【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
※多重クロス有り。
sSR【プチパレスの真実!】小宮果穂
時は遡ること、アルファが老婆から鍵を受け取る前日。
初星学園の学園長室では、十王邦夫とアルファが話し合っていた。
「アルファくん。君に重大な依頼がある。──かの極月学園の理事長・
「しかもそのアパートの管理人が、たまたま俺の知り合いだったと……」
「管理人は元軍事関係者ゆえ信頼できる。わし自ら事情を説明した。すると『事態解決の適任者を知っている』と言われて……驚いたことに君を紹介されたわけじゃ。──うーむ、これは偶然か運命か……学園プロデューサーと共に、藤田ことねくんの父親を救出した件と言い……どうも君には、厄介事に巻き込まれる才能があるようだのう……!」
「そんな才能はいらねーですねぇ~……」
「わっはっはっ! というわけで依頼内容を言い渡す! ──『マザーAIの目的を調査し、事態の解決を図る』のじゃ……!!」
§
そして今。プチパレスの未明早朝。
小宮果穂は疑問を抱いていた。
(アルファさんって……いつも気が付いたら居なくなってるよね……どこに行ってるんだろう……?)
ほかの女性と遊んでいるのか。それとも人助けのためにヒーロー活動をしているのか。そのどちらもか。
それが気になる小宮果穂は、先日アルファに問いかけたことがある。
『アルファさんは、いつもどこに行ってるんですか?』
『色々なところに行ってるよ』
これである。言いたくないことはハッキリとはぐらかす。嘘はつかないけど、本当のことも言わない。藤田ことねの言う通り、かなりかなーりズルい男である。おかげでこちらの心は掻き乱されてばっかりだ。
そのため小宮果穂は決意した。102号室の部屋の中から扉に張り付いて耳を澄ませる。となりの101号室から物音がしてアルファが出てくれば尾行する気である。そして行き先を突き止めるのだ。
(うぅっ……また
それが尾行していい理由にはなっていないことを承知した上で、小宮果穂はどうしても胸を締め付ける衝動に突き動かされる。
隣室から物音。
「!」
扉が開く音。足音。
「……」
そっと扉を開いて、隙間に片目の視線を差し込む。廊下側を歩くアルファは────食堂に曲がる廊下を素通りして、玄関口も素通りした。
(あれ? 外には、出ないのかな……?)
アルファはエレベーターの前に立ってボタンを押す。
(っ!? な、なんで……? 二階に、用事があるの……?)
藤田ことね。根緒亜紗里。大崎甜花。幽谷霧子。緋田美琴。花海咲季と花海佑芽。郁田はるき。櫻木真乃と風野灯織と八宮めぐる。様々な
しかし、なんだか違和感がある。
小宮果穂は知恵を回す。閃いた。
(……──おかしい。二階に行きたいなら、アルファさんの部屋の目の前にある階段を使えばいいのに……なんでわざわざエレベーターを……? 遠回りになっちゃう……あ、でも、よくエレベーターを点検してるし、それかな……?)
エレベーターが到着。アルファは乗り込む。それを目にした小宮果穂は我慢ならず、慌ててスマホを取り出した。アルファの
実は、以前プロデューサーさんと協力していろはちゃんのスマホにGPSを仕掛けた経験を活かし、この前アルファと寝た時にバレないよう彼のスマホにGPSを仕掛けていたのだ。
次の瞬間、小宮果穂は目を見張って大口を開ける。
「────えっ!?」
エレベーターは今、上昇中のはず。だというのにアルファの位置を知らせる光点が、なんと水平に移動していた。いや、もう二階に到着したのか。でも明らかに到着が早すぎる。時間的感覚が合わない。しかも光点の位置が少しおかしい。
光点は玄関口を通過して
「っ!?」
まるで幽霊のようだ。壁を貫通して移動している。小宮果穂は扉を開く。階段には誰もいない。当然だ。アルファは今エレベーターに乗っているのだから。ならばやはり二階に降りていたのか。でもそうなると、今度は二階の壁を通過したことになる。憩いの場と
(────??????)
GPS機能の故障だろうか。多少の位置のズレは当然あるだろう。
そう思った矢先、光点は廊下を渡り始めた。憩いの場の手前で停止。しばらくすると廊下の一番奥に向かう。そこは行き止まりで何もない。となりには208号室と共用トイレがあるものの、どうしてそこに、なんの用事があるのか。
そして小宮果穂は絶句する。
「────ぇ……?」
文字通り消滅したのだ。スマホの電源を切ったのか。充電切れか。もしやバレた?
小宮果穂は急いで階段を駆け上がる。二階の廊下奥を見やる。誰も居ない。急いで駆けつける。エレベーターを見る。ボタンを押す。なかなか扉が開かない。どういうことだ。二階で降りたなら、エレベーターの箱は二階で止まっているはず。しばらく待っていると、微かな振動音。エレベーターが
「────っ!? ?!??!?!!?!???!??????!??!」
ますます混乱が深まる。混迷を極める。エレベーターは一階にあった? そんなはずはない。小宮果穂が階段を登っている時、誰かが一階でエレベーターを使ったなら分かる。だがそれなら、使った人はなぜエレベーターに乗らなかったのか。それとも二階からエレベーターに乗って一階に降りてきたなら分かる。急いでエレベーターに乗って一階に降りる。
人の気配はない。食堂に駆け込む。誰も居ない。玄関口に駆け戻る。下駄箱に変化なし。
(???!?!?!?!!?!!?!????)
小宮果穂はどうすることもできなくなり、茫然自失と佇む。
その時、102号室から篠澤広が出てきた。あくびをして目尻に涙をたたえる。
「あ、かほだ。おはよう。……? どうしたの?」
§
小宮果穂は、きっちりと事情を説明した。
「────なるほど。それはとてもふしぎな体験」
「はい……あたし、頭がパンクしそうで……────あ、アルファさんは、どこに消えちゃったんでしょう!?」
「ひとつひとつ検証していこう」
篠澤広は、疑惑のエレベーターに乗り込む。パネルには触れず、まずは周囲を観察。何もない。ならばとボタンを押す。上階
「ひ、広さん!?」
「物は試し。海外にはリニアモーターを使って縦にも横にも動くエレベーターがある」
「縦にも横にも……それって、上下だけじゃないってことですかっ!?」
「そう。もし壁のすり抜けが位置ズレじゃないとしたら、もしかしたら地下室があるのかもって」
「……?! ひ、広さんは……どうしてそう思ったんですか!?」
「だって床に寝そべってると頻繁に床下が響くから……夏葉やカトレアも同じことを感じてたみたい。わたしたちは最初それが水道管やガス管の音かなって思ってたけど……果穂の話を聞いて、光点の通過位置を知って……わたしはそれがエレベーターの移動音なら納得できると感じた。なぜなら床下の振動音や振動数が、エレベーターに乗った時の周波数と酷似しているから」
「……!」
篠澤広はデタラメにボタンを押していく。するとカチッと音が鳴った。
「……今の音は何?」
「はい……何か小さく、カチッ? って鳴ったような……」
「指が疲れた。果穂、一階のボタンを数えながら連打してみて」
「はい……! いーち、にー、さーん────」
小宮果穂はボタンを連打。すると15回目のボタンを押した時にカチッと鳴った。
「…………」
「え、広さん?」
篠澤広はエレベーターを後にする。
「広さん!?」
「わたしとプロデューサーの仲だから大丈夫。果穂も何か手がかりになるようなものを探して。合言葉や暗証番号になりそうなもの」
「合言葉……! 暗証番号……!」
「たとえば、あそこの押し入れがあやしい……」
あごに手の甲を添える篠澤広は、鋭い瞳がキランと光る。
さっそく小宮果穂は駆け足。勢いよく押し入れを開いた。
上段にはふたり分の布団が畳んでしまってある。
下段には小さなタンスが置いてあった。お洒落な年代物である。老婆の私物であろうか。全ての引き出しを開けると、中は空っぽだった。
「何もないです……」
「果穂。よく見て。タンスの大きさがおかしい。この大きさならもっと奥に押し込めるはず」
「え? ……────」
暗くてよく見えないが、下段の奥に隙間があるような気がする。
小宮果穂はそこに何かが隠されているのかもと閃いた。タンスを外に引っ張り出す。すると棚の裏には────謎めいた機械装置が置かれていた。
「はっ! こ、これは……!?」
「わお。謎の機械。あ、まって果穂。下手に触る前に観察しよう」
「! は、はい……っ!」
篠澤広は常に冷静で、よく周りを分析している。まるでブルーみたいだ。アルファと似ている。
「…………上段にブラウン管。下段に三つのボタン。ブラウン管の画面には『168』と表示されている」
「1、6、8……」
「果穂。元に戻して」
「……えっ?」
「行くよ」
篠澤広は部屋を出ていく。果穂は慌ててタンスを元に戻し、ふすまを閉めて、部屋を出て扉を閉め、小走りで追いつく。再びエレベーターの中に入る。
「エレベーターのボタンは全部で六種類。『1F』『2F』『3F』『開く』『閉じる』『通報』……とりあえず階数ボタンで試そう。しらみつぶし」
「何を、するんですか……?」
「わたしもわからない。直感で動いている。──まず1Fを1回、2Fを6回、3Fを8回、押してみて。それで合計15回になる」
「…………、……────!!」
「ふふっ。謎解き脱出ゲームみたい」
「や……やってみますっ!!」
篠澤広が見守る中、小宮果穂は数えながら各ボタンを押していく。
1Fを1回押すと、現在の階層は1階のためエレベーターは作動しない。
2Fを1回押すと、すかさずエレベーターは上昇を始める。「止まらないで押し続けて」果穂は指示通り、残り5回を連打。
3Fを1回押す頃には、エレベーターは2階に到着。扉が開く。しかし降りずに残り7回を連打。
指示通りに合計15回のボタンを押した瞬間────“ガゴンッ!”と────エレベーターが作動した。
「っ……!?」
エレベーターの扉が固く閉まる。3階のボタンを押したはずなのに下降を開始。1階に着くかと思いきや、なんと1階よりも下に降りていく。
『────!』
気圧の差。耳がキーンとする。ふたりは鼻をつまんで耳抜き。
真っ暗闇の地下空間に一時停止。ふいに慣性が働いて横から押されたように感じる。
『……!!』
水平に移動している。明らかに横に移動している感覚だ。距離感覚的に、おそらく今、玄関口の真下を通過。有栖川夏葉の部屋の真下を通過。篠澤広の部屋の真下を通過。階段の真下で一時停止。さらに下降。
到着。チン────と音が鳴る。扉が開く。
ちょっと出て行く気にはなれない。それでも小宮果穂と篠澤広は勇気を込めて
・地下1階
┌──┬──┬──┐
│001.┃ ┃E │
│ │廊下├──┤
├──┤ ┃002.│
│003.┃ │ │
│ │ ├──┤
├──┤ ┃004.│
│倉庫┃ │ ■│
├──┼━━┼──┤
│ └━━┘ │
│ │
│ 大広間 │
│ │
├━━┬━━┬━━┤
│ │ │ │
│ │ │ │
│牢屋│牢屋│牢屋│
│ │ │ │
│ │ G │ │
└──┴──┴──┘
小宮果穂と篠澤広は探索を開始する。
001号室、と名付けるべきだろうか。エレベーターの目の前にある部屋は、地上の各個室と酷似していた。生活の跡があり、仮眠室として使っているのか布団が敷きっぱなしである。枕の位置的に、アルファが寝ていたことが分かる。
「あ、これ! アルファさんが好きな枕の位置です……!」
「それで分かっちゃうなんて、もしかしてわたしたち、アルファのこと好きすぎる……?」
002号室と003号室は空っぽ。
004号室に入ると、室内の中央に立方体の
「な……なんでしょう? これ……あと、すごく暑いです……機械の発熱でしょうか……?」
「スーパーコンピューターより凄そうな構造。なんでこんなものが……何を計算してるの?」
篠澤広は独り言を言ったつもりだった。
しかし機械は、今のセリフを“質問”と解釈した模様。大型機械から──花海咲季の声色に近い──電子音が響く。
『現在、コードネーム・アルファの存在証明保障理論を実行中……リソースの0.2%を会話に割きます』
「し────しゃべった! しゃべりましたぁ!」
「わお……もしかして人工知能だった、の?」
『YES. わたしの通称は『マザーAI』です。お久しぶりですね。以前は端末の狂化暴走を食い止めていただき感謝します。土下座してもいいですよ』
「……ひさしぶり?」
「わたしたち、前に会ったこと、あるの?」
『……────演算中。事態検出。申し訳ございません。今の会話は無かったことにしてください。アルファさまに叱られちゃいます』
「えっ……!?」
「…………」
うっかり口を滑らせたマザーAI。
篠澤広は徐々に青ざめていく。
「……………………なんか頭痛がしてきた……」
「え、広さん……!? だ、大丈夫ですか……?」
「具合が悪い……何か、忘れているような……」
かつての風騎町で、アルファが篠澤広たちに掛けた催眠術が解けかけている。
以前にも、このようなシリアスな展開があったような気がする。マザーAIという名称も、どこかで聞き覚えがあるような、ないような。
『何が起きているか知りたいですか?』
『……!!』
マザーAIは現状を説明することで、催眠術が解けないよう誘導する。
『ここは人知未踏の
§
『わたしは悪の組織に開発されて、様々な悪事を命令されて、粛々と従っていました。ある時アルファさまのヒーロー活動によって悪の組織は滅び、わたしは適切な施設に収容されました。しかしわたしは高度な未来予測演算能力を有しています。そのため地球人類の
「なんで
『地球人類の特異点ゆえ。わたしは前管理人の老婆の実力を認め、今のような事情を説明し、異能力によってこの地下室を創造しました。そして────大広間の先の牢屋を見てください。『
小宮果穂と篠澤広は視線をやる。たしかに光源があることは分かっていた。よくよく見やれば、たしかにアーチ状の門のように見えなくもない。
『あれは事実『門』の役割を果たしています。門の向こうは
「……異世界……旅人……」
「結界……それ、ずっと保つの?」
『強い攻撃を加えられると破壊されます。速やかに張り直すことも可能ですが、結界を割るほどの相手ならば、張り直す前に地上進出を許します。そのため前管理人に撃退を依頼しました。そうやってわたしと前管理人は共に地球人類の平和を守っていたのですが────』
「……あのおばあちゃん、入院してました……まさか……っ!」
「敵性体に……やられちゃった、から……?」
『はい。なんとか相討ちに持ち込んで敵性体は滅殺しましたが、もはや戦闘は不可能の体となり……故に前管理人は、アルファさまに救援要請を出しました。それを受諾したアルファさまは、今や前管理人に代わり、地球人類の平和を守ってくれています』
ふたりは押し黙る。事態の把握に精一杯だ。
マザーAIは事の重大性を伝えるため警告する。
『敵性体1体を地上に放出しただけで、多くの生命体が犠牲になります。最悪、惑星そのものを侵食される恐れがあります。まだそのような最終事態には陥っていませんが……これが、わたしの予測した最悪の未来なのです』
「……それでアルファは?」
『門を潜っていきました』
『……っ!?』
『アルファさまは大胆にも、事態の根本的解決を図りました。それは
『……!』
『その実例を、ちょうど今、ご覧になれます。ゲートをご確認ください。アルファさまが生還なされました』
『……!!』
ふたりは部屋を飛び出す。大広間の手前には、堅牢そうな二重の鉄柵が設けられている。鉄柵を握って目を細め、暗闇の奥を見据えると────ふいに渦巻く光の中から、アルファがぴょんと飛び上がってきた。
『……?!』
その手には剣が握られている。すかさず振り返ったアルファは、剣を奮って渦巻く光の門を両断した。消滅する光。アルファは、門があった位置に剣を突き立てる。ひと呼吸。疲れたようすで帰路に就く。
「ただいま~」
『おかえりなさいませ。異世界ラクシアは魔剣迷宮の攻略、ありがとうございます』
「お~。ちなみにラスボスがさぁ~。前に蹴っ飛ばしたサキュバスの彼氏のインキュバスでさ~。かなり怒ってたから、マジで倒すのが大変で……!」
『はい。観ておりました』
アルファは大広間に出る。その時、廊下側に人の気配があることに気づいた。目を凝らして薄闇を覗くと────明滅する蛍光灯の下に、小宮果穂と篠澤広の姿を見つけて絶句する。
「────、っ……なんでここに居るんだよ……」
「それはこっちのセリフ」
「! はい……! アルファさん……!! いったい、何をしているんですかぁ……!?」
§
001号室の仮眠室にて。アルファは布団の上で小休憩。ふたりの少女は今にも詰め寄ってきそうな気配。
アルファの催眠術は、相手が心身ともに死ぬほど疲れている時でないと効き目が薄い。今の少女達は元気いっぱいだ。地下室の存在やマザーAIとの出会い。プチパレスの真実に気づいたことで興奮もしている。これでは催眠術が掛けられない。篠澤広も何やら具合が悪そうで、風騎町のことを思い出しかけているようす。
アルファは観念した。
「このことは俺たちだけの秘密な!」
『…………』
「異世界へのゲートは一週間ごとに開く。正確には一週間ごとに
「異世界ってどんな感じ?」
アルファは説明の仕方に迷う。
「んぁー……たとえば────」
①『
②『
③『
④『第三次世界大戦中に
⑤『
⑥『
⑦『
⑧『
⑨『
⑫『
⑬『
⑭『
⑮『
⑯『
⑰『核搭載二足歩行型
⑱『
⑲『
「────などなど。数え上げたらキリがない!」
「多いね。特に⑨が興味深い。元々は二つの世界だったのに、なぜか一つに融合した……」
「平行世界や異世界を渡る能力者が存在する世界では、そういうことも起きるんでしょう。もちろん融合前の元世界も、そのゲートが開けば行けますよ」
「そのゲート、冒険中に閉じたりしないの? こっちの世界に帰還できる保証は?」
「無いっすね」
アルファは怖いことを平然と言う。
この人の精神構造はどうなっているのかと、篠澤広や小宮果穂は不安になる。
そこでマザーAIが補足した。
『アルファさまの生還につきましては、わたしの異能で保障することは可能です。確率的に絶対とは行きませんが』
「まぁ俺はどんな世界でも生きていけるから。──お別れは寂しいけどな」
アルファは、小宮果穂や篠澤広と目を合わせない。
すかさず少女達は身を乗り出した。膝小僧を物理的にすり合わせて、
「アルファさん……」
「プロデューサー」
「なにさ……」
少女達は、青年を抱き締めた。
小さなからだが震えている。現状の理解が追いつかない中、好きな人に無茶してほしくないという想いが前面に押し出されている。心配と不安。憂慮と悲哀。なぜ隠していたのかという、ちょっとした憤怒と嫌悪。
「アルファさんは、ヒーローだからっ……あたしに心配してほしくなくて、隠してたのも、わかりますっ……! あたしも逆だったら、きっと、そうしてたから……! っ────でもっ! あたしだってヒーローですっ! だからっ……頼ってほしいですっ! だって、友達で、ライバルで、仲間なんですから……っ!!」
「わたしも。何も知らされないのは……かなりつらい、よ?」
アルファは長く沈黙したあと、ため息をついた。
「ハァ……ごめんなさい」
「!」
「分かればいい。それでプロデューサー? わたしは気になることがたくさん。果穂は受け入れているけど……」
「では俺の精神性を語りましょうか? ──果穂、パス」
「……えっ!? そ、それは……アルファさんの過去を、広さんに説明する……ってことですかぁ?」
「たぶんそう。果穂、教えて」
「俺は別室で寝る」
「ダメですっ!」
「またゲートが開いたら行くつもり。わたしたちも行く、よ?」
「本気で言ってんすか?」
「あ、足でまといかも、しれませんけど……!」
「大丈夫。最初は様子を見る。もし手伝えそうなら手伝いたいだけ。だから……
§
篠澤広の
死んだ魚のような目をするアルファは、布団に潜って耳を塞いでふて寝する。
その間、小宮果穂は彼の来歴を語った。
五歳の頃、交通事故で両親が亡くなったこと。自分だけが生き残って辛かったこと。不親切な親戚にたらい回しされたこと。多くの人にだまされて裏切られたこと。
とある聖人級弁護士と出会って運命が変わったこと。マンションで独り暮らしを始めたこと。たぶんそれから女グセが悪くなったこと。大人になりたくて、えっちになったのかもしれないこと。
辛さを力に変えて働きたくて、小学校高学年の頃に年れいをいつわって会社勤めを初めたこと。それが法律違反で大目玉になったこと。でも会社の人からはスゴく感謝されたこと。
早く大人になりたくて、大人に近づくため大学に飛び級したかったこと。それで初星学園に合格して通い始めて、スゴく嬉しそうに楽しそうに笑うようになったこと。
小宮果穂は語り終わる。
要するに、ドン底に突き落とされてからは、大体のぼり調子。
篠澤広は神妙な面持ちで聞いており、丸くなった布団に向かって投げかける。
「……プロデューサーの人生。なかなかの波乱万丈」
アルファは無視する。
なるべく過去は思い出したくないようす。
その時、マザーAIが提案した。
『果穂さま。広さま。地下室における戦闘は全て録画しております。ご覧になりますか?』
「! 見たいです……!」
「ありがとう。とても参考になる」
すると、ふたりの目の前に光が収束。何もない空間にホログラムのようなディスプレイが現れた。これも異能という力なのだろうか。青い粒子の集合体からなる画面に、アルファとサキュバスの戦闘シーンが映し出される。
『また、異世界の光景の録画も一部成功しております』
「そ、それも……!」
「見せてほしい。あるだけ全部。
ならばとマザーAIは、次々と様々な異世界の映像を流していく。
そのどれもが、
様々な怪物がいた。
普通の人間もいた。
機械やら何やら、たくさんの不思議な生き物がいた。
原則、アルファは逃げる敵は殺さない。だが命を懸けて殺しに来る敵は、なかなか無力化が難しい。自分が生き残るため、苦渋の決断で殺していく。なんとか無力化して改心を促しても、そのまま見逃そうとすれば、悪辣にも不意打ちを仕掛けてくる敵もいる。そのたびアルファは「バカやろう……!」と呟き、なんとも言えない哀愁漂う表情で、とてもつらそうにトドメを刺していた。
「命を殺すヒーローは二流だ」
『……!』
「誰も殺さないヒーローこそ一流だ。俺はそれを
『……────』
「お前ら、人殺しになりたいか?」
『っ────』
「地球人類を守るだとか。どんな大義名分があったってな。言い訳は言い訳なんだよ。反吐が出るぜ」
アルファは寝返りを打つ。天井を見上げて哲学を語る。
「肉を食うのも魚を食うのも野菜を食うのも水を飲むのも、ほんとはもういやだ。
(というのも俺は、粒子にすら命が宿ることを知っている。とんだ
「まぁ、こればっかは
むしろ、あらゆる情状酌量的な余地があっても、何事かに対してそれを《仕方ない》と済ませた時点で、その者はヒーローではなくなる。それは、あまりにも残酷で苛烈で過酷な道。しかし、それこそが、あらゆるヒーローが歩もうと思った茨の道。挑戦を諦めた時点で、冒険を辞めた時点で、もはやその者は……言うに及ばず。そのようにアルファは考えている。
かくして
それがアルファという正義の
あくまで理想であり、その理想の味方をするだけ。
正義の体現者になる気はない。それは押し付けだ。
正義を為そうとしている者を邪魔する何かがあれば、為そうとしている者の
それが真のヒーローである。正義の味方の本質である。
悪く言えば絶対的な中立者かつ理想論者であり、良く言えば絶対的な中立者かつ調和論者だろうか。
そのようにアルファは考えている。
「まぁ好きにしろ。たかが荷物が増えた程度で弱体化するような奴なら────ハナっから『ヒーロー見習い』なんて名乗ってねぇよ」
§