※この作品はR-18です。

【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす!   作:形のない者

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 まえがき

 本話には、「Fate/Grand Order」の二次創作が含まれています。
 また、一部「ARMORED CORE for Answer」の二次創作(クロスオーバー)も含まれています。

 FGOイベントシナリオ『落涙の翼』読了後に執筆開始。

(自分用メモ:6月~11/04に完)



p極SSR【遊星迎撃半島 テルミドール・アナトリア ‐我等、宙(ソラ)を紐解く星霊‐】サバージオス(FGO)(略叙)(※画像有り)

 

 夢。

 

 小宮果穂は、好敵手(アルファ)に追いつきたい。

 ヒーローとして成長したい。相棒として役に立ちたい。きっちり何かを成し遂げたい。

 

「よし、やろう!」

 

 ひとりで勉強して頭脳を鍛える。好敵手との稽古で肉体を鍛える。

 あとは勇気を鍛える場が欲しい。倍速の速さで成長したい。さもなくば好敵手に追いつけない!

 

 

 

 冒険。

 

 いろはちゃんは、どこかへ行きたい。

 遊びに行きたい。もっと楽しみたい。色々な物事を見てみたくてたまらない。

 

「ぶーん! ごごごごごー! どどんどどーん! たいきけんとっぱしまー!」

 

 小さな右手で一所懸命しっかり掴んだ飛行機のおもちゃを斜め上に飛ばし続けてみる。

 何も囚われたくない。誰にも縛られたくない。どこまでも羽ばたきたい。どこまでも。

 

 

 

 困難。

 

 アルファは、平穏にして苛烈を求める。

 世界の恒久的平和を求める。そんなものが訪れないことは疾うに知っている。

 

(だからといって諦める理由にはならない)

 

 フリーダ・カーロのごとく満身創痍の脊柱(せきちゅう)を以て、決意と覚悟を背中で語る。

 彼は今日も今日とてあらゆる世界の悲鳴を聞きつけて、友を助けるべく応じるように飛び出した。

 

 

 

 みんな。仲間。奇妙な友情。

 

 篠澤広は、初めての友達に感謝している。

 いま一緒に居て楽しい相手が友達。一度友達になれば、そのあともずっと友達。

 

「最近仕事が増えて全然会えなくなったけど……また今度ラーメン食べに行こうね」

 

 友達との電話を切る。

 エレベーターに急がなければ。

 

 

 

 行きたいところ、帰りたいところ。

 

 マメ丸は、最近おうちが増えてきた。

 小宮果穂の居る所。小宮家(母・父・兄)の居る所。

 

「ワンッ!」

 

 自分の居場所はどこか。行くべき場所、帰るべき場所はどこか。

 小宮果穂の所だ。主人よりも妹のような存在。彼女を守る為に駆け出す。

 

 

 

 戦争。傭兵。地球防衛団。

 

 マザーAIは、異世界側から見れば民間軍事会社(PMC)のようなものだ。

 多世界の戦争に介入して軍事的サービスを施し、対価を以て自世界を防衛する。

 

『魔術世界のゲートが開きました。異世界冒険による死亡確率99%。自世界滅亡確率99%。解決は絶望的です』

『ゲート封鎖を実行────error...error...不明力場の介入によってゲート封鎖できません』

『エラーコード:168────対処法算出:アルファさまに事態解決を委託します』

『お願いします。我々の世界を救ってください。お願いします。お願いします』

 

 いくら世界平和のためとは言え、少年少女を戦場に送り出す事は正しいのだろうか。

 彼ら彼女らしかヒーローは居ないのだろうか。それでも送り出さねば、待つのは悲劇のみ。

 

『警告! 警告!! 緊急事態(エマージェンシー)、緊急事態(エマージェンシー)────疑問、疑問、不明現象の人理(じんり)介入を検知』

『我々の世界より、いろはちゃんさまとマメ丸さまの意識が消失しました。存在証明プロセスを実行』

『並列処理:昏倒中の二名の肉体を保護拘束。実行算出:二名はゲート先の異世界に逆召喚(レイシフト)された疑惑が濃厚』

『本項現象の解析開始。仮称『アンサモン・プログラム』と命名』

『アルファさま。至急、可及的速やかに事態解決を図られたし────』

 

          §

 

 休日正午のプチパレス地下室。

 アルファと小宮果穂は言い合っており、篠澤広は静観する。

 

「気持ちは分かる。だがワガママはやめろ。今回は俺だけで行く。ふたりは留守番だ。あまりにも危険すぎる」

「っ……────で、でもッ!! マメ丸と、いろはちゃんが……っ!!」

「マザーAI。ふたりを頼んだぞ」

 

 アルファは、マザーAIによって二重ロックの鉄柵を開閉して通過。その先には広間がある。広間の先には三つの鉄柵で区切られた牢屋があり、右から数えて一番目の長方形の牢屋の先には青く輝くゲートが渦巻いていた。アルファは躊躇なく飛び込む。

 

『御武運を』

 

 それを見届けた小宮果穂は、自らの実力不足を恥じて歯噛み。悔しさのあまり拳を作り、握り込んだ爪が皮膚を軽く裂いても痛みに気づかない。唇を噛んで感情を抑え込んでいる。ふいに鉄柵を握り込んだ。それを打ち壊して追いかけたい気持ちが発露している。それでも鉄柵は頑丈だ。マザーAIの結界によって強固な守りを誇っている。そのことを思い出す前に、迷惑は掛けられないと判断したのか────急落。その場でうずくまった。

 

 篠澤広は何も言わない。アルファの言う通り自分たちは足でまといだ。お荷物となって邪魔するわけにはいかない。だからといって、この地下室を後にする選択肢は、なぜか思い浮かばなかった。居ても意味がないのに居続ける。いつ帰るかも分からない友達を待ち続ける。あるいは二度と帰らないかもしれない友達を待ち続ける。ともあれ、気が済むまで待ち続ける。

 

「……………………、……──?」

 

 ふいに篠澤広は異常を目撃。闘技場の中に、ひらりと一枚、赤い花弁が舞い落ちた。マザーAIは何も言わない。異常を検知していないのだろうか。まさかゲートの向こうから何かが出てきた?

 

「果穂、下がって」

「……いやです」

「ちがう。ゲートから何か出てきたかもしれない……」

「──……っ!?」

 

 うつむいていた小宮果穂は面を上げる。地下牢闘技場の薄闇に目を凝らす。

 ひらひら、ひらひら。二枚三枚と赤い花弁が舞い落ちる。それは徐々にゲートの方向に近づいているように見えた。一枚目の花弁はふたりの目の前に舞い落ちて、二枚目は闘技場の中央に、三枚目はゲートを隔離する牢屋の手前に落ちたのだ。

 

「……まさか誘導している……?」

「────マザーAIさん! 鉄柵、開けてください……!」

『危険です。承知できません』

「果穂。危ない。やめておこう」

「……でもっ……あたしだけで、いいですから……っ!」

 

 マザーAIは赤い花弁の解析を始める。それは魔術世界で言うところの魔力やエーテルで構成された物質と判明。今まで遭遇した敵性エネミーのデータベースから類似情報を検索。速やかに正体が判明する。

 

『────神霊反応の残滓を検知。サーヴァント反応は有りません。未来予測による危険度29%』

「! じゃあ……!」

『小宮果穂の死亡率100%』

「────っ!!?」

 

 ならばと篠澤広が問いかける。

 

「わたしは?」

『未来予測による篠澤広の死亡率……9%』

「……そうなんだ。それは賭けてもいい数値かも、ね?」

 

 篠澤広は、とんでもないことを言い出す。

 

「ひ、広さん!? ダメです! だって……9%もあります!!」

「そうだね。でもやってみる価値はある」

「ど、どこにですかぁ!?」

「果穂だって、なんで行こうと思ったの?」

 

 あれには何かある。そう感じたから行こうとした。

 それは篠澤広も同じ気持ちだっただけのこと。

 

「っ……も、もしかして……あたしのワガママを、代わりに、とか……」

「ううん。そうじゃない。わたしが行きたいだけ。あれが何か気になる。マザーAI、鉄柵を開けて」

『…………────御武運を』

 

 一つ目の鉄柵が開く。篠澤広は中に入る。背後の鉄柵が閉じられて、眼前にある二つ目の鉄柵が開く。闘技場に入った篠澤広は花弁を拾い集める。

 

「これは……薔薇(バラ)?」

「バラですか? それがなんで……」

 

 篠澤広は推理開始。マザーAIとの質問を交えて考察する。

 

「マザーAI。今回の異世界は、わたしたちの世界と類似する異世界なんだよね? 特に神様に関する概念を広く教えて」

『はい。相違点は、魔術の概念が強固に存在する点です。魔術世界では魔術の存在は秘匿されるものであり、秘匿による神秘性が高まるほど魔術の効力が増す法則が働いています。歴史も我々の世界と酷似していますが、唯一、人類史には神代という項目が追加されています』

「神代(じんだい)……神話の時代? 魔術が実在するくらいだし……まさか神様が実在していた時代の歴史ってこと?」

『まさしく』

 

 篠澤広はスマホを取り出して『薔薇の神』さらに『赤い薔薇の神』と検索。

 

「……ギリシャ神話が多くヒットするね。アドニスの死を悲しんだ女神アフロディーテの血涙によって白い薔薇が赤く染まった、とか」

『解析・データベース検索────ギリシャ神話の霊格とは一致しません。ただし近縁の可能性が濃厚』

「そうなんだ。ギリシャ神話の近縁といえば……ローマ?」

 

 篠澤広は『赤い薔薇の神 -ギリシャ』さらに『薔薇の神 -ギリシャ』とノット検索。

 

「……赤い薔薇はキリスト教の象徴」

『解析・データベース検索────聖書霊格とは一致しません。ただし遠縁の可能性が濃厚』

「…………」

 

 篠澤広は直感する。頭の中にフッと閃きが湧く。

 いろはちゃんとマメ丸の意識は異世界に飛ばされた。子供と犬。これは何か関係があるだろうか?

 

(クレショフ効果だけど……組み合わせの妙(モンタージュ)で革新が起きることは世の常。とにかく思いつくことは全部やってみる。だっていつもそうすることで、なぜか成功してしまうから)

 

「マザーAI。あなたも調べてくれない?」

『残念ながら容量不足です。現在はアルファさまの存在証明とサポートの万全性に97%の容量を割いています』

「そうか。なら仕方ない。果穂も手伝って。バラと関わりのある神について調べてほしい」

 

 その前に小宮果穂は「そろそろ戻ったほうが……」と心配する。しかし篠澤広は首を横に振って「それはできない」と否定した。マザーAIも『それはできません』と賛同する。なぜかといえば、二つ目の鉄柵を一度開閉した時点で、薔薇に関わる神霊が二重ロックの中間まで魔の手を伸ばしている可能性が高い。つまり二度と一つ目の鉄柵を開くことはできない。鉄柵を開いた瞬間、バラの神霊が何をするか分からない。小宮果穂の死亡確率100%を思うに、まず間違いなく小宮果穂が殺される可能性が高い。

 

「そんな……! でも、広さんがそこに居続けたら……!!」

「大丈夫。正体さえ分かればマザーAIが対策を立てて、神霊を追放しつつ、わたしは脱出できる。もちろん果穂の言う通り、ここに留まっていたらゲートから何かが出てきた時──牢屋の柵があるから大丈夫だろうけど──とても危険。だからなるべく早く調べてほしい」

「っ! わ、わかりました……っ!!」

 

 篠澤広と小宮果穂はインターネットを頼って調べまくる。

 篠澤広はブーリアン検索を駆使したり駆使しなかったりして、広範囲から狭範囲まで、広く浅くから深く狭く、厳密に的確に正体を追求していく。

 小宮果穂は検索の仕方が不慣れであり、どう調べても似たような情報しか出てこない。なので知恵を凝らした。そして『まずは検索の仕方を調べればいい!』と閃く。結果、ブーリアン検索がヒット。そこから篠澤広とは別口の観点から調べ物を進めていく。

 

「アヌビス神。古代エジプトとギリシャは黒海を通じて貿易が盛んだったはず」

『エジプト神話との霊格が一致しません。ただし近縁です』

「えっと……ばらの騎士……? は、オペラだから神様じゃないですよね! すみません!!」

『ゲルマン神話との霊格……多少一致』

「えっ!」小宮果穂は驚く。

 

 その時、篠澤広の頭上から大量の薔薇の花弁が舞い散った。一同は目を丸くする。やがて地面が赤い花弁で埋め尽くされた。そこで篠澤広は片眉を上げて腕を組む。無数の花弁の配置が、何かの模様に見えたのだ。

 

「薔薇の花弁が大量に降って薔薇模様を描いている……」

 

 それについて検索しても、目新しいものは何もヒットしない。

 

「……もしかしたらマイナーな神様? あるいは名前自体はメジャーだけど薔薇の神としては知られていない? 少ない文献でのみ記述されているとか……? ──そういうことなら果穂。お願いがある。今すぐ図書館に行って、全部の神話の書物を借りてきてほしい」

「わかりましたーっ!」

「でもちょっと待った」

「────っ!?」

 

 駆け出そうとした小宮果穂は急停止。篠澤広は問いかける。

 

「マザーAI。さっきから神様の名前を言うと近縁や遠縁について分かるってことは────わたしたちの邪魔、してるよね?」

『…………』

「? 広さん、どういうことですか?」

「かほ。今からわたしが言うことで、どういうことか分かると思う。──ねぇマザーAI。質問を変える」

 

 篠澤広は鋭い声色で問いかける。

 

 ────わたしたちの世界に存在する神話の中で、薔薇模様の霊格と最も近しい神話の名前を答えて?

 

『……。データベース検索:回答:ケルト・ローマ神話および欧州全域・北アフリカ含む』

「──えっ! マザーAIは……薔薇模様の神様がケルト神話の神様だって、分かっていたんですかぁ!?」

「やっぱり。アルファに『わたしたちを任せた』って命令を受けているから、なるべく真相に近づかないよう時間稼ぎをしていたんだ。でもAIだから人間の質問には正直に答えないといけない。まるでロボットの三原則みたいだ、ね?」

 

 ともあれ神話大系の特定は済んだ。

 

「かほ。お願いを変更する。全部の神話は要らない。ケルト神話とローマ神話の書物だけかき集めてきて。ついでに欧州つまりヨーロッパの神話大系をまとめた本や、北アフリカ系の神話本もあると嬉しい。なければ無理に探さなくて構わない。スピード重視でよろしく」

「────! わかりましたーっ!」(広さん……スゴい……! やっぱりとっても頭がいいんだ……!)

 

 瞳を輝かせる小宮果穂は駆け出す。自室から空のランドセルを背負って大きめのエコバッグを提げて外に飛び出した。最寄りの図書館に駆け込んでケルト・ローマ系列の神話書籍を借りて、ランドセルやエコバッグに詰めて家路を急ぐ。慌ただしく地下室に戻ってきた。

 

「持ってきましたー! ……でも結界があるから、柵の隙間から本をそっちに……は、むりですよね……」

「大丈夫。あとは果穂が調べればいい」

「……えっ! こ、この本、全部……ですか!?」

「そうだけど少し違う。索引って知ってる? そこから『薔薇』や『薔薇模様』があれば引いてみて。なければとりあえず次の本に」

「サクイン……!」

 

 小宮果穂はケルト神話の書籍を手に取り、索引ページを開いて『は行』を確認。小さいのに膨大な文字は、少し見誤るだけで一行も二行も飛ばして読んでしまいそう。きちんと指でなぞって一行ずつ確認していく。すると────

 

「むぅ…………────! あ、ありました……っ! 『バラ模様』……『200』ページです!」

「開いて見せて」

 

 小宮果穂はページを開いてかざす。

 篠澤広は一瞬で読み込んで発見した。

 

「────エ(・)ポ(・)ナ(・)像(・)」

「! まさか、それが……!」

「果穂はエポナの説明文を読んで。わたしはネット検索で行く」

 

 小宮果穂は本の先頭付近のページを開いて、一文字目が『え』から始まり二文字目が『ぽ』で始まる部分までページをめくっていく。そしてエポナの解説文を見つけた。

 同時に篠澤広も、エポナについて詳しい情報が載っているサイトを読み込む。

 

「……『エポナとは、ケルト神話における馬の神。後年、女性の性格を与えられて馬の姿から女神となった』……」

「欧州全域で信仰されていた『旅の女神』……元は馬の神かつ旅といえば馬のため、お供に馬の像が多い。……こっちの情報はこれで終わり。驚いたことに薔薇の記述はどこにもない。本当に専門の文献にしか残されていない情報みたい。分かりきっていたことだけど、さすがにネットも万能じゃないね」

 

 ならばと小宮果穂は読み上げる。

 

「……『エポナは地域によって細部が異なる。全ての伝承を習合すると、主に水・治癒・死・冥界・通商・戦い・賢さ・速さ・競馬のレース開始のナプキン・太陽・豊穣・家畜小屋の鍵・来世の守護などを司る女神である』……」

「ふむふむ」

「……『馬だけでなく、犬やワタリガラスも引き連れる……薔薇模様はケルトにおいて冥界の霊を表し、ギリシャ・ローマにおいては死後の春と再生を表す』……? だそうです!」

「死後の春。……春は“良い出来事”の暗喩かな。そのあとに再生が続く……来世を司る……生まれ変わる? それを助ける女神なのかもしれない」

 

 篠澤広は推理を披露する。

 

「そんな女神エポナが、果穂を殺そうとしている?」

「────!!」

「特に悪い神様という感じではなかった。果穂を殺すつもりなら、それで何をしようとしている? 果穂を来世に送る? …………マザーAI。魔術世界において死後、人間はどうなるの?」

 

『魔術世界において人間の死後は、ごくまれに『英霊』となるようです』

「詳しく教えて」

『英霊とは、我々の世界では『戦死者』を敬う言葉に過ぎません。ですが魔術世界では『英雄の戦死者』を指すようです。英雄は死ねば英霊となる。英霊の霊格は知名度や信仰の多寡によって強弱が決まる。そして魔術師は時に、降霊術によって英霊を召喚し、仮初の肉体を与えることで使い魔(サーヴァント)にします』

「……寓話の魔女が、猫やカラスの使い魔を持つみたいに?」

『はい。ただし元は人間。しかも英雄と呼ばれるほどの人間は、我の強い王様や万夫不当の豪傑が多い。並大抵の魔術師では使役不可能です。ただし魔術師と英霊は、万能の願望機をめぐって徒党を組む時があるようです』

 

 ────万能の願望機。

 

 小宮果穂と篠澤広は片眉を上げて思案する。

 

『ごくまれにゲートを通ってくる魔術師とサーヴァントは、往々にして特異点と呼ばれる聖杯探索および聖杯戦争において、我々とイレギュラーな邂逅を果たします。魔術師は私利私欲のため襲って来ることが多いため撃退しますが、サーヴァントの目的は聖杯が目的であるため話せばすぐご理解いただき元の世界に帰ってくれます。無論、時に魔術師と同様、よからぬ企みで裏をかいてくる時もありますが────』

「そういう時はどうしてるの?」

『敵性エネミーがサーヴァントの場合、倒す方法はありません。なぜならサーヴァントとは幽霊です。霊体に物理攻撃は効かない。そのため前管理人もアルファさまも、討伐には苦労されました』

「苦労? なんだかんだ倒せたんだ」

『わたしの異能による肉体強化を得て、肉弾戦で相手の神秘武装を奪い、霊体に傷をつけて撤退を促す。あるいは殺害する。いずれも致死率99.9%のギリギリの死闘でした。防戦一方で0.1%の勝率が舞い降りる奇跡を待ち続け、なんとか九死に一生────いえ、0.009%の一勝をもぎ取り続けてきたのです。故に私は前管理人とアルファさまの偉業的御活躍に感服します。畏敬の念を禁じえません……』

 

 ここまでマザーAIが感慨深けに語るということは、本来サーヴァントは人間が倒せる存在ではないようす。

 

「じゃあ……それが英霊ではなく、神霊だったら……? 神霊ということは、つまり死んだ神様ってことでしょ? 神様の時点で手がつけられないはずなのに、それが霊体だから物理攻撃も効かない……」

『はい。倒すのは英霊以上に不可能です。私の異能をもってしても不可能に近いかと』

 

 その時、小宮果穂が叫んだ。

 

「で、でも……! あの……女神のエポナさんは、悪い神様じゃないと思います……!」

「うん。わたしもそう思う。エポナは何かを伝えようとしている。でもそれが何か分からない……会話はできない、の?」

 

 篠澤広は中空に問いかける。

 すると小宮果穂も呼びかけた。

 

「あの……エポナさん! あたし────どうしても、マメ丸やいろはちゃんを助けに行きたいんです……! アルファさんの危険な戦いの、お手伝いがしたいんです……っ! 手伝って、くれませんか……? ……エポナさんが、どういう目的でゲートを通ってきたのかは分からないけど……もし、あたしたちのために来てくれたのなら────」

 

 戦うつもりなら、既に篠澤広を殺しているはずだ。

 小宮果穂の死亡確率というのはよく分からないが、文献を読むにあたって、旅人に加護を与える女神であることが強調されていた。

 

 ────旅。冒険。

 

 もし小宮果穂がゲートの外に行くことを、旅の女神として加護を与えて助けてくれるなら……そんな一縷の望みに懸けて、小宮果穂は懇願する。

 

『────!?』

 

 一陣の風が吹く。螺旋回転する疾風は無数の花弁を舞わせる。

 

『魔力風を検知。敵意は無いように思われます』

 

 中空で魔力風が凝縮する。赤い花弁が凝縮して発光。閃光が散ったかと思えば、一本の赤い薔薇が咲いていた。それが重力に逆らって、非常にゆっくりと下降していく。小宮果穂の近くへ落ちていく。

 

『────未来予測:確定事象を算出。なお神霊エポナより情報が送信されました』

「え……それ、なんの情報ですか!?」

『情報解析中……処理中……全容理解。データベース保存:疑似サーヴァント カテゴリ:英霊/サーヴァント』

「ぎじサーヴァント……? どういう意味ですか?」

『小宮果穂の死亡確率100%の理由解明。解説します』

 

 マザーAIは、運命(Fate)を問う。

 

『英霊が使い魔としてサーヴァントになるためには肉体が必要です。魔術世界ではエーテルという要素を仮初の肉体としますが、場合によっては適性のある人間に憑依する場合および死人の肉体を依代にする場合など多岐にわたります』

 

 篠澤広は目を見開く。まさかと直感した。それは何がどうなるのか本当に分からない。あまりにも危険すぎる行為だ。

 

『つまり小宮果穂さま。あなたが死亡する事で、死体の中に神霊エポナが憑依します。換言すれば、小宮果穂さまの肉体を依代(よりしろ)として、サーヴァント・エポナが召喚されます』

「……あたしが、死んじゃう、ことで……?」

「ただし神霊エポナは『意識の主導権は小宮果穂に譲る』と話しています。さらに神霊エポナは『特異点を解決すれば必ず小宮果穂を蘇生宝具で生き返らせて元の人間に戻す』と話しています。この約束の信頼度は不明。……小宮果穂さま。いかがいたしますか?』

 

 小宮果穂は混乱する。仮に受け入れたとして、それはつまりどういう状態になるのか。自分がサーヴァントになる、ということか。

 

「……あたしがサーヴァントになったら、どうなって、何ができるんですか……?」

『端的に申せば、小宮果穂さまの魂が耐え切れず消滅する可能性が高く……それを乗り越えれば、めちゃくちゃ強くなります』

「……!」

『神霊の魂を人間の肉体に埋め込みながら、人間側の意識を保つ。それは完全に不可能な事だと断言できます。ただし神霊エポナは『小宮果穂の無垢な心があれば十全に可能です』と答えています。この発言の信頼度は不明です』

「……」

『仮に小宮果穂さまが耐え切れた場合。サーヴァントは魔術世界において決戦兵器のような存在です。戦闘に長けた英霊と比べれば戦闘力は劣るでしょう。それでも神霊となれば極めて強力な存在となる。……ただし小宮果穂さまは戦闘経験がありません。加えて今回のゲート先の世界とは相性が悪い』

「……相性?」

『今しがたアルファさまと情報を同期しました』

 

 マザーAIは一拍おいて語る。

 

『────舞台は特異点。数多の神霊が群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)する世(・)界(・)神(・)話(・)大(・)戦(・)が執り行われている模様です』

 

 一同は絶句する。

 つまりは神々の戦い。神霊同士の戦いですらない、実体を伴う“生ける神々の聖杯戦争”である。

 そんな場所に行って、アルファは本当に生きて帰ってこられるのか。

 

『神霊エポナは戦闘神ではありません。戦闘経験のない小宮果穂さまが神霊系疑似サーヴァントと化して特異点に向かわれても、ただ敵の神や神霊に殺されて終わるのみかと』

 

 ────それでも。と、思ってしまった。

 

 夢。

 それは勇気も蛮勇も賢明も愚行も兼ね備える激情の発露。

 

「……そこには、マメ丸といろはちゃんとアルファさんがいる……たくさんの神様が戦争している大変なところで、あたし────みんなを放っておけないです……! だから、あたし────っ!!」

 

『……承知しました。小宮果穂さま────御武運を』

 

 マザーAIは新たに結界を張る。第一の鉄柵を開いたことで、神霊エポナの魔力が地下室の廊下に充満しないよう密閉する。小宮果穂は二重ロックの鉄柵を通って篠澤広と合流した。足元には赤い薔薇が一輪。

 

「まって。かほ、ほんとにいいの……? きっとその薔薇に触ったら果穂はもう────」

「はいっ! あたし、エポナさんを信じます……! 広さんは廊下側に戻ってください」

「…………わかった。でも約束。絶対に生きて帰ってきて、ね?」

「────はいっ!」

 

 篠澤広は廊下側に戻ろうとする。

 その時、彼女の道行を塞ぐように、トウモロコシが落ちてきた。

 

『────えっ?』

 

 すかさずマザーAIが通訳する。

 

『神霊エポナから伝言です。──『篠澤広も疑似サーヴァントとして活動した場合、篠澤広の魂に相応しい神格を選んで疑似サーヴァント化を助けます』とのことです。信頼しますか?』

 

 篠澤広は振り返る。小宮果穂と視線を合わせる。

 

「……相応しい神格って、どう選ぶの?」

『不明です。おそらく神霊エポナ自身を触媒にした『連鎖召喚』の要領かと。なお神霊エポナはケルト神話の神格ですが、『広く各地を旅してきた神格』という側面から、ひとつの神話大系に囚われていないと推測できます。具体的に女神エポナが信仰されていた範囲は、イベリア半島・ブリテン島・イタリア半島・ライン川やドナウ川といったゲルマン圏・バルカン半島・北アフリカなどといった、ユーラシア大陸の南西部に当たります。北欧には些か届きません。ただし『広く旅する』という性質から、遠方各地の神話と接続できる権能を有していると推測できます。なぜなら『数多の神話と神代を通過してきた古き神格』という概念と『旅』の概念を組み合わせれば……おそらく海の向こうの別大陸の神話大系にも接続することが可能だと予測できるためです』

「……トウモロコシといえば、コロンブス交換。すなわち南米……アステカ神話」

『未来予測:当該推理の的中率は99%を超過』

 

 ならば試してみよう。小宮果穂だけ危険地帯に飛び込ませるわけにはいかない。

 

「……わたしは生身のままだと足を引っ張って迷惑をかける……だから大人しく引き下がろうと思ったけど……もし、疑似サーヴァントになることで、何か手伝えるのなら……」

「広さん……!」

「……かほ。いっしょに行く?」

「────はいっ! とっても、心強いですー……!」

 

 小宮果穂と篠澤広。ふたりの少女は、それぞれの植物を手にする。

 一輪の赤い薔薇。一本の黄緑のトウモロコシ。

 

 次の瞬間、ふたりの少女はまばゆい光に包まれて疾風が吹きすさび────足元に魔法陣が展開。

 

『解析:疑似サーヴァント化の開始。分析:サーヴァントの霊基情報をデータベースに登録』

 

 閃光と疾風、魔法陣が収束する。

 光の中から現れた少女たちの肉体は、燦然たる衣装を身にまとって、人間とは別の存在と化していた。

 

「────あたしは小宮果穂。ライダー・エポナ────」

「────わたしは篠澤広……ライダー・ショロトル────」

 

 神霊エポナからの連鎖召喚であるため、どちらも同じ騎兵(クラス)となった。

 マザーAIは助言する。

 

『おふたりとも。なるべく戦闘は避けてください。サーヴァントは聖杯から知識を得るため、基本情報の説明は不要でしょうが────ライダークラスであれば機動力に特化しています。アルファさまがそばにいない場合にサーヴァント戦が始まれば、速やかに逃げの一手を打ってください』

「わかりました!」

「了解。それじゃあ行ってくるね。マザーAI」

『アルファさまに割いている容量を削減し、小宮果穂さまと篠澤広さまの存在証明プロセスを実行。────御武運を』

 

 小宮果穂と篠澤広は青く光るゲートの前に移動する。

 

 お互いに手を掴んで────いっせーの、で飛び込んだ。

 

 青白く光り輝く螺旋状の回廊を真っ直ぐと落ちていく。

 やがて極光。

 視界が白く染まる。次いで暴風を肌に感じた。

 

 ふたりは目を開く。

 

『────えっ────』

 

 自由落下を開始。酸素が薄い。

 

 篠澤広は目をグルグルと回しながら死を悟る。

 

「ここ……大気圏だ────」

「…………えっ……えぇえええええええええ────っ!!?」

 

 ふたりの少女は甲高い悲鳴を上げながら、気流に煽られて流されていく。

 遠い地上には二つの大陸が見える。社会科で習ったユーラシア大陸とアフリカ大陸だ。

 

「────あ、でもわたしたち霊体だから、地面に激突しても死なないかも?」

「────!」

『いいえ。地面が神秘で構築されている場合、落ちれば霊体にダメージが入って死亡します。なお神代の土は全て神秘性です』

 

 マザーAIからの念話が届く。

 ふたりは目を合わせて青ざめた。

 

「────どうしよう?」

「…………」

 

 ふいに遠雷のような轟音が響く。遠方から音を切り裂いて何かが飛んでくる。

 耳元を過ぎ去る暴風より大きな轟音とは何事か。ふたりは視線をやると、そこには────信じられないものが飛び交っていた。

 

『────せ、戦闘機……!?』

 

 さながら宇宙戦争(ス○ー・ウォーズ)で観るような宇宙航行型戦闘機が無数に飛び交っており、大気圏を戦場としてビーム兵器を打ち合っている。流れ弾の光弾が近くを掠るように過ぎ去っていく。直撃すればとんでもないダメージとなる。サーヴァントの体になったことで分かる。あれは掠っただけでサ(・)ー(・)ヴ(・)ァ(・)ン(・)ト(・)で(・)も(・)消(・)し(・)炭(・)に(・)な(・)る(・)!

 

「や、やばいですぅーっ!!」

「! ライダーなら騎乗宝具を持っているはず……と思ったけど、わたしは持ってないみたい」

「!! あ、あたしは────ありました! 空飛ぶバイクです!」

「……なんでバイク?」

「わかりませんー! つ、使いますかぁー?!」

「うん。使おう。流れ弾を躱すのにも使える。早く」

 

 小宮果穂は深呼吸。さっそく真名を開放する。

 神霊エポナの手助けによって、唱えるべき呪文が脳裏に浮かび上がる。

 

「女神の力に応えよ、ガリアの神(トータティス)! 旅女神の渡鴉(ルーゴス・エポナ)……!」

 

 第一宝具、開放。

 

「────『天下無双の太陽天使(てんかむそうのサン・エンジェル)』────!!」

 

 霊基から第一宝具を引っ張り出す。不可視の霊体がエーテル体をまとって構築されていき可視化。漆黒の魔改造二輪車ブラックペガサス号を召喚する。平時は両翼が折り畳まれているが、今は最大展開して飛行形態に変形。

 

「広さん! あたしの後ろに座って! しっかり腰を掴んでください!」

「……ごめん。なんか……腰を掴む握力と筋力が────な(・)い(・)」

「──……えぇっ!? ど、どうして……?!」

「いま気づいた。わたしのスキルに『虚弱体質Bランク』がある……どうやらアステカ神話の神様でも、わたしの体の脆さはどうにもならなかったみたい……ふふっ。今ショロトルが『呪いかよ』ってボヤいた……ままならない、ね?」

「……っ!? こ、こんな時に、喜ばないでくださーい!」

 

 すかさず小宮果穂は、左手でバイクのハンドルを握りながら、右腕で篠澤広の腰を抱えて滑空する。

 

「ああ……果穂、腕力が強い……私の腰が、折れちゃう……」

 

 篠澤広は恍惚とするが、同時に青ざめてもいる。

 

「うわぁ!?」

 

 頭上で乱舞するビーム兵器の流れ弾。

 撃墜される戦闘機の残骸。

 小宮果穂は不慣れな運転ながら、それらを完璧なハンドルさばきで躱していく。バイクを運転するのは初めてだが、適切な操縦が出来ている理由は『騎乗スキル・EXランク』のおかげである。

 

 やがて標高3000mを切った。

 地上に目をやると、森林と平原と山岳の連続帯が延々と広がっている。

 

「ひ、広さん! どこに降りましょう……!?」

「──とりあえず山岳がいい。下に大きな森があるともっといい。高い所ならアルファを探しやすいし、敵と遭遇すれば森の中に逃げて姿をくらましやすくなる。木々の感覚もバイクが走る分にはそれほど狭くないから」

「な、なるほど……!」(一目見ただけで、そこまで……!)「勉強になりますっ!!」

 

 かくして小宮果穂と篠澤広は、詳細不明の異世界の山岳頂上に着地した。

 

          §

 

 時は遡り。ゲートの先が大気圏だというのなら、は(・)た(・)し(・)て(・)ア(・)ル(・)フ(・)ァ(・)は(・)ど(・)う(・)や(・)っ(・)て(・)生(・)き(・)延(・)び(・)た(・)の(・)か(・)。

 

 アルファは青白い螺旋回廊(ゲート)を抜けて、異世界に降り立つ。が、一向に足元が地に着かない。

 さらには眼前を上下に二分する暗黒空間(うちゅう)と群青空間(あおぞら)の宙(ソラ)模様にして空の境界(カーマン・ライン)。

 

「────は?」

 

 吐いた息が一瞬で凍りついて薄氷になった。少ない息を保存するため鼻と口と耳を塞ぐ。

 

 思わず眼下を確認。地面、否、地(・)表(・)にはユーラシア大陸とアフリカ大陸とエーゲ海やら黒海などなど。視界端にブリテン島やらアメリカ大陸の東端やら中国大陸やら日本列島やら何やらが────

 

(あ。これ死んだわ────)

 

 ────内臓が浮く無重力感。心胆を粘り強く保って恐怖による失神を耐えながら策を練る。

 

 全身の皮膚が摩擦熱みたいに熱くなる。人体発火を起こしそうだ。血液が沸騰している。

 

 ふと遠雷のような轟音。SF映画やメカ系ゲームで聴くようなビーム音が響き渡る。真横を過ぎ去る光弾の余波が熱風を生んだ。人の身では直撃しなくても消し炭は免れない。地表を背にして宇宙を仰ぐ。そこには超未来級の戦闘機が飛び交っていた。

 

(おいおい────ここホントに魔術世界か……?)

 

 中間圏を突破。成層圏に突入。

 

(残った息は絶叫に使うとして────)

 

 全身の皮膚が凍傷していく。冷凍保存されそうだ。血液は沸騰を続けて蒸発を始めた。血管がはちきれそうだ。既に毛細血管はブチブチと破裂を繰り返している。

 

(の……脳が……茹だる……)

 

 高温高熱化する頭脳を根性で耐えて意識の明敏性を紙一重で保ち続ける。

 全身を広げて緩やかに落下することで持続的な血液沸騰は続いているが、急速降下しなかったおかげで血液の瞬間蒸発は免れた模様。だが大気圏からの落下にしては、アルファの知識とはどこか異なる。物理法則が異なる世界なのか。

 

(対流圏に入れば高度8kmが近くなり理論上酸素は吸えるはず。だがまだ薄い。水平でエベレストの頂きを捉えてから一発勝負。天運に身を任せる……ッ!!)

 

 東方に白亜の霊峰を捉える。なんとなくの測量で標高8kmを切る直前と判断。周囲を観察。低空域でも戦闘機が飛び交っている。明らかに人間の姿をしたサーヴァントらしき存在も何名か戦っていた。彼らの善性に賭ける。

 

 かくしてアルファは、なんとか保存していた酸素を全て消費し、ありったけの雄叫びをブチ上げた。

 

「────ダァ゛レカァ゛アアアアアアアアアアア!! タァ゛スケテクレェ゛エエエエエエエエエエエエ────ッッッ!!」

 

「────────!」

 

 上空を流星のごとく駆け翔んでいた青い天馬ペガサスは一時停止する。それに跨る紫髪ロングの美女はバイザーを掛けており、頭上を見上げてポカンと口を開けていた。そのまま目線は上から下へ。遠い雄叫びは一瞬近づいたが速やかに遠のく。美女は慌てて手綱を奮い、方向転換、緊急発進。空から落ちてきた謎の青年を猛追する。

 

「急いで! もっとスピードを! ────いえ、間に合わない! 宝具を使う!!」

 

 美女もとい騎兵(ライダー)は、真名を開放する。

 

「────『騎英の(ベルレ)────、ッ!!?」

 

 刹那、地上の森林の一角から青白いビーム光線が立て続けに射出された。

 

 完全に隙を突かれた形。騎兵は死を覚悟する。しかし矢のような形状のビーム砲撃は、落下する人間の青年に当たらず、天馬と騎兵の両横を通過して、背後より迫っていた二機の戦闘機を撃墜せしめた。

 

(後ろ……?! しまった────アサシン霊基の戦闘機が気配遮断していて……! ……どうやら助けられたようですね……)

 

 騎兵と天馬は、中断しかけた宝具を再起動させる。

 途切れかけた魔力を再充填。一気に放出した。

 

「────手綱《フォーン》』────!!」

 

          §

 

 さらに時は遡り。そもそも意識のみ転移(レイシフト)したいろはちゃんとマメ丸は、どこに降り立ったのか。

 

「……わー?」

「────ワフッ────」

 

 幼子と豆柴。ひとりと一匹は、やはり上空から自由落下していた。

 なんだか急に眠たくなってまぶたを閉じたら、これである。

 

 ちなみに標高は大気圏というほどではない。標高5km程度。

 

「すごーい! ねぇみてーまめまめー! いろはそらとんでるー!」

「……ワ……ワフ……」

 

 いろはちゃんは現状を理解してないのか、夢だと思っているのか。

 一方のマメ丸は必死に犬かきをしている。だがどうにもならない。

 

 このまま落ちれば大地に激突して即死するだろう。

 空から落ちてくる謎の小動物が二名。

 

「………………」

 

 それを呆れるように眺める男が、地表に立ち尽くしていた。

 

 今日も今日とて宙(ソラ)に焦がれて、腕組み仁王立ちで大空を仰いでいたら……これまた珍妙な落下物を見つけてしまった。いつもはティターン系列の宇宙艦隊や大気圏用戦闘機の残骸が降り注いでくるというのに……まさか人間が降ってくるとは思わなんだ。予想外の中の予想外である。正直なところ見つけなければ良かった。男はそのように嘆息する。だが見つけてしまったからには仕方がない。何もしない、というわけにはいかないだろう。

 

 地を蹴るまでもなく浮遊して飛び上がる。徐々に加速していき、標高3kmあたりで待機。高速で降ってくる幼子と小犬を──そのまま受け止めれば慣性の法則で落下死も同然となるため、瞬間的に下降することで衝撃を和らげつつ──それぞれの手でキャッチする。

 

「うおわー!」

「キャン?!」

 

 男は徐々に下降する。地につま先を着けてかかとも着ける。ゆっくりと両腕を下ろして、途中でパッと手放した。いろはちゃんとマメ丸は尻餅を搗く。

 

「にゃっ!? いたいたいー!」

「ワン! ワンワンッ!」

「なんだ。助けてやったんだ。死ぬよりはマシな痛みだろう」

「おまえだれ!」

 

 上空から落ちてきたというのに、それについてはなんとも思っていないのか。

 いろはちゃんは地面に仰向けに寝そべりながら、真上に見える男の顔を指さした。

 

「……お前たち、この星の人間じゃないな。抑止力の遣いか? あるいは星見台の人材も不足気味と見える」

「……? いろははねー! いろはだよー!」

「ワン!」

「貴様らに興味はない。疾く去ね」

「こっちはまめねー! まめまる!」

「ワンワン!」

「…………」

 

 話が通じない。幼子ゆえ是非もなし。

 いろはちゃんは全身脱力状態から起き上がる。どうやら上空から落下して無重力状態にあったことで、内臓が浮遊して少し気持ち悪かったようだ。吐き気を抑えるため寝転んでいた。それも次第に収まってきたのか、いろはちゃんは安静状態でいることをやめて、よっこいしょと立ち上がる。よろけながらテクテクと歩いて、男の膝をねえねえとたたく。

 

「ねえねえ。ここどこー?」

「……フリュギアだ」

「ふりゅぎあ? ぷ○きゅあ? かんでない?」

「……噛んでない」

 

 ふいに男は腕組みをやめると、背中を見せて立ち去る。その先には神殿があった。

 いろはちゃんは周囲を見渡す。砂漠があって、砂の大地の上に街がある。ただし人の気配は少ない。大きな神殿は石造りでとても立派だった。

 

「まってー」

「ワンッ!」

 

 いろはちゃんとマメ丸は、謎の男を追いかけて神殿に入る。

 しかし神殿の中には誰も居なかった。男の姿が忽然と消えてしまっていた。

 

「あれー? どこいった?」

「──……ワフ?」

 

 匂いで追跡できないマメ丸は小首をかしげる。男はさながら神出鬼没のように消えてしまった。

 しかし第六感のような感覚で気配は感じる。近くに居るのだが、なぜかどこにいるのか分からないのだ。

 

「まぁいっか! おやすみー」

「ワフッ?!」

 

 陳列する巨大な柱。木陰の涼しい所に寝転んだいろはちゃんは、ちょっと寒かったのかくしゃみする。するとマメ丸が自分の毛であたためるように、ぴったりとくっついて丸くなった。いろはちゃんはマメ丸を抱きしめて昼寝する。

 

(…………────)

 

 それを見守る男は、ただ静かに霊体化していた。

 

          §

 

 一方その頃。アルファといえば。

 絶命必至の大気圏自由落下から万死に一生を経て、紫髪のライダーと鎧兜のアーチャーに助けられて。命の恩人ふたりに対して感謝に感謝を重ね、何か恩返しをと申し出ると、ふたりは「不要です」「不要なり」と片付ける。ならばとアルファは身の内を明かして事情を説明。

 

「────というわけで、私は別の世界からやって来まして。自分の世界に開いたゲートを破壊するためには、おそらく聖杯の雫が必要なんです。うちのマザーAIが聖杯の雫を短剣とかにコンバートするんで、聖杯短剣でゲートを切断すれば万事解決。この特異点の敵性存在が、まかり間違っても俺の世界には来なくなる、という次第です。無論、聖杯の雫はこちらの世界に残るため、それが原因でまた別の特異点のゲートが開くんですが……根本的解決はそのうち図るとして、少なくとも俺の世界にあの戦闘機が突っ込んできたらヤバイでしょ? なのでとりまゲートは閉じたいんすよね。で、次のゲート先の特異点は、なるべく平和そうな場所だったらいいなー的な」

 

「……なるほど」

「委細承知」

 

「話が早くて助かります。……で、命の恩人に図々しいとは思うのですが────俺と同行してくれません? 聖杯探索の助力、よろしくお願いしまっす! こちらは聖杯の雫が一個見つかればそれでいいんです! もちろんおふたりの分の聖杯の雫も見つけるまで一緒に旅します! ……それでどうですか?」

 

 アルファは合掌して小首をかしげる。言動や仕草のひとつひとつが断りづらい小物感。

 対するライダーは顎に手を当てて思案中。するとアーチャーが答えた。

 

「私に聖杯の雫は不要である」

「マジっすか。じゃあこれも何かの縁ってことで、対価なしで付いてきてくれます……?」

「提案、問題なし。そちらが我がマスターになるのであれば、さらに問題なし」

「俺、魔術回路ないんすよねー……や、うちの優秀な技術顧問(マザーAI)が外付け魔術回路を作成してくれたんですけど……これが割と負担でかくて……サーヴァント一騎と契約して一回戦闘するだけで、ぶっ倒れるほどキツいと言いますか……」

 

 外付け魔術回路。それはアルファの着ている衣服そのものである。着用者の生命力と精神力を均等に吸収して魔力にコンバートする。リミッターを外せば運命力さえ魔力に変換可能。生命力と精神力の回復方法は、よく食べよく動きよく眠ること、あるいは魔力が宿る素材を摂取することだが……運命力の回復方法は、存在しないとされている。

 ちなみに運命力の消費とは、人生の運を使い切ろうとするようなものである。

 

「私は……こちらのアーチャーと同じく、逸(はぐ)れサーヴァントなので。特に目的はなく。特異点を解決するために召喚された、というような感覚もないので……正直、手持ち無沙汰でした」

「上空の戦闘機みてーなのと交戦していたのは?」

「地上を歩いていたらいきなり襲われたので、降りかかる火の粉を払っただけですね。地上戦では一方的にやられるだけでしたので、こちらも天馬を召喚して空中戦に持ち込んで何機か撃破したところ……あなたが落ちてきた、という経緯です」

「なるほど。それで?」

「……行くあてもないので同行しましょう。それに宝具を使用したことで魔力が必要です。先ほど恩返しは不要と言いましたが、こちらの戦力を期待するのであれば、多少の路銀は支払ってもらいましょうか」

「なるほど傭兵への支払いってやつですね。承知しました。──アーチャーさんもそれでよろしいです?」

 

 アーチャーはうなずく。

 

「同意」

「ではアーチャーさん、ひとつ質問があります。あなたの目的を教えてください」

「……目的不明。存在しない」

「すみません質問を変えます。もっと個人的な趣味趣向で……たとえばサーヴァントって、なんか戦闘が好きな人が多いじゃないですか? なんでも戦って解決すると言いますか……元が英雄なので、血気盛んな人が多いのも理解できます。で、そちらも武人っぽいんで、もしかして……? などと」

「然り。強いて言うなら主君を得て闘争の渦中に飛び込みたい。しかし無理強いはしない。アーチャーのクラス別能力には単独行動スキルがある。それが尽きるまで暴れまわるのみ」

「委細把握。であれば仮契約を交わしましょう。魔力切れで退去されても困る。もちろん俺の魔力を吸いすぎても困りますが。なので基本は折半でお願いしますネ!」

「……了解。よろしく頼む」

 

 アルファはライダー・アーチャーと握手を交わす。すると外付け魔術回路の仮契約機能が発動。二騎の霊基と魔力パスを繋いだ。

 

「よーし! はぐれサーヴァントという名の傭兵戦力をゲットだぜ!! んじゃ、気ままな旅を始めましょうか! まずは歩きながら────この特異点で起きている出来事を、ぜーんぶ教えてくだっさい!! よろしくお願いしまっす!!」

 

          §

 

 一方その頃。

 小宮果穂と篠澤広は着地した場所の付近で、二騎のサーヴァントと邂逅していた。

 かたや星の王子様のようなフォーリナー。かたや全身機械鎧のキャスターが蒸気を蒸(ふか)している。

 

「この特異点の詳細かい? それはね……えっと、バベッジ、説明できる……?」

「任された。──今は紀元前6000年。この地はアナトリア半島フリュギア神域。聖杯を所有せし謎めいた黒幕は、オリュンポス十二機神の端末体をハッキングし、各権能を機械系英霊に封神(ほうしん)、不完全のハイ・サーヴァントを量産し、ギリシャ神話(テクスチャ)を支配下に置いた。次いで他の神話(テクスチャ)に侵略行為を開始。西はケルト神話、北はゲルマン神話、東はアナトリア神話およびヒッタイト神話をはじめとするメソポタミア神話系列──ちなみにインド神話は現状未誕生である──南東はエジプト神話、南は北アフリカ神話。これら東西南北の各神話は、それぞれ熾烈な防衛戦を続けている」

「みんな、バラバラで、戦って、いるんだよ?」

「しかし最近、フリュギアの王と女神が『神話連合の結成』を各テクスチャの神々に呼びかけた。反応は芳しくないが、もし各神話が一丸となって戦うことがあれば、瞬く間に形成はひっくり返るだろう」

「でも、そうは問屋が、卸さないんだ……事態は、もっと、複雑で 絶望的に、なるよ……」

 

 フォーリナーと、バベッジと呼ばれたキャスターは、ひと呼吸置く。

 各地の神話同士が戦争状態の時点で極めて絶望的なのだが、そのさらに上を行く絶望とは一体何なのか。

 

「遥か大昔、神代の黎明期とも言えるギリシャに、ティタノマキアと呼ばれる戦争があった。オリュンポス十二機神とティターン十二機神による巨神戦争である。結果はオリュンポス陣営の勝利に終わり、ティターン陣営は奈落タルタロスに封じ込められた。これにティターン十二機神の生みの親である地母神ガイアが激怒した。復讐に燃えるガイアは新たなティターン系列艦隊を造り続け、たびたびオリュンポス陣営と小競り合いを続けていた。その小競り合いはゼウスとガイアの会談により、今なお大気圏で執り行われている」

「地上で戦っちゃうと、星が壊れちゃうし、人間もみんな、争いに巻き込まれて、死んじゃうからね」

「今の話は、本特異点における独自の歴史からくる前提知識である。本題は今から始まる。──ガイアの復讐が続いて幾星霜。紀元前14,000年~12,000年ごろ。太陽系の外から捕食遊星が襲来した。名をヴェルバー。かの宇宙侵略者は尖兵(アンチセル)たる破壊の星舟(ヴェルバー02)・別名セファールを解き放ち、地球全土を蹂躙、破壊の限りを尽くし、全神話を滅亡寸前まで追い込んだ。ほとんどの神々は殺されて神霊化したが、あるとき聖剣の担い手が現れて、白き滅び(セファール)を討ち取った。紙一重の勝利であったとされる。ここまでが汎人類史における物語だ。……しかし、この世界、この特異点では、なんと────」

 

「歴史の流れが異なり、ガイアとヴェルバーが、手を組んじゃったんだ。しかも聖杯の持ち主は、尖兵(アンチセル)たる浸蝕の星舟(ヴェルバー03)を、地球に招来したんだよ」

 

「────然り。ガイアは復讐心に焦がれるあまり遊星の尖兵に手を貸し、ガイアとヴェルバー系列の仔ギガースを産み落とした。ガイアの神性が濃いギガース戦闘機は、赤い巨人の上半身に竜体の下半身を有する人竜一体の大機竜である。一方、ヴェルバーの浸蝕が強いギガース遊星体は、白い巨人の人型で剣や槍を武装している。ちなみに我々は、前者をギガースGタイプ、後者をギガースVタイプと呼称している」

「その時点で、この特異点が発生したんだ」

「ガイアとヴェルバーの、ありうべからざる同盟関係の発足。この恐ろしい事態は聖杯の力と関係あるのか不明だが、おそらく無関係と思われる。故に、この特異点はいずれ異聞帯に変わる可能性が高い。そのため土地の悲鳴に応じ、我らはぐれサーヴァントが多数召喚された」

「きっと、抑止力の呼び声、だね」

「現在、傀儡化したオリュンポス十二機神は多方面のテクスチャに侵攻しているが……なぜか最も力を注いでいる戦線はアナトリア半島である。おそらく他神話の中でも、戦力として弱い部類に入るからだろう。なぜならアナトリア神話は、私の生きていた時代において、歴史の中に埋もれた失伝神話が多数ある。魔術世界において過去は変わるもの。未来において知名度補正の恩恵が受けられないため、アナトリア半島の神々は既に神霊化しており、その神性も精霊や妖精の等級(レベル)まで零落している神々が多い」

「だから、もう、アナトリアの、ほとんどは……やられちゃって、るんだ……」

「……ここまでの流れで、理解できないことはあるだろうか」

 

 小宮果穂はちんぷんかんぷんである。表情はフリーズしていた。聞き入ってはいるが、目と口をぽかんと開けている。

 しかし篠澤広は一定の理解を得ており、ある程度の納得もしていた。

 

「わたしは大丈夫。疑似サーヴァントになったことで魔術世界の知識も得ている。あとで果穂に噛み砕いて説明する」

「広さん……! ありがとうございます……っ! あたし、ぜんぜん、さっぱりで……!!」

「ちなみにアナトリア半島のテクスチャはどれくらいやられちゃったの?」

 

 フォーリナーは視線を落とす。代わりにバベッジが答えた。

 

「前提として、オリュンポス十二機神はクリロノミアと呼ばれる汚染神髄(ナノマシン)を用いて、他者の強化や洗脳を行う。聖杯の所有者は、これを洗脳に特化させた。結果、ビテュニア神話、トローアス神話、ミュシア神話、ベラスゴイ神話、イオニア神話、カリア神話、リュキア神話、ビシディア神話、パンフィリア神話、パフラゴニア神話、ポントゥス神話、カッパドキア神話、リュカオニア神話、キリキア神話、ほかにも周辺諸島の小神話群は、軒並み全滅して汚染されて傀儡化。ギリシャ勢力に加わってしまった。なおアカイア神話は抵抗せずクリロノミアを受容した」

「ちなみに、いま言った神話は、紀元前6000年には存在しないはずの、神話大系もあるんだよ」

「人理と一口に言っても平行世界が多数存在する。おそらく今の我々が居る此(こ)の人理では、既に紀元前6000年には、アナトリア半島に各神話が誕生している、という歴史なのだろう。……有史以前の事柄に“歴史”という名称は、正しくない使い方な気もするが……」

 

「じゃあ……今も抵抗を続けている神話は?」

 

「アナトリア半島に限れば、敗色濃厚だが瀬戸際で生き延びているフリュギア神話。一方、ヒッタイト神話はギリシャ勢力を押し返すほどの猛攻撃を見せている。これは背後にウガリット神話、アッシリア神話、バビロニア神話といったメソポタミア系列の神話大系をパトロンとして控えているからであろう」

「ヒッタイトが滅んじゃうと、メソポタミアの神話は、ほとんど生まれないかも、しれないからね。親を生き残らせるために、メソポタミアの神々は必死なんだ。親がいないと、子供は生まれない、消えちゃうからね」

 

「……? でも既にヒッタイトはメソポタミアの援助を受けている。つまり子供は既に産まれている? ならヒッタイトが滅亡しても問題ないはず。なんだかおかしい言い方」

 

「先ほど未来と過去は変わるもの、と講釈したように。メソポタミア系列の神話大系は、少し先の未来から、疑似サーヴァントという形で多数の神霊系サーヴァントが召喚されている。美神イシュタルが良い例だろう。君達のように現代人の肉体を依代として、既に召喚されている」

「彼女は、宝石に目が、なかったね。ヒッタイト人が、宝石をちらつかせれば、イシュタルは宝具を、撃ってくれるんだよ。君たちも、宝石を持っているなら、やってみれば? あれは、とても心強い、支援砲撃だよ」

 

「……そうなんだ。覚えておく」

 

「して、漂流者(ストレンジャー)よ」

「ぼくたちと、いっしょに、いくかい?」

「……いいの?」

「あ、あたしたちの目的に……協力、してくれるんですか?」

「然り。私は特異点解決の為に召喚されたとは思っていない。マスターが解決を求めるのであれば協力することもやぶさかではないが、本音を言うと諦めている」

「この戦いは、どう考えても、勝ち目が、ないからね……サーヴァントが束になって掛かって、やっと神様や神霊一柱に、傷を付けることができるか、こっちがあっさり全滅するか……つまり、絶対に勝てないのに、そんな勝てない相手が星の数のようにいて、お互いに争っていたら……ね? もはや、並大抵の英霊の出る幕じゃ、ないんだ」

「つまり英霊のほとんどは、戦うやる気をなくしている?」

「そんな……」

「否、武人系であれば、神殺しを成したいと思って挑む猛者もいよう。だがそれも、やはり特異点解決のためではなく我欲に過ぎぬ。なぜならこれは神々の争い。殺しても神霊となって蘇るため、次は神霊との争いが待っている。決して勝てぬ相手に二度も勝たねばならず、それを数十の神話すなわち数百数千数万数億の神々を相手に繰り返さねば、特異点の解決は見込めない」

「無理難題。無茶無謀。バベッジによれば、ギガントマキアを勝利に導いた、かの大英雄ヘラクレスが七騎召喚されても、勝率は1%もない、んだってさ。どうしようか……」

 

 落ち込むフォーリナー。

 対する篠澤広は眉をひそめた。

 

「──……疑問がある。特異点解決のためには聖杯をどうにかすればいいはず。わざわざ神様や神霊と真っ正面から戦う必要はない。ほかにやりようはあるはず。それについてはどう考えているの?」

「はっ! たしかに……戦わなくても、黒幕を見つけて聖杯を奪うか、壊せばいいんですっ! そうすればギリシャ神話の神様たちも、自由になれます! 世界神話大戦は終わりますっ!!」

「然り。なんとも聡明な淑女である。しかし────」

「ぼくたちはサーヴァント。要石や魔力がないと、すぐに消滅してしまう、儚い存在だ」

 

 篠澤広と小宮果穂はハッとして見つめ合う。二騎のサーヴァントが言いたいことを理解する。

 なるほどと得心。だから旅に同行すると言ってきたのだ。

 

「じゃあ……わたしたちと仮契約する? わたしたちもサーヴァントだけど生きた人間でもある。魔術回路はないけど、それに類するものなら神霊が肩代わりしてくれる」

「あたしの中にいる神霊もそう言ってます! 魔力に関してはきちんと供給するって! だから────っ!!」

「では、交渉成立だ。わたしは篠澤広……君を選ぼう。よろしく頼む、我がマスター」

「ならぼくは、きみだね。小宮果穂……よろしく、マスター!」

 

 四人は仮契約を交わす。

 かくして二騎は真名を明かした。

 

「我が真名、蒸気王チャールズ・バベッジ。クラスはキャスターである」

「ぼくは、ボイジャー。実はクラスも、フォーリナーじゃなくて、本当はボイジャー、なんだよ!」

 

 篠澤広は顎に手を当てて、興味深そうに解説する。

 

「やっぱり……チャールズ・バベッジといえば、パソコンの原型を作った人。コンピューターの父とも呼ばれる」

「え────パソコン……! そんなスゴい人なんですかぁ!? それってスッゴくスゴいですーっ!」

「そしてボイジャーは……まさかの人間じゃない。宇宙探査機ボイジャー。まさか、それ自体が英霊化した存在?」

「えっ────う、宇宙探査、機……!? そういうサーヴァントもいるんですね……っ! スゴいですーっ!!」

 

 小宮果穂は目を丸くして驚いては、まばゆい笑顔でスゴいカッコいいと褒め称える。

 

「然り。サーヴァントは夢想の結晶。概念が何らかの形を得る事こそ神秘的な魔術の証明」

「ふふっ。果穂は、いいリアクション、してくれるね……バベッジも、嬉しそうだ……!」

 

 

 

         §

 

 

 

 異聞化特異点    人理定礎値EX

 

 B.C.6000 遊星迎撃鎖国 フリュギア

 

      ‐神話の書庫‐     

 

 

 

         §

 

 

 

 いろはちゃんは目を覚ます。柱の陰で寝ていたはずだが、なぜか神殿の祭壇の上で寝ていた。起き上がると足元にマメ丸が丸くなっていた。となりには男の背中が立っている。もしや彼が自分を抱き上げて、硬いベッドの上に寝かせたのか。

 

「おはよ!」

「…………」

 

 男は反応しない。ただ腕を組んで佇んでいる。

 いろはちゃんにはその様子が、とても退屈しているように見えた。

 

「……ねーねー。あのねー? いろはとあそぼっ!」

「……来たか」

 

 男は組んだ腕をほどいて臨戦態勢を取る。

 マメ丸も殺気を感じて飛び起きた。いろはちゃんを守るように構えを取り、総毛立ちながら牙をむいて「グルル……」と威嚇を始める。

 

 対するは、神殿の外に揺らめく青き魔力の陽炎。

 それは徐々に人の形を取り、女武者が姿を現した。

 

 長く蓄えた白髪。赤い鬼種の二本角。腰に佩いた刀に槍、弓矢筒。呼吸ひとつで血脈を励起し、抜刀、切っ先に炎を灯して歩み始め、境内に侵入する。

 

「……ヴィヴ・ラ・フランス……」

「アテナのたぐいか。いきなり戦女神の尖兵を差し向けるとは、よほど俺が怖いと見える」

 

 男は右手を掲げた。手のひらの上に黒い光が生じ、周囲の魔力を奪い始める。

 女武者は腰を落としてから地面を踏み砕き、勢いに乗って駆け跳んだ。

 

「黒き光よ(キュベレイ)!」

「戦炎(せんえん)の刃(じん)!」

 

 男が手向けた黒き光は集束光線(ビーム)と化して、女武者の炎斬を真っ向から簒(・)奪(・)する。

 竹を割ったような音が響いた。女武者は勝利を確信した。現に男は大きく弾き飛ばされて神殿の壁面に激突する。崩れ落ちる瓦礫と砂ぼこり。そこから平然と歩いて出てきた男は傷一つなく、さらに────いつの間にか炎の鎧をまとっていた。

 

「────! なに……?!」

「ほう。これが神盾(しんじゅん)の権能か……まさか無傷とはな。ああ、俺の頭蓋を割ったつもりでいたところ悪いが、お前の防御性能を剥ぎ取らせてもらった。ついでに神言(キュベレイ)も言祝いだからな。重圧で動けまい。次の一手で終いだ」

 

 神々しい炎は赤く、朱く、重力の枷を与えられて凝縮し、紅の鎧と化して男の全身に定着する。

 

「たとえ封神(アテナ)の加護を受け持つ英霊といえど、たかが亡霊の身で今(・)を(・)生(・)き(・)る(・)神(・)霊(・)に勝てると思うたか。まかり間違ったその驕(おご)りを灌(そそ)いでやる。人(サル)には似合いの末路だ」

 

 神霊による重圧とは、すなわち圧死を意味する。

 女武者は真名開放を言祝(ことほ)ぐ前に、エーテル体と霊基霊核を圧(お)し拉(ひしゃ)げる破壊力を受けて消滅した。白銀と青銅が混じる黄金の粒子が立ち昇る。

 

「ガルル……」

 

 マメ丸は威嚇する。女武者も脅威だったが、一番の難敵は男のほうである。

 英霊より神霊のほうが強い。それはマメ丸に与えられた知識。旅女神の眷属としての知識でもある。

 赤鉛の鎧が振り返る。男は右手をかざした。

 

「さて、次は貴様だ。オリュンポスとは別の神性のようだが、その旅の女神の加護は俺が求めていたものだ。それに今は、本物と比べれば鉛ともいえるなまくらだが、B級(それなり)の防御性能を誇る模造・神体結界(レッド・アイギス)がある。これで貴様の攻撃で一撃死することもない」

 

 いろはちゃんは首をかしげる。いったいなんの話をしているのか。

 

「人々から忘れ去られた神霊。ゆえに無貌(むぼう)。それを覆い隠す紅い兜と、期せずして得た運命(トラベル)の道連れ。何をせずとも準備は整うものだな」

 

 紅鎧の男は、手のひらの上に黒い光を浮かべる。

 その時、いろはちゃんが前に飛び出して叫んだ。

 

「けんかだめ!」

 

 剣呑な雰囲気を感じ取った三歳児は「こうげき」という言葉を聞いて、それを“けんか”と解釈した。

 マメ丸を背にして両手を広げたいろはちゃんは、男と正面切って対峙して、牽制しているつもりなのか仲裁に入る。

 

「なんでけんかする?」

「……お前は、俺が怖くないのか。目の前で同じ形をした生き物を殺して見せたのだぞ。それとも死の概念を認識できぬほど幼いか? その割には空気に聡い。不自然だ。まさか状況の類似性から判断して、適当な見本(誰かの言動)をトレースしているだけなのか?」

「いろはかいちゅうでんとうこわくないもーん!」

「…………」

 

 長い話は、最初の発言しか覚えられない。

 赤鎧の男は対話を放棄して黒い光をみなぎらせる。

 

「まめのがほしいの? なんでほしいの?」

「ソラに行きたいからだ」

「そら? ならねー。かしてーっていわないとだめなのよ~。みんなけんかするとねー。いろはみんなけんかするのなんでかなーってねー。あたまわるいなーってねー。こまったこまった。だってねー?」

 

 赤鎧の男は歯牙にもかけない。黒い光を圧縮する。あとは収束して放つだけ。

 その前にマメ丸が飛び掛かろうと踏ん張った。

 

「み(・)ん(・)な(・)で(・)あ(・)そ(・)べ(・)ば(・)い(・)い(・)の(・)に(・)!(・)」

「────!!」

 

 ────夢はみんなで叶えるものよ。

 

 いつかどこかの。過去か未来の。この世界ではない別の世界の。

 翼を得ようともがき、落涙の果てに叶わず、されど冒険の一味に加わった星見台の記憶を、神霊は持っていた。

 

「なんできない? あたまわるわる~。いろはわからんー」

「……」

「でもねー。いろはねー。おもちゃひとりであそびたいときあるからねー。もうひとつほしいくなる! えらいでしょー?」

「…………もう一つ、か。それが世界に一つしかないものだったら、どうする気だ?」

「? つくるよ!」

「作れないものだったら?」

「それはおまえのあたまがわるいだけ」

「⁉」

 

 今の発言は明らかに他人の言葉を借りていた。流暢で饒舌すぎたのだ。

 

「だからいろはねー。あたまいいからねー。つくるー!」

「…………それでも、ダメだったら?」

「いろはばかだー! で、おわり!」

「……────フッ。その齢にしては、随分と達観している。潔いな」

 

 黒い光が消失する。マメ丸は目を丸くして構えを解いた。

 その時、いろはちゃんのおなかが鳴り響く。

 

「……おなかすいた゛!!」

 

 あまりにも突然だった迫真の空腹宣言。

 いろはちゃんは濁音だらけの怒り声でうったえる。

 

「……急になんだ。だからなんだ」

「おなかすいた゛っ゛!」

「…………国は向こうにある」

 

 男は東を指さす。

 するといろはちゃんは深々とため息を吐いた。

 

「あのさー……いろはさんさい! おはしつかえるよ! でもおりょうりまだだよ! おまえあたまわるわる?」

「────…………子ザルが」

「おとなざるがぁ~……おーこった! おーこった!」

 

 目を閉じて仏頂面のいろはちゃんは手をたたいて踊りだす。明らかに煽っている。

 対する男は静かな声色で返した。

 

「怒ってない」

「おなかすいたっっ!!」(怒)

「…………」

 

 男は無言を貫く。

 無視されたいろはちゃんは拗ねてしまったのか、その場で「ぐでー」と寝転んだ。

 

「あのさー。そらいきたいならさー。なんでさー」

「……」

「あるかないの?」

「!」

 

 いろはちゃんは対話を試みる。

 適当に他人の言葉を並べ立てたセリフであっても、核心を突かれると痛いものがある。

 すかさず男は問い返した。

 

「夢があるなら、それに向かって動けと言いたいのか?」

「……」

 

 いろはちゃんは無言を貫く。仕返しである。

 

「……幼稚な」

 

 ふいにいろはちゃんは起き上がった。マメ丸のリードを持って歩きだす。

 

「しかたない。やくにたたないやつはおいていこう。しゅじょうのためだ。まめ、いくぞ!」

「ワン!」

 

 いろはちゃんとマメ丸は西の方角へ歩みだす。

 

「そっちじゃない」

「ん?」

「こっちだ」

 

 男は東の方角へ歩き出す。

 ならばといろはちゃんは方向転換。マメ丸と共に、紅い背中を追いかける。

 

「たびはみちずれよはなさけ~」

「ワフ!」

「ぼうけんたんけんきけんじゃー」

「ワフン!」

 

 歌いながら紅い背中を追い越す。振り返って男が追い付いてくるのを待つ。近くまで来たら走り出す。一つ歌い終わったら「ちらっ?」と様子を見るため振り返る。それの繰り返しを何度もやる。懲りないのか飽きを知らず何度も繰り返す。

 一方の男は我が道を進みつつ、周囲をちょこまかと動き回る幼子に苦言を呈した。

 

「その歌……さてはお前、幼子にしては知能が高いほうだな?」

「いろはあたまいいよ!」

「……前言撤回する。鼻持ちならないほど知識がある女神は別だが……そこそこ知能が高い奴はそれを自慢しない。そして別の話だが……おまえは、俺に似ている」

「?」

「パッチワークのような言葉遣い。常に他人の言葉を借りている。それをうまく使いこなしている。俺の右手も……他人のそれを奪ってばかりだ」

「……? お゛なかすいた゛っ゛っ゛っ゛!!!」(怒)

「わかったわかった。……まったく、神霊に供物を捧げる人間ならまだしも、よもや神霊に供物をねだる人間とはな。……調子が狂うガキだ」

「よくいわれる~」

 

          §(略叙)

 

 フリュギア近郊の荒野にて、二大勢力が激突して激しく争っていた。戦争の局地戦である。

 

 東はヒッタイト人。西はティターン系列艦隊。

 ヒッタイト人の支援勢力は、疑似サーヴァント・金星の女神イシュタル。

 ティターン系列艦隊の支援勢力は、ヴェルバー03の汚染兵器β。

 

 

 ヒッタイト人の一部隊は、一人一人が精鋭揃いで役割分担がしっかり分けられている。

 高速分割思考の代替演算を可能とする機能を頭部に装着した司令官。

 機神の残骸をチャリオットとして改造した天羊戦車クリオスを駆る騎兵。

 神鉄製の槍を手繰る槍兵。

 ヒッタイト神話の神言を唱えて魔術を行使する魔術師。

 この四人は戦車に搭乗して共に行動する。槍兵は投槍で敵を射殺すほか、司令官を守る役目もある。

 

 騎兵隊とは別に行動する機動歩兵隊は────

 機神の残骸を剣として改造した蛇腹剣使いの剣騎。最優の剣騎はガリアンと称される。

 神鉄製の大戦斧で雑魚を蹴散らす狂戦士。

 神鉄製の暗器で混乱する戦場に飛び込み首を刈る暗殺者。

 神鉄製の弓矢で後方から支援する弓兵。

 

 

 

 対するティターン系の戦力は組織だった行動を取らないが、常に群れで動き回る。

 ギガースGタイプは、霊核的にサーヴァントのクラスに当てはめると騎兵(ライダー)に近い。下半身が機械の竜体を備えており、四本足と尻尾がある。上半身は赤熱する巨人で、近づくと水分が蒸発するほどの熱気を放っている。

 ギガースたちは地ならしをするように通行上の物体を踏みつけていき、そうやって既に数えきれない国々を破壊し尽くした。今度はフリュギアに進撃しており、フリュギアを破壊すれば次はヒッタイトの帝国だ。その先にはバビロンやアッシリアなどの国々が存在する。

 

 

 

 ヒッタイト1万部隊vsギガースGタイプ10体。

 双方の陣営の激突は、双方ともに九割の損壊を伴って、局地戦が終わりつつあった。

 

 最後に生き残っていた槍兵が、最後に生き残ったギガースめがけて宝石を投げ込む。すると上空を飛んで俯瞰していた美神が黄金の舟弓から光矢を発射。最後のギガースの胴体に風穴を開けた。黒髪の依り代を動かす美神は、宙を舞う宝石を手に取って帰還する。

 

「また引き分けか……でも徐々に押されてるわね。一日一歩の進撃を許している。このぶんだと、あと数か月も経たないうちにフリュギアが襲われちゃう。このことは今の王様達に報告しないとね。────っと、まったまった。あぶない! その前に……っと!」

 

 戦場跡に一万人の亡骸が倒れている。それらの指先がピクリと跳ねあがり、幽鬼のごとく立ち上がった。ふらふらとおぼつかない足取りで、一万人の亡者は黒い眼をフリュギアに向ける。赤い瞳をらんらんと敵意に輝かせて進軍を開始。

 

 死した者が動き出した。つまり彼らは屍人(ゾンビ)となった。

 理由は複雑である。複合的な要因から、彼らはクリロノミアを通してヴェルバーに汚染されてしまったのだ。

 

「マアンナ、掃除して! 一斉掃射!」

 

 オリュンポス十二機神はヴェルバー03に倒された。β汚染されればヴェルバーの尖兵となってしまう。それを避けるべくオリュンポス十二神霊はどこかへ姿を消した。しかし機神の残骸にある機神髄液(クリロノミア)の技術は、ガイアと結託したヴェルバーの手に渡ってしまい、オリュンポス十二機神のクリロノミアはβ汚染された。

 β汚染されたクリロノミアは、ベータ・クリロノミアとも呼ばれる。今や汚染されていないクリロノミアは存在しないと考えられているため、単にクリロノミアと呼ぶことが多い。

 全てのギガースはベータ・クリロノミアで強化されている。そしてギガースが攻撃を受けて流血すると、血に交じって散乱したベータ・クリロノミアは気化して周囲を包み込む。気化ベータ・クリロノミアを吸い込んだ生き物は、生命力と精神力が弱まるほど汚染されやすくなる。死骸ともなれば抵抗できるはずもないため、クリロノミアは死体を強制的に蘇生させて侵(・)略(・)の(・)役(・)割(・)を(・)引(・)き(・)継(・)が(・)せ(・)る(・)。

 

 このようにしてユーラシア大陸の西域と北アフリカ大陸にまたがる人類は、オリュンポス十二機神の技術を奪ったティターン系列艦隊とヴェルバーの脅威に晒されて大敗を喫した。人類側の神霊の力を借りなければ無尽蔵に被害が拡大する。そのため人間の時代は、もはや終わりを告げていた。目には目、歯には歯。神霊と遊星の尖兵には、同じく神霊とそれに匹敵する英霊が必要である。

 

 故に現在は、第二次ティタノマキアが勃発中であるといえる。人間の出る幕はない。しかし機神の残骸を利用して栄えた屈強の帝国ヒッタイトはなんとか善戦している。それ以外の国は抗うことさえできず、今ギガースに攻められれば一瞬で滅ぼされるだろう。

 

「よし、掃除終わり! まったく、こういう時こそ冠位英霊(グランドクラス)の出番だと思うんだけど……まぁ人類悪(ビースト)なんて出てないわけだから、このまま剪定かな~。あちこちではぐれサーヴァントが召喚されてるみたいだけど、ベータ・クリロノミアに汚染されてたり、そもそも勝てないからやる気なかったり……ったく抑止力も、せめてヘラクレスとか召喚しなさいよ! ティタノマキアといえばヘラクレスでしょ! こう……グランドバーサーカー! ヘラクレス・イーコール! 的な感じで、一気にズババーン! とやっちゃってくれないかしら?」

 

 ないものねだりは心の贅肉かもしれない。

 金星の女神ことイシュタルは、重いため息をついて今度こそ、東方のヒッタイト帝国に飛び去って行った。

 

 その反対側の黒海からは、新たに製造されたギガースが100体、アナトリア半島の西岸から上陸して、ゆっくりと進撃を再開している。

 

          §

 

 先ほどの戦場から北東部へ数キロ先に、今なお生き残っているフリュギア王国がある。

 

 各地の神話を編纂する女神・神霊キュベレイが城主を務めており、霊格情報はキャスターに近い。

 以前はキュベレイの秘書官に、フリュギア王ゴルディアスが仕えていたが、今は訳あって退役しており、代わりに次期国王のミダス王が秘書官の任を務めている。

 

 神霊キュベレイは、王国地下の書庫から出てこない。王国の全体に強力な結界を張って、大抵のギガースの攻撃なら耐えられる防御力を誇っている。しばしばヒッタイト神話の神霊と交信しており、ギガースに攻められれば結界で時間を稼ぎながら、救援要請を出してヒッタイト人の軍隊にギガースを殲滅してもらう。ただし、完全に鎖国して王国の内側に閉じこもっているフリュギアが、ヒッタイト側になんらかの報酬を提示できるのか? その問題解決に適した人材がいた。

 

 黄金王ミダス。土着神デュオニュッソスから黄(・)金(・)を(・)生(・)み(・)出(・)す(・)諸(・)手(・)を賜った人間の男性。魔術世界ではミダス・タッチと呼ばれる力は、この特異点では聖(・)杯(・)に(・)類(・)す(・)る(・)力(・)として備わっている。つまり触れたものを黄金に変える手であり、それを無尽蔵の魔力(第五真説要素)にも変換できる。故にキュベレイは神霊として持つ無限の魔力以上に、ミダス王の資源変換能力を借りて結界の持続力を強化し、その余剰分を黄金に変えて同盟国ヒッタイトに提供している。

 なお黄金や魔力に変えるための資源はどこからきているかというと、フリュギアの地下に直(・)接(・)広(・)が(・)る(・)冥界の大地そのものを借り受けている。つまり、この特異点においてミダス王は、すでに何度も冥界下りを成し遂げている。フリュギア神話における冥界は黄金世界となっており、アステカ神話に伝わる恐怖冥界(シバルバー)とは真逆の様相を呈している。

 

 ────余談だがミダス王とは『王様の耳はロバの耳』で有名な王様その人であり、この特異点においては反(・)省(・)し(・)た(・)の(・)に(・)呪(・)い(・)が(・)か(・)か(・)っ(・)た(・)ま(・)ま(・)である。

 おのれアポロン。おっさんのケモ耳しかもロバ耳とか誰得なんだ。もう男の娘ショタ期間は終わってイイ歳になったんだからさっさと呪いを解いてくれ。お願いだから。……とはミダス王の独り言として、フリュギア王国中に生える黄金の葦(あし)が、ぺちゃくちゃとよくしゃべっている。基本的にミダス王の発言は、全て葦が喋ってしまう呪いに歪曲しているようだ。そのため最初こそ寡黙に徹していたが、もはや世界終焉間近で恥も外聞もないと開き直ったのか、厚顔無恥を装う言動果断な壮年男性のフリをしている。おそらくも何も十中八九、最もこの国で一番苦労している王様といえよう。誰が言ったか苦労王ミダス────

 

 このようにして、奈落ゆえ底(・)の(・)な(・)い(・)性(・)質(・)を活かした永久循環サイクルを閃き、永続的な同盟関係の確立を果たして、フリュギア王国の延命を成し遂げた賢王がいた。彼こそは────

 封神王ゴルディアス。彼が玉座を降りた理由は、単純に求心力を失ったためである。フリュギアの国民は、この時代の人間としてはごく一般的だ。戦闘員は全て戦死しており、非戦闘員が絶望に沈んだ状態で秒読みの滅亡を指折り数えている。毎朝毎晩、真昼であっても神霊キュベレイを崇めており、一時は絶望に狂乱した国民が『人の王なぞ何の役に立つか偉そうに』と一揆を起こし、暴動が起きた。

 危うく殺されかけたゴルディアス王も、絶望する民の意見に賛同して許した。もはや各地の神々同士で争う世(・)界(・)神(・)話(・)大(・)戦(・)となった昨今、人間にできることなどたかが知れている。たかがレンガを積み上げるだけの行いも、やらない理由にはならないが……自らのカリスマでは民の心を救えぬと判断。自ら前線に立つため、自分より有(・)能(・)な(・)能(・)力(・)を(・)持(・)つ(・)人(・)間(・)の(・)王(・)に後進を譲った。その王こそミダスその人である。触れたものを黄金に変える力。魔術を使うことで黄金を膨大な魔力に分解変換する力。それは爆発的な求心力として、分かりやすい王の威光として、なんとか民の心を一つにまとめることができた。

 では、自ら姿を消した無(・)能(・)王(・)ゴルディアス王は、今どこで何をしているのか? それは神霊キュベレイやミダス王さえ知らない。

 

「おねがいだ! 中に入れてくれー!」

「子供だけでも!」

「おなかすいたよー! えーん!」

 

 フリュギア王国の正門前では、滅ぼされた諸外国の数少ない生き残りの人間たちが難(・)民(・)として詰め寄っていた。今日も新たに訪れた数十人に登る難民は、正門に張られた神霊キュベレイの結界を叩いて訴え続ける。

 

 それでもミダス王は唇を噛み切る思いで、難民の入国を許すわけにはいかない。なぜなら難民の中に、ベータ・クリロノミアで蘇生したゾ(・)ン(・)ビ(・)が(・)ま(・)ぎ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)可(・)能(・)性(・)が(・)高(・)い(・)。識別の方法は無く、知恵の神々が研究中だが、一向に解析できていない。そのため難民を受け入れた他国は、ゾンビの侵入を許して滅びたとの報告がいくつもある。さながら遊星の尖兵が用いるトロイの木馬だ。

 かといって入国を許さずその場で死なれては、結界をすり抜けて王国内に感染する恐れがある。そのためミダス王が生み出した黄金を、キュベレイが錬金術と似て非なる魔術で水や食べ物に変換し、餓死は避けさせている。だが王国周辺は戦いの連続で荒廃しており、様々な魔獣の群れが闊歩して生存競争を続けている。そういった魔獣に襲われて死ぬ難民も多数いる。そのたび魔獣や死骸もろとも、速やかにキュベレイが滅ぼしている。現状、王国内に感染者は見受けられない。どうやら素早い対応が感染防止につながるようだ。

 

「……悲惨だな。猿もここまでくれば、もはや飢えた害虫の群れだ」

 

 赤鎧を着た男は、絶滅に恐慌して貧困にあえぐ数百人の難民を見て、そうつぶやく。

 男の足元をとたとたと歩くいろはちゃんは、男の右足の後ろから「ちらっ?」と人間の大集団を目撃する。マメ丸も、あまりの人の多さに驚いていた。みんな何かに怯えている。まさか怖い存在が近くにいるのだろうか。

 

「……おまつり?」

「ワフ?」

「似たようなものだ。さて、このあたりで『キュベレイ』と神言を唱えてみろ。厳密には単なる請求だが、食べ物と水をくれる」

「? きゅべれー!」

 

 いろはちゃんは両手を上げて『請求』とやらをしてみた。すると目の上から突然、一個の金塊が降ってきた。重く地面に激突したかと思えば、ゴロゴロと転がっていく。

 

「……これ、いし! きん! たべりゃれない! かんでないよっっ!!」(怒)

「ワフ!?」

「よく見ろ。黄金の形をしたコッペパンだ。かじってみればいい」

「……こっぺぱん?」

「ワフン?!」

 

 マメ丸は、そんなことありえるのかと目を見張る。くんくんと嗅いでみる。たしかにパンのにおいがする。どこからどう見ても金属なのに、どうやら食べられるようだ。少しかじってみる。

 

「あーだめー! かほいってたー! まめはまめのたべものしかだめー! きゅべれー! どっぐふーどー!」

 

 次の瞬間、マメ丸の頭上に大量の金つぶが雨のように降ってきた。

 ゴロゴロと頭に当たって痛い。

 

「ワンッ!? ワンワン!」

「おー。ごめんね。よしよし。たべるか!」

「わん!」

 

 口に入れてみる。パンの味。ジャムがほしい。

 

「きゅべれー! じゃむー!」

 

 しばらく待つも、何も落ちてこない。どうやらパンしか出せないらしい。

 仕方ない。いろはちゃんは黄金のパンをちぎって、となりの男に差し出す。

 

「……なんのつもりだ」

「おなかすいたー」

「それはお前だろう。俺は腹が空かない。神だからな」

「? たべて~」

「…………」

 

 いろはちゃんはつま先立ちを繰り返して、男の手にパンの破片を握らせようと、てしてし、てしてしと右ひざに押し付ける。

 やがて男は観念したのか、赤い手甲の指先でパンのかけらをもらい、それを黒い光で取り込んだ。

 

「……? たべたの?」

「微々たるものだが、黄金の聖杯の魔力片は味わっておいて損はない。そう判断したまでだ」

「おいしかった?」

「のどは通していない。味など知らん」

「あらそう。いろはもねー。じゃむがほしー! いちごじゃむー! おれんじじゃむはそのままたべるー!」

 

 かくしていろはちゃんとマメ丸と赤鎧の男は、その地で一日を過ごすことになる。

 

          §

 

 アルファ・メドゥーサ・源為朝の三人は、山林を抜け、山岳を越え、道中でヒッタイト人のゾンビ部隊と死闘を繰り広げ、夜を明かした洞窟を抜けて平地を歩き、ようやくフリュギア王国に辿り着いた。そう思ったら、正門の手前で打ちひしがれている難民の大集団と遭遇する。いったいどうしたのか話を聞いて、大体の事情を把握した。

 

「なるほど。さっき戦ったゾンビかー。こりゃ王国内にゃ入れそうにねぇな。──キャスタークラスが欲しい」

「……急になんです?」

「意味を所望。マスターの軍略は常に的確である。敵屍人と遭遇時、我らサーヴァントを後方支援に置いて自ら最前線に立った時は愚将と案じた。されど指示に従えば完全無欠の包囲殲滅を以て、我が一射で戦局を終結させた。ライダーに至っては包囲を手助けしたのみ。おかげで魔力消費を極限まで削減できた」

 

 アルファは、なんと生身のまま、かつ素手で、ヒッタイト人のゾンビ集団を相手取った。まさしく徒手空拳で神鉄製の武器・兵器に立ち向かったアルファは、合気道の要領で紙一重の死線を潜り抜け続けた。

 メドゥーサには宝具(ベルレフォーン)によるペガサスの追加装甲(アーマークラス)を用いた敵騎兵の足止めを依頼。

 源為朝には遠方に下がってから、合図に合わせた弾雨による狙撃を依頼。

 ゾンビに囲まれて、攻撃をいなし、躱すアルファは武器の軌道や敵陣の動き方を見切り、ゾンビの足を引っかけて転ばす、腹を蹴り飛ばすなどして、居てほしい位置に誘導。合図を叫ぶ。源為朝の弾雨が射られる。源為朝の射撃の腕前もあるが、それはあまりにも頭(・)部(・)を(・)射(・)抜(・)き(・)や(・)す(・)い(・)陣(・)取(・)り(・)だった。全てのゾンビの頭部を貫通して破壊。たった一度の攻撃で、メドゥーサが引き付けていた騎兵まで仕留めてしまった。それは確かに源為朝の功績なのだが、どこからどう見ても人間であるアルファの導(・)線(・)なくして、このような勝利はありえない。3ウェーブの戦いを1ターンで終わらせたようなものだ。ショートカットが過ぎる。

 

 いったいどれほどの研鑽を積み、いかなる『真なる心眼』を養えば……どこを切り取っても凡骨の才能しか見受けられない凡人が、これほどの傑物に化けるのか。

 

「そうかい。陣地作成スキルあるだろ? あれ使えば避難キャンプとか作れるかな~? って」

「……私も魔術の心得はありますが、結界のほうは命を奪い取る方向性なので……」

「無念。自らの性能の少なさを痛感」

「んな落ち込むなって。マザーAIの報告によれば、そろそろ無茶な連中が来る。ほら、あそこだ」続けてアルファは、腰に手を当てて言った。「──さて、お前ら……」

 

          §

 

 小宮果穂とボイジャー、篠澤広とチャールズ・バベッジは、山林を抜け、山岳を越えたはいいが、ヒッタイト人のゾンビ部隊や魔獣の群れに追い掛け回されていた。

 漆黒のバイクに跨った小宮果穂はハンドルを握り、篠澤広が相乗りする。ボイジャーはスイングバイで空を飛び、バベッジは蒸気機関による蒸気放出で浮上。戦闘の心得がないチームなので、常に敵前逃亡が最善手であると判断している。マザーAIからは念話でアルファとの合流を急かされており、それに従って北東部に進み続けていた。が、度重なる襲撃で最短ルートから外れてしまうことが多く、アルファとは異なるルートでフリュギア王国に向かっていた。

 

 途中、大気圏で戦闘していた戦闘機が撃墜されたのか地表近くまで落下。それでもまだ飛べる能力は残っていたのか、小宮果穂たちを認識した途端、低空飛行で攻撃開始。機関銃のビームを躱しつつ平原を疾走する。すると逃げた先に廃墟同然の集落があり、なんと戦災に遭った人々が住んでいた。戦闘機の掃射攻撃で廃墟が崩れていく。このままでは戦闘に巻き込んでしまう。可及的速やかに集落を抜けて、どこまでも追いかけてくる戦闘機を迎え撃った。

 篠澤広は地上に降りて、バベッジに守られる。小宮果穂はバイクで空を駆けて、集落を気にしながら戦闘機とドッグファイト。ボイジャーはスイングバイで戦闘機の機動力を奪い、小宮果穂のピンチを助ける。それを見ていた篠澤広が作戦を閃く。念話で説明。

 小宮果穂は囮役として戦闘機を引き付ける。ドッグファイトの中で最適の状況が訪れた瞬間、篠澤広が「今!」と合図を叫ぶ。小宮果穂と戦闘機は真っ向から激突するギリギリですれ違い、相乗りしていたボイジャーがスイングバイで戦闘機の機動力を奪い、自分ひいては小宮果穂と漆黒のバイクに奪った機動力を割り振る。戦闘機より素早く旋回してバイクから飛び降りたふたりは、戦闘機の背中をライダーキック。地表近くに叩き落としたところを、飛び上がっていたバベッジの機関ハンマーで爆砕した。

 

 小宮果穂は住人に謝罪。しかし住人たちは感謝して、無理を張った笑顔で応援する。『もう人類は滅びるだろうが、ひとりでも立ち向かってくれる人がいるなら、それだけで勇気が出る』と。それは諦めからくる達観だった。世界神話大戦。確かに人間からすれば絶望的だ。普通の世界大戦でも地獄を見るのに、それが外宇宙を含めた神々の──テクスチャを越えた──戦争に発展したのだ。神代の人間には、神代特有の価値基準が存在する。そんな彼らでさえ、いや、彼らだからこそ、神々同士の争いに人の出る幕はない事をよく知っているのだろう。

 

 そして小宮果穂たちは、住人たちがまだ滅びていないと聞き及ぶフリュギア王国に避難したいものの、途上に生息する魔獣の群れが怖くて動けないでいたことを知る。行き先は同じなのだから、なんとかして送り届けることはできないものか。しかし逃げてばかりの現在では見殺しすることになる、と篠澤広が現実を教える。だからこそ作戦を考えよう、と続けた。

 

 キャスタークラスには道具作成スキルがある。バベッジのそれは魔術品の作成ではなく蒸気機関の発明となるが、敵の攻撃を躱すデコイを量産できれば、逃げてばかりでも守り切れるかもしれない。そのためには材料が必要。資源集めのついでに、魔獣の調査にも向かう。小宮果穂たちは、集落の人々から聞いた地に赴き、魔獣と戦闘。これを追い返す。近くのティターン系列艦隊の残骸から資源を回収して、集落に帰還。一夜かけて使い魔ヘルタースケルターを量産した。

 

 朝が来る。ヘルタースケルターを警護用として最適化し、集落の人々と平地を歩いてフリュギア王国に向かう。

 

 かくして小宮果穂一行・アルファ一行・いろは一行の三陣営は、一日かけてひとところに集まることができた。

 

          §

 

 ちなみに神代の魔力濃度は濃すぎる。そのため現代の人間は、神代の魔力に触れた途端、五体が弾け飛ぶ。文字通りの爆死である。故にマザーAIの異能によって、アルファといろはちゃんは守られているが、小宮果穂とマメ丸・篠澤広には神霊系サーヴァントが宿っているため、その必要はなさそうだった。しかし万が一、突として疑似サーヴァント化が解かれた時のため、常に神代の魔力に耐える結界は張り続けておく。

 

          §

 

 二日目の昼間。

 小宮果穂一行は難民の大集団と合流。集落の住人に感謝されるが、すぐに王国側が受け入れを拒否している理由を知って、人々の安全が確保されていない状況を憂う。そこにアルファが現れた。

 

「──さて、お前ら……もし無事に生きて帰ることができたら、色々と言いたいことがある……」

 

 アルファは怒っていた。明らかに怒り心頭といったご様子。片方のまぶたがぴくぴくとけいれんしている。

 小宮果穂は、お母さんが叱る時と似ている、と思った。心配を隠し切れない、心配だからこその怒髪衝天。それをなんとか冷静に抑えて、理性的に教え導こうとしている。かなり我慢している。いつ怒鳴られるか分からなくて怖い。

 これには篠澤広も、何を言いたいのかは全て分かるため、しゅんとしてしまう。

 

 それでも。

 ────それでも役に立ちたいと思ったのだ。

 

「ちなみに、小(・)さ(・)い(・)俺(・)もこのあたりにいるらしい。ライダーに捜してもらっている」

 

 噂をすれば影が差す。ペガサスで上空を飛び回っていたメドゥーサは、王国の中を観察するかたわら、特徴に合う三歳児とシバイヌを捜索していた。すると明らかな神霊たる赤鎧の男のとなりに、その子供と小犬のペアが寝転んでいるではないか。赤鎧の男と視線が合う。神霊に目を向けられるだけでも、下手すれば即死級の呪いをかけられる。メドゥーサは慌てて急下降。アルファのそばに降り立つ。

 

「見つけました。しかし……」

 

 相手が神霊でも会うしかない。さっそく小宮果穂たちは駆けつける。

 

「……! ワン! ワンワン!」

「? ……! おー、かほー!」

 

 行方不明だったマメ丸といろはちゃんとの合流をついに果たす。

 小宮果穂は、一緒にいた赤い仮面の男が面倒を見てくれたのだと察して、深々とお辞儀。感謝した。

 

「あのっ! いろはちゃんとマメ丸のことを見ててくれたんですよね!? 本当にありがとうございますっ!」

「……星見台の連中では、ないのだな」

「──え?」

「なんにせよ、これで気苦労が減った。一日中くだらん遊びに付き合わされたんだ。子守はきちんとしておけ」

「は、はい! ご、ごめんなさい……っ!」

 

 アルファは思う。この世界の神霊が、一日とはいえ子供の面倒なんて見れるものだろうか?

 ギリシャ神話の神々は人間臭い逸話があることで有名だが、アナトリア半島の神話群はまた別だろう。しかし、ほとんどのアナトリア神話群は、後年ギリシャ神話に吸収されてしまった。そしてこの世界では、過去とは流動的なものである。現代のアナトリアがギリシャ神話の影響を多分に受けているのであれば、その流れを汲んで、非常に人間臭い神霊が居てもおかしくはない。

 アルファは問いかける。

 

「失礼ですが、御身の神の名を拝聴しても?」

「……俺に名はない。強いて言うなら無貌の神だ」

「えっ。まさかのクトゥルフ案件っすか!」

「外宇宙のことか? キュベレイが話していたな。……俺の場合は単に《忘れ去られた神》というだけだ」

「…………」

 

 やはり赤鎧の男は、アナトリア神話群に連なる神霊のようだ。

 キュベレイはアナトリア半島由来の土着神としてギリシャ神話に習合されたことで有名である。メドゥーサも元はアナトリア半島に由来する土着神だった説もあるほどだ。そういった神々は、名前や特徴がそれなりに判明している。だが中には伝承を失った神霊は数え切れないほどいる。たとえ主神級であっても例外ではない。故に彼もまた、ほとんどの伝承を忘れられたことで、神格を失った一柱なのだろう。

 

「たのもー!」

 

 その時、フリュギア王国の正門前で、女性の大声が怒鳴られた。

 

「我が名はヘカテー! さっさと中に入れろバカモーン! 年長者は敬えと知らんのかオタンコナスが! ブチ殺すぞキュベレイ!!」

 

          §

 

 アルファたちは、ヘカテーを名乗る女性を目撃した。橙色の長髪を後ろで一つ結びにまとめている。丸い眼鏡をかけており、口にはなぜか現代風の煙草を咥えていた。服装は古代ギリシャ風で、女神のごとし神々しい衣装をまとっている。もし彼女に妹がいれば、その妹は蒼(あか)い髪をしていそうな面構えである。

 

「ライダー。あれは?」

「どう見ても神霊……ですね。サーヴァントや疑似サーヴァントのたぐいではありません」

 

 どうやら本物の神霊ヘカテーのようだ。

 小宮果穂と篠澤広は問いかける。ヘカテーとはどういう神様なのかと。

 

「一言でいえば────ギ(・)リ(・)シ(・)ャ(・)神(・)話(・)の(・)中(・)で(・)最(・)強(・)に(・)近(・)い(・)女(・)神(・)」

 

 どういう意味か。最強というなら、ギリシャ神話の中ではゼウスが思い浮かぶ。ほかには、ヘラクレスオオカブトやアキレス腱の名前もギリシャ神話が由来だと聞いたことがある。つまりヘラクレスやアキレウスも、ここまで有名なら強いのではなかろうか。

 

「それは最強っていうより有名どころの名前を引っ張ってきてるだけだろ。いや最強だけども。……まずヘラクレスとアキレウスは神霊じゃない。どっちも神霊に格上げされてもいいくらいだが……それよりも」

 

 アルファたちの世界では、女神ヘカテーはギガントマキアにおいて、なんと名有り(ネームド)のギガースを松(・)明(・)で(・)叩(・)き(・)殺(・)し(・)た(・)という逸話を誇る。それがこの世界において、本当にただの松明だったのかどうかはさておき。ちなみにエクスカリバーは松明で例えられることもある。無関係な豆知識かもしれないが。

 しかして女神ヘカテーはアナトリア西部の土着神であり、無敵の女王と謳われた最強女神である。魔術神として魔女キルケーや魔女メディアを弟子に持ち、月女神や冥府神の側面も併せ持つ。故に霊格情報を紐解けばキャスターだけでなく、アーチャーやランサー、アルターエゴの適性までありそうだ。

 

「もし協力してくれるならめっちゃ頼もしいんだけど……無礼を働いたら叩き殺されそうでちょっと怖いな……」

 

 ゾンビ集団を相手に飛び込んだアルファでも、最強女神ヘカテーに対しては恐れを抱く。それでも虎口に飛び込まねば始まらない。アルファは当初の予定を実行に移す。正門前に移動して、ヘカテーのかたわらに並び立ち、フリュギア王国に直談判する。

 

「あのー! こちらも、たのもー!! 王国の中には入れなくてもいいんで、ブートキャンプの設営程度の許可は欲しいでーす! あと飯を貰っておいてなんですが、多少でいいので魔力的な支援物資もお願いしゃーっす! フリュギアにはミダス王がいるので、鎖国していても資源は潤沢のはずでしょー? そこらへんどうか、よろしくお願いしまーす! あと信頼を得るためにもなんか依頼くださーい! 割となんでもやりまーす! 魔力資源の対価はそれでもよろしいですよ~! んじゃ、ほんとよろしくお願いしまぁああああっす!!」

 

 アルファは深々とお辞儀する。となりに立つヘカテーは目を丸くしていた。次いでアルファは面を上げると、悪気のなさそうな笑顔で言い切った。

 

「まぁ許可が取れなくても、勝手に建てるんですけどネ! ブートキャンプ!」

 

          §

 

 神霊ヘカテーは見抜いた。となりで無邪気に笑う少年は、この世界の人間ではない。どうやら抑止力が呼び寄せた兵器のようだ。外宇宙に対しては外世界といったところか。まったくガイアもアラヤも罪なことをする。

 

「……貴様、名前は」

「アルファと言います! ヘカテー様!」

「そう畏まるな。松明で叩き殺したりしない」

「あれー!? もしや耳がめっちゃ良いのでー!?」

「私の名の由来を知らんのか。遠(・)く(・)ま(・)で(・)耳(・)が(・)届(・)く(・)者(・)だ」

 

 嘘である。部分的に嘘である。冗談を言っておちゃらけたヘカテーは自らくすくすと笑う。どうやらかなり付き合いやすい人格のようす。本来の人理ではどうかは知らないが、この特異点だけの性格であっても非常に助かる。さっそくアルファは親睦を深めつつ交渉を始めた。

 

「実は俺たち、これから難民のためにブートキャンプの設営を行おうと思いまして。そちらは何か用事でも?」

「私も難民でね。カリアの地(テクスチャ)が滅んだので、はるばる来てみれば門前払い(これ)だ。私でよければ手伝うよ。そうしてほしいって顔してるし」

「そんな割とあっさり!? っしゃあ! マジでありがとうございますっ! んじゃ、こっちから何かしら指示してもよろしいでしょうか?」

「ああ。構わんよ。これでも受けた仕事はきちんとこなす職人気質でね」

「ならギガントマキアで、ギガース退治も一体まで、という契約だったり?」

「その話はナー。……あれはゼウスの報酬が芳しくなくてね。ヘラクレスに懸けていたんだろう。誰しも自分の秘蔵っ子はかわいいと思うもんだ。私にも弟子がいたから分かるとも。どいつもこいつも出来損ないだったがね」

 

 相手の逸話と絡めた会話術で急接近するアルファだが、それは諸刃の剣でもある。どこに地雷が埋まっているか分からない。だがそれもエスパーじみた読心術で躱していき、一気に距離を縮める。それからバベッジに声をかけてブートキャンプの設営計画を伝えることに。

 

「えーっと、色々とお流れになっていたが、まずは自己紹介だな。俺はアルファだ。別の世界から来た。かくかくしかじかで────そちらは、果穂のフォーリナーと、篠澤さんのキャスターか。何卒このバカふたりをよろしくお願いしまっす! ……で、みんな真名は明かさなくていい。秘匿すべき情報だ。その上で連携に使えるスキルは明かしていこう。互いの戦術性の理解を深めて、戦略の精密さとチーム戦の練度を上げるためだ」

 

 一同は自己紹介を挟む。

 すると小宮果穂が気づいた。いろはちゃんがいなくなっている。マメ丸もいなくなっている。どうやらまた脱走した模様。しかしすぐに「ただいまー!」という声が聞こえてきた。一同は振り返ると、そこには別れたはずの赤鎧の男を連れていた。

 

「おい、引っ張るな……なぜ俺を呼ぶ……」

「すわってたから! つまんなそう!」

「……余計なお世話だ……」

 

 赤鎧の男は、露骨にヘカテーと小宮果穂から視線を逸らす。

 それを気にせず、不意にヘカテーが言った。一方の小宮果穂は「?」と首をひねる。今なんだか赤い鎧の男の人から、目を逸らされたような気がしたのだ。

 

「ん。サバージオスじゃないか。トラキアの多重人格柱(アルターエゴ・インフィニット)がなぜここに?」

 

 サバージオス。その名はアルファも知らない。マイナーすぎるのだ。ただし、すぐにマザーAIがネット検索をかけて教えてくれる。トラキアの主神サバージオスは、黒い右手に様々なシンボルを集めた偶像が特徴的で、それ以外に目立った情報は少ない。騎乗神でありながら杖を使った異名が残されている程度。故に霊格情報から類推するに、ライダーやキャスターのクラス適性が高い模様。

 

「……別に。色々あったんだ。この子ザルのせいでな」

「おとなざるはおねえちゃんによわい?」

「ちょっと黙ってろ」

 

 いろはちゃんはブーブーと言ってほっぺたを膨らませながら、サバージオスの鎧の足にしがみつく。どうやらなついたようす。あるいは鎧がひんやりしていて心地よいのかもしれない。現状の気温は夏に近いためだ。

 そこで神霊ヘカテーが問いかける。

 

「忘却の神殿から出るなんて珍しいな色男。キュベレイと私とエポナに挟まれてタジタジと見える。さすが騎乗神の名は伊達ではないな。そういう意味だったか」

「……」

「おいおいなんか返せよ。これじゃあ私が陰険な女としていじめてるように見えるじゃないか」

「現にいじめられている」

「プライドは捨てたのか!? いじめられていることを認めるなんて……マイナーも極まると神格(人格)が安定しないのか? もっと自分を持ったほうがいいぞ」

「アイデンティティが千日手のお前にだけは言われたくないな……」

 

 アルファやメドゥーサは感じ取る。今の掛け合いは、明らかに男女のやり取りのそれである。だが、さっぱりさばさばした愛人関係のそれに近い。

 

「というか、はるか未来ではゴルディアス王とアレキサンダー大王のロマンス(おかげ)で多少は有名になっていると助言したろうに。何を以て運命に逆らおうとしている?」

「お前の未来視なぞ当てにはしない。俺は俺の意(・)思(・)でここにいる。これからもしたいことをする。……俺を見定めたいなら、その高貴なる眼で観るだけでなく、実際に俺の背中がどう映るのか視ているがいい」

「……ほう。意思を司る神(わたし)の前で意(・)思(・)を示し、意志を語るか。イイ度胸だ。ゼウスの雷霆(らいてい)も使えないトラキア神話の主神のくせに。そうやって息巻いて、せいぜい下の杖でも振るってろ」

「殺すぞ」

「お、やるか? 楽園に逃げたゼウスに強制接続されて習合したお前にはおあつらえ向きだから松明も使うぞ? 杖と合わせて要るか? ん? 今まで下の杖の雷霆で何人の女神を痺れさせてきた? ほら言ってみろよオラ」

「悪いが身に覚えがない。逸話が無いんでな」

 

 不良じみた最強女神のメンチを切る重圧と、仮面の奥底から感じられる天空神としての大気圧。

 神霊同士の視線がバチバチとぶつかって地震が起きる。そして驚くべきことに、本当に地割れが起きた。あちこちで難民たちの悲鳴が上がる。

 

 冥界に落ちそうになった小宮果穂の両脇をボイジャーが掴んで浮遊する。転んだ篠澤広はバベッジの大きな機械の手で支えてもらい、蒸気噴射、急浮上、緊急避難。メドゥーサはペガサスに乗って逃走、神々の痴話げんかはゴメン極まる。腕を組む源為朝は仁王立ちで様子を見守っていた。いろはちゃんとマメ丸はサバージオスの足元にいるため、踏ん張るだけで問題ない。

 

 アルファも、ヘカテーのすぐとなりに立っていたので地割れに落ちる心配はない。そして腕を組みながら仁王立ちで姿勢を崩さず、目を閉じて苦笑。呆れ声でお願いした。

 

「あのー……今ここで神々の喧嘩が勃発してしまいますと、もれなく周囲が皆殺しにされますので、どうかご勘弁を~。それよりブートキャンプの設営、手伝ってくれません? 神霊サバージオス」

「……なぜ俺が……」

「おや。たかが人間に呼び捨てにされたのに『不敬だぞ』とは言い返さない。これはつまりヘカテーさん?」

 

 パスをもらったヘカテーは気分を良くして、サバージオスのことを滔々(とうとう)と語る。

 ちなみに両者のぶつかり合う視線は鳴りを潜めており、神々の視線はアルファに向けられていた。下手を打てば視線だけで呪い殺される状況である。されどアルファは泰然と振る舞う。心を強く持つ。

 

「ああ。神のプライドは強く持っているがね。信仰を集めていない落ちぶれた神霊の自尊心なぞその程度さ。だが黎明期の頃はブイブイ言わせてたんだぜ? 空飛ぶ戦車で諸地方の女神をデートに誘い、それはもう浮き名をブンブンと。さながらモテまくってしまうオデュッセウスのように」

「なるほどー。ではサバージオスのことがよく分かったついでに、設営の説明を始めますね~」

 

 すかさずサバージオスは右手を掲げて待ったをかけた。

 

「まて。色々と誤解がある。俺はキュベレイひと筋だ。ほかの女神を戦車に乗せたのは彼女たちが困っていたからで────いや、たしかに伝承を失った身(かみ)としては、具体的にどう困っていたのかは俺自身にも不明だが……頼む、誤解だ。信じてくれ。本当にこれだけは言える。────誤(・)解(・)だ(・)」

 

 雪のようにしみわたる語調で、玲瓏快活と弁明するサバージオスはさておき。

 アルファは話を戻して、キャンプ地の設営を取り仕切った。

 

          §

 

 ブートキャンプ完成によって、一行は難民に感謝される。

 するとフリュギア王国から基地設営の報酬として、依頼のスクロールを張り出す掲示板が設けられた。

 

 依頼一覧────『レト退治』『残骸回収』『β抗体回収』

 

 三つの依頼は、すべてキュベレイが提示したもの。

 それぞれの依頼内容について、一行は相談する。

 

 レト退治とは、β汚染された神霊・女神レトが近隣にいるため退治せよ、というもの。

 神霊と戦うため一筋縄ではいかない。

 

 残骸回収とは、大気圏で戦闘する戦闘機の墜落残骸を回収せよ、というもの。隕石のように降り注ぐ残骸の群れは、テュフォンの素体と呼ばれる代物もあり、フリュギア王国と高値で取引できる。しかしアルファは売るよりも使いたいと考える。せっかくメカ系の源為朝やチャールズ・バベッジがいるのだ。女神ヘカテーの力を借りれば、彼らの霊基を改造することは簡単だ。

「面白そうな事を考えるじゃないか」

 女神ヘカテーは小手先の創作が好きなのか意外と乗り気。源為朝とバベッジは反応に困る。今のままで完成されているというプライドと、改造しなければ神霊に勝てない現実という清濁を併せ呑むことで、すべてマスターの意思に任せる方針を取る。

 ちなみに、この時代においてまだテュフォンは誕生していない。それなのにテュフォンの知識を有するサバージオスやヘカテーは、いわゆる神霊ゆえ時間軸の概念に囚われていないのだとか。あるいは、千里眼によるものか。あるいは、テュフォンとは新旧複数存在するのだとか。なんとも曖昧に濁してくる。だがそれは今回の本題ではない。

 

 β抗体回収とは、メディオイ王国に退避したオリュンポス十二神霊からソレを回収せよ、とのこと。なおサバージオスは疾うの昔にゼウスと習合しているらしく、既に抗体持ち。だが本場の抗体が欲しいため、サバージオスの抗体ではダメらしい。それにサバージオスも、抗体回収のため自分の体を提供し、実験体となる必要があるため、それは避けたいと話す。それにはヘカテーも同意しており「神霊キュベレイのまな板の上に乗るのは自殺行為だ」と笑いながら語る。

 

 かくして一行は傭兵稼業を開始。その前に目的を確認する。

 

 アルファたちの最終目的は、元の世界に帰還してゲートを破壊・閉鎖すること。

 その前段階の理想目的は、困ってる人を助けること。これは特異点解決も含まれる。

 

 その二つの目的を達成するため、当面の目標は『残骸回収』の依頼を受ける。理由はリソース確保のため。残骸を集めて依頼報酬と交換し、ブートキャンプの強化を行う。現状の基地は、ただ居住区を用意しただけの簡易的なものであるため、可及的速やかに防衛設備を用意したい。バベッジのスキルによって、ヘルタースケルターという最低限の防衛戦力は設けているが、それでも心もとない。

 そして余分な材料は、ほとんどを源為朝の霊基改造に回す。一部はバベッジの霊基補強に回す。ヘカテーの簡易検査によれば、源為朝はギリシャ系のテクノロジーと謎の親和性があり適性は高めで、バベッジは特定の幻想から生じた蒸気機関のため適性は低め。つまり源為朝の霊基は改造に耐えるが、バベッジの霊基は改造に耐えられないため補強する程度が最適と判明する。

 

 さっそく一行は冒険に繰り出す。王国周辺から離れるだけで、ヒッタイト人やギガース、低空飛行する戦闘機や魔獣の群れなど、魔境が広がる。それらを倒しつつ、より多くの残骸が墜落する場所を巡り、おびただしい数の遺物を回収。残骸輸送のため、ライダークラスの騎乗宝具と紐で結び、王国まで引きずって運ぶ。

 

 依頼達成。(一個目の)聖杯の雫をもらう。まさかの報酬に一同びっくり。最終目的は達成したも同然だが、やはり理想目的を完遂したい。すなわち特異点の修正である。

 

 夜。

 アルファとヘカテーは協力して、源為朝の霊基を改造する。

 バベッジは聖杯の雫を使い、大量のヘルタースケルターや防衛装置を作成。さっそく魔獣の群れや低級神霊の襲来を撃退して、難民に感謝される。だが感謝するだけで守られてばかりでは危険だ。この世界の一般人は簡単な魔術ならいくらでも使える。そのため魔獣や神霊に破壊された防壁を、自分たちで修理するべきだ。修理法をバベッジが伝授することで、難民は自ら率先して防衛を務めるようになる。絶対神霊戦線である。

 小宮果穂と篠澤広は、アルファに頼まれて、難民たちへの聞き込みを始める。難民たちの話を聞くと『魔力資源を巡り、あちこちの遺跡や神殿で強奪騒ぎが頻発している』ことを知る。真偽のほどは不明だが、とにかくこの世界の人間たちは生き残ることに必死で、あちこちで山賊や盗賊となり、互いに略奪を繰り返していることが分かった。荒んだ世界を平和に戻すためには、やはり世界神話大戦を終結させるしかない。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 翌朝。

 さっそく一行は作戦会議の末に『レト退治』の依頼を引き受ける。

 

 神霊レトの居場所は、近隣に位置する森林最奥の泉。そこは稀に、超抜級の魔力炉心がポンと自然に生み出される、強力な霊脈地でもある。別名、霊脈泉(れいみゃくせん)。

 

 その泉には、たしかに神霊レトが水浴びをしていた。本体ではなく端末体ゆえ、黒衣を羽織る美女の姿。慈愛の微笑を目にしたアルファは違和感を抱く。敵意が存在しないのだ。

 

 そこへ二騎の十二機英(ガーディアン・サーヴァント)が降り立つ。泉のある森の上空を哨戒中で、しばらくアルファたちを見守っていた。真名はメカエリちゃん1号とメカエリちゃん2号である。彼女たちはアポロンとアルテミスの機神英霊に選ばれて、本特異点に召喚されていることを語る。先日、サバージオスといろはちゃんとマメ丸を襲った、アテナの機神英霊たる巴御前のように。

 

 戦闘開始。二騎が持つアポロンとアルテミスのクリロノミアはβ(ベータ)汚染されているため、長期間かつ多連続した接触は禁物。故に最強女神のヘカテーが超抜級の防護結界を張ってくれるが、それすらいともたやすく浸蝕するほどβ汚染は強力だった。

 

 そこでサバージオスが出る。本来の彼はヘカテーと遜色ない神格を有する神霊。先日、巴御前〔アテナ〕を倒して模造神体結界を獲得した経緯もありβ汚染に対して抗体持ち。されど信仰心を持たない神格は物理的に弱い。サバージオスは二騎相手に押され気味となる。

 

 アルファたちは連携して一斉に襲いかかっているが、なぜか全員の攻撃が当たらない。敵二騎は圧倒的な回避性能を誇っている。サバージオスとヘカテーがいくら必殺級の攻撃を放っても躱されてしまう。理由を考察。

 

 アルファとヘカテーは戦況を整理して攻略法を閃く。サバージオスに指揮を任せ、小宮果穂&ボイジャーにメカエリちゃん1号を、篠澤広&バベッジにメカエリちゃん2号を食い止めてもらい、そのあいだにアルファ&メドゥーサが神霊レトに突貫。源為朝は宝具による援護射撃で突貫を支援。そのようにアルファが命じる。

 するとヘカテーは松明を作成してアルファに持たせた。「君は神殺しを成した経験があるようだね」ひょんなヘカテーの一言。過去を見抜かれたアルファは彼女の千里眼に驚きつつ、ヘカテーの言わんとすることを理解する。

 

 ────その松明(ランパス)は、神殺しに最適だよ。

 

 アルファは松明(ランパス)を装備。次いで『騎英の手綱(ベルレフォーン)』と『昇華・弓張月(しょうか・ゆみはりづき)』を以て、神霊レトの土砂砲撃とも言うべき迎撃機能を蹴散らす。土砂砲撃によってペガサスのアーマークラスがみるみる削られていく。

 

 無論、レト殺しを封じるべく、メカエリちゃんたちは宝具開放。アルファたちの邪魔はさせないと小宮果穂〔エポナ〕と篠澤広〔ショロトル〕も宝具開放。繰り出されるは『太陽神β浸蝕(アポロンベータ)・鋼鉄天空魔嬢(ブレストゼロ・エリジェーベト)』『月女神β抗体(アルテミスベータ)・鋼鉄天空魔嬢(ブレストゼロ・エリジェーベト)』『天下無双の太陽天使(てんかむそうのサンエンジェル)』『火雷怪犬(アホロートル)』────以上、四種宝具の激突は森林を焼き払う。

 

 そしてペガサスに騎乗するアルファ&メドゥーサが敵神霊の胸部装甲に迫った瞬間、源為朝の『昇華・弓張月』が敵の急所位置と思われる箇所に命中。その嚆矢(こうし)は威力を大幅に落とす代わり、着弾地点に痕跡を残し、次弾の命中率を上げる誘導効果が期待できる。今回はその誘導効果を、アルファが受け取った。

 神霊レトは背部から緊急回避機能(アフターバーナー)を展開。刹那、アルファは松明を聖剣のように振り上げて「λνπσ(ランパス)」と詠唱。それは対城宝具を凌ぐ超抜級の魔術礼装『疑似雷霆/空間破砕(ランパス)』として発動した。

 松明の穂先に燃える炎のような超重粒子は、嚆矢めがけて急速圧縮、対象(対称)空間を混ぜ込んだ直後、極光が世界を支配した。一拍遅れて轟撃の爆音が鳴り響いた瞬間、ペガサスに跨るアルファとメドゥーサは、神霊レトの胴体を貫通して抜き去っていた。

 

 神霊レトの全身がやたらめったらに轢断されている。されどヘカテーの魔術操作によって神核を引き裂くことは避けた。それはアルファの命令である。なぜならアルファは神霊レトの顔を見て敵意がない事を見抜いていた。その上で殺してほしいことを見抜いていた。理由は単純明快。β汚染で自我崩壊を引き起こしつつあり、機神の矜持としてヴェルバーに敗北することは許されなかった。

 

 神霊レトの死亡を以て戦局は変化。メカエリちゃんたちに攻撃が命中するようになる。実は二騎の恐るべき回避性能は神霊レトの加護によるものだった。戦況整理の際、アルファとヘカテーは互いに考察して、そのことに気づいた。すなわちオリュンポス十二機神における神霊レトの本来の役割は『探査防衛艦レト』だったのだ。

 レトは脅威的なレーダー能力を有する。それはゲームで例えれば『味方全員に、回避(100回)7ターン』という効果を付与するような代物である。しかし神霊レト本体に、その効果は適用されない。さらに探査中は身動きが取れないため、併設された迎撃(カウンター)機能で迎え撃つしかない。その隙を突く。というより、ゴリ押しでこじ開けるしかなかった。

 

 護衛対象を失ったメカエリちゃんたちは撤退を開始。無論、ここで逃せばヴェルバーの大軍が報復として攻め込んでくることは容易に予想できる。遅かれ早かれの話だが、まだヴェルバーの大軍と真っ向勝負するには戦力不足。故に、ここで仕留める。仕留められなければ死、あるのみ(ゲームオーバー)だ。

 

 女神ヘカテーは走る。多種多様の魔術を神言ひとつで瞬発行使。レトの神骸(しんがい)に触れてβ汚染を除去。神骸を探査用の霊基に改造して、源為朝に投げ渡す。その行動は、あらかじめアルファに命令されている内容通りのものだった。

 探査用礼装レトを受け取った源為朝は、自らの霊基に追加武装(アタッチメント)を霊着(ミスティックシンク)。すると探査礼装にレトの残留思念が宿っており、本女神の由来を知ることになる。

 

 曰く。

 

 黒衣女神レト(レートー)の起源は、小アジアのカーリア地方で崇拝されていた大女神ラダ(ラーダー)にあるとされる。

 おそらく大女神ラダは、地球由来の土着神だったのだろう。

 やがてオリュンポス十二機神が地球に着地して、探査防衛艦レトの端末体たる黒衣女神レトの信仰がメインとなっていき、大女神ラダはそれに習合されていったのだろう。余談だが、その習合結果として黒衣女神レトもまたカーリア地方で主に崇拝されており、のちにクレタ島をはじめとするエーゲ海に信仰が広まった。

 その習合の論拠に、クレタ島東部における古都は『ラトの都』と呼ばれていた。大女神ラダと黒衣女神レトとを組み合わせた語源だったのかもしれない。

 さらに第二論拠として、ギリシャ神話における絶世の美女ヘレネーがいる。その母親の名はレ(・)ダ(・)(レ(・)ー(・)ダ(・)ー(・))であり、こちらも黒衣女神レトと大女神ラダの名を借り受けたものと考えられている。

 

 そして神話において、黒衣女神レトは、太陽神アポロンと月女神アルテミスの双柱を産み落とした。

 すなわち黒衣の女神とは、陽月の太母である。

 

 故、本特異点の歪められた歴史において────

 大女神ラダは、オリュンポス十二機神の探査防衛艦レトのクリロノミアを受け入れて、黒衣女神レトに変生あるいは、端末体たる黒衣女神レトを出産した。ここまでは正史通りだろう。

 その後、遊星の襲撃に遭い、β汚染を受けた黒衣女神レトは、双柱の端末体を製造する(産み落とす)前に死亡。神霊化。

 そしてアナトリア半島の極西南部(カーリア地方)から中北部(フリュギア地方)への長い旅の末、β汚染を通じてヴェルバーの操縦者(黒幕)に下された命令を強制受理。霊脈地にて英霊召喚を実行。アポロンとアルテミスに照応する二騎の英霊型端末体(メカエリちゃんたち)を胎盤に降霊してβ汚染させたあと出産した。

 さらにメカエリちゃんたちが哨戒ついでに集める機神の残骸を用いて真体の復元まで行い始めた。背部のアフターバーナーはその復元産物のひとつだろう。迎撃機能に用いていたバリスタのような土砂砲撃も同様だ。それを見抜いた最強女神のヘカテーの助言を以て、アルファは本作戦を命じた。それは神霊(ラダ)と神霊(レト)と幻霊(レダ)の言霊的融合実験とも言う。

 

 すなわち『探査幻霊(レーダー)の博打(バクチ)召喚』である。

 

 故に。

 

 源為朝は改造の末に可能となった霊基再臨を実行。第二段階目の外装を黒(・)く(・)纏(・)う(・)。

 白衣から再臨した黒衣の源為朝は、アルファとヘカテーの魔術的な言霊理論を用いて、自らと黒衣女神レトの照応を深めていく。その行く末に得るものは、誰もが今、空想したことだ。

 

 改めて大女神ラダと黒衣女神レトの起源を想起し、魔術的に再習合、ラーダーとレートーすなわちレーダー。

 なおアルファ曰く『ラートーになっても、それはそれでラドン(ラードーン)に繋げるから大丈夫』とのこと。ラドンとは黄金の林檎を守る百の頭を持つ竜、すなわち怪物である。何も大丈夫ではない。そんなものと融合したくないため、源為朝はレーダーとの霊着を願っていた。

 

 その祈りは届く。

 

 探査礼装は、弓兵・源為朝の観測手(スポッター)を務めるべく稼動を開始。

 

「英雄・源為朝。あなたに私達(ラダ/レト)というレーダー兵器を託します」

 

 レトは神格を魔術的雷霆に轢断されたことで、神霊から精霊に零落している。

 それでもレトの情報処理能力は、あらゆる魔術礼装の二十七段階上位に位置する。

 

 かくして探査(レーダー)礼装の指示のもと、源為朝は剛弓を番(つが)えて弦(げん)を引く。

 

「目標二騎。敵霊基捕捉。かたや真名『メイガス・エイジス・エリザベート・チャンネル』……かたや真名『メイガス・エイジス・エリザベート・チャンネルⅡ』……照準万全、星間時空断層的必中効果付与、亜種並列空間的撃墜準備万全、太脈始動(いつでも)」

「探査援護(レーダーサポート)感謝する。……剛弓、第二再臨段階に移行。太母(たいぼ)臘月収斂(ろうげつしゅうれん)、重複(ちょうふく)形態変化。燦然(さんぜん)たる黒き月光を放ち、我が鏑矢(かぶらや)は月の起源(はは)に至る。ツクヨミ式レーダー型リボルビングキャノン────『国威轟沈・弓張月(こくいごうちん・ゆみはりづき)』────発射ッッ!!」

 

 対艦宝具はアルファとヘカテーによる魔改造の末、対国宝具に匹敵する神秘を伴い、黒き極光は射出された。

 黒く光る尾を引く槍のごとし極矢は、天空を超音速で駆け抜ける赤と鋼の二騎に追いすがり、現代の戦闘機も真っ青な空中旋回軌道(マニューバ)を描いて標的との距離を縮めていく。

 

 その様子を見上げる源為朝は剛弓を下ろした。

 『中(あた)った』と確信したのだ。

 

 刹那。天空にて真紅と鋼鉄の大爆発が巻き起こる。

 赤と銀の火花散らす黒き爆煙は雲居を切り裂いた。

 

 

【挿絵表示】

 〔紅銀の撃墜〕

 

「標的撃沈確認」探査礼装レーダーが決着を告げる。

「────勝利条件達成。凱旋を推奨する」黒衣 源為朝は排気音を轟かせつつ内部冷却に入った。

 

          §

 

 夜。ブートキャンプに帰還。

 知識女神キュベレイに依頼達成を報告。報酬は、やはり聖杯の雫だった。

 

 二個目の聖杯の雫を獲得。

 さっそく合理の鬼アルファと最強女神ヘカテーは、霊基改造研究所を建設。バベッジ専用の霊基改修工房、源為朝専用の霊基改造工房、メドゥーサ専用の霊基改造工房を併設した。

 

「ちょっと待ってください……私に何をするつもりですか?」

 

 メドゥーサは怖気がして後ずさる。自分はメカ系ではない。元は土着の女神だ。

 しかし、その土着の女神もクリロノミアを受け入れてメカ系に変生してきた。大女神ラダが良い例だ。それと似たように、たとえばメカゴルゴーンとか良いのでは? などとヘカテーは冗談を言って笑う。メドゥーサの友好度が低下。無論、アルファはメドゥーサの嫌がる事をする気はない。今はまだメドゥーサに適合する素材もないため改修も不可能。いずれ、その気になれば受けてほしい、という意味で前もって建設・提案したに過ぎない。

 

 するとメドゥーサは「海神系のクリロノミアだけは死んでもゴメンこうむりますので、そのおつもりで」と釘を刺した。すると小宮果穂は「海の神様はダメなんですか?」と純朴に問いかける。メドゥーサと海神系の話は、かなりキワどい話になるため、すぐにアルファが「広。別室で果穂と、メドゥーサの逸話について調べてくれ。勉強会だ」とアイコンタクト。篠澤広もメドゥーサの逸話はあまり知らないが、何やら意味深なアイコンタクトを察してこくりとうなずき、小宮果穂と共に別室に移動。

 メドゥーサは気を回されたことで複雑そうだが、たしかに純粋な子供に聞かせるような話ではない。そのため、ほうぼうに配慮してくれたアルファに「……ありがとうございます」と感謝した。メドゥーサの友好度が少し向上した。

 

 その後、一同は就寝する。

 レト退治で疲れ切った心身と霊基を癒すためだ。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 翌朝。

 

 最強女神ヘカテーは、源為朝の探査礼装『レーダー』の調整をしていた。

 その様子をアルファが見に行く。するとヘカテーは講釈を垂れてくれた。

 

 ギリシャ神話には『逆ハー妃(きさき)レダ』という逸話が存在する。

 

 半ば嘘である。その名付け方(逆ハーレムの王妃)はヘカテーによる諧謔(ユーモア)であり、実際のところは『レダと白鳥』という題名が適当だろう。そのように源為朝が訂正する。

 

 この逆ハー妃レダは先に語った通り、絶世美女ヘレネーの母親である。人間の王(テュンダレオス)と神々の王(ゼウス)との間に四人の英雄と美女を産んだ。その中でも際立った逸話こそ『レダと白鳥』である。

 

「まず妃レダは、スパルタ王テュンダレオスの妻だった。レダ自身も絶世の美女であり、ゼウスは白鳥に変身して夜這いを仕掛けた。その際レダは、ゼウスの存在が夫テュンダレオスにバレないよう、自分の脇の下に白鳥を隠した。その末、レダとゼウスの間にヘレネーとポルクスの姉妹が生まれた」

 

 それがどうしたのか。

 源為朝の両脇下部には、白鳥のような白い翼があしらわれていた。

 

「その逸話を『伝承補正』として魔術的に利用させてもらい、『黒鳥礼装(レーダー)』として仕立て上げた」

 

 その効果は、北欧神話における大神オーディンが手がけた『白鳥礼装(スヴァンフヴィート)』を参考にしてパ(・)ク(・)っ(・)た(・)とのこと。

 それから最強女神にして至高の魔術女神ヘカテーは、黒鳥礼装の概要について滔々と語り始める。

 

「だが、ただパクったわけではないぞ? 為朝に適した特別仕様にしてみせた! まずスヴァンフヴィートの能力を分解して一言で解説しよう。それは『飛行』『高速機動』『精神干渉系無効化』『Bランク相当の物理ダメージ遮断』『体型不変』といったものだ!

 それで、まずは飛行能力を加えようとしたが、実を言うと為朝には適さない。霊基情報過多となり霊基自壊を起こす危険性が高い。対策として、元から為朝の機能として備え付けられていた『肩部マイクロブースターと小型の多方向ノズル』『背部メインブースターの魔力噴射ノズルとプラズマ式魔力噴射機構』『胸部慣性制御機構とそれに準ずる重力制御結界』『背部内蔵の小型式多方向スラスター』『腰部内蔵スラスター』『脚甲内蔵の可動式ベクターノズル』『複合装甲の外層に位置する抗魔力コーティングと内層に位置する衝撃吸収ゲル』等に限定して強化する方向性で神秘を固着した。すると霊基が『敏捷Bランク』から『敏捷Aランク』に向上した。

 高速機動能力も類似する部位・機構に固着成功。主に『脚甲ベクターブースターのホバリング機構』『メインブースターの双ノズル』を強化して戦闘軌道を補強。主に急旋回や急停止、方向転換や回避行動、ほか跳躍力の強化を施した。すると霊基が『敏捷Aランク』から『敏捷A+ランク』に向上した。

 次いで精神干渉系無効化と物理被弾削減能力を取り付けたら、霊基更新が入って『勇猛』と『頑健』の神秘残滓が構成開始され、それが混ざり合い一瞬『不屈の意志』の神秘残留が発揮されたが、それはもとより既存の保有スキル『不屈の弓射:Bランク』に昇華する前の具象(カタチ)であるため、すぐさま巧く融合し、適合完了。つまり保有スキルは『不屈の弓射:Aランク』へと更新された。

 そんなわけで気分はどうだ? 為朝。朝日差し込む静謐なる泉に、美しき白鳥がゆったりと着水したかのような夢心地だろう!」

 

 源為朝は勇猛に応える。

 

「戦術性の鋭敏を確認。企画設計者アルファと魔術改修業者ヘカテーに莫大なる感謝を。音響ユニット起動」

 

 何やら楽しげな音楽が流れ始める。どうやら源為朝は小躍りするほど喜んでいるらしい。たぶん。

 

「マスター・アルファ。我が機構の改称を推奨する」

「はい?」

「本機は日の本の機械武士(もののふ)であるが、これほどまで他国の技術設計が入り込めば混血児(ハーフ)となる。故、新しくコードネームを決めたい。決めてくれ」

「あー……別に構いませんけど……もしかして今までより強くなって、ちょっとテンション上がってます?」

「私は平常運転である。……平常運転である」

 

 そういうことならとアルファとヘカテーと源為朝は遊び始める。否、良い命名を考え始める。

 

 まずは機構の区分と概要が必要だろう。

 

    区分 :    旧称     :機能概要

   推進主機:背部メインブースター :短時間で最大水力を発生、急加速・急上昇・突撃用。

  補助推進機:背部補助スラスター  :全方位の姿勢制御・ホバリング維持。

 安定化推進機:腰部スラスター    :低高度での安定浮遊、射撃時の姿勢保持。

  瞬発推進機:脚部ベクターブースター:急制動・急旋回・ジャンプ強化。

 微調整推進機:肩部マイクロブースター:射撃・宝具発動時の反動相殺。

   中枢制御:慣性制御システム   :慣性軽減・衝撃吸収・空中静止精度向上。パイルドライブフットロック。

    動力炉:メカニカル魔力炉心  :全推進系・武装系への魔力供給。バスターアローシステム。

    索敵系:探査システム+探査礼装(レーダー):光学・魔力波・熱源探知による高精度索敵。

    武装系:弓型エネルギー兵装  :高出力魔力射撃、物理矢+魔力矢の併用。

 

 そして旧称から改称する。

 

《第一再臨段階:標準運用Ver.》 ※再臨名:覇導戦機(ハドウセンキ)・源式壱型(ミナモトシキイチガタ)

    区分 : 新コードネーム

   推進主機:赫焔推進炉(スカーレット・インパルサー)

  補助推進機:多軸姿勢制御噴射機(オムニ・スラスト)

 安定化推進機:重心安定噴射機(グラビティ・スタビライザ)

  瞬発推進機:衝撃反転噴射機(インパクト・ベクター)

 微調整推進機:反動制御噴射機(りコイル・バランサー)

   中枢制御:重力慣性制御核(グラビティ・インターロック)

    動力炉:魔力圧縮炉(ファンタズム・コンデンサー)

    索敵系:多層波動探知機(マルチスペクトラム・スキャナー)in黒衣探査礼装(レーダー)

    武装系:神威弓装(カムイ・アーク)

 

《第二再臨段階:強化戦闘型》 ※再臨名:天衝覇鎧(アマツ・インペリアル)

    区分 : 新コードネーム

   推進主機:天衝推進炉(アマツ・インパルサー)

  補助推進機:天翼姿勢制御(セレスティアル・スラスト)

 安定化推進機:天衝安定機(アマツ・スタビライザ)

  瞬発推進機:天衝反転機(アマツ・ベクター)

 微調整推進機:天衝反動制御機(アマツ・バランサー)

   中枢制御:天衝慣性核(アマツ・インターロック)

    動力炉:天威衝魔力炉(アマツ・コンデンサー)

    索敵系:天眼波動探知機(セレスティアル・スキャナー)in黒鳥礼装(レーダー)

    武装系:天威破神弓(アマツ・アーク)

 

 

 

 ……。

 

 

 

 朝食後、アルファは今日の予定を話す。

 

「今日は二つのチームに分かれて仕事をこなす。俺たちは『β抗体回収』で、果穂と広は二回目の『残骸回収』だ」

 

 その理由は、アルファが請け負う任務が危険極まりない旅路になるが、残骸回収ならば既に一度やって勝手が分かっている。サバージオスの手助けがあれば無事に完遂できるだろう。ついでに長旅となるため難民キャンプの防衛要員も残す必要がある。そのためのチーム分けである。

 しかし小宮果穂と篠澤広は同行すると言い張る。その論拠に篠澤広の宝具は、まさに死の危険を乗り越えるためのもの。キャンプの防衛はバベッジとヘルタースケルターと、二つ目の聖杯の雫で強化した絶対神霊戦線の迎撃装置で充分。そうやって二人は必死に説得する。

 

 そこでサバージオスが言った。

 

「俺はガキ(サル)のお守りなどせんぞ。俺は『β抗体回収』の班に回せ」

 

 神霊サバージオスによる、まさかの援護射撃。アルファはサバージオスが小宮果穂・マメ丸・篠澤広・いろはを守る、という想定で話を進めていたために、この流れはアルファに分が悪い。サバージオスが護衛を放棄するなら、先ほど篠澤広が口にした案が現実味を帯びてくる。アルファは問いかけた。

 

「分かった分かった。ただサバージオス。理由を聞かせてくれ」

「……そっちのほうが冒(・)険(・)ら(・)し(・)い(・)」

 

 アルファは片眉を上げる。

 ヘカテーはくつくつと微笑む。

 

 どうやら素材集めの周回より、遠出する冒険のほうがサバージオスの好みらしい。

 神霊サバージオスの性格が分かってきたアルファは、なるほどこれは最初から無理な頼みだったのだと得心する。

 

「よっし! そうとくりゃ行きも帰りも楽しい冒険にしよう! メドゥーサ! 広にベルレフォーンの宝具を貸してくれ! ペガサスじゃ全員は乗れない。だが広のアホロートルは一軒家より巨大だ。全員が背中に乗れる。ただしアホロートルは制御不能の怪物。しかもピンチになれば逃げ出す小物。それは神霊レトとの戦いでも分かっていたことだ。そのためベルレフォーンという手綱宝具で行動を縛り、無理やり言うことを聞かせる。そうすればチームの機動力・行軍力が飛躍的に上がり、数週間の旅路が数日程度に短縮できる。これで文句はないな!?」

 

 一同、異論なし。むしろさっきより素晴らしい提案となっていた。

 そして小宮果穂は、やはりアルファさんはスゴいと瞳を輝かせる。こういうリーダーシップを発揮できる中学生になりたいものだ。

 

 さっそく出立の準備に取り掛かる。

 そこでアルファはバベッジに、余裕があれば少しでもいいから『残骸回収』の仕事を果たしてほしいと頼む。既にその任務は達成しているため、報酬は聖杯の雫より少ないはず。だが報酬は少ないどころか無くても良いのだ。機神の残骸そのものが、こちらの重要なリソースとなる。その話の詳細を聞いたバベッジは了解した。もし余力があればリソースを集めて、いずれ来たる『第二次ギガントマキア』に備えよう、と……それは口にするだけで恐ろしい、終焉滅亡待ったなしの抗神戦争計画だった。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 東方遠征開始。アナトリア半島の中部から様々な地形・大河を渡河していく。

 計画としては、まずフリュギア王国の首都ゴルディオンから、アナトリア高原・アルメニア高地・ザグロス山脈を越える長い道程の中で、サカリヤ川(サンガリオス)・ハリュス大河(クズルウルマク)・エウフラテス川(ユーフラテス)・アラス川(アラクス川)・ザブ川などを越えて、ようやくメディオイ王国に到着する。

 

 道中、様々な敵性エネミーと遭遇した。

 野生の魔獣。金獅子ウガル・赤銅獅子ウリディンム・灼熱獣ウシュムガル・黄金竜バシュム・毒蛇ムシュフシュ・ゴースト系・魔猪系・合成獣キメラ・源透竜ワイバーンオリジン・魔黒竜ワイバーンエビル・弩赤竜ワイバーンドレッド・飛緑竜ワイバーン・海魔ムシュマッヘ・センネンヤドカリ・ドクヤドカリ・オオヤドカリ。

 ギガース種。竜体戦闘機Gタイプ・遊星巨人体Vタイプ。

 遠征中のオリュンポス軍。オリュンポス兵・対人殲滅装置・広域殲滅兵器・舵輪犬ケルベロス・水晶土塊兵クリスタルゴーレム・紅玉土塊兵ルビーゴーレム・源銀大蛇オリジンヒュドラ・源銀女怪オリジンキメラ・源銀合成獣オリジンキメラ・獅鷲蛇スフィンクス。

 

 それらを蹴散らし、全員が野営に慣れてきた頃、メディオイ王国の首都エクバタナに到着。

 聞き込み調査をすると、どうやら通常のメディオイ王国とは異なる模様。そもそも汎人類史において神代にメディオイ王国(メディア王国)は存在しない。その上で何が尋常ではないのか。それは「私達の王様はサーヴァントなんだよ」という国民のセリフで一目瞭然だった。

 

 さっそくアルファは異邦人として王宮の門をたたく。最強女神ヘカテーの付き人であれば、王様との謁見が許されると判断してのこと。するとメディオイ王は、アルファたちの到来を予期していたのか、遠方からの念話を使って衛兵の警戒を解き、謁見の間に通す。

 

 そこには意外な人物がいた。

 

「いらっしゃいませ、我が師匠ヘカテーとそのお客人。改めて、サーヴァント・キャスター。真名をメディア。──……今、国の名前と似てるから召喚されたと思ったでしょ。遺憾ながらその通りよ……まったくっ」

 

 そうなのか! とヘカテーは腹を抱えて笑う。隣に立つアルファは言霊を大事にするが、まさしく言霊とは侮ってはならない代物のようだと講釈する。

 その時、メディアの隣に立つ黄金の鎧を着た男が口を開いた。

 

「あー……俺も自己紹介していいか? ────我が名はライダー・アキレウス! 召喚された理由は……ま、女王様に聞いてくれ」

「楽園の悲鳴に呼ばれてきたの。有り体に言えば抑止力ね。そのために此処メディオイ王国は『楽園化』が進んでいる。本来、メディオイ王国は紀元前七百年頃ごろに存在する。つまりこの時代には存在しない王国。だからこの国の存在自体が虚偽でゆめまぼろし。そしてメディオイ王国の後継国家はアケメネス朝ペルシア。あとは分かる?」

 

 色々と察したアルファが回答する。

 

「魔女メディアは楽園エリュシオンの地を治めた。一説にはアキレウスと結婚したとも。そしてエリュシオンは世界の西の果てにあり、オケアノスの海流の近くに有る島。ちょうどメディオイ王国もイ(・)ラ(・)ン(・)高(・)原(・)の(・)西(・)果(・)て(・)に位置する。オケアノスに当てはまる地理はないが……この人物的・地理的の照応によって、メ(・)デ(・)ィ(・)ア(・)が(・)メ(・)デ(・)ィ(・)オ(・)イ(・)王(・)国(・)を(・)建(・)設(・)し(・)た(・)と(・)い(・)う(・)異(・)聞(・)が、この地に誕生した」

「あら、及第点。でも惜しい。オケアノスは存在する」

「? ……──っッ!?」

「あなた本当に察しがいいわね。ええそう、あるのよ……ついでに、あなたたちが欲しがっている抗体も、その場所に」

 

 アルファは青ざめる。

 小宮果穂は心配する。篠澤広は問いかける。

 

「アルファさん……?」

「どうしたの、アルファ……顔色が私より悪い……」

 

 そこでヘカテーは千里眼で何かを察したのか、驚いたように語る。

 

「ほう。貴様(アルファ)、既(・)に(・)地(・)獄(・)を(・)巡(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)あ(・)る(・)のか? さすがに二度目の地獄巡りは嫌か。それもそうだな」

「ヘカテー、それは、どういうことなのかしら?」

 

 ボイジャーが問いかける。宇宙にしか行ったことがないボイジャーには興味深い話題だった様子。

 

「説明してやろう、未来の果ての申し子よ。──楽園エリュシオンは西果(さいは)てではなく地下にあるとされ、冥府神ハデスの管理下にある。そしてハデスは冥府や楽園など多種多様な他界を統治しているため、単柱では管理が大変だ。そこで聡明なるラダマンテュス王に楽園の統治を任せたとされる。そして我が弟子メディアによれば、その地(・)下(・)に(・)あ(・)る(・)楽(・)園(・)の名称こそ、この特異点における────亡神円海地獄マカロネシア」

 

 本来、マカロネシアという地名は火山列島の総称でしかない。ただしその語源は楽園エリュシオンに由来している。

 そして魔術世界の神代において、冥府というのは地(・)下(・)に(・)直(・)接(・)存(・)在(・)す(・)る(・)世(・)界(・)である。つまり穴を掘っていけば冥府・地獄に落ちてしまうのだ。そういう世界観(テクスチャ)なのである。

 加えて本特異点において、円環を成す海流オケアノスに照応する陸(・)地(・)として、マカロネシアの地理条件が選ばれたと見える。

 

「これから地獄に降りて活火山をいくつも渡るのか……どうやら予想より長旅になってきたな。暑さとマグマで死なないよう防護服を用意しないと」

「それには及ばないわ師匠。既にこちらで用意しています」

「おや、準備がいいな。抑止力に召喚されて、やるべきことが見えていたか」

「なんとなく、ですけれど……それに、そもそもβ抗体がなければ世界滅亡は確定ですので、どのみち用意する予定でした」

 

 アルファは咳払いする。皆の注目が彼に集まる。

 

「おそらく冥界楽園エリュシオンには、ペルシア関連のサーヴァントが召喚されているはずだ。さっきメディアもわざわざペルシャに関して話題を出したし。──で、ここに来るまでメソポタミア文明圏の魔獣が多いと常々疑問に思っていた。確かに地理的にメソポタミア文明圏には近くなっているが、ここはまだギリギリ、アナトリア半島のテクスチャだろ。ヒッタイト人が侵略してきているといってもさすがに数が多い。いくらメディオイ人がギリシャだけでなくメソポタミアの歴史書にも記されているとはいえ……」

「慧眼ね。最古の英雄王を知っているかしら? 地理的に彼の後継王も召喚されて、マカロネシアのテクスチャに取り込まれた。私は統治者だからマカロネシアから地上のメディオイ王国に上がることができて、一応この戦うことしか能がない脳筋ライダーも私の夫ということにされているから楽園から外に出ることができる。だけど、かのペルシア王は楽園から外に出る権限がないから、ずっと地下冥界で戦っているわ」

「……だれと?」

 

 アルファは懸念する。

 メディアは溜め息をついた。

 

「知識女神キュベレイは慧眼ね。王国を結界で囲んで誰ひとり外様を許さない。だ(・)か(・)ら(・)ま(・)だ(・)国(・)民(・)は(・)誰(・)ひ(・)と(・)り(・)汚(・)染(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。でも楽園は命を終えた魂が舞い込む場所……いくら私でも、冥界から死者の魂を追い出すことはできなかった。さもないと地上は成仏できないゴーストだらけになって大変なことになる。かといって受け入れれば……ご想像の有様よ」

「まさか────β汚染された神々が殺されて、神霊化した魂もβ汚染されたまま、冥界楽園に向かって……っ!」

 

 これにはヘカテーも目を見開く。

 ならば冥界楽園地獄エリュシオンは、文字通りの地獄と化しているはずだ。

 

「しかもペルシャ王の宝具は、冥界・地獄・楽園とは相性が悪い。それでも冴え渡る軍略と潤沢な財宝で、劣勢ながらギリギリ瀕死を避けている。もし彼が倒されてしまえば、β汚染された神霊が地上進出を試みる。今回の黒幕も考えたものよね……抑止力によるメディオイ王国建設と楽園創造を視野に入れて、それを利用する腹積もりで策を進めていた……」

 

 敵は手強い。相当な策略家だ。

 アルファは歯噛みする。

 

「地上ギリシャと冥界ギリシャからの、神(・)代(・)挟(・)撃(・)作(・)戦(・)……」

「言い得て妙ね。それで? 脅かす気はないけど、まず生きて帰る見込みはない場所よ。それでも行く? このギリシャ最高峰を自称する大英雄も、逃げて帰ってきたみたいだし」

 

 それにアキレウスが即答で怒鳴り散らした。

 

「アァッ!? 誰が逃げてきたってェ!? 俺は地上守護を任されたんだ! バーサーカーは楽園守護を率先してる! ただの役割分担だろうが!」

「はいはい。たしかにあなたがいないと、うろちょろしてるギガースの侵入を許して、あっという間にこの国は陥落するわ」

「分かってんじゃねぇか……つーわけで、俺は同行することはできねぇ。わりぃな」

 

 かの大英雄の力添えは期待できない。いよいよ戦力差は絶望的になってきた。

 しかし、この地獄を越えることができなければ、黒幕を倒すことなど到底不可能だ。

 

「できる限りの準備をして行こう」

 

 アルファは、そう言うしかなかった。

 

 

 

           §

 

 

 

   異聞化特異点    人理定礎値EX

 

 B.C.6000 冥界楽園地獄 マカローン・ネーソイ

 

      ‐名だたる神戮者たち‐  

 

   

 

           §

 

 

 

 メディオイ王宮の客間。

 小宮果穂や篠澤広たちは、それぞれの寝室で休憩中。旅の疲れを癒していた。

 

 一方、全ての寝室と繋がる広間には、アルファ・ヘカテー・サバージオスの三者が集っていた。

 アルファはソファに座って黙々と思索しているようで、ヘカテーはあちこちに用意されていた菓子を頬張っており、サバージオスは腕を組みながら佇んで窓辺から風景を眺めていた。

 

 アルファは唐突に語りだす。

 

「逆に考えてみよう。明るく考えるんだ。地上で神を殺しても神霊となり冥界に来て。神霊を殺しても分霊化して冥界に来るなら。そもエリュシオンとは、神々の魂を駆逐するための場として抑止力が用意した、神戮(しんりく)空間である可能性はないか?」

「なるほどそれは面白い仮説だ。幼い子供が蟻(アリ)の行列の上で地団駄を踏むように、何を恐れることもなく神々を殺し尽くせる存在がいれば、もう少し説得力のある仮説だったのだが!」

 

 最強女神ヘカテーはあざ笑う。

 からかい半分、その存在がここにいるぞ? と残り半分を言いたげに、チラチラと合いの手を待っている。

 

 そこでサバージオスが、アルファの二の句を制した。

 

「相手するな。いくらヘカテーでも不可能だ」

「なんだと? 雷霆……食らわせてやろうか?」

「それはやめてくれ。一発で一柱を確殺できる。……だが連発はできない。──さて、アルファ(ニンゲン)、どうする? 人(サル)は知恵だけ達者だろう。あの少女ふたりも集めて、三人寄らば文殊(キュベレイ)の知恵にでも頼るか? 神が手を差し伸べてくれるかどうかは別としてな」

 

 サバージオスは、アルファを見定めるように煽る。

 

「そうだな。ではサバージオス、頼んだ」

「……なに?」

「だから、今アンタが最高の知恵を授けてくれたじゃないか。空気を読むに、サバージオスとキュベレイは夫婦なんだろ? なら、主婦の知恵とやらを借りたい」

「……俺だけフリュギアに戻れと?」

「そうじゃない。夫婦の絆で空間を飛び越えて、キュベレイの声をこっちに届かせてくれ。念話、テレパシーってやつだ。神霊ならできるだろ? 人間(サル)とは違って」

「…………貴様────」

 

 やり返されたサバージオス。

 それを見たヘカテーは腹を抱えて、ぷぎゃーと指差し笑い飛ばす。

 

「ハッハァー! それは傑作だ! 信仰を失ったせいで妻キュベレイのことを何も覚えていない甲斐性なしの元旦那が、いかにして昔の妻キュベレイに媚びるのか……見ものだなァ!」

「……覚えていろよ、お前たち……」

 

 実を言うとアルファは、マザーAIに頼めば遠隔通信能力でキュベレイと交信することは可能だったりする。相手が返答してくれればの話だが。

 それはヘカテーも同じだった。通話系の魔術で連絡をかければ、おそらくキュベレイは通話に出るだろう。ただしサバージオスと愛人関係だったのだ。嫉妬を買って、貴重な情報とともに死の呪いをうっかり送られても困る。

 

 そうなると白羽の矢が立つ相手は、当然────

 

「……俺しかいないのだろう……」

 

 ────そういうことだった。

 

 かくしてサバージオスは念話を送る。

 数秒経過。

 ふいにアルファが問いかけた。

 

「応答は?」

「……ちょっと黙れ」

「三柱寄らば文殊の知恵って言うし、サバージオス・キュベレイ・ヘカテーの三人で語るのはどう?」

「黙れ、と言ったはずだ」

 

 どうやら難航しているようす。

 そこでヘカテーがちょっかいを掛けに行こうとするが、さすがに今邪魔すればサバージオスが怒ることよりもキュベレイとの関係性が悪化するかもしれない。アルファはヘカテーを後ろから羽交い締めにして食い止める。ヘカテーは足をバタバタとさせて、自分もイタズラしたいと抵抗していた。

 

 やがて念話が終了したのか、サバージオスは重たそうに口を開く。仮面をかぶっているため口元は見えないのだが、なんとなく肩を落としているところから、そのように一人と一柱は感じていた。

 

「あー……キュベレイ曰く、その……俺もどういうことなのかは分からないが、ともかく『神霊戦隊』を頼れば良いそうだ」

『────なんて?』

 

 

 

 ……。

 

 

 

 翌朝。

 メディアの案内で、一行はエリュシオンへと続く地下階段を下りていく。背後の扉がメディアによって閉ざされる。階段の周囲は闇のように暗く、だんだんと夢の中にいるのではないかと錯覚してくる。だがここで夢に囚われてしまえば、地上とも楽園とも異なる空間で未来永劫、幽閉されることになる。そのためヘカテーが「気分をシャキっとさせる魔術をかけてやろう」と言って、精神干渉系を弾く防護魔術を一同に掛けた。

 

 やがて永遠に続くかと思われた階段を下りきると、周囲は洞窟の中に変わっており、奥に光が見える。洞窟を抜けると豪雨を受け、嵐の海がお目にかかれた。だだっ広い大海原は、あちこちに四つの諸島域が存在する。諸島内における活火山はそのほとんどが秒間噴火しており、轟音とともに溶岩を黒雲まで打ち上げ、天井の岩盤を打ち叩くように噴き上げていた。

 

「広。メドゥーサ。ヘカテー」

 

 アルファの指示通り、広はアホロートルを召喚。メドゥーサが騎英の手綱で御する。ヘカテーは水面歩行の魔術を一同に掛けた。

 全員は騎獣の背中に乗って、いざ地獄めぐりを始める。神霊戦隊の居場所も不明だが、ともかく近場の諸島を目指すことにした。騎獣は荒(・)れ(・)た(・)海(・)の(・)上(・)を疾走する。波(・)間は山登りのようで、登ったり飛び降りたり、騎乗者は船酔いもかくやの上下運動を浴びる。すかさずヘカテーは、目を回す篠澤広に船酔い防止の魔術をかけた。荒(・)波(・)を乗り越える移動は、それだけで過酷を極めるだろう。

 

 そこでアルファが言う。

 

「激戦区を探そう。敵は策謀家だ。情報戦に長けていると見た。なぜならメディアとアキレウスは、ペルシャ王の真名を一度も口にしなかった。そのおかげで難局を乗り切っていると見る。ならば、敵がとある地を狙っているということは、俺達が求めている物もそこにあるということだと考えるしかない。これは敵の能力の高さを信頼する探索の仕方だ。下手を打てば激戦区に自ら突っ込んで自滅することもある。それでもほかに手がない。時間をかければフリュギアも危ない」

 

 その作戦案については、あらかじめ聞かされて一同は納得している。

 では、なぜそれを今わざわざ口に出したのか。

 

 源為朝が黒衣を翻す。

 

「黒鳥礼装(レーダー)が傍受確認。逆探知開始。諜報者の真名────『ヘルメス・ヘイムダル』と看破」

 

 その名の恐ろしさを知る者は身の毛がよだつ。

 すかさずアルファは声を荒らげて、ヘカテーに叫んだ。

 

「ヘカテー! ヘルメスは!?」

「β汚染から逃げ切って死んだと聞いている!」

「なら味方か!? 盗聴理由は!」

「わからん! だが気配を消してくるのは確実だ、気をつけろ!」

「あとアーチャー、なんで北欧神話のヘイムダルも出てくる!?」

「誤謬確認。再探査。光神ヘイムダルは魔術式と看破。効力は『千里眼』である」

 

 北欧神話における光神ヘイムダルとは、数百キロメートル先まで見通す眼力と、草の伸びるわずかな音を聞き取る聴力を持つ。諜報活動には最適の能力である。故にヘルメスは、その神の名を冠する魔術を用いて、アルファたちの会話を盗聴していたのだろう。

 しかも恐ろしいことに、現在の地形戦においても完璧な神名である。なぜなら光神ヘイムダルは、九人の波(・)の乙女から生まれたとされる神格だ。さらに光神ヘイムダルはアザラシの姿で海中戦闘を行ったことがあり、その上で神ロキと格闘したことがある。

 

 すなわちヘルメスの気配遮断能力と、光神ヘイムダルにおける盗聴と波の親和性は抜群であり、おそらく『気配遮断A++』に匹敵する隠密行動と盗聴活動を可能としていた。

 それを見破ることができたのは、ひとえに黒鳥礼装(レーダー)の神秘が『気配感知A++』に匹敵する探査能力を保有していたおかげである。

 

 さて、そのヘルメスといえば、空を駆けるサンダルを有するが、姿を変える能力も有する。

 かの神の居場所は、天空か海中か。

 

 かくて荒波の渦中にて、静かなる女の声がささやく。

 アルファは内心で詠唱しつつ、アホロートルの毛を一本むしった。

 

「────『κυμπρηα(キュモポレイア)』────」

「俺は死ぬッ!! ──空を飛(と)っ」

 

 閃く白刃。

 

 刹那、アルファの予言通り、瞬発思考して空を飛べと命じようとした瞬間、アルファの首が刎ね飛んだ。宙を舞う生首。その眼球は血走りながら暗殺神ヘルメスの影を目で追う。着物姿の少女だった。どことなく見覚えがある。そして喉笛の筋肉は運良く無事で、あと一回だけ活きることができる。ならばと最後の息吹を吐き出した。

 

「広! 宝具をムダづかぃするなっ!!」

「────っ!?」

 

 篠澤広は蘇生宝具を使おうとした。

 アルファの何もない首から上に水泡が生じる。それが“パチンッ”と音を立てて弾かれた瞬間、泡の中からアルファの頭部が出現した。

 

 最強女神ヘカテーは感心したようにはしゃぎ出す。

 

「お、お前……異世界人のくせに、いつの間にどうやってこっちの魔術(ルール)を学習した!? それ神道の魔術基盤だろう! スゴいな! 今の時代に神道は無いはずだ、どうやって神道式に接続した!? やはり東洋人だから思想鍵紋(しそうけんもん)か! それにお前は水属性の魔術使いで、アホロートル(ショロトル)の語源は『水』そのものだ! その言葉遊びで類感の照応と神秘性を高めたか! さながら孫悟空の毛髪分身のように!」

「跳べメドゥーサ!! 変身させろ! 飛行形態だ! ──で、ンなこと話してる場合かッ!! そんなに見抜けるなら説明の必要ないだろ!! それでも知りたきゃ千里眼で勝手に見通してな!!」

 

 メドゥーサは手綱を奮って騎獣を天高く跳躍させる。アホロートルは変身能力を有するため『変化スキル』と同様の能力を使わせて翼を生やす。飛翔。黒雲から稲光。あまり近づくと落雷が直撃する可能性が高い。それでも海面に近づいたほうが死亡確率が高い。このまま雷雲スレスレを飛翔する。

 

「そうなるとサンダルを使ってくるよなァ! さぁ来いよ! どうした!? アァッ!!?」アルファは一度死にかけたことで興奮している。

「アーチャー、なぜ攻撃しないのです!?」メドゥーサが焦ったように問いかけた。

「気配は感じているが、偏(・)在(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。──マスター、指示を。全(・)て(・)の(・)波(・)を(・)射(・)抜(・)く(・)……さもなければ敵にダメージを与えられないと判断」

「このまま神霊戦隊を探す! 適宜気配が近づいたと判断したら適当に矢を射って周辺空間を薙げ!」

 

 源為朝は「承知!」と応じて剛弓を引く。毎秒数発のビーム砲撃じみた弾雨を放ち、アホロートルの周辺空間に光矢を乱れ打つ。その矢の旋回軌道は、さながら衛星のようだった。アホロートルを中心にして、台風のように弾雨が巡り巡っている。

 そこでヘカテーが楽しげに聞いた。

 

「なぁおい、なんで自分が殺されるって分かった!?」

「ちょっと『水』とは縁があってネ! 俺の大嫌いな属性だよッ!! だがほかの奴までは分からん! 各自警戒しろ!」

 

 アルファは運命(Fate)世界において、敵が水の概念を使うなら、ある程度は読(・)め(・)る(・)。

 そこでメドゥーサが叫んだ。

 

「前方、島を発見! 降りますか、マスター!」

「降りる! けど走り続けろ! 止まれば死ぬ! この地獄全土はヘルメスの絶殺空間だ! さっさと離れるぞ!! まずは陸地に逃げる!! そのほうがお前らもやりやすいだろう!」

「了解!」

 

 しかしヘルメスは、特に海において名高い神というわけではない。むしろ陸地のほうが得意だろう。だがそれは二本足で歩く存在だから、海と比べれば得意、という程度の意味合い。それならば英霊たちも──ボイジャーを除けば──同程度に得(・)意(・)だ。

 されどヘルメスは、すぐに森林や地中に紛れ込む魔術を使って、すぐさま殺しに来るだろう。さながら暗殺神だ。ヘカテーによればβ汚染はされていないという話だが、ならばなぜ殺しに来るのか。

 

 アルファが叫び、次いで源為朝が警告する。

 

「ヘルメス! 俺たちを試してるのか!? ならもう充分だろう! 俺たちに協力してほしい! 特異点を修正するために!!」

「気配探知。右手の森林奥に数百偏在。木々の数だけヘルメスが存在している」

「────なぜ左には無い? 誘導されているのか? アーチャー! 左に宝具ぶっぱ! メドゥーサ、宝具に乗じて宝具で駆け抜けろ!! 海に出たら飛行するのも忘れずに────!」

 

 二騎は宝具開放。昇華・弓張月と騎英の手綱で、貫通した森林の上を駆け跳ぶ。

 荒波の上に飛び出た。飛翔して雷雲の真下を航行。前方に別の諸島が見える。

 

「フォーリナー! 先行しろ! 第三宇宙速度で見て回れ! 失速する前に戻ってこい! ついでにスイングバイで万物万象の速度を奪え! そうすれば万物に溶け込んでるヘルメスの速度も奪える! ──ヘカテー、フォーリナーを強化しろ!」

「あいよ! だがお前さん、本当に考えるのが早いな! 高速思考と並列思考を使ってないでそれか!?」

「果穂、いいかい?」

 

 ボイジャーは小宮果穂(マスター)に問いかける。

 

「……っ! うん! お願い、ボイジャー……!! でも、気をつけてね!」

「うん! それじゃあ、行ってくるね」

「アーチャー、射出! フォーリナー、矢の初速を奪っていけ!」

 

 源為朝は剛弓を全力で引く。射出された矢は音速を超えており、ボイジャーはその速力を以てスイングバイ。高速のスタートダッシュを決めてエリュシオン全土をどこまでも飛んでいく。一秒でまたたく間に遠ざかり、豪雨の雨粒より小さくなっていった。

 

「メドゥーサ、アホロートルの体力は!?」

「残り半分と言ったところです!」

「アーチャー、残魔力量は!?」

「宝具二回分である」

「果穂、宝具の準備だ! 魔力を貯めておけ!」

「! はいっ!」

「広、蘇生の序列を明確にしておく! ヘカテーは率先して生き返らせろ! メドゥーサは血を利用して蘇生に使えるから低めだ、それでいいなメドゥーサ!?」

「……フゥ────こうなったらヤケですね。生き残れるなら従いますよ」

 

 アルファは立ち上がると濡れた衣服を脱ぎ捨てる。上着もTシャツも脱ぎ捨てて気合を入れる。

 

「賭けに出る! 確かめたいことがある! ヘカテー、俺に水上歩行と着地保護の魔術をかけろ! 何分で切れる!?」

「ちょまっ、今すぐだと一分もないぞ!? しかも着地もだと三十秒もない!!」

「充分だ! アーチャー、俺が戦い始めたら────」

 

 アルファは跳躍する。アホロートルの背中から飛び降りた。

 

『────っッ!!??』

「────俺の背中を射抜いて連れ戻しに来いッ!! 矢がぐるぐる回るならできるだろ! 無理だとは言わせないぜ!! さもなくば俺は無駄死にだ!」

 

 豪雨が降り注ぐ速度と同じ落下速度でアルファは海面に近づく。

 アルファは荒波の上に、ふわりと着地。着地保護の魔術が働いた証拠だ。構えを取る。

 

「────────────────」

 

 精神統一。全力集中。水で来るなら多少は気配を読める。もし水以外の要素で来ても構わない。どうせ一回は瀕死になる予定だ。即死回避は死ぬ気で成し遂げる。頭部・首・心臓。仮に心臓を射抜かれても少しは活動できる。頭蓋と首のみ死守。それ以外はいくらでもくれてやる。

 

 九秒経過。

 荒波が揺らめく。背後に気配。腹部に灼熱の感覚。既に刃物を差し込まれた。構わない。真後ろに腕を伸ばして衣服を掴み、雄叫びを上げて一本背負い。

 

「雄雄雄雄雄────ッッッ!!!」

 

 荒波の上に少女の体を倒す。すかさず少女・杜野凛世の後頭部を蹴り上げた。蹴り起こした背中を羽交い締めにするため前傾姿勢。杜野凛世は逃れるため海に飛び込もうとする。その背中の布地を掴んで剛力勝負。無論、相手はサーヴァント。人間の筋力ではいくら魔術を使ったところでかなわない。

 

 故に、アルファの背中をビーム砲撃が突き刺さった。体内に食い込んだ音速矢が肉体を急上昇させる。後ろ首の骨が轟音を立てて折れて砕かれた。圧倒的な重力加速度が掛かる中、背骨も内臓も破裂音を繰り返しながら、なおも全歯噛み砕く根性で握力は死ぬまで弱めない。

 

 旋回。横にGが掛かる。アルファの意識は明滅を繰り返している。ブチブチと筋繊維がはち切れる音がする。ビリビリと布地が破かれる音がする。故に賭けだ。両腕が先に死んで手放すか、着物が先に破けて手放すか、それとも既にヘルメスは逃げおおせているのか。アルファはもはや目の前が真っ暗になっていた。視界喪失。地獄の激痛が永遠に続くように感じられる。

 

「────アルファさんッ!!?」

 

 小宮果穂の声が聞こえた気がした。アルファの意識が覚醒する。前方にアホロートルの巨体。源為朝は受け止める姿勢。何を? 無論、矢に突き刺されて音速で舞い戻ってきたアルファの全身を、だろう。ヘカテーは神言魔術を行使。結界を張った。杜野凛世、もといヘルメスを閉じ込める気だろう。

 

 アルファはタイミングを見計らって布地を手放す。杜野凛世はアホロートルの胴体側面に激突した。すかさずヘカテーが結界魔術で封じる。刹那、源為朝の機械腕に抱擁される形で、アルファの全身が機械腕と激突した。轟音。接触部位の胸部骨肉が爆裂する。すかさずヘカテーが治癒魔術を行使。源為朝は、絶命したかと思うほど弱りきって昏倒してるアルファをゆっくりと寝かせる。

 

「……我がマスターは武士(もののふ)である」

「ホントだよ。普通考えてもこういうことやるか?」

 

 源為朝は感銘を示し、ヘカテーは呆れかえる。

 そこでメドゥーサがたずねた。

 

「それで、ヘルメス神は……? 私が聞き及ぶ姿とは、だいぶ違うようですが……」

「おそらく疑似サーヴァントってやつだろう。自分と能力の近い奴を依代にしたんだ。小賢しいヘルメスのことだから、きっとβ汚染から逃れるため、神霊状態であえて自害して英霊召喚を強引に実行したんだろうさ。ろくに英霊召喚の術式も知らない状態でやっただろうから、まさかうまくいくとは微塵も思ってなかっただろうけどな!」

 

 ヘカテーは結界を浮かばせる。その中には杜野凛世がうめき声をあげていた。

 小宮果穂と篠澤広は目を見張って混乱する。

 

「えっ……凛世、さん……!?」

「わたしたちと同じ疑似サーヴァント……そうなると、人格の主導権はどっちに……?」

 

 杜野凛世が率先してアルファを殺しにかかるとは思えない。おそらく人格はヘルメスのものだろう。

 現に杜野凛世の姿をするヘルメスは、そのような振る舞いを見せてきた。

 

「さすが、です……しかし、ヘカテー……あなたはひとつ、勘違いをしている……」

「ほう? なんだ。言ってみろ」

「英霊召喚の術式は、見(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)あ(・)る(・)か(・)ら(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)……」

「…………」

 

 ヘカテーは考える。おそらく暗殺神ヘルメスは、黒幕の英霊召喚儀式を盗み見たと言いたいのだろう。

 

「……お前は味方か?」

「さて、どうでしょうか……」

「さもなくば雷霆を落とす」

「ご随意に……凛世が居なくなった程度で、戦力差は埋まらないでしょう……」

 

 ヘカテーは軽い雷霆を落とす。出力を弱めた拷問用だ。空間を破砕する力で体内を粉々に砕いている。

 苦悶の悲鳴を上げる杜野凛世。否、ヘルメス。

 思わず小宮果穂は「待ってください……っ!」と止めに入る。

 

「……おっと。そういえば君たちの知り合いなんだったね。失敬した。しかし大丈夫だ。この人間の体は、君たちの世界の人間の体ではない。この世界の人間の死体だ」

「そういう問題じゃない……」

 

 篠澤広は苦言を呈する。今、魔術師や神との価値観の違いを味わった気がした。

 その時、アルファの声が微かに響いた。虚ろな瞳だが、目を覚ましたようだ。

 

「解放しろ……嘘は、ついてない……」

「────なに? 正気か? ヘルメス神は全技術を用いて詐術を働くことに長けた神だ」

「だからこそ、俺にはわかる……同類だ……もしこの世界に、俺がいたら……ヘルメスの依代は、必ず俺になっていた……」

「……なんの論拠にもなってないぞ」

「いいから解放しろ……そいつは多重スパイだ……最終的にこっちにつく……たぶん」

「たぶん!? 直感で解放するのか!?」

「なら結界を維持してお荷物になれヘカテー。そうならないというのなら、この地獄からおさらばするまで捕まえといてくれ……」

「ああ。そうならないし、そうさせてもらうさ。それが一番安全だね」

 

 最強女神ヘカテーは結界を圧縮。匣を作成。匣の中にポンと収納した。腰にぶら下げて封印完了。なんということか。いくらサーヴァント化して神性が極めて弱まっているとはいえ、彼女は楽々と一柱の神霊を封じてしまった。

 

 やがてボイジャーが戻ってくる。

 

「わお。アルファ、血だらけ、だね……なにが、あったのかしら。あとで聞かせてね? ……ところで、見つけたよ。おっきな巨人さんがゾウさんに乗って、おびただしい数のゾンビを引き連れて戦ってる。すごいよ。そこに、果穂が好きそうな戦隊もいたんだ。ふふっ。戦隊って、本当にああいう感じなのかしら」

「えっ……ボイジャー、それほんと!? ならそこまで連れてって!」

「もちろんさ。それじゃあ、付いてこられるかい?」

 

 ボイジャーは第一宇宙速度で道案内を始める。

 メドゥーサが駆るアホロートルはそれに付いて行った。

 

          §

 

 アルファ達は現場に到着する。

 そこは地球側の神霊とβ汚染された神霊の両軍勢が、地形変化レベルの大激闘を繰り広げる戦慄空間だった。

 

 準惑星級の破壊力。その余波を浴びて墜落したアホロートル。その背に乗る一同は、両軍勢に挟まれて四面楚歌。絶体絶命の窮地に際し────突然、ニチアサ系のBGM(バッググラウンドミュージック)がノリよく流れ始めた。

 

 次の瞬間、一同の東西南北に、緑・黄色・白・ピンクの覆面スーツを着た、四人のヒーローが降り立つ。

 

『人類のピンチに颯爽と駆けつけ、助っ人ならぬ助(すけ)っ神(かみ)!』

「我は天を戴く者! ランサー・白瀬咲……じゃない! アトラスグリーン!」

「私は戦場の暴風! バーサーカー・十王星……じゃないわ! メノイイエロー!」

「私は文明の授与者! キャスター・桑山千……じゃなくて、プロメホワイト!」

「わたしは希望の光! アーチャー・花海咲……エピメピンク!」

『四人合わせて、神霊戦隊イアペトジャー────!!!!』

 

 

【挿絵表示】

 〔神霊戦隊イアペトジャー〕

 

 なぜか彼らの背後が爆発する。

 

 そして小宮果穂の瞳が、しいたけのように燦然と光り輝いた。今にも感情が爆発寸前で飛び跳ねそう。両手を握り締めてブンブンと振るっており、全身は震え上がっている。

 一方、それ以外の一同は呆然と佇んでいた。特にアルファは口をあんぐりと開けている。そしてアルファやヘカテーは、神霊とは冥界に来ると生前できなかったことをはっちゃけ始めるのだろうかとデタラメなことを考えた。それは考えるまでもなく、生前からはっちゃけているからこその神だというのに。

 

『我ら神霊となり、至宝たる未来の子らの肉を借り受けし姿! 今その証をご覧に入れよう!』

「不動の守護者が推して参る。対界宝具────『蒼穹支柱(アトラースフィア)』 ────!!」

「雷火の奔流を喰らうがいい。対軍宝具────『雷霆衝波(メノイティオス・インパクト)』────!!」

「未来は私たちが守る! 対神宝具────『黎明の火種(プロメテウス・フレイムハンド)』────!!」

「迂闊なことにならなきゃいいけど! 贈呈宝具────『希望の匣(エピメテウス・ギフト)』────!!」

 

 蒼穹支柱は、盾として空間支援結界を瞬時展開。

 雷霆衝波は、冥界の稲妻を落として広域爆殺。

 黎明の火種は、手に触れた深奥すなわち地殻爆砕。マントルを噴き上げて敵陣を熔解し、轟然と焼き払う。

 希望の匣は、対象が望む神秘を具現化する。今回は四面楚歌を切り抜ける爆風として、一同を巻き上げた。

 

『わぁーーーーーー!?』

 

 一同は爆風に連れ去られ、天空へと舞い上がる。ヘカテーは魔術で分析し、爆風そのものが一種の飛行魔術であることを看破。つまり乱暴に吹き飛ばしたのではなく、目的地への誘導効果を果たしている。着地も自動的に助けてくれるのだとか。その言葉を信じるしかない一同は放物線を描きながら、ひときわ高い山脈の頂上部に飛来。反射的に着地の姿勢を取ると、地面激突の直前、ふわりと体が浮かび上がって着地に成功した。

 

 次の瞬間、冥界の暗雲を轟かしながら、神の声が雷鳴のごとく響き渡る。

 

『────よくぞ訪れた、異邦の旅人よ────』

 

 その声を聞いたヘカテーとサバージオスは、ぴくりと反応する。

 

「天空神……!」

「……ゼウスか」

 

 アルファは目を見開く。オリュンポス十二機神の首魁は、やはりヴェルバーに殺されて冥界に落ちていた。あとはβ汚染を受けているかどうか。

 篠澤広が問いかける。

 

「主神ゼウス……あなたは、わたしたちの味方?」

『────、────』

 

 重力場の生成を体感。一同は片膝を突く。それにアルファとサバージオスが全力で抵抗した。

 かたや神に屈したくない意地として、かたやアナトリアの失伝神話における神の意地として、冷や汗を流し、筋肉が悲鳴を上げながら、足が膝まで地面に埋没しつつ、ふたりは腕を組みながら仁王立ちの姿勢を保ち続ける。

 

『ぐっ……ッッ!!』

 

 ゼウスは何もしていない。ただ在るだけで、少し視線をやるだけで、そこに神の威光が降り注ぐ。そもそもが存在規模の異なる質量存在。

 たとえば、ただ其処に在るだけで光すら吸い込む質量を持つものがあるとするなら────地球の魔術法則(テクスチャ)として、機神の霊体とは、ただ其処に在るだけで空間を圧倒する質量を持つのかもしれない。

 

『────この山は冥界のオリュンポス。奈落における十二機神の隠れ館(が)。各々のクリロノミアを提供し、鍛冶神によってβ抗体の作成に成功。これを地上に持ち帰り、各神話大系に配り、神話連合を結成、しこうして反撃の狼煙を挙げよ。これは神託である────』

 

 β抗体が存在する情報は僥倖だ。

 しかし後半部分は空恐ろしい話である。各神話大系に、ギリシャ神話の神髄を配れと? はたしてそれを各神話の──プライドの高い──神々が認めるかどうか。

 

「俺は受け取らん」

 

 アルファが危惧していると、やはりサバージオスが拒否した。

 しかしサバージオスは、もとよりゼウスから一方的に接続され、β汚染に対する高純度の耐性を有している。そのため受け取らなくても問題はないが、他体系の主神たちはβ汚染対策を取れていない可能性が高い。その上で拒否されると困りものだ。

 

 ともあれ受け取らない選択肢はない。配れるかどうかはさておき、アルファは手のひらを差し出す。

 すると冥界の雷雲が切り開かれて、そこから天使の階段のように後光が差した。現代技術で製造されたかのような液体入りアンプルが一本、アルファの手の上に舞い降りてくる。

 

「主神ゼウス。ありがとう。……さて、帰りはどうするかだが────」

 

 その時、山(・)が(・)抜(・)か(・)れ(・)た(・)。

 文字通りの『抜山蓋世』である。

 

 崩落を始める冥界のオリュンポス山脈。

 界然怒涛の山崩れ。地表までの距離は遠大。滑り落ちきるまで数分は掛かる。

 

「────力、山を抜き。氣(き)、世を蓋(おお)う」

 

 土砂災害に巻き込まれないよう山崩れの上を走る一同の頭上に、人馬型の緑熱発光体が出現。

 

「────都、幽(かすか)に締じ。煙、溟(うみ)を鎖(とざ)す」

 

 どことなく中華風かつ生物学的なサイボーグ味を感じる風体の狂戦士は、十二本の手腕に備える神憑りの曲刀を繰り出し、文字通り世を蓋(おお)い、冥海を鎖(こわ)した。

 

 十二の神剣と劣赤模鉛・神体結界(レッド・アイギス)の激発。アイギスに傷が付く。

 

「なんだとっ!?」 サバージオスの驚愕。

 

 アルファは真名看破。その四字熟語を、逝去する前に詠んだ偉人と、聴いた偉人は、ふたりしか知らない。

 

「────敵、機神英霊! 推定真名、項羽(こうう)! あるいは虞美人(ぐびじん)! 総員、ハデス級の力を得た中華屈指の武辺者(ぶへんもの)を相手にする気概で臨(のぞ)め……ッ!!」

 

 次の瞬間、敵サーヴァントは宝具を開放した。

 

「我こそは、十二機英が壱(いち)、冥府神ハデスのβクリロノミアを受け継ぎし複合英霊(ハイ・サーヴァント)なれば────覇(・)王(・)到(・)来(・)ッ!! 冥府の世人(せじん)は此(こ)の幽冥(勇名)に畏(おそ)れ嘶(いなな)き、槍檻(そうかん)萬戸(ばんこ)を施錠する!!

 ────『都締幽兮煙鎖溟(ていとさみょう)・力抜山兮氣蓋世(ばつざんがいせい)』────ィィッッ!!!!」

 

 すかさず最強女神ヘカテーは雷霆魔術を行使。空間破砕で宝具を巻き込み無力化を狙う。

 されど、幽都において冥海を閉ざす霧の鎖が雷霆を包み、なんと空間破砕の事象現象を封じ込めた。

 

「────なにっ!?」

 

 神霊サバージオスと女神ヘカテーが瞬く間に圧倒された。

 次の瞬間には全滅必至。全員の喉笛を切り裂く未来が見えるまでもなく痛感する。

 

 源為朝とメドゥーサは宝具開放の兆候を見切られて手足を斬り落とされる。

 ボイジャーとマメ丸は反応すらできず胴体を斬り伏せられた。

 

 故に、最後尾に立っていた篠澤広は、一度きりの切り札(ワイルドカード)を切った。

 

「第三宝具・開封────『隠れ潜む片割らに神ありき(トレセーナ)』────」

 

 二小節の真名開封。

 刹那、極光が辺りを焼き払った。

 

 黒き砂塵が、敵の力を押し返し、世を覆い返し、蒼の海を金の砂漠に塗り替える。

 新手の召喚。項羽は叫ぶ。未来視によって演算して正体は見抜いているが、その上で好敵手の名を問いかけた。

 

「────何奴ッ!!」

「あー……サーヴァント・アサシン。────テ(・)ス(・)カ(・)ト(・)リ(・)ポ(・)カ(・)だ」

 

 篠澤広は降霊宝具によって一柱の神霊を召喚。神々が死すべき時に逃亡を謀り、逃亡者として風神(エエカトル)に追跡された逸話、あるいは執行者として神々に訴求された異聞を有する双神ショロトルのそばには、必ずケ(・)ツ(・)ァ(・)ル(・)コ(・)ア(・)ト(・)ル(・)に(・)類(・)す(・)る(・)神(・)が(・)居(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 其は神話伝承の再現宝具。故にサーヴァント・ショロトルが召喚された暁には、彼を生贄とする神がトレセーナより一柱、無作為に選ばれてどこかに自動召喚される。だがショロトルは、ありとあらゆる手を尽くして、自らを殺しに来る神々から身を隠すべく……今回は篠(・)澤(・)広(・)の(・)中(・)に(・)隠(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 が、その努力も無為に終わった。篠澤広自身がショロトルの真名を開放したことで、あえて自分の居場所を晒し、本特異点のどこかに降霊していた自動召喚済みの神を一柱、転移させて手元に呼び込んだ。それがテスカトリポカだった。

 

 しかし、なぜテスカトリポカが召喚されたのか。無作為とはいえ、必ずどこかに魔術的理由は存在するとヘカテーは考える。

 まず今回は触媒として、二つの環境が機能していた。一つ目は、テスカトリポカの名の由来がナワトル語で『煙を吐く鏡』を意味すること……そして偶然にも、項羽は冥府の煙を纏っている。二つ目は、篠澤広とテスカトリポカの容姿が似ていること……その運命的照応も働き、まさに篠澤広は運命(Fate)を呼び込んだ。

 

「ああテメェかショロトル。俺が召喚された理由が分かったぜ。だが今はテメェを殺してる場合じゃなさそうだ。殺す理由もねぇしな」

 

 一度きりの切り札。その意味は、自ら降霊させた神の手によって、ショロトルが殺される=篠澤広も殺されるため。

 しかしその憂いも今、篠澤広〔ショロトル〕による幸運判定の成功によって解き放たれた。……ちなみに、もし風の神エエカトルが召喚された場合、ショロトルの幸運判定は自動的に失敗する定めにある。

 

「だから今は、目の前の冥(・)界(・)ま(・)が(・)い(・)の(・)暴(・)走(・)族(・)をぶっ潰す。

 ────『第一の太陽(ファーストサン・シバルバー)』────!」

 

 覇王の必殺と漆黒の恒星が激発する。

 

 奈落極光。冥界全土を照らす爆発的放射線。

 衝撃波は冥界を浚い、恒星級の炎熱は溟海を一瞬のうちに干上がらせる。

 

 その余波を至近距離で浴びた小宮果穂たちは当然、無事ではいられない。

 だからこそ小宮果穂は神霊エポナの声に従い、テスカトリポカと同じタイミングで宝具を発動していた。

 

「スケルス・エポナ────『童夢震わす羅武光流(ドームふるわすラブコール)』────っ!!」

 

 其は第二宝具。ケルト神話における大英雄の一人フィン・マックールが有する宝具『この手で掬う命たちよ(ウシュク・ベーハー)』と近しい能力を有する癒しの解錠宝具。

 

 その鍵を大地に差して回しひねれば、命溢るる冥界の水が湧き誇る。いかなる不毛の大地でさえ、冥界の水に触れればたちまち命が蘇り、大地に自然が咲き乱れる。つまりこれは蘇生宝具でもある。さらに冥界との親和性が高い本宝具は、本来、少量ずつ湧き出て一週間以上かけることで泉を構築するが……ここは冥界だ。貯水タンク(冥府の海)はすぐそばにある。

 

 故に、短剣型の鍵で切り裂いた元オリュンポス山脈は、突如として海底噴火を引き起こした。

 海底から噴き上げる噴炎。それに伴い押し上げられる命の海水。海中を切り裂き地底を貫きオリュンポス山脈を真っ二つに割った爆発的大噴水。それは項羽とテスカトリポカの戦闘余波を受けて瀕死寸前に陥った次の瞬間、小宮果穂たちを押し上げて冥界の天井岩盤に激突。さらに大噴水の勢いは留まることを知らず、岩盤はみるみると亀裂を入れていき……やがて地上と冥界を貫く攻撃性を以て────

 

 テスカトリポカ〔アサシン〕と項羽〔ハデス〕は相討ち。

 互いの霊核を仕留めて、それぞれ極光の彼方に消滅した。

 

 ────メディオイ王国近郊の地表が爆砕。

 冥府から直接、大噴水に乗った小宮果穂たちが、地上世界の大気圏上空まで吹き飛ばされた。

 

 即死級の重力加速度と水圧が上下より掛かったことで、ただの人間たるアルファといろはちゃんは絶命。

 ただし冥界の水を総身に浴びることで、瞬間蘇生を繰り返す。

 明滅する生死の意識。いま自分は、生きて宇宙に放り出されているのか、死んで冥界に打ち捨てられているのか、わけがわからないまま視界が交互に切り替わる。地上世界と冥府世界を秒間数百回は反復横跳びしていく。

 

 一方、サーヴァントは水圧と重圧で即死することはない。むしろ冥界の噴水を浴びて体力(HP)だけでなく魔力(MP)も全快。

 そして大気圏では、ヴェルバー軍の戦闘機と、β汚染されていないティターン系列艦隊の戦闘機が大量に交戦中だった。その両軍の射程圏内に入った第三勢力は、すべからく命を狙われる。

 

 源為朝は連射して両軍の戦闘機を撃ち落とし、メドゥーサは戦闘機から戦闘機へと飛び移って弾幕を躱し、ボイジャーは宇宙速度を以て高速回避、サバージオスはレッドアイギスで即死光線から身を守り、ヘカテーは雷霆魔術で宙域の交戦領域を爆破して雑魚戦闘機群を一掃する。

 

 小宮果穂は第一宝具のバイクを召喚して、戦闘機のガトリングガンを躱しながら、マメ丸といろはちゃんを回収。

 アホロートルは追尾ミサイルの雨から逃れるため必死に走って突き放し、目を回す篠澤広とアルファを回収した。

 

 そのまま一行は大風を浴びつつ自由落下を続けながら、はるか西方に滑空していく。

 フリュギア王国のブートキャンプへ帰還するために────

 

          §

 

 小宮果穂〔エポナ〕の宝具が生み出す冥界の水で生命力と魔力に満ちあふれているものの……かの神霊軍団が跋扈する冥府下りを終えて、戦闘機群が交差する宙域戦場から命からがらといった様子で帰還した一行は、ブートキャンプの手前に着地して、難民たちから出迎えられた。が、ろくに会話する気力は残っておらず、全員ほうぼうのていで個室に辿り着き、一日中、爆睡することになった。

 

 睡眠の必要がないサーヴァントでも気力の衰えは激しく、メドゥーサとボイジャーはダウン。仮眠室から出てこない。

 一方、武辺者を謳う源為朝は意地を張って、マスターたちを守るべく門番として仁王立ち、周辺警戒を続けているが……そこに偶然バベッジが通りかかると、なんと源為朝は立ったままシャットダウンして休眠モードに入っていた。

 

 バベッジによれば、過剰な熱暴走を冷ますために、自動冷却機能が働いた結果だという。

 つまり、ただの寝落ちである。

 

          §

 

 翌日の夕方。

 すでにサーヴァントたちは目を覚ましており、マスターの起床を待っている。

 やがて、最後にアルファといろはちゃんが目覚めたことで、一同は集結する。

 

 小宮果穂と篠澤広の報告によれば、アルファたちが眠っている最中に、最強女神ヘカテーがβ抗体のアンプルを知識女神キュベレイに渡したとのこと。その報酬として三つ目の聖杯の雫を貰い、保管庫に収納しているという。

 そして今朝、最強女神ヘカテーの提案によって『残骸回収』の依頼をこなすことになった。篠澤広はまだ疲れが取れず熟睡中だったため、サバージオス、ヘカテー、小宮果穂、マメ丸、ボイジャーの五名で周回したとのこと。一行は冥界下りをしている最中にバベッジが集めていたリソースも含め、今日集めた残骸や資源も保管庫に収納しているため、あとでアルファに確認してほしいとヘカテーが話していた。

 

 それら報告と伝言を受けたアルファは、さっそく保管室に向かう。

 そこにはサバージオスが佇んでいた。

 

 彼は腕を組みながら、数ある機神残骸の中でも、竜体のような巨躯の残骸を見上げている。

 

「よっ! 一日中寝てて悪いな。冥界下りの冒険は楽しかったか?」

「…………」

「なにやら熱心に見つめてるけど……その残骸、由来が何か知ってんの?」

「気安く声を掛けるな」

「なら気難しい声でも掛けましょうか? それとも気詰まり(息が詰まるような雰囲気)の声をご所望で?」

「……──道化め。何が言いたい?」

「質問を質問で返すなー!」

 

 アルファは踏み込んでみた。

 すると案の定、重圧を感じる。無名に近いとはいえ神霊だ。機嫌を損ねれば一瞬で呪殺される。

 

「……アレは、いつかどこかの俺が夢見た代物だ」

(答えてくれるんだ……)

「答えたぞ。では次は俺が問いを投げる。貴様が答える番だ。──……もし俺が裏切ったら、貴様はどう出る?」

「んー? 殺しに来るんじゃないなら別に~?」

「…………」

「気になるなぁ。わざわざ裏切る可能性を明かして来るってことは、俺のこと少しは警戒してるってことでいいんです? 隠しても見抜かれると思ったとか? そりゃ高く買わせすぎかな?」

「……ヘルメスとの一騎打ち。あれは見事だった」

「ありがとうございます」

「図に乗るな。疑似サーヴァントで神性の九割以上が減衰されていたことで成し得た偉業だ。あれが本質としての神霊であれば、ただの人間では触れることも叶わない」

「そうっすね。だからこそ疑似サーヴァントじゃければ挑む気も起きませんでしたよ。自分自身の能力を削ってくれたヘルメスさんには感謝しかないっすね」

 

 なにやら駆け引きが始まっている。そのようにアルファは悟る。

 サバージオスの表情は、真紅の仮面に隠れて読み取れない。それでも立ち居振る舞いは、明らかに臨戦態勢と言えた。

 

 それも当然。

 今までサバージオスが眺めていた竜体残骸は、かのテ(・)ュ(・)フ(・)ォ(・)ン(・)の(・)残(・)骸(・)である。

 

「俺は────今から過去か未来か不明だが……あるものを求めて、とある星見台と戦い、敗れた記憶がある」

「……」

「故に、もしここで俺が動けば、また星見台の連中に邪魔されるという確信がある」

「…………」

「俺には夢がある。どうしても叶えたい夢だ。そのためには、一度敗れた猿相手に力を貸し、星見台の一員として戦っても構わない打算があった」

「へぇ? 星見台とやらは、サバージオスを倒したのに仲間にしたんすか?」

「物好きな連中だ」

「言っとくけど俺もっすよ! ならそれが一番、冴えたやり方なのかもしれない。内容にもよりますけど、問題なければ協力しますよ。──で、あなたの夢とは?」

 

 サバージオスは手のひらを見つめる。それを握り締めて、夢をつかむ拳(おもい)を強めた。

 

「神の誇りは失わない。だが、そのために夢を失うのは愚かな行為だ。俺は愚かな猿どもとは違う。夢を叶えるためなら、多少の意地(プライド)は切り捨てる」

「猿の手も借りたいってことっすか。で? 能書きが多いってことは、割と葛藤中だったりします?」

「──……口も過ぎれば八つ裂きにするぞ」

「話の腰を折るのが好きなものでネ! ……で?」

「……………………」

 

 サバージオスは唸る。明らかに葛藤している様子。どうしても猿どもの手は借りたくないらしい。

 それでも彼の記憶には、とある聖杯の言葉が刻まれていた。

 

 ────みんなで叶えればいいじゃない。

 

 神霊に近しい、あるいは神霊より純粋無垢な、自然霊の諫言だ。これを無下にすることは大人げない。

 たとえば、子供の正論ある説教を受けた大人がそれを聞き入れない(無視する)ほどの、痴態を極めた行為である。

 

「……宙(ソラ)に、飛び立ちたい」

 

 アルファは目を点にする。

 次いで、年相応に興奮してガッツポーズを取った。

 

「つまり────宇宙飛行士(パイロット)ぉっ!!?」

「あ、ああ……おかしいと、思うか……?」

「なんで!! めっちゃ面白い夢じゃないっすか! ──おっと読めてきたぞ? サバージオスの口ぶりからして星見台が悪い連中とは思えない。さもなくばアンタの性格からして『物好きな連中』とは言わないはずだ。となれば! 先日勉強したんすけど、サバージオスって奪取の神性を持つらしいっすね? もしかして夢を叶えるために誰かの物を奪ったから、人好きの星見台に邪魔された……そういう経緯っすか?」

「……」

「ああすみませんネ! 傷口に塩を塗ってしまい……こほん。えーと、まぁ……はい。宇宙航行可能な乗り物が欲しいって言うなら、この特異点はまさにその素材の宝庫ですし? 余った資源で宇宙船や打ち上げ用のロケットくらいは作りますよ。もちろん永住や長旅を想定してネ!」

「なに? 本気か?」

「なんすか。そっちから提案したことじゃないっすか。まさか本気で受け入れてくれるとは思わなかったとでも? そりゃ俺たちを見くびりすぎっすよ。果穂と広にも同じ話をするといい。きっとふたりとも、サバージオスの夢をお手伝いしたいって、俺に頼み込んできますよ!」

「……、……──」

 

 サバージオスはうつむく。

 どうやら彼らもまた、物好きな連中だった様子。

 

「それじゃあサバージオス。夢を叶えたいなら、もっともっと働いてほしい」

「……等価交換か。俺には馴染みの薄い概念だが……仕方ない」

「では、まず『残骸回収』の依頼周回を────と(・)り(・)ま(・)百(・)週(・)は(・)お(・)願(・)い(・)し(・)マ(・)ー(・)ス(・)!」

 

 アルファは、とびっきりの笑顔で言ってのけた。

 

「……、────────周回、だと……????」

「あれ、知らないんすか? 最近のモノは周回しないと手に入らないんすよ! ま、なんでもかんでもすーぐ奪ってきた神様には、びっくりするくらい退屈な単純作業だとは思いますけどネ! ま、これも夢を叶えるための現代文明的消費型搾取の労働だと諦めてもろて」

「……なん、だと……星見台の連中も、孔明という奴が過労死するレベルで働いていたが……アレを? 俺がやるのか?」

「はい。働かざる者宙(ソラ)飛ぶべからずって言うでしょう?」

「────、……、……了解、した……」

 

 サバージオスは、星見台で周回とやらをしたことがあるのか、割とすんなり受け入れてくれた。

 そこにヘカテーが現れる。どうやら会話の一部始終を盗み聞きしていたようだ。

 

「はっはっはっ! お前そんな夢を見ていたのか! そのために簒奪の主神が……自ら労働!? 自ら周回!? フハハハハ! 猿も木から落ちるとはこのことだな! なぁアルファ! よくぞコイツにうなずかせた!」

「いやいや。星見台との出会いが、きっとサバージオスをうなずかせたんすよ。正直さっきまで『あーこれ殺し合いかなー』って、割と諦めてました。だって神様って融通利かないじゃん?」

「それはそう! おっしゃる通りだとも! この私も含めてね!!」

 

 その上で最強女神ヘカテーは大笑し、アルファとサバージオスの背中をバシバシとたたく。

 

「なんだ……やめろ女神。何をそこまで興奮してる?」

「なぜもなにも。千里眼では二つの未来が見えていたのさ。お前らが折衝するなんてありえないと思っていたから雷霆の準備をしていたというのに……結果はコレだ! 愉快すぎるぞ! サバージオスお前、いったいどの星見台と出会ったんだ? そこまで変わるなんて何があった! いつもならすぐ奪って終わりだろうに!」

「……知らん。おぼろげな記録だ。──猿はたしかに進化を続けて発展を遂げてきたが……神だって変化する。変化とは成長の証だ。変化先が昇るにしろ下るにしろ、俺だって元霊長のプライドがある。猿の歩みに負けはしないさ」

「────」

 

 最強女神ヘカテーは瞠目して呆ける。

 その横顔を目にしたアルファは、色々と見抜いた。考察する。

 

(これは……明らかに惚れたな! というより、惚れ直した、が正しいか? ──サバージオスは人々から忘れられて信仰が消え失せ、そのせいで記憶喪失になった。原典を失ったんだ。そのため近頃のサバージオスは、およそヘカテーが知る性格とは程遠い人格(神格)だったのだろう。しかし今ヘカテーは、全盛期だった頃のサバージオスの面影を垣間見て……さらに、その頃とは違う歩み方を取ろうとする変化に、文字通り天地がひっくり返るほど驚き、凄まじく感銘を受けた……そんな感じか?)

 

 サバージオスはブツブツと言う。

 

「残骸回収は、今日で三週目か……まだまだ程遠いな」

「おっと忘れてません? とりま百週とは言いましたけど、宇宙船の設計図次第では、1000周もありえますからネ! 俺達も長い事ここにいる気はないんで、気力の自然回復だけ周回されてると工程が間に合わず困りますねぇ……いつこの特異点が崩壊するのかも分からないわけですし? つまり善は急げ! ぶっちゃけ一日で百週はしてもらわないと、ちょっと困りますねぇ!」

「────……貴様、正気か?」

「星見台も、そのくらい周回していたのでは?」

「…………」

 

 サバージオスは何も言えなくなる。

 言われてみれば、たしかにそのくらいは働いていたかもしれない。

 

「……俺は決めたぞ。もしも宙(ソラ)の先で、再び主神や王権の座を得ることがあれば……その際は、ここまでの過剰労働がない世界にしてやる」

「それはありがたいっすねぇ! 何事もほどほどがいいのにねぇ? 昨今は極端から極端が多いっすからねェ!! 俺はその時代の人間じゃないっすけど、大正や昭和くらいのゆったりエモーショナルな雰囲気が個人的には好みっすかね?」

「過去にこだわる気はない。俺は未来を目指す」

「かっくいー! じゃ、周回がんばってください! 俺とヘカテーはさっそく、聖杯の雫を使って諸々の修繕や改造、片手間に宇宙船の設計に入りますんで! あ、それと動力源に聖杯の雫が欲しいんで、なんとか知識女神キュベレイに掛け合ってもう一個、サバージオスの夢の分の聖杯の雫を手に入れてくださいネ!」

「……周回だけでなく、キュベレイにも……やることは山積みだな」

「はい。飽きないっすねぇ!? あ、それとほかの仲間たちにも、サバージオスに余分なリソースを割くこと、ちゃんと自分の口から報告してくださいネ! 組織における内部の仲間集めは大事っすよ~?」

「……それもか。了解した。ふぅ……まったく……先が思いやられるな」

 

 かくしてアルファとサバージオスは、特異点解決の同行者とは別に、宙を飛ぶ夢を叶えるための同好の士と相成った。

 

          §

 

 サバージオスは夢を語る。

 

「! 宇宙飛行士……! カッコいいですーっ! あたし、協力したいですっ! 宇宙船がビューンって空を飛ぶところ、見てみたいですーっ! はっ! きっとアルファさんなら協力してくれます! あたしひとりじゃ、あまりお手伝いできないだろうから……だから、仲間に頼りましょうっ! ──え? もう話した? じゃあ……! はいっ! みんなでがんばりましょう! サバージオスさん!」

 

「……宙(ソラ)に行きたい? うん。叶えたい夢があるのはイイことだと思う。生き甲斐になるから。問題は叶えたあとのことだけど、それは叶えたあとに考えればいい。だから、わたしも手伝えることがあるなら協力する、よ? ──え……周回? アルファから? なるほど。それなら果穂の『旅の守護者スキル』と、わたしの『猛禽の守護者スキル』が適任。どっちも他者に大量の魔力を譲渡できる。あとは対軍宝具が欲しいところ……残骸から防衛機構の敵性エネミーが出没することもある。源為朝は魔力の自給自足が得意なスキル構成だから、彼を主力に据えるといいかも? あとは残骸の牽引だけど……バベッジの使い魔(輸送用ヘルタースケルター)を少し分けてもらおう。サバージオスも騎乗の神なら手伝って。……ふふっ。みんなで頑張って周回しよう、ね?」

 

「────我が主(マスター)より勅命を受けている。貴殿の夢を叶える周回作業、この鎮西八郎為朝も助力しよう。残骸回収を邪魔する敵陣は、我が剛弓にて掃討し、無双の限りを尽くすことを約束する」

 

「……聡明な少女(マスター)から話は聞いている。我が夢想の蒸気機関を参考に、夢想の魔力炉心を製造すると聞き及んだ。なんでも夢を持ち続ければ稼働を続けるシステムとのこと。貴様におあつらえ向きの機構だ。そのためにも周回に励むといい。……なに? な(・)ぜ(・)蒸(・)気(・)機(・)関(・)を(・)原(・)動(・)力(・)に(・)す(・)る(・)の(・)か(・)、だと? 人(・)類(・)な(・)ら(・)ば(・)電(・)気(・)文(・)明(・)を(・)原(・)動(・)力(・)に(・)す(・)る(・)べ(・)き(・)で(・)は(・)、だと? ────よろしい。神霊ゆえ人界に疎く、まったく悪意のない純朴な問いかけと見抜いた。しばし講釈してやろう。

 これは魔術理論における初歩の話だ。まずテュフォンという名の語源を知っているか? それは『煙・蒸気・渦巻く風』であり、一説には『タイフーン』の語源であるとされる。故に、前者の説を採る場合、我が蒸気機関とはすこぶる相性が良いと、魔術学者アルファと魔術女神ヘカテーは語っていた。しかし、その仮説については一考の余地がある。なぜならテュフォンは──それが今から過去か未来かは不明だが、こと魔術において時系列は然程重要ではないため──アナトリア半島はキリキア地方を含む小アジアおよびエジプトにおいて、かの嵐神たち──海獣イルルヤンカ、冥界コリュキオン、セト神など──と習合している可能性が高い。そのため用いるべき魔術基盤は、アナトリア魔術やエジプト魔術のほうが効率が良い箇所もある、という意見を提示した。……が、当面の魔術理論構築においては特に問題はないと判断したため、我も現行の制作体制について全面的に同意している。

 事はそういう経緯で進んだ。理解できたかな? ──ならばよろしい。……む? 我か? 我はブートキャンプの防衛に一意専心する。……ならば蒸気機関式魔術炉心の設計図はどうするのか、だと? それは既に、かの者たち(アルファとヘカテー)に提出済みだ。一夜で演算を済ませて完成させた珠玉の設計図である。故にそう心配せず、貴様は素材集めに尽力するがいい。──……なぜならば、資金と歯車が足りなければ、設計図は日の目(アナトリコン)を見ず、機関(スチーム)は微動だにせず、生涯(ディメンジョン)を超えても真には稼働せず、夢想(パンク)は儚く灰を被り、塵芥のように潰えてしまうが故に────」

 

「わぁ……! 僕と同じで、君も、宙(ソラ)に行きたいのかしら? いいね……いいね……! 仲間が増えたみたいで、うれしいよ……! それなら、がんばらなくっちゃね……まずは、なにをするんだい? ……周回? うん。それなら僕でも、手伝えそうだ! なんだか、楽しくなってきたね! ……なぜかって? だって、近頃は殺伐としていたでしょう? ただ守るしかない、絶望的な戦い。負けると分かってる、ひどい戦い。こんなことを繰り返していたら、気が滅入って疲れちゃう。でも、その中に、まったく関係のない、光のような夢が舞い込んできた。これが、どれだけ素晴らしいことか! 目的が分かると、僕らは前を向ける。君は、自分の夢を明かしたことで、みんなの心に、希望を灯したのかもしれないね?」

 

「はぁ……宙(ソラ)、ですか。興味ありませんね。しかしマスターの命令ですので、できる範囲で協力はしますよ。……なぜ皆は快諾するのか、ですか? 私は快諾した覚えはないのですが……やはり特異点の解決を目指してはいないからでは? ──いえ、たしかにマスターたちは目に映る人々を救おうとしています。まったくお人好しですね……ですが、サーヴァントの身である私は、少なくともこの特異点がどうなろうが知ったことではありません。それはアーチャーもキャスターもボイジャーもそうでしょう。人類史の影法師として召喚された身とはいえ、土地の叫びによって強制召喚された奴隷の身です。しかも奴隷の仕事が、解決不能の出来事を解決しろというのは……横暴が過ぎる。そのため、世界が終わるその時まで、私は平穏に過ごせればそれでいい……というわけですので、あなたが宙を切り拓くことが、私の密かな楽しみである読書時間を邪魔しないのであれば────ひいては、その夢を叶えることで、私が自由に大地を駆けることができるならば────ええ。取り立てて、拒否する理由はありませんね。これは、ただそれだけの話ですよ」

 

「おそら? とぶの? おー……あ~……? いいんじゃなぁ~い? ──あ、りょこう! いろは、りょこういきたーい!」

「ワンッ!」

 

「あ? なんだ改まって。言われずとも、このヘカテー様が造ってやるさ。面白そうだしな! ──……それにサバージオス、お前は────いや、なんでもない」(っ……戦車に乗ってた頃が一番輝いていてカッコ良かった、なんて────シラフで言えるか……!)

 

          §

 

 サバージオスたちが周回をしている間。

 ブートキャンプの広間で読書を嗜んでいたメドゥーサのもとに、神妙な面持ちをしたアルファがやってくる。

 

「メドゥーサ。お前テュフォンになれ」

「ンッ────────、────…………なんです? 薮から棒に。あなたは突然のむちゃぶりが好きですね。事と次第によっては全力で反撃させていただきますが……」

「すまん結論から言いすぎた。まずテュフォンの竜体残骸を宇宙船仕様に改造している際、魔術理論構築のため歴史を調べる必要性が生じた。バベッジの提案をもとにテュフォンという神性の成立を歴史学的・魔術学的、両方の観点から調査した結果────メドゥーサの強化計画を閃いた」

「お断りします」

「せめて話だけでも聞いてぇ?」

「…………話だけですよ」

 

 アルファは講師(行使)する。

 

「順を追って話す。人類史の観点で、紀元前13世紀ごろの古代オリエント期において、ヒッタイト神話では嵐神タルフンと大蛇海獣イルルヤンカの戦闘があり、嵐神が敗れて、嵐神の“キカン”が奪われたという。が、嵐神は親族の助けを得て“キカン”を奪還し、大蛇海獣を討伐できた」

「……キカン?」

「やっぱそこに目をつけると思ったぜ。マザーAIは“器官”と言っていたが、俺は言霊魔術が得意だから、これを“機関・基幹・気管・旗艦・帰還”に置き換えても良いと考えている。メドゥーサも魔術の心得があるなら、俺の応用理由が分かるだろう?」

「……まぁ、理屈の上では」

「一方、この特異点の魔術史において、ウガリット神話では嵐神バアルと海神ヤム&蛇神ロタンによる戦闘があり、嵐神が勝った」

「……ヒッタイト神話とは異なり、一度負けて回復し、再戦する構図はなかったのですね」

「失伝しただけかもしれないけどな」

 

 アルファは一拍(一枠)を置く(織く)。

 

「時代は下り、この嵐と海蛇の戦いという構図が、小アジア経由でギリシャ地域に持ち込まれたのが、紀元前7世紀前後。その時、この物語はゼウス神話に組み込まれた。その際の舞台は、アナトリア半島の南東部に位置するキリキア地方だ。つまりこの時はまだ、この物語はギリシャの外から持ち込まれたもの、という意味合いが息づいていた、という認識でいいだろう」

「……」

「さらに時代は下り、紀元前5世紀ごろのギリシャ神話では、雷神ゼウスと嵐蛇テュフォンの戦闘があり、雷神が敗北して“腱”を奪われた。が、仲間の神に助けてもらい、すぐに回復して再戦。今度は雷神が勝利し、嵐蛇テュフォンは倒された。ちなみに、この時代でテュフォンがエトナ火山に封印されていたかは知らん。この特異点の歴史は、俺たちの知る歴史とは少し異なるせいか、そのあたりの文献は見つけられなかった」

「……? 待ってください。初期は『嵐と蛇の戦い』だったのに……ギリシャ神話に入って以降は、嵐と蛇の対立要素が交わって、敵が雷の要素となっている……」

「そこが今回の話の肝だ! 時代を経るごとに『対等さ』が欲しくなったのかもしれない。雷といえば雷雨すなわち嵐も含む。つまりゼウスは嵐神でもある。そこに同様の、嵐を司る蛇テュフォンという構図にすることで、嵐と嵐の超絶ヤバい激しいバトル……そういう雰囲気を強調したかったのかもしれない。あくまで予想だけどな!」

「……それで?」

「時代は下り、紀元1~2世紀ごろの後期古代ローマ~エジプト習合期において、嵐蛇テュフォンは、混沌と破壊を司る嵐神セトと同一視された。──以上が、この特異点の汎人類史的未来で語られる『テュフォン神話』のルーツだ。まぁもう本特異点は異聞帯と化しているから、既に雷神ゼウスは冥界に逝ってるし、テュフォンもまだ産まれてないようだけどな! いや、産まれたけど真価を発揮する前に撃墜されたというべきか?」

「…………」

 

 アルファは次の話に進(烝)める。

 

「本特異点の汎人類史的未来で語られる魔術史『ゴルゴーン神話』において、紀元前6,000年ごろのギリシャはテッサリア地方のセスクロ文化では、地母神ゴルゴネイオンの記録があった」

「────!」

「おそらくメドゥーサの原型だろう。考古学の進歩によって、もっと昔の姿もいずれ見つかるかもしれないが……ともあれ」

「……」

「時代は下り、青銅器時代のクレタ島ミノア文明において、壁画に無名とされる蛇女神像が見つかっている。考古学において、ゴルゴネイオンの土偶と一致する特徴があるとのこと」

「……」

「時代は下り、紀元前8世紀ごろの初期ギリシャ神話において、有首無体にして無形無詩……すなわち『未だ物語を持たない首だけゴルゴーン』は、単なる首だけ怪物の恐怖像として登場。一説には魔除けの呪具として使われる『ただの護符でしかなかった』という学説もある」

「……先史時代では地母神ゴルゴネイオンとして崇拝されていたかもしれないのに、いつしか忘却され、その時代では単なる護符扱いですか……まぁ、人間なんてそんなものです。物事というものは皆すべからく忘れ去られる宿命にある」

「時代は下り、紀元前7世紀ごろの古典期ギリシャ神話において、ゴルゴーン三姉妹が登場。両親は海神ポルキュスと海女神ケト。ステンノとエウリュアレは完全な偶像女神として誕生したが、三女メドゥーサのみがコピーミスとして変化する存在と化した。そして『ペルセウス神話』に組み込まれ、死すべき存在として討伐されるようになった」

「…………」

「時代は下り、紀元1世紀ごろの後期古代ローマ・ギリシャ神話において、女怪メドゥーサは元々美しい女性であったが、海神ポセイドンに陵辱されて、戦略女神アテナに呪われたことで、怪物と化した悲劇物語が追加される。これは美術学においても、首だけ恐怖像から美しい女性像(メドゥーサ・ロンダニーニ)へと変遷していったと記録にある」

「────ご丁寧に屈辱の物語をどうも。それで? 蛇にも堪忍袋の緒はあるのですよ?」

 

 アルファは本題に進(羞)める。

 

「テュフォン神話とゴルゴーン神話。両者の類似要素は『蛇・怪物の系譜・主役の敵・初戦の脅威・討伐後の象徴・他神習合』などが挙げられる。さらに構造的類似では『秩序を脅かす蛇・倒される事で秩序を回復する回帰装置・怪物の力を秩序側が吸収かつ転用』が挙げられ、象徴的類似では『混沌・死・境界侵犯・見る者を圧倒して無力化する力・原初神から産まれた怪物・人を超える超自然的な力の具現』である。────つ(・)ま(・)り(・)メ(・)ド(・)ゥ(・)ー(・)サ(・)お(・)前(・)は(・)テ(・)ュ(・)フ(・)ォ(・)ン(・)だ(・)」

「そこまで堂々と妄言を吐かれると、清々しすぎて本気でイラつきますね……いくらなんでも横暴が過ぎますよ?」

「もう分かってんだろ? 既に照応的類感の魔術は行使している。対魔力で弾いてもいいけど……その場合は相違点を挙げて対魔力の発動を手伝う。どうする?」

「……────まずは目的を聞きたいですね。私の怪物性を高めてどうしたのですか? ただの戦力確保ですか」

 

 アルファは手を叩(啄)く。

 

「なるほどメドゥーサは誤解しているようだ。俺はテュフォンになれとは言ったが、怪物になれとは一言も言ってない」

「……っ?」

「ここで両者の相違点を挙げよう。まず『テュフォンは物語性を原型に持つ』のに対して『メドゥーサは紋章性を原型に持つ』という差異がある。テュフォンはヒッタイトやウガリットの両神話を源流に持つのに対して、メドゥーサはゴルゴネイオンという土偶や壁画、彫像や護符を源流に持つという違いだな!」

「──……話が、見えてきませんね……」

「割と簡単な話だぜ?」

 

 アルファは指を鳴(馴)らして指(注)す。

 

「悲劇性は嵐とリンクする」

「……、──っ!?」

「そう! とどのつまり俺が言いたいのは────『嵐の女怪となれ、メドゥーサ』────!」

 

 人を指差す行為は、なぜ失礼と言われているのか。

 それは古代から魔術的に、呪いの付与を意味するためである。

 

 かといってアルファのそれは、一工程(シングルアクション)の魔術。

 メドゥーサは対魔力スキルBランクを持つため、三節以下の詠唱は無効化する。

 

「と、いうわけで。どうかな?」

「────…………」

「怒った?」

「あなたのことですから同意を得る前に無茶を強いることはないと信頼していましたが……その質問でふつふつと怒りが沸いてきました」

「人はなぜ怒ってない時に『怒った?』と聞かれると怒っちゃうんだろうねぇ~?」

「付き合いませんよ。憤怒は魔術的に、破壊力の観点から嵐と結びつきやすい。そして嵐の神はもっぱら蛇や竜ですので、そことも自動的に繋がりやすい。さらに憤怒は後世において男性的罪とされがちですが、神話においてはしばしば女性神が司る。私の地元では慈愛女神群エウメニデス……私は恐れませんので実名を言いますが、報復女神群エリュニスが該当します」

「ならば、そこにメソポタミア神話の女嵐(にょらん)精霊リリートゥ、すなわち悪魔学において著名なリリスを組み合わせたら?」

「────! っ……なるほど……あなたのやりたいことが読めてきました……ハァ……」

 

 メドゥーサは嘆息(探測)する。

 

「あなたの魂胆を当ててみせましょう。──古代メソポタミア期において、女嵐精霊リリートゥが存在。ギルガメッシュ叙事詩では、根に蛇竜(だりゅう)が巣を作り、枝に天嵐鳥アンズーが雛(ひな)を育て、幹に妖女リリスもといキ・シキル・リル・ラ・ケが棲む。そんな話があります。──これは魔術理論においても著名な世界卵の構造を示している。しかも三層構造。三の数字は何かと神聖な趣きが強い。魔術的には強力な神秘が宿りやすい代物です。そのため大抵の魔術師が使用する数字でもある」

「まさにおっしゃるとおり。さらに古代イスラエル期において夜の魔女リリトが存在。さらにタルムード~ミドラーシュ期において夜の妖女リリスが存在。さらに中世ユダヤ期において、アダムの最初の妻となり、悪魔サマエルの伴侶ともなり、一部伝承では下半身が蛇である。さらに近世~現代において、新生児守護の護符にリリス避けが存在」

「……嵐・蛇・女性性・護符などが一致。ここまでくれば、紋章の符号を有するゴルゴネイオンを基盤にすれば、魔術的接続は可能ですか……忌々しい。────しかも、その『リリス神話』……あなたが先ほど述べた『テュフォン神話』と『ゴルゴーン神話』の類似点にも、そのほとんどが当てはまります。当てはまらない部分は一点のみ。私(・)に(・)嵐(・)の(・)伝(・)承(・)が(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)です」

 

 アルファは歌(詠)を歌(唱)う。

 

「その嵐といえば! 本(・)当(・)に(・)な(・)い(・)の(・)か(・)な(・)?(・) ──さっきメドゥーサは、嵐は破壊的だと口にしたね? 破壊的といえばギリシャ神話において、戦神アレスや戦略女神アテナが思い浮かぶ。ただし前者は蛮族的だが、後者は理知的だ。故に戦神アレスは嵐を暴力的に扱うが、戦略女神アテナは嵐を制御的に扱う。現に文献では、戦略女神アテナが激怒した際は、しばしば『雷鳴のような声』『稲妻のような眼差し』など、嵐的メタファーで表現されている」

「────…………」

「そんな戦略女神アテナは、嵐を司る海神ポセイドンの陵辱あるいは加護を受けたメドゥーサの首を、とある天界守護の盾に嵌め込んだ。すなわちアイギスの盾。それは、もしや嵐(・)を(・)制(・)御(・)す(・)る(・)武(・)具(・)だったのでは……?」

「あなたの狙いは完璧に見抜きました」

「では言ってごらんなさい」

 

 メドゥーサはバイザーを外す。

 石化の魔眼(キュベレイ)を以て、マスターを直視する。

 

「私の霊基に嵐の特性を追加し、それを制御できる金翼・神盾・精神干渉系護符といった能力を持(・)た(・)せ(・)よ(・)う(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)」

「合ってるけどち(・)ょ(・)っ(・)と(・)違(・)う(・)。──最(・)後(・)に(・)決(・)め(・)る(・)の(・)は(・)君(・)だ(・)よ(・)、魔術使いメドゥーサ」

 

 アルファは手を叩いて話を締め(注連)る。

 それから石化されて殺される前に、すたこらさっさと逃げていった。

 

          §

 

 三日後。

 知識女神キュベレイの掲示板に、新たな依頼が張り出される。

 

 『各神話に密書を届けて、他主神の密書を受け取り持ち帰れ』

 『白き巨人を倒せ』

 『第二次ギガントマキアを勝利に導け』

 『オリュンポス十二機英を倒せ』

 『黒幕の正体を暴け』

 『宙域を拓き、あらゆる敵を滅せ』

 

 これにはさすがにアルファがボヤく。

 すると小宮果穂と篠澤広が意見した。

 

「ちょっといやかなり極めて、無理難題が過ぎるんじゃないっすかァ~?!」

「えっと……この中で一番簡単そうなのは……『密書』ですか?」

「そうだね。併せて各神話にβ抗体のアンプルを配布できる。でも安全な航路を辿るためには足が欲しい」

「それなら当てがある。ぶっちゃけこれも兼ねて製造していた。──サバージオス~」

「はっ! なるほど……! サバージオスさんの宇宙船を借りるんですね……っ!」

「貸してくれる?」

 

 三人に問われたサバージオスは、明朗快活な口調で答える。

 

「当然だ。試運転にちょうどいい。神々の戦いを生き残れない宇宙船では意味がないからな」

「よっし許可も取れたし、急ピッチで宇宙船の製造を進めるか! でも素材が足りねぇ!」

「ならぁ……周回、ですっ!!」

「ふふ……正直もうヘトヘトだけど……あと一息ならいけるか、も?」

 

          §

 

 三日後。

 完成した。

 

 機神残骸の魔力資源(リソース)をふんだんに使って、竜体残骸(テュフォン)の修理・改修に成功。

 

 初期兵装も完備してある。

 炉心宝具『蒸竜炉心・洪水颱風(スチームコア・トライストーム)』

 羅針宝具『宙の羅針盤(コスモポンポス)』

 発射台宝具『弓兵神殿(ヘカテボロス)』

 対界宝具『神罰雷霆/空間破砕(ヘカティック・ランパス)』

 

 そうして新生した竜体を起動すると、頭脳体たる少女型ホログラムが投影されて、命名を要求される。

 

 名付け親はサバージオスが適任だろう。

 彼はしばらく考えると、この新型竜体に似合う名前を名付けた。

 

「お前は────『トロイア・ネオス』だ」

 

 命名完了。

 頭脳体は、トロイア・ネオスの艦長としてサバージオスの神格を登録。

 

 そこでプログラムを覗いていたヘカテーが、あることに気づいた。

 

「おや? やはりトロイア・ネオスはティターン系列艦と同じ霊基を放っているな。これならティターン系の敵性エネミーは、下級程度ならトロイア・ネオスを仲間と誤認する。文字取りトロイの木馬になれるぞ!」

 

 一方、メドゥーサからも報告がある。

 

「あれから暇を見つけては素材を集めて、翼・盾・肖像護符の三重構造を有する簡易的な魔術礼装を作成しました。アイギスの盾、もといゴルゴネイオンの彫像です。しかし私は道具作成スキルを持たないため、本格的な魔術礼装の作成となると数ヶ月から数年を要します。そのため、ヘカテー」

「あいよ!」

 

 最強女神ヘカテーは神言魔術を行使。

 なんと一瞬で、ゴルゴネイオンの衝角を作成した。どうやら雛形が万全であれば、一瞬で宝具級の魔術礼装を作成できるらしい。さすがは現役の魔術女神である。

 

「では、私はアテナ系の武具は使いたくないので。どうぞご自由に」

「そう言うと思ったよ。だから衝角(ラム)の形にしたんだ。──これでいいんだよな、アルファ?」

「ああ。トロイア・ネオスの兵装として取り付けてくれ。──宇宙の嵐を切り裂く船首像……竜体型宇宙船トロイア・ネオスの初期兵装としては、文句なしだろ!」

「……やはり、最初からそのつもりだったのですね。まったく……」

 

 メドゥーサは溜め息をつく。どうやら自分だけ周回に参加していなかったので、別の形でトロイア・ネオスの制作に関わりを持つよう、アルファに誘導されていたようだ。

 

 ────メドゥーサ。お前テュフォンになれ。

 

 あれはすなわち、まさに今この状況を意味していたセリフだったのだろう。

 たしかにメドゥーサの源流となるゴルゴネイオンが兵装として装着された。

 まったくアルファという人間は、なかなかに油断ならないマスターである。

 

「────……みんな、感謝する」

 

 ふいにサバージオスが、慣れないことを言い出した。

 それに第一声を返したのは、小宮果穂である。

 

「っ~~~! ────はいっ! どういたしましてーっ!!」

「ふふ……サバージオスが素直になった。明日は雪が降る?」

「ありがとーいえるひとはねー? なんかうまくいくっておかあさいってたー」

「ワフッ!!」

 

 どうやら周回を繰り返す中で、多少なりとも絆が深まった様子。

 

「感謝不要。主命に従って働きを見せたに過ぎぬ身なれば」

「為朝(みぎ)に同じく。しかし良い兆候である。適切な感謝は能率を高める」

「楽しくなって、きたね……僕、早く乗りたくて、ワクワクしてるよ……!」

「……私は特に何もしていませんので、受け取るものは何もありませんね」

 

 それでもサバージオスは、全員を招待する。

 

「アルファ。ヘカテー」

「応」

「なんだ?」

「……みんな、俺のトロイア・ネオスに乗ってくれるか。まだ試運転の段階だが────夢想でも構わない。思い描いてほしい。いつか俺の勇姿を見届けるために。俺が……宙(ソラ)を征く可能性を────」

 

 一同はうなずく。

 かくして一行は『彼方の冒険竜(トロイア・ネオス)』に乗り込んだ。

 

          §

 

 一同は『各神話に密書を届けて、他主神の密書を受け取り持ち帰れ』を受注して、さっそく飛び立つ。

 トロイア・ネオスは咆哮を上げてアフターバーナーを点火。雲より高い大空に飛翔。戦闘機群を軽々と蹴散らしつつ、南方から反時計回りで他神話のテクスチャを巡る。まずはエジプト神話、次いでメソポタミア神話圏、ゲルマン神話圏。

 

 最後のケルト神話圏で、魔眼神バロールへの目通りが叶い、β抗体と密書を届け終える。

 ちなみにβ抗体については『不要であれば捨てて良し』という名目で、密書の中に忍ばせておき、各神話の主神のプライドを守りつつ、配ることに成功していた。

 

 その帰り道。トロイア・ネオスはメンテナンスのため森林に着地。ヘカテーやサバージオスが整備している間、ほかは周辺の警戒に当たる。そこで小宮果穂とボイジャーは、岩に突き刺さった剣を見つけた。

 

 なんとなしに引き抜いてみる。

 星のような光を放つ不思議な剣。黄金の粒子が帯を巻くように散り、舞い、揺れる。

 

 はしゃぐ小宮果穂とマメ丸は瞳を光り輝かせて、なんともスゴそうな剣を持ち帰った。

 

 それは星の聖剣。人類の希望の結晶。世界の危機に呼応して目覚める最終決戦兵装。

 この特異点の黒幕は、その存在を把握していたはずだ。抑止力の介入を予見していたはずだ。それなのに黒幕は、なんの対策も取らなかった。おめおめと抑止力の派遣員に聖剣を渡す愚行。それはある意味で懸命と言えた。どうせ何をしても聖剣は選ばれし者の手に渡る。ならばそれを食い止めようと兵を派遣したところで無意味。無駄な犠牲が積もるばかり。それゆえ何もしなかった。十二機英さえ差し向けなかった。

 

 そのようにアルファとヘカテーは考える。それにしても、立派な木の枝を見つけて拾い、家に持ち帰る子供じゃあるまいに。小宮果穂はとんでもないものを拾ってきた。さっそくアルファは、トロイア・ネオスに聖剣を装填しようと提案。その機構の製作をヘカテーが請け負い、助手にキャスタークラスを欲しがったので、篠澤広がお願いしてバベッジを割り当てた。

 

 かくして一行はフリュギアに帰還する。

 報酬として聖杯の雫を獲得。これにて4個目。さっそく聖剣装填の材料として使わせてもらう。

 

 

 

          §

 

 

 

  異聞化特異点     人理定礎値EX  

 

 B.C.6000 古代神話大戦 ウェスト・ユーラシア・プレート

 

      ‐傲慢なる機織り‐      

 

 

 

          §

 

 

 

 受諾──『第二次ギガントマキアを勝利に導け』──!

 

「どうやって?」

 

 アルファの素朴な疑問が炸裂する。この無茶苦茶な戦力差でいったい何をどうすれば勝てるというのか。

 

「それでもヒーローなら、やらなきゃいけないんですっ!」

 

 小宮果穂は事態の重さを理解しているのか、理解してないのか、ヒーローポーズと共に覚悟を決めていた。

 

「大本を倒せばいい。方向性はコレでいいとして、どうやって大本を探し出すか」

 

 篠澤広が最短の解を煮詰める。

 

「仮に見つけ出したところで、黒幕を倒せる保証もないぞ」

 

 サバージオスが現実を突きつける。

 

「……どうするアルファ?」

 

 最強女神ヘカテーは話題をパスした。おそらく千里眼で見えているのだろう。

 次のアルファの決断を。

 

「暗殺神ヘルメスを使って黒幕の居所を聞き出す」

『……!』

「問題はどうやって吐かせるかだが、俺の読心術だけでは心もとない。ほかに案はあるか?」

『…………』

「ではこの議題と並行して戦略を練る」

 

 かくして流れるような作戦会議が始まった。

 

「そも『第二次ギガントマキア』とは何か? 知識女神キュベレイは何も教えてくれない。まず間違いなく情報漏洩を警戒している。そこで思い出せ。俺達は以前、各神話の主神クラスに密書を届けた。ありゃほぼ『神話連合の戦略概要』と見ていいだろう」

 

 その考察にサバージオスはうなずく。

 

「つまり『各神話がヴェルバー03を破壊するため共同戦線を張る』……その戦いの火蓋を切って落とす戦場が『第二次ギガントマキア』だと……そう言いたいのか。俺も同感だが、甚だ疑問が残る。というのも旗頭は誰にする。まさかキュベレイの旗のもとに? かつて人理は一介の人間のマスターを旗印としたようだが……集うだろうか。神話の神々だぞ? 俺が言うべきことではないだろうが、神々は曲者ぞろいというレベルではない」

「そこは知識女神キュベレイのことだ。おそらく『この日付・この時刻に、こちらは動く』という程度の情報しか送ってないだろう。他神話の連中に命令して、黙って従ってくれるはずもなし。むしろ従わないことを見越して行動を誘導する。キュベレイならそれができる。──どうだ?」

「……その手の手段を取る可能性は、なくはない」

 

 ならばとアルファは、もっと根本的なものを深掘りする。

 

「ここで前提を振り返ろう。──果穂、そもヴェルバーやセファールとはなんぞや? 考察も交えて答えて良し」

「……! はいっ! 答えますっ!」

 

 小宮果穂は本特異点に訪れた際、ボイジャーやバベッジの解説を理解できなかった。が、のちに篠澤広から噛み砕いて解説してもらい、ある程度の概要は理解している。その理解力を今こそ披露する時。

 

「まず、宇宙には捕食遊星(ハーヴェストスター)という、ほかの星を襲って食べちゃう『ジュウリン(蹂躙)装置』があります! 見た目は『涙の形をした目』みたいです! 構造は、親機の周囲に、たくさんの子機が集まっている感じです!

 次に、親機の説明をします! 親機の型番は『ヴェルバー00』と仮の名を付けて、『ジュウリン装置』の中心に核(コア)として存在しています! 悪の親玉です……っ!!

 次に、子機の説明をします! 子機の型番は『ヴェルバー01』から『ヴェルバー03』まで確認されていて、『ジュウリン装置』の周囲に集まっています! そして親機(00)の出撃命令を受けてから出撃準備を始めます! まず輸送母艦『星舟』を引っ張り出して、その中に『尖兵(アンチセル)』を『トウサイ(搭載)』します! 次に星舟を『ワク(惑)星』に投下します! 星に着地した星舟から尖兵が出てきて暴れ始めます! 最後はその星を『ジュウリン』して、ほろぼしちゃいます! 悪の幹部たちです……っ!!」

 

「では果穂。各子機の概要を説明できるか?」

「それは……ごめんなさいっ! まだ勉強中です……っ! ──ひ、広さん……!」

「果穂、よく説明できたね。えらい。よしよし。──それじゃあ続きは任せて。わたしが説明する、ね?」

 

 小宮果穂は篠澤広にバトンタッチする。その際、褒められて頭を撫でられて嬉しかった。

 対する篠澤広は腕を組んで、すまし顔、滔々と解説する。

 

「その前に前提知識の確認。遊星は『ヴォイドセル』という機能を有する。これは当該惑星の有機情報を摂取して尖兵(アンチセル)を建造するために必要な機能。つまり『目には目、歯には歯』と似たもので、当該惑星を効率的に蹂躙するためには、当該惑星と類似する兵器を使えばいい、という戦略構想からくる機能だと思う」

 

 それは非常に合理的な一面が存在する。例えばの話だが、もしもヴェルバーにとって地球の酸素が毒であった場合、ヴェルバーは地球を蹂躙できず自滅するだろう。そういった『弱点』を回避するために、あえて蹂躙対象の土俵に立って挑むというのは、ある意味では潔いと言えた。

 

「つまりヴェルバーの子機とは、この地球に存在する有機体と酷似した形態を取って蹂躙してくる可能性が非常に高い。そしてこのことは『セファール02』の事例で既に証明されている。──ここまでは、いい?」

 

 一同はうなずく。

 

「じゃあ既存情報の共有が済んで、みんな基本概要も理解しているようだから……これからはわたしの憶測を多分に交えて話していく、ね?」

 

 それで構わないと言いたげに、一同は篠澤広の推理に傾聴する。

 

「まず『ヴェルバー01』は詳細不明。ただし機能は『金剛の精神』と推理。個体名は不明だけど、残骸回収の周回中にとある隕鉄を発見したから、それにちなんで仮称『ユレイライト』と命名。

 次に『ヴェルバー02』は詳細判明済み。個体名を『セファール』と言う。約1万4千年前における汎人類史の地球に襲来した『肉体の破壊』の戦術核的尖兵(アンチセル)。なお魔術史におけるフン族の王アッティラの原型は、このセファールだとされる。

 最後『ヴェルバー03』は詳細不明。ただし機能は『魂の浸食』すなわち『β汚染』と判明済み。こちらも個体名は不明だけど、機能から類推して仮称『アドラステア』と命名。

 なおこの推理の大半は、最強女神ヘカテーの千里眼から得た情報が源泉であることに留意が必要。──考察と解説は以上。アルファ、これでいい?」

 

 アルファはうなずくと、腕を組んで仰ぎ、瞬発思考。

 次の瞬間、立て板に水のように思考を口に出し始めた。

 

「この世界でもそうだろうが、俺達の世界でも『数々の古代壁画』が存在する。ヴェルバー02の個体名セファールは、その名を魔術的に紐解くと明らかに……『1万2千年前から数千年前に描かれたとされるタッシリ・ナジェール洞窟壁画の白き巨人神(セファール)』と『ヘブライ語の記録(セファー)』が由来だろう。ちなみに記録といえば『アルタミラ壁画』も、スペイン語で『高所観測』を意味する。つまり『記録』の意味を持つわけだな。──そこで思う。遊星は1万4千年の周期で襲来する。毎回必ず地球に襲来するとは限らないが、太陽系には必ず襲来していたと仮定すると……『2万8千年前』『4万2千年前』『5万6千年前』『7万年前』『8万4千年前』『9万8千年前』『11万2千年前』……などのように、遊星の襲来時期はある程度予測できる」

 

 息継ぎなしで語るアルファは一拍のひと呼吸を置く。

 

「ここで1万4千年前の前後に製作されたと思しき洞窟壁画に絞って考えよう。前後の誤差は1万年程度とする。

 一、『アルタミラ壁画』はスペイン北部カンタブリアに存在。壁画にはバイソン・猪・馬・トナカイなどの動物が描かれており、魔術的に力・豊穣・狩猟・聖獣を思わせる。推定製作時期は2万年前のため、セファール襲来より6千年も昔だ。しかし魔術的に過去とは流動的ゆえ製作時期はなんの根拠にもならない。では何を根拠にすれば良いのか? 言うまでもなく神(・)秘(・)だ。故に、こちらもセファール関連だろうなぁ。以前、時計塔の天体科で『セファールは西方から東方にかけて移動して聖剣使いに倒された』という伝承を小耳に挟んだ。スペインは欧州の西端だ。これだけでお釣りが来る神秘性だろう。その一方で広の考察も魅力的だ。

 二、『ラスコー洞窟壁画』はフランス南西部ドルドーニュに存在。壁画には馬・牛・鹿・鳥頭の男が描かれている。魔術的には野性・人獣・シャーマン的な解釈が可能だろう。推定製作時期は1万8千年前のため、セファール襲来より4千年も昔だ。

 三、『フォン=ド=ゴーム洞窟壁画』はフランス南西部ドルドーニュに存在。壁画にはバイソンや馬などが描かれている。魔術的には群れ・秩序・共同体・狩猟に関する団結などが象徴的か。推定製作時期は1万7千年前のため、セファール襲来より3千年は昔だな

 四、『ルフィニャック壁画』はフランス南西部ドルドーニュに存在。壁画には二百頭ものマンモスが描かれているとか。魔術的には数・力・死の恐怖などを意味するだろう。推定製作時期は1万4千年前のためドンピシャリ。なお汎人類史のセファール伝承において、ヴォイドセルによるマンモス型の尖兵(アンチセル)は未確認だ。つまり遊星とは無関係の可能性もあるが……これはちょっと要警戒。

 五、『タッシリ・ナジェール洞窟壁画』はアルジェリア南部サハラ砂漠に存在。壁画には白き巨人神セファールや謎めく火星の神が描かれている。魔術的には非常に力強い象徴だろう。推定製作時期は1万2千年前から数千年前。前者なら誤差2千年か。まず間違いなくセファール関係だ」

 

 アルファは再び一拍置いた。重々しいため息をつく。

 

「フゥ……やけにフランスが多いなぁ。嫌な予感がする。──で、なぜ今ここでユーラシア大陸の古代壁画を述べたのかといえば、彼を知り己を知ればなんとやらだ。──総員、ヴ(・)ェ(・)ル(・)バ(・)ー(・)0(・)2(・)&(・)0(・)3(・)系(・)列(・)尖(・)兵(・)の(・)襲(・)来(・)に(・)備(・)え(・)よ(・)。一度に多数の尖兵(アンチセル)を相手取る可能性を視野に入れといてくれ」

『……っッ!!?』

 

 篠澤広以外が驚く。

 なぜそのようなことを警戒するのか。

 それにその言い方だとまるで、全ての壁画がヴェルバー関係かのような物言いだ。

 

「次はβ汚染の考察だ。ぶっちゃけβ汚染ってなんだ? ヴェルバー03の能力なら、そこはギリシャ文字で3を意味するγ(ガンマ)じゃないのか? そもそもβ汚染は誰が命名した」

 

 アルファはわざとらしく問いかける。

 篠澤広が答えた。

 

「命名者は知らないけど、ギリシャ文字で2を意味するβ(ベータ)で正しい。なぜならヴェルバー03の個体名は『アルタミラ壁画』に由来するだろうから」

『────』

 

 サバージオスは怪訝そうに押し黙る。バベッジや源為朝は演算を開始。

 どうにもアルファ達は、推理の仕方が俯瞰(メタ)視点に近い。ただの未来人ではなく異世界人というだけあり、神のような視座で物事を探求しているように見受けられる。

 

 そこで小宮果穂が問いかけた。

 

「え? でも……アルタミラ壁画は、あたしたちの世界だと、セファールに由来しているんじゃ……?」

「俺が特星運命(Fate/EXTELLA)世界に行った際はそうだったが、代わりにタッシリ・ナジェール洞窟壁画は由来から外されていた。そして冠位運命(Fate/Grand Order)世界に行った際は、その逆だった。ということは、この特異点がどちらの世界なのか、どちらでもない世界なのかで、また由来が変わってくる可能性がすこぶる高い。どうやらセファール関連はちょっとの平行世界ごとに、ゆ(・)ら(・)ぎ(・)が強くなるようだ」

 

 次の瞬間、サバージオスが口を挟む。

 それに篠澤広が即答した。

 

「ヴェルバー03の正体はアドラステアと口にしたな。彼女は主神ゼウスと宿命女神アナンケーの娘だ。機神と土着神の合いの子ゆえ遊星の尖兵とは思えん。根拠はあるのか」

「名前が似ているから」

「ふざけているのか?」

「大真面目だけど? ほかに根拠が欲しいなら説明する。まずβ汚染は魂の汚染。それは神々の魂を傀儡化させるほどの強力な神秘を誇る。そしてアドラステアの権能は『必中』だとヘカテーから聞いた。合ってるよね?」

「……ああ。俺もそのように聞き知る」

「ならよかった。アドラステアは必中の権能を有する。なるほどそれなら神すら縛ることも容易。現に無数の神がβ汚染されて支配されている現状が証拠の一つ目。次にヘカテーの千里眼によれば、この特異点のヴェルバー03は魂の浸食を司るらしい。さらにヘカテーの千里眼仲間によれば『セファール以外のヴェルバーのひとつは復讐の女神を原型に持つ』とのこと。これの信憑性はヘカテーに対する信頼度に依存する」

「……」

「ここからは推理の工程説明。最初は義憤女神ネメシスに近い何かの存在かな? と思ったけど……アルファが『神々と壁画の連想性について調べろ』と言うから、ぱぱっと調べた。そうしたらアルタミラ壁画と名前の近い、裁きの女神アドラステアが気になった。名前の近さは神秘の近さ。しかも彼女は義憤女神ネメシスと同一視される神格。ほぼ的中かな? と思った」

「…………」

「でも裁きの女神アドラステアは、たしかに機神ゼウスとアナンケーの娘。遊星は完全に地球とは別存在ゆえ出自が異なる矛盾が生じる。ただしセファールの頭脳体が偉人アッティラとして生きた前例がある。もしそれと類似する状況が発生しているなら……ここから完全な憶測になるけど、ヴ(・)ェ(・)ル(・)バ(・)ー(・)0(・)3(・)は(・)襲(・)来(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)」

「────なに?」

「ただし疑(・)似(・)的(・)に(・)襲(・)来(・)し(・)て(・)い(・)る(・)可能性は高い。なぜかというと、この特異点は神代のギリシャ神話のテクスチャ上にある。ヘカテーによれば、裁きの女神アドラステアは既に生まれていると聞いた。けれど今どこにいるかは分からない。オリュンポス十二機神が『あっ』という間に倒された以上、ほとんどのギリシャの神々は殺されて冥府に落ちていると見るべき。ならば裁きの女神アドラステアも例外ではないと思う。だから以前冥界下りをした際、裁きの女神アドラステアが本当に死んで冥府に落ちているのか探したかったけど、そんな余裕はなかった……」

「──……」

「あ、結論から言う? 黒幕はセファール襲来の混乱に乗じて聖杯の力を使い、セファールのアルタミラ成分をアドラステアにぶち込んで、裁きの女神をヴェルバー03に仕立て上げた。そして彼女の必中権能に、本来ならヴェルバー03が持つ『魂の浸食』と言うべき汚染効果を組み合わせて、あらゆる神性を支配しようとした。けどオリュンポス十二機神は、おそらくセファールにあえて殺されることで神霊となり冥界へ逃げ込み、β汚染を例外的に免れた。もしかして死者まで必中することはできないのかも? そしてティターン系列艦隊は回避できなかった。でも場合によってはガイアだけ本当に、復讐心から黒幕と手を組んだ可能性もある。なんにせよ黒幕はヴェルバー03の情報を有していると見た。よって黒幕は、セファールどころかその分霊ギガースまでβ汚染して支配下に置いている可能性が濃厚。──以上、質問ある?」

 

 篠澤広は耳を向けてたずねる。

 

「……猿の妄想には付き合いきれん。黒幕やヴェルバー03の正体がどうであれ、俺のトロイア・ネオスで最終的に叩き潰せば良いだけのことだ。異論あるか」

「ない。じゃあ次は戦い方を決める?」

 

 そこでアルファが方針を決めた。

 

「β抗体でβ汚染の接触感染は防げても、さすがに必中権能を喰らえば抗体を貫通される。よって必中の対策は絶対だ。あとはパワーでねじ伏せるしかない。それがサバージオス向きだというのなら」

「言われるまでも。……それで、対策はあるのか」

「ある。死ねばいい」

 

 ふとした提案。

 さすがのサバージオスも息を呑む。

 

「──……お前のことだ。言葉通りの意味だけではないのだろう。聞かせろ」

「果穂と広は蘇生宝具を有する。かたや高速回復系蘇生かつ無制限。かたや死者復活系蘇生かつ三回限り。必中汚染は後者でなければ回避できない。が、なぜ後者でなければ無意味なのか突き止めれば前者でも可能だ。俺は境界性と見る。現世と冥界の境界線を越えれば必中権能が途切れると見た。『死者は裁けぬ』という神秘でも働いてんのかもな。そして、そこに黒幕の秘密もあると見る。が、今それはどうでもいい。──前者の話に戻る。果穂に憑依する神性は旅路を司る。つまりテクスチャという境界を越えてきた神だ。宝具の鍵も扉という境界線として神秘を増すことができ、命湧き出る泉も範囲を増せば海と化し陸との境界線となる。そのへんはヘカテーの魔術で改良してもらおうか」

 

「というわけで既に改良済みだ」 最強女神ヘカテーは胸を張り腰に手を当て、どうだと自慢げに鼻を鳴らす。

 

「つまり準備は万端。あとは三回限りの宝具をいかにして使うかだが……おそらく黒幕は令呪やら聖杯やら使って、境界線を越えて必中汚染を確実に当てに来るだろう。そのため広の宝具はそちらに回す。──で、あとは臨機応変に。って感じかな? どうせ細部を煮詰めたところで有象無象の神霊に滅茶苦茶にされるんだ。ならこっちからも滅茶苦茶にして、なんとか隙を突いて生き残りつつ活路を切り開くしかねぇ。ワンミスで死ぬからな~。文字通り死力を尽くしていくぞ~!」

 

 既に大枠はまとまっていた。

 さっそく一同はトロイア・ネオスに乗り込み、最終決戦に出撃する。

 

          §

 

 黒海沿岸は今日も今日とて激戦区。

 

 β汚染された数万の神霊が列をなしてアナトリア半島に進軍。最後尾では、肉体構成が半壊している白き巨人セファールが控えており、聖剣で切り裂かれた傷跡の残る上半身を海面から出して、片手には“折れた軍神アレスの剣”を手にしていた。その周囲には、セファールの分霊たるギガース系列が無尽蔵に生み出されており、四方八方のテクスチャに向かって進軍している。

 

 半壊しているとはいえ、やけにセファールは大人しい。たとえ半壊していても、彼女ひとりで大陸全土を蹂躙できる力があるのに、あえて配下のギガースを生み出して多面戦争を執り行っている。それは通常のセファールの蹂躙方法とは真逆と言えた。そもそもセファールが完全に倒されてもいないのに、その分霊たるギガースが生まれることも不思議といえば不思議である。

 仮に篠澤広の読みが的中している場合、このセファールやギガース、そして神霊軍団の布陣は、黒幕ならではの『兵法』と言えるだろう。つまり蹂躙による征服が目的ではなく、多方向に侵略行為を働くことが目的。もしセファールを単騎で向かわせればあっという間に決着が付くが、それでは目的を遂げられないが故の後方配備なのだろう。つまり黒幕も、地球が滅びるのは困る、という事だろうか。

 

「────ヘカテー。神話連合軍はいつ出る」

 

 トロイア・ネオス内部の司令室にて、腕を組み仁王立つサバージオスが問いかける。

 

「わからん。千里眼でも読み切れん。この期に及んで各神話が諜報戦を始めやがった。各神話の千里眼持ちを妨害してやがる」

「そうか。誰も先駆けたくない、というわけだな。大陸中の神が雁首揃えて、セファールに怯えているのか」

「そうなる」

「では────そんな臆病者どもとはちがうということを、このサバージオスが見せてやろう!」

 

 かつての主神たるサバージオスは簒奪の片手を掲げる。

 足元でマメ丸と遊んでいたいろはちゃんは、それを目にして真似をした。

 

「総員、戦闘配備! トロイア・ネオス、出撃する────!!」

「しゅちゅげきー! ──かんでないよっ!!」

「ワンッ!」

 

 炉心室、励起。蒸気王バベッジは宝具を起動する。

 

「蒸気圧最大────『蒸竜炉心・洪水颱風(スチームコア・トライストーム)』────!!」

 

 竜眼発光。偉大なる竜体は大翼を展開。蒸気圧縮、炉心燃焼、魔力膨張、最大推力。そこへ宝具による再点火。アフターバーナー起動。魔力追加、爆発噴射、炉心再燃焼、魔力密度向上。大翼と背部の隙間、さらに脇下に配列されたビッグノズルから蒸気混じる大規模な魔力噴流を巻き起こし、疾うに超えている音速を遥かに超えて頭突き、音の壁に亀裂を叩き込む。

 

『■■■■■■────────────!!!!』

 

 かくて炎速を誇るトロイア・ネオスは、黒海を干上がらせるほどの大炎熱大推力を以て吶喊した。

 咆哮が黒海の海原をかち割り、猛るソニックブームが数多の下級神霊を雑魚のように蹴散らしていく。

 

 後方に布陣するギリシャ神域の巨大海軍────近未来的な無数の軍艦に乗り込む、オリュンポス兵〔ランサー〕、対人殲滅装置〔アサシン〕、広域殲滅兵器〔ランサー〕、舵輪犬ケルベロス〔ライダー〕、水晶土塊兵クリスタルゴーレム〔バーサーカー〕、紅玉土塊兵ルビーゴーレム〔バーサーカー〕、源銀大蛇オリジン・ヒュドラ〔アーチャー〕、源銀女怪オリジン・ラミア〔キャスター〕、原銀合成獣オリジン・キメラ〔バーサーカー〕、獅鷲蛇スフィンクス〔キャスター〕など────の大軍団を音の衝撃波の一撃で一斉轟沈させ、目指すはセファールの素首。

 

 黒海に大嵐が吹き荒び始める。中級神霊の軍勢が一斉に神性を発揮して、トロイア・ネオスの突貫を妨害してきた。

 すかさずメドゥーサが大規模魔術を行使する。

 

「仕方ありませんね────『嵐を切り裂く船首像(アンズー・バアル・ゴルゴネイオン)』────!」

 

 中級神霊軍団の大嵐を引き裂いて黒海の中心部に突き進む。

 そこへ上級神霊軍団の迎撃魔砲が豪雨のごとく発射された。

 

「アーチャー!」

「承知ッ!」

 

 射撃室に仁王立つ源為朝は、トロイア・ネオスの兵装たる『弓兵神殿(ヘカテボロス)』に接続された剛竜大弓を構える。其は弓兵一騎の狙撃能力を高める魔術陣地。狙撃だけでなく射撃・迎撃の三種機能に対応した月光空間。みなぎる魔力は青光と煌めき出す。

 

「天威型迎撃式弾雨改(アンティマキックレインキャノンあらため)────」

 

 天眼波動探知機(セレスティアル・スキャナー)in黒鳥礼装(レーダー)にて敵陣弾幕を一つ残らず感知。直感演算、全弾道超分析。

 天衝慣性核(アマツ・インターロック)にて射撃用意。

 天威破神弓(アマツ・アーク)にエネルギー矢をつがえ、引き絞り────発射。

 

 至高の弓兵たる鎮西八郎が認める結果は、ただ当たり前の全(・)弾(・)迎(・)撃(・)のみ。

 

「────霊基出力数値EX(レベル・オーバーロード)ォッ!!」

 

 無数の青黒いビーム矢。

 それは竜体の弾道器官を高速通過して、竜体全身に配備された弾管から外部に解き放たれる。

 

 かくて敵弾幕がトロイア・ネオスに着弾する寸前、竜体の周囲で爆裂する神霊魔砲群。それは本来なら竜体を爆撃して跡形もなく引き裂き黒海の底に沈める第一波だったが……なんとその全てが一気怒涛と撃ち落とされて、黒海を照らす爆裂花火となっていた

 

 瞬く間に花火の黒煙を引き裂いて無傷の竜体を晒したトロイア・ネオスは大口を開けて牙を剥き出し、さらなる猛き咆哮を上げて加速する。

 

 それが開戦の狼煙となった。

 

 海を越え山を越え、あらゆる霊峰霊地の神域から鬨の声が上がる。

 大神は勝利の槍を掲げ、乱神は魔眼を怪しく光らせ、美神は宝石を惜しげもなく投げ込み、それに続く蛮勇なヒッタイト帝国軍は無数の機鋼軍艦を駆って下級神霊軍団と激突していく。

 

 そしてトロイア・ネオスは、ギガースの軍勢と接敵する。人竜一体の巨人機竜と巨竜機人。上半身と下半身が人か竜かで異なり、ティターン由来かセファール由来かで能力も異なる二種軍勢。人の腕を持つ者は竜鱗剣を奮い、竜の喉を持つ者は巨炎鱗を吐く。

 

「ここは俺のアイギスで────!」

「お前の劣化版じゃ無理だ! ここは雷霆を使う!」

 

 サバージオスの『劣赤模造・神体結界(レッド・アイギス)』では、無数のギガースの軍勢攻撃を防ぎきれない。

 そのためヘカテーは切り札を起動。

 

「────『神罰雷霆/空間破砕(ヘカティック・ランパス)』────!」

 

 其はゼウスの雷霆と遜色ない究極攻撃の一種。

 対象が存在する空間に無数の亀裂を入れて轢断するもよし。

 対象が存在する空間そのものを破壊して粉みじんに抹消するもよし。

 生成した時空断層の中に対象を取り込んで亜空間に永続封印するもよし。

 いずれにせよ空間爆砕の名残として、雷のような極光が空間を裂くように爆裂する。

 

 一掃されるギガースの軍勢。

 破砕した空間座標にはセファールも入っていたはずだが、神秘の格が圧倒的に上位なのか傷一つ付いていない。

 

「────────────────────────」

 

 静かなるセファールは、軍神の剣を振り上げた。

 それはひとふりするだけで、紙切れのようにトロイア・ネオスは両断されるだろう。

 

「広!」

「おっけー」

 

 アルファの指示を受けた篠澤広は、ポチッと柔らかいボタンを押した。

 トロイア・ネオスの頭脳体が、追加兵装の起動を確認する。

 

『聖剣宝具起動────艦長の承認許可が必要です』

 

 ならばとサバージオスは雄叫びを上げた。

 

「斬り伏せろ! ────『我、宙を征く聖剣(スペースオデッセイ・マルミアドワーズ)』────ッ!!」

 

 竜体の右手は、左腰に佩いた黄金の鞘から、星の聖剣を抜刀する。

 海上を翔ぶ竜体は面を上げ、左手で柄を支えつつ、光纏う剣を頭上に高々と掲げた。

 

 セファールは水平切りの構え。

 トロイア・ネオスは袈裟斬りの構え。

 軍神の剣と勝利の剣が音を斬り始める。

 

『承認受諾────『約束された遠征の剣(エクスカリバー)』、起動────!』

 

 星の光は莫大な極光を噴き上げる。

 雲居を突く光の柱。

 霊長の祈りを象った結晶剣は、霊長の滅びを呼ぶ蹂躙剣を砕(・)き(・)────

 

「果穂!」

「はいっ!」

 

 ────真っ向勝負で、白き巨人を一刀両断せしめた。

 

 胴体分かたれた白き巨人。

 それぞれの半身が轟沈していく。

 

「ボイジャー、おねがい!」

「おーけー、果穂……!」

 

 されど油断ならない。

 右半身と左半身とに分かれた二(・)体(・)のセファールは、それぞれの目から一粒の涙を流す。

 

 それがなんであるか。神霊だけは目にした瞬間に理解して、身の毛がよだつ。

 最強女神ヘカテーが叫び、艦長サバージオスが雄叫びを上げる。

 

「来るぞ! あれがアルファの言っていた、最後っ屁の対星蹂躙だ────っ!!」

「うぉおおおおお! ────『劣赤模造・神体結界(レッド・アイギス)』────!!」

 

 右目の涙が、先に落ちて海面を打った。

 

 黒海爆砕、転覆消滅。

 テクスチャが噴き剥がされて裏側の世界が蹂躙されていく。

 

 青き海は白きカンバスのごとく虚無へと変転し、その虚無すらも焼き滅ぼすように黒く燃え広がっていく。

 その燃焼に巻き込まれれば、宇宙の暗黒と同質化する。つまりは観測不能なまでの消し炭だ。

 こういった隠し玉を備えているため、初期段階でセファールを倒すことは賢明とは言えない。これに気づかず先に倒してしまったことで滅びた世界もあったとか。

 

 トロイア・ネオスは急上昇。急加速で全力の回避機動を取る。

 触手のように魔の手を伸ばしてくる宇宙の暗黒燃焼。

 神体結界で竜体を守護するが、その結界そのものが瞬く間に焼き尽くされていく。

 

 左目の涙が、続けて落ちて裏側の世界を打った。

 

 原始地球、崩壊消滅。

 これを以て地球の先史時代にミッシングリンクが発生。

 

 もはや地球の霊長は、誰ひとりとして、白き巨人によって滅ぼされた原始地球の記録を閲覧することは不可能となった。

 それは根源接続者であっても、閲覧不可のブラックボックスになるのだとか。

 観測の蹂躙。記録の蹂躙。それもまたヴェルバー02/セファールの蹂躙機能。

 

 宇宙の暗黒より深いブラックデータが襲い来る。

 それに呑み込まれれば不可視どころでは済まない。存在自体が消滅する。あるいは最悪、消滅したという事実すら観測できなくなる。それは完全なる消滅を意味していた。

 

「とーりゃー! ────スイング・バイ────!!」

 

 しかし此処に、ど(・)ち(・)ら(・)の(・)消(・)滅(・)に(・)対(・)し(・)て(・)も(・)耐(・)性(・)の(・)あ(・)る(・)英(・)霊(・)が(・)い(・)た(・)。

 

 宇宙の暗黒となるまで消し炭にしてくる熱波。

 宇宙から消滅させるまで追いかけてくる黒桐。

 

 青き星から飛び立ち、39枚の家族写真を撮って、消息を絶った、今や観測不可の宇宙探査機。

 ひとに見送られて虚無の一部となり、ほしを見送って暗黒の一部となった、今は遥か希望の箱。

 

 そんな英霊が残した、全て遠き星の海を映す、一枚の観測記録が存在する。

 

 最後の一枚の、彼方より見守る星の名こそ────

 

「────『遥か青き星よ(ペイル・ブルー・ドット)』────!!」

 

 ────人理の可能性を証明する対星宝具。

 

 蹂躙攻撃が有する運動エネルギーを奪い、それをそのまま竜体に付与する。

 ブラックホールのような熱波は減速していき、トロイア・ネオスは加速していく。

 追いつけない蹂躙、突き放す咆哮。

 

 やがて白き巨人は、裏側の世界ではなく、原始地球のテクスチャですらない、星の内海へと沈んでいった。

 

 かくして、ふた粒の滅びを呼ぶ涙を振り切ったトロイア・ネオスは、気づけば大気圏を突破。

 そこは宙域の危険領域。β汚染されたティターン系列艦隊の艦砲射撃や戦闘機群の弾幕と猛撃を浴びる。

 

 しかしティターン陣営と交戦していた同型機の戦闘機群は、よくよく見ればヒッタイト帝国の国章を尾翼に塗っていた。今まで宙域でドッグファイトを繰り返していたのは、なんとヒッタイト帝国の空軍だった。アルファたちのように残骸を回収して戦闘機を造り直し、空の戦いに出向いたのか。

 そして今回は神話連合を結んでいるため、フリュギア軍として報告されているトロイア・ネオスを攻撃することはない。むしろ主戦力に据えているのか、セファールを倒すほどの竜体を失うわけにはいかないと、是が非でも命懸けで庇い立てしてくる。

 

「よしっ!! 倒したセファールからなんとか生き残った! あとは雑魚を蹴散らしつつ黒幕の動向に注意しろ!」

 

 アルファの声が飛ぶ。

 トロイア・ネオスは急速旋回で弾幕を躱しつつバリアフィールドを展開。躱しきれない光弾を逸らして被弾を最小限に抑える。

 

 その時、トロイア・ネオスと源為朝のレーダーに強力な魔力反応が映った。

 

「複合霊基、八騎感知。射撃準備よし────」

『霊基識別────オリュンポス十二機英が八騎、来ます』

 

 小宮果穂は周回で稼いだ宝石を射出。イシュタルの砲撃支援を借りて迎撃する。が、十二騎英は必中の美神砲撃を難なく躱し、あるいは無傷で済まし、トロイア・ネオスと激発する。

 

 雷霆人間フランケンシュタイン〔ゼウス/バーサーカー〕

 恐慌王妃エウロペ〔ヘラ/ライダー〕

 彫刻機人ガラテア〔アフロディーテ/バーサーカー〕

 国家守護テノチティトラン〔ヘスティア/プリテンダー〕

 蛮族戦神 呂布奉先〔アレス/バーサーカー〕

 豊穣忍者 加藤段蔵〔デメテル/アサシン〕

 鍛冶傀儡 果心居士〔ヘファイストス/アサシン〕

 水着海神フランケンシュタイン〔ポセイドン/セイバー〕

 

 敵バーサーカーの一撃、トロイア・ネオスに押し勝ち。

 敵アサシンの潜入、神体結界をすり抜けて司令室に迫る。

 

 乱戦。

 司令室で敵アサシン二騎と鍔迫り合うサバージオスとヘカテー。

 外部では六騎がトロイア・ネオスに痛打を与えており、敵プリテンダーが宝具開放。都市巨人を召喚。トロイア・ネオスと殴り合う。その間、敵セイバーは敵ライダーの神牛戦車に同乗し、宝具開放のため電撃的な魔力をチャージしていた。敵バーサーカー三騎は大暴れを続けていた。このまま竜体のみで戦っていては手数で押し負ける。故にアルファと小宮果穂〔エポナ〕が出た。バイク宝具ブラックペガサス号で発進。敵ライダーとマニューバを繰り返して接戦、アルファは敵セイバーの宝具を阻止するため飛びかかる。

 

 竜体と都市巨人の空中格闘。

 バイクと神牛の戦闘機動。

 敵セイバーの霊基は海神の加護を有する。つまりは水系。アルファにとっては相性が良すぎる相手。敵セイバー・水着フランケンシュタインの波濤斬撃は本来圧殺を迫る即死攻撃だが、アルファからすればそれは魔力の塊(プール)を寄越してくれている状態に過ぎない。

 

「ここで切り札を斬るッ! 反吐が出る方法だが手段は選んでいられないッ! ここで貴様に殺されるか、あるいは奴らに取り殺されるか……蛇の道は蛇ってナァ! ────我は常世総ての悪を敷く者! 泥の眠りより醒め、人理の咎を守り給え!」

 

 アルファの英霊召喚。

 敵宝具の魔力を媒介にして、青年はこ(・)の(・)世(・)界(・)に(・)お(・)け(・)る(・)宿(・)敵(・)の(・)影(・)を召喚した。

 

 影霊。シャドウ・サーヴァント。

 アルファの周囲に展開される魔法陣の数は四枚。

 青年の存在そのものを触媒として召喚された四騎の影霊。

 

 彼らの真名は────

 

 多重人格者 黒姫〔プリテンダー〕

 呪の殺し手 甲賀三郎〔アサシン〕

 狂穢の山神 伊吹童子〔バーサーカー〕

 第六天魔王 蘆屋道満〔アルターエゴ〕

 

 アルファは四騎の霊基構成を閲覧。委細把握。

 

「朝の比奈! 昼の虎! 夕の朧! 夜の怠惰!」

 

 瞬間、黒姫の霊基より限定召喚される影の中の影は────

 観音菩薩の如し太陽の威光を放ち、巴御前が。

 紫電伴いし無双の剣豪が迅雷一閃、源頼光が。

 げに恐ろしき竜容を誇って雄叫ぶ、鬼女紅葉が。

 蛇の呪を背負い闇夜に乗じて斬る、望月千代女が。

 ────限定召喚されて、神戮を尽くす。

 

 炎舞う薙刀でガラテア=アフロディーテを焼き払い殺しきり、紫電の太刀で呂布奉先=アレスを八つ裂き夷しきり、焔の達磨でフランケンシュタイン=ポセイドンを焼き潰し劉しきり、闇纏う忍刀でエウロペ=ヘラの首を斬り刎ね殺しきる。

 

「深夜の逢瀬! 黎明の九尾!」

 

 黒姫の霊基の裡よりまろびる清少納言と玉藻の前。

 されど連続限定召喚の無茶が祟ったか、霊基は自我崩壊を起こして、黒姫たちは退去した。

 

 その間隙を突くように、フランケンシュタイン=ゼウスが宝具を開放。

 すかさず甲賀三郎も宝具を開帳。

 雷霆と水蛇の激発。

 趨勢は当然のごとく雷霆の方へ流れる。が、雷雨の奔流に飛び乗っていたアルファと伊吹童子が接敵。雷撃ほとばしる水の上を駆け抜けて、そのしるしを頂戴する。

 

「草薙剣!」

 

 伊吹童子は雷霆大樹の素首を刈り取り、万雷必殺の宝具を封じ込んで、トロイア・ネオスを守りきった。

 その偉業を目にした最強女神ヘカテーは、千里眼を以て事態の恐ろしさを認識する。

 

「おいおい、なんだあの外法を超えた邪法は……! 冥界以下とか、そんなの奈落(タルタロス)級の厄ネタじゃないか! 一度神に呪われて一度仏を殺した経歴でもなければ説明がつかない術式だぞ────」

 

 伊吹童子は霊基が暴走して神核の自壊を招き、即時退去。

 なお蘆屋道満はその姿を消していた。制御できない存在の召喚は、おそらく本特異点の歴史で単独行動を続け、召喚者の預かり知らぬ所で暴虐の限りを尽くすのだろう。故にアルファは勅命する。

 

「悪いアサシン! 仏(マーラ)を殺してこい……ッ!! 俺に召喚されたなら必ずできる! なんせ、それが“運命”だからな!」

「────御意に」

 

 召喚時、霊基構成にEXランクの単独行動が付与されていた甲賀三郎は、さっそく蘆屋道満を追跡するため気配を絶った。

 

 すべての影霊の手助けを失ったアルファは自由落下する。

 そこへ小宮果穂がバイクで駆けつけてキャッチした。

 

「ア────アルファさん! 今のは、いったい……!?」

「俺の過去を再現しただけだ。それより次は巨人を倒す。第一宝具準備!」

「は、はい────っ!!」

 

 小宮果穂は対軍宝具『天下無双の太陽天使(てんかむそうのサンエンジェル)』を発動する。

 それは一条の黒き彗星を描いて、都市巨人の核を貫いた。

 

 次の瞬間、アルファと小宮果穂の首から上が消し飛ばされる。

 竜体内部より追い出された二騎のアサシンが猛威を振るった。さすがにサバージオスとヘカテーを相手にしては暗殺不可能と悟り、すぐさま外で孤立している二人を暗殺宝具で狙ったのだろう。だがそれも篠澤広は織り込み済み。速やかに蘇生宝具を切る。

 

「────暗澹と不死ず、第五の供物は(ショロトル・メショロトル・)黍・竜・水魔なりけり(アショロトル・オルタナティブ)────」

 

 切り離されたアルファの首と胴体が黍(とうもろこし)に変わり、小宮果穂もまた竜のそれへと変化する。

 運命の死でさえも回避する神の贄。

 

 篠澤広の両脇に神出鬼没と出現したアルファと小宮果穂は、首と胴が繋がっており、自らの死亡と蘇生に自覚がなかった。

 しかし外に居たはずなのに、いつの間にか司令室に倒れている。篠澤広の魔力は明らかに底を突いており宝具使用後と見られる。ならばとアルファが指示を飛ばした。

 

「アーチャー! ライダー! 残敵殲滅!」

「承知!」

「はい!」

 

 源為朝とメドゥーサが宝具を開放。

 至高の鏑矢は加藤段蔵=デメテルの霊核を射貫き、音速の天馬は果心居士=ヘファイストスの全身を粉々に打ち砕いた。

 

 トロイア・ネオスは鉄拳を繰り出す。

 主を失って消滅間近の都市巨人の顔面を殴り飛ばし、アフターバーナー点火。

 

 音速を凌駕する神速を以て、彼らは八つの神御座す蒼穹の園を切り拓いた。

 航路はそのまま直上へ。地球と宇宙空間の境界線まで飛び上がる。

 

「夥多喇叭(カタラッパ)。────『天幕を張れ、終末の凱旋(アサルト・セル)』────」

 

 外部より謎の声。

 同時、トロイア・ネオスの演算機構は、地表からは見えなかった謎の無数物体を次々と検知。

 

 地球の衛星軌道上を埋め尽くす大量のコロニー。しかし内部に生命反応は皆無。

 かくて一つ一つがアルテミス級の固定砲台を有しており、一斉に地(・)表(・)め(・)が(・)け(・)て(・)魔力光線を発射した。

 

 かの銀星の一撃は、一発で一国を焼き滅ぼす火力。

 劫火に焼かれた土地は向こう数百年草木も生えず、死の大地と化すだろう。

 

 そのうち数百発がトロイア・ネオスと、その背後にあるアナトリア半島全域、加えて集中的にフリュギア王国とヒッタイト帝国にに降り注ぐ。

 すかさず受け手は決死の選択を迫られた。

 

 トロイア・ネオスは全力回避機動を敢行。一発でも掠ればトロイア・ネオスは体内から即死する。アルファの瞬発思考による指示を受けていた小宮果穂は第二宝具『童夢震わす羅武光流(ドームふるわすラブコール)』を展開。司令室に生命の泉が溢れ出し、激流となって回廊を巡回し、既に数十発を掠らせているトロイア・ネオスを内側から何度も蘇生させていく。

 一方、知識女神キュベレイは神域結界を多層展開。銀星の即死砲撃を百数発防ぐが、残る十数発が王国郊外に着弾。衝撃の余波が地表の山河を含めて一切合切を薙ぎ払う。

 ヒッタイト帝国は今の刻限を以て滅亡した。ヒッタイト人の生存も文明も、その全てが現世から抹消。それによって信仰を物理的に失ったイシュタルは退去。信ずる人が全て死ねば、縋られる神は存在し得ない────

 

 かくして青き惑星は半壊した。

 トロイア・ネオスは地球の衛星軌道上から離脱。月の背後に回って死角を作る。

 

 アルファが声を荒らげた。

 

「ハ────なんなんだ今のはッ!!?」

『────っ……!!』

 

 常に冷静で先を見通す青年が、初めて混乱を叫んだ。

 あまりにも勢力に差がありすぎる。その事実を今しばらく受け入れられない。

 

 地球上の神霊のほとんどがヴェルバーに浸食されて敵に回った。それはまだいい。否、良くないが、ヴェルバーの襲撃を考えれば想定の範囲内だった。が────

 宇宙空間に、ありえないコロニーが星の数ほど布陣されていた。それは今まで観測できない暗黒として存在。すなわち黒幕の存在を示唆している。だがその黒幕が、アルテミス級の霊基を量産して地球を覆うレベルの配備を済ませているのは、さすがに想定外である。

 

「なんなんだ今回の敵は! なぜここまでする必要がある?! こんなの阿頼耶識が許すはずがないだが許しているってことはここまでの包囲網を敷いておきながら地球を壊す気は皆無ってことだ!! 現に俺たちは今まで生かされていた!! なら何が目的だ!? ここまでの準備をするほどの目的とは!? 俺たちの敵は何がしたいんだ……!!」

『……!』

 

 熱源感知。アルテミス級の火砲が一斉に向きを変え、月(・)面(・)に(・)掃(・)射(・)さ(・)れ(・)た(・)。

 数百のアラームが鳴り響く渦中で、アルファは叫ぶ。

 

「射程予測! 最短の星を盾にして冥王星まで遁走する!! ──果穂とライダーは騎乗宝具を使用! トロイア・ネオスを牽引して緊急回避を援護しろ!! ──バベッジ! 蒸気機関フル稼働! ──サバージオス!」

「言われずとも! うおおお! ────『劣鉛・神体結界(レッド・アイギス)』────!!」

 

 白銀の星霜が火を噴き上げ、太陽系が清掃される。

 月が毀れた。

 火星が砕けた。

 水星は爆ぜた。

 木星は破けた。

 金星は潰えた。

 土星は貫かれた。

 太陽は狙われなかった。

 冥王星までは届かなかった。

 

「ボイジャー!! 冥王星の衛星軌道を借りてスイングバイ! ここで決着をつける────!! 地球ごとブチ抜け!!」

『っ……!?』

「ためらうな! 敵は地球を守る! 必ずッッ!! だからありったけをぶつけろぉおおおおおおおっ!!」

 

 アルファの激昂命令。

 それを真っ先に承諾した豪傑は、神霊サバージオスだった。

 

 躊躇なく宇宙空間に身を晒し、遠く青き惑星(ふるさと)を見据える。

 

「聴け、我が相棒トロイア・ネオス。地表防衛プロトコル全解除ッ! 聖剣兵装起動ッ!! 今度は俺が出向くッ!!!」

「待て! 死ぬぞサバージオスぅ────!!」千里眼を光らせるヘカテーが青ざめた顔で叫んだ。

「分かっているさッ! だが殺らねば死ぬッ!! ならば殺って死ぬだけさッ!! ──アルファ! しばらくトロイア・ネオスの舵を任せた!」

「応ッ!!」

 

 トロイア・ネオスは聖剣を抜き放ち、メインパイロットたるサバージオスに手渡す。

 

(皮肉なものだな……青き星から出たがっていたこの俺が、今は青き星への帰還を自ら名乗り出るなど────)

 

 斯くて人類の祈りの結晶を携えるサバージオスは、船員(クルー)のボイジャーに命令を下した。

 

「ボイジャー! 俺を目的地(ちきゅう)まで連れて行けッ!!」

「了解! スイング・バイ────!!」

 

 神速を超えて雷速を叩き出す。

 冥王星の重力を速度に換えて。

 サバージオスは必殺を言祝ぐ。

 

「夥しい白骸(はくがい)の群れよ! 今この手にある黄金の勝利を刮目せよ!!」

 

 トロイア・ネオスを伴う神霊は、暗黒星雲(ネビュラ)を切り裂く聖剣を奮う。

 

「白銀の星霜を砕け! ────『我、宙を征く聖剣(スペースオデッセイ・マルミアドワーズ)』────ッ!!」

 

 決着は一瞬だった。

 黒き腕に揮われる、黄金なるや勝利の剣。

 選定は約束へ。騎士王の礎に大英雄の躍動ありき。

 連綿と繋がれる歴史の帯。そのことごとくを解き尽くそう。

 ゴルディアスの結び目は、星と宙(ソラ)の秩序さえ断ち切り、神なる豪雷を巻き落とす。

 

「而(しこう)して畏敬せよ! 我は騎乗の神なるぞ!

 ────『友誼べかり黒神の剣(エクスカリバー・サバージオス)』────ッ!!!」

 

 対地球・衛星軌道上殲滅兵装。

 稲光は地球の裏側まで轟き、灼熱の星光が惑星を覆い尽くす。

 

 焼き尽くされて討ち滅ぼされていく白銀のコロニー群。

 トロイア・ネオスは雷速の勢いで大気圏に突入。

 黒海に突っ込み、海底に激突した。

 そこを起点に大地震が発生する。

 

 衝撃による悲鳴。

 照明故障、室内暗転。

 赤いアラートが無数に鳴り響き、傷口からの大量浸水を警告する。

 みるみると足元が水浸しとなる中、アルファが起き上がった。

 

「ぐっ……! みんな、無事か!? トロイア・ネオス! 動けるか……?!」

 

 トロイア・ネオスに反応はない。

 最強女神ヘカテーは拳を震わせた。

 

「クソッ……!! 何が最強女神だ! 勝手に呼ばれた名前だが、これに応えずして何がギリシャの神か! もう我慢ならん! わたしも切り札を使うぞっ!! サバージオスの無念は無駄にしないッ!!」

『────勝手に殺すな』

 

 不意に通信回線が開いて、激しいノイズ混じりの男の声が響く。

 

『……!!? サバージオス────!?』

『ああ。どうやら全員、命だけは拾ったようだな……』

 

 一同は司令室から暗黒の海底を見渡す。

 人間のアルファやいろはちゃんは何も見えない。だがサーヴァントなら霊視のように見えている。小宮果穂と篠澤広が伝えた。

 

「アルファさん! あっちじゃなくてあっちです!」

「1km先にサバージオスが倒れてる。というか、埋まってる」

「────……ヘカテー! ヘルメスを解放しろ!」

「ああ言うと思った! だがなぜだ!? 理解できん!!」

 

 ヘカテーは千里眼を光らせながら困惑を叫ぶ。

 

「トロイア・ネオスは動かない! 大破した! 海底にも魔獣のたぐいはいる! ここにいるサーヴァント総出で向かってもたどり着けるか分からない! みんな負傷が激しいからだ! 故にサバージオスの救出は現状不可能! ならば無傷の奴がいる! そいつしかいない!」

「解放した瞬間に全滅もありうる! 逃げられでもしたら敵の戦力を増やすことにもなる!」

「今ここで死ねばどちらも同じ結果だ! 少なくとも杜野凛世を依代とするからには何かしらの事情があるはずだ! 人理に与する理由があるはず……!」

「それは敵だって同じだ! 黒幕は人理を破壊する気はない! いや太陽系はめちゃくちゃにしたが……神代ギリシャのテクノロジーを駆使すれば太陽系の復旧も訳ない! つまり敵も人理に与する理由がある! 故にヘルメスが人理側だとして、それがこ(・)ち(・)ら(・)側(・)だ(・)という確証がない! ……わたしも今こうなるまでは、てっきり遊星案件だと思い込んでいたが────実情は人間と人間の戦いだった! 敵は神霊はおろかヴェルバーを使ってまで叶えたい願いがあるだけで、そのために聖杯を求めて本特異点に召喚された! だから────」

「それでも俺達の側だと信じるしかない! さあ乗るか反るか! 結果は千里眼でも見えないか!?」

「っ……!! ……────ああ、まったく、これだから人間の博打は理解できん!!」

 

 喉元まで迫る海水。

 ヘカテーは苦渋の決断を下した。圧縮結界を解凍して、暗殺神ヘルメスを解放する。

 

 アルファの眼前に降り立つ杜野凛世。

 否、彼女の姿を借りた暗殺神ヘルメスは、ゆっくりと目を開けた。

 

 瞬間、メドゥーサが最大警戒して腰を屈める。

 それをアルファが片手で制した。

 

 ヘルメスは周囲を一瞥。

 ある程度の事情は把握した様子。

 

「──……僕の鎌で殺された女怪か。なら因果の逆転で使えるだろう。君が彼女のマスターかい? なら託すよ」

「……で?」アルファは、突然差し出されたハルペーを受け取りながら答えを急かす。

「ふむ。このままでは僕も溺れるね。神代濃度の深海魔力は、さすがの神霊でも溺死する。──人数分のサンダルはいるかな?」

「海水の圧殺は?」

「神代と現代の物理法則は異なる。心配せずとも、僕の魔力で覆ったサンダルを胸に抱いているだけで、自動的に海上へ浮上するよ。今度はこちらが尋ねる番だ。──なぜ僕を解き放った?」

「一蓮托生だから」

「なるほど。うん。シンプルだね。じゃあ行こうか。溺死はきっと苦しいだろうし?」

「ひとつ頼みがある。サバージオスを助けてくれるか」

「もちろんだとも。ちょっと予定から外れたけど、ここでの協力は支障ないだろう」

 

 かくして暗殺神ヘルメスは、トロイア・ネオスを含む人数分のサンダルを手渡し、サバージオスを回収して海面に浮上。

 

 

 

 一同は数週間、黒海で漂流する事になるが────周囲にはギガースの残骸が漂っている。

 それを材料にトロイア・ネオスを少しずつ修復していき、多少の移動能力を取り戻した頃、進路をフリュギア王国に向けた。

 

 

 

 凱旋である。

 

 

 

          § 幕間 §

 

 

 

 地球の衛星軌道上を回る宇宙迷彩コロニー。

 そこは聖杯を有する黒幕の拠点であった。

 

 黒海の海面に浮上した直後の暗殺神ヘルメスは、なに食わぬ顔で帰還する。

 

「ただいま、テルミドール」

「……どのツラ下げて戻ってきた。ヘルメス」

「このツラだけど?」

 

 沈黙。

 糸紡ぎの音だけが響く。

 

「……暗殺神ヘルメス。貴様は裏切った。故に処刑する」

「おやおや残酷苛烈。ちっとも容赦がないね。君、友達いないでしょ?」

「太陽神アポロンの言葉遣いを借りて俺をおちょくる貴様の方が友人いないだろう」

「うーん言えてる。ほら、僕は元人間だしさ? 一応アナトリアやエトルリアの土着民だし。後から席の空いたオリュンポス十二神に加入した訳で。特にその座に愛着もなかったから、最初は君に協力したけどさ。────さすがに地元爆撃はひどくなーい?」

「だから裏切ったのか」

「んー。そうなのかな?」

「サバージオスを救う必要はなかった」

「あり、なんでバレてるの? 海底まで見通す魔眼は、さすがに持っていないでしょ」

「俺のサーヴァントを舐めるな」

「……あ~。君、その手の魔術理論も得意なわけ? これは見誤ったな~。テクスチャを通して見ていたのかー。でもそれ針に穴を通すようなものじゃない?」

「糸紡ぎを生業とする者なら造作もない事だ」

「それはそう。仰る通りだね! でもさ。サバージオスはもう死んでるよ? だからアイツ、自分からサーヴァント化してまで生き残ろうとしたわけで」

「言い訳になってないぞ。サーヴァントも死ぬ海域だ。放っておけば死んでいた」

「反論の余地がない」

「貴様ふざけているな? かのヘルメスが雄弁に劣る訳が無い。……つまり、ここで殺されるのも織り込み済みか。やはり策謀を得手とする神は度し難い。人の知恵さえ凌駕される。故に処刑を命ずるが、その処刑すらも手のひらの上か。だがここで手を下さねば致命に陥るのだろう」

「もう遅いと思うけどね?」

「────死ね、ヘルメス」

 

 糸紡ぎの音が止まる。

 暗殺神ヘルメスは死を悟った。

 

「ここでネタバレ。僕を殺す英霊の真名はメドゥーサ=────」

 

 ヘルメスの神秘が紐解かれる。

 暗殺神を構成する織物(テクスチャ)が解体される。

 それは彼の存在を歴史から抹消するに等しい所業と言えた。

 

「……死んだか」

「────いえ、マスター。お許し下さい。最後にブラックボックスを逃しました」

「なに?」

「どうやら死に際、フリュギア陣営に情報を転送したようです」

「……そうか。ならば俺と貴様の真名は割れたと見ていい。だがアドラステアに関しては心配ないだろう。ヘルメスにも隠していた情報だ。そして安心するがいい。俺は異世界の文明を借り受けている。故に、これなる熱月のインフレーションを踰越(ゆえつ)できる外敵なぞ、今この世にありはしないさ────」

「故に無敵。我がマスターの勝利は磐石です」

 

 

 

         § 幕間休題 §

 

 

 

 フリュギア王国に帰還する道中。

 王国郊外に到着したためか、知識女神キュベレイの情報網に掛かったようで、三つの聖杯の雫が転送された。

 

 つまり──── 

 『第二次ギガントマキアを勝利に導け』

 『オリュンポス十二機英を倒せ』

 『黒幕の正体を暴け』

 ────上記三つの依頼を達成した、という事だろうか。

 

 しかし疑問がある。

 最後の『黒幕の正体を暴け』に関しては達成した覚えがない。

 

 何かの間違いだろうか。だがどのみち突き止める事なのだ。

 アルファは貰い物は使用する事にした。が、何かの手違いである可能性を考慮して、神の怒りを買わぬため、一応お伺いを立ててから使う事にする。

 

 かくして一同は三つの聖杯の雫を入手した。総数は七つとなり、一個の聖杯を作れる量とある。

 しかし新たに手に入れた三つの雫は、トロイア・ネオスの修復、おそらく一掃されたブートキャンプの復興、トロイア・ネオスの改修に使用する予定だ。

 

 その時、知識女神キュベレイから、更なる情報が転送された。

 最強女神ヘカテーは首をかしげる。

 

「む? スクロール形式のフォルダ……? これでは誰でも読めてしまうじゃないか。普段は暗号化しているくせに……いったい何があった?」

 

 ともあれアルファは情報の開示を求む。王国の現状を知りたい。

 やがて最強女神ヘカテーは、事の事情を把握し、口頭で述べる。

 

「先日、暗殺神ヘルメスから最期の伝令が届いた。アルファ一行が引いた旅路のラインを通して、メディオイの冥界からオケアノスの残骸を越え、フリュギアに転送された霊基情報(ブラックボックス)である。長距離通信のため内容はボロボロだったが、つい昨日(さくじつ)の夜、復元が完了した」

『……』

「黒幕の真名は────マクシミリアン・テルミドール改め、マクシミリアン・ロベスピエール」

『……!!』

「黒幕のサーヴァントの真名は────アラクネ=メドゥーサ」

『……!?』

「黒幕の陰謀全容は次の通り。糸紡ぎの女アラクネによるテクスチャの張り替えで人類史を制御し、フランスをより豊かに、より強固に、より幸福にする計画が、紀元前1万6千年から進行していた」

『────』

「かくして『黒幕の正体を暴け』は達成された。よくやった。もっと励め。さもなければ全滅だ。以上、知識女神キュベレイより」

『…………』

「追伸。死んでざまあないわねサバージオス」

 

 さすがにサバージオスが待ったをかける。

 

「おい。そんなことは書いてないはずだろう」

「まぁ言い方は違うが、たしかに書いてある。読むか?」

「……呪(祝)われそうだからやめておく」

 

 ともあれ黒幕の正体は判明した。

 暗殺神ヘルメスが情報源という点は若干信用しにくいものの、かの知識女神キュベレイが太鼓判を押しているなら信用できる情報なのだろう。そのようにアルファは考える。

 

「というわけでメドゥーサ。そろそろこの鎌を受け取ってくれ」

「お断りします。なぜ自らの死因を宝具に追加しなければならないのです」

「嫌なのは申し訳ないけど、戦力増強的に……不死殺しなんて活躍の機会しかないわけだし。だってそこらへんの雑魚敵に不死系エネミーがわんさといるんだから。さすがにネメアーが雑魚敵はインフレしすぎと思いますけど。つーか武器が効く時点でまがい物ですけど」

「…………いくらマスターの命令でも、少し考えさせてください」

「検討いただくだけで感謝ものです」

 

 なんだかんだ人の良いメドゥーサであった。

 善処すると言ってくれるなら、あとは時間の問題である。

 

「さて、今しがた閃いたんだが、これで異聞帯化の理由が判明したな」

『……?』

「そりゃ特異点化してから1万年も経過しているなら異聞帯にもなるが、それだけじゃない。アラクネによる人理改竄が既に行われている可能性が高い」

『……!』

「セファールはテクスチャを剥がす涙を最後に使った。あれを利用すれば、アラクネが栞を挟むくらい簡単だ。おそらく、それでアドラステアを作り出した。あとはご覧の通りだ」

 

 そこで篠澤広が待ったをかける。

 

「それはちょっと矛盾する。セファールを操るためにはアドラステアが必要なのに、セファールに涙を落とさせないとアドラステアが作れない。セファールの涙は操って落とさせたはず。最終兵器なんだから倒さないと起動できない」

「だから倒したんだろ。一度」

「……────」

「俺たちが戦ったセファールは剣が折れていた。おそらく過去、星の内海で製造された聖剣で破壊されたんだろう。その聖剣を使ったのが1万年前に召喚されたマクシミリアン・ロベスピエールだ。つまりアイツ、一度地球を救ってんだよ。その上で黒幕張ってんだ。なんかスゲェな!」

「根拠は?」

「勘」

「……」

「────と、経験則。まぁ別に外れていても大した誤りにはならない。とりまトロイア・ネオスを速やかに修復するのが先決だ。つーわけで早く帰ろうぜ!」

 

 

 

          §

 

 

 

  異聞化特異点       人理定礎値EX  

 

 B.C.6000 恩讐革命戦争 アンポッシブル・ネ・パ・フランセ

 

        ‐愛国の反動家‐       

 ‐Il faut de tout pour faire un monde‐

 

 

 

          §

 

 

 

 荒廃した大地。

 ブートキャンプがあった面影は皆無。

 

「そんな……………………」

 

 寂寥とした荒地。

 もはや命の数は無く、王国の外壁も陥落していた。

 

 その代わり神霊や魔獣の敵性エネミーも全滅したようで。

 しかし知識女神キュベレイが存在するという事は、それを信仰する人間が生存しているという事。

 

「少数だが生き残りがいるようだ」

 

 王国民は地下深くに避難していた。

 ゴルディアス王とその忠臣たちが現れる。

 

「────君達も生きていたのか。……しかしフリュギアも終わりだな……私は前王として何も成し得なかった……」

「国民は?」

「地下にこもっている。数はざっと数千人。ただし地下は冥界だ。いつまでもゴーストを撃退し続けることは難しい。あまり長くいると冥界の住人になってしまう。既に冥府の一員となってしまった国民も少なくない。だが、この荒れ果てた地上に出たところで、危険度はあまり変わらないな……」

 

 外敵は存在しないが、食糧が存在しない。

 ミダス王がいてもなお物質変換が追いつかず資源は底を尽きかけている。

 ならばとアルファが差し出した。

 

「聖杯の雫を使え。一個しか渡せないが」

「なに? …………そうか……恩に着る。この恩義は必ず返させてもらおう」

「……??????」(あれ? なんかおかしいな。……こいつも黒幕じゃね? 裏ボスって言うか……)

 

 アルファは致命的な見落としを直感する。

 だが直感の由来や事の是非が不明な以上、しばらくは様子見である。

 

(どういうことだ)

(うわびっくりした。おいヘカテー……いきなり念話を繋ぐなよ……あと千里眼で読心までしたのか? 俺のプライバシーはどこへ……いや、神様にプライバシーも糞も無かったわ! 少なくとも人間に対するプライバシーはゼロだったわー!)

(なぜゴルディアス王を怪しむ?)

(んー。──サーヴァントの霊基構成から生じる『直感スキル』の概念の由来ってさ。大抵は竜種じゃん? で、元の世界では俺、竜種に由来する山神に連なる堕天した邪仏様を殺しちまった過去があるからさ。それ関係で──この世界風に言うなら──『直感スキル』と同じ能力を後天的に得ているんだ。たとえば他心通とか? つまり俺がエスパーと呼ばれる所以だな!)

(話を逸らすな)

(逆説論理みたいで悪いけどさ。──革命家が居るなら、それと敵対する国王が居るのも、魔術的には運命(必然)だろ?)

(────)

 

          §

 

 その時、上空から降下物体が飛来した。

 鋼鉄の二足歩行兵器が着地。大地揺籃。

 

 錆び付いた真紅の逆関節機体は、炯眼を光らせて二条戦斧の武装を展開。

 

『────!?』

 

 咄嗟にアルファは、二つの聖杯の雫をヘカテーに投げ渡した。

 

「ま、そうくるよな! 俺もそっちならそうした! ──さて、ヘカテーとバベッジは速攻でトロイア・ネオスを完全修理しろ! 残りの奴らで撃退する! なんなら今が最終決戦だ! ここで殺さないと全滅必至だぞッ!! ──ゴルディアス王! そっちからも援護願う!」

「────了解した!」

 

 不意に真紅機体のコックピットハッチが開き、なんとフリュギア帽子を被った葛城リーリヤが顔を出す。

 アルファと小宮果穂と篠澤広は動揺。

 いろはちゃんは見知った顔が出てきたため挨拶した。

 

『……っっっ!!?』

「おはよっ! りーぴゃん!」

「ワンッ!」

 

 葛城リーリヤは一同を見下ろし、悠然と口を開いた。

 

「第一宝具・真名解禁────『溺れゆく骸は誰にも謳われず(アンサング・テルミドール)』────」

 

 その真名を、この世界に居る者は誰も知らない。

 だが、数々の異世界を渡り歩いてきたアルファだけは、彼の正体を看破した。

 

(────嘘だろ……マクシミリアン・ロベスピエール、テルミドール、アンサング────そして空を埋め尽くすアサルト・セル────しかもメカ好きの葛城リーリヤを依代に? 神霊ならいざ知らず、ロベスピエールの霊基に依代は不要だ。なら依代の用途としては────まさか、コイツ……っッ!!)

 

 アルファは神秘を紐解く。

 

「クラスはストレンジャーかプリテンダーか!? 葛城リーリヤを媒体に、異世界の知識を召喚したな……!! カラードランク1位! 融合した霊基の真名を、ステイシス・オッツダルヴァ……!!」

「ご名答。やはり異世界の旅人からすれば初見で見抜かれるか。よほど多くの世界を渡り歩いてきたと見える。──だが無意味。オッツダルヴァの技量とステイシスの機体を借り受けた、この偉業(異形)霊基に……キサマらが敵う道理は無いッ! 革命の火種となり焼け死ね、異世界人(フォーリナー)……!!」

 

 ロベスピエールはコックピットに飛び降りる。

 そこでサバージオスが最前線に歩き出した。

 

「アルファ。ここは俺が受け持とう」

「……平気か? もう神核はズタボロだろ」

「ああ。もうじき俺は死ぬ」

 

 神霊として死ねば、下位の精霊や妖精の分霊として零落するか、あるいは世界の裏側へ向かい地に眠る事になるか。ほかにも可能性は考えられるが────

 

「だが道半ばで終わる気はない」

「……考えがあるんだな?」

「ああ。故に俺ひとりでやらせろ。それにアイツは────俺の宿敵だ」

 

 サバージオスは黒い手腕に聖剣を携え、欠落した赤い鎧(アイギス)の魔力を励起する。

 

「向こうは宙への道を閉ざす革命家。ならば俺は、宙への道を拓かんとする冒険家だ。相対するは宿命と言えるッ!」

「第二宝具・真名解禁────『大浸軍(ラスコー・グランダルメ)』────」

 

 ロベスピエールは、裁きの女神アドラステアを召喚。

 すなわち『偽・ヴェルバー03』を召喚した。

 その姿にアルファは見覚えがあった。おそらくティターン系列艦隊の技術を借用し、異世界の知識からとある設計図まで借用したのだろう。

 

 多脚型の巨大母艦が上空に出現。

 フリュギア王国郊外に着地して大地震撼。

 

 かの真体の名こそ────

 

「────スピリット・オブ・マザーウィル……!!」

 

 更に遊星の浸食機能を模倣する裁きの女神アドラステアは、分霊として報復装置を大量生産。

 夥しい流線型の機体が水陸問わず発艦。小型ながら高機動。その姿もギガベースやスティグロとして見覚えがあった。

 

 対するサバージオスは、これだけの多勢を相手に、どうやって挑むのか。

 

「────神霊権能掌握。簒奪・掠奪の理を以て、標的の奸計を手中に収める」

 

 神核崩壊。

 信仰僅か。

 出力低減。

 雷霆震撼。

 

「神名、ゼウス・サバージオス。信仰が足りぬと言うなら。猿(ひと)の力が神霊に不可欠だと言うなら。その世迷言、この星に居る時だけは、甘んじて受け入れよう」

「なぜだ?」アルファは問いかける。

「────神(・)は(・)人(・)と(・)手(・)を(・)繋(・)が(・)ね(・)ば(・)、(・)何(・)を(・)成(・)す(・)事(・)も(・)度(・)し(・)難(・)い(・)と(・)知(・)っ(・)た(・)か(・)ら(・)────」

 

 かの星見台と凌ぎを削り合い学んだ。

 悩み、惑い、星を嫌悪し、宙に憧憬し、人類最後のマスターの旅路は最果てへと至った。

 

「────子猿! 俺に祈れ! 俺を頼れ! 俺も貴様の言葉に頼る!」

 

 危機的状況の中、のんきに砂遊びをしていたいろはちゃんは、サバージオスの叫びを聴いて立ち上がる。

 

「? ────……がんばえー! さばっちゃん……! ────かんでないよっ!!」

「その渾名は遠慮願おう!!」

 

 人からの応援。猿からの信仰。

 それに応えずして何か神かと、ギリシャ神の誇りを有するヘカテーは口走った。

 

 そんなもの霊長の座を奪われた神霊サバージオスからすれば反吐が出る感傷だ。

 なぜ他の神は人を愛する?

 なぜ他の神は劣ったものを佑(たす)ける。

 

 規格外の存在規模(スケール)を有するオリュンポス十二機神ですら、終いには人類を愛してこの星に根を下ろした。

 

 くだらない。つまらない。夢がない。世界が狭い。

 あれだけの力を持っておきながら、なぜゼウスという他神話の主神は、この星に執着したのか。

 

「貴様と習合されても、俺は俺だッ! 貴様の執着が星にあっても、俺の執着は宙にあるッ!!」

 

 神核自壊。

 信仰許容。

 出力限界突破。

 雷霆踰越・銀河再臨。

 

「だが貴様の夢は、この星を守りたいという意志は! 今この時だけ、宙を目指す俺が引き継ごう!」

 

 それが人理ならぬ、前霊長の名を冠した神理なれば。

 外宇宙の主神が人類史を愛し、青惑星の主神は神類史に焦がれた。

 

 もはや歴史は断絶し、神が霊長の座に返り咲く事はない。

 それでもと夢想する。だからこそ飛翔を夢見た。

 

「────全砲門、一斉掃射!」

 

 ロベスピエールの号令一下。

 裁きの女神アドラステアによる対星砲撃が差し迫る。

 

「うおおおおおっ! アイギス────!!」

 

 死んだ神核は零落し、いっときのマスターにいろはちゃんを指定。赤子の手の甲に青黒い令呪が刻まれる。

 蘇った霊核は仮初の肉体(エーテル)を纏い、ゴーストライナーとして記録された。

 

 人理は定義する。

 彼の適性クラスは過去を参照するにライダーか。あるいはアルターエゴか。

 

 否。

 この世界においては────

 

「────サーヴァント・大宇宙冒険野郎(オデュッセイア・アストロノーツ)!!

 真名をゼウス・サバージオス……宙域を拓き、あらゆる敵を滅するため、人理の影法師となりて此処に参上した! ありがたく思え、人類(猿共)っ!!」

 

 対星砲撃と神体結界(アイギス)の激突。

 神霊からサーヴァントへ零落した身では、魔力出力に天と地の差がある。故に押し負けるは必定。だがその不可能を覆してこその冒険家。サバージオスはサーヴァントの身でありながら、マスターに命令する。

 

「俺に全てを懸けろ! 子猿ぅ────!!」

「……? ────がんばれぇー!」

「ワンッ!」

 

 応援一回で令呪一画が消費される。

 神体結界・第二段階に移行。

 

 ひび割れつつあった一枚の神盾は人間ひとりと友誼を結び、二枚に増えた。

 数秒後の死を、更に数秒先へと間延びさせる。

 

「────サバージオス、がんばってー!!」

「……! ────さばじろう! がんばえー! ────かんでないよっ!!」

「ワンワンッ!!」

 

 小宮果穂とマメ丸が叫ぶ。

 それを真似したいろはちゃんが叫んだことで、令呪二画目が消費。

 

 神体結界・第三段階に移行。

 二枚の神盾は人間ふたりと友誼を結び、三枚に増えた。

 

 二乗された出力。

 拮抗を始める。

 

 そこでアルファと篠澤広が激励を送った。

 続けて小宮果穂といろはちゃんが腹から声を出して、ヒーローショーを見ている時のように声を枯らして応援する。

 

「ここで負けたら男が廃るぞサバージオス!!」

「……あなたからしたら、応援されることはひどく苛立つ事だろうけど……それでも、今だけはがんばって」

「サバージオスぅぅぅぅ!!」

「ねーねー! なにしてるのー?」

「ワフッ!?」

 

 いろはちゃんは応援に飽きたのか質問する。

 三画目の令呪が消費された。それでも中身は潤沢の魔力の塊。神霊サバージオスが死する際、今際の際に嬰児へ預けた余剰魔力。本来、人間は神代濃度の魔力に耐え切れず肉体が破裂する。神霊の魔力となれば更に濃度は高まり破裂どころの騒ぎではない。それでもサバージオスは、純粋な魂を有する嬰児であれば受け止め切れると判断し、令呪という能力を簒奪して、自らの神格の一部を三分割し、いろはちゃんの手の甲に預けた。

 

 神体結界・最終段階に移行。

 爆発的に増加した七枚の神盾は、さながら熾天覆う七つの円環がごとく、絶対守護の概念を誇る。

 

(────今更、サルが何を)

 

 サバージオスは忸怩たる想いで激励を受け取る。

 普段は神のことなんて忘却の隅に置くくせに、困った時だけ神頼み。

 

 内心穏やかではない。

 しかしそんな己も、かつては猿の神頼みに応える騎乗の神であったらしい。

 人々が望むまま、行く先々に雷を落とす、蹂躙と嵐の破壊神だったらしい。

 

 長い年月が流れ、アナトリア神話群はあらかた失伝し、人々から忘れ去られて信仰を失った主神は、もはやかつての自分の事など覚えていない。存在意義そのものが人類に牛耳られているのだ。

 どれだけ神に力があろうと、生殺与奪の権利は他人が握っている。

 

 その現状を恨み、怒り、憎み。

 故に時には、その権利すら、この黒い片腕で奪ってやろうと考えた事があった……かもしれない。

 

(それがまさか、な────!!)

 

 対星砲撃を押し返す莫大結界。

 アナトリア半島全域を覆い尽くすほどの神性を発散し尽くして、前進を開始。

 

 ロベスピエールは息を呑む。

 

「────腐り落ちても、さすがは元主神と言ったところか。だがこれで────!!」

 

 真紅の機体は急発進。ダメ押しでトドメを刺すべく、二条戦斧を振るい込んだ。

 神体結界が押されていく。サバージオスは地面に、二足の轍を残していく。

 

 そこでメドゥーサが叫んだ。

 

「やはりサバージオスの神性でも足りません! 裁きの女神の天秤権能は絶対です! アレを覆すには秩序が必要────!」

「ならサバージオスのアライメントは!? ────混沌に決まってるか!」

 

 記憶なく、人を猿と見下し、今は名を忘れ己の顔も忘れた顔なき神。

 サーヴァント化した際に、世を乱す存在として人理が定義するのも無理はない。

 

 裁きの女神は混沌と悪を断罪し、秩序と善を救済する。

 なればこそ、今のサバージオスでは分が悪い。

 

 だが────此処に例外が発生した。

 

「────お願いだ! 僕らの故郷を守ってくれ! サバージオス……!」

「お願い! 私の子供たちには生きてほしいのっ! サバージオス……!」

 

 一同のはるか後方から、ひとり、またひとり、サバージオスの名を叫ぶ声が続出する。

 それは難民の掛け声だった。

 ブートキャンプで交流した覚えはない。だが戦いの中で、彼らから一方的に、その名が知れ渡っていたらしい。

 

 いや、それよりも。

 地表一掃の際に全滅したと思っていたが、どうやら生き残りが少数いた模様。

 

 孤独の青年。子連れの母。頭から血を流す老婆。小太りの壮年。

 サバージオスは思わず振り返り、兜のアイラインから喫驚の赤光を発する。

 

(あの白銀掃射から生き残っただと……?! ────これだからサルは、ゴキブリ並みにしぶとくて嫌になる……!!)

 

 しかし、その内心はどこか口角を引くような声音だった。

 なぜなら名を呼ばれ、在り方を想起され、役割を固定される事は甚だ不愉快だが────

 

「こんな猿どもにかまけたオリュンポスの神霊には負けられん! そんなに神頼みしたければ、貴様らのありったけを俺に奪わせろ! ────うおおおおおお! 黒き光よ────!!」

 

 サバージオスの鎧の背後から黒き光が多条に拡散。

 いの一番にアルファが駆け出し、その黒き光に手を伸ばした。

 

「生命力・精神力・運命力、全部もってけ! テメェが勝たないと俺達は全滅だ! なら命の張りどきは、今ッ! ここしかないッ!!」

『────!!』

 

 勇気ある若人の生贄志願。

 それに倣い、小宮果穂も駆け出して黒き光を手に取る。

 続けて篠澤広も手を空に掲げ、黒き光を受け入れた。

 いろはちゃんとマメ丸も、真似してちっちゃくジャンプ。黒き光を掴み、咥える。

 

 難民は迷う。確かに助けてほしいとは願った。

 しかし、それに代償が必要と感じれば────身が竦む。

 

 代償は当然だ。理屈では理解しているはず。

 それでも人は愚かな生き物で。

 無償の愛を希望する。

 

 だからこそ、かの三人は覚悟を示したのだろう。

 

 ────俺に倣え。

 ────あたしの真似をして。

 ────みんな勇気を出して。

 

 醜悪なる人の咎を、今この瞬間、贖う為に。

 かくして難民は、一世一代の決断を下した。

 

『────もっていけ/もっていって!! ────サバージオス……ッッ!!!!!』

 

 簒奪神サバージオスが放つ黒き光は、奪うべきものを奪い去る。

 そうして奪い取った力を、我が物として猛威を奮う。

 

 なんのために?

 業腹だが────

 

「今は青き(かれら)人理のためにッ!!」

 

 刹那、裁きの女神アドラステアの権能が突破された。

 赤き神理にこだわった、人理からすれば混沌のサバージオスが────今。

 

 対星砲撃を押し返すどころか、神体結界ごと────裁きの女神を押し潰した。

 

 アドラステアの霊基粉砕。

 神体結界が大気を挟んで地表に蓋をした。

 圧縮された大気は爆風として地表を薙ぎ払う。

 

 一行や難民は生命力を吸われているため瀕死も同然。

 その爆風に吹き飛ばされてしまえば即死が確定する。

 

「────トロイア・ネオス! 発艦!」

「彼らの盾となりたまえ!」

 

 そこへ最強女神ヘカテーが操舵し、蒸気機関バベッジが出力全開。

 聖杯の雫を二つ費やし、完全修復したトロイア・ネオスが一陣の爆風に立ち向かい、それを巨躯で押し留めた。

 

『っ────!!!!』

 

 やがて爆風が止む。

 しんと静まり返る荒地。

 起き上がる一同や難民は無事。

 トロイア・ネオスが守ってくれた。

 

 しかしサバージオスはどこへ行ったのか。

 不意に真紅の機体が蒼穹を仰ぐ。

 その視線を追うと────真紅のマントを翻すサバージオスが浮遊していた。

 

「────サバージオス。よもやアドラステアを倒すとは……もしやその攻略法、既に見抜かれていたか……?」

「俺の小細工ではないぞ、ロベスピエール。おそらく賢い猿どもの仕業だろう。ヴェルバー03の正体が裁きの女神アドラステアであると見当を付けていたのはアルファと篠澤広だ。故に秩序以外の攻撃を無効化する権能を有している可能性まで目算していた。かくいう俺も驚いている。よもや猿どもの信仰を借りる羽目になるとはな……だがそのおかげで倒せたわけだ。つくづく人は神を利用する生き物だな。度し難い……」

 

 そこで難民達は気づく。

 全身は疲労困憊で、確かに今にも気絶しそうだが────死ぬ気配がない。

 

 普通、神に身を捧げることは死を意味する。

 だというのに死んでいない。

 つまりサバージオスは、生命力は奪っても、命までは奪わなかった事を意味する。

 

 難民達は歓声を上げた。

 サバージオスを、文字通りのヒーローとして拍手喝采、褒め称える。

 

 それを見下ろすサバージオスは、唾棄した。

 

「……身勝手な奴らだ」

「ああ。人は醜い。だから革命する必要がある。浄化する必要がある」

「…………」

「お前なら理解できるはずだ、サバージオス。宙に征きたいのならば邪魔はしない。私はフランス王国の理想を復興することが願いだ」

「そのために貴様は何を犠牲にする?」

「歴史だ。フランス以外の歴史を抹消する。そうすれば外敵は存在せず、フランスの栄光は絶対となる」

「────……であれば、やはり俺達は敵同士だ。サバージオス神殿が無ければ、俺は俺の記録を人類史に遺せない。完全に忘れ去られてしまえば、俺は宙に出ても存在を保てなくなるだろう」

 

 無論、いつかは人が縛る神の楔から脱却してみせる。

 だが、それまでは────

 

「猿共には、より多く、より多様に、生きていてもらわねば困る」

「……それが神霊の結論か。良いだろう。ならば────死ね!」

 

 ロベスピエールが乗る真紅の機体アンサングが跳躍した。

 

「我がサーヴァントよ! 大詰めだ! 裁きの女神アドラステア亡き今、星間権はこのマクシミリアン・ロベスピエールが牛耳った! 遊星は敗北し、ガイア孕みしティターン系列艦隊も白銀コロニーと共に滅び去った今、邪魔者はもう存在しない! 今こそ人理を改竄せよ! そしてフランスに栄光を! ────ヴィヴ・ラ・フランス!!」

 

 アンサングの後方にて、妙齢の女性が実体化する。

 真名をアラクネ=メドゥーサ。

 

 アヴェンジャーとして現界した霊基においては。

 神より卓越した裁縫の手腕を以て、人類史のテクスチャを縫い直す。

 

 このままではアラクネがテクスチャを張り替えてしまい、異聞帯化が確実となる。

 それこそ人理の崩壊を招く暴挙。故に、その前に撃破する必要がある。

 

「来い! トロイア・ネオス!!」

『■■■■■■■■■────!!!!!!!』

 

 すかさずサバージオスは相棒を呼びつけた。

 アルファたち一行は既にトロイア・ネオスに搭乗しており、最後に船長サバージオスがコックピットに飛び乗る。

 

「第一宝具・真名解禁────『義勇猛る二条戦斧(ラ・マルセイユーズ・フランキスカ)』────ッ!!」

 

 右手に自由戦斧リベルテ。左手に平等戦斧エガリテ。背中に搭載する友愛と博愛の大剣フラテルニテ。

 そのうち両手の戦斧を合体して融合。直後に別形状へと分離。自動攻防機能を有する三種のビット兵器に瞬時換装。

 

 自由と平等が招く武器は────

 勝利兵装ヴィクトワール。恐怖兵装テルール。美徳兵装ヴァルチュ。

 以上、三種のビット兵器を纏いつつ、背中の大剣フラテルニテを抜剣。

 

「トロイア・ネオス! 聖剣・抜楔(ばっけつ)────!!」

 

 対する竜体は聖剣を引き抜き、上段の構え。

 竜体と機体が剣戟を交わし、火花と咆哮と金属音とをがなり散らす。

 

 瞬間、竜体の左手首の制御回路が切り裂かれた。

 ロベスピエールは剣豪として知られている。

 剣術の技量において、今のアルファ陣営に敵う者は居ない。故に剣戟勝負は分が悪い。

 

 遊びのない冷静な剣筋。質実剛健でありながら、必要とあらば鳥のごとく飛び刺し、時に荒々しく叩っ斬り、時に恐ろしいほどの蛮勇さで危険に立ち向かい危険ごと斬り伏せる。言うなれば平静苛虐のフランス剣豪。

 

「その竜体、真っ二つにしてくれるッ!」

「剣戟でかなわぬなら押し切るまでッ!! バベッジ! 宝具だ……!」

「了解! ────『絢爛なりし灰塵世界(ディメンジョン・オブ・スチーム)』────!」

 

 トロイア・ネオスの噴射口から大量の蒸気が噴出。

 それは瞬く間に周辺環境を深い霧に変えた。

 

「煙幕! 小手先を……!」

 

 不意に深い霧の奥から、黒い影が音速を凌駕して迫る。

 

「トロイア・ネオス、突貫ッ!!」

「ただの力押しでぇ────!! 私の革命を覆せると思うなぁッ!!」

 

 聖剣を捨てた竜体は、ただの体当たりで機体に掴みかかる。

 すかさずロベスピエールは緊急回避で間合いからの離脱を試みるが────

 

「果穂!」

「はい!」

 

 深い霧に紛れて騎乗宝具を行使していたのか、機体背後にバイクが激突。緊急回避を妨害する。

 すかさずサバージオスが叫んだ。

 

「今だ、全員ベイルアウト! 自爆しろ、トロイア・ネオス────!!」

「────なにぃっ!?」

 

 ロベスピエールの驚愕と同時に、トロイア・ネオスは咆哮を上げて極光。

 大地を一掃する大爆発。その余波はサーヴァントですら即死級。衝撃波を浴びたアラクネ=メドゥーサは一撃で退去。

 

 かくして濃霧が爆散した。

 

 爆裂する竜体と機体は爆炎を上げて大破。

 二つの鋼鉄は地表に墜落。荒地に突き刺さりながら大地を抉って残骸と化した。

 

 ふと機体のコックピットが開き、ススだらけのロベスピエールが脱出。

 地上に転がり落ちた。

 

「ぐふっ……!?」

 

 そこへ、爆発直前に高機動で間合いから逃れていた小宮果穂のバイクが着地。アルファが後部座席から降り立つ。

 自爆前に離脱していたサバージオス達も駆けつけてきた。

 

「……なぜだ……サバージオス……貴様にとって、あの竜体は大切ではなかったのか……」

「大切さ。しかし物は壊れても直せる。トロイア・ネオスも承知の上だ。相棒を忘れなければ、またいつか直せる」

「……合理的だな……」

「……────」

 

 サバージオスは、自らの黒い腕を見下ろす。

 そうして、なぜこのような感傷に浸っているのかは不明だが────思わず問いかけた。

 

「貴様の夢は────共に叶えることはできないのか?」

「────なに?」

「無論、願いとは相反するもの。どうしても逆の願いが叶ってしまう事も道理と言える。なぜなら霊長は奪い合う事で発展してきた。競争、比較は、悪でありながら必要原罪の常として存続し続けている」

「……神霊が、人理を語るか……?」

「聖杯が人理を語ったのだ。自然の嬰児が人の願いを想って吐いた台詞だ。であれば……その澄み切った魂の言葉を、どうして無下にできようか」

 

 ロベスピエールはふらつきながら立ち上がる。

 源為朝やメドゥーサは臨戦態勢。

 アルファは腕を組んで傍観していた。

 ロベスピエールは天を仰ぐ。

 

「……夢とは美しいものだ。神の実在と霊魂の不滅は、魔術世界において夢物語ではなかった。しかしそれを知らぬ物理法則の人類は、今なお神の不在証明に苦しんでいる。ならば、夢は在るのだと。神は在ったのだと。誰かが伝えねばなるまい。たとえそれが魔術世界において神秘の零落を招こうとも、それでフランス国民の夢が一つ叶い、一つの幸福が満たされるのであれば────また、ひとつ、また、ひとつ、そうやって少しずつ幸福を増やして行き、そうすればいつかは────故に私の夢はフランス国民の夢である。フランスのためなら私は何度でも夢に挑み続ける。私達の幸福を得るために夢を追い続ける。皆が求める恒久的な世界平和そのものを────アクなき探究を求め続ける」

 

 ロベスピエールこそアストライアの再来。

 恐怖政治こそティタノマキアの再来。

 殉教者こそイフィゲネイアの再来。

 教育理想こそケイローンの再来。

 失脚こそプロメテウスの再来。

 すなわちフランス革命とは、民衆が熱月に浮き足立つ近代神話と言える。

 

 その神秘を基盤として、ギリシャ神話のテクスチャを励起。

 それをアラクネの糸紡ぎで、そのままフ(・)ラ(・)ン(・)ス(・)王(・)国(・)の(・)テ(・)ク(・)ス(・)チ(・)ャ(・)に(・)縫(・)い(・)付(・)け(・)る(・)。

 かくして神代ギリシャの超テクノロジーをフランス王国にもたらす事で、フランス国民に幸福的特異点(シンギュラリティ)を贈ろうとした。

 ひとつの神話と、ひとつの王国を、時を越えてテクスチャごと縫合する魔術儀式。

 

 それは革命家らしい前代未聞の活動と言えた。

 ただし、片方の世界を犠牲にした上で片方の世界を平和にする。

 それこそ人の世の常たる闘争劇でもあった。

 

 それについてサバージオスは指摘する。

 

「つまり貴様は……端から誰とも手を取り合う気は無かった、という訳か」

「私は清廉であるが、私達は清廉を否定する」

「……」

「誰も殺さぬ世界の先は、誰をも殺す世界しかない。だがその反対は在ると知れ。私が証明してみせる。人類の黴菌(ばいきん)を殺し尽くし、民衆を救う世界へと立ち向かう為に!」

 

 ロベスピエールは理想を高らかに謳い抜剣。

 アルファとヘカテー以外の一同が身構える。

 ロベスピエールは剣を大地に突き刺して霊脈に接続。詠唱は礼装に代行させ、即時の英霊召喚を敢行した。すかさず拳銃を引き抜くと、メドゥーサに向かって発砲。

 

 メドゥーサは短剣で銃弾を弾くが、それはただの銃弾ではなかった。銃弾内部に隠されていた丸薬が破裂する。それはメドゥーサの霊基に干渉した時点で霊基汚染を始める魔術粉末だった。短剣も霊基の一部であるため、すぐさまメドゥーサの体内に汚染が広がる。

 一方のアルファはハルペーを振り上げ、一閃。

 

「狂人の戯言に見せかけて、しっかり二の矢を用意しているのは流石と言うべきか」

 

 ロベスピエールの狙いは、メドゥーサの霊基を触媒としたアラクネの再召喚である。わざわざクラス・アルターエゴでアラクネ=メドゥーサという複合霊基を召喚した理由は、本特異点がギリシャであるからこそ、野良サーヴァントとしてメドゥーサが召喚されていた場合、まさにこういう時の布石として利用できると考えた為だろう。

 

 アラクネ=メドゥーサという真名を聞いた時から、アルファはメドゥーサの霊基が利用される恐れを懸念していた。

 メドゥーサとアラクネは神話上で同一視される瞬間がある。それを利用して何か事を起こすつもりなのでは? と。

 そして、いきなり暗殺神ヘルメスが不死殺しの鎌ハルペーを譲渡してきた事を思い出し、こういう事態を予測した。

 

 アラクネの再召喚。すなわちアラクネの復活。復活とは蘇生である。蘇生とは不死である。

 アラクネが蘇る事は、イコール、アラクネの不死を意味するため、その神秘のみを刈り取る鎌で攻撃すれば、メドゥーサまで斬る事にはならない。無論、完全に霊基が融合してしまえばその限りではないが────アルファは最速で最適解を導き出していた。

 

「カハッ────!?」

 

 メドゥーサは内側に降霊しかけたアラクネの魂によって霊基異常を起こし、膝をつく。

 今まさにアルファが、そのアラクネの魂をハルペーで刈り取ってくれたが────あと数秒遅ければ自分も死んでいた事実に驚愕していた。

 

『……!?』

「さて、ロベスピエール。三の矢は────あるか?」

「これどっちが黒幕だ?」

 

 最強女神ヘカテーが呆れ気味にツッコむ。

 この人間はあまりにも人の裏を読み慣れている。読み慣れ過ぎている。おそらくこのような目に何度も遭ってきたのだろう。

 

「……フッ。もうないさ。後は特攻するのみ」

「そうか。つまり味方が一人もいなくなったのか。なら────」

 

 アルファはハルペーを肩にかけて歩き出す。

 

「要するにさ。俺達の戦いは、正義と正義のぶつかり合いって事だよな? イイぜ、そういうのは好むところだ。殺生ありきの正義は聖雄から程遠いが、まぁそれは俺の趣味だからさておいて」

 

 アルファはロベスピエールの傍らに立つと、くるりと反転。

 小宮果穂たちと見つめ合う。

 まるでロベスピエールの側に回るかのように佇んでいる。

 

「……なんのつもりだ?」

「俺はアンタみたいに正義の体現者じゃない。中立中庸がだーいすきな、ただの正義の味方だ。ならば正義の味方として、だれかひとりくらいは、その人の『正義』に────『味方』────しなくっちゃなぁ?」

『────……っ!!?』

「じゃないと不公平じゃないか。コイツだって夢追い人なんだぜ? 夢はみんなで叶えるもんだ! 俺はその手伝いをするヒーローなんだよ」

『……────』

「ただし! ロベスピエール。俺が味方に付く以上、これ以上の狼藉は許さない。殺生も許さん。だが折衝は大歓迎だ! ──おい今の笑うとこだぜ? 世界平和に笑顔は大事だろ?」

 

 小宮果穂は目を見開く。

 思いもよらないアルファの行動に動揺を隠せない。

 

 正義の味方とは何か。

 ヒーローとは何か。

 英雄とは何か。

 

 それは誰かを笑顔にすること。

 もし、そうなら。

 小宮果穂は知らず知らず胸の内を震わせており、どこかワクワクするように口角を引いて、同じヒーローでありライバルであるアルファの瞳を見据えていた。

 

「つーわけだ、みんな。そっちは人理を救ってくれ。俺はコイツの正義に味方する」

「……アルファさん……」

「悪いな、果穂。びっくりしたろうけど、これが俺っていう人間性なのよね……我ながらひねくれちゃってまぁ……!」

 

 ロベスピエールもまた、アルファの言動に呆然としていた。

 

「……それが、貴様の正義か」

「ああん? 俺に正義なんて殊勝なもんは無いよ。あるのは信念とか信条とかそんなもん。誰かの正義に味方するっていう、自分自身(アイデンティティ)の無い誇りさ」

「……“誰かを助ける”……その誇りは、既に『正義』なれば」

「それはアンタの定義だろう? 俺は俺の価値観で正義とは何かを定義してるんでね。まぁでもそう言ってくれてありがとよ。──じゃ、みんな。これがホントの最終決戦だ。どっからでも掛かってこい。割とマジで行くから覚悟しとけよ? あ、為朝とメドゥーサは俺の側に付くかどうか、ちゃんと自分の頭で考えて行動してネ!」

 

 並び立つは、ロベスピエールとアルファ。

 向かい合うは、サバージオスとヘカテー、小宮果穂と篠澤広、源為朝とメドゥーサ、ボイジャーとバベッジ、後方にいろはちゃんとマメ丸。

 

 かくしてマクシミリアン・ロベスピエールは、革命の剣を抜き放ち、サバージオスに吶喊する。

 

「ゆくぞ、アナトリアの救世主(ヒーロー)! 誰かを殺す世界の先に、誰をも殺さぬ世界が生まれる未来(あす)があることを! 殉教の淵より見守っていろ────ォッ!!」

「……、────!!」

 

 黒い腕に携える聖剣と、革命の剣が火花を散らす。

 刹那、サバージオスの懐に潜り込んだアルファのハルペーが聖剣を引っ掛け、翻る革命の剣がサバージオスの首を貫こうとした瞬間、アルファの回し蹴り(ヘルメスのサンダル)がロベスピエールの脇腹を砕いた。すかさずサバージオスは、ロベスピエールよりアルファが難敵であると考え、その首を捕まえて眠らせる為に黒い腕を伸ばす。そこへ閃く革命剣が、黒い腕を弾いた。2対1かと思えば、実情はロベスピエールが殺生を諦めていないため、1対1対1の乱戦が続く。

 

 不意に俊敏な蛇がアルファの背後に回り込んだ。短剣に繋がる鎖を輪っかに広げ、アルファの首を絞めることで眠らせようと躍動する。だが手加減した鎖の一撃は、神域の鎌に断ち切られた。

 源為朝は強弓を引き絞る。しかし相手は人間。手加減した一撃は難しい。ならば殺してもいい相手を狙う。ロベスピエールめがけて弾雨。その全てをアルファの豪腕(ハルペー)が弾いて軌道を逸らした。

 

 矢の雨を掻い潜る革命家は冒険家に接敵。黒い腕を肘から切り離そうと斬撃。「っ……?!」ロベスピエールは、サバージオスの簒奪権能を奪おうとしている。確かにロベスピエールが今この状況から逆転する為には、黒い腕が必要だ。もしそれを手に入れることができれば、今まで敵に奪われたもの全てを取り返して、状況を初期化できる。

 

 故に、それは許さない。ヘカテーの魔術が炸裂する。爆雷一閃。サバージオスとアルファの隙間を縫って、ロベスピエールの胴体を貫いた。

 

「────カハッ……!」

 

 されど革命家は、鋼鉄の決意を不屈の精神に変えて、地を踏みしだく。

 

『……!!』

 

 炯眼は最強女神に向いた。すかさずサバージオスはケリをつけるため黒き光を放たんとするが、アルファに蹴飛ばされて大きく仰け反る。革命家の剣が閃き、最強女神の胴体を袈裟に裂いた。舞う鮮血。源為朝の光矢と女怪の短剣が迫るも、革命家の剣はその全てを恐るべき太刀筋の連撃で斬り弾く。

 そこへ小宮果穂が駆け込もうとしたが、篠澤広に肩を掴まれて止められた。一方のボイジャーとバベッジは、マスターの安全を優先するため戦いを見守っていた。

 

「ダメ、果穂……!」

「っ! 広さん……でもっ!」

 

 黒腕聖剣と神鎌の剣戟。

 近代の革命剣は、神代の魔術を斬り、剛弓の弾雨を斬り、蛇の短剣を斬り伏せる。

 

 その時、ロベスピエールが跳躍。小宮果穂の頭上に差し迫る。

 

『────ッ!!!』

 

 旅女神エポナの神核。ひとまずそれを奪って遁走するつもりか。

 しかしそれは小宮果穂の死を意味する。すかさずアルファはハルペーを投げ、ボイジャーは迎え撃つ。

 

 一斬、神鎌を斬り弾き、続く斬撃、ボイジャーの胴体を斬り伏せる。

 

「くっ……! 逃げて、マスター……!」

「ボイジャー! っ────!!」

 

 小宮果穂は制止を振り切って駆け出した。宝具展開。バイクに乗っている暇はない。バイクそのものを叩きつける!

 

 革命家による真紅の斬撃。

 漆黒の騎乗機械が両断される。

 

「そんな────!?」

 

 少女の喉元に迫る剣閃。

 死を覚悟した刹那、アルファの飛び蹴りが、ロベスピエールの右腕を砕いた。革命剣は宙を舞って地に突き立つ。

 

「ぐっ────貴様……!!」

「殺すの無しって言ったよな? まぁ別に続けてもいいけど」

 

 武器を失ったロベスピエールは振り返る。今が好機とばかりに飛びかかってくるメドゥーサとサバージオスを相手に、帯剣している二本目を抜剣して迎え撃った。

 革命家の腰には三本の鞘。おそらくアンサングが装備していた二条戦斧や大剣と同じ銘を冠しているのだろう。

 

「……! ア、アルファさ────」

 

 目の前に剣先があったのに、気づいたらアルファの背中が壁のようにそびえ立っていた。つまり果穂は尻餅を搗いていた。助けられたことにお礼を言うためすぐさま立ち上がった途端、青年は震脚と肩打(けんだ)を繰り出して少女の胴体を突き上げる。

 

「ガハッ────!?」

 

 吹き飛ばされた少女の体は、篠澤広の頭上を飛び越えてバベッジに抱き留められた。

 おそらく戦闘エリアから離脱させるため、アルファは容赦なく攻撃したのだろう。

 

「果穂……!」

「無事か? 赤き乙女よ」

「っ……!! ごほっ! けほっ……!」

 

 剣戟の音。苦悶の声。雷鳴に爆音。激しい戦闘音が立て続けに勃発している。

 それを見ていることしかできない。戦いを止めるのがヒーローの役目なのに。

 こんなのじゃヒーロー失格だ。小宮果穂は呼吸できない体に鞭打って立ち上がり、何やら口の端から垂れる赤い液体を手の甲でぬぐい去った。

 

(────どうにか、しなきゃ……!)

 

 どうにかなるものなのか。

 それでもどうにかしないといけないんだ。

 ヒーローアイドルは周囲を見渡す。目に入ったのは革命剣。

 たしかロベスピエールは、それで英霊を召喚しようとしていた。つまり、あれを使えばサーヴァントを召喚できる?

 

「……っ! ボイ、ジャー……! あの剣……! 取って、きて……!」

「────! 了解……!」

「こほっ! っ……ひ、広、さん……英霊、ショウカンの、呪文……教えて、ください……っ!!」

「……! 果穂……何をするつもりなの?」

「────止めない、と……あたしは、ヒーロー、だから……っ!」

 

 ボイジャーが革命剣を拾ってくる。

 小宮果穂は胸を強く打ちすぎて呼吸ができないため、篠澤広が詠唱の代行を開始────する前に。

 

「でも果穂、何を召喚するの? デタラメに召喚して、もしも相性の悪いサーヴァントが来たら────」

「そ、れは……」

 

 策はない。悔しい事に何も思いつかない。周囲を見渡しても殺し合うみんなが目に入るだけ。ただの人間であるアルファが敵に回っただけで仲間達は苦戦を強いられている。それはアルファの命までは取るまいとしているから? なら容赦なく、アルファを殺せる存在がいれば? そのあと蘇生宝具を使えばいい。

 

(────…………)

 

 自分の思考とは思えない直感。

 今まで何度も蘇生宝具を使ってきたからこその閃きか。あるいは、どんな英霊を召喚しても、アルファさんなら簡単には殺されない信頼があるためか。

 

 いずれにせよ、この戦いを終わらせる英霊の召喚は必要不可欠。

 ならば、自分の声でやるしかない。

 

(あたしは小宮果穂……いつかダークヒーローを超える、ヒーローアイドルだっ!!

 エポナ、おねがい! 力を貸して────『童夢震わす羅武光流(ドームふるわすラブコール)』────っ!!)

 

 革命剣と合わせて鍵を大地に突き刺し、蛇口のようにひねる。

 冥界から溢れ出す命の水。それは瞬く間にプールのごとく水量を増し、すぐさま海のごとく滂沱と流れ、濁流のごとく、津波のごとく、荒れ果てた死の大地に生命の花畑を咲かせていく────

 命の水を浴びた小宮果穂の呼吸器官は回復。

 

「────素に銀と鉄」

 

 エポナが魔法陣の描画を代行。

 小宮果穂は詠唱を開始する。

 

「────告げる」

 

 なぜアルファさんは敵陣に寝返ったのか。知りたい。

 なぜダークヒーローは正義の味方である事を望んだのか。知りたい。

 この戦いを素敵に終わらせられる、そんなスゴいヒーローが召喚されてほしい。もちろん一人じゃ無理でも、あたしがいる。仲間がいる。みんなで一緒に戦う。

 

「────誓いをココに」

 

 だから、協力してほしい。

 

「天秤の守り手よ。────あたしの名前は小宮果穂! みんなを守る、ヒーローアイドルだっ!」

 

 魔法陣が旋回する。

 エーテルの魔力を逆巻いて、極光。

 

 光の先に立っていたのは、褐色肌の乙女。

 

「オーケー! マスターの願い、いっしょに叶えよう!!」

「────っ! あ、あなたは……!?」

 

 褐色の笑顔を弾けさせた乙女は、戦闘集団に振り返って鎖付き岩石の武器を構える。

 

「サーヴァント・ライダー! 真名をアンドロメダ! ────英雄になり損ねちゃった自分だけど、だからこそ! マスターを助けたいって想いが強くて駆けつけちゃった! 本当はもっと色々な英霊が手を伸ばそうとしてたんだけど……あ、あたしが運命を掴んじゃって、良かったのかなぁ……!?」

「────っ~~~~!! 良かったに決まってますっ!!」

「!!」

「来てくれて、ありがとうございます!」

「……!」

「────それで……!」

「……────うん! それじゃあ一気に調停しようか! 男の意地を邪魔しちゃうのは申し訳ないけど、だからって────」

 

 そう、だからって。

 小宮果穂とアンドロメダは阿吽の呼吸で戦場に飛び込んだ。

 

『だからって────ケンカはいけませんっ!!』

 

 かくしてふたりは宝具を切る。

 

「あたしに合わせてくださいっ! ────『童夢震わす羅武光流(ドームふるわすラブコール)』────っ!」

「二つの津波で浚っちゃおうか! ────『彼の海にて眠る鯨竜(アイティオピアー・ケトゥス)』────!!」

 

 瀑布波濤。

 生命流転の鯨波に跨る水棲竜種は地の利を得て暴虐の限りを尽くす。

 

 アンドロメダは誰が敵で誰が小宮果穂の仲間なのか知らないため仕方ない側面はあったが。

 範囲内の存在すべてを引き潰して殺し尽くした。そうしてもすぐさま小宮果穂の蘇生宝具で復活するため、本当に殺してしまう事はないと判断した。

 それについてアルファがツッこむ。

 

「ごばっはっ!? ────それにしても荒療治が過ぎるだろ!?」

 

 一瞬の波濤は地の果てまで広がって、命の水は大地に沈み込んだ。

 咳き込むアルファやサーヴァントたち。

 

 唯一、範囲外で傍観していた篠澤広とバベッジとボイジャー、そして(またけんかしてるー。もうしらんっ!)と砂遊び中だったいろはちゃんとマメ丸は、巻き込まれず無事だった。

 

「ケホッ……! っ……まだ、まだ……! 我が革命の灯火は潰えん……!」

「……悪いな、赤い猿。どうやらこの革命家は、殺さない限り夢から醒めんようだ」

 

 一足先に起き上がっていたサバージオスは聖剣を振り抜く。

 神鎌と激発。

 

「っ!? アルファ、貴様……! 正気か!」

「いやー無駄なことしてるなーって自覚はありますよ? でも殺すならせめて心の方にしないと」

 

 そう言ってアルファは振り返ると、アルファの背中ごとサバージオスを串刺しにしようとした剣を紙一重で弾き、ロベスピエール相手にタイマンを挑む。

 

「ついに俺を攻撃したな! なら正当防衛だ! 俺はテメェに殺されない! テメェは俺を殺してくる! それを何日続ける? 何年続ける? 何万年と続けてもいいぜ! 何億年と続けてもいい! 正義の味方ってのはそういうことだ! どっちの狂気が夢を見続けられるか、いっちょ根性焼きと行こうぜ!! マクシミリアン・ロベスピエール……!!」

「どけぇえええええ────ッッ!!」

 

 高速の剣戟。

 武器の技量では圧倒的にロベスピエールが上を行く。

 工夫の技量においては圧倒的にアルファが上を行く。

 

 ロベスピエールは勘づく。最も脅威である存在はアルファという人間だ。

 ならば隠し技を披露する。保有スキル『大砲礼装』を起動。それは自動反撃可能な大砲型魔術礼装。クートンという人物の魂を宿した使い魔でもあり、完全なる不意打ちでも完璧に対応して、たとえ気配遮断した暗殺者が相手でも魔力砲弾をぶちかます。

 

「俺に素顔を見せるべきじゃなかったな」

 

 神鎌を翻して地を抉り駆け飛ぶアルファは、胴体貫通を狙っていた魔力砲弾を跳躍回避。

 

「空中は無防備だぞ」

 

 ロベスピエールは保有スキル『死天使』を起動。それはサン=ジュストの魂と異名が概念として結集したギロチン型の使い魔。別名、天使型処刑器。魔力と幸運の判定に失敗したアルファの首元にギロチン台が装着されて、天使の姿をしたギロチン型の使い魔が首を刈り取るべく飛翔する。

 アルファの首から上が飛ぶ。次の瞬間、首の切断面から水泡が風船のように膨らんで破裂。アルファの顔が出現した。

 

「────っ!?」

「結局ロベスピエールはさ、星(・)の(・)開(・)拓(・)者(・)の(・)な(・)り(・)そ(・)こ(・)な(・)い(・)なんだよ」

「────────」

「知ってる? 尊厳者(心を込める者)という意味を名前に持つ、かのアウグストゥスは、若い頃『名前以外に何も持たない若者』と揶揄された。ならばとアウグストゥスは、偉大なるローマ皇帝『ガイウス・ユリウス・カエサル』の名を借りることで成り上がっていった。あるいは、皇帝の名だけで成り上がっていったという、後ろ盾のない事への揶揄だったのかもしれない。ま、卵が先か鶏が先かは魔術理論的にさておいて」

「────貴様────」

「アンタの弟にオーギュスタンっているだろ? 彼『未来視の魔眼持ち』だったそうじゃないか。厳密には過去視によって得た膨大な情報を脳内で演算処理し、起こり得る未来を予測演算する……予測型の未来視だな。ただし発動条件や視る対象は特別で、なんと兄ロベスピエールの未来しか視えなかったそうな」

 

 ロベスピエールは剣戟を早める。

 それは常に執拗に急所を狙っていた。だからこそアルファからすれば、それを読めば避けやすい。無論、サーヴァントの身体能力に人間が敵う道理はない。どれだけ魔術で筋肉を強化したところで限界がある。だからこそ防戦一方とはいえ、アルファがここまで凌ぎきっているのは一人前の戦士の証と言えた。

 

「だからなのかな? 弟さんも同じように揶揄されたんだろ? 『兄以外に何も持たない弟』と────」

「黙れ────貴様、何を知った風な────ッ!!」

「知ってるさ! マザーAIの未来視で調べてもらったからな!」

「黙れ」

「8月は英語でオーガスト。その語源はアウグストゥス」

「黙れぇっ!!」

「革命暦の熱月(テルミドール)は7月」

「黙れ黙れ黙れ黙れ────!!」

「ある日、弟は未来を視た。『兄さん。あと一ヶ月、処刑を免れることができれば“実る”よ』と────」

「だまれぇえええええええええええええええ────っっっ!」

 

 アルファの左肘が斬り飛ばされる。

 すかさずサバージオスが助太刀に入った。

 

 2対1の剣戟勝負。

 狂奔するロベスピエールの斬撃はその全てが必殺。故にサバージオスも二人の剣筋をよく見ることで多少は学んだ。激昂する革命家が必ず狙うは首・頚動脈・脇・心臓のいずれか。故にアルファは敢えて、一つの急所の隙を晒し、そこへの攻撃を誘導させていた。来る場所が分かっていれば回避は容易。されど、それは急所以外の守りを捨てている事にほかならない。それでも構わないのだろう。死ななければ安いものとして覚悟しているのだ。

 

 剣戟が火花を加速させる。

 

「革命暦の8月は実(・)月────」

「────────────────」

「アンタの処刑日は7月26日。あと数日だったな? あと数日処刑が遅ければ────ともすれば革命家マクシミリアン・ロベスピエールは、人類史の一部を大きく塗り替える破格の偉業を成し遂げていたかもしれない」

「────────死ね────────」

「はーん? 世界平和? フランス王国のため? うそぶくのも大概にしろよ、お兄ちゃん」

 

 アルファはトドメを刺した。

 

「本当は────弟(・)の(・)揶(・)揄(・)を(・)撤(・)回(・)さ(・)せ(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)────それだけなのによ」

 

 アルファの頭蓋を割らんとする真紅の一撃。

 それを黄金の聖剣が払い除け、二本目の革命剣が宙を舞って地を転がる。

 

 革命家は動かない。

 三本目の友愛を抜く事はない。

 弟想いの兄は立ったまま微動だにしない。

 ただギラつく炯眼を、眼前の青年に睨めつけている。

 

「…………はたして弟オーギュスタンは、そのことを幼き頃より受け入れていたのか、どうなのか。たとえ自分自身(アイデンティティ)が無くとも、兄とは運命共同体であるからそれでいい、などと思っていたのか否か。真相は、革命の動乱に掻き乱されてしまった。────おしまい♪」

 

 アルファは両手をポケットに入れて、すんっ……と真顔となり佇立する。

 英霊マクシミリアン・ロベスピエールは過去を振り返っているのか、生気の抜けた相貌で佇んでいた。

 

「……────さて、時間は稼げたろ」

「……なに? どういう意味だ、アルファ」

「俺達が訳分からんバカ騒ぎしてる間に、やっこさん、この特異点を乗っ取るつもりだ」

「────なんだと? 誰について言っている」

「よく見ろよサバージオス。ロベスピエールは聖(・)杯(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)な(・)い(・)だろ」

 

『────……ッ!!?』

 

「ところでフリュギア王国には、聖杯そのものとも言えなくもない王様が居たよな? まぁロバの耳じゃ何もできん。それよりヤバいほど位(くらい)の高い王様がいるだろ。あの人に援護お願いしたのに助けてくれなかった。これもう確定じゃね?」

「援護、といえば────よもや……!」

 

 

 

 ────ゴルディアス王! そっちからも援護願う!

 ────了解した!

 

 

 

「ロベスピエールは放っといてやろうぜ。たぶん聖杯は全部使っちまったんだ。普通の黒幕は聖杯欲しさに使い切ることはないが、その欲深さのために失態を演じる。だが流石は禁欲的で有名なマクシミリアン・ロベスピエール。持っている財産全額はたいて、これだけの偉業を成し遂げやがった。が、そうなると聖杯のない特異点は特異点たりえるのか? という魔術的な疑問が生じる。いやもちろん特異点の原因は聖杯だけじゃない。大きな力で歴史が異なってしまえば特異点化する。が、その大きな力は今こうして無力化した。そうすると歴史の自動修復機能が働いて差し引きゼロになるはず。だのに、うちのマザーAIは帰還を命じてこない。じゃ、あとは何が残ってる? ん? ──答えは目の前にあった!」

 

 アルファは振り返って見据える。

 立ち上がるフリュギア王国を────

 その玉座で情熱を漲らせていた、神(・)代(・)の(・)革(・)命(・)家(・)を────

 

 

 

          §

 

 

 

  特異点      人理定礎値EX 

 

 B.C.6000 世界神話大戦 アナトリコン

 

    ‐日出ずる護国の反動家‐   

 

 

 

          §

 

 

 

 我が名はゴルディアス。

 フリュギア王国の君主なれば。

 

 英霊として、サーヴァントとして。

 騎兵(ライダー)の霊基で召喚されて、幾星霜。

 

 聖杯を有する特異点の黒幕と、地母神ガイアと、人類の脅威ヴェルバー。

 最初は君主たる使命と人としての義憤から戦い続けていた。

 

 いかに絶望的な戦況でも、民を、兵士を、鼓舞し続け。

 微かな希望を信じ、戦車と結び目の宝具を失ってもなお戦い続け。

 

 ────奇跡を目にした。

 楽観的で飄々としている男が聖剣を振るい、セファールが奪いし軍神アレスの剣をへし折った。

 

 私は彼を王国に歓待しようと決めた。

 どこの時代どの場所のサーヴァントなのか尋ねた。

 

 

 

 ────オーギュスタン・ロベスピエールです。

 

 

 

 彼は異色の瞳(オッドアイ)を有していた。

 どうやら片目が魔眼なのだとか。そして未来を見据える事ができるという。

 

 その程度の異能なら我が国の兵士にもいくらか存在するため、きっとそれで聖剣使いになれたのだろうと思った。

 しかし彼の場合は毛色が違った。

 

 なんと兄の未来しか視えないのだという。

 その兄とは、まだこの特異点で出会えていないのだとか。

 であれば、彼はつまり……先行きも分からぬまま聖剣を使って、人類の脅威の一角を……討ち果たしたというのか?

 

 たった一人で……?

 

 別の並行世界では、無名の人間が聖剣使いになれたのだろう。

 しかしこの特異点では、彼が聖剣使いとして選ばれた。

 

 その理由を知りたかった。

 彼の強みを知りたかった。

 

 私は運良く王に選ばれた者。

 更なる高みを望むことは強欲とそしられよう。

 

 それでも。

 彼のように、当たり前のように誰かを救える男になりたいと思ったのだ。

 

 彼の凄さを知ることができれば、私は私の理想に一歩近づくことができるかもしれない。

 興奮の高まりを胸に秘めつつ、私は彼の勇気と武勇を賞賛した。

 

 彼と友誼を結ぶことに時間は要らなかった。

 友は平均的なサーヴァントだった。

 

 それゆえか次の戦争で、当たり前のようにギガースに踏み潰されて死んでしまった。

 

          §

 

 血しぶきが飛ぶ。

 

「なっ────なぜだ、ゴルディアス王────」

「黄金生みしミダス王よ。貴君を殺せば聖杯と同程度の黄金魔力が手に入る。故に────」

「……っ!? き、気でも、違えたか……」

 

 ミダス王が退去する。

 すかさず知識女神キュベレイが裏切り者に天罰を下そうとした。

 

「無駄ですよ」

 

 聖杯の力で神罰を防御。

 返す刀で知識女神キュベレイを封神する。

 

「英霊テノチティトラン……よもや都市そのものが英霊と化すとは……その奇想天外な在り方を見倣い、我が祖国の女神には、フリュギア王国の精霊そのものと化してもらいましょう」

 

 更に聖杯の力で、革命家マクシミリアン・ロベスピエールが成し遂げた異世界の偉業を借用する。

 

「これで、私も────」

 

 知識女神キュベレイを取り込んだフリュギア王国は、都市巨人ならぬ王国巨人として立ち上がった。

 

「────強者となる!!」

 

          §

 

 一同は天を仰ぐ。

 フリュギア王国が巨人形態に移行した。ちょっと何言ってるか分からない。

 

「んー……アンドロメダの騎乗宝具に全員乗って戦えるか否かが問題だな」

「待てアルファ。あのゴルディアス王が、なぜ────」

「本人に聞いてみれば?」

 

 サバージオスの疑問。

 その声が聴こえていたのか、巨人内部からの拡声器でゴルディアス王が答える。

 

「────我が名はゴルディアス! この特異点の覇王となる者!」

「……! ゴルディアス……!!」

「簒奪神サバージオス! お前になら分かるはずだ! いや、お前だからこそ分からなくてはならない!!」

「なにっ!?」

「ギリシャ神話に吸収されて、歴史から消滅したアナトリア神話は────私が守る!!」

「……!!」

「私の故郷を……友人を! ただ強いだけの奴らに、奪わせはしないっ!!」

「ゴルディアス……!」

「決着の時だ、サバージオスゥ────!!」

 

 巨人が一歩、大地を震わせた。

 アルファの号令一下で、アンドロメダの騎乗宝具ケトゥスの背中に飛び乗り、飛行。

 

 空中戦闘における足場を確保。

 いざ最終決戦(二度目)に挑む。

 

「今こそアナトリコン最強神話を打ち立てる時! それを邪魔する者は容赦せん!」

 

 吼え猛るゴルディアス王。

 しかし特異点の維持は人理の崩壊を招く。

 

 テクスチャの張り替えで人理崩壊をごまかし、平行世界を生み出そうとしていた革命家マクシミリアン・ロベスピエールの手法とは異なり、単に聖杯で力押しする革命家ゴルディアス王の手法は危険極まりない。

 万が一うまくいって平行世界が生み出されたとしても、ゴルディアス王の目的は他神話の壊滅にある。

 

 つまるところ或る革命家はフランス以外の鏖殺を理想としていたが、或る革命家はアナトリコン以外の鏖殺を理想としている。

 それが蛮行であることに相違はない。

 

 一行は激戦を繰り広げる。

 一方の地表では、革命家マクシミリアン・ロベスピエールが再起しようとしていた。

 

「ゴルディアスめ……私の革命計画を乗っ取るか……ああ、オーギュスタン。うまく、いかないものだな……」

 

 趨勢は悪い。アルファ達は押されている。

 このままではアナトリコンが世界の覇者となる。

 

「兄弟二人でダメなら一人で……そう思ったが……やはり、私はお前が居ないとダメなようだ。何事も、一人で背負い込むものではないぞ……お互いにな」

 

 既にマクシミリアン・ロベスピエールの霊基は損壊している。そう長くは持たない。

 もはやフランスの栄光再来は潰えた。それでも他神話に栄光の座を奪われるくらいなら。

 

(オーギュスタン……本当は、あの日、実るモノなんて、何も視えてはいなかったんじゃないか……?)

 

 サーヴァントとして会うことがあれば、いつかそれを問うてみたい。

 

「────私は人だ。私は人民だ。私は万民に対して対等な人であり、その上で我が夢を追う権利を行使する。────フランス国民が願った夢を護る。それが私の夢なれば! 我が存在の全てを賭して、最期の稼働限界を超えるッ!!」

 

 マクシミリアン・ロベスピエールの雄叫びに応じるように、既に鉄塊のガラクタと化したはずのアンサングが吼えた。

 

「私を喰らえ、捕食した先に我らが霊長(ひと)の克己を成せ!

 ────アンサング・テルミドール────!!」

 

 革命家は全霊基を愛機に注ぎ込む。

 金属音の悲鳴を上げながら脚部を軋ませて立ち上がる鋼鉄の機体。

 

 火花は流血のように迸り。

 悲鳴は歓声のように飛び。

 首がちぎれてもなお立ち。

 大剣を携えて翔け上がる。

 

 真紅の流星は、なりそこないの星のごとく。

 巨人と激突し、自爆によって引導を渡した。

 

          §

 

 爆焔の中、ゴルディアス王は思いを馳せる。

 

(────ここまでか……)

 

 強者が踏み躙る世界。

 弱者の夢が摘まれる世界。

 それを王として、なんとかしたくて。

 約一万年、血反吐を吐きながら足掻いて足掻いて駆け抜けてきたが。

 

(やはり業(ユメ)とは、度し難いものだな────)

 

 黄金の粒子は爆焔と共に消し飛ばされて、アナトリアの潮風に浚われていった。

 

          §

 

 数日後。

 

 特異点は修正に向かっており、知識女神キュベレイはβ抗体の量産に成功。

 復興したフリュギア王国は難民の受け入れを可能とし、ようやく街は元の活気を取り戻しつつあった。

 

 それは他国でも同じことで、他神話のテクスチャでも同じこと。

 しばし観光を楽しんだアルファや小宮果穂たちは、知識女神キュベレイの伝書を受け取る。

 

 それは『宙域を拓き、あらゆる敵を滅せ』の依頼達成を認めて、各々に対する報酬を用意した内容だった。

 もはやミダス王が存在しないため、人数分の聖杯の雫の生成に苦労したのだろう。フリュギア国民は救世主サバージオス一行のお礼をするべく、既に簡素だというのに更に質素な暮らしを続けて魔力を蓄積し、国民一丸となって複数個の聖杯の雫を捻出してくれたのだ。

 

『ありがとうございますっ!!』

 

 小宮果穂たちはフリュギアの国民に感謝する。

 これでようやく元の世界に帰ることができる。

 

 そうなるとお別れが近い。

 小宮果穂とマメ丸、篠澤広といろはちゃん、アルファの五名は、ブートキャンプに移動する。

 

 そこでは自力でトロイア・ネオスの修復を行っていたサバージオスが良き汗を流しており、源為朝、チャールズ・バベッジ、ボイジャーがそれを手伝っていた。

 ちなみにメドゥーサは諸国漫遊の旅に出かけたらしく、最強女神ヘカテーは根を下ろす場所を探すため放浪の旅を始めたらしい。アンドロメダはフリュギア王国の復興を手伝っており、もし人理が許すなら今度こそ英雄になるため冒険に繰り出すとのこと。

 

 小宮果穂は、サバージオスに声をかける。

 

「サバージオスさん!」

「────お前たちか。ちょうど良かった。そろそろ飛び立つ予定だったんだ」

 

 呼ぶ手間が省けた。

 そのようにサバージオスは笑う。

 

「飛び立つ……じゃあ!」

「ああ。キャプテンは俺だ。クルーを紹介する」

 

「航海士のボイジャー、だよ!」

「演算とエンジンを担当する碩学者・蒸気王チャールズ・バベッジなれば」

「護衛及び迎撃を担当する戦闘員・源為朝である」

 

 既にアルファ達は、サーヴァントとの契約を切って自由にさせている。

 ただし要石がないと、普通サーヴァントは現界を維持できない。が、それもゴルディオス王が最後に生成した聖杯を駆使すれば、解決可能。彼らなら聖杯を悪用することはあるまい。そのようにアルファ達は判断して、聖杯をサバージオスに託したのである。

 

 ちなみにメドゥーサやアンドロメダには、余った聖杯の雫を譲渡した。アルファたちが持ち帰る聖杯の雫は一個で構わないのだ。そしてサーヴァントは、聖杯の雫を一個でも持っているなら、ある程度は現界を維持して当世を楽しめることだろう。

 また、更に余った聖杯の雫は、どうかフリュギア王国の復興に使ってくれとお返しした。

 

 そこでサバージオスが言う。

 

「元の世界へ帰る前に、見届けてくれないか。俺達がトロイア・ネオスに乗って、宙を征く姿を」

『────もちろん!!』

 

 宇宙冒険野郎どもは、いざトロイア・ネオスに乗り込む。

 キャプテン・サバージオスはコックピット席で操縦桿を握り、ふと呟いた。

 

「俺は────理解したかもしれない」

 

 ボイジャー、源為朝、バベッジが傾聴する。

 

「いや、完全な理解には程遠いかもしれないが……ひとつだけ、経験則として言えることがある」

 

 経験則。

 それは、かつてどこかの時空で邂逅した、星見台(カルデア)での想い出のことだろうか。

 

「この世界において、夢を叶える事と他者を踏みにじる事はセットだ。かつての俺も、マクシミリアンも、ゴルディアス王も。アルファ達だって例外ではない。しかし物事には限度というものがあるらしい。それは霊長の座を乗っ取った割に、何も成し得ていない愚かな猿の定義でしかなく……かつての俺が侮っていて、いまなお理解に苦しむものだが────」

 

 サバージオスは、次代の霊長の工夫を憶う。

 

「夢とは────より多くの賛同者を得られた者が叶えられる。数は力か……フッ。身も蓋もないな。まぁ、だからこそ寡兵で打ち勝つ冒険譚は、一見不可能だからこそ、無性に胸が躍るのだろう……だからこそ、あの時の俺は……────」

 

 青き天を仰ぐ。

 

「革命を起こそうとした弟想いの男よ。アナトリアの未来を案じて戦った友想いの王よ。俺は、お前たちの夢を踏みにじって、宙へ飛ぶ。……星と人の礎になろうとした豪傑たちの屍を踏みにじって、俺は俺の宙を翔ぶ────」

 

 とあるプリテンダーの少女が、脳裏をよぎる。

 

「────涙は落とさん。なんせ俺には……顔が、無いことだしな」

 

 不意にサバージオスは、赤い兜を脱いだ。

 

『……!!』

 

 一時的に信仰を集めたサバージオスの相貌を目にしたクルーたちは、いつか忘れ去られて失ってしまうであろうその相貌を、よく目に焼き付けて覚えておこうとする。

 そして、自らの顔でクルーの顔を眺めたサバージオスは、再び兜を被り直した。

 

「────さらばだ、好敵手マクシミリアン。そしてゴルディオス王。猿にしては勇ましかった。わがままな俺とは違って、赤の他人を守ろうとした……偉大なる英雄たちよ────」

 

 彼らは憎んでいるだろう。恨んでいるだろう。

 その怨嗟を背負ってゆくのが、勝者のせめてもの努めなのだろうか。

 

「……なるほど。思っていたより、苦しいな。そうか、人類は……この苦しさを抱えながら、歴史を走ってきたのか……スゴいな、お前たちは。──ならば俺も、ひとりでは何も成し得られなかった神霊として……その点は見習うしかあるまいよ」

 

 人の心を知った神霊サバージオスは、コックピットから地上を見下ろす。

 長いようで短い旅を共にした仲間たちに向かって、ビシッと親指を立てる。

 

『────!』

 

 小宮果穂やいろはちゃんたちは、すぐにグッジョブを返した。

 するとサバージオスは額から二本の指を弾いて、遥かなる宙を仰ぐ。

 

「ゆくぞ! トロイア・ネオス、発艦!!」

 

 

 

 ────我等、宙を征く冒険野郎。

 

 

 

          §

 

 

 

   平行世界       人理定礎値A+  

 

 B.C.6000 宇宙冒険野郎 スペース・オデッセイ

 

      ‐我等、宙を征く星霊‐      

 

         険理達成

     Adventure Rights Achieved    

 

 

 

          §

 

 

 

 フリュギアの蒼穹に白煙が尾を引く。

 彼等、宙を征く冒険野郎は────

 

「……行ったな」

「行っちゃいました……」

「行っちゃったね」

「さばのすけ、みなもん、ちゃーじ、ぼいじゃー……ばびゅーん? ばいばい……?」

「ワンッ!」

 

 ふと五名の背後に、帰還用のゲートが生成される。

 フリュギアの国民との別れは済ませていない。だが帰る時は静かに帰ると決めていた。異世界には長居するものではない。

 

 ゲートをくぐる。

 すると神霊のエポナとショロトルは、自動的に退去した。

 

 小宮果穂とマメ丸、篠澤広は、元の人間に戻る。

 マザーAIは聖杯の雫で剣を作り、それをアルファが振るってゲートを破壊した。

 

 地下牢に剣を突き立てる。

 いつかその剣が触媒となって、再び異世界と繋がってしまうかもしれない。

 

 それでもその時は、また地球の平和を守ればいい。

 それがヒーローの役目なれば。

 

          §

 

 久しぶりのプチパレス。廊下を歩く。

 元の世界では数分も過ぎていないのだろうが、なんだか旅行から帰ってきた気分である。

 

「ふわぁ……わたし、もうダメ……部屋で寝るね……」

「はい! おやすみなさい、広さん!」

「いろはもねんねー! ねるー! くたくたー! つかれたー! ただいまー!」

「ワンッワンッ!」

 

 篠澤広は、いろはちゃんとマメ丸と、一緒に自室でお休みする。

 一方の小宮果穂は、あくびをするアルファを見上げて見つめていた。

 

「……あのっ。アルファさん」

「なんだ?」

「今、あたし……レストランの問題をやっているんです」

「レストラン?」

「この前、ヒーロー番組でやってたやつです!」

「あ~。アレか~」

「アルファさんは、もう答え、見つけましたか?」

「そだな~。割と即答っていうか? いくつか候補あるぜ」

「即答……! しかもいくつか……! スゴいですーっ……!」

「や、信条決めてるから迷わないだけで……」

「それなら、あたしの答え、聞いてくれますかぁ!?」

 

 小宮果穂は、今回の冒険で学んだ答えを、自信を持って宣言する。

 

「それはぁ────仲間ですっ!」

「……!」

「たくさんの仲間がいれば、どんなことだってできちゃうんですっ!」

「……────そうだな。それが俺たち人間の力だ!」

「はいっ! だからぁ~……」

 

 小宮果穂は駆け出す。

 まだ寝てないはずの篠澤広の部屋に突撃した。

 

「広さん! レストランの経営を手伝ってくださいっ!」

「……どういうこと? わたしが足を引っ張らないことなら……ぜひ、手伝わせて?」

 

 一人じゃできないことも。

 二人でもできないことも。

 きっと、もっと、みんなで、手をつなげば────

 

 宇宙にだって飛べてしまう!

 銀河級にスゴいことだって!

 

「ありがとうございますっ! じゃーあー……世界一のレストランより、スッゴくスッゴい! 銀河級のレストランを……! いっしょに作りましょう!」

 

 傍観するアルファは腕を組んで苦笑する。

 そのレストランという隠語は、どことなく家庭やら何やらの感情が含まれている気がしてならない。

 

 篠澤広も、まぶたがキュピーンと閃いて、色々と察した様子。

 乙女は恋バナに鋭いのだ。

 

「だからアルファさん! あたし、負けませんよ……!」

 

 かくして真紅の乙女は、更なる覚悟と決意を固めた。

 いつかダークヒーローにかなう、最強のヒーローアイドルになるために。

 

 

 

 夢と困難にあふれる仲間との冒険は、まだまだ続く。

 

 

 

     サバージオス編・完

 

 

 

          §

 

 

 





sR【サバージオス編マテリアル】設定資料集

【目次】
 小宮果穂〔エポナ/ライダー〕
 篠澤広〔ショロトル/ライダー〕
 ゼウス・サバージオス〔オデュッセイア・アストロノーツ〕
 マクシミリアン・ロベスピエール〔セイバー〕

 未使用ネタ・ボツネタ倉庫

   ◆

 依代:小宮果穂 クラス:ライダー
 真名:エポナ 衣装名:愛羅武紅蘭偉魔空珠(赤)〔新装備・バブルバスター!〕

 ステータス:筋力E 耐久D 敏捷A 魔力EX 幸運EX 宝具EX
 クラス別能力:騎乗EX 対魔力A 保有スキル:旅の守護者A 変化B 女神の神核A

 第一宝具:天下無双の太陽天使(てんかむそうのサンエンジェル) ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~500 最大捕捉:100人
 第二宝具:童夢震わす羅武光流(ドームふるわすラブコール) ランク:EX/A++ 種別:対人宝具/対軍宝具 レンジ:1~10/1~50 最大捕捉:100人/500人

 性別:女性 身長/体重:163cm/45kg
 好物:カレーにドリアにハンバーグetc 苦手:牛乳(ココアは飲める)
 出典:ケルト神話 地域:ガリア 属性:秩序・善 副属性:天 霊格:EX
 一人称:あたし 二人称:あなた/きみ/○○さんetc 三人称:あの人etc
 レア度:☆3(ストーリークリア報酬)

 台詞例:旅の守護者スキル使用時「トータティス!」
 ※『トータティス』とはガリアの神で、民族の父・商売・発明家・旅人などを意味する神性である。

《解説》

 第一宝具『天下無双の太陽天使』(ルーゴス・エポナ)
 ケルト・ローマ神話における渡りの女神エポナが連れ添う『軍馬・狩猟犬・渡鴉』の概念を内包した、漆黒の魔改造二輪車ブラックペガサス号を召喚する。平時は折り畳まれた両翼を展開して飛行する変形機能付き。
 なんでもエポナが連れ添う馬・犬・渡鴉が合体して黒翼のペガサスとなり、それが依代の知識に合わせてイカしたバイクに変身した姿であり、その製造には太陽神ルーおよび発明神メルクリウスが関わっているとかなんとか。
 第一宝具の真名たる『ルゴス』(Lugos)とはワタリガラスを意味するため『エポナのワタリガラス』という意味になる。ケルト神話においてワタリガラスとは『死・闇・冥界・神託・予言・破壊』などの象徴であることから、敵陣に突撃すると対軍宝具としての凄まじい火力を誇る。なお、それが騎兵の陣地であれば──騎兵の女神たるエポナの神性によって──あらゆる判定にボーナス補正が掛かる。

 第二宝具『童夢震わす羅武光流』(スケルス・エポナ)
 ガリアの一部地域(ルクセンブルクのアルトリエやフランス北東部)における女神エポナの神像では『マッパ(ナプキン)・鍵・薔薇(バラ)模様・水・犬』をよく目にする。ケルト神話において、それらは非常に強い概念を有しており、たとえば『マッパは生命の始まり』であり『鍵は冥界と来世を繋ぐ扉』であり『薔薇模様は死後の春と再生』であり『水は冥界より湧き出る力かつ太陽を掴み映す活力』であり『犬は狩猟と治癒と冥界の象徴』である。これら概念がエポナの神性の下に集合した結果、究極の治癒と再生の宝具として結晶化した。
 魔術的解釈の宝具化にあたり、特に顕著となった変容概念は薔薇模様であり、それは『来世への出生と今世への復活(新生と蘇生)』の能力として結実している。つまり英霊フィン・マックールの宝具『この手で掬う命たちよ』(ウシュク・ベーハー)の上位互換的な宝具と言える。
 宝具の鍵を大地に突き刺して解錠すると冥界の水が湧き誇る。その水には圧倒的な治癒効果があり、水が溜まって泉となった場所に死人を浸すと、たちまち電気マッサージのように痙攣(けいれん)し、光り輝いて蘇生する。なお死人を浸した際に薔薇を投げ込むと、まったく新しい姿に新生する。それはもはや転生に近い現象である。
 第二宝具の真名たる『スケルス』とは、ガリアの神で、鎚(ハンマー)と杯(さかずき)を持つ農業・冥界・雷の神性であり、冥界の犬を連れている。
 余談だが時計塔では、こういったガリアにおけるマイナーな神性(ベレヌス・タラニスなど)は、知名度の低下に伴う神格の零落に合わせて、古代の魔術師たち(主にガリアのドルイド)が──今で言う天使の在り方のような──“単なる力の方向性”として使い始めたとされる見解が広まりつつある。

 第三宝具『童夢震わす羅武光流』(ベレヌス・エポナ)
 ベレヌスの神名を冠する第二宝具の攻撃バージョン。騎乗物に鍵を差し込んで回すことで冥界の水を纏わせて突撃する。なお冥界の水は太陽を映すことから、太陽神ルーの車輪のごとし灼熱の炎を放つ。さらに薔薇の花びらを交わせることで、新生の力を有した滴る水が、草木やアスファルトを冥界の番犬に生まれ変わらせ、それを滂沱(ぼうだ)のごとく大量に召喚する。燃え盛り迸る水と炎と犬の突撃軍団は、さながら百鬼夜行の地獄宴会(ワイルドハント)のごとし壮絶な様相を呈する。
 腐蝕するレベルの超回復と怒涛する超攻撃の熱波を受けた敵陣は跡形もなく壊滅し、騎乗物も即死したあと新生する。
 第二宝具の真名たる『ベレヌス』とは、ガリアの神で、火と光輝と癒しの神性であり、馬に引かせた戦車で天空を駆け抜けて太陽のそばを通るとされる。

 第一スキル『旅の守護者』
 旅するものに加護を施す。『南無羽亜腕(ナンバーワン)!』の掛け声と共に、対象を最強格まで強化する第三宝具まがいの効果もある模様。それは『神授の智慧』スキルと似て非なるもので、女神エポナが授けられる智慧はケルト・ギリシャ・ローマ圏の(一部アフリカなども含む)技術であり、割と広範囲に及ぶ。
 今回は依代とその周囲の人物の旅路に味方しており、次なる疑似サーヴァント化の手助けを“赤い薔薇”にて施した。しかし乗り物とは中継地から中継地へと辿っていき、いきなり目的地には着かないもの。二回目の疑似サーヴァント化に際して喚ばれる英霊は、必ずエポナに由来する英霊となる。エポナと無関係の英霊が喚ばれるためには、より多くの回数をこなす必要があるだろう。

 第二スキル『変化』
 本来は馬の姿であった神性が、信仰の拡大によって人(女神)の姿へと変遷(へんせん)した逸話から。
 変化スキルの使用によって犬やワタリガラスなど、種々様々な“移動する物”に変身できる。それは生物であるかを問わないため、使い魔を無機物の二輪車(バイク)に変えた第一宝具も『旅の守護者』スキルと『変化』スキルによる複合効果の賜物だとかなんとか。
 どうやら女神エポナの寵愛は乗り物全般に届くようだ。

 第三スキル『女神の神核』
 生まれながらにして完成した女神であることを表す。信仰の拡大によって姿が変遷した経緯を持つため、ランクはAと低め。その上、疑似サーヴァントとして依代に憑依したため、さらなる在り方の変容に伴いランクが低くなるかと思いきや、憑依先の少女が無垢の塊であることから、さらなるランクの低下は免れている。

   ◆

 依代:篠澤広 クラス:ライダー
 真名:ショロトル 衣装名:初〔漆黒の輝き〕

 ステータス:筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具EX
 クラス別能力:騎乗A 対魔力A 保有スキル:怪力A++ 虚弱体質B 神性C 双子の依代EX 猛禽の守護者A

 第一宝具:暗澹と不死ず、第五の供物は(ショロトル・メショロトル・)黍・竜・水魔なりけり(アショロトル・オルタナティブ) ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大捕捉:3人
 第二宝具:火雷怪犬(アホロートル) ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大捕捉:1人
 第三宝具:隠れ潜む片割らに神ありき(トレセーナ) ランク:EX 種別:降霊宝具 レンジ:‐ 最大捕捉:1柱

 性別:女性 身長/体重:cm/kg 好物:激辛 苦手:簡単
 出典:アステカ神話 地域:中南米 属性:秩序・中庸 副属性:天 霊格:EX
 一人称:わたし 二人称:あなたetc 三人称:彼/彼女etc レア度:☆5

 台詞例:「風神(エエカトル)から隠れ、太陽神(トナティウ)を見放し、殺戮神(ウィツィロポチトリ)から難を逃れた戯神(ショロトル)が神託する。木を隠すなら森の中だ、よ。────『暗澹と不死ず、第五の供物は黍なりけり(ショロトル・オルタナティブ)』────」

《解説》
 第一宝具『暗澹と不死ず、第五の供物は黍・竜・水魔なりけり』(ショロトル・メショロトル・アショロトル・オルタナティブ)
 身代わり宝具。自分の死を代替品で防ぐ。召喚されてから三回までしか使えないが、破格級に優秀なマスターであれば使用限界の回復が可能である。なお本宝具は他者にも使用可能。

 第二宝具『火雷怪犬』(アホロートル)
 怪物召喚宝具。神獣レベル。疑似的な不死に近い超再生力に加えて、一度受けた技に耐性を持つようになる。ただし死を恐れるため窮地に陥ると逃げ出す。その恐れ具合はHPが半分を切るとためらいなく逃げ出すほど。

 第三宝具『隠れ潜む傍らに神ありき』(トレセーナ)
 ショロトルが召喚される傍らには、それを生贄とする神がトレセーナより一柱、無作為に選ばれて自動召喚される。依代が篠澤広の場合、ほとんどの確率で(なぜか)テスカトリポカが召喚される。

 第一スキル『怪力』
 依代の肉体(魂魄)が耐え切れないため実質使用不能状態。

 第二スキル『騎乗』
 Aランクのため、幻獣や神獣アホロートルには騎乗できないが、魔獣や聖獣などには騎乗可能。

 第三スキル『双子の依代』
 ケツァルコアトルの持つ『双子または化身』という概念神核を利用されて、(ショロトルの意思に関わらず)第三宝具にて召喚される神霊に、依代と瓜二つの姿をした依代(クローン体)が自動的に用意される。ちなみに篠澤広の傍らに(よく)召喚されるテスカトリポカによれば「別にこの宝具で召喚される神霊は、ショロトルの依代の姿に近い造形で召喚されるわけではない」とのこと。

 第四スキル『猛禽の守護者』
 猛禽類に加護を与える。猛禽類とちょっと会話できる。そんな程度のスキル。

   ◆

 真名:ゼウス・サバージオス クラス:オデュッセイア・アストロノーツ

 ステータス:筋力B 耐久B+ 敏捷A 魔力EX 幸運E 宝具EX
 クラス別能力:騎乗EX 対魔力A 単独行動EX
 保有スキル:原初の夢A

 第一宝具:彼方の冒険竜(トロイア・ネオス) ランク:B++ 種別:対宙宝具 レンジ:2~80 最大捕捉:800人
 第二宝具:我、宙を征く聖剣(スペースオデッセイ・マルミアドワーズ) ランク:A++ 種別:対宙宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
 第三宝具:劣鉛・神体結界(レッド・アイギス) ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:‐ 最大捕捉:1人

 性別:男性 身長/体重:179cm/63kg 好物:宙 苦手:束縛
 出典:フリュギア伝承神話 地域:フリュギア 属性:混沌・中庸 副属性:天 霊格:EX

 一人称:俺 二人称:お前etc 三人称:彼ら/あいつらetc レア度:☆5

《解説》

 第一スキル『原初の夢』
 オデッセイ・スピリッツ。冒険野郎の精神性を表すスキル。あらゆる精神干渉系に耐性を有する。無効化ではない。

 第三宝具『劣赤模造・神体結界(レッド・アイギス)』
 アテナ系サーヴァントから奪ったアイギス。その劣化版。
 なんの因果が働いたのか、赤い鎧のオデュッセウスを模した外見に変貌した。

《解説② トロイア・ネオスの初期兵装》

『嵐を切り裂く船首像(アンズー・バアル・ゴルゴネイオン)』
 護符宝具。嵐系の耐性・特攻・制御の三種機能を有する。

『神罰雷霆/空間破砕(ヘカティック・ランパス)』
 対界宝具。時空圧砕に伴う閃光雷鳴の超抜的な範囲攻撃機能。高エリア。

『弓兵神殿(ヘカテボロス)』
 対人/対軍宝具。弓兵一騎の狙撃能力を高める魔術陣地。主に射撃・狙撃・迎撃の三種機能に対応。

『宙の羅針盤(コスモポンポス)』
 羅針宝具。星間演算球器による未来予測機能を有する。由来:宇宙の案内者。

『蒸竜炉心・洪水颱風(スチームコア・トライストーム)』
 炉心宝具。ギリシャ・アラビア・中国の三地域に由来する神道的・言霊的な魔術基盤で改良した、混沌神域の魔術炉心。領域外の生命に耐性を有する。

『我、宙を征く聖剣(スペースオデッセイ・マルミアドワーズ)』
 聖剣宝具。暗黒や混沌の系統に特攻を有する必殺的な直射攻撃機能。高レンジ。

┗『友誼べかり黒神の剣(エクスカリバー・サバージオス)』
 ノリで名乗った宝具。効果は『我、宙を征く聖剣』と同質。

   ◆

 依代:葛城リーリヤ クラス:セイバー
 真名:マクシミリアン・ロベスピエール 衣装名:極光+ラウンドメガネ

 ステータス:筋力B 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運A 宝具C+
 クラス別能力:騎乗B+ 自己回復(魔力)C 対魔力B 復讐者B 忘却補正A
 保有スキル:カリスマE+ 鋼鉄の決意A 対人類A テルミドールの動乱A ハイ・サーヴァントD 斧剣戯曲A

 第一宝具:義勇猛る二条戦斧(ラ・マルセイユーズ・フランキスカ) ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1人
 第二宝具:大浸軍(ラスコー・グランダルメ) ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:300人
 第三宝具:溺れゆく骸は誰にも謳われず(アンサング・テルミドール) ランク:A++ 種別:対国宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:1人

 性別:男性 身長/体重:173cm/kg 好物:フランス 苦手:非合理
 出典:史実&『ACfa』 地域:フランス 属性:革命・善(自己申告では秩序・善。無辜の怪物が入ると混沌・中庸~悪) 副属性:人 霊格:C+
 一人称:私 二人称:貴様etc 三人称:彼/彼女etc レア度:☆5

 ※「革命属性」とは、「秩序・中立・混沌」の三種属性を内包している。
 革命前夜という動乱の中に在る人間の一側面を切り取ることは難しい。常に反転と中立を行き来する中で、無理やり一つの側面に押し込めば、革命の熱によって霊基に異常が発生し、自我崩壊を起こして、速やかな退去を促してしまう。そのため革命家系サーヴァントは、人格を保つべく革命属性を保有して召喚される事がある。それでも、やはり稀有な例ではある。

《解説》

 スキル『テルミドールの動乱』
 熱月の粛清。スキル『無辜の怪物』が複合されている。ほかにも『革命戦略A・大恐怖A・死天使D・大砲礼装C・魔眼B』といったスキルを有する。
 革命戦略……革命に必要な戦力を立てる能力は随一だが、革命動乱は予測不能の事態が頻発するため、高ランクであっても革命の成功率は著しく低い。
 恐怖政治……恐怖政治を敷いた逸話から、敵対者に重圧を与える呪いを有し、ヘイトを集めやすくなる。
 死天使……天使型処刑器。おそらくサン=ジュストの魂と異名が概念として集合して昇華されたギロチンの使い魔。
 大砲礼装……自動反撃大砲礼装。おそらく“第二の魂”クートンの魂が武装化した使い魔。完全なる不意打ちでも完璧に対応して、暗殺者に魔力砲弾をぶちかます。
 魔眼……未来視の魔眼。霊基構築の際、弟オーギュスタンが生まれつき持っていた能力を譲渡された。未来視と言っても厳密には、過去視によって得た膨大な情報を脳内で演算処理し、未来を予測演算する。処理すべき情報量が膨大すぎるため覚醒状態の人間では脳処理が追いつかず、ほとんどの未来視は外れてしまう。ただし睡眠中に記憶整理が行われている間は、そのついでに十全な演算処理が可能となるらしく、確定的になった少し先の未来を夢という形で見ることができる。つまり本来サーヴァントに睡眠は必要ないが、この未来視を十全に使うにあたり、マクシミリアン・ロベスピエールは睡眠を取り夢を見る必要がある。なお未来視の魔眼の対象者は、マクシミリアン・ロベスピエールのみ。これはオーギュスタンによると生前からそうだったらしい。

 スキル『対人類』
 平等・正義・理性。それこそが革命精神に相応しい人間性(ユマニテ)の三原則。

 スキル『ハイ・サーヴァント』
 フリュギア帽。赤い三角帽子。フランス自由の女神マリアンヌの被り物。帽子を被った者のカリスマ性をワンランク引き上げる。

 スキル『斧剣戯曲』
 ル・ジュ・ド・ラ・ハッシュ。中世フランス式剣術。雄鶏の型(ガリア飛翔剣術)。双頭雄鶏の型(二刀流ヴェルサイユ剣術)。鷲の型(飛翔大剣術)。漆黒なる雄鶏の仔・七細竜(コカトリス)の型(毒塗り細剣術)。など、複数の型を有する。かのシュヴァリエ・デオンに勝るとも劣らぬ大剣豪の所以。

 第一宝具『義勇猛る二条戦斧』(ラ・マルセイユーズ・フランキスカ)
 三本の戦斧と大剣。名を、自由の戦斧リベルテ。平等の戦斧エガリテ。友愛と博愛の大剣フラテルニテ。
 そのうち二本の戦斧たる自由戦斧リベルテと平等戦斧エガリテが合体したのち別形状へと分離することで、自動攻防機能を有する三種のビット兵器に換装する。その名を、勝利のヴィクトワール、恐怖のテルール、美徳のヴァルチュ。
 さらに三本の戦斧と大剣と三種ビット兵器の全てを合体した場合、マクシミリアン・ロベスピエールは剣豪として十全な剣術を披露することが可能となり、三種のビット兵器も連携能力が著しく向上する。
 ちなみにフランキスカという名称には『率直な・自由な・勇敢な』などといった意味が豊富に含まれている。それを体現するかのように、彼の剣術は遊びのない冷静で質実剛健な剣筋でありながら、必要とあらば時として鳥のごとく翔び刺し、時として大胆に荒々しく冒険に挑んでは、恐ろしいほどの蛮勇さで危険を切り伏せる。その実力にたがわぬ平静苛虐の剣豪と言える。

 第二宝具『大浸軍』(ラスコー・グランダルメ)
 別名『ドゥミ・ブリガード』。偽・ヴェルバー03による侵蝕汚染で従属させた大軍団。本特異点では神話を塗り替えるレベルで、まさしく人類の脅威と化す。

 第三宝具『溺れゆく骸は誰にも謳われず』(アンサング・テルミドール)
 高速機動戦闘用特化型フレーム。逆関節。
 なお「誰にも」は「天にも」と言う時があり、その際は派生宝具(バージョン違いの切り札)が存在するとか、しないとか。

・各武装
「携帯:F-RANCE:戦斧:フランキスカ」
「右腕:04-MARVE:突撃銃:メルベイユ-アサルトライフル」(火力連射特化:命中弾数劣化)
「左腕:ER-O705:光線銃:迎撃武装レーザーバズーカ」(近接適正:弾速特化:弾数劣化)
「左肩:TRESOR:主砲:プラズマ-トレゾールキャノン」(大火力:対魔力含む装甲剥離特化:弾数劣化)
「右肩:PM-O901:副砲:ミサイルランチャー」(斜上殺到型:回避難関特化:継戦劣化)

   ◆



 ────未使用ネタ・ボツネタ倉庫────

 機体名『ヴェルバー01』(兄)
 個体名『コスク』 地域:フランス 由来:海洋動物・異界・境界

 襲来時期:2万8千年前
 有機属性:金剛星人の精神・水棲/異界・秩序・宇宙
 戦術機能:金剛の精神(精神蹂躙型)/固有結界(秩序遵守を強いる精神汚染)etc
 簒奪権能:金剛神ユレイライトの雷速投石

 経緯:数万年前あるいは、それ以上前の太陽系には金剛星とも言うべき惑星が存在した。大きさは水星or火星ほど。太陽系の惑星では六番目の並び順に位置する。一般の研究では「星間衝突によって消滅した」とされるが、魔術史としては「2万8千年前あるいは、それ以上前に襲来した遊星(ヴェルバー01/コスク)によって滅ぼされた」とされる。
 そして遊星が襲来した以上、金剛星には知的文明が栄えていた可能性があり、ひいては信仰対象の土着神がいたはずである。故にその星の主神こそ、金剛神ユレイライト。

 出典:『ユレイライト隕石』『2008 TC3』

・金剛神ユレイライトの分霊
 天属性『スラブ神話の雷神ペルーン』『スラブ神話の冥府神/財宝精霊ヴェーレス』
 地属性『宝物を隠す悪魔/鉱山精霊チョルト』
 人属性『採石の聖人バルバラ』『宝石の聖人ニコライ』『雷を退ける聖人プロコピウス』
 星属性『金剛精霊ライト=イングワズ』
 獣属性『金剛精霊ユレイ/アンビースト』

   ◆

 機体名『ヴェルバー02』
 個体名『セファール』 地域:アルジェリア 由来:白き巨人神

 襲来時期:1万4千年前
 有機属性:肉体・巨人・火星神/記録etc
 戦術機能:破壊の力(肉体蹂躙型)
 簒奪権能:軍神マルスの剣

 派生英霊:アルテラ(フン族の王/セファールの頭脳体のバックアップ)

   ◆

 機体名『ヴェルバー02‐α』 役割:セファールの副兵装
 個体名『ルフィニャック』 地域:フランス 由来:数百頭のマンモス

 襲来時期:1万4千年前
 有機属性:赤毛・マンモス型/火星(セファール由来)
 戦術機能:破壊の力(肉体蹂躙型)
 簒奪権能:死神チェルノボグの軍勢

 派生英霊:イヴァン雷帝(異聞帯の姿)

   ◆

 機体名『ヴェルバー03』(妹)
 個体名『アルタミラ』 地域:スペイン 由来:復讐女神の原型

 襲来時期:現代
 有機属性:魂・必中の裁き(宿命の報復/復讐・裁き)
 戦術機能:魂の浸食汚染(魂魄蹂躙型)

 派生英霊:アドラステア(ハイ・サーヴァント)



   ◆



 いろはちゃん〔燦歳児〕 ※来年は死歳児
 起源:神の内 属性:虚無 特性:神饌・帰依
 能力:〔神殺し(魔縁)(おにはそと):E〕〔気配遮断(対邪)(かくれんぼ):E+〕〔航海(泥船)(かえるため):E〕〔無垢(いけにえ):A〕

 アルファ〔魔術使い〕
 魔術回路:‐(魔術髄液Cランク相当を使用) 質/量:D/D 編成:異質(呪的) 本数:0本→9本
 起源:神の内→再誕 属性:虚無→水 先天特性:神饌・帰依 後天特性:流転・神抗・呪耐
 能力:〔地獄廻り:C〕〔呪耐:A〕〔他心通(偽):D〕〔武芸百般:B〕〔無垢:‐〕
 ┗地獄廻りは『神殺しE 気配遮断C 対人類‐ 単独顕現(河川)‐ 忘却補正D 封神E 冷静沈着C 勇猛C』の複合能力。部分的に『鋼鉄の決意C 直感E』も含む。
 ┗他心通(偽)は『鑑識眼B 心眼(真)B 人間観察B』の複合能力。仮に弓兵の能力を得た場合は〔千里眼(心):D〕に変化する。
 ┗呪耐とは呪いへの耐性。神性を有する存在から掛けられる呪い全般に強力な耐性を有しており、あらゆる精神干渉系やバッドステータスを無効化する。特に『ケガレの指先』『蛇神の神核』『竜種』等の"能力"(サーヴァントの場合は"スキル"や"宝具"等の幻想/神秘)に対しては「慣れている」という理由から特攻対象となりボーナス補正が掛かる。
 ┗無垢とは未だ何も知らぬ心。アルファが幼少期に喪失した能力。彼らの場合、無垢のランクが高いほど『気配遮断』にボーナス補正が掛かり、対象が神霊や悪性霊障であれば更なる補正値が上乗せされる。

 魔術:淡躬(おうみ) 神秘:D+ 種別:対人 レンジ:1~3 最大捕捉:1人
 水属性の魔力で構成された淡い水泡で身を包む。身体装甲外殻。強化魔術の部類に入るが、傍目には幻術のようにも映る。肉体に魔力を通すわけではないため他者に掛けることが比較的容易。ひいては抗魔力に弾かれにくい。詠唱の一節に『サキエル』を採用することで、“水”や(射手座に因む弓すなわち)“躬”の神秘性を高める効能がある。基盤は神道を採用しているが、思想や混沌なども入り混じる。魔術素材は万死の毒針や奇々神酒などを活用。魔術名の由来(ことだま)は、近江(近つ淡海)と伊吹の類縁から。
 天使名の指向性として、サキエルは『水・神を覆う』や『木星・射手座・富・慈善事業』などを司る。『水・神を覆う』は水属性による神秘を纏う概念固定の補助効果。『木星』は吉兆を象徴することから魔術行使時の幸運判定にボーナス補正を与える副次効果(大抵は敵の即死判定の無効化に役立つ)。『射手座』は他対象への魔術行使に伴う射程増加の補助効果。『富』は魔術行使の回数増加補助に伴う消費MPの減衰効果。『慈善事業』は他者の強化を助ける補助効果。などといった有用性を、淡躬の魔術にもたらしている。

   ◆

 ヘカテー〔神霊〕
 能力〔人形師:EX〕〔忘却無敵の同期体:EX〕〔神代魔術:EX〕〔高速神言:A++〕〔千里眼(ヘカトス):A+〕〔疑似雷霆/空間破砕(ランパス):EX〕
 武装〔短剣:護身用・暗殺用・施術用〕〔鞭:騎乗用・調教用〕〔鍵:封印術用・陣地守護礼装〕〔松明:雷霆魔術用〕
 二つ名〔最強女神〕〔百獣の女王(ポトニア・テローン)〕etc

 ※最強女神ヘカテーの千里眼は、未来視と意思読を兼ねる。

 ※最強女神ヘカテーは数千柱を優に超す個体数が存在する。そのうち1柱がオリジナルであり、ほかの個体は全て魔術で作り出したクローン体で、その全てが常時自律行動している。彼女の卓絶した技巧と在り方は、現代における時計塔の人形師と同格。むしろ神代の魔術女神と同程度の思考回路と価値観を以て、同じようなことを成し遂げた人形師のほうが頭おかしいとも言える。
 本特異点におけるヘカテーは、あらゆる神話テクスチャに自らのクローン体を派遣しており、千里眼で集積した情報を同期していた。が、長い旅と神霊大戦の中で、個体数はみるみると減少していき、最後の一柱となってしまったのが、アルファたちと合流したヘカテーである。しかし同期が断絶しただけで、実は生きているクローン体も少なからず存在しており、そのうちの1柱がメディオイ王国の図書館に引きこもっていたが……折り悪く、アルファたちと出会うことはなかった。

   ◆

 真名:アラクネ=メドゥーサ クラス:アヴェンジャー

 ステータス:筋力E 耐久E 敏捷A+ 魔力EX 幸運E 宝具EX
 クラス別能力:陣地作成EX 対魔力C 道具作成(機織)C++ 復讐者D 忘却補正C
 保有スキル:怪力B 単独行動C ハイ・サーヴァントB 機織職人EX 魔眼A+

 第一宝具:偽・人理修復(アーラクネー・テキスタイル) ランク:EX 種別:対人理宝具 レンジ:1~???? 最大捕捉:大地1枚(テクスチャ1枚)

 性別:女性 身長/体重:166cm/546kg(蜘蛛型機械兵装含む) 好物:機織 苦手:傲慢・アフロディーテー
 出典:『ギリシャ神話』 地域:ギリシャ 属性:秩序・中庸 副属性:人 霊格:C+
 一人称:私 二人称:‐ 三人称:‐ レア度:☆3(配布)

          §


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