【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
本話には、「家庭教師ヒットマンREBORN!」の二次創作が含まれています。
また、一部「ジョジョの奇妙な冒険」と「鬼滅の刃」の二次創作(クロスオーバー)も含まれています。
今日も今日とてマザーAIは警告を発する。
『ゲート生成を確認。世界座標────
共同住宅プチパレスの地下室にて、アルファ・小宮果穂・篠澤広の三人が集う。
「というわけで、これから異世界に向かう。前に────問題です。果穂、そこはどんな世界だ?」
「はい! 人間が波動という能力を持っている世界ですっ! 波動は生命力のことで、特殊な鉱石を『バイ体』にすると、死ぬ気の炎に『変カン』されます! 死ぬ気の炎というのは……えっと……なんかスゴいエネルギーです!」
「正解。及第点だ。──では広。死ぬ気の炎の解説を頼む」
「死ぬ気の炎は、略して
「正解。予習はバッチリだな。それじゃあ残る課題は現地で済ませよう」
緊急性も低いことから、三人はゲートに入る。ただし警戒度は高いため、異世界で長居はできない。それでもアルファは現地で講習を始めようとする。理由は、マザーAIの異能『ヨモツヘグイ』を用いて、実際にアルファ達が死ぬ気の炎を灯す練習をするためである。
マザーAIの数ある能力の内の一つ・ヨモツヘグイ。
それは『その異世界に入ると、その異世界の種族となる』能力。また、『その異世界に同一人物が居る場合、その同一人物と同じ
今回はその異能を使用しているため、三人は死炎世界に入門すると、その肉体は死炎世界に合わせた体質に変質する。
つまり体内に波動が生まれるのだ。
「……廃墟か」
ゲート先の光景は、崩壊した現代都市だった。
近景としては、廃れた商店街。軒を連ねる建物のほとんどが半壊しており、内装を露出させている。焼かれた建物、強い力で砕かれた建物が多い。
遠景としては、遠くにそびえる高層ビル群に、ミサイルでも激突したのか、中腹から真っ二つに折れている。いくつもの煙が上がっており、時折、銃撃や爆撃の音が響いてくる。
さながら戦時中の町。
人の気配も皆無と言えた。
「……ここ、別の世界ですけど、日本、なんですよね……?」
「たぶんね。……それで、プロデューサー。この異世界にも、私たちに助けを求めてる人がいるの?」
「ああ。でも緊急性は低いから、今すぐってわけじゃないはずだ」
周囲に異常がないことを確認したアルファは、さっそく懐からリングケースを取り出す。パカッと開けると、中には数々の指輪が入っていた。
「! それは……ただの指輪じゃなくて、きっと死ぬ気の炎を灯す鉱石をはめ込んだ、リングですね!? アルファさん!」
「その通りだ。──マザーAI。さっそく俺たちの波動を測定してくれ」
『測定開始────
『アルファさまの波動・強/弱:
『小宮果穂さまの波動・強/弱:嵐/晴・大空』……
『篠澤広さまの波動・強/弱:雨/霧』……
────測定終了』
「サンキュー。今回の死炎世界では、俺は雨属性の波動が強いのか……なら雨属性の青い鉱石をあしらったリングを使わないと、雨属性の死炎すなわち雨の炎は灯せないわけだ」
「! それならあたしは……嵐属性の赤い鉱石と、晴属性の黄色い鉱石と、大空属性のオレンジ色の鉱石が必要なんですね!」
「波動は目に見えないけど、鉱石と死炎には特徴的な色が付いている。波動と属性の色さえ分かれば、あとはその色の鉱石を揃えればいい」
といっても波動の測定方法は、この世界ではあまり確立されていない。
そのため、この世界の死炎戦士は、様々な色の鉱石を試して、自分がどんな波動を有しているのか探っていく必要がある。今回はマザーAIの異能によって、探る手間を省いた形となった。
「それでは自衛手段として、これより死ぬ気の炎を灯す練習を実施する。果穂、死炎を灯すために必要なものは、なんだ?」
「はいっ! それはぁ……“覚悟”、ですっ……!!」
「正解。この世界では、そのように表現されている」
まさかの精神論。だが、それが事実であるが故に“死ぬ気”という名称が付けられたのだろう。
「ではさっそくリングを嵌めて死炎を灯してみろ。果穂には嵐と晴と大空のリングを渡す。広は雨と霧のリングだ」
小宮果穂は右手の中指に嵐のリングをはめる。それ以外の指にも晴・大空のリングをはめて────ぐぐっと覚悟を込める。
篠澤広も試してみる。
「んんっ……! んんっ~~~~~~……っ!」
「…………。…………────プロデューサー。私のは全然灯らない」
「~~~~~っ! ぷはぁ! あ、あたしもですぅ……覚悟なら、あるはずなのに……」
アルファは腕を組んで何度もうなずく。分かる分かると言いたげだ。
「ここで持論をひとつまみ。俺は理論派だから、死炎点火技法が“覚悟”ってのは、どうにも納得がいかない。波動は体内にあるんだから、適切な体内操作を行えば、それだけで波動は鉱石に流れて死炎を灯すはずだ」
「なるほど。たとえば中国拳法の気功術みたいに?」
「その通りだ。そこで俺は、別の異世界に渡った際の経験をもとにして、次のような考察を打ち立てた」
死炎を灯すために必要なもの。それは────“呼吸”だ。
「とある
「共通点……ですか?」
「その共通点を実証するため、今挙げた二つの世界の住人に対し、マザーAIの波動測定を実施した結果……俺の予想は的中した。結論から言えば、彼らは『体内の波動を呼吸で混ぜ合わせて出力していた』んだ」
「……? え……それって、もしかして……
アルファはうなずく。
「たとえば
「太陽と同波長……それはスゴく難しいね。どれだけ修行しても、私も果穂もできないと思う。プロデューサーはできたの?」
「俺は難しかった。でも先に死炎世界に来て雨の炎を灯していた経験のおかげで、土壇場も土壇場、雨と雷の波動を組み合わせた
アルファは、その経験を経て閃いた事を話す。
「ところで雨の炎の性質は鎮静、雷の炎の性質は硬化だ。雨の炎は鎮静性質を有するため、ほかの死炎と比べて速度が遅い。そして、これは偶然か否か。青緑波紋疾走の効果も、波紋の攻撃速度が遅かったんだ」
「雷の炎の硬化性質は、攻撃力と防御力と射程に秀でる。それも噛み合ってた?」
「ああ。攻撃力は絶大だった。射程もバッチリ」
次いでアルファは、鬼滅世界の経験についても語る。
「その一方で、鬼滅世界では五つの基本式呼吸が存在した。それは赤い炎・青い水・緑の風・灰色の岩・黄色い雷の呼吸法だ」
「嵐の炎・雨の炎・雷の炎なのに風で……岩はよくわからないね? それで雷なのに黄色? 晴なのかな」
「雷の呼吸は、おそらく晴をメインに据えて、雷をサブに据えた、波動の体内調合による呼吸術だ。晴の炎の活性性質で肉体の瞬発力を倍加させて、雷の炎の硬化性質で日輪刀の硬度を極めて向上させていた、と俺は見ている」
「なるほど……それでプロデューサーは、どの呼吸法を使ったの?」
小宮果穂はピンとくる。
「やっぱり……青だから、水の呼吸ですかぁ!?」
「その通りだ。雨の波動だけで、水の呼吸は使うことができた。もちろん並大抵の修行じゃできない。青緑波紋疾走と同様、一瞬だけ
「それでプロデューサー。鬼滅世界の呼吸法は、具体的にどう出すの?」
アルファは即答する。
「努力!」
「……どりょく!」
「身も蓋もないね。当然だけど」
篠澤広は思案する。貧弱虚弱脆弱の三拍子が揃った自分に、適切な呼吸法は厳しいものがある。
その思考を読んで、アルファが待ったをかける。
「ただし、この世界の法則は、あくまで根性論による『覚悟』だ。たとえ呼吸法が完璧じゃなくても死炎は灯すことができる。だから、逆に考えるんだ。この死炎世界における呼吸法は、単に『死炎を灯しやすくするためだけの技術』だと」
「……なるほど。それならできそうかも。覚悟はある……と思う。だからあとは呼吸を整えるだけで……」
「果穂は、おそらく力みすぎだ。もっと力を抜いてみろ。それでもダメならもっと力を抜け。──広は、むしろもっと力を込めろ。喉でも肚でもどこでもいい。色々なところに集中して力を入れて、試してみてくれ」
二人は挑戦してみる。
すると篠澤広のリングから、さっそく青い強火と、藍色の弱火が灯った。雨の炎と霧の炎である。
「! スゴいです、広さん!」
「おお……本当に出た……ふふっ。きれいだね?」
「最初に着目するのがそこですか」
「たしかにきれいですぅ……! 雨の炎はぁ……なんだか水っぽい炎って感じですっ! 霧の炎は……本当に霧みたいな炎ですっ!」
「ふふっ。そのまんまな表現だね。雨の炎は水彩で炎を描いてみた感じで、霧の炎は水彩にさらに水を与えてぼやかした炎の絵みたい。現に何かを描けそう」
小宮果穂も負けてはいられない。脱力の心地で覚悟を灯す。
やがてリングから────激しく燃え盛る赤い炎と、キラキラ光る黄色い弱火、どことなく奥ゆきのある橙色の弱火が灯った。
「わぁっ! 見てください! 死ぬ気の炎が出ましたーっ! やったー! わーい!」
「おめでとう、果穂」
「よくやった。ちなみに死ぬ気の炎は生命力そのものだから、出し続けているとどんどん疲れていくぞ」
「あ、そうでした!」
「そうだった……なんか疲れると思ってたら……」
まだ数分も灯していないのに、篠澤広は膝に手をついて、ぜえぜえと息を吐く。まるで長距離マラソンを走りきった選手並みに疲れ切っていた。
「篠澤さんは体力なさすぎて、ちょっと使うだけで瀕死になりますね。使いどきは考えてください」
「わ、わかった……」
「あたしはまだまだ元気ですっ!」
「果穂はそうだな。平均的な体力はある。子供だから若さも手伝って生命力は満ちあふれている。それなら
アルファは懐からケースを取り出す。開くと、中には様々な四角い匣が収納されていた。サイズは手のひら大。
「それは……! 小さな
「匣兵器。死ぬ気の炎を動力源として、
「つまり……あたしは、嵐・晴・大空の匣兵器を使えばいいんですね!」
アルファが保有する匣兵器は、全て分かりやすく、属性に合わせた色が塗られている。見た目で分かりやすいということは、敵に匣兵器を見られただけで使用属性がバレてしまうため、非常に危険で非効率的。ただし今回は初心者の小宮果穂と篠澤広がいるため、見た目を分かりやすくしておかないと、緊急の時に混乱してしまう。
普段のアルファは、匣兵器に迷彩を施して傍目には分かりにくくしているが、今回は特例である。
「果穂には晴の匣兵器だけ渡しておく」(嵐は殺傷力が高すぎて、その気がなくても殺しちまったり、下手すれば果穂も巻き込まれて死ぬからな……)
「わかりましたー!」
「広も一応持っておけ。雨属性の防御系匣兵器がいい。至近距離なら攻撃にも使える」
「わかった」
「それじゃあ、試しに一度開匣してみてくれ。まずは広からだ。俺が攻撃するから、それに合わせて開匣しろ」
アルファは距離を取り、適当な鉄パイプを拾って、助走をつけて殴りかかりに行く。
篠澤広は左手に青い匣兵器を持って、右手の雨のリングに炎を灯し、匣兵器の注入口に死炎を注ぎ込む。次の瞬間、生命力を出し尽くしてしまったのか、篠澤広は目を回して倒れた。その代わり、死炎を蓄えた匣兵器が起動する。
圧縮した雨の炎が斬撃性能を伴って高速回転する。それはバリアの役目を果たして鉄パイプを受け止めつつ、鎮静性質で分子運動を止め始める。
つまりアルファは鉄パイプを引き離そうと思っても、それはまるで空中で固定されたように動かない。さらに鉄パイプの先端が、斬撃性能によって斬り飛ばされた。
その匣兵器の名称は、
「よしっ。使えるな。──次は果穂だ。防御と治癒を両立した晴系匣兵器を開匣して、広を癒せ」
「はいっ! むぅうう~~~!」
微弱な晴の炎を灯した小宮果穂は、それを匣兵器の穴に注入する。注ぎ続ける。……やけに時間が掛かる。
「……?」
「波動には強弱がある。どの生命体・すなわち人間にも、必ず一つは強い波動が存在し、それ以外は弱か、微弱な波動となる。ごくまれに複数の弱波動を持つ奴もいる。
「……そういうことなら────とぉりゃああああああ……っ!!」
小宮果穂は気合とも言うべき覚悟を強める。すると晴の炎が爆発的に増大した。
次の瞬間、匣兵器が黄金の光を放って開かれる。
それは浮遊する三角錐型の分離シールドだった。四枚のシールドが小宮果穂の周囲を巡回し、内側に晴の炎を照射する。小宮果穂と篠澤広の体力や精神力がみるみると回復していった。
ふいにアルファは投石。石はシールドに弾かれて、宙を舞ったあと自ら粉々に砕け散る。晴の炎に触れたことで石の内部が活性化し、内部から破裂したのだ。それほど活性効果が強いとも言える。弱波動でも、匣兵器の性能で晴の炎を強めてくれているのだ。
やがて篠澤広は、むくりと起き上がる。
「おお……急に元気になった……果穂、ありがとう」
「はいっ! 元気になって、良かったですっ!」
「果穂も大丈夫そうだな。敵に襲われたらそれで身を守れ。俺が駆けつけるまで防御に徹しろよ。下手に反撃したら死ぬから気をつけろ」
『……!』
小宮果穂と篠澤広はうなずく。この世界の敵は、リングや匣兵器の戦いに慣れているはずだ。ろくに戦えない初心者の二人がまともにやりあって勝てる相手ではない。自衛でさえ精一杯だろう。
「よし、これで最低限の準備完了だ。そろそろ行くか!」
§
まとめ────
波紋とは「波動を体内で調合する技法」と「太陽の波長を肉体に合わせる技法」の複合技で、超高等技法である。
呼吸(全集中の呼吸)とは「波動を体内で調合する技法」と「筋力を増大する技法」の複合技で、波紋とは別方向の超高等技法である。
余談────
呼吸(全集中の呼吸)は「太陽の波長を肉体に合わせる技法」を用いていないため、呼吸だけでは“石仮面産の吸血鬼”や“鬼舞辻無惨産の鬼”を殺すことはできない。そこで陽の光を吸収する
ただし“鬼舞辻無惨産の鬼”の
なお日輪刀は、別名“色変わりの刀”と呼ばれる。由縁は、全集中の呼吸を会得した一人前の剣士が、初めて日輪刀を手に握ると、刀身の色が担い手の波動に合わせて変色することにある。つまり日輪刀とは、担い手の波動を識別する事に適した、良い検査法となる。この特性から、剣士は自らの波動の色を知り、その色に合わせた別の呼吸を再修行で身に付けることも多く、その過程で新たな呼吸を開発することもある。
たとえば水の呼吸を習得して最終選別に合格し、日輪刀を預かって刀身の色が青紫になったとする。これが青色単色であれば、その剣士は雨の波動を強く有するため、水の呼吸との相性は最適となる。ただし、それに二色目の紫色が加わったとなると、その剣士は
その結果、いかなる派生流派が生まれたのかは────とある蛇のみぞ知る。
ちなみに、色の混ざり方は、大空の七属性が加法混色とされ、大地の七属性が減法混色とされる。
そして日輪刀は色ごとに“特性”が存在し、その特性は死炎の性質と同質であるとされる。
かくて以下に、各波動の色と性質の一覧表、ついでに各呼吸の対応表を記す。
※基本性質とは、死炎操作技法を知らずとも行使できる効果。第一性質とも。
※熟練性質とは、死炎操作技法を極める事で到達できる極地。第二性質とも。
※大地の七属性は、大空の七属性と同色とされているが定かではない。色も不明点が多い。
※大海の七属性は、大空の七属性と補色関係にあるとされる。
※宇宙の七属性は、多くが謎に包まれている。古代人類のチェッカーフェイスによれば、現生人類の起源に由来するとか。
※夜の属性は、多くが謎めいている。復讐心が芽生えれば、後天的に夜の波動が発現するとされるが定かではない。
波動:色:基本:熟練:
大空:橙:調和:噴射:
嵐:赤:分解:分析:
雨:青:鎮静:発散:
雷:緑:硬化:誘導:
晴:黄:活性:転換:
雲:紫:増殖:遮断:
霧:藍:構築:??:
大地:?:重力:黒洞:
沼:?:発酵:腐蝕:
川:鼠:透過:暴騰:
山:?:同調:隆起:
森:?:具現:隠蔽:
氷河:?:凍結:圧縮:
砂漠:?:幻覚:枯渇:
大海:海:浸透:氾濫:
凪:翠:停止:無感:
滝:糖:浄化:昇華:
波:紅:伝播:密集:
渦:天:収束:回転:
泡:林:破裂:浮遊:
蜃気楼:茶:屈折:逆転:
宇宙:?:真空:縮張:
恒星:?:熱風:爆発:
彗星:?:剥離:除去:
極光:?:磁力:輻射:
銀河:?:混合:分離:
宇宙塵:?:粉砕:蓄積:
暗黒:?:斥力:怪異:
夜:黒:加速:転移:
※必要波動とは、その呼吸を使うために必要な波動の属性を指す。たとえ微弱でも保有さえしていれば呼吸は修得可能。ただし
※日の呼吸とは、大空の七属性を混ぜ合わせたら加法混色となって光の白となり、大地の七属性を混ぜ合わせたら減法混色となって絵の具の黒となり、白と黒を混ぜ合わせて灰色になった上、夜の属性たる闇の黒をも混ぜ合わせた純黒色。
※獣の呼吸は、五大基本流派に六大目として追加されるであろう新流派と目される。派生流派として考えると風の呼吸に近いとされるが、この
呼吸:色:必要波動────────
日:黒:大空系・大地系・夜の全15種
月:紫:雲・氷河?
炎:赤:嵐
水:青:雨
雷:黄:晴・雷
風:緑:雷・嵐
岩:灰:大空系・大地系の全14種
獣:藍鼠:霧・川
恋:赤紫:嵐/雲
蛇:青紫:雨/雲
花:桃色:雨/嵐・雲
蟲:藤色:雨/嵐・霧
音:橙 :晴・雷/大空
霞:白 :雷・嵐/大空・雨・晴・雲・霧(つまり大空系の全7種)
§
昼。緑町。その地を守る新進気鋭の
(くそっ……仲間が留守の時に限って……! ここはアタシがひとりで撃退するしか……っ!!)
樹里の前方に敵陣。数は二十人。小隊長は
一方、後方には守るべき町民たち。数は七十人。
「────殺せ」
卿が命じる。十八人のうち八人が向かってきた。一度にこの数を相手にするのは無謀だ。
すかさず晴のリングから黄色い死炎を放出した樹里は、腰に提げた黄色い匣の穴を殴りつけるようにして、リングの鉱石を嵌め込み、死炎を一気に注入。相棒に活力を与えて解き放つ。
「
「キシャアアアアア────ッッ!!」
樹里とリンチェは突撃する。
樹里は晴の炎をまとわせた金属バットを振るって、白い隊服を着た敵数名と鍔迫り合って殴り飛ばし……リンチェは晴の炎をまとわせた牙と鉤爪と体毛を振るいぶつけて、敵数名を切り裂いて体当たりで突き飛ばす。
(よし! これなら時間稼ぎにはなる! 敵の襲撃は仲間に連絡済みだ。超特急で救援に来る。それまで敵をここに釘付けにして、町のみんなを守らねぇと……!)
「仲間が来る────まさか、本気でそんなこと信じてるんすか?」
「っ!?」
白い仮面をつけた卿が、樹里の心を読む。
するとかたわらに立つKが訳を話した。
「あなたの仲間は助けに来ません。なぜなら既にこちらの別働隊を向かわせており、現在交戦中だからです」
「なっ……! っ……!!」
敵の情報は信じない。だが、たしかに仲間からの連絡が途絶えている。もし本当に交戦中ならば連絡する余裕はないはず。つまり分断された。数は敵の方が上だから集結して迎え撃たなければ勝ち目がないのに、見事に隙を突かれてしまった。
「……へっ。いずれにせよ、アンタらはここでアタシが倒すから問題ねぇよ!」
「その強がり。すぐに無意味なものに変えてあげるっす」
卿は腰に差した日本刀を引き抜き、灰色の刀身を晒して、独特な構えを取る。
(っ……? 匣兵器じゃない……? なんだ、何か嫌な予感がする────!)
卿は、深く強く息を吸い始めた。あまりの吸気の強烈さに、炎が燃え盛るような音が生じる。窓の隙間風のように、あるいはそれより恐ろしい異音を激しく打ち鳴らして────抜刀。炎のような踏み込みを披露した。
(
炎の
「グアアアッ────!!」
「ニャアアアーーーッ!?」
大きく吹き飛ばされた樹里とリンチェは、魚屋のシャッターに激突。あまりの衝撃にシャッターがひしゃげた。町民たちにどよめきが広がる。
「……弱いっすね。つまらないっす。もう殺していいっすよ」
『はっ!』
十八人の部下は町民を始末するため駆け出す。阿鼻叫喚と化す商店街。
(ぐっ……! ダメだ……それだけは、それだけは────!!)
樹里は叫んだ。誰でもいいから、この窮地を救ってくれと。
「やめろぉおおおおお────!!」
晴天の下、アスファルトに影が過ぎ去る。
『っッ!!』
卿とKは見上げる。
魚屋の屋上から飛び降りた人影は、雨の匣に雨の炎を注入して開匣した。
(開匣────『
それは爆発的な雨の炎をまとった槍。長さはアルファの背丈より20cm長い程度。強力な鎮静効果は槍に影響を与え、槍の攻撃速度を低下させてしまうデメリットが発生するものの、それはアルファ自身の
一撃、卿の日本刀と激発して鍔迫り合い、鎮静効果を流し込む。
対する卿は息を吸おうとするが────
(新手! このまま弾き返して呼吸を────、ッ!? なんだ、刀が動かない……!! ──そうか! 鎮静作用で刀と至近空間の分子運動を停止状態に持ち込まれたのか……!)
アルファの蹴撃。卿を蹴り飛ばす。蹴り飛ばした反動で空中を一回転して半身をひねり、空中で振り返る。同時、
「雄雄────雄雄雄ォオオッ!!」
投擲。標的は、町民に突撃する敵・十八人の中央。その進路を塞ぐように雨と雲、すなわち叢雲の槍を叩きつけた。着弾と同時に雨と雲の炎が爆発する。
『グワアアアアアア────!?!!?!?!?!?!!!?!?!』
十八人の敵兵は瞬く間に吹き飛ばされて気絶する。強烈な鎮静作用を頭部に浴びて睡眠状態に陥ったのだ。
地面に突き刺さった巨槍は縮小を始め、自動的にアルファの腰に提げてある匣の中に帰還していく。
アルファは着地するなり振り返り、副隊長Kの動向を警戒。そして眉をしかめた。体のラインが誰かさんに酷似している。
一方、白い服面をつけたKは下手に動かず、新手のアルファを観察していた。
アルファとKは睨み合う。アスファルトを転がっていた卿は起き上がり、灰色の刀を杖にして立ち上がった。
そしてアルファは、魚屋の路地裏から響く足音を耳にする。すかさず指示を飛ばした。
「果穂! 負傷者の治療を任せた! 広! 町民の避難誘導を頼む!」
「はいっ!」
「任せて」
小宮果穂は商店街の大通りに出てアルファの背中を確認。振り返ると、西城樹里の姿を見つけて驚く。
「えっ!? 樹里ちゃん……!? なんでここに……!」
「──果穂、落ち着いて。この西城樹里は別人。別の世界の西城樹里だから、私達のことは知らない。知っていても、それはこの世界の果穂のこと」
「は! そ、そうでした! ゲートの先の世界には、なぜかよく似た人がたくさんいるんですよねっ!?」
あらかじめ学んでおいたことを思い出した小宮果穂は、晴の匣兵器を開匣してシールドを展開。シールドの中に樹里と大山猫を入れることで自然治癒を促す。
「ぐっ……な、なんだ、アンタら……なにもんだ……?」
「ヒーローですっ! 助けに来ました!」
「ッ……このご時世に人助けする奴なんざ信じられねぇけど……気をつけろ……アイツは、なんかヤバいぞ……! 変な呼吸と、炎のような
治癒の激痛をこらえる樹里は、隊長格の卿を睨みつける。
その話を後ろ耳に聴いていたアルファは訝しんだ。
(──……呼吸と
マザーAIが警告を発する。
『世界分析完了:今回の異世界は、死炎世界と鬼滅世界が融合しており、20XX年まで鬼舞辻無惨を倒せなかった世界線です』
(……なるほど。それで全集中の呼吸の技法が、おそらく
アルファは開匣する。泣き雲の槍を手にして構え、全集中の呼吸を行う。
(俺はまだ『全集中・常中』の技法は習得できてない……つーかアレの修得は、俺には一生無理だろう……ああいうのは復讐の執念があったからこそ可能な荒業と見ている。今の俺に、そこまで残酷苛烈な精神性と才能は、無い────)
しかし卿の呼吸を見るに、卿は常中を会得している模様。
この時点でアルファと卿の実力には、大きな開きがある。
(まずいな……)「二人とも! 俺は灰色の刀使いに集中する! もうひとりは任せた!」
『────!!』
それほどの強敵ということか。果穂と広は了解する。
「あの男、やるっすね。……K。後方支援を断って」
「了解」
「一瞬で頸を斬るっす」
卿は深々と前傾姿勢を取り、抜刀術の構えを見せる。
その構えに見覚えがあるアルファは焦った。槍を背中から右脇の下へ通すように構え、腰を落とす。
(女の声? しかもどっちも聞き覚えが──それに複数の呼吸を使うだと? ──っ、考察は後だ! 来る……ッ!!)
(
(全集中 強雨・群青・最大鎮静────水の呼吸 拾壱ノ型 模倣・刹那の凪!)
閃光。高速を凌駕する雷速の踏み込み抜刀は刹那、標的の頸を斬り飛ばす手前で防がれていた。
止水。全力攻撃に上乗せした鎮静効力を
(なにッ!? その型はまさか、伝承で語られる水柱・富岡義勇の……!!)
(カハッ!! ッ──呼吸も筋力も続かない……!! 相手の攻撃を一回防ぐだけで精一杯だ……ッ!!)
アルファの『凪』は刹那の時しか発動しない。故に『刹那の凪』と付く。常中を使えず、筋力鍛錬も柱と比べれば不足気味。それでも
互いに一合を交わし、雷速と止水が激発、剣槍の抜き身が芯から震えて刃が共鳴を起こし、両者、たたらを踏む。
(ならば連撃で仕留めるっす!)
(ならば肉を切らせて骨を断つ!)
二合目、両者は全集中の呼吸を行う。
なお全集中の呼吸によって生じる
対するアルファは霧のリングから炎を灯し、槍にまとわせる。
(
(全集中 強雨弱雲・
暴風突撃。身を逆巻く斬風旋刃は攻防一体を兼ね、闘気の密度を活性化させて、実際に突風を発生させる。
アルファ身体と蛇の闘気を塵芥と化すまで切り刻む暴旋風。アルファと蛇の挟撃斬撃は嵐の壁の前に削りきられて刎ねられる。だが次の瞬間には、風の切れ目からうねるように入り込んだ三匹目の霧蛇が牙を剥き、卿の右脇腹を噛み砕いて焼き尽くす。
(──今度は蛇の呼吸……!)
(霧蛇の牙には大量の鎮静毒を含ませた。体内に入り込んだ鎮静毒は増殖効力で爆発的に増大し、一時的な心停止を招く。いわば仮死状態だ)
卿は咄嗟に全力後退。体が鈍って足元がおぼつかなくなる。
アルファは追撃を仕掛けた。卿が嵐の炎を灯し、自らの体内に流し込んでいたからだ。
(やはり嵐炎の分解効力で毒を分解し始めた! その間、敵は解毒に死炎を使い、ほかの死炎や匣兵器は使えない! その間に仕留める!!)
火花散る壮絶の剣戟。
一方、副隊長Kは二者の脇を駆け抜けて、厄介な
(
「果穂!」
「っ!」
分解効力を活性で強めた、天を衝くような噴射斬撃。斬り上げの速攻は晴の匣兵器のシールドを砕き割り、刃が小宮果穂の喉元に届こうとする寸前で────「開匣」あらかじめ開匣していた篠澤広の渦転斬が、Kの頸狩りを防いで弾いた。
(っ!? 雨の炎は鎮静効力のせいで炎の推進速度が遅いため、
小宮果穂は尻餅を搗く。手を置いた場所にちょうど樹里の金属バットがあった。無意識に握り込む。
篠澤広は匣兵器を開匣したせいで精根尽き果てる。目を回してアスファルトに倒れた。
樹里は苦悶の顔を浮かべて死を覚悟する。このまま三人は斬り殺される。
(あれ────なんか、あたし……ピンチなのに……
小宮果穂は、深く鋭く一瞬のうちに大量の息を吸い込む。額に黄色い痣が出現。全集中・常中を発現し、金属バットを万力のごとく握り締め、天を突くような噴射を以て斬り上げた。
「なにっ────!? あたしと同じ呼吸法だと……っッ!!?」
尻餅を搗いた無防備に等しい状態から、まさかまさかの
(わかる────戦い方がわかる……! なんでかわからないけど、この力で樹里ちゃんや広さん、みんなを守らなきゃ! てぇやぁあーーーーー!)
金属バットに嵐・晴・大空の死炎をまとわせて、Kの日輪刀と激しく打ち合う。
その戦闘を寝そべりながら見守る篠澤広は、一つの仮説を立てていた。
(たぶんプロデューサーは、この白仮面の女性が果穂と同一人物である事を見抜いていた……声色や体格、身長で気づいたのかな? そして自分同士の戦いなら、ヨモツヘグイの効果で実力は互角になる。でも果穂の精神面はまだ戦いに慣れてない。そこを突かれると脆いけど、果穂に死ぬ気の覚悟があるなら十分食らいつけるはず)
(なんであたしと同じ顔をしていて、あたしと同じ天の呼吸を使えるのか分からないけど……ファミリーのためだ。ここで殺す!!)
(来る! 鬼滅世界の技は、ええと……予習したけど、いっぱいありすぎてすぐに思い出せない! と、とにかく、何か型を使わないと────!!)
(強嵐弱晴微大空・光輝赤燈・発汗調和・活性膨張・分解破裂────天の呼吸 主式 弐ノ型
(強い嵐に低い晴天! 赤みの強い
散弾のごとし連続斬り。前方広範囲の高速攻撃技。
六度にわたる反撃突き。前方高射程の攻防一体技。
六合に及ぶ斬突の激発。火花と剣戟は天まで轟き、空が落ちてきたかのような両者の踏み込みは地を轟かす。
§
死ぬ気の炎の属性には、憤怒の炎や雪の炎、夜の炎などといった、例外の属性が存在する。その数は少なくない。
憤怒の炎は、大空と嵐を混ぜ合わせた炎、あるいは大空と嵐の波動が生まれつき体内で融合していると発現するとされる。基本性質は風化、熟練性質は破壊。
雪の炎は、実は大空の炎と同質であり、死ぬ気の零地点突破による氷結から削り出された死炎凝結氷石から雪の炎が灯るとされる。使用には必然、大空の波動が必要。性質は基本も熟練もなく、死ぬ気の零地点突破・
その中でも恋の炎とは、感情に由来して発現するタイプの属性とされる。たとえば、同じく感情に由来して発現するタイプの夜の炎は、強い復讐心が体内に影響を与えることで、後天的に発現する波動とされる。それと同様に、強い恋心が体内に影響を与えることで、既に保有している波動の潜在能力が変質し、後天的に発現するものが、恋の波動とされる。
恋属性の性質は不明。ただし、その炎の色は
§
アルファの青槍が、白い仮面を斬り飛ばす。
卿の素顔は、芹沢あさひと瓜二つだった。すかさず卿は、嵐系リングを腰に提げた匣兵器に注入する。
(開匣────『
(っ!? それは十年後ボンゴレの! ──ってことは、この世界線のボンゴレは既に白蘭に……)
卿は、左腕に
(天地全種・虹霓命色・惑星動作・反復自転────岩の呼吸 壱ノ型
髑髏の口がカパッと開き、分解効力を伴う嵐炎を極大放射。同時、巨剣で豪快轟然と薙ぎ払う。
単純だが必殺の挟撃。火炎放射を躱せば巨剣で殺され、巨剣と火炎放射を同時に躱せば──おそらく嵐炎と雲炎を混ぜた──火炎放射で殺される。雲の炎の性質は増殖だ。一本の火炎放射を数十本に増殖させて範囲技とし、逃げ道を潰しに来るはず。
アルファは瞬発的に思索を凝らす。
(灰色の日輪刀。岩の呼吸。それは大空の七属性の全波動を混ぜ合わせて白色と化し、次いで大地の七属性の全波動を混ぜ合わせて黒色と化し、さらに白色と黒色を混ぜ合わせる事で灰色と成った呼吸法。だが、もしそうだとするなら────俺の考察は間違っていたのか?
日の呼吸。それを使うために必要な属性とは、いったい何か。緑壱さんの日輪刀は黒色だった。マザーAIに頼んで彼の波動を測定したが、エラーが多くて何も分からなかった。エラーを吐き出す理由は、彼が生まれつき全集中・常中が使えることで、体内の全波動を常に混ぜ合わせる……どころか、既に全波動が完全融合しており、いわゆる“日の波動”としか測定できなかったことが原因とされる。とりあえず俺は安易な発想で、全ての色を混ぜ合わせればいい、そうすれば減法混色で黒色になると考えた。
その考察は、
そして、
そんな折、
ならば炭治郎を除き、最も日の呼吸に近い適性を有している剣士は悲鳴嶼さんだ。彼だって復讐者を持っている。ただ日の呼吸の型は失伝しているため、どの岩柱も日の呼吸が使えなかった。
この考えなら一応の筋は通る。あとは土壇場で試してみるしかない。さもなくば────岩の呼吸の堅実無比な攻撃力の前に、俺は為す術なく叩き潰されるッ!!)
アルファは、悲鳴嶼行冥の内心を読心する事で知った反復動作に習う。
アルファの反復動作とは、過去の幸福と悲劇の同時想起にある。それにより、幸福によって培われた大空の波動と、
(
迫る火炎。迫る巨剣。
「アルファさんッ!!」
自ら戦いながらもアルファの身を案じる小宮果穂。
その呼び声を以て、青年の体内に桃色の波動が芽生える。
(みんな誰かの為に戦っていたッ! 俺みたいな独りよがりの復讐心ではなく、次世代に繋げるために戦っていたッ!!)
恋の炎の性質は不明。だが恋属性は一定の感情の昇華に伴い、全く異なる属性に発展・変質するとされる。
それは愛の炎。激情に駆られることで炎の色が変わり、時に鬼の炎、滅の炎とも呼ばれる、その性質は────循環。
(全集中
夜の地を虹で拓く。朧げながらも色鮮やかな、陽を
円弧描く穂先は火炎と巨剣を受け流し、『
(やはり大空と夜の二属性は使えなかったッ!! 夜はギリ使えそうだったけど、大空は俺の中で完全に失われた属性だから! 故に幻日! 偽の太陽を意味する幻日にしかならなかった! それでもっ!! 夜がギリ使えそうなら────!!)
(大空虹霓・全種開放────霞の呼吸 肆ノ型
白い闘気をまとって日輪刀が奮われる。滑り込みと同時に急所の血管を斬り上げてくる。
対するアルファは、後方で巻き起こる小宮果穂同士の戦いを参考にして、以前から磨いてきた我流の呼吸法を、初めて実践に投入する。
(全集中 蛇の
それは暴風と濁流のごとく、
実体のある槍で一斬、実体なき
アルファの左胸と脇腹が深々と切り込まれる。あと少しで心臓に届き、切り裂かれるところだった。
対する卿の四肢に、八つの孔がくり抜かれて血しぶきが飛ぶ。
『グゥ……ッ!!』
互いに急所を射抜いた。これ以上戦えば相討ちとなる。卿は全集中・雷の呼吸を行い、脚力を活性倍加させて跳躍、貫かれた四肢から血を撒き散らしつつ、自陣に退却を命じる。素早い判断である。
「退却! K、切り上げろ! こいつらは何かヤバい!!」
「! はいっ!!」
Kは、全集中・常中による天の呼吸を用いて、脚力を活性倍加、大空の噴射効力も合わせて大きく跳躍、屋上から数棟先の屋上へと駆け抜けて、瞬く間に遁走してしまった。
小宮果穂と篠澤広、樹里、町民たちは、敵が去った安堵のあまり気を抜こうとする。
刹那、アルファが叫んだ。彼は、卿の顔色から次の展開を見抜いていた。
「果穂ッ! 頭上に防御技を繰り出せッ!!」
「────っ!?」
青空を仰ぐと、嵐系火炎放射に雨・雷・晴・雲・大空・霧の六色を混ぜた光線が、それぞれの軌道を描いて降り注いできていた。それは『C.A.I.』による嵐雨光線・嵐雷光線・嵐晴光線・嵐雲光線・嵐空光線・嵐霧光線の六色爆撃である。敵は撤退しただけではない。最後の最後に狙撃手のように砲撃手のように、超遠距離からの奇襲的絨毯爆撃を仕掛けてきていた。
小宮果穂は広範囲を守れる防御技を閃く。だが今立っている場所で発動すると、アルファだけ守備範囲に入らない。彼は傷が深いのか膝をついている。もしかしたらアルファは自分で自分の身を守れるかもしれない。それでも傷が深いなら、防御も回避もできないかもしれない。
(っ──!)
小宮果穂は駆け出した。爆撃の軌道を読み、後方の味方と市民、そして前方のアルファ、両方を助けられる位置まで駆け出す。それは一歩間違えば、両方を助けられない博打だった。少しでも目算を見誤れば小宮果穂含めて全滅する。それでも勝率は高いと踏んでいた。
博打に怯えず、覚悟を以て、全てを助けられる知恵を巡らせ、それを選び続ける勇気の胆力を発揮して、ヒーローの少女はひた走る。
(天の呼吸 副式
それは走馬灯か。かつて放クラで遊んだ
否、それは大切な日常を守るため、誰ひとり取りこぼさない覚悟の想起。
本来、天の呼吸の副式は漆ノ型までしか存在しない。
つまり小宮果穂は今を以て、独自の型を編み出した。
「ジャシュュュュュ────」
それは正義を天に叫ぶ呼吸音。
一息にて際限なき連撃を放つ。それは先ほど目にしたアルファの『刹那の凪』から着想を得て、本来の『凪』に近づけた防御技。
ただただひたすら目いっぱい力いっぱい一所懸命に刀を振るいまくり、全ての攻撃を全力で打ち落とし続ける、筋肉と体力と視力と技量に物を言わせた迎撃戦法。
「どぉりゃああああああああああああ────!!!!!」
天より降り注ぐ絨毯爆撃に対して、天へと昇り防ぐ止水爆撃。
嵐弾に雨の鎮静効力を混ぜて、標的の威力を削減する嵐雨光線を斬り裂いて防ぎ、
嵐弾に雷の硬化効力を混ぜて、貫通威力を持たせた嵐雷光線を斬り突いて防ぎ、
嵐弾に晴の活性効力を混ぜて、複雑な軌道を描く嵐晴光線を斬り払って防ぎ、
嵐弾に雲の増殖効力を混ぜて、複数に分裂する嵐雲光線を斬り落して防ぎ、
嵐弾に大空の調和効力を混ぜて、周囲のコンクリートと同化して石化した、電柱のごとし数トンもの質量円柱を両断して防ぎ、
嵐弾に霧の構築効力を混ぜて、火炎放射の中につぶてを混ぜた二重の攻撃に対し、炎とつぶてを全て斬り潰して防ぎ────
全弾、小宮果穂の両側に建つ建物に跳ね返されて着弾、爆煙が上がる。
その爆発と煙幕に、小宮果穂とアルファが巻き込まれた。倒壊する建物。小さな地響き。
「果穂……! プロデューサー……!」
篠澤広が叫ぶ。町民もどよめきを上げた。
しかし樹里は不敵に笑う。活性効力で視力を強化しており、戦いの行く末を見届けていた。
「ったく、ほんとにやりやがった……すげぇなぁ!」
煙が晴れる。
そこには、ボロボロとなって風化する金属バットを持って佇む小宮果穂の後ろ姿と、ちょうど仰向けに倒れたアルファがいた。
小宮果穂は、篠澤広に呼ばれた気がして振り返る。その顔はススだらけだった。怪我はかすり傷程度。致命傷はない。
アルファといえば激痛をものともせず苦笑しており、「なんだよ天の呼吸って……!」と今更ながらツッコんでいた。
「ふぅ────果穂。晴の匣兵器で負傷者を治療して、俺をゲートまで運んでくれ……今すぐ帰るぞ。長居は無用だ」
「あ、はい!」
小宮果穂は駆けつけて、開匣。シールドは破壊されているが、晴れの炎は振りまける。活性効力で傷を癒した小宮果穂とアルファだが、アルファは致命傷が重傷に回復した程度で、まだ起き上がることができない。ならばと小宮果穂は、さらに晴の炎を強めようとするが、それはアルファに止められる。これ以上死炎を使えば、今度は小宮果穂の生命力が消耗しすぎて死に瀕するためだ。故に帰還を命じる。プチパレスに帰れば、あとはマザーAIがある程度の傷を治してくれる。
そして小宮果穂は町民に声をかけるが、どうも負傷者はいない模様。ホッと安心する。
「じゃあ、おんぶしますね!」
「サンキュ。しかし、まさか果穂におぶられるとはなぁ……」
小宮果穂は全集中・常中の呼吸を使って、自分より大きなアルファを軽々と持ち上げる。
果穂は駆け足で篠澤広と合流に急ぐが、そこでアルファは忠告した。
「果穂。俺が初めて呼吸を使った後、どうなったか教えてやるよ」
「……?」
「一週間、激ヤバな筋肉痛が続いた」
「!!」
「しかも果穂は常中まで使ってる。たぶん筋肉痛は一ヶ月以上続くぞ~?」
「えっ……えぇっ!?」
「それに普通なら、全集中の呼吸とその常中に肉体が耐え切れず、とっくに果穂は死んでるはずだ。それでも生きてるってことは……日課の肉体錬成が役に立ったな。やはり努力は継続なり」
「────!」
「それでも無茶を通したんだ。命に関わる。しばらく心臓が破裂するってレベルで悶絶するから……まぁ、死ぬ気で耐えろ」
「!?!?!?」
小宮果穂は青ざめる。
「? 果穂、どうしたの? まさか痛いところある?」
「い、いえ……早く帰りましょう、広さん! あ、その前に────」
小宮果穂は、樹里に頭を下げる。
「樹里ちゃんバット壊してごめんなさい!」
「え? や、えっと……はは! 謝るのはこっちのほうだ。何から何まで助けてくれてありがとう」
「どういたしましてっ! ヒーローは人々を守るのが仕事ですからっ! ──それでは、あたしたちはこれで!」
「えっ!? ちょ、まてよ! ちゃんと感謝したいから、うちに寄ってかないか!? その男も割と重傷だろ!」
「だいじょぶですー! アルファさんは強いですからー!」
三人は路地裏に駆け込む。すると後方から大声で「本当にありがとなー!」と、樹里が手を振っている光景が想像された。
そして来た道を戻り、光のゲートをくぐる。廃墟の景色から地下牢の景色へと帰ってきた。
『おかえりなさいませ。ゲート消失の予兆を確認。今しばらくで消滅します』
かくして三人は、またもや自分達の世界を守りつつ、またもや異世界の人々を助けて、今日のヒーロー活動を終えるのだった。
「うっ……!! な、なんか、あたし……急に、心臓が……っッ!!?」
「俺も、だ……」
アルファと小宮果穂は目をぐるぐると回して倒れた。気絶している。
それを見下ろす篠澤広は、とても興味深そうに観察していた。
「なるほど。私が倒れる時って、いつもみんなからどう見えているのか気になってたけど……こんな感じなんだ、ね?」
§
あとがき
呼吸: 色 :必要属性────
龍:
天:赤橙:嵐/晴・大空
幻日:黒 :呪空・大空の六属性・大地系・夜の全15種(+恋or愛の全16種)
※龍の呼吸は、蛇の呼吸の派生流派。
※天の呼吸は、炎の呼吸の派生流派。
※幻日の呼吸は、日の呼吸の派生流派。別称:日の呼吸のマガイモノ。
※呪空とは、呪われた大空の波動のこと。アルファの場合、呪いとは
◆
龍の呼吸 壱ノ型
etc
天の呼吸 主式 壱ノ型
天の呼吸 主式 弐ノ型
天の呼吸 主式 参ノ型
天の呼吸 主式 肆ノ型
天の呼吸 主式 伍ノ型
天の呼吸 主式 陸ノ型
etc
天の呼吸 副式 壱ノ型
天の呼吸 副式 弐ノ型
天の呼吸 副式 参ノ型
天の呼吸 副式 肆ノ型
天の呼吸 副式 伍ノ型
天の呼吸 副式 陸ノ型
天の呼吸 副式 漆ノ型
天の呼吸 副式 捌ノ型
etc
幻日の呼吸 模倣 贋詣・碧羅の天
etc