※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

78 / 125

 本話には、「グループSEN」および「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ソード・ワールド2.0/2.5』の二次創作物が含まれています。
 (C)GroupSEN
 (C)KADOKAWA

 SW2.0サプリメント・大型シナリオ集『ミストキャッスル 蛮都からの生還』



pR【霧の街/血染めの壁】月岡恋鐘〔リルドラケン〕(SW2.0/MC)

 

 ある日の放課後。

 プチパレスの各個室にて。

 

 突としてアルファ・小宮果穂・篠澤広の脳内に、マザーAIの電子的な声色が響く。

 

 ────『緊急警報(エマージェンシー)。第二牢屋の魔剣、迷宮化の兆し有り。十秒後、推定ラクシア産のゲート、開きます。至急対処を』

 

 三人は自室から飛び出す。エレベーターに搭乗。暗証番号を連打して地下室へ。

 廊下を走り大広間を抜けて牢屋に入る。地面に突き刺していた魔剣が光り輝き、異世界の空間へと通じる光の門へと変容した。すかさずアルファが飛び込む。小宮果穂と篠澤広は互いにうなずきあって手をつなぎ、意を決して飛び込んだ。

 

          §

 

 剣の創りし世界ラクシアは南半球。レーゼルドーン大陸南部の蛮都は“霧の街(ミストキャッスル)”と呼ばれている。そこは今や蛮族が支配する大藩領。元々は人族の魔動都市だったが、300年前の大規模人蛮戦争“大破局(ディアボリック・トライアンフ)”を期に占領された。

 

 しかし現代では人族勢力が盛り返しており、各国共同で霧の街を奪還する計画が鋭意進行中。霧の街には戦に備えて、既に何名もの斥候(スカウト)が送り込まれている。だが蛮族側も、そうやすやすと諜報戦で負ける気はない。

 

 今日も今日とて上位蛮族は、人族側の斥候(スパイ)を一名捕らえて、通称“血染めの壁”と呼ばれる区画に移送した。そこでは壁の上部から罪人を吊るして石を投げ、死ぬまでいたぶって愉しむという、蛮族の娯楽場兼処刑場である。

 

(くっ……とんでもなくピンチばい……! こうなったら剣(つるぎ)の陣営は問えん……誰でもいいから、たとえラーリスでもいいから、うちのことを助けてほしいば~い……!)

 

 そびえ立つ血錆(ちさ)びの巨壁。レベル13以下の真語魔法を封じる『真語封印ロープ』を手首に巻かれて吊るされた罪人の名はムンヒル。直立した竜(ドラゴン)のような種族・“竜人”リルドラケンの女性である。彼女はピンク色の鱗(うろこ)を有しており、最高位の真語(しんご)術師にして新米の召異(しょうい)術士でもある。

 

(痛(いだ)ーっ!? ぐっ……あそこの妖魔ども、さっきから石ころば投げよって~~~~!!)

 

 ムンヒルは卓越した魔術の手腕を駆使して二種魔法同時行使(ダブルキャスト)。魔法の行使が発覚したら即処刑される緊張感の中、真語魔法の『ディメンジョン・ゲート』と召異魔法の『デモンズゲート』を行使。

 

(バレたら殺される……!! その一念で蛮族どもにバレんようゲートを作ったけど……そのせいで場所の限定を忘れてしまったとよ~……! さっきの戦闘と今の魔法行使でMPもカツカツ……もうどうにもなら~ん……)

 

 どこに生成したか分からない二種類のゲート。その中から誰が出てくるかも分からない。完全なる博打である。否、デモンズゲートからは魔神が出てくるに決まっている。一方のディメンジョンゲートは、いずこかに発生したところで、そこに入ろうと思う者は居ないだろう。

 

(ほかに手の打ちようが無かったけん……こんなので助けが来るわけないのはわかっちょる……でも一縷の望みに懸けたばい……! うちはこんなところで死ぬわけにはいかない……! 人族が蛮族を駆逐して、平和な世界を取り戻すまでは……!!)

 

 その願いを、狂神ラーリスが叶えたのか、はたまた剣が応えたのか。

 場の死角となる位置。積み上げられた木箱の裏に、微かに発光して回転しながら拡大展開する魔法陣。生成された魔神の門(デモンズゲート)から────三人の来訪者(ストレンジャー)が現れた。

 

          §

 

 昼間。霧深い路地裏。左手と背後は建物の壁。右手と前方は木箱の山。周囲から汎用蛮族語の会話が聞こえてくる。そこかしこに蛮族がいるらしい。アルファは眉をひそめる。

 

「くそっ。よりによって蛮族領か……」

『!!』

 

 蛮族領。その言葉を聞いた小宮果穂と篠澤広の脳内に、本来知らないはずの知識が流れ込むように想起される。

 

「蛮族領って、怪人の巣窟ってことです……よね?」

「霧の街……血染めの壁……おかしい。わたしが知らないはずの知識を、なぜか急に持ってる」

 

 それはマザーAIの異能の所為である。

 

「その世界に関する基本知識や言語能力は、マザーAIの異能によって、ある程度は自動習得します」

「! それは、スゴいです……!」

「便利だね。何が危険で安全かすぐに分かる。──すぐ戻ったほうがいいよね?」

「はい。即死級に危険なのでね。ホント。絶対にここから顔を出さないでください。敵に見つかったらゲートに飛び込んで、大広間まで全力疾走してください。マザーAIが牢屋を閉めてくれて、敵の追跡を阻止してくれます。──じゃ、俺はこ(・)の(・)世(・)界(・)に(・)呼(・)ば(・)れ(・)た(・)理(・)由(・)を探しに行きます」

『……??』

 

 アルファは何度もゲートに飛び込み、数ある異世界を経験したことで、ある法則を見つけていた。

 それは『異世界に降り立った場所の近くには、ほぼ必ず助(・)け(・)を(・)求(・)め(・)る(・)声(・)が(・)あ(・)る(・)』という法則である。

 

 音を立てず木箱の山を登ったアルファは、血染めの壁を発見。ひとりのリルドラケンが吊るされている。それに向かって妖魔──ゴブリンやレッドキャップ、グレムリンやコボルド──が石を投げている。

 

(あのリルドラケンか……? ──とりまラクシア世界なら、『剣のかけら』を持ってる奴を倒して入手すれば、それをマザーAIが魔剣に変えてくれる。その魔剣ならゲ(・)ー(・)ト(・)を(・)斬(・)っ(・)て(・)滅(・)す(・)る(・)ことができる)

 

 ただしラクシアの魔剣は、自ら担い手を捜して迷宮を生成する不思議な力を有している。それがアルファの世界だと、ラ(・)ク(・)シ(・)ア(・)へ(・)の(・)ゲ(・)ー(・)ト(・)を(・)開(・)く(・)、という形で発動してしまうようだ。そのため魔剣を入手してゲートを斬っても、その魔剣がいつしか次なるゲートになってしまう。

 

(結局は堂々巡り。根本的な解決にはなってない。ただし今までのゲート先は、接続したままだとヤバイ場所ばかりだった。平和そうな場所に繋がれば、いっそそのままにする、という選択肢も生じるんだが……今回もハ(・)ズ(・)レ(・)か。さっさとゲートを斬り滅ぼして、次のゲートに賭けよう)

 

 アルファは、木箱に掛けられていた汚らしい布を発見。長いこと雨に晒されて血痕もある。これを体に巻いていれば奴隷か浮民(ふみん)に見えるだろう。浮民は蛮族の食料源であるため、浮民だと思われたら問答無用で襲撃を受ける可能性が非常に高い。そのため一気に決着をつける。

 

(下級蛮族こと妖魔は連(・)携(・)を(・)知(・)ら(・)な(・)い(・)。低知能で卑怯・臆病・傲慢の三拍子。互いに裏切り合うのは当たり前。自分の命が最優先。そこを突けば一対多でも勝ち目は大いにある)

 

 血染めの壁の周囲には、約50人を超える妖魔が群がっている。そのうち処刑場を取り仕切る妖魔(ゴブリン)が羊皮紙を読み上げた。

 

「アギャギャ! この醜くて惨めでかわいそうなコイツは、上位蛮族に逆らった罪によって殺される! さぁ石を投げろ! コロセコロセー! コロセェー!!」

『アギャギャーーーーーー!!』

 

 蛮族群衆の歓声が上がる。やたらめったら投げられて、狙い悪く壁に跳ね返る投石。そのうち一割が罪人の全身に命中。このままだと死んでしまう。

 

 すかさずアルファは木箱の山から飛び降りた。人族であることを隠すためのローブは即、捨て去り、布がふわりと宙を舞う。風に舞い上げられたローブは偶然にも罪人の体に引っかかり、投石の一部を受け止めて被害を減らしていた。

 

『アギャ……ッ!?』

 

 蛮族達はローブの出処を探す。着地した人間の男は眼光鋭く、開戦の宣言をぶち上げた。

 

「────そこのリルドラケンを助けに来た。文句ある奴はかかってこい」

 

 疾走。戦闘開始。アルファの脳内にマザーAIの念話が流れ込む。

 

 ────『敵性エネミー識別:コボルド、レッドキャップスレイブ、ゴブリン、レッドキャップ、ボガード。それぞれ10体以上。なお未確認の気配が存在』

 

 コボルド。身長120cm程度の犬人間。一斉にナイフを取り出して臨戦態勢。

 しかし処刑人の部下ではないのか、好んで戦う気配は皆無。最弱の種族たるコボルドは蛮族の奴隷階級であり、それを嫌って人族側に着く者が多い、温厚な気質の種族である。アルファが攻撃しないのであれば、彼らは怯えて道を開けていく。

 

 レッドキャップ。

 身長120cm前後の殺人鬼。下位種族に一回り背丈が低いレッドキャップスレイブ(奴隷階級のレッドキャップ)が存在。どちらも残忍な気質。個体能力は低いが、妖魔にしては(同族に限り)連携能力が高め。生き物を見つければ刃物を取り出して集団で襲いかかる。なお生まれつき髪は白く、惨殺を繰り返すことで髪を赤い血に染めていく。故に赤帽子の殺人鬼(レッドキャップ)。

 

『ニンゲンダァ゛ーーーーッッ!!!! ブッコ゛ロセ゛ェーーーーーーッッ!!!!』

 

 二十人のレッドキャップとスレイブ級が跳梁跋扈。爛々と光る目。長い舌。かっぴらいた眼は喜々に満ちている。

 

 流れ作業開始。刃物振りかぶってきた一人目の脇腹を右足で蹴り飛ばす。跳んできた二人目の側頭部に左裏拳で殴り飛ばす。切りつけてきた三人目の顔面を右拳で抉り抜く。右半身に回り込む四人目のあごに逆手掌底で意識を刈る。左から突き刺してくる五人目のあごに右肘打ちで失神を促す。背後から迫る六人目の左胸を後ろ蹴りで穿ち気絶を強いる。脚を戻して構え。頭上に影。仲間の背中を踏み越えてきた七人目の落下刺突を右手で払い、右裏拳で前歯を砕く。眼前で海老反りとなり落下する七人目の腹部を蹴り飛ばして、奥から走ってきていた八人目の全身にぶつける。様子を見ていた九人目と仲間に背中を踏まれて倒れていた十人目は、二人で立ち向かえば怖くないと言いたげに雄叫びを上げる。アルファは飛び込んできたところを縮地で詰め寄り、ふたりの間に立っていた。二つの顔面を掴んで、その後頭部を地面に叩きつける。瞬間起立疾走。前方にて、頭を打ち痛がりながら起き上がってきた八人目の顔面を殴り仕留める。

 

 五秒で流れ作業は終了した。気絶者多数。後方のコボルド達は格の違いを目に焼き付けて、泣き叫びながら逃走。

 一方、群がるゴブリンやボガードは、まだ数の上で優っているため、武器を舐めたり、両拳を打ち鳴らすなどして、歯ごたえのありそうな敵を嘲るようにニヤけている。

 

 ゴブリン。身長140cm前後。短腕短足。ぎょろりとした大きな目と、ひん曲がった大きな鼻が特徴。性格はお調子者。最も妖魔の本質を表している種族だ。優勢であれば高飛車に威張り散らかし、劣勢であれば泣き喚いて命だけは助けてくれと希う。されど耳を貸してはいけない。多少の情に流されて目を瞑るなり背中を見せるなりした瞬間、邪悪な微笑を浮かべて一発逆転を狙う。ただしその醜悪さは目に見えて分かりやすいため子供でも見抜ける狡猾さ。さらに人の心は無きに等しく。それは今すぐ露呈する。

 

 一人目が最前線に躍り出ると、その背中を二人目が押し出す。一人目はすっ転んでアルファの足元に滑ってきた。二人目は、そうすれば人間の男が仲間でもなんでもない同族のゴブリンを踏み潰すと考え、その間に奇襲をかける魂胆だったのだろう。一方の一人目といえば冷や汗を流して上目遣い「ヘヘッ……」とアルファに笑いかける。お望み通り、その背中を踏み越えたアルファ。背中を踏まれたゴブリンは「アギャッ?!」と鳴く。周囲のゴブリンは思いっきり踏んで隙だらけになったところを襲おうと考えていたため、まさか普通に歩いて越えてくるとは思わなかった。全員、目を丸くしてぼのぼの汗を流す。アルファは語りかけた。

 

「ひとつ相談だ。もしお前らが逃げないなら皆殺しにするが、いま俺が踏み越えたゴブリンだけは逃がす。逆にお前らが逃げたら、いま俺が踏み越えたゴブリンはブチ殺す。さぁ、どっちがいいか決めろ」

『……』

「返答は待たないぜ」

 

 疾走。二人目のゴブリンは刃物を投擲。半歩すり足で躱す。三人目以降のゴブリンは悲鳴を発して逃げ始めた。全員ボガードの背後に逃げ込もうとするが、当のボガードは逃げるとは何事だと殺意の双眸で射抜く。前門のアルファ、後方のボガード。居場所をなくしたゴブリン達は絶叫を上げ、アルファとボガード達から今すぐ離れるべく、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。一人目のゴブリンも殺される前に逃げ出しており、二人目のゴブリンも武器がないため悲鳴を上げて逃げ出す。

 

(さて……十人のプロレスラーに囲まれたら、さすがにヤバイな……)

 

 ボガード。人間大の妖魔で身長170cm前後。好戦的で個体能力が高い。生まれつき筋肉質で集団戦に長ける。蛮族の中で最も“兵士”の役割に適した戦闘用種族と言える。青みがかった灰色の皮膚は生傷だらけ。肉弾戦の稽古を怠っていない証拠である。

 

(レッドキャップ同様、ボガードは死を恐れない……殺らねば殺られる。加減は難しい)

 

 レッドキャップが落とした刃物を拾い上げる。逆手持ち。格闘の構えを取り、上向けた手のひらの指先をクイックイッと手招きする。挑発に乗ったボガード達は自慢の筋肉を張って咆哮。走り出した瞬間────横殴りの剛腕が、数体のボガードを薙ぎ払った。

 

『っ……!?』

 

 アルファは突然の同士打ちに驚く。ボガードの集団を攻撃したのは、集団の中でもひときわ体の大きな個体だった。身長200cm程度。本来ボガードにはない剣(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)角を生やしており、腕や脚は人間の体と同じくらい太い。明らかに変異体である。

 

『コイツ、オレガ、コロス! オマエラ、イラナイ、イラナイ!!』

 

 変異体はその強さから序列が上なのか。あるいは集団のリーダーに近いのか。他のボガード達は激昂しやすい変異体を刺激しないように、ゆっくりと後退する。

 

(ただの変異体か、剣のかけら持ちか、その両方か……いずれにせよ数の上では優勢に傾いた。あとはどう倒すかだが……)

 

 変異体が雄叫びをあげて駆け出す。巨体が走るだけで地面が響き渡る。その剛腕、もし人の胴に当たれば肋骨を砕いて内臓破壊を迫るだろう。

 

 アルファは震脚(しんきゃく)、腰を落として地轟(ち、とどろ)かし、ネジ打ち込むように大地接続。眼前より迫る右剛腕──掠(かす)れば風圧で吹き飛ばされる筈(はず)を────頬に掠らせながら紙一重で掻い潜る。力負けしない足腰は震脚の熟練度を表していた。逆手に瞬(またた)く刃物、右剛腕の手甲から肘にかけて一閃、分厚い筋繊維を噴血(ふんけつ)断裂す。背後の地面に剛拳が命中し爆砕。その時、変異体の右脇下にアルファの頭部有り。至近距離。互いの脚部が衝突する。

 

 周囲の群衆は目を見張った。巨躯が力負けして舞い上がる。矮躯(わいく)は泰然自若かつ一切不動。一回転した巨躯は、自らの剛拳で爆砕した地面に背中を強打した。

 

 変異体は何が起きたか分からず硬直。互いの右脚が衝突して、なぜ自分が転んだのか信じられない。まるで足裏から地に楔(くさび)でも打ち込んでいたかのような硬さと重さだった。さらに人間の男は右脚を動かしていないにも関わらず、自分の右脚は激痛を訴えている。つまり蹴られたような感覚がある。体当たりにも近い。動いていないのに体当たり? バカバカしいが現状が事実。砕かれる誇り。味わった屈辱。激しく湧き上がる憤怒。

 

 ────瞋恚(しんい)の咆哮が空間を轟かす。

 

「オレ、マケ、ミトメナイ……!! アキラメ、シヌ……!! アキラメルナラ、オレ、シヌ……!!」

「ならば勝つために強くなれ。戦うために生きよ」

「────ッ!!?」

「俺に勝てば、俺を殺すことを認めよう。それまで自分を鍛えろ。──名乗れ、戦神に従う戦士よ」

 

 アルファは戦神ダルクレムの教義を唱え返し、まるで自らがその化身であるかのように振る舞う。堂々とした威風は周囲の蛮族を黙らせて、戦場のカリスマの発露が場を支配する。しかして最後の余興として、アルファは左拳を開く。

 

 その手には────血に濡れた剣(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)角(・)があった。

 

 変異体は瞠目する。背筋に怖気が走る。怒りによって熱くなっていた額は、まさか。とっさに頭部に手を這わせると、ない。ない。どこにもない。自慢の角がない。剣のかけらを取り込んで生えてきた角がない。あったはずの場所には深い切り傷が入っていた。あの時だと悟る。激突して転んだ拍子に、刃物で切り込みを入れて左手で抜き取ったのだ。

 

 早業(はやわざ)に戦慄。技量差は著しい。

 その時、マザーAIの念話が飛ぶ。

 

 ────『調整完了。『剣のかけら』を『眠りの剣』に創剣換装(コンバート)します』

 

 まるで奇術。しかし変異体には神威のように映る。

 変異体の角(ツノ)が、何かしらの魔剣に変生(へんじょう)した。

 

 すかさずアルファは振り返りながら魔剣一閃。遠隔の魔法斬撃は全周を薙ぎ払い、ボガードの集団を一掃して催眠を強いる。精神抵抗に敗北した周囲の蛮族達は次々と眠りに就いた。直立状態からバタバタと倒れていく中……唯一、変異体のみが精神抵抗に成功している。呆けた顔で佇んでいた。

 

 ふいに『真語封印ロープ』が断ち切れてリルドラケンが落下を開始。背部の両翼を開いて一秒滑空。着地する。

 

「……っ!? あ────ありがとうばいっ!! この恩は一生忘れないとよ……!!」

「さっさと逃げろ。俺は帰る」

「っ────名前は!?」

「名乗るほどの者じゃない」

 

 アルファは木箱の上に飛び乗る。軽々と積み上げられた木箱を次々と飛び越えていき、頂上に着地。そこには小宮果穂がバレないように顔を出して周囲を観察していた。篠澤広は木箱の山を登ることができず疲れ果てている。

 

 そこで変異体が吼えた。

 

「オマ゛エ────ナニモノ、ダ……!?」

「縁があればまた戦おう。その時は愉(たの)しみにしているぞ、イグニスの尖兵(せんぺい)」

「ッッ……!!?」

 

 アルファは頂上から跳躍。木箱の山から飛び降りて姿を消す。

 すかさず変異体は走り出した。痛む右脚を忘我して叫ぶ。

 

「ウッド! オボエトケ、“鳩殺しの”ウッドダ……!!」

 

 剛腕一閃。木箱の山を打ち砕く。

 木っ端微塵となった木片の山。その先には────もはや何も存在していなかった。

 

 その代わり、木箱の中から奇妙な魔法門が出てきた。それはムンヒルが作り出したディメンジョンゲートである。変異体ことウッドは、考えなしに飛び込んだ。

 もし門の先に執着する敵(アルファ)が居れば殺す。もし門の先に居なければ新天地で修行して強くなる。いずれにせよ、いつか復讐を果たすことに変わりはない。

 

          §

 

 ゲートから飛び出てきた小宮果穂と篠澤広は、アルファに背中を押されて前のめりにこけそうになる。

 一方、すかさず門に振り返ったアルファは眠りの剣を振るい、ゲートを一刀両断して消去した。そして眠りの剣を地面に突き立てる。かくして時を経れば経るほど、眠りの剣は新たな担い手を求める願いの力が増していき、いつか異世界ラクシアへ通じるゲートを開くのだろう。

 

『皆様、事態解決ありがとうございます。ごゆっくり心身を休めてください』

 

          §

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。