【小宮果穂とちょいワル男子のオトナ甘くてコドモ苦い】ぷらすえっくす! 作:形のない者
休日の昼間。プチパレスにて。
月村手毬が遊びに来ていた。
(……ついに、来ちゃった……プロデューサーの家に……いや、もうプロデューサーじゃないんだから……ア、アルファの、おうちに……)
今まで何度か足を運びたいとは思っていた。
しかし自分はトップアイドルを目指している。男と遊んでうつつを抜かす時間はない。その全てをレッスンに当てる。実際にそうしてきた。そのためプチパレスに住むと決めた初星学園アイドル候補生が心底羨ましかったが、自分は自分。だがそれも年始くらいは許されていいだろう。そのつもりで暇を見つけて遊びに来た。
だというのにアルファは不在だという。その代わり篠澤広の部屋に倉本千奈が遊びに来ており、そこに花海佑芽もいるのだとか。自分も混ざりに行けばきっと楽しいだろう。花海咲季も完全休養中で、藤田ことねも学園プロデューサーから休暇を厳命されている。そのため二人と絡むのも良さそうだ。しかし葛城リーリヤは、家主不在のアルファの部屋に遊びに来ているらしく、紫雲清夏を連れ込んでロボット系のゲームに興じている模様。あそこは怖いから近づきたくない。
「よっ!」
さてどうしたものか。手持ち無沙汰。廊下で立ち尽くし、何もない回廊をキョロキョロと見渡す。右往左往。これではなんだか自分に友人が居ないみたいだ。少し、いや、かなり寂しい。何かないものか。やはり倉本千奈のところにお邪魔しようか。
「よっ! ってあいさつしたっ!」
それはそれとして何かに絡まれた。足元を見やると、とても可愛い赤ん坊がまんまるおめめでぼーっと見上げてきている。小さなおててをぱっと開いて伸ばしており、元気に挨拶してきていた。
「……えっと、こんにちは……」『キャアアアアアアアアア!! メッチャ カワイイイイイイイイイ────ッッッ!!』
「こんちゃー! いろはちゃん、さんさい!」
「……そう、なんだ……ちゃんと挨拶できて、えらいね……」『チナヨリ チイサイ…カワイイ…』
「おまえだれ?」
「は? ──月村手毬ですけど……」『チョット クチガワルイナ…オヤノ キョウイクハ ドウナッテンダロ…』
「じゃーねー?」
恒例のいろはちゃんタイムが始まる。
「つっきー!」
「?」
「きむら?」
「……」
「まてまてちゃん?」
「……もしかして、私の名前で────」
「まりちゃん?」
「!」
「りっちゃん!」
「……」
「どっちがいーいー?」
月村手毬は思案したあと、突き放すほうを選ぶ。
「……好きに呼べば。ただし可愛いほうで」
「てまのかかるこね!」
「!?」
「てまりっちぶるー!」
「……、……」
「てまてま?」
「…………人の名前で遊ぶのはお行儀悪いよ」
「おー。それいえるひとはいいひとっておかあさいってたー。だからねー。ルカラねえもいいひとなのよ~?」
「……私は、別に……」
月村手毬は腕を抱えて、照れ照れとしどろもどろ。
するといろはちゃんはスカートを引っ張る。
「ひゃ!? な、なに……?」
「あそぼ! いろはひま! てまもひま! ひまひまたいけつ! れでぃ~?」
「…………」
「れでぃ~~~~??」
「……」
「────てまのかかるレディーね! ごー!」
「きゃっ!? ちょ、スカートそんな引っ張って走り出そうとしないで……! わかったわかった、あそぶから……っ!!」
§
かくして月村手毬は、唐突なお守りが始まる。
折角の休日だというのに、なんとも珍妙な一日になってきた。
「それでいろはちゃん。なにして遊ぶの?」
「みてまわる~! こんこん!」
いろはちゃんは101号室の扉をノックすると、中から葛城リーリヤの声が返ってきた。
「は~い!」
「おじゃましまー!」
いろはちゃんは扉を押す。ドアノブを回してないので開かない。ドアノブに手を伸ばすけど届かない。
「まりまり!」
「え……あ、うん……開ければ、いいんだよね……?」
「がちゃり!」
いろはちゃんの声に合わせて、月村手毬は扉を開ける。
六畳一間の一室には、葛城リーリヤがロボゲーに興じており、紫雲清夏がスマホ片手にそれを見守って談笑していた。
「おっす! りーりゃ! すみちゃ!」
「お、おっす……! ──おはよ~いろはちゃーん。いらっしゃーい!」
「おっす~! アハハ~。ほんとかわい~ね~!」
「またね! へいてんがらがらー!」
いろはちゃんはすぐに部屋を出て、扉を「うんしょ」と押して閉める。
「え……もう帰るの? じゃあ何しに来たの?」
「つぎー! こんこん!」
月村手毬は混乱しながら、駆け出したいろはちゃんが102号室の扉をノックする光景を見守る。
『は~い!』
「おじゃましまー! ──まりまり!」
「え、あ、うん……」
月村手毬はドアノブをひねり、いろはちゃんが押して開ける。
室内には、篠澤広・倉本千奈・花海佑芽の三人がコタツを囲んでお茶菓子パーティーを開いていた。
「おっす! ひろっち! くらうどふぁんてんぐ! すっぱい!」
「おっすいろはちゃん」
「おっすですわ~!」
「おっす! いろはちゃんっ!! 何度見ても元気で可愛いね~!」
「またね! みせじまいがっしゃーん!」
いろはちゃんは扉を閉める際、隙間から一回「ちらっ?」と中を覗いてから閉める。
あまりの可愛さに倉本千奈と花海佑芽の悶絶する声がくぐもって聞こえてくる。
それはそれとして、月村手毬はやれやれと首を振って呆れていた。
「子供の考えることは分からないね……」
いろはちゃんは103号室に行く。
「こんこん!」
「は~い!」
「おじゃましまー!」
月村手毬が扉を開ける。
室内では、小宮果穂・園田智代子・芹沢あさひがお菓子を食べていた。隅っこではマメ丸がクッションの上で丸くなって休んでいる。三人と遊びまくって疲れたのだろう。
「かほ! まめ! さひぜりあ! おはよっ! ──あら! ちょっちゃん!」
「いろはちゃん! ひさしぶり~! 今日はプチパレスにお邪魔してまーす! ──お菓子食べる?」
「いろはおかしきらーい! あまいのいやー!」
「あ、そういえばそうだったっけ!? 子供なのに珍しい……あ、今は手毬ちゃんと遊んでるのかな?」
「そー! てまはいろはのてしたー!」
月村手毬は「っ!?」とたじろぐ。
「は? 誰が誰の手下だって?」
「てのしたはあし! まりはけるもの! いろはけまりすき! だからてまてまいろはのてした!」
「……、……────」
月村手毬は、ふと思う。
実はこの子、意外と賢いのでは? と。
「まったくしたのこはてまがかかるわね! ちゃんとめんどうみるのよ! ──だからてまてまいろはのてした!」
「──! ……それもしかして、幼稚園の先生とかに言われたセリフ? やれやれ……」
月村手毬は失笑する。
園田智代子は感心した。
「おお……ねぇ果穂? いろはちゃん、言葉遊びができるくらい賢いんだね?」
「はい! ちょこ先輩! いろはちゃんはたまになんですけど、スゴく『かしこい』時があるんですーっ!」
「まだ三歳なのに……面白い!」芹沢あさひが言った。
「しめきりぴったんこー!」
いろはちゃんは扉を閉めて、104号室に向かう。
「こんこん!」
「
月村手毬は返答の声に「!」と反応して扉を開ける。
室内には、西城樹里と有栖川夏葉、そして尻尾を振るカトレアがいた。
「じゅっちゃん! なっちゃん! レアカード! おはよっ!」
「おー。おはよーいろはちゃん! お、手毬もいたのか! 五週目ぶりにようやく変化が来たな……おはよーな!」
「う、うん……おはよう……樹里……というか、これで五週目なの? いろはちゃん、飽きない?」
「あきないー!」
いろはちゃんは万歳して楽しさを伝えようとする。
それを目にした有栖川夏葉はほほ笑みを浮かべた。
「うふふ! きっと、何回もみんなと会えるのが楽しいのね!」
「あ~、そういうことだったのかー!?」
「ばいばーい! どん!」
扉を閉めたいろはちゃんは階段に向かって走る。
段差の高さは、いろはちゃんからすればそこそこの壁。一段ずつ登っていく。上がるのではない。これはもはや壁登りに近い。
後ろに転がり落ちることがないように、月村手毬はピッタリ付いていく。
「……手伝おうか? 抱っこすれば早いと思うけど……」
「くなんのさきにごほうびがある!」
「! ……ストイックなんだね」
月村手毬は感銘を受けたのか、いろはちゃんを尊敬するように微笑む。
しかし。
「だっこー」
「ストイックは!?」
両手を伸ばして抱っこを求める。三段目で力尽きた。もう五週目なのだ。疲れたのだろう。
月村手毬は、小さないろはちゃんを抱き上げる。
「!!」
瞬間、重いのだけれどあまりにも軽い体重を実感。柔らかすぎる肉体をさわさわ。
命の儚さとは何かを、本能的に心得る。
「…………」
「? ごー!」
「……気をつけて登るね」
「だっしゅ!」
「ダメだよ……」
月村手毬は、まるで割れ物のガラスを扱うかのように、そっとそっと持ち運んでいく。
二階に到着。廊下の真ん中で下ろす。その時の表情は、すでに母性に満ちて微笑んでいた。
「ふっ……手間のかかる子はどっちだか」
「まりまり?」
「あなただよ」
いろはちゃんは201号室をノックする。
「こんこん! ふじのはな!」
「はーい! ──って、だからその呼び方はやめろって言ってんだろー! まるでおすもうさんみたいじゃん!」
「じゃー、ふじさん!」
「それも山じゃん! おすもうさんよりデカいじゃん!!」
「ことことクッキングことねーちゃん!」
「おっ!! それいいねー! これからあたしのこと、ことねおねーちゃん♥ って呼んでいいからね~!」
「たぶんねー!」
「たぶんかよー!!」
月村手毬はガチャリと開ける。
室内には、藤田ことねが布団に寝そべって音楽を聴いていた。
「ここって、ことねの部屋だったんだ」
「うおぁっ!? びくった~……手毬もいたのか……驚かせんなよ……」
「ご、ごめん……」『ソンナニ コワカッタカナ…?』
「いや怖いとかじゃなくてさ。あー……それで? いろはちゃん。またまたまたまたまた、な~んのご用事かな~?」
いろはちゃんは「かーてんしゃらららーん!」と言って扉を閉める。
すると藤田ことねは「本当に何が楽しいんだ~!?」と混乱を叫んだ。
ふたりは次に向かう。
「こんこん!」
「……────あれ? 返事がないね。ここ誰の部屋なの?」
「ねおゆにばーす!」
「は?」
「ねおっち!」
「……」
「あさちゃん!」
「……──」
「さりちゃん!」
「……」
「さりかのす」
「あの、そろそろ終わってほし──」
「ゆうさり、かのわらべは」
「っ!? ──物をいと
「そうともゆー!」
「学校の先生は休日も仕事で大変だね」
「てまちゃんくるまで、いろはと
「……本当に大変だね。家では育児で、学校では先生だなんて……」『コンドアッタラ アサリセンセイニハ チョット ヤサシクシヨウカナ…』
ふたりは次に向かう。
「こんこん!」
「ひゃ! は、はーい……!」
「はーい☆ 中にどうぞ~!」
月村手毬が扉を開くと、室内には大崎姉妹とデビ太郎の等身大ぬいぐるみがいた。
一方はゲーム画面を注視しており、一方はそれを見守って片割れの写真を撮っている。
「てんか! なっちー! でびた! おはよ!」
「お、おはよう、いろはちゃん……! でもごめん、甜花、いま討伐中で、手が離せない……! ──ひぃん! 葛城さん、強すぎぃ……! ──はっ、そうだ! 次は対戦じゃなくて協力で、プラチナ帯まで連れてってもらおう……!」
「いろはちゃん、おっはよー☆ 今日も可愛すぎて撫で回したくなっちゃうね~! ──あれ? あなたは……」
大崎甘奈と月村手毬の視線が合う。
「こ、こんにちは……初星学園の月村手毬です……」
「あー! 樹里ちゃんから聞いてるよ~! 大崎甘奈でーす! こっちは甘奈のお姉ちゃんの、大崎甜花ちゃん!」
「知ってる。アルストロメリアだよね」
「わー! 知っててくれてたの? ありがと~!」
「……それで、その……樹里から、どんな感じで聞いたの……?」
「え? いいライバルができたって!」
「……そ、そうなんだ……でもまぁ? さすがの樹里でも、私が相手だと足元にも及ば────」
いろはちゃんは飽きたのか「おしまいがっちゃんこー!」と叫んで閉める。
「────ちょっと、いろはちゃん? 今お話中だったんだけど……」
「はなしながい! つぎー!」
ペースはいろはちゃんが握っているようだ。
月村手毬はやれやれと肩をすくめて付いていく。
「こんこん!」
「ふふ……♪ はーい……!」
とても柔和な声色が返ってくる。
月村手毬が扉を開けると、室内には幽谷霧子。こちらに向かって丁寧に正座している。
「おっす! きりこ!」
「ふふ……おっす♪」
「がらがらぴっしゃーん! ほんじつのしょうてんがいのえーぎょーは~! は~! は~!」
やまびこのようにしゃべるいろはちゃんは扉を閉める。
そこで月村手毬が問いかけた。
「いろはちゃん。大崎甜花と幽谷霧子は呼び捨てなんだね」
「てんかはどうぞく! きりこもどうぞく! なかまなかーま!」
「……どういう基準?」
ふたりは次に向かう。
「こんこん!」
「……────あれ、また返事ないね」
「みっちゃん! みっちゃんいつもいないいないーで、ばあー! しない! あっちいる!」
「あっち?」
「さいごね!」
ふたりは次に向かう。
扉を開けず声を掛け合う。
「こんこん!」
「……ふわぁ……は~い……なにかしら~……」
「おやすみちゅー?」
「……そうねぇ~……」
「おやすみ! またあした! よくねろよ! しぬほどつかれてるんだ! ばいばーい! さきいか!」
月村手毬は「裂きイカ!?」とたじろぐ。
否、さっきの声は花海咲季のものだ。随分と眠そうで間延びした話し方だったが、おそらく間違いない。
ふたりは次に向かう。
「こんこん!」
「は~い!」
月村手毬は扉を開ける。
すると室内には、郁田はるきのアトリエが広がっていた。足の踏み場もないほど画材やら何やらが積み重なっている。どうやって寝ているのだろうか。押し入れにしまわれている布団は畳まれておらず敷きっぱなし。まさかその中で寝ているのか。しかし寝具の質は最高級。どうやら押し入れの中で寝るための最適な寝具を一通り揃えている様子。まるで秘密基地みたいな。そのためか、たまにいろはちゃんは遊びに来て、お昼寝したり、夜に郁田はるきと一緒に寝たりしている。
「おっす! いくたんっ!」
「おっす~いろはちゃ~ん!」
「なにかいてるのー?」
「まだ何も~。わたしは何を描きたいんだろうね~?」
「へいてんどんがらがっしゃーん!」
「あ~ん! まだ閉店したくないよ~!」
ふたりは次に向かう。
「こんこん!」
『はーい!』
仲良く揃った声だ。
月村手毬は扉を開けると、イルミネの三人がコタツとピーちゃんを囲んでいた。ほかの個室と比べて二倍広い。
「まのちゃん! ひおちゃん! めぐー! ぴっちゃー! おはよっ!」
「ほわっ……おはよう、いろはちゃん!」
「おはよう。──これで五回目の挨拶だね……」
「おっはよー! 挨拶は何回してもいいもんね~?」
「クルッポー!」
「ね~? ごあいさつおわりんこー!」
ふたりは次に向かう。
「ここはねー。こんこんしないでいいんだよー!」
「そうなの?」
月村手毬は扉を開ける。するとあまりの広さに驚いた。次いで内装に二度衝撃を受ける。
レクリエーションルームだ。バーカウンターや雀卓がある。なぜかパチスロ台やゲーセンで見るゲーム台がある。即席で演奏会ができそうなほど多種多様な楽器も取り揃えられている。
そしてダンスゲームの筐体では、緋田美琴が踊っていた。
パチスロ台では、樋口円香がガチャガチャとスロットルを回しており、それをほか三人のノクチルが見守っている。
さっそくいろはちゃんは、最寄りのノクチルに向かう。
「おはよっ! るーちゃん! どかどかちゃん! ひなちゃ! ふくこ!」
「おー。いろはちゃんー」
「……」
「あは~。これで何回目だろ~?」
「ご、五回目、かな……? この頃の子供って、おんなじこと繰り返すよね……」
「なな なな なにゃ でたー? ──かんでないよっ!!」
「あー。まだー」
「出るまで回す」
「まだスリーセブン出してないの、円香先輩だけだもんね~」
「──っ!? ぴゃ……」
福丸小糸は、月村手毬の存在に気づいて萎縮する。
そのあいだにいろはちゃんは緋田美琴のところに向かう。
「みっちゃん! おはよっ!」
「────────」
緋田美琴はダンスに集中していて気づかない。
一方の月村手毬は、そのダンスの技巧を目にして衝撃を受ける。
「う、巧い……スゴく上手だ……映像で見るより綺麗なダンス……生で見ると、やっぱり何かが違う……迫力も鬼気迫るものがあって……────」
またとないチャンスだ。月村手毬はじっくりと観察して研究を始める。
一方のいろはちゃんは飽きが来たのか、楽器置き場に向かう。
するとレクリエーションルームに花海佑芽・篠澤広・倉本千奈の三人が入ってきた。
「あ、ノクチルのみんなだ! なにしてるの~?」
「佑芽ちゃん。……耐久。スリーセブン。出るまで。……ふふっ。でも、全然出ん」
浅倉透が面白がると、樋口円香はムキになったのか「出るし」と言い返す。
そこで市川雛菜が問いかける。それに篠澤広が答えた。
「三人は何しに来たの~?」
「遊びに来た。何かないかなって。テレビゲーム空いてる?」
「ぴゃ……」
「空いてますわ~! ──あら? いろはちゃんと月村さんもダンスゲームのところにおりますわね。緋田さんも……」
三人組はテレビゲーム置き場に向かう。
そこへいろはちゃんがカスタネットを持って立ちはだかった!
「くらうどふぁんてんぐ! しょうぶだ!」
「あらまぁ! うふふ! 受けて立ちますわ~!」
いろはちゃんは、余りのカスタネットを手渡す。
それを受け取った倉本千奈は、小さな手にカスタネットを装備した。
一方、勝負と聞いて気になった月村手毬は振り返る。
いろはちゃんと倉本千奈は互いに『むむむ……!』と見合って────いざ、勝負開始。
いろはちゃんが口に出すリズムに合わせて、ふりふりとお尻を振りながら、それぞれカスタネットを打ちたたく。
「ちーなっ?」
「いーろっ♪」
「ちーなっ?」
「ろーはっ♪」
「ちーなっ?」
「いろはーちゃんっ♥」
互いの名前を呼び合いながら、ふりふりの衣服やスカートがひらひらと舞い、カスタネットが軽快に叩かれていく。
三歳児の舌足らずな甘い声色と超小学生級高校生の赤ちゃん言葉ならぬ赤ちゃん声による、甘美に満ちた合唱合奏。
それは、悶絶必至の可愛い空間を爆誕させた。
〔いろはちゃん(カスタネットの姿)〕
すなわち
その衝撃波を至近距離で総身に浴びた月村手毬は轟沈。動悸を抑えて片膝をつく。更に、てまりインコも『カッ゛カワイイッッッッッ゛ッ゛!!』と叫んで絶命した。手毬の肩から転げ落ちて、文字通り落命する。
その余波を遠方で耳朶に浴びた樋口円香も大破。絶対に視線はやらないが、ふたりの掛け合いだけ聴いて、全身がプルプルと震えている。スロットルを回す手から「ンンッ…」と、どうにも力が抜けていく。
「ふふっ。いろはちゃんも千奈も可愛すぎる……」
「ねーっ? ──あっ! これに小糸ちゃんも混ざったら最強じゃない!?」
「ぴぇっ……!?」
篠澤広と花海佑芽の掛け合いを聞いて、福丸小糸はぼのぼの汗を飛ばした。
「ちーなっ?」
「いろはーちゃん♪」
「ちーなっ?」
「いろはーちゃん♥」
やがて緋田美琴がダンスレッスンを終える頃には────樋口円香はスリーセブンを出して力尽きており、月村手毬とともにダウンしたとか、してないとか。それからふたりは、倉本千奈にアメを与えて、いろはちゃん
§