甜花ちゃん。起きて」 緋田美琴の呼び声。
「あ、美琴さん~おはようございます~」 郁田はるきの挨拶。
「ほわ……おはようございます……!」 櫻木真乃も会釈する。
「おはよう、はるきちゃん、真乃ちゃん。いま甜花ちゃんを起こしに来たんだけど、返事がなくて……」
「いつも通りですね~。わたしもお手伝いします~。コンコーン! 甜花ちゃん起きて~! 朝だよ~」
「甜花ちゃん……ぽっぽる~? 朝だよ~?」
もぞもぞと衣擦れ。
シーンと静まり返る室内。
その少しあと。
ドアがコンコンとノックされる。
「甜花先輩! そろそろ起きないと遅刻するわよ~! ──ちょっと、甜花せんぱーい? ……まったく困った人ねぇ……咲季お姉ちゃん、あなたがどうなっても知らないからね~!」
ドアがドンドン、ドンドン! と激しく打ちたたかれる。
もぞもぞと衣擦れ。
毛布を深くかぶる。
シーンと静まり返る室内。
時計の針が一週した。
「────遅刻だぁあああああああああああああああああああっ!!」
二つとなりにある206号室の扉が開け放たれて、ロードローラー佑芽の駆動音が鳴り響く。
「ひゃい……?! ち、ちこく……!?」
佑芽の絶叫と廊下を駆け抜けていく足音にたたき起こされた甜花は、ようやく布団をはね上げてオロオロ。ちょうどスマホから遅刻警報の目覚ましアラームが鳴る。ピッと切った。
甜花はアイマスクを頭上に押し上げた状態で、寝間着姿のまま──散らかったゲーム機の画面やコントローラーを踏まないように気をつけて──洗面所に向かう。軽い洗顔。櫛で髪をとかす時間的余裕は、時計の針を見る限り存在しない。
「あぅ……起こしてって、言ったのにぃ……!」
寝間着姿のまま学校カバンを肩にかけて廊下に出る。
「スリッパ、スリッパどこ……!」
デビ太郎スリッパを発見。履くと最初はひんやりしているが、すぐに体温が循環してあったかぽかぽかもふもふ加減。階段を下りて食堂に向かう。
「お、おはようござい、まひゅ……!」
『おはよ~! 甜花ちゃん……!』
食堂の中では、イルミネが朝食を終えて学生服に着替えており、カバンを下ろして談笑中だったようす。洗い場には花海佑芽が立っており、自分が食べた料理の皿を洗っていた。
「冷蔵庫……!」
甜花は大冷蔵庫の上部扉を開ける。お盆ごとサランラップされた朝食を発見。メモ書きが貼られており『一分よ!』と記されている。これはパサパサしてマズイからちがう。別のお盆のメモ書きには『一分半♪ ^^』と記されていた。これである。メモ用紙を剥ぎ取って電子レンジにぶち込み、一分半後のチンを待つ。となりのゴミ箱にメモ用紙を放って、そわそわ。そわそわ。
ふいに古時計の針が八時零分きっかりを差し示して鐘が鳴る。
「ほわ……あと六分で、バスが来るね……」
「じゃあ出発しようか。歩いて一分も掛からないもんね」
「いってきまーす!」
「……っ! い、いってらっひゃい……!」
起きる順番で考えて────アルファ、いろはちゃん、幽谷霧子、花海咲季、緋田美琴、藤田ことね、郁田はるき、篠澤広、有栖川夏葉の姿は食堂にない。おそらく既に出立したのだろう。ただし緋田美琴と藤田ことねはレクリエーションルームのダンスゲームで自主レッスン中だろうか。いろはちゃんとマメ丸は102号室やドッグラン、またはレクリエーションルームで遊んでいるのかもしれない。
「甜花さん! 髪、とかしますか?」
「う、うん……! おねがい、果穂ちゃん……!」
「えへへっ。任せてください!」
エプロン姿の果穂はゴミ箱を引いて髪をとかす。抜け毛がはらりと舞ってゴミ箱に吸い込まれていき、ある程度きれいになったところでレンジがチンと鳴る。
「! あ、ありがと、果穂ちゃん……! もういいよ……!」
「あ、でも、まだくせ毛が……」
「それは、仕方ない……! あしたの甜花に、期待……!!」
「あと目の下にヤニが……」
「……それは、拭いてほしい……っ!」
甜花は食卓に着いて合掌。いただきますと言ってサランラップを取り外し、ほどよく熱い箸(電子レンジ対応の箸)を手に持って、いっしょけんめい、ご飯をかきこむ。その合間に果穂は、使い捨てナプキンを使って甜花の目のヤニを拭き取ってあげた。
階段と廊下からドタバタと足音。キキーッと良い音を鳴らして誰かが食堂に滑り込む。
「────ひさびさに……! やってしまったわ……!」
「夏葉さん! おはようございますー! ……でも、てっきりもう外出したと思ってたんですけど……?」
「アラームが鳴った時、カトレアの肉球がスマホのタッチパネルに反応しちゃったみたいなの……! それで二度目以降のアラームが全部消えちゃって……! ああ、今まではベッドの上で眠っていたから、敷き布団だとスマホを踏みやすくなるのね……まさしく盲点だったわ……!」
「わぁ……! それはたいへんです!!」
「もちろんカトレアは、何度も私の顔を舐めて起こしに来てくれたのだけどね……今ご飯とお水をあげて、マメ丸のところに向かわせたところよ……」
有栖川夏葉は冷蔵庫を開けて、SSD付きお弁当箱を手に取る。電子レンジで一分チン。
その間に皿洗いを済ませた佑芽は、食堂を出ていく前に挨拶する。
「甜花ちゃん、夏葉ちゃん、おはよう! いってきます!」
「い……いってらっひゃい……!」
「いってらっしゃい! 佑芽! あなたの足なら間に合うわ! でも曲がり角には気をつけてね!」
「はーい!」
電子レンジが鳴る。夏葉が座った場所は、甜花のとなりだった。
「おはよう、甜花! 今日はお互いギリギリね!」
「う、うん! 夏葉さんは……だいじょぶそう……?」
「ええ、なんとか間に合いそうよ! 私には車があるから! ……もしよければ学校まで送っていきましょうか? 次のバスに乗ると、どう考えても間に合わないでしょうし……」
「ひぃん……お、おねがい、します……!」
「了解! 甜花が遅刻しないように、かっ飛ばしつつ安全運転で、かんっぺきに送り届けてあげるわ!」
「夏葉さん……ありがと……!」
「じゃあ私も早く食べないと! でもちゃんと三十回は噛むわ! いただきますっ! うふふ!」
満面の笑み。夏葉はこの状況さえ楽しいのか、嬉しそうに微笑んでいた。
その時、玄関方面から掛け合いの声が響いてくる。
「ただいま~」
「あ、プロデューサーさん! また朝帰りですか!? えっちすぎますよぉ~!」
「佑芽、さっきそこバス通ったぞ。あとバス停前で咲季が待ってた」
「い゛ってきまぁ゛ああああああ゛すっ!!」
朝帰りのアルファが食堂に入ってくる。
「おはようございま~す」
「アルファさん! おはようございますー!」笑顔の果穂はスンと真顔に変わる「ゆうべはどこに行ってたんですか? また別の女の人のおうちですか?」
「そうだけど仕事だよ……」
「どんなお仕事ですか?」
「守秘義務がありますので」
「せめてお仕事の名前だけでも……」
「ヒーロー活動」
「! なら、仕方ないですぅ……」
「それより果穂、学校は?」
「あたしは学校が近いので……十分後のバスに乗れば間に合います! でも今日は夏葉さんがいるので、夏葉さんの車で送ってもらおって思ってます!」
ランドセルを背負ったままエプロンを着る小宮果穂は、そう言ってエプロンを取り外して折りたたむ。
『────ごちそうさま!』
甜花と夏葉は同時に食べ終わる。素早く皿洗い。それも終われば玄関口に急ぐが、夏葉はあることに違和感を抱いて指摘した。
「あら? 甜花……あなた、寝間着姿じゃない……」
「ふぇ? ……────!? ち、ちょっと、待ってて……! あ、カバン、持ってて……!」
甜花は廊下を小走りして階段を駆け上がり、自室の203号室に突入して制服を探す。慌てて着替えて、立ち見鏡で軽く確認。さっさと玄関口に駆け戻り、靴を履いて「い、いってきましゅ……!」誰に告げたのかは本人にも不明だが、おそらくプチパレスそのものに告げて、大樹のもとに走る。
「甜花さーん! 急いでー!」果穂が窓から顔を出して手を振る。
「甜花! 助手席に飛び乗りなさい!」夏葉が助手席のドアを開けて叫んだ。
「はっ、はっ……! て、甜花……! 次は、ちゃんと、起きるぅ……!!」
そう言いながら毎日ほぼ同じことの繰り返しである。
しかし着実に進歩はしている。今日は佑芽の絶叫で自発的に起床することができた。それだけでもハナマルである。なお明日もそれが持続するかは不明瞭。一歩進んで時たま二歩下がる。そんな日々が
「出すわ! ふたりとも、シートベルト!」
「はいっ! 装っ着!」
「そう、ちゃく……!」
「うふふ! 出発よー!」
住宅街の道路を進む。国道沿いの大通りに出て疾走。
果穂の小学校に到着。正門前で下車。
「夏葉さんありがとうございます! 甜花さんも間に合うよう祈ってます!」
果穂に手を振って別れて、すぐに発車。線路沿いの道路を疾走。電車が駆け抜ける。その中には甜花と同じ制服の生徒たちが釣り革に掴まっていた。
甜花の高校に到着。正門前で下車。近くで待っていた甘奈と合流する。
「甜花ちゃ~ん! おはよ~!!」
「なーちゃん……! おはよ……!」
「夏葉さんもおはよー☆ 甜花ちゃんを送り届けてくれて、ありがとうございますっ!」
「夏葉さん、ありがと……! おかげで遅刻、しなかった……!」
「それは何よりね! じゃあ次は事務所で!」
頭上にサングラスをかけた夏葉のポルシェが駆け去る。
颯爽と駆け抜けていく美女と高級車の組み合わせは、通行人や学生の目を存分に惹きつけていた。
「か……かっこいいー☆」
「……? は! しまった、なーちゃん……!」
「ん? どうしたの、甜花ちゃん? あ、もしかしてぇ~……また何か忘れ物しちゃった~?」
「あうぅ……甜花、部屋に────」
降雪、枯れた並木通り。
曇天に
「────せっかくがんばった宿題、忘れちゃったぁ~~~~~……!」
§
放課後。
事務所で小休憩とレッスンを終えて、大崎姉妹はバス停前に就く。
「じゃあね、なーちゃん……!」
「う、うん……、…………」
甘奈は目を閉じて、胸の奥の気持ちをぐっとこらえる。
(いかないで────そんな勝手なこと、言えるわけない……初めて甜花ちゃんが、自分から、何か大きなことを始めた……最初は家族みんな、突然のことでびっくりしたけど……どうしても甜花ちゃんがやりたいならって、ママもパパも応援することになった。だから、当然甘奈も────)
「……なーちゃん、どうしたの……?」
「────え? な、なんでもない、よ……!」
「…………」
「……、…………」
「……おなか、へった……?」
「! ……そうかも~☆」
無理を隠した微笑。
甘奈の視界に映る甜花の顔。その奥の道路からバスが現れる。
(あ────)
排気音を立ててバスが停車。扉が開く。甜花が乗り込む。その裾を────つい、ギュッと握りこんだ。
「? なーちゃん……?」
「あ……甜花ちゃん。甘奈も……行っていーい?」
「! うん……!」
甜花は手を返して、甘奈の手を握り込み、「よいしょ……っ」と引っ張り上げる。財布を開いて、ふたり分の硬貨を投入。二人用の席に座る。
「甜花ちゃん。これ、甘奈のぶん……返すね!」
「いいの? にへへ、ありがと……! これで駄菓子屋のお菓子、少し買える……!」
バスはゆったりと進んでいく。
姉妹はカーブするたび揺られながら、結露した窓に指で絵を描いて微笑み合っていた。
§
夕暮れ。プチパレスの食堂。
甜花はエプロン姿で台所に立つ。
(なーちゃん。なんか元気なかった……甜花が料理を作れば、元気になる……?)
ボウルを用意。ツナ缶とコーン缶を開封して投入。生卵を割って投入。マヨネーズを握り締めて投入。なんとなく塩コショウを投入。なんとなくバジルも香りが良くなりそうなので投入。さいばしで
二枚の食パンを用意。表面にボウルの中身を注ぎ、さいばしで具材を
完成。さいばしでつまみ出し、食器の上にのせて、お盆で運ぶ。
「なーちゃん! 甜花、料理、できた……!」
「すっごーい☆ さすが甜花ちゃん! どんな味なんだろ~? いただきまーす!」
「にへへ……めしあがれ……!」
大崎姉妹は同時に、ぱくりと食べる。
こんがりとした熱さ。固く厚みのあるギャっしりパンの噛み具合。ツナマヨとエッグコーンの相乗効果。知力と体重が増えそうな美味をコラーゲンとビタミンで包んだ芳醇の舌触り。けれどちょっと
「ん~! おいし~☆ ちょっと余計なものが入ってる気がするけど……甜花ちゃん成分で相殺だね☆」
「にへへ……なーちゃん、笑顔……! よかった……!」
「! て、甜花ちゃん……!」
まさか気持ちが筒抜けになっていたのかと甘奈は目を見張る。
対する甜花は一心不乱にもぐもぐと食べており、両頬が膨らんでいく。
「……────甜花ちゃん。ほっぺにツナがついてる! 拭いてあげるね!」
「ん……? うん……!」
§