※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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pSR【走れコミヤ! 口説き十八番】天道唯我

 

 小宮果穂は悋気(りんき)した。必ず、かの邪智暴虐の色男をなんとかせねばならぬと決意した。小宮果穂には恋愛がわからぬ。小宮果穂は、恋の雛鳥である。アイドルになって歌を歌い、仲間と踊ってきた。けれども勝負事に対しては人一倍に敏感であった。

 

          §

 

 それは、ある晴れた河川敷の一幕。お散歩中のアルファと園田智代子が偶然出会った。世間話に花を咲かせる。だが花より団子というように、近場においしい店があるとか、安くて旨い裏メニューを知っているとか。道端に咲く花のことよりも食事の話題で盛り上がる。

 さて別れ際、色男は少女を引き止めて一輪の花を贈る。それは黄色いミモザだった。少女は喜んで礼を言い、素直に受け取ろうとする。

 

「ところでミモザの花言葉は〈友情〉────あるいは、〈秘めやかな恋〉」

 

 青年は(さて、この花にはどちらの意味があるのでしょう?)と言いたげに、ほくそ笑んで首をかしげた。

 対する少女は、伸ばしかけた指先を固まらせて、さっと手を引く。そして大きく目を見開き、どっちの意味だろうと探るように青年の瞳を見つめて、見つめ合って、しばらく。

 

「暗黙の了解ということで?」

「っ!? ──え……遠慮しますっ! ごめんなさい!!」 

「おや。どちらの意味かは存じ上げませんが、いずれにせよ振られてしまいましたか」

 

 そう言って目を伏せた青年の手元から、ぱっ、と一輪の花が消えた。手品のように消えた花の行方。いったいどうやって消したのか。鮮やかなマジックに少女は驚くが、青年もわざとらしく驚いていた。

 

「おやおや。花も恥じらう乙女とは、まさにこのこと」

「っ……!」

「麗しの別嬪さん。また機会があれば、今度お茶でもどうです? 今回お互いに紹介したおすすめのお店、一緒にハシゴしません? その時は白いライラックを贈りますよ。さらにその次は何色を贈るのか……楽しみにしててください!」

「……────」

 

 白いライラックの花言葉は〈青春の喜び〉である。解釈次第では友情とも取れるが、青春といえば恋愛でもある。さて、これまた小難しくなってきた。ちなみにライラックと言えば紫色。少女は白いライラックの意味を検索したところ、最も有名な紫色の意味も、自然と知ることになった。それは乙女ならば、どうしても心に残ってしまう甘言だった。

 

 紫のライラックの花言葉は〈恋の芽生え〉────断っても断っても、どこまでも爪痕を残していく口説き文句は、さすが色男。楽しみにはしていないが、脱帽の一語に尽きる。正直ドキドキしてしまった。少女漫画の主人公にでもなった気分だ。そのように思う少女は、さて……と気を引き締めて、今後の身の振り方を考える。

 

(アルファさんのことだから……あとで果穂に、このことを報告しよう……)

 

          §

 

 それは、ある雨降る病棟の一幕。お見舞いに来たアルファと幽谷霧子が偶然出会った。廊下で会釈。ソファに座って談話。なぜ幽谷霧子はここにいるのか。両親のお手伝いのため。では、なぜアルファはここにいるのか。恋人のお見舞いのため。それから取り留めのない会話が続く。青年の肩に提げてある竹刀袋。それを欲する患者は一人しか思いつかない。これ以上はお邪魔だろうと、少女は会釈して立ち去る。それを呼び止めた青年は、窓の外を見るように言った。曇天と大雨。

 

「月が閉じていますね」

「……?」

 

 そのように呟いた青年を、ちらりと横目で見やった少女の視界端に、一輪の花が映る。それは雪のように白かった。

 

「わ……ユキノシタ……」

「病院で働くあなたに〈好感〉を持って贈ります」

「え……そんな……ありがとう……ございます……。──ふふ……ユキノシタさん……いらっしゃい……」

 

 少女は一輪の花を受け取る。

 

「ところで、ユキノシタさんの花言葉は〈恋心〉と言うそうですね」

「……!」

 

 驚いた少女は目を見開く。じっと見つめてくる青年は微笑んでいる。少女は困って視線を下げた。ユキノシタさんの花弁を見つめる。さて、今のはどういう意味だろう。たしか青年は、恋人のお見舞いに来た、と言っていたはずだ。ならば、そのような意味合いで贈ったとは思えない。

 

「……──さらにユキノシタさんの花言葉には〈博愛〉という意味があるそうで」

「……博愛……」

「あなたのような白衣の天使に、ぴったりの意味だと思うのです」

「……白衣の、天使……わたしが……ですか……?」

「もちろん」

 

 青年は真っ直ぐな瞳でハッキリと告げた。それから「お引き止めしました」と折り目正しくお辞儀。颯爽と立ち去る。

 

「あ……」

 

 ふとユキノシタさんの花弁が閉じてしまう。気温が低い窓際に近づいた所為か。

 やがて博識の少女は思い出す。

 

「────……羞花……」

 

 花も恥じらう乙女だよ、と伝えたかったのだろうか。ならば、それは単なる褒め言葉か、よもや白瀬咲耶のような口説き文句なのか。ならば、アルファこそ花顔柳腰(かがんりゅうよう)。花のように美しい紅顔で、柳のように細くしなやかな腰を持つ。もし次に会うことがあれば、そのように伝えようと思った。

 

 さて、このままではユキノシタさんが枯れてしまう。押し花にしようと思い、少女は事務室に向かった。

 

「ふふ……閉・月・羞・花……」

 

          §

 

 それは、あるバラエティ番組の一幕。多くの芸能人に並び、天道唯我と七草にちかの姿があった。そして最近“恋愛マスター”を名乗って話題沸騰中のタレントをゲストとして呼び、みなさまに口説き文句のいろはを教えるこの企画。

 まず男女がペアとなり、女性タレントは大量の小道具からひとつ選ぶ。男性タレントは、相手の小道具から口説き文句を考える。

 若い男性タレントは、どう口説けばいいのか分からず初々しい反応を見せて、観客席から『かわいー!』などと反応をもらう。年の行ったお笑い芸人は、明らかに笑わせるつもりの口説き文句を披露して爆笑を取る。

 やがて天道唯我の番が来た。くじ引きで決まったペアの女性は、なんと七草にちかである。

 

(うわぁ……男女のアイドルがペア組んじゃうのはダメでしょ……これカットされるのかなぁ……なんとか面白くしないと……天道さんなら面白おかしく仕上げてくれるだろうけど……そのためには小道具、何を選んだらいいのか……)

 

 七草にちかは長い思案の末、野球バットや安全用ヘルメットといった奇抜な小道具の中から、あえて安牌のボストンバッグを選んだ。また、シチュエーションは男性タレントが指定できる。天道唯我は『気の置けない異性の友人とのショッピング帰り』を希望した。そして小芝居が始まる。

 

「おーい。買い物は終わったかー?」

「あっ。ごめんごめん! もう終わり! 帰ろっか!」

「ん? そのボストンバッグを買ったのか?」

「え?」

 

 七草にちかの思考が瞬発する。どうやらいきなり口説くのではなく、多少の会話劇をご所望のようだ。しかし打ち合わせは一切していない。つまり即興劇となる。これはアドリブ力が試される。

 

「これは最初から持ってたじゃーん!」

「おいおい。六時間も付き合わされて何も買わないとか有りか!?」

 

 天道唯我の大げさなリアクション。ウ(・)ィ(・)ン(・)ド(・)ウ(・)ショッピングを皮肉っているのだろう。まずは軽い笑い。七草にちかは畳み掛ける。その直前、天道唯我は頭を抱えて「うおお、俺の計画がぁ……!」などと、伏線らしきことを小声でつぶやく。小声で呟いたのならば、七草にちか演じる女の子には聞こえてほしくないセリフなのだろう。無視して攻める。

 

「えー? ちゃんと買ったじゃーん」

「はぁ? なにを?」

「窓」

 

 七草にちか渾身の真顔。そのウィットに富んだ(わかる人にはわかる)ボケによって、観客席から中(ちゅう)くらいの笑いが盛り上がる。対する天道唯我は何も突っ込まない。ただ目を見開いてドン引きの表情を続ける。数秒の沈黙。その顔芸と“間”の取り方が、さらなるクスクス笑いを引き出していく。

 

「な、なるほど……これがうわさの、ウィンドウショッピング……」

「もー。知らなかったのー?」

「あ、あぁ……それじゃあ、帰ろうか……」

 

 天道唯我はポケットに手を突っ込んで歩くふり。七草にちかもそれに合わせる。天道唯我はあさっての方向を向いており、七草にちかの方に視線をやらない。ならば七草にちかも同様に振る舞う。周囲の景色に目をやって、天道唯我を視界に入れない。

 ふいに天道唯我は振り返り、何かに気付いた様子で、七草にちかの体をジロジロと見る。それに気づいた七草にちかは怪訝そうな顔で問いかけた。

 

「な、なに……?」

「お前さ……なんか足取りが重くない?」

「え?」

「いや、そういえばこの前、体重計がうんたらって……」

 

 七草にちかは凍りつく。こいつは何を言い出すのか。いったい何をするつもりなのか。いやもうなんでもいい。ネタでもいきなりそんな失礼ぶちかます奴には、本気のキレ芸でお答えする。無論、半分本気のキレ芸であって、きちんと笑える範囲の怒りで抑える。

 

「ハァ!? つまり太ったって言いたいわけ!?」

「いやそうは言ってないけど」

「信っじられない……いくら気の置けない友達だからって、デリカシーってもんがないわけ……?」

「はいはい俺が悪うございました。いま俺は禁句を口にしましたよっと。──……でも重いものは重いよね?」

「ケンカ……売っとんのか……?」

 

 七草にちかの刺々しい睨み上げ。割とマジの怒り顔。一触即発の雰囲気。口説き文句はどこへやら。場が静まる中、突として天道唯我は動いた。あたかも照れ臭そうな顔をして、七草にちかに背を向けて、片方の手のひらを差し出す。

 

「だからさ。……持つよ、荷物」

「……はぁ?」

「いいから、寄越せって……その、ロンドンバッグ?」

「ボストンバッグ!」

 

 七草にちかはバッグを差し出す。天道唯我はバッグを借り受けて、七草にちかとは遠い手の方に提げた。

 

「ほら、軽くなった」

「っ……あんたさぁ。ほんっっっっと、ひねくれてるよね……普通に『荷物を持ってあげる』って言えないの?」

「おや? まだ重いようですねぇ……」

「まだ言うか!! 何が重いって!? もし次ヘタなこと言ったら飛び膝蹴りを食らわせてやるぞ!!」

「何が重いって? そりゃあ当然、お前の片手だよ」

「────ハ?」

 

 またもや天道唯我は、照れ臭そうに靴を地面に叩き続けて、片方の手のひらを差し出す。が、七草にちかは困惑して動かない。なので────

 

「お手を拝借」

 

 ────七草にちかの手を奪い取った。天道唯我は手を握る。つまり、ふたりは手をつなぐ。

 

「っ!」

「ほら、今度こそ軽くなった」

「……」

 

 七草にちかは演技する。うつむいて赤くなったふり。

 

「たしかに俺は、バカでデリカシーなくてひねくれものだけどさ。──……荷物もお前も、全部、俺に任せろよ。男らしく、力だけはあるからさ」

「……────はっ! バッカみたい……」

 

 天道唯我は唇を丸める。七草にちかはもじもじとして距離を置く。だが二人の手は繋がれたまま。しばらく甘い沈黙が続いたところで────司会者が突っ込んだ。

 

「いや誰がラブロマンス始めろって言ったぁああああああ!?」

 

 スタジオ大爆笑。観客席の女性たちから『キャー!!』という黄色い声も響き渡る。

 天道唯我は両手を叩いて笑い、七草にちかも笑顔のふりで拍手しながら飛び跳ねて場を沸かす。

 

「長いわー!! お前ら長いんだわー!?」

 

 天道唯我は両手を合わせて何度も突き出し、すみませんすみませんと笑いながら謝る。

 

「なんや荷物持ったげるって! 持ったのボストンバッグだけやないかい!」

「はははは! いやだからカッコ悪い奴なんすよ!」

「あー……だから『俺の計画がぁ……』って頭を抱えてたんですー?」

 

 七草にちかのフォロー。当然、司会者もそれに気づいていたが、あたかも今しがた気づいたようにおっかなびっくりする。

 

「そういう……ことか────って、それもう劇やん!! 何いっちょまえに伏線仕込んでんのやー!! つか即興でおまっ……お前らようやったなぁー!? もうお笑いコンビ組めるやん! なんでアイドルやってんのや! えぇ!?」

 

 周囲のタレントや観客席から、感心の歓声と笑い声が上がる。

 

「え? みなさんどう思います? もうこれこのあとお持ち帰り確定やんな?」

 

 笑い。すかさず別の芸人が突っ込む。

 

「いやいや、この子達アイドルですから!」 

「でもこれ惚れるやんなぁ!? にちかちゃん、これ惚れたよなぁ!?」

「──さんそれセクハラですっ!!」

「え、マジぃ!?」

 

 爆笑。それから七草にちかは現代っ子らしく、端的な感想を物申した。

 

「いやー。さすがにブラックジョーク挟んでくる口説き文句は、私的には無いですね~」

 

 あとキザすぎる。

 観客席の女性たちの半数も同意見のようで、一斉にうなずく。

 

「あ、ほんと? 俺はいいと思ったんやけどなー」

 

 そこで天道唯我がフォローを入れた。

 

「女性は好きな男子に重いと思われたくないらしいんすよー。だからお姫様抱っこもなかなかさせてくれないらしくてー」

「なんで天道くんそんなこと知ってるん?」

「あ、ツイスタで見ました」

 

 天道唯我のチャラい返答に、再び笑いが起きる。

 

「なぁ天道くん。さては今の口説き文句……(実際に)やったな?」

「いやいやいやいや!」

「……やったな?」

「いやいやいやいやいやいやいや! そんな失礼ぶち込みませんってー! 堪忍してくださいよーもー!」

「やったな?」

 

 司会者の鬼詰めが凄まじくて爆笑が起きる。スタジオ外まで笑って逃げる天道唯我。

 

 やがて恋愛マスターのタレントが評価を下す。SランクからEランクの評価で、どの口説き文句が素晴らしかったか、ダメだったかを評価される。その中で天道唯我と七草にちかのペアは、規格外のEXランクと評価された。なぜなら劇も織り込んだメロドラマになっており、評価対象外となったためだ。

 

 そのおかげで、ほかのタレントの口説きシーンは尺の都合で大部分カットされていたが、天道唯我の口説きシーンだけは丸々放送されたそうな。

 

          §

 

 それは、ある夕焼けの商店街。園田智代子と西城樹里が買い食いを楽しんでいると、大きな袋を両手に提げた買い物帰りのアルファと偶然出会う。園田智代子はあっけらかんと挨拶するが、やや西城樹里の背後に回り気味。

 アルファと西城樹里の世間話。先日、小宮果穂と西城樹里は孤児院のお茶会に招待されたらしく、その話で盛り上がる。そして西城樹里は気前よく「コロッケ奢るよ」と言い出した。

 

 三人はコロッケ屋にお邪魔して、出来立てのコロッケを購入。商店街を食べ歩き。ほくほくでとろりとした甘さに舌鼓を打つと、突然アルファが「閃いた!」と口に出す。

 

「おわっ、なんだぁ……?」

「可愛い女の子と掛けまして、コロッケを奢ってくれた優しい優しい樹里ちゃんと解きます」

「──……そ、その心は……?」

「君にコロッといっちゃいそう」

 

 青年は爽やかな微笑みを浮かべて、ぐぐいっと金髪少女の顔に近づく。驚いた金髪少女は面食らってたたらを踏み、倒れそうになって団子少女にもたれかかった。

 

「っと……! わりぃチョコ! ────…………こほん。その、お前、なぁ……そういう、なんつーの? 口説き文句は、あんま、なぁ……」

「はは! なるほど。その気(ケ)はないと」

「もとからねぇよ!」

 

 もはや放クラにとって、アルファの女好きは周知の事実。なにせアルファは複数の恋人を擁しているのだ。だれかれ構わず口説きまくるのが日常茶飯事で平常運転なのだろう。まったく困ったものだ。この振る舞いが素顔となると、いよいよ白瀬咲耶の男バージョンと言っても過言ではなくなってくる。

 

 しかして、これは余談だが。

 小宮果穂は、この謎かけを知った後日。ほぼ同じ構図で西城樹里に披露した。その時の樹里ちゃんは、この時とは違い、たいへん顔が赤らんでいたそうな。

 さらに後日、放クラの四人で、一斉に西城樹里に披露した。天丼の天丼で三重のドンブリとなり、さすがの西城樹里も胃もたれするかと思いきや────その時の樹里ちゃんは「もう三度目だから効かないっつーの!!」と叫びつつ、たいへん両耳が赤くなっていたそうな。

 

          §

 

 それは、あるカンカン照りの公園の一幕。帽子を被る櫻木真乃が鳥たちと戯れていると、お散歩中のアルファが通りかかり、偶然出会った。すかさずアルファが声をかける。櫻木真乃はコミュニケーションに迷いながら緊張しつつ会釈。鳩たちに囲まれながら談話。そこへ待ち合わせの約束をしていた風野灯織と八宮めぐるが到着。挨拶。アルファは「お邪魔のようなので」と会釈。しかし去り際、まともに話すのは初めての風野灯織と八宮めぐるを一瞥し、次のようにうそぶいた。

 

「しかし驚きましたよ、櫻木さん。まさか人語を解する花を、ふたりも友人に持っているなんて」

「──……へ?」

 

 熟考した風野灯織は、その言葉の意味に気づいて赤くなる。一方、何も分かっていなさそうな顔をする八宮めぐるは「?」という笑顔をしており何も分かっていなかった。

 

「解語の花。もちろん櫻木さんも、その花のひとりですけどね!」

 

 そしてアルファは、三輪の紫花を贈る。

 

「ストックという名前の花です。花言葉は〈愛の絆〉────中でも紫色は〈おおらかな愛情〉を意味します。イルミネのみなさんに似合うと思いまして」

「わ……! あ、ありがとうございます……!」

「ありがとうございます……あの、こういう花って、いつも持ち歩いているので……?」

「わー! ありがとー! きれいでイイ匂いだねぇ~」

 

 アルファは常に花を持ち歩いている。いつなんとき出会いがあるか分からない。造花もいくつか隠し持っており、生きた花の手持ちがなくても大丈夫なようにしている。その旨を話すと、アルファは解説を始めた。

 

「ちなみにフランスでは、男性が“一途に想い続けます”という意味を込めて贈るそうです。女性は、その花を帽子に挿して歩く風習があるそうで。──どうです? ちょうどみなさん、日よけの帽子を被っていることですし、試しに挿してみては?」

『────えっ』

「ははっ! 半分冗談ですよ。それではお邪魔しました。良い一日を! Bonne Joume(´)e!」

 

 ボンヌジュルネー。どういう意味だろうか。三人は首をかしげる。おそらく良い一日を、に掛けてくれていることだろう。

 

 かくしてアルファは、この日の件について、のちに(小宮果穂に対して)こう語る。

 

 ────三人が揃うと手強い。

 

 なんでも雰囲気的に口説くのが難しくなるそうだ。特に警戒されているわけではなく、とても好意的に思われており、後輩として可愛がってもらえているのだが、どうにも入り込めない違和感がある。例えるなら、赤青黄の信号機に四つ目の色を足すようなもの。つまり三人の関係性で完全無欠に完結しているため、お邪魔できる余地がないのだとか。なんらかの領域展開だろうか、とアルファは推し量る。

 

          §

 

 ほかにもアルファは、イタズラするのは好きだがされるのはあまり……と言う田中摩美々とイタズラ合戦したり、休憩室の自販機前で出くわした大崎甜花に餌付けしたり、ひょこっと現れた芹沢あさひから全力遁走を図るも競争と勘違いされて追いかけられたのでパルクールのように街中の屋上や石塀を駆け巡ったり、夜遅く出歩いていたノクチルに遭遇して絡まれたり、アイドルのお仕事で郁田はるきと創作談義をしたり、様々なところで女性と交流があったそうな。

 

 その中で口説いた人物は、大崎甜花・福丸小糸・市川雛菜・郁田はるきとのこと。さらに小宮果穂の知らない女性も数え始めればキリがないそうな。そして驚くべきことに、ひとつとして同じ口説き文句が存在しなかった。

 

 女遊び、口説き遊び、ここに極まれり。まさしくアルファは遊び人。

 これに恋人達は文句を垂れる。小宮果穂も唇を尖らせる。それにアルファは反論する。

 

 ────だったらわざわざ聞いてこなければいいじゃないか。

 

 アルファは嘘が嫌いなため、聞けば素直に答えてくれる。

 だが、それもそれでどうなのか。いや、悪いことではないのだが。

 

 隠せばうしろめたし浮気、隠さなければうしろやすし浮気。

 いずれにせよ浮気はやましいはずなのだから、浮つくのは自分の前でだけにしてほしいものだ。

 

 というか、論点をずらさないでもらいたい。聞く聞かないの問題ではなく、そも浮気をするなという問題だ。

 

 ────そりゃ無理な相談だ。

 

 少女は吠える。

 

「もうっ!」

 

 カンカンに嫉怒(しつど)する小宮果穂は、ならばアピールするほかあるまいと奮起。アルファがほかの女に振り返れなくなるように、メロメロになるまで魅了(アピール)してみせよう。

 

 ────おう、やってみろ。待ってましたってもんだ。

 

 ならばとアピールを始める赤毛の少女は想像だにしない。

 それすらもまた──アピールを欲しがる──色男(あまえんボーイ)の手のひらの上であることに。

 

          §

 

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