シスター·マリアの葬式から1週間が経過した。
諸々の手続きを済ませ、荷物の準備をして、お世話になった施設に感謝のお辞儀をしてから街の入り口に出る。
アクセルには徒歩ではなくケントの転移魔法で一斉に送ることにした。
姿くらましはリスクがあるのでやらない。
「それじゃあ皆、準備はいい?」
ケントが杖を握りながら訊くと子供達が頷く。
杖を上に向けると足元に魔方陣が展開される。
「テレポート、アクセル!」
「うわぁ…」
光に包まれると子供達の気分が盛り上がる。
次に光が晴れた時、目の前に見えたのは20mを超える壁。
ここはアクセルの入り口前のようだ。
「うわっ!な、なんだ!」
いきなり現れた大人数の人間に門番が驚く。
「驚かせてすみません。冒険者のケントです」
ケントが門番に冒険者カードを提示する。
「あ、ああ…ケントって確かレベル999って噂の…本当だったんだな…」
冒険者カードを確認しながら半分信じられないような様子の門番。
「はい」
「その子供達は?」
「私が養子として引き取りました。これが書類です」
「な、なるほど…よし、通ってよいぞ」
「ありがとうございます。みんな、行くよ」
ケントが呼ぶと「は~い!」と元気のいい声が返ってくる。
この数日間で少し元気が出てきて安心する。
街に入るとエルサレスより広くて賑やかなアクセルに目を輝かせる子供達。
「「うわ~!広っ!でかっ!人いっぱいいるぞ!」」
「コラ!勝手に動かない!」
「「ぐえっ!」」
オーディンとインドラがテンション高めで走り出すと、ミネルヴァが襟首を掴んで引き戻す。
「これからどうするんですか?」
最年長のティアマトがケントに訊く。
ケントを含めた25人の大人数は目立っている。
中でもルナを遥かに超えるバストを持つティアマトと黒髪ポニーテールのイシュタル、獣人族のフェンリルは特に目を引く。
「まずギルドに行って冒険者登録をしよう。身分証明のためにもね」
歩きながらケントが言った。
この世界では12歳から冒険者登録できる。
今回登録するのはティアマト、イシュタル、アルテミス、ミネルヴァ、フェンリル、フレイヤ、トール、クロノス、ダグザ、フレイの10人。
それ以外は年齢に達してから登録することになる。
「でもお金かかりますよね…」
ティアマトが心配する。
「俺が払うよ。それくらい当然のことだ」
「ありがとうございます」
ティアマトがお礼を言う。
「…だっこ」
すると、ゼウスが両手を挙げてケントに抱っこを要求してきた。
「よいしょ」
ケントはゼウスを抱き上げて片手で支える。
「よっしゃ~!俺が最強になってやるぜ!」
トールが大声で宣言する。
「ガキ…」
ミネルヴァがそれを冷たい目で見る。
「ご主人様!」
「なんだフェンリル………ご主人様?」
フェンリルの言葉に引っかかるケント。
「ご主人様はご主人様なのだ!」
そう言いながら尻尾を振ってすり寄ってくる。
初めて会った時とは大違いだ。
獣人族の中には自分より強い者や気に入った者を主と認める者もいると聞く。
フェンリルの場合は後者あるいは両方だろう。
「(…まあ、いいか)」
ケントは空いている手でフェンリルの頭を撫でる。
「わふ~♪」
尻尾をブンブン振って気持ち良さそうな笑顔を浮かべるフェンリルだった。
◇◇◇
そんなことをしている内にギルドに到着した。
中に入ると冒険者達がざわつきだす。
「あれケントじゃねぇか?」
「帰ってきたのか」
「何かいっぱいいるぞ」
「可愛い女子いるぞ」
「隣の子、乳でけぇ」
「見て、あの子可愛い」
男性冒険者は容姿端麗な女子達に、女性冒険者は可愛らしいゼウスやヘラに夢中だ。
「ねえねえ君、俺とデート…」
無謀な男性冒険者がティアマトに近づこうとしたその時。
「
ケントが杖を取り出し小声で呪文を唱えると、その男性冒険者の体にロープが巻き付けられ縛り上げた。
「う、うおっ!なんだ!」
何が起きたのか理解できない男性冒険者。
「ありがとうございます」
ティアマトはケントの耳元でお礼を囁いた。
ケントは無言のウインクを返す。
そして、やっと受付に辿り着いた。
「次の方、どう…ぞ」
ピシッ!
前の冒険者の対応を終えたルナが正面を見ると固まった。
愛する男が子連れで帰ってきたのだ。
しかも腕には小さな男の子を抱いている。
「えっと…ただいま」
ケントも苦笑い。
「あの…お連れの方は?」
ケントの周りにいる24人の子供達を見渡して訊く。
「俺の…家族です」
ピキッ!
その瞬間、空気が凍ったような雰囲気が漂った。
「そ、そうですか~…」
営業スマイルを崩さないルナだが、内心は頬を膨らまして怒りと不満が爆発しかけている。
自然と隣にいるティアマトに視線を移す。
「(わ、私よりおっぱいが大きい…)」
何だか負けたような気がするルナ。
「そ、それで…ご用件は?」
気を取り直して仕事に戻る。
「はい…冒険者の登録を新規で10名お願いします」
ケントは10000エリス払う。
「分かりました。少々お待ちください」
ルナは10人分の冒険者カードの準備に入る。
ティアマト達も前に出る。
「では冒険者カードに触れてみてください」
ルナが1人ずつ冒険者カードを手渡す。
「このカードはあなたのレベルとステータスを表示しそれに適した職業を選ぶことができます。モンスターを倒して経験値が貯まるとレベルが上がりスキルを覚えるポイントが加算されます。身分証にもなりますので紛失した場合、再発行に手続きがいりますのでご注意ください」
「分かりました」
ティアマトが代表して返事して、冒険者カードに触れる。
「ティアマトさん…こ、これは…知力と魔力が桁外れに高い!ウィザードの上級職、アークウィザードになれますよ!」
ルナの驚きの声に冒険者達が反応する。
「マジかよ!」
「あの姉ちゃん、とんでもねぇ!」
「すごいのはおっぱいだけじゃなかったのか!」
男性冒険者達の中には失礼な輩もいたが、いちいち反応していてはキリがない。
「ケントさん…」
ティアマトがケントの顔を見る。
「どうなりたいかは君が選ぶといい」
ケントはティアマトに選択をさせた。
「…分かりました。私、アークウィザードになります」
ティアマトの宣言にギルド内が歓喜に溢れた。
「ま、待ってください!イシュタルさんのも魔力と知力が高いです!アークウィザードの素質があります!…あ、筋力もありますね」
ギルド内がさらに盛り上がる。
「イシュタルの姉貴、馬鹿力だからな!」
「トール!」
ニヤニヤ笑ってからかうトールをイシュタルが窘める。
「ハッ、ち、違うんですよケントさん!私、ちょっと力が強いだけで怪力とかそういうのじゃありませんから!」
イシュタルがバッとケントに振り返って頬を赤くしながら弁明しようとしている。
「大丈夫。そんなこと思ってないから」
ケントは笑顔で返す。
「ケントさん…///」
イシュタルが乙女の顔になる。
「(この子も要注意かも…)」
黒髪ポニーテールの美少女のイシュタルにルナが危機感を抱く。
「次は俺だな」
トールが冒険者カードに触れる。
「筋力と生命力が高いですね。魔力もそれなりにあります。知力は…低めです。戦士とか向いてると思います」
「なら戦士だ!」
「即答!?」
イシュタルが驚く。
「俺は最強の戦士になる!」
そう宣言して拳を高く上げた。
「じゃあ、次は…ミネルヴァ」
「はい」
ミネルヴァが冒険者カードに触れる。
「知力と魔力が高いですね。筋力もかなりあります」
「「脳筋じゃなかったのか!」」
「オーディン…インドラ…」
ミネルヴァの顔つきが怖くなる。
「「ひいっ!に、逃げろ~!」」
2人が走り回る。
「待ちなさい!」
ミネルヴァが追いかけようとするが、
「ミネルヴァ、職業決めてから」
ケントが肩に手を置いて止める。
「わ、分かった」
ミネルヴァは渋々納得する。
「このステータスだとアークウィザードか…アークウィザード多くないですか…一応上級職なんですけど…あ、失礼…後は狙撃能力が優れているのでアーチャーとか向いてると思います」
ルナがアークウィザードの多さに呆れながら説明する。
「どうする?」
「……アーチャーにするわ」
ミネルヴァは上級職ではなく基本職を選んだ。
周囲の冒険者からは「もったいねぇ」と声が聞こえる。
「どうしてそれを選んだんだ?」
ケントは責めるわけでもなくただ優しく訊く。
「アーチャーって遠距離から攻撃を当てられるんでしょ?ならあいつらを狙い撃つにはちょうどいいじゃない」
ミネルヴァが遠くに逃げているオーディンとインドラを指差す。
「そうか…まあ、何を選ぶかは君の自由だからな」
「ありがとう……よし、あんた達!覚悟しなさい!」
用事を終えたミネルヴァは拳を振り上げながらダッシュでオーディンとインドラを追いかける。
アーチャーなのに物理で倒すつもりだ。
「さて、続けようか」
そうして残りの職業選択も終えた。
クロノスがクリエイター、ダグザがアークウィザード、フレイとフレイヤがアークプリースト、アルテミスがアーチャー、フェンリルが戦士となった。
「今年は大豊作だ!」
「アクセルは安泰だ!」
「冒険者万歳!」
周囲の冒険者はまるでお祭り騒ぎだ。
いい年した大人が10代の子供に頼るというのは何とも情けない話だが。
「ケント~!まだ~?」
すると、ゼウスが待ちくたびれてしまったようだ。
「ごめんね。そろそろ行こうか」
ケントは抱っこしながらギルドを出ようとする。
「あ、ケントさん…これを」
そう言ってルナはケントに何かメモを渡す。
「待ってますから」
ルナはそう言って受付に戻った。
ケントはメモを見る。
それは時間と場所が暗号化されて書いてあった。
しかし、ケントには以前の宿屋を示していることが分かる。
「(つまり…そういうことだよな)」
これはルナから夜のお誘いであるということだ。
「とりあえず…みんな、行くよ!」
ケントが子供達に呼びかける。
「おいおい、一緒に呑もうぜ!」
男性冒険者がジョッキを掲げる。
「未成年は飲酒禁止だよ」
ケントは前世の日本の法律通りに行動した。
「なに言ってんだあいつ?」
もちろんこの世界での未成年飲酒は禁止されていないものの自己責任であるためケントの常識は通用しない。
しかし、健康や社会的に悪影響のあることはさせない。
ケントには保護者としての責任があるのだ。
盛り上がる冒険者達を放置して、ケントは子供達を連れてギルドを出た。
ちなみにオーディンとインドラはいつの間にかボロボロだった。
◇◇◇
しばらく歩いていくと一軒家に辿り着いた。
「ここが新しい家だよ」
「ここが?」
トールが疑問を抱く。
目の前の一軒家はとても25人住むには狭そうな家だからである。
「入ってみれば分かるよ」
「それじゃ一番乗り!」
トールが先陣を切り、他の子も続く。
中に入ると、その広さは外の外観からは想像できないほどだった。
玄関も廊下も、まるで豪邸である。
「うおぉっ!広~い!」
トールのテンションは数秒前とは真逆である。
「アクセルを出る前に買っておいた家を魔法で空間拡張したんだよ」
さりげなく言っているがとんでもないことをやっているケント。
「よっしゃ!探検だ!」
「いくぞ!」
オーディンとインドラに続いて他の子供達も次々と家中を走り回る。
まるで猫だ。
玄関に残っているのはティアマト、イシュタル、ミネルヴァ、アルテミスなどの大人しいメンバーだけである。
「おかえりなさいませ。ケントご一行」
「…なぜここにいる?」
いつの間にか玄関にいたロキ(ぬいぐるみサイズ)が浮遊しながら挨拶してきた。
「なぜって僕ちんもここに住むことにしたのさ」
「結界を張っていたはずだが?」
「ああ、君が結界を張る前にこの家に忍び込んでいたのさ」
不法侵入を堂々と口にするロキ。
神に常識を説いても無駄ということか。
「「……」」
そんなロキを見つめてくる者がいた。
探検から玄関に戻ってきたトールとオーディンだ。
「なんだこいつ?」
「誰?」
「やあやあ、僕はロキ。神様で今日からこの家に厄介になる…」
「ペットか!」
「捕まえろ!」
2人が一気に飛びかかる。
「おっと…やれやれ、やんちゃだな。まるで若い頃の父上と兄上のようだ」
ロキは華麗に躱しながら首を横に振る。
「追いかけろ!」
「逃がすな!」
2人が追いかけ、ロキが優雅に飛んでいって家の中を逃げる。
「どうしますか?」
ティアマトが訊く。
「放っておこう。今のところ、害はなさそうだし…何かあれば俺が対処するよ」
「分かりました。ケントさん、キッチンを見てもいいですか?私、料理が好きなんです」
「あ、私もいきたい」
「いいよ。行っておいで。右側の一番手前の部屋がリビングだからそこにキッチンもあるよ」
「ありがとうございます」
「行ってきます」
ティアマトとイシュタルがキッチンの方へ向かった。
残っていた他のメンバーもそれぞれ行きたい場所に向かっていった。
「さて…新生活の始まりだ」
ケントはこれからの生活に思いを馳せていた。